アリウス生徒の奮闘記   作:ハァン

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本当はアリウス入学まで何話か日常パートを挟む予定でしたがいい加減入学しないとタイトル詐欺と言われそうなのでカット


2章 〜アリウススクワッド〜
プロローグ


 

 

「あなた方がするべき事はただ一つ。ロイヤルブラッドをこちらへ引き渡し、大人しく投降する事です」

 

 多数のアリウス生徒を引き連れて現れた、この世のものとは思えない異形。その頭部から覗くいくつもの瞳に見下ろされた少女たちは恐怖のあまり立ち尽くしていた。

 

 ただ一人、拳銃を抜き銃口を向けたレンゲ以外は。

 

「とんだ珍客だね。宇宙人さんか何か?」

「強がりは結構。ですが銃口が震えているのは見間違いでしょうか?」

「ッ……気のせいじゃないかなぁ」

 

 しかし、彼女とて初めて相対する人外。

 同様に恐怖を感じないはずがなかった。

 

 銃口を向けるレンゲを見て、目の前の異形を守るように何人ものアリウス生徒が立ち塞がる。人間では無い何かを守ろうとする彼女たちが、レンゲにとっては酷く不気味に思てしまった。

 

──仮にも同じアリウス自治区の人間なのに、なぜこの怪物に付き従う?

 

 額から冷や汗を流しながら、レンゲは心の中で問いただす。

 ガスマスクのせいで表情すら見えないアリウス生徒たちの考えが、彼女には理解できない。苦し紛れに後方で佇む異形を精一杯睨みつけながら、銃を握る手をさらに強めた。

 

「オマエが噂に聞くマダムってワケね。手下を沢山連れちゃって、随分と偉そうだね」

「噂ならあなた程ではありませんよ? ()()()()()

「ッ!?」

 

 さも当たり前のように自分の名前を口にする異形に、レンゲは目を見開いた。

 

 アリウスの生徒には名乗った覚えはない。

 家族以外が自分の名前、ましてや苗字まで知っているなどあり得ない。

 

「あなただけではありません。錠前サオリ、戒野ミサキ、槌永ヒヨリ。この四人の噂は常々私の耳にも入っています」

 

 先程とは違う、得体の知れない恐怖が襲い掛かる。

 スラムに住む子供などアリウスでは珍しくない。少しスラムを歩き回れば道端に寝る子供の姿など嫌でも目にする事になる。そんな中、彼女は的確にレンゲたち四人の名前を言い当てたのだ。

 異様な見た目以上に、その事実が何よりも恐ろしかった。

 

「先程の戦いは見させて頂きました。錠前サオリの的確な指揮による奇襲、戒野ミサキと槌永ヒヨリの撹乱、そして荻野レンゲの殲滅。ロイヤルブラッド奪取まで、実に見事な流れでした。流石は()()()が見定めた神秘を持つ者たち、と言ったところでしょうか」

「何が言いたい?」

「……疑問に思った事はありませんか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 異形の言葉に、レンゲも息を呑んだ。

 

 考えたことなど、一度や二度ではない。アリウスに住む者なら誰もが一度は疑問に思ったほどだ。

 

 なぜ自分達ばかり苦しんでいるのだ?

 

「……確か、アリウスは元々別の学校と敵対してて、その敵対してた学校に負けたって聞いた気がする」

 

 ミサキの言葉に異形はゆっくりと頷いた。

 

「そう。かつてアリウスも陽の光の下に生きる歴とした学園の一つでした。しかしそれは、今はトリニティ総合学園と呼ばれる者たちの迫害により奪われてしまった」

 

 異形が語るアリウスの過去に全員が言葉を失った。

 曰く、トリニティ自治区には元々多数の学園が存在し、アリウスもその一つだった。しかし最大勢力の一角を担っていた三つの学園がトリニティの統一を目指し、やがて一つの巨大な連合を作り上げた。それが後のトリニティ総合学園。

 

 だが、それまで敵対していた勢力が素直に手を取り合うなどありえない。

 

 その統合に反対姿勢を見せたのが、アリウスだった。

 

「結果は見ての通り。アリウスは連合に敗れ、トリニティ自治区からも追放され、荒廃した地獄の中を生きる羽目になった。そう、全てはトリニティの身勝手な統合のせいで」

 

 これまで知る機会すらなかった、アリウスの真実。

 あまりにも残酷な過去に彼女たちの中で湧き上がった感情はただ一つ。

 

 怒り。

 

 アリウスがただただ貧しいだけの自治区だったのならまだ納得ができた。だが、この地獄を作り出した根源が存在するのなら話は別だ。

 

 サオリもまた、その事実を目の当たりにし歯を食いしばっていた。

 

「レンゲも、ミサキも、ヒヨリも……みんなの苦しみも全て……!」

「全ての原因はトリニティにあります」

 

 広げた扇子の内側で、人知れず異形は嗤った。

 

「私はそんなアリウスを救うためにここに立っています。荒廃し内戦を繰り返すこの自治区を生徒会長として治め、この悲劇の引き金を引いたトリニティへの復讐を手助けするために」

「復讐……?」

「錠前サオリ、あなたは憎くないのですか? 苦しみしか存在しないこの世界に自分たちを押し込んだトリニティが、今も光の下で暮らし続けるトリニティ総合学園が」

 

 煽るように畳み掛ける異形の言葉に、これまで静観を続けていた周囲のアリウス生徒も声を荒げる。

 

──憎い。

 

──復讐したい。

 

──報いを受けさせる。

 

 怨嗟の言葉が繰り返し彼女たちから発せられる。

 

 あまりにも濃密な人間の悪意に、ヒヨリは思わず小さく悲鳴を上げた。

 なぜ顔も名前も分からず特定の人物でもない者たち相手にこれほどの憎しみを向けられるのだろうか?

 

 恐れ慄くヒヨリを守るように抱き寄せ、ミサキは静かに首を振った。

 

 同じ立場でありながら、全員が彼女たちのように『家族』に恵まれているわけではない。むしろこの苦しみしかない世界を孤独に生きた人間がほとんどだ。

 

 そんな彼女たちにとって、異形の言葉はまさしく救いだった。

 

「私はアリウスの復讐の手助けをするつもりです。そしてそのためには、あなた方が奪ったロイヤルブラッドの存在が必要不可欠なのです。さぁ、ロイヤルブラッドをこちらへお渡し下さい。あなた達の復讐心もこの私──ベアトリーチェがお預かりしましょう」

 

 ベアトリーチェと名乗った異形が歩み寄り、サオリへ手を差し出した。

 

 あまりに甘美な誘い。

 

 この手を取ってアツコを渡せば、芽生えた彼女たちの復讐心を解消してくれるというのだ。理不尽な暴力に支配されたアリウスを救うと、ベアトリーチェは……()()()言っているのだ。

 

 いくつもの瞳が自身を見下ろしている。見定めるように、覗き込むようにベアトリーチェの異形な姿がサオリの前に来た。

 

 徐々に手を伸ばし始めるサオリ。

 

 その小さな手がベアトリーチェに触れる寸前。

 

「待って、サオリ」

 

 レンゲがサオリの手を掴んだ。

 

「……アツコが戻ったら、君たちは彼女に何をするつもりなのかな?」

「それを知る意味などありません」

「大有りだよ。君たちがアツコを傷つけるつもりなら、残念だけど私は抵抗させて貰うよ」

「その傷でこの人数相手に抵抗できるおつもりですか?」

「試してみる? 君たちも無事で済ませるつもりはないけど」

 

 銃を握るレンゲの手に力が込められる。

 血に塗れた手が視界に入り、先ほどまで()()()()()()()サオリはハッと我に帰った。

 

 彼女たちの要求の中にはアツコを渡すことが半ば必須条件となっている。実質アリウスの支配者となり兵力もほぼ全て手中に収めているはずのベアトリーチェが、幼い少女一人にここまで執着している理由はなんだ?

 

 アツコがアリウスの生徒に連れられていた時、彼女はまるで囚人のように枷が付けられていた。そして今までのベアトリーチェの言動からして、彼女はアツコが一人の子供である事をまるで考えていない。そんなアリウスがアツコを手に入れた時、彼女がどういう扱いを受けるかなど想像するまでもない。ましてやアツコは長年敵対していた勢力の姫なのだから。

 

 レンゲもそれに気付き、思考を放棄して手を取ろうとする自身を止めたのだろうか。

 

 普段はふざけていながらこういう時は察しの良い相棒に、サオリは内心苦笑する。

 

 殺気を発しているレンゲをサオリが「もう大丈夫」と宥め、サオリは改めてベアトリーチェと向き合った。

 

「あなたの目的にアツコは必要不可欠。でも、その目的は教えられない。この認識で合ってるかな?」

「…………」

「でも、アツコを傷つけるつもりなら、私たちはその手を取れない。だからあなたと取引がしたい」

「ほう?」

 

 『取引』という言葉にベアトリーチェは小さく眉を顰める。

 

「私がアツコの代わりになる。あなたの命令ならなんでも聞くし、なんだってやってみせる。だからアツコを……家族を見逃して欲しい」

「ふ、ふざけないでサオリ! 君一人を差し出すなんて、そんなのできるはずがない! それなら私だって!」

「レンゲまでいなくなったら誰が家族を守るの! 私一人だけで家族を助けられるなら考えるまでもない!」

「『一人で背負うな』って私に言ったのはどこのどいつだよ!」

「分からず屋!」

「頑固者!」

 

 目の前で口論を始める少女二人を尻目に、ベアトリーチェは興味深そうに腕を組んでいた。

 

 サオリの指揮能力とリーダーとしてのカリスマ性は子供ながらアリウス随一と言っても過言ではない。部隊を一つ任せられれば、彼女の指揮の下で大きな戦力として確立できる。

 それにこの様子ではおそらくレンゲも着いてくるだろう。彼女の身体能力と戦闘のセンスはキヴォトス全域を見渡しても一、二を争うほど高い。戦闘訓練を受けていない段階でこのレベルなら、磨けばあるいは……。

 

 何より、この二人はあの男が特筆するほど興味深い『神秘』を持っている。

 

 この二人の加入により手に入れられる戦力と、アツコを()()()()諦める事に対する影響を天秤に掛ける。

 

 彼女の計画に多少の遅れは生じるが、今となっては誤差の範囲に過ぎない。

 

「私は認めない……! サオリ一人を差し出して逃げるぐらいなら、今すぐこいつら全員差し違えてでも皆殺しにしてやる……!」

 

 荒い息を吐きながらベアトリーチェを睨みつけるレンゲに、サオリは思わず言葉を詰まらせてしまった。

 

 再び銃口を向けるレンゲに周囲のアリウス生徒たちもすぐさまマダムの前へ躍り出る。

 

「貴様……!」

「およしなさい。私は今、この者たちと話しているのです」

「ま、マダム? しかし──」

下がりなさい

「ひっ……! も、申し訳ございません……」

 

 たった一言ベアトリーチェから告げられたその言葉に、アリウス生徒たちは慌てて下がり始めた。

 

──これだとまるで飼い犬と主人だ……。

 

 つい最近まで凄惨な内戦を繰り広げていたはずのアリウス生徒たちの変貌ぶりに、サオリは思わず眉を顰めた。これほどまでにベアトリーチェはアリウスで圧倒的な『力』を掌握しているのだろうか。

 

「レンゲも落ち着いて! 今ここで争っても意味なんて──」

「だったら一人で行こうとしないでよ……もう、サオリがいないと私は……」

 

 生きていけない、と続く言葉を寸前で飲み込む。

 

「ベアトリーチェ……オマエもそれで良いでしょ? 私もサオリみたいに何だってしてあげるよ。どんな汚れ仕事だって完璧にこなして見せる。だから、私も一緒に連れていけ」

 

「……良いでしょう。ただし、任務一つ失敗すればこの取引は無いものと考えなさい。貴女たち二人を、アリウス分校は受け入れましょう」

 

 サオリの時とは比べ物にならないほど殺気立つアリウス生徒たちを見て、レンゲもまた負けじと睨みつけた。文句があるなら目の前の異形に言え、と目で語っている。

 

 そんなレンゲを宥めながら、サオリはベアトリーチェを見上げる。

 

「……あ、ありがとう……ございます」

 

 踵を返すベアトリーチェと共にサオリも立ち上がる。

 自身を睨みつけるレンゲの視線を必死に無視しながら、おぼつかない足取りでベアトリーチェの下へ──アリウスの下へ歩み寄る。

 

「──私も行く」

 

 しかし、そんな彼女にまたしても待ったを掛ける声。

 サオリもベアトリーチェも歩みを止め、その声を発した人物へ視線を向ける。

 

 件のロイヤルブラッド──アツコが力強い視線を二人へ向けていた。

 

「あ、アツコ……?」

「サオリたちが無理だったら結局私を捕まえに来るんでしょ? そして今度はミサキとヒヨリが傷つくかもしれない。それなら、初めからあなた達のところにいる」

「で、でも……」

「これで文句は無いよね、マダム」

 

 アツコの言葉にベアトリーチェは答えず、くつくつと嗤うだけ。

 答えはそれで十分だった。

 

「……勝手に決めないでよ」

 

 立て続けに家族がアリウスへと進む姿に、絞り出したような声でミサキは呟いた。

 

 二人の姉に始まり、今日出会ったばかりの新たな妹さえ、自分たちを守ろうと更なる『地獄』へ飛び込もうとしている。

 

 これではまるで、生贄に差し出されているようではないか。

 

「急に自分たちを犠牲にするみたいに言って……私たちを守るため? 私たちの気持ちも考えないでそんなこと言って欲しくなかった……」

「み、ミサキさん……」

「なんで一緒に来て欲しいって言ってくれないの……?」

 

 沈痛な面持ちで語るミサキに、ヒヨリも目に涙を浮かべる。

 それは紛れもなく、戒野ミサキという少女の本音だった。

 

 真っ直ぐ自身を見つめるミサキに、サオリはゆっくりと歩み寄る。

 

「もう……独りにしないでよ……!」

「ごめんね、ミサキ」

 

 そんなミサキを、サオリが優しく抱き締めた。

 

 結局は自分もレンゲと同じ間違いを犯してしまったと、内心苦笑した。

 サオリ一人がその身を犠牲にしても、残される者がいる。常に仏頂面で表情の変化が乏しいミサキでもこれほど自分を『家族』として見ていてくれたという事実に、心の中で小さな喜びすら浮かんだ。

 

 レンゲと二人で作った家族は、決して無駄ではなかった。

 

「一緒に来てくれる、ミサキ?」

「うん……」

 

 もはや聞くまでもない問いに、ミサキは頷いた。

 

 最後にミサキは、残るもう一人の家族と向き合った。

 

「ヒヨリ」

「えへへ……私にも聞いてくれるんですね」

 

 困ったような、なんとも言えない表情を浮かべているヒヨリ。

 

「姉さんたちが行くのなら、私はそれに従います。それに……」

 

 ヒヨリはチラリと、未だベアトリーチェへ銃口を向けたままのもう一人の姉を見やる。

 

「こんな私を拾ってくれたのはレンゲ姉さんですから。だから私は一番近くでレンゲ姉さんを支えたいです。えへへ……」

 

 ヒヨリの言葉に、サオリも静かに頷く。

 

「フフフ……良いでしょう。あなた達五人をアリウス分校は歓迎致します」

 

 ベアトリーチェもまたその光景を眺めながら、笑みを深めた。

 

 彼女の中では既にどのようにしてこの『家族』を()()するかが目まぐるしく交錯する。

 自身の思い描く『崇高』への道筋が確固たるものへと昇華し始めている。

 

──やはりアリウスは『素材』が尽きませんね。

 

 三日月のように口を歪めながら、彼女は嗤う。

 今でも自身に向けられたままの銃口から発せられている殺気を全身に浴びながら、彼女はその感覚の心地良さに目を細めた。

 

「本日よりあなた達は一つの部隊としてアリウス分校へ加入して頂きます」

 

 彼女の目指す崇高──その尖兵として、少女たちに告げる。

 

 

「これよりあなた達をアリウススクワッドと呼称します」

 

 

 この時、あまりにも残酷な運命が少女たちへ課せられた。

 

 

 

 

 





・レンゲ
レーダーがベアおばに対して危険信号を発している

・サオリ
家族を助けるのに無我夢中

・ミサキ
家族のせいで孤独への耐性がバキバキに破壊された。家族とか恋人にはドロドロに依存しそう

・ヒヨリ
レンゲ介護士1級

・アツコ
自分のせいで無関係の家族を巻き込んでしまった罪悪感が。でも作中で公言した通り四人は元々目をつけられていたためどの道時間の問題だった

主人公の名前どうする?

  • 変更なし
  • 改名するべき
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