アリウス生徒の奮闘記   作:ハァン

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かなり遅れてしまい申し訳ございません。
他の方々のブルアカ作品が面白すぎて自分の作品に手が付きませんでした…。

これも全て陸八魔アルって奴の仕業なんだ。


トリニティ偵察任務(3)

 

 

 

「うぁ……?」

 

 全身を駆け巡る激痛と共に、レンゲの意識は徐々に覚醒した。

 身体が鉛のように重く、指一本動かすだけでもとてつもない労力に感じた。まるで糸の切れた人形のような気分だ。

 

 気を失っていたということは、自分は負けたのだろう。

 

 これが夢ならどれだけ良かったか。目を開ければスラムに戻っていて、隣にはサオリたちがいて、アリウスなんて関係無い、そんな光景が広がっているのかもしれない。

 

 しかし、現実逃避しても無駄だ。

 

 今の自分は捕虜だ。

 これからトリニティによる凄惨な拷問と共に尊厳は踏み躙られ、アリウスの事を徹底的に吐かされるのだろう。アリウスにいた頃と大して扱いが変わらないという事実に若干の虚しさを覚えながらも、レンゲの心はあのアリウスの空のように曇っていた。

 

 だが希望は捨てない。

 必ずこの状況を切り抜け、家族の元へ帰るのだ。

 

 来るべき悪夢のような日々と向き合うべく、レンゲはゆっくりと瞼を開け──。

 

「あ、やっと起きた⭐︎」

 

 目と鼻の先でこちらを覗き込んでいたガスマスクと目が合った。

 

「みぎゃああああああああああああ!!!???」

 

 悲鳴を上げ、尻尾を踏まれた猫のように飛び上がるレンゲ。

 先程まで指一つ動かすのにも億劫だった人間とは思えないほどの軽快な動きだった。

 

 懐に手を伸ばしてハンドガンを取り出そうとするも、ホルスターの中に入れていたはずの銃は当然のように取り上げられている。ならばとスカートのポケットから手榴弾を取り出そうとし、それも当然のように無くなっている事に気づく。

 

 顔が恐怖で引き攣り一気に青ざめる。

 目の前のガスマスクはシュコーと息を吐く音を漏らしながら、じっと自分を見つめていた。黒色のマスクから覗く桃色の髪のアンバランスな風貌が不気味さを増幅させている。

 

「あわわわわ……お、お慈悲ぃ……」

 

 先程までの決意は粉々に砕け散り、ついに命乞いまで始める始末。

 

 そんな彼女を見て、ガスマスクの女(髪の長さからそう判断した)はゆっくりとマスクに手を掛けた。

 

「ぷはぁ。ごめんね、ちょっと驚かせようと思ってマスク借りちゃった。でも元気そうで良かったよ!」

「み、聖園ミカ……!?」

 

 マスクの奥から姿を見せたのは醜悪な処刑人などではなく、可憐な少女の顔だった。いや、処刑人という意味ではあながち間違いではないのかもしれない。

 ケラケラと笑いながら、つい先程まで死闘を繰り広げていた相手──聖園ミカが自身を見つめていた。

 

「一体どういうつもり──いッ!?」

 

 思わず身構えようとして、身体中から激痛が発せられ思わず顔を顰めてしまう。

 

「あ、安静にしてないと駄目だよ! 結構重い怪我だったんだから」

「お陰様でね……」

 

 腰に手を当てながら頬を膨らませるミカを、レンゲは激痛を堪えながら睨みつけた。そもそも、彼女がなぜこの場にいるのかも理解できなかった。

 

 彼女がティーパーティーの一員なら、自分を捕獲した時点で役目を終えているはずだ。後は正実などに引き渡せばいい。

 

 なのにどういう訳か彼女は治療を施され、上質なベッドの上に寝かされていた。周囲の窓に鉄格子も備え付けられていなければ、拘束もされていない。その気になれば今にもミカに襲い掛かる事ができる。

 頭に巻かれた包帯にそっと手を置き、さらに困惑を深める。

 

「ほら、ちゃんと寝てないと──」

「触るなッ!」

「あっ……」

 

 その混乱からか、自分に向かって手を伸ばしたミカを一喝してしまう。しかし、口にした瞬間自分の胸がチクリと痛んだ事にレンゲは気づく。

 あくまで敵意もなく友好的に接してきている相手を強引に振り払ってしまった。その事実が、彼女の心に重く伸し掛かった。

 

 やはり自分の中にも、トリニティに対する偏見が眠っていたのだろうか。

 

 人のお節介は受けるべきとアズサに言った張本人なのに、お笑いだ。

 

「ご、ごめん……でも今はそっとして欲しいの。まだちょっと状況が整理できてないから」

「……そうだよね! ごめんね、私ったら急に馴れ馴れしくて! ミネちゃん呼んでくるからそこで待ってて!」

「待ってても何も、動けない……あ、行っちゃった」

 

 答えも聞かず部屋を出てしまったミカに、レンゲは深いため息を吐いた。明らかに善意を持って接してきたミカを拒絶した自分自身に、彼女は言いようのない苛立ちを覚える。

 

 力無くベッドに倒れ込むと、心地良い柔らかさが背中越しに体を包み込んだ。綺麗に整えられた木製の天井はボロボロに朽ち果てたアリウスのそれとはまるで別物で、別世界にでも迷い込んだようだ。

 

「……あったかいなぁ」

 

 一目見た時からトリニティの美しさに目を奪われたレンゲ。

 今自分はそのトリニティの中にいるのだと、徐々に実感が湧いてきていた。

 

 視線をベッドの横に向けると、先程までミカが被っていたガスマスクがリュックの上に無造作に置かれていた。彼女が今回の任務に持ち込んだものだ。隣には愛銃も置かれている。ただ放置されているそれらの武器は、持ち出せばすぐにでもこの部屋から出て行く事ができる。

 流石に不用心すぎるのでは、とレンゲは苦笑した。

 

「うぐっ……!」

 

 なんとか身を起こそうと両腕に力を込めると、再び痛みが全身を駆け巡る。感覚からどこも骨折していないのは分かるものの、鉛のように身体が重い。普段なら激痛さえ我慢すれば動けたはずの自身の体の異様な反応に、レンゲは困惑した。

 

 今回ばかりは体の様子がおかしい

 

「……まぁ、あんな強烈な一撃を貰ってればこうなるよねぇ」

 

 思い返すのは、ミカに殴られた時の記憶。

 まるでトラックに撥ねられたように吹き飛ばされた際の衝撃を思い返し、背筋が震えた。あんな一撃を何発も貰っていたらと考えると、命がいくつあっても足りない。

 いつか体が癒えてトリニティから脱出する際は、絶対に避けなくてはならない相手だと改めて再認識した。ミカはあまりにも規格外だ。

 なお、銃弾を見てから避けて接近戦を仕掛ける自分の事は棚上げにした。

 

「ッ!?」

 

 一人ミカの戦闘力に改めて戦慄していると、先程件の彼女が退室した扉が静かに開き、思わず顔を強張らせてしまう。

 しかし、戻ってきたのはミカだけではなかった。

 

「お目覚めのようですね。お身体の具合はいかがですか?」

 

 空色の髪は床にまで届きそうなほど長く、背中から広がる勇ましくも美しい青色の翼がその存在感を示していた。何より目を引くのは、帽子に描かれた十字架のマーク。

 医療道具などが隙間から顔を覗かせている鞄を肩から下げながら、その人物はレンゲのベッドの横へ歩み寄った。背後では部屋の外から遠慮がちにミカが中を覗いている。

 

「救護騎士団、蒼森ミネと申します。まだまだ未熟の身ではありますが、この度貴女の治療を担当させて頂きました」

「救護騎士団……」

 

 ゲヘナの救急医学部の対となる、トリニティ最古の部活にして唯一の医療機関。

 専門的な治療はおろか手当すら期待していなかった中での予想外な人物の登場に、レンゲは目を見開いた。

 

「……どこの誰かも分からない私の事を助けてくれるなんて、随分とボランティア精神溢れる団体なんだね」

「貴女がどの学園に所属していても関係ありません。『救護が必要な場に救護を』。この言葉の通り、救護が必要であればどこへでも駆けつけるつもりです! 私自身、まだまだ団長には遠く及びませんが、それでも私は自分に出来ることを精一杯させて頂きます」

 

 思わず漏らしてしまった皮肉にも顔色一つ変える事なくミネは言い放った。そのあまりに真っ直ぐな瞳に思わずレンゲもベッドの上で後退りしてしまう。彼女は自分にとって少し苦手なタイプなのかもしれない。

 

「貴女は……タカシさんで宜しかったでしょうか?」

「ぶふっ!? れ、レンゲでお願いします……」

 

 そんなミネの口から出てきた名前に思わず息を詰まらせると、レンゲは思わず自分の名前を伝えてしまう。咄嗟に名乗って適当な偽名の、まさかの奇襲だった。部屋の外からも笑いを堪えるような声が聞こえる事から、ミカも冗談半分であの偽名を伝えたのかもしれない。

 まさかそれを一切疑う事なく信じてしまうとは、ミカ自身も思っていなかったが。

 

「では、レンゲさんと呼ばせて頂きます。レンゲさんの治療は完了していますが、まだ安静でいる必要があります。決して激しい運動はせず、しっかりと休養を取って下さい。完治までが『救護』なのです」

「は、はい……」

 

 丁寧な口調の中に確かに混じっている有無を言わせぬ雰囲気に、敵対している学園の人間相手のはずが思わず頷いてしまった。自身の勘が目の前の少女に逆らうなと告げている。そして悪い方に対する自分の勘は大体当たる。

 

「では、私は今日はこれで失礼します。また明日、傷の状態を確認させて頂きますので、くれぐれも運動などは控えるように。救護が必要な場に救護を!」

 

 再度釘を刺すように告げてから、彼女はレンゲに背を向け部屋から退室した。救護が必要な場に更なる『救護』を届けるために。

 

「あ、ちょっと待ってミネちゃん──!」

 

 嵐のように立ち去るミネをミカは慌てて呼び止めようとするも、早々に別の救護の連絡を受けていたミネは既に窓を突き破って退室していた。彼女の中に玄関から出るという周りくどい選択肢は無い。

 

 レンゲを前に一人取り残されたミカはドア越しからじっと部屋の中を覗き見る。入りたい、でもさっきの事もあって入りづらい、そんな彼女の葛藤が滲み出ていた。

 

 だが、ここで退いては一生彼女に寄り添う事ができない。

 

 意を決してミカはレンゲのベッドへと歩み寄った。

 

 ミカの姿を確認したレンゲはピクリと身体を震わせるものの、今度は拒絶する様子はない。恐る恐る、口を開いた。

 

「なんというか、凄い人だったね」

「あはは……ミネちゃんはトリニティでも結構有名だからね。私と同じ一年生なんだけど、もう救護騎士団の次期団長として期待されてるんだって」

 

 むしろ彼女以外が団長になるとは思えないほど様になっていた。

 おそらくミカとは違った意味で問題児なのだろうと、レンゲは顔も知らない騎士団の現団長に対して黙祷した。あれの扱いは絶対骨が折れる。

 

「あの子、妥協しなさそうだもんね。今の団長の苦労話を聞いてみたくなるよ」

「私はレンゲちゃんのお話を聞いてみたいかな」

「悪いけど君に話すことは何もないよ。私はこれでも拷問への耐性を付ける訓練を受けてきたんだ、そう簡単に口を割るとは思わない事だ──」

 

 自信に満ち溢れた表情で告げるレンゲを遮るように、小さなカエルのような声が鳴り響く。当然のように、音源は目の前で顔を徐々に赤く染める哀れな捕虜。

 

「…………」

「……何か食べよっか」

 

 固まるレンゲを見かねてか、クスクスと笑い声を零していたミカはレンゲのベッドから離れると、奥のキッチンへと向かった。

 棚の中からカップを一つ取り出し、手慣れた様子で何かを注ぎ始める。どこか優雅さも感じる背中を眺めながら、レンゲは改めてミカを見つめた。

 

 腰まで覆うほどの長い桃色の髪の先端はよく見れば青く彩られていて、彼女の翼も相まってまるで空を飛んでいるような美しさだった。制服から伸びる両手足はお姫様のように華奢で、とても建物を粉砕した腕とは思えないほど細い。

 

 総じて、まるで絵本に出てくるお姫様のような綺麗な少女だった。

 それこそ、敵であるはずのレンゲも思わず見惚れてしまうほど。

 

 しばらくして、暖かい湯気が立ち上る一杯のカップを持って戻ってきた。

 

 カップの中を覗き込んだレンゲは、黄色に輝く液体に思わずゴクリと喉を鳴らす。

 これはもしや、ヒヨリの雑誌の中でしか見たことがない『スープ』というものではないのだろうか。優しくて甘い匂いが鼻をくすぐる。

 

「はい! これ飲むと身体も温まるよ。私も一人の時はよく飲んでるの」

 

 手渡されたカップを凝視するレンゲ。

 よく見ればコーンや小さくカットされたじゃがいもなども入っていて、見るからに食欲をそそられる。

 

 だが、レンゲは思わず口に運びそうになる両腕をなけなしの理性で抑えつけ、カップをミカへ突き返した。

 

「悪いけど、何か仕掛けられてるかもしれないものを貰うわけには行かないよ。こ、これでも訓練を受けた精鋭なんだから! 一週間ぐらい何も食べなくても問題ないんだよ!」

 

 しかし、彼女の言い訳などミカの耳に届いていなかった。

 なぜなら──。

 

「(す、凄い涙目でプルプル震えてる……さっきからずっとカップもガン見してるし)」

 

 言葉とは裏腹に、レンゲの本心がどうなっているかは火を見るよりも明らか。幼子のような表情でカップを見つめるレンゲを見て、ミカの中に眠る()()()が告げる。こんな少女からご飯を取り上げるなど、できない。

 

「大丈夫、何も変なの入れてないから。それにレンゲちゃんをどうこうしようと思ってるならそんな周りくどいことじゃなくて、直接やってるよ」

 

 軽くシャドーボクシングをすると、レンゲは「ひえっ」と悲鳴を漏らしながらカップを引っ込めた。言われてみれば、確かにミカなら毒を盛るよりも直接殴った方が早いし確実だ。

 

 隣から柔らかい笑みを浮かべながらこちらを見つめるミカの視線を感じながら、レンゲはゆっくりとそれを口へと運んだ。

 

「いただきます……」

 

 一口頬張った瞬間、目を見開いた。

 

「(あ、甘い……チョコレートとは全然違った優しい甘さ……このよくわからないやつもホクホクしてる……)」

 

 今まで感じたことがない濃厚な味わい。

 食べ慣れたエナジーバーや缶詰などとは訳が違う、身も心も温まる本当の意味での『食事』だった。

 

「美味しい……」

「本当? 良かったぁ……あれ、レンゲちゃん、もしかして泣いてるの……?」

「へっ?」

 

 ミカの言葉に、レンゲは慌てて自分の頬に触れる。小さな雫が手を伝う感触に、彼女は思わず息を呑んだ。

 

「あれ、なんで……? おかしいなぁ、もしかして湯気が目に染みちゃったのかな……?」

 

 ゴシゴシと荒々しく目を拭うも、とめどめなく溢れてくる涙。

 徐々に口を歪め、体が震え始める。

 

「ち、違うの! これは別にそういう意味じゃ……ただ湯気が目に染みて──」

「大丈夫だよ」

「あっ……」

 

 狼狽えるレンゲを遮るように、ミカは彼女を抱き寄せた。

 初めて触れた体はあまりにも華奢で、今にも折れてしまいそうだった。そんな少女の抱擁を、レンゲは拒絶することなく受け入れた。

 

「不安だよね、怖いよね。私は貴女の事なんて何も知らないけど、きっと凄く辛くて悲しい思いをしてきたんだよね?」

「君に私の何が分かるッ……!」

「ううん、私は何も知らない。だから教えて欲しいの。何が貴女をここまで必死にするのか。()()()()()()()()()()()()()()

「…………」

 

 見つめ合う二人の少女。

 美しく輝く二つの黄色い瞳に射抜かれたレンゲは思わず息を呑む。

 

──この子になら少しは話してもいいかもしれない。

 

「……私のカメラを取ってきてくれるかな? リュックの前ポケットに入ってるはず」

 

 何かを決心したかのように、彼女は壁に立てかけられた自身のリュックを指差した。漸く落ち着いたのか、体の震えは治まっていた。涙の跡が痛々しく頬に残されている。

 

 静かに頷いたミカがレンゲから離れると、レンゲは思わず名残惜しそうに手を伸ばしてしまう。慌てて手を引っ込めるも、既にその光景を見ていたミカは苦笑した。これではまるで弱みにつけ込んでいるようだ。

 

 リュックに前ポケットには確かに小さなカメラが入っていた。

 ところどころ傷が見受けられるものの汚れは一切なく、大切に使われている事が窺える。

 

「はい、大事なものなんでしょ?」

 

 ミカにカメラを手渡されたレンゲは、それを一度強く胸に抱きかかえる。

 

「……これには私の家族との思い出が詰まってるの」

「家族って、あの時レンゲちゃんが言ってた……」

「そう。そして、これが私の戦う理由」

 

 カメラを起動したレンゲは、1枚の写真をミカに見せた。

 レンゲ以外に5人の少女が写った写真。大なり小なり全員が幸せそうに笑顔を浮かべているそれは、ミカは素直に素敵な写真だと思った。確かに、政治と陰謀が渦巻くトリニティではあまり見かけない光景だ。

 

「この緑の髪の子はヒヨリ。少しネガティブな考えを持ってるんだけど、いざとなったら家族のためになんだってする頑張り屋さん」

 

「反対側の黒髪の子はミサキ。物静かであまり自分の事は話したがらないし、私にも色々と手厳しい事を言ってくるけど、実は誰よりも家族の事を考えてるとても優しい子」

 

 一人一人指差しながら語り始めるレンゲの言葉を、ミカは静かに聴く。

 

「端っこの白い髪の子はアズサ。とても勉強熱心で、いつも家族のために何か新しい事を学ぼうとしてるの。本人はまだ私たちの事を家族とは呼んでくれないけどね……」

 

 誇らしげに、まるで自分のことのように説明するレンゲ。

 その言葉の全てが、写真に写る家族への愛情で溢れていた。

 

「真ん中の子はアツコ。私たちは姫ちゃんって呼んでるの。とても感情豊かなお茶目さんで、面白そうな事があればすぐ冒険しに行く子。家族の末っ子で、みんなから可愛がられてる」

 

 最後に、レンゲは中央に写る少女を指差した。

 

「この子はサオリ。一番付き合いが長くて、いつも家族の事を第一に考えてくれる、私たちの頼れるリーダーで──私のただ一人の相棒」

 

 カメラに表示された写真から目を離し、真っ直ぐミカを見つめるレンゲ。

 

「みんな、私にとってかけがえのない家族で、()()()()()()()。この子たちのためなら、トリニティの全てを敵に回しても構わない。彼女たちのためにも、私は何がなんでも任務を遂行しなくちゃいけない」

「レンゲちゃん……」

「ありがとう。スープ、とても美味しいよ。でもごめんね……私と君は、何があっても決して相入れない存在なの」

 

 これほどまでの覚悟を一人の少女が背負っているという事実に、ミカは言葉を失った。

 

 一体彼女をここまで駆り立てる学園とは、なんなんだ。

 

 だが、ここまで語った彼女はそれでもなお、自分が所属する学園を明かそうとしなかった。

 

「……ありがと、ここまで話してくれて! もう疲れたでしょ? それ食べたら、ちゃんと休んでね?」

「あっ、ミカ──」

「じゃあ、私も今日はもう帰るね! また明日も来るから!」

 

 逃げるようにミカはその場を後にした。

 困惑した様子で呼び止めようとするレンゲを背に、ミカは扉を閉じて背中からもたれかかった。

 

 今日はもう彼女から所属する学園の事を聞き出せそうにない。

 

 でも、ある程度信頼関係を築けば明日には──。

 

「私、聞いてどうするつもりなんだろ……」

 

 聞いたところで、レンゲの抱えている事情はあまりにも深刻すぎる。いくらティーパーティーと言えど、彼女は所詮補佐の一人。ナギサのように現代表の一人と近しい訳でも無ければ、政治的手腕に長けてもいない。むしろ彼女の苦手とする分野だ。

 

「私にできること……」

 

 かつてナギサに言われた言葉が彼女の脳裏を過ぎる。

 ミカはミカの得意とする分野で、ナギサはナギサの得意とする分野でそれぞれ活躍すればいい。無理にお互いに干渉しようとせず、自分のできることを最優先でこなすのがベストな選択肢だ、と。

 

「……そうだ!」

 

 閃いた。

 彼女の頭上で電球が浮かび上がるのが見えた。

 

 やはり無理にナギサの得意分野に足を踏み入れようとするのは良くない。大切なのは、自分ができる事をすることだ。

 

「レンゲちゃんッ!」

「うひゃあ!? って、ドア……」

 

 今すぐにでもレンゲに伝えたいと、彼女は加減も忘れてドアを開けてしまい、衝撃でドアが壁に叩きつけられてしまった。壁に大きな亀裂が走り木片が飛び散るも、肝心のミカはそんな些細なことに気づいていないのか、その光景に目も向けずパタパタとレンゲのもとへ歩み寄った。

 

 目を丸くしているレンゲの手を掴み、満面の笑みを浮かべる。

 

明日、私とデートしよっか⭐︎

「…………ふぇ?」

 

 あまりにも突拍子の無い言葉に、レンゲは返す言葉が見つからなかった。

 

 だがその反応もまたレンゲの本心が見れたと、ミカはさらに笑みを深めた。

 

 

 

 荻野レンゲのトリニティ偵察任務は、思わぬ方向へ進路を変えていく。

 

 

 

 




ミカに手懐けられる回。

・レンゲ
実物トリニティに衝撃を受ける+突然クソ強いゴリラに襲われる+敗北したはずなのになぜか手当された上にめっちゃ優しくされる。
これは流石に情緒壊れる。堕ちたな(確信)。

・ミカ
裏切る前、要するにアリウスと手を組む前のミカはとても良い子だしみんなのお姫様。ゲヘナじゃなければ親切にしてくれるし困ってれば助けてくれる。

・ミネ
「お前も救護してやろうか?」
政治が不得意な武闘派という意味ではミカと似ている人。

主人公の名前どうする?

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