お陰様で拙作もお気に入り1000を超えることができました。
これからもアリウススクワッドのみんなが幸せになれるよう主人公ちゃんには頑張って貰います。
今日も変わらず訓練を終えて帰路につく私たち。
ただひたすら実戦形式の組み手や射撃訓練を繰り返すだけの日々は流石に体に堪えるようで、特にサオリに関しては目の下の隈が日に日に濃くなっている。
5人全員、フラフラとした足取りでアリウス自治区内を進んでいた。
もうすでに日が暮れているせいか、周りに他のアリウスの生徒がいないのがせめてもの救いか。
「ふへへ……辛いですね、苦しいですね……ふへ、ふへへ、あはは……」
「ちゃんと真っ直ぐ歩かないと危ないよ。あと少しで帰れるから」
「どうして人生はこんなにも苦しいのでしょうか……えへへ、でも私には一緒に苦しんでくれるミサキさんがいますから……」
「……なんでヒヨリはこうなるといつも私に絡んでくるの?」
後ろではミサキがぶっ壊れモードに入ったヒヨリに肩を貸しながら歩いている。
肩を貸してるミサキを至近距離でガン見しながらにへらと笑ってるけど、口から出てくる言葉は中々に刺激的。妹二人のある意味微笑ましいやり取りに、疲労で気分が沈んでた私も自然と笑みを浮かべてしまう。
ヒヨリがこうして壊れるのも今となってはお約束みたいなものだ。本当にヤバい時は一切喋らなくなるから、喋れる時のヒヨリはまだ余裕が残っている。だからかミサキもそれほど心配はしていないようで、呆れた表情でヒヨリを見つめていた。
『大丈夫? お水飲む?』
反対側からアツコもヒヨリに肩を貸す。
一番小柄で歳も下なのにヒヨリと比べるとまだまだ元気そうだった。お姫様でも意外とタフなのかもしれない。
「いえ、大丈夫ですよ姫ちゃん。いくら水を飲んでもこの苦しみは洗い流せませんから……」
『頑張って。シャワーで一緒に洗いっこすれば水に流せる』
「そ、そうですね……でも最近シャワーの時レンゲ姐さんの視線が怖いというか、こっちを睨んでくるというか……」
それは最近色んなところが立派に成長し始めた自分に聞いてみるんだな。
思わず隣のミサキにも視線を向けると目が合ったから、とりあえず頷いておいた。ミサキは呆れたようにため息を吐いているけど、お姉ちゃん知ってるよ。君だって持たざる者の一人だ。
でも、アツコの言う通りみんなでシャワーを浴びる事が私たちにとって唯一安心できるひと時になっていた。大人の監視も無い、私たちだけの時間。
──だけど。
「……ふぅ」
生憎と私には、ほんの僅かな時間すら許されないようだ。
妹たちの微笑ましいやり取りを他所に、私は最後方で気難しそうな表情を浮かべているサオリに歩み寄った。
「……? どうしたの、レンゲ?」
不思議そうに首を傾げるサオリに、私は努めて普段通りに笑みを浮かべながら告げた。
「ごめん! ちょっと訓練場で忘れ物しちゃった。探すのにちょっと時間かかりそうだから、先にみんなでシャワー浴びちゃってて!」
「わ、忘れ物……? どうせならみんなで探そうよ。その方が早く見つかるだろうし、別にレンゲ一人じゃなくても──」
「いや、今からじゃ時間も遅くなる。私だけなら見つからず部屋に戻れるから大人の奴らに怒られる心配も無いし。それに、もうサオリも限界でしょ?」
「ッ……!」
そっとサオリの頬に手を当て、隈が色濃く刻まれた目の下を優しく撫でた。図星だったのか、サオリは小さく眉を顰めながら言葉を詰まらせた。
「今日はゆっくり休んで、早く元気になって。そんな痛々しい隈ができてたらサオリの可愛い顔が台無しだよ? まぁ、サオリは今でも十分可愛いけど!」
「……はぁ。絶対早く帰ってきてね。私もアツコも待ってるから」
「ダメ。良い子は寝る時間だよ」
「まるでレンゲは良い子じゃないみたいな言い方だね」
「あはは……私は問題児らしいからね。少しは夜更かししても大丈夫だよ。じゃ、アツコたちは頼んだよ」
最後にサオリの頭をわしゃわしゃと撫でると、私はサオリたちとは反対方向へと進み始めた。背中越しにサオリがアツコたちに事情を説明しているのが聞こえてきて、決して小さくない罪悪感が心に浮かぶ。
ごめんね、サオリ。
でもこればっかりは
●
虫の鳴き声すら聞こえない夜のアリウス自治区。
住民のほとんどが寝静まっている中、とある宿舎の一室でその女は拳を振り上げていた。
地面に横たわる小柄な人影の胸ぐらを掴んで無理やり立たせ、何度も拳を振り下ろす。華奢な体に拳が叩きつけられる度に感じる骨が軋む音と少女の呻き声が彼女の中の嗜虐心を刺激し、女はさらに笑みを深めた。
体から手を離すと、目の前の少女は血の混じった咳を零しながらその場に座り込んだ。
受け身すら取れないまま剥き出しのコンクリートの地面へ横たわる少女を、女は口元を歪ませながら見下ろす。
「うぅ……」
窓の一つも無い薄暗い一室。本来扉があるべき場所には鉄格子が打ち付けられ、それはまるで囚人を閉じ込める牢獄のような空間だった。
「(牢獄もあながち間違いではないがな)」
倒れ込んだ少女の体を踏みつけながら、女は改めてこの部屋とも呼べない場所を見渡した。
コンクリートが剥き出しになった大きな部屋に置かれたいくつもの檻。そのうちの一つに彼女たちは入っていた。正確に言えば入れられていたのは少女の方で、女の方は少女と『面会』しに来ただけだが。
苦痛に顔を歪ませる少女──荻野レンゲを見下ろし、彼女はこの
『荻野レンゲが反抗的態度を見せている。指導を行え』
それがマダムからの伝令。
アリウスで『指導』が何を指しているかなど、ここに住む者なら考えるまでもない。
殺してはいけない。
たとえその対象が問題児であろうと、マダムが見定めた戦力をわざわざ削る意味などない。
アリウスでは『殺し』の技術を文字通り叩き込まれる。如何にして相手のヘイローを破壊し命を奪うかに関しては、どの自治区よりも圧倒的に長けている。
しかしそれは逆に、
それとは別に、このままレンゲのヘイローを破壊したい衝動に自分が駆られているのを女は自覚していた。
荻野レンゲの噂は彼女も予てより先輩の幹部から聞いていた。
曰く、かつて彼女たちが大人ではなくまだアリウスの生徒だった頃、一人の子供がまるで通り魔のごとくアリウス生徒を襲っていた。
曰く、相手は子供のはずなのに仲間が次々と餌食になった。
曰く、子供とは思えないほど冷酷な人物だった。
半ば都市伝説のような存在になっていたその子供がマダムに連れられ入学した荻野レンゲその人だという事実は、自治区内で広まるのに時間は掛からなかった。
正直に言えば、その女はレンゲに対して特に憎悪など抱いていなかった。自分がアリウスの生徒だった時はその通り魔の被害も特に受けず、あれほど先輩たちがこの少女を憎悪している理由もよく理解出来なかった。生徒から幹部へと変わった時もそれは変わらない。
だが、レンゲを一目見た瞬間、彼女はレンゲに対して凄まじい嫌悪感を抱いた。
あまりにも希望に満ちた瞳。
希望も未来も無いはずのアリウスの中にいてもなお失っていない輝き。
最初はその輝きもすぐに消えるものだと思っていた。
一週間もすれば自分たちのように、トリニティへの復讐心のみを携えた、暗く淀んだ瞳へと姿を変えるはずだった。
だが変わらなかった。
一週間、二週間、一ヶ月。
どれほど時間が経っても少女の輝きは失われることはなかった。
ふざけるな。
そんな目はアリウスに相応しくない。
お前も私たちと同じになれ。
自分でも驚くほどの黒い感情が自分の中に渦巻いていた。
だからマダムからこの指令が下された時、彼女は心の中で狂喜乱舞した。
ついにあの光を、自分の手で穢すことができる。
「立て」
「うぐっ……!」
再度胸ぐらを掴み、小柄な体を背後の壁に叩きつける。
希望に満ちたはずの彼女の瞳には、今は確かな恐怖が宿っている。
だが、まだ足りない。
まだまだこの光を曇らせたい。
全ては虚しいだけだ。
それを身を持って実感させなければ。
彼女と相対した当初、女は激しく抵抗される事を予想していた。先輩たちから聞く噂が本当なら、荻野レンゲはきっと悪鬼のような人間なのだろうと。いくら彼女がアリウス分校所属になったとはいえ、このような『指導』に反抗しないとは思えない。
だが、そんな心配もマダムから伝えられたたった一言で杞憂に終わった。
──少しでも抵抗すれば、お前の大好きな家族もどうなるか分からないぞ。
くだらない家族ごっこに興じている荻野レンゲ相手だからこそ通じる言葉。
このたった一言で、最初こそ反抗の素振りを見せていた少女も一瞬にして顔を真っ青に変え、完全に機能停止へと追い込まれた。
この惨状を見た女は、噂に聞く問題児とはかけ離れた姿を嘲笑った。
「まぁ、元はと言えばお前が昔ヤンチャしてたからだがな。こうなる事は仕方ないとは思わないか?」
「ッ……」
もう一度拳を振り上げる女だが、背後から肩を叩かれる。
折角楽しんでいたのに、と不満を隠そうともせず後ろを振り向くと、そこには見張りを頼んでいたアリウスの生徒が佇んでいた。ガスマスク越しに見える表情はアリウスらしく、どす黒く濁っている。
彼女が来たと言うことは、
「はぁ……時間か」
「……?」
唐突にそう呟いた女に、それまでただ無抵抗に耐えていたレンゲは首を傾げた。
彼女の長すぎる夜が漸く終わりを告げるのだろうか。
だが、そんな彼女の仄かな期待は早々に裏切られる事になった。
「夜も遅い。お前もそろそろ寝ないと、なッ!」
「かはっ……!?」
女の両手がレンゲのか細い首を掴み、小柄な体が壁に叩きつけられた。
「ぁ……やめ……て……」
女の腕を引き剥がそうと腕を掴むも、繰り返された『教育』によりその抵抗はあまりに弱々しく、それは却って女の嗜虐心を刺激するだけだった。
徐々に目が虚ろに変わるレンゲを見つめながら、女はこれまでにないほど笑みを深める。
──もっと苦しむ姿を見たい。もっと……もっとッ!
「おい、そこまでにしろ。それ以上はそいつ、本当に死ぬぞ?」
抵抗を続けていたレンゲの両手が落ちると同時に、檻の外から気だるげな声が響いた。
『反省部屋』の監視を任された同僚の声にようやく女は我に帰ったのか、慌ててレンゲの首から両手を離した。
「ッ!? けほッ! ごほっ! うぅ……」
受け身すら取れないまま地面に倒れ咳き込むレンゲを眺めながら、女は肩を竦めた。
「別に殺すつもりなんてない。少し楽しむぐらい良いだろ?」
「どうだかな。私が止めなきゃお前、あのままヘイローが壊れるまでやめなかっただろ。流石のそいつも息ができなきゃ死ぬぞ」
「それこそ心外だな。マダムはあくまで『教育しろ』としか仰っていない。私がマダムの命令を間違えるとでも?」
食ってかかるその同僚を睨み付けながらも、女は晴れ晴れとした気分で横たわるレンゲを見下ろしていた。惜しいのは
Vanitas vanitatum。
この一連の指導を終えれば、荻野レンゲも……
救いなどない。
どこまで行こうと、全てはただ虚しい。
●
「けほっ……首の骨折れるかと思った……あいつヤバすぎでしょ……」
アリウスの大人がいなくなったのを確認してから、ようやく口を開く。
今夜の記憶がただの悪夢ならどれだけ良かっただろうか。
でも、いまだに首に残る絞められた感覚と全身を駆け回る激痛が、これが紛れもない現実だと叩きつけてくる。
「痛いなぁ……あの人容赦無しかよ……変態ドS女め……」
私を殴る度に笑ってたあの大人の顔が脳裏に浮かぶ度に腹が立つ。
サオリが私をイジメる時もたまに笑ってるけど、あいつのそれとは全然ベクトルが違う。サオリのはただのじゃれつきの延長だし私も満更じゃないから良いけど、あの女は多分ガチだ。絶対私をボコボコにするのを愉しんでたに違いない。性癖は人それぞれだけど、私で発散するのはやめて欲しい。
十中八九マダムの差し金だろうけど、きっと本人を問いただしてもしらばっくれるだけだろう。でもこれがマダムの
「サオリたちは大丈夫かな……」
あいつは私が抵抗しない限りサオリたちには何もしないと言っていた。
約束を守ってくれるかは分からないけど、少なくとも反抗すれば100パーセント家族に手を出されるなら、残念ながら私は黙って『教育』を受け入れるしかない。
「そこそもこれ全部私のせいだし……」
まさか昔の自分のやらかしのせいで今の自分の首を絞める事になるなんてね。文字通り。
これなら、もうちょっと良い子にしてれば良かったなぁ……。
「お、目を覚ましたか。随分と派手にやられたな」
「うぉ、誰!? いてて……」
「おいおい、慌てるな。全く……相変わらず騒がしい奴だ」
随分と気さくに掛けられた声に、私は思わず勢いよく後ろを振り返った。ただ早く振り返りすぎたのか、体に「やめろ」と文句を言われてしまう。
我ながら軟弱な体め。
しかし、声の主は意外とも言うべき人物だった。
「あ、脇見運転さん。久しぶりー」
「いつまでそのネタ擦るんだよ。私だって運転上手くなってるんだぞ」
「ならちゃんと事故無しで今日を迎えられたの?」
「……ここは反省部屋だ。私語は慎め」
「自分から声かけてきたのに!?」
私が入れられていた牢屋の目の前に置かれた机に座っている一人の女。
それはアリウスとの喧嘩を繰り返しているうちになぜか顔見知りになってしまった、いつかの脇見運転事故お姉さんだった。なぜかいつものアリウスのガスマスクは着けていないけど。
改めて見ると、結構綺麗な人だ。なんというか、オトナのヨユーって奴が感じられる。くっ、これが年上の魅力って奴か。
思わずじーっと見つめていると、お姉さんは怪訝そうにこちらを見つめ返した。
「なんだよ、こっちをジロジロ見やがって」
「お姉さんってあのクソダサいガスマスク取ると普通に綺麗なんだね。声聞くまで全然気づかなかった」
「いきなりどうした? 私を褒めたところでお前の刑期が短くなることはないぞ」
「別に逃してもらおうとか思ってないってば。あれ、もしかして褒められるの慣れてなくて照れてるとか? お姉さんも可愛いところあるじゃーん」
「はぁ……この様子じゃマジで普通に褒め言葉っぽいな。ま、素直に受け取っとくよ。そういうお前こそ、顔は良いんだからそのよく回る口をどうにかしろ」
「か、顔が良い? えへへ、そうかなぁ……?」
「おい、体をくねくね動かすのやめろ。そもそも体動かすの痛いんじゃなかったのか?」
「もちろんクソ痛いけど?」
「どんだけバカなんだよ」
それにしても、前回は戦場で会ったはずのお姉さんが、なんでこんなところで監視役みたいなことを押し付けられてるんだろうか。
部下も沢山いて結構出世してたっぽいけど。
「部隊長さんにまでなったのに、今はただの看守さんなの?」
「もう私はアリウスの生徒じゃないよ」
「え!?」
その言葉に思わず目を見開いた。
もしかしてこの人、ついに危険運転が仇になって退学になったのか。
「おい、お前が考えてることなんて分かるぞ。私は退学になったわけじゃないからな。卒業だよ」
「あ、そうなんだ……卒業ってなに?」
「はぁ……スラム出身だし知らないのも無理はないか」
首を傾げる私に大きなため息を吐くと、彼女は割と親切に教えてくれた。
元々三年生だった彼女は3月にアリウス分校を卒業し、『大人』として幹部になったらしい(月日の概念はアリウスに来てから知ったからあまりイメージできないけど)。
まぁ、幹部とは言ってもピンキリで、彼女みたいな新入りの幹部は実質下っ端のようなものらしい。だから今もこうして看守みたいな雑用もさせられていると。
「へぇ、君らアリウスにも色々あるんだね」
「他人事かよ。お前ももう私たちと同じアリウス分校なんだぞ……未だに信じられないが」
「えへへ、結構割とそれなりに凄く不本意かもしれないと思うけどね」
「めちゃくちゃ不本意そうだな」
未だ激痛がマラソンのように走り続ける身体を引きずり、なんとか後ろの壁へ寄り掛かる。痛いことに変わりは無いけど、これで少しはマシになった気がする。
「お前も会う度にボロボロになってるな」
「お陰様でね。昔の君といいさっきの変態ドS女といい、アリウスの連中は私の首絞めるの好きなの? そろそろ首の骨が変形しそうで怖いし、苦しいの嫌いなんだけど」
「いや、私に言われても分からないよ……強いて言うなら生捕りに便利だから、とかか?」
「その割にはあの時の君は私を思いっきり絞め殺そうとしてたけど」
「あれはお前が散々私を煽ったからだろ」
「え、そうだっけ?」
「こいつ、天然の煽りカスだったのか……」
なんかよく分からないことを言ってる脇見運転の人は一旦無視し、とりあえず自分の身体の状態を確かめる。
幸いなのか自分が無意識にそうなるようにしていたのか、顔はあまり殴られなかった。顔だとサオリたちに隠すのが大変だから、これは助かる。
その代わり手足とかお腹は凄い事になってそうだけど、ここらへんは長いズボンとか普段着てるパーカーで誤魔化せる。
シャワーの時間も少しずらさないと痣とかを見られたら一発でバレちゃう。みんなで洗いっこできて楽しかったけど……背に腹はかえられない。ポジティブに考えれば、サオリとヒヨリの色んな意味での成長具合に落ち込む事も無くなるってことだ。
後は私が痛みを我慢すればバレる心配はない。
「……お前、この事は仲間には黙ってるつもりか?」
「仲間じゃなくて『家族』ですよー。話す理由も無いし、別にいいかな」
「相変わらず歪んでるな。ここまで変わらずにいるのは逆に安心できるよ」
「やめてよ、褒めてもオススメの缶詰しか教えられないよ?」
「フ、そうだな。ある意味褒めてるかもしれないな、これは」
「お姉さんに褒められるなんて……こんな珍しい光景はこうだ!」
ポケットに入れていたカメラを取り出し、目を丸くして驚いているお姉さんをパシャリと一枚。なかなか珍しい表情が撮れて、良い写真だ。
「うわっ、お前いつの間にカメラなんて……」
「ずっとポケットの中に入れてたよ? あの人が私をボコボコにするのに夢中で気づかなかっただけで」
「はぁ……私じゃなかったら取り上げられてもっとボコボコにされてたぞ?」
「大丈夫大丈夫。私とお姉さんの仲だから」
「殺し合った仲か?」
「悪縁も縁のうちってね」
今までカメラで撮った写真を見返してみる。
大半が家族の写真で、一部が風景とかそこら辺に落ちてた面白いものが保存されている。我ながら統一感があまり無い。
でも、この写真はいつか実際に紙として印刷とかはできるのかな?
やり方が分かれば是非とも印刷したい写真が何枚かあるんだけど……少なくともアリウスなんかじゃできなさそうだ。
そのままお姉さんと他愛もない世間話みたいな事を続けていると、大きな物音と共に反省部屋の扉が開かれた。
ついに私もお勤めが終わりなのかと期待するも、入ってきたアリウス生徒たちは脇に私ぐらいの小さな子供を抱えていた。どうやら囚人をもう一人入れに来ただけらしい。
私の真正面の牢屋の鍵を開けると、その生徒は子供を放り投げるように牢屋へと入れた。もうちょっと丁寧に入れてあげてもいいのに。
そのまま私には一度も視線を向けることもなく、アリウス生徒たちは部屋を出ていった。おしゃべりも無しなんて、相変わらずつまらない連中だ。
「はぁ……もう一人の問題児もお出ましか……」
お姉さんは新入りの子供を見た瞬間深いため息を吐いていたから、どうやらこの子のことを知っているらしい。
肩に掛かる程度に切り揃えられた薄汚れた白髪に、同じく汚れが目立つ白色の翼。きっと本来は綺麗な純白のはずだろうに、私と同じく
「わぁ、君も随分と派手にやられたねー。大丈夫?」
「…………」
試しに声を掛けてみるも、その子は背を向けたまま横たわっていて微動だにしていない。
「無駄な抵抗はやめろー。ヘイロー消えてないから起きてるのはバレてるぞー。ねぇ、お喋りしようよー! もうこの脇見運転お姉さんとお喋りするの飽きたの」
「おい」
お姉さんから睨まれるも、やっぱり色んな人とお喋りする方が楽しい。この子とはおそらく初対面だし。
「おーい! 天使ちゃーん! あ、ちなみに天使ちゃんって呼んでるのは天使みたいな真っ白な翼を持ってるからだよ」
「…………ッ」
「天使ちゃーん! エンジェルさーん!」
「──うるさい!」
根負けしたのか漸くその女の子は振り向いてくれた。
アザや血の跡が痛々しく残る顔はそれでも見ただけで可愛らしいと分かる。こちらを睨みつけてくる鋭い瞳はどこか刺々しくてギラギラしているけど、その瞳の奥に僅かに見える優しさを隠しきれていない。きっと根はとても良い子なのだろう。
私と同じ黒い服の上から黒いパーカーを着ているから、この子も同じくアリウス所属の子供。
「お、やっと振り向いてくれた。さて、早速お喋りでも──」
「アリウスの生徒と馴れ合うつもりはない。私には構わないで」
「いや、君もアリウス所属だと思うけど……あ、ちょっと! こっち向いてよー!」
短く私にそう告げた天使ちゃんはそのまま再び私に背を向けた。
くっ、これはなかなか手強そうな相手だ……!
「やめとけクソガキ。あいつはいつもああなんだ」
「え?」
もう一度声を掛けようとすると、お姉さんが呆れたように首を振りながら肩をすくめた。
「あいつは誰とも交流を持たないし、会う奴全員に敵意を振り撒いてる、お前とは違うベクトルの問題児だ。アリウスの幹部たちにも反抗的だってよく殴られてここに連れて来られてるよ」
食堂で見かけた時と同じだ。
死んだ魚のような目しかしていないアリウスの子供たちの中で、ただ一人生命力に溢れていた子だ。あの時はまだ半信半疑だけど、お姉さんの話を聞いた今確信した。
あれは自暴自棄になった人の目だ。
かつての自分そのままで、思わず苦笑してしまう。
「ねぇ、君。名前教えてくれないかな?」
「…………」
「このままじゃずっと天使ちゃんって呼ぶ事になるよ。そしたら食堂とか訓練中に見かけたら『うおおおおお天使ちゃーん!』ってめっちゃハイテンションで声かけるよ」
「……
流石に全力の天使ちゃん呼びは恥ずかしかったのか、渋々といった感じでアズサは私に自分の名前を教えてくれた。なんというか、今の私って凄くめんどくさそうな子になってるかもしれない。
でも、この子だけはどうしても放っておけない自分がいる。
かつての私とあまりに重なりすぎて、彼女が私と同じ失敗をやらかしそうで。初対面でお節介かもしれないけど、どうしても構わずにいられない。
「アズサ、君がどうしてアリウスを目の敵にしてるかはあまり分からないし、初対面の私になんか話そうとは思わないだろうけど……」
それでもあくまで、彼女の方から歩み寄ってくれるまで気長に待つ。
ミサキの時みたいに。
「気が向いたらお喋りしようね?」
「…………」
アズサは何も答えない。
「ふぁぁぁぁ、なんだか眠くなってきちゃった」
「そんな牢屋の中でよく寝ようと思えるな」
「暇だししょうがないじゃん。あー、身体もあちこち痛いし、明日の訓練行きたくないなぁ……」
「行かなかったらまたここに戻ってくるだけだぞ」
「その時はお姉さんがお喋り相手になってくれるんでしょ?」
「あのなぁ……本当なら
「ま、その時はその時って事で。おやすみ〜」
お姉さんに呆れたような視線を背に受けながら、私は硬い牢屋の中で寝転んだ。身体中が痛いけど、それ以上に眠気が襲ってきた。どうやら思った以上に体力が限界だったらしい。
──明日の訓練はサオリたちにバレないといいなぁ……。
そんな他人事のようなことを考えながら、私は意識を手放した。
「お前に何が分かる……!」
流石にもう付けないとまずいと思ったので、曇らせタグを追加しました。
ですがあくまでこの小説はハッピーエンドを目指します。
かわいそうなのは抜けない。
・レンゲ
一番怖いのは自分のせいで家族が傷ついてしまうこと。お気楽な性格がアリウスではマイナス方向で目立ってしまう。
・アズサ
全方位に敵意マシマシの頃。原作でもスクワッドには最後まで心を開かなかったらしい。
・脇見運転ネキ
適度なルーズさを覚えた。真面目ちゃんだった生徒時代の反動でだらしなくなってる。
主人公の名前どうする?
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変更なし
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改名するべき