アリウス生徒の奮闘記   作:ハァン

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お久しぶりです。
リアルの関係で執筆できなかったのと今まで投稿したものを書き直していたらこんなに時間が経っていました。

話の展開は変わっていませんが内容は一部結構変わってるかも?

あと、既にご存知かもしれませんが失踪している間にブルアカで今作の主人公と同じ名前のドチャクソ可愛いキャラが実装されましたね。
それを受けて今作の主人公の名前に関してアンケートを取っているので、興味がある方はご投票をお願いします。



逃亡

 

 

 

「ここが大聖堂だよ。普段は結構沢山の人が来るんだけど、もう遅い時間だからあまり人はいないみたい。私のお気に入りの場所なんだ⭐︎」

 

 ミカの背中を追いかけること数分。

 あれほど騒がしかった日中とは打って変わりあまりにも静かな道中を過ごし、目の前に大きく聳え立つ古びた建物の前まで辿り着いた。ぱっと見、アリウスの本校に少し似ている気がした。

 

 トリニティ大聖堂。

 ミカの話を聞く限りでは、多くの生徒が祈りを捧げに来る、トリニティでも重要な場所。その祈りの対象は個人から友達、想い人と様々。

 

「わぁ……」

 

 威厳すら感じる重い扉を開けると、目の前に広がるあまりにも大きな教会。壁にはステンドグラスの絵が飾られ、中央にはピアノまで置かれている。朽ち果ててボロボロになったアリウスの教会とはまるで違う、目が眩むほどの輝きを放つ実に立派なものだった。

 

 心が躍る。

 

 アリウスでは教会なんて無用の長物に等しく、『教室』と同じくただの資材置き場と化していた。

 

 でも、本当はこんなにも輝きを放つ素敵な場所だったんだ。

 

「あはは、凄いでしょ? 私も初めてここに来た時は思わず見惚れちゃったなぁー。ここにいるとなんだか自分の心が落ち着く気がして、嫌なこととかどうでもよくなっちゃうの」

 

 並べられた椅子の一つに腰を下ろしながら、ミカは呟いた。

 美しく彩られた教会を背景に佇むミカが、なんだかとても綺麗に見えて、気がつけば目を奪われている自分がいた。

 

 いけない、これで見惚れてしまったのがバレたらまたミカに揶揄われてしまう。

 

 私も慌ててミカの隣に下ろし、次の言葉を待った。

 

「嫌なことって、今朝ミカが言ってたこと?」

「どうも私はトリニティの生徒っぽくないみたい。ナギちゃんみたいにお淑やかじゃないし、お仕事も上手くできないし、頭もあまり良くないし……だからみんな言うの」

 

──あなたはティーパーティーに相応しくない。

 

「ミカ……」

「可笑しいよね。私はだた幼馴染(ナギちゃん)と一緒にいたいだけなのに、なんだか私が悪者になっちゃったみたい。あんな奴らの言うことなんてどうでもいいはずなんだけど、私のせいでナギちゃんの迷惑になってるんじゃないかって思っちゃうの。なのに、ナギちゃんが大好きだから……一緒にいたいって思っちゃうの」

 

 まるで自嘲するように苦笑するミカ。

 その笑顔がとても寂しそうで、苦しそうで、自分の事が心底嫌いだと語っているようだった。

 

「ここで祈ると、こんな私でも少しは許される気がするの。悪い子のミカちゃんでもお祈りすれば、きっと神様は許してくれる」

「……だったら私をここに連れてきてもよかったの?」

 

 これはミカにとっては誰にも見せたくない自身の醜さのはずだ。

 

 ナギサに迷惑を掛けてる。それでも一緒にいたい。

 そんな自分の我儘に対する贖罪の場。

 

 きっとずっと秘密にしていた内面を、私にだけ吐露した。

 

「いいの。ううん……他でもないレンゲちゃんだから、伝えたかったの」

「あはは、私たちまだ出会って数日ぐらいしか経ってないと思うんだけど。いくら友達でも限度ってものがあるんじゃないの?」

「お互いのこと何も知らないから話しやすいっていうのもあるんじゃんね? 変な偏見とかも無くて、ちゃんと真正面から向かい合えるし」

 

 いくらはぐらかしてもミカは逃してくれない。

 きっとここに来た瞬間から──いや、今日お出かけした時から、ミカはこれを目的にしていた。

 

 お互いの『本音』を聞き出すために。

 

「はぁ……何が君をここまで駆り立てるのやら。もしかして憐れみのつもり? 私が家族のことを話しちゃったせい?」

 

 自分でも驚くぐらい棘のある言葉が口から溢れる。

 トリニティの生徒なのに(アリウス)を憐れむなんて、とんだ皮肉だ。サオリも聴いたらきっと笑うだろう。

 

「否定はしないよ。確かにレンゲちゃんの話を聞いた時、私は愚直に『かわいそう』って思っちゃった。だから少しでも楽しい思い出を作って欲しいって」

 

 困り顔で苦笑したミカは、背中の翼を揺らしながら照れ隠しのように呟いた。

 

「でもね、気がつけば私もレンゲちゃんに助けられてたの」

「私がミカを? どちらかというと迷惑ばかり掛けてたと思うんだけど……」

「全然そんなことないよ! レンゲちゃんと一緒に遊んでる時、久しぶりに心の底から楽しかった。周りの視線も気にしないで友達と一緒にいられるなんて、ナギちゃん以来だったから。本当に……心の底から楽しかった」

 

 どこか遠い目をしたミカが小さく呟いた。

 彼女の翼が再び揺れる。

 

「ミカはナギサのことが大好きなんだね。うん、二人はまるで『家族』みたい」

「家族……あはは、確かにそうかも。小さい頃からずっと一緒にいるたった一人の幼馴染だから」

「なら、何も悪くないじゃん」

「え?」

「家族と一緒に居たいって思う事のどこがいけないのさ」

 

 キョトンとした表情でミカが目を丸くした。

 

「それに、あの時のナギサ、私のこと凄く警戒してたでしょ? 自分で言うのもなんだけど、幼馴染が得体の知れないどこぞの女と一緒にいれば、誰だってあんな態度になるよ。だからきっと、彼女にとっても君は家族みたいな存在なんだろうね。なら、家族同士一緒にいて悪い道理なんて何一つありゃしないよ」

 

 残念ながら私にはトリニティの子の悩みはあまり理解できない。

 家族なら一緒にいるのが当然だ。そこを誰かに文句を言われる筋合いなんて無い。たとえアリウスだろうとトリニティだろうと、それだけは変わらないはずだ。

 

 正直に自分の考えを伝えると、ミカはまるで時が止まったみたいに動かなくなった。

 

 しかし無表情だった顔が今度は徐々に柔らかくなっていった。

 

「……あはははは! やっぱりレンゲちゃんは凄いね! これじゃあまるで私が悩んでたのが馬鹿みたいじゃん!」

 

 お腹を抱えて笑い声を上げるミカ。

 先程まで思い詰めていた表情から一変、まるで幼い子供のようにケラケラと笑い始めた。

 せっかく自分ができるアドバイスをしたっていうのに……でも、今のミカの方が私は好きだ。

 

「大丈夫。私はそんなおバカさんなミカでも友達だから!」

「レンゲちゃんにバカって言われるのは納得できないんですけどー」

「類は友を呼ぶってね」

「ナギちゃんと比べるとイマイチなだけで、私これでも学校の成績は結構良いんだよ?」

「私も成績は良い方だよ。ただ問題児なだけで」

「あはは! そこまで似ちゃってるなんて、私たち凄いね!」

 

 いえーい、と二人でハイタッチ。

 加減を忘れたミカに肩が外されそうになったのはご愛嬌。

 

「──で、こうなると私も腹を括らないといけないよね」

 

 隣に座るミカの綺麗な金色の瞳が見つめるのを感じながら、私は苦笑した。

 もう、()()()()の時間はおしまいだ。

 

 口を開こうとすれば手が震える。

 

 腹の底から吐き気が湧き上がってきて、冷や汗が止まらない。

 

 今私がやろうとしている事は、それほど危険な賭けだ。

 

「──大丈夫」

 

 隣に座る友達が、震えが止まらない私の手をそっと包み込んでくれる。

 

「ここは誰にも聞かれない、誰にも知られない、自分の気持ちを包み隠さず出すことができる場所。どれだけ自分勝手な我儘でも『救い』を求めることが出来る。私はレンゲちゃんの『それ』を受け止めたい」

 

 大丈夫だ。

 

 きっとこの子なら……友達(ミカ)なら私を──()()()を救ってくれる。

 

「──Vanitas vanitatum。Et omnia vanitas。私がこの世で一番嫌いな言葉だよ」

「その言葉は……」

「全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。私たち──アリウス分校にとっては、この言葉が全てだった」

 

 乾いた笑みを浮かべながら、どこか縋るように、私はその名を口にした。

 

「滅んだ、と思ってたんでしょ? でも私たちは確かに存在する。数百年の怨念と憎しみを蓄えて、ただひたすら雌伏の時を過ごしてきた。全ては君たち……トリニティに復讐するために」

 

 

⚫︎

 

 

 

 ミカとも別れ、隠れ家へと一人戻り、そのままベッドへと倒れ込んだ。マットレスの柔らかさが体を包み込み、一気に眠気が襲い掛かる。しかしこの状況で眠れるほど、今の私の神経は図太くなかった。

 

 ベッドから見上げた天井の景色は相変わらず慣れない。だが、「これも悪くないかも」と思い始めている自分がいるのも確かだ。

 

 あの時、大聖堂で私はミカに全てを語った。語ってしまった。

 

 そして、一つの決断をした。

 自分が信じる、家族のためにできる最善の選択を選んだつもりだ。

 

「ッ……」

 

 怖くないかと言えば怖いに決まっている。

 

 しかし、今はただ信じて進むしかない。

 

 ベッドから起き上がり、着せられていたトリニティの制服を脱ぎ捨てた。部屋の隅に乱雑に放り出された制服に一瞬目を奪われるも、すぐさま視線を逸らし、できる限り視界に入れないようさらに隅へと追いやった。

 

 あの制服を見続けると、決意が揺らぎそうだったから。

 

 代わりに身につけるのは、いつの間にやら綺麗に洗われていた自分の仕事着。最後にアリウスのコートにも袖を通し、着け方が分からないネクタイはカバンの中へ押し込んだ。

 

「…………」

 

 カバンを肩に掛け、愛銃を手に取ろうとした時。

 机に置かれたままになっていた()()が目に入る。

 

「ふぅ……」

 

 意を決して、私はそれを手に取り顔に被せた。

 

 狭まる視界と制限される呼吸。

 でも、今は顔を覆うこの()()()()()が有り難く思えた。

 

「今の私ってきっと、凄く情けない顔してるし」

 

 もう後戻りはできない。

 

 このまま外に出れば、自分は二度とこの場所には戻って来れない。

 

 外へと続くドアに手を掛けたまま、思わず立ち止まってしまう。

 過ごした時間は僅か数日だけなのに、ミカとの楽しい時間を過ごしたこの場所を捨てる事を体が拒絶していた。知らずのうちに随分と懐柔されていたみたいだ。

 

「……私が選んだ道だ。恐れることなんて何もない」

 

 私はアリウススクワッド副隊長、荻野レンゲだ。

 私には帰るべき場所がある。

 

 力強くドアノブを捻り、音もなく夜のトリニティへと駆ける。

 

 狭まった視界の端で、長い髪を一つ結びに纏めている黒色のシュシュが、別れを告げるように揺れていた。

 

 

 

 

 トリニティの中心部から離れた場所に位置するこの空き家の周辺には、当然のように生徒はおろか街灯すら見当たらない。微かな月明かりを頼りに、建物の影を利用して少しずつ自治区の境界線向けて進む。

 

 自治区の出入り口はおそらく正義実現委員会に監視されている。正攻法では外に出られない。

 

「来た道を戻るしかないか」

 

 私が使用したカタコンベのルートがまだ使用可能なら迷うことはない。しかしカタコンベは気まぐれだ。唐突に周期が早まり中が様変わりしていても不思議ではない。

 

 気持ち程度足を早め、今回ばかりはカタコンベの気まぐれが起きないよう心の中で祈った。

 

 物音一つと聞こえない静かな夜の自治区を、ただひたすら駆け抜ける。

 

「……やっぱおかしいよね、これ」

 

 思わずその場で立ち止まってしまう。

 

 あまりにも静かすぎる。

 

 あの空き家を出たのはまだ日付が変わる少し前だったはずだ。

 いくら真夜中だとはいえ、噂に聞くスケバンやヘルメット団などの半グレの生徒が出歩いていても不思議ではない。それなのに今は生徒どころか虫一匹の音すら聞こえない。

 

 アリウスのスラムで長年培った感覚が、嫌な予感を訴える。

 

「品行方正を謳うトリニティにはそんな奴らいないのか、あるいは──」

「既にお気づきのようですね」

 

 不幸なことに私の『嫌な予感』は当たることが多い。

 そしてそれは、今回も例外ではないらしい。

 

 立ち止まっていた私の前に、一人の少女が建物の影から姿を現した。

 長いプラチナブロンドの髪に、特徴的な制服。

 綺麗に伸ばされた背筋と貼り付けられたような笑みを携えて姿を現したその人物に、思わずマスクの裏で顔を顰めた。

 

「桐藤ナギサと申します。姿形はだいぶ様変わりしているようですが、荻野レンゲさんで宜しかったでしょうか?」

 

──ミカの幼馴染がなんでここに……!

 

 考える限り最悪の人物との遭遇に内心舌打ちする。

 

 誰かに見つかっても最悪手荒な手段を取れば切り抜けられると踏んでいたけど、ミカの大切な幼馴染相手ともなれば話が変わる。

 

 流石にミカの友達に手をあげるのはあまり気乗りしない。

 

「(ミカのお友達として見逃してくれたりはしないよねぇ……)」

 

 そんな淡い期待を抱くも、自分に向けられているナギサの視線は友好的なそれとは程遠い。ミカと一緒にいたあの時に向けられていたものと瓜二つ。

 

 まぁ、良い感情を持たれていないのは確かだ。

 

「こんな夜中に悪趣味なマスクまで被って出歩くのは危険ですよ? もし宜しければお話をお聞きしたいのですが……正義実現委員会の教室などいかがでしょうか?

「なるほど、そういうことね。悪いけど夜中にガスマスク被って散歩に出かけるのが趣味なもんで、大人しく楽しませてくれるかな?」

「随分と……変わった趣味をお持ちで」

「世の中は広いからね。なんなら水着姿で夜な夜な徘徊するような奴もいるかもしれないよ? そう考えればガスマスクぐらい自然だと思わない?」

「流石に水着姿で徘徊するような方はトリニティにはいらっしゃらないとは思いますが……」

 

 むしろそんな変態がいるなら会ってみたいよ。

 あの手この手で躱そうと話し続けるも、ナギサはそれをのらりくらりと受け流しながらも譲歩する様子はない。

 

 どうやら目の前の少女相手に口では勝てないらしい。

 

 なら、私にできることはもう残されていない。

 

「できれば穏便に済ませたかったけど、仕方ないね」

 

 心の中でミカに謝りながら、銃口を突きつけた。

 

「どうやら私の言葉で不快にさせてしまったようで……申し訳ございません」

「謝るならもうちょっと申し訳なさそうにして欲しいんだけど」

 

 まるで悪びれる様子もなく謝罪の言葉を口にするナギサに、額から冷や汗が流れるのを感じる。

 

 仮にも完全武装している自分と実質丸腰のまま一人で相対しているというのに、彼女のこの余裕はなんだ? ミカと同じで、彼女もまた並外れた戦闘力の持ち主なのだろうか。しかしそれにしては、彼女の佇まいはどうにも()()()()していない。

 

 ナギサは仮初の笑みを引っ込め、鋭い眼光でこちらを睨みつけながら口を開いた。

 

「では、単刀直入にお聞きします。あなたは何者ですか? トリニティの生徒ではないことは分かっていますので、その点だけご注意を」

「それは心外だね。ミカに聞いたでしょ? 同じ一年生の──」

「『荻野レンゲ』という生徒はトリニティに存在しません。あの後、トリニティ総合学園高等部一年所属の全生徒のデータを調べましたが、荻野レンゲという生徒の在籍記録は存在していませんでした」

「……調べた? 一人でその人数を?」

「ティーパーティー所属なら当然のことです」

「えぇ……?」

 

 誇らしげに胸を張っているナギサだが、一学年1000人は超えるであろうキヴォトス最大規模の学園の生徒を調べ尽くすなど尋常ではない。それに銃を突きつけられてもなお動揺を見せないその胆力。

 ミカとは別のベクトルで只者ではない。

 

「大人しく退いてもらうことは?」

「その答えはご自身が一番分かっているのでは? 私自身、事を荒立てるのは不本意です。仮にもミカさんが信頼して大切なアクセサリーを譲った方なら、ミカさんを裏切るような真似はやめましょう。それが一番……ベストな選択です」

 

 それは果たして彼女なりの最後の慈悲なのか、私を油断させるための口実なのか。

 

 いずれにせよ、私に受ける選択肢は無い。

 

「そっか──残念だよ」

 

 トリガーを引いたと同時に、空から降ってきた()()()が私たちの間に割って入った。

 

 地面が割れ、衝撃音と共に舞う砂煙。

 

 幸いにもマスクにより砂煙からは守られたが、空から降ってきたシルエットに思わず冷や汗を流す。

 

 空色の髪に、同色の大きな翼。

 

 どうしてこんなにも会いたくない人と遭遇するんだ……!

 

「見事なタイミングですね──ミネさん」

 

 身の丈ほどの大きなシールドでナギサを守りながら姿を現したのは、救護騎士団所属でありながらトリニティ有数の実力者。私の傷の治療をしてくれた張本人、蒼森ミネだった。

 

 マスク越しに彼女がこちらをじっと見つめる。

 顔は隠しているしバレないとは思いたいけど……。

 

「珍しくナギサさんから『救護』のご連絡を頂いたと思いましたが……これはどういう状況ですか? レンゲさん」

「あはは、こんな簡単にバレるんだ。昨日ぶりだね、ミネ」

 

 マスクを被っていても当然のように自分の正体に気づいたミネの洞察力に苦笑しながらも、再び銃を構えた。

 今度はナギサだけでなく、ミネも視界に捉えながら。

 

「見ての通りです。トリニティの平和を脅かす存在を排除するのに理由は必要ですか?」

「貴女が本当にトリニティのためを想って行動を起こしたのなら、私ではなく正義実現委員会を呼ぶべきでは?」

 

 目を顰めながらミネが背後で佇むナギサを見つめる。

 

 私としては正義実現委員会を呼ばれるのが一番困るんだけど……あの様子からするとその心配はいらないらしい。

 

「残念ながら()()私の権力では正実を直接動かすなんてとても……」

 

 肩を竦めながら首を振る彼女の姿が非常に様になっててイライラする。

 でもあのトリニティ特有の捻くれた言い回しが本当なら、今のナギサは独断で動いているらしい。ミカと同学年なら、彼女もまだ一年生のはずだ。それなら動かせる戦力に限りがあるのも頷ける。

 

 だが、私はすぐにこの油断があまりにも間違っていると、嫌というほど理解させられた。

 

「ただ、一つ訂正があるとすれば──」

 

 突如背後から迫り来る殺気。

 

 それに私が咄嗟に体を大きく逸らしたのと同時に、無数の弾丸の塊がガスマスクを弾き飛ばした。

 

 突如クリアになる視界に、思わず目を見開く。

 

 銃弾の風圧が頬を擽り、冷や汗が飛び散る。

 あと一瞬でも避けるのが遅れていたら、私に()()が直撃していたことになる。

 

「うへぇ、こりゃひでぇ」

 

 ボロボロに砕けたガスマスクを眺めながら、渇いた笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

 一体どれだけの神秘を込めたらあんな威力になるんだ……。

 

 あまりの威力に慄く私を嘲笑うように、ナギサはクスクスと声を漏らした。

 

正義実現委員会でなくても、個人に助けをお願いする事は可能ですよ?

 

 コツコツと、建物の影から新たに何者かが姿を現す。

 

 その人物が纏う黒色のセーラー服は、トリニティでは唯一無二──正義実現委員会にのみ許された制服。ミネと同じタイプのショットガンを両手に構え、凶悪な形相を浮かべながら一歩ずつ近づいてくる。

 

「キヒ……キヒヒヒ……」

 

 思わずナギサ達に向けていた銃口を、目の前の怪物一人に向けてしまう。

 

 こいつは間違いなく()()()()の人間だ。

 

「既にご存知かもしれませんがご紹介します。私やミネさんと同じトリニティ総合学園一年生、正義実現委員会所属の──」

 

 私をナギサたちと挟むように、その怪物は立ち止まった。

 

「──剣先(けんざき)ツルギさんです」

 

 ガチャリ、と彼女……ツルギのショットガンが唸り声を上げる。

 

「……おい、桐藤ナギサ」

 

 今までずっと凶暴な笑みを浮かべたままだったツルギが突然スンと真顔になり、私越しにナギサへ声をかけた。

 

 いや、急に落ち着くなよ。そもそも君普通に喋れたんだね。

 

「終わったら全て話せ」

 

 そのたった一言で、ナギサは浮かべていた笑みを引っ込め、無表情で頷いた。

 

「えぇ、勿論。ミネさんにもツルギさんにも、この件に関して全てをお話しすると約束します……必ず」

「……どうやら、()()まだ私たちにお話するつもりは無いようですね」

 

 ミネもまた、ナギサの言葉に小さく頷くと、銃口を私に向ける。

 向けられた三つの銃口からは今にも神秘が溢れ出そうだ。

 

「レンゲさん。貴女が何を思ってこの場にいるのか、何を企んでいるのか……私には判断する術がありません。しかし、貴女が道を違えてしまったのなら、私がするべき事は一つです」

 

 二つ色のエメラルドの眼差しが私の体を射抜く。

 

「──貴女を『救護』します」

 

「ふーん、救護ねぇ」

 

 私も黙って救護されるつもりなんてない。

 そもそも救護とは何か、と問わざるを得ないけど、まぁ救護にも色んな意味があるんだろう。

 

 そして、今の使い方的には……。

 

「要するに私をぶっ倒すって事でしょ? それは心外だなぁ。ねぇ、ナギサ──」

 

 軽口を叩きながらも、熱くなりかけた自分の思考がどんどん冷やされていくのが分かる。

 

 ミネの銃口、体の向き、視線、表情。

 背後のツルギの気配、息遣い、声。

 

 あらゆる情報が自分の頭の中で精査され、神経が研ぎ澄まされていく。

 

 意識全体が、目の前の()()を排除しようと動き出す。

 

 愛銃を握り締め、意識が完全に入り込むと同時に、思わず口を歪ませてしまう。

 

 

「もっと人を連れてくるべきだったね!」

 

「キエエエエエエエッ!」

 

 

 ツルギの雄叫びと共に、三つの影が駆け出した。

 

 

 

 





ちなみに裏設定としてここでルートが分岐していて、トリニティに残る選択をしていたらバッドエンド一直線です。

いつか番外編でバッドエンドルートも書いてみたい。

前書きでも書いた通り主人公の名前を「レンゲ」のままにするか、原作キャラと被らないように改名するかでアンケートを実施しています。

改名後の名前は一応既に決めてあります(黒服との会話もあるので現行からほぼ変わらない予定)

なお、今後の展開にも影響はありません

主人公の名前どうする?

  • 変更なし
  • 改名するべき
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