アリウス生徒の奮闘記   作:ハァン

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今回でトリニティ編を終わらせるつもりでしたが文字数が1万5000字を超えそうだったので分けました。

サオリの誕生日に番外編を投稿する予定も崩れ去る…ここまで遅刻してると本編を投稿した方が良いと思いますが。


再開(1)

 

 

 それはあまりにも突然の出来事だった。

 

 ミカのシュシュを落としてしまった事に気づいた時、私は目の前にいるツルギすら無視して半ば無意識に足元のそれに向かって手を伸ばした。ミカから……友達から初めて貰った贈り物が自分の手から離れているという事実が、きっと何より受け入れられなかったのかもしれない。そして、指先が触れたと感じた瞬間──。

 

「うぇ……?」

 

 気が付けば私は地面に横たわっていた。

 

 一体なにが起きたの?

 

 どうして私は倒れてるの?

 

 どうしてツルギの顔が赤く染まってるの?

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 意識が混濁としたまま、私はゆっくりと身を起こして辺りを見回す。

 その時、ポタポタと何か汗のようなものが顔の左側から流れるのを感じる。あぁ、ツルギとミネの二人を相手にするのもなかなかきつかったからね、随分と疲れた気がする。一息吐こうと、私はその汗を左腕で拭った。

 

「……え?」

 

 汗を拭った左腕が真っ赤に染まっていた。

 少しヌメっとした、鉄の匂い。

 

 違う、これは汗じゃない。

 

 そう自覚した瞬間。

 

「──ッ!?」

 

 左目から襲いかかる激痛に、私は声にもならない悲鳴をあげた。

 

「ぁあ゛ッ!」

 

 痛い

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛────!!!」

 

 何が起きたんだ。

 

 わからない。視界がぐるぐるする。

 体がいうことをきかない。

 

 あぁ、まだミカのしゅしゅをひろってない。どこにあるの?

 

 さけびすぎてのどがいたい。

 

 もうなにもわからない。

 

 

 

 たすけて、さおり。

 

 

 

⚫︎

 

 

「……終わりましたね」

 

 獣のような悲鳴を上げながら左目を押さえるレンゲを見下ろし、ナギサは深いため息を吐きながら呟いた。

 

 ワイシャツを赤黒く染め、左目からとめどめなく血を流すレンゲは、もう起き上がる気配すらない。

 ツルギとミネの二人がかりでも捉えられずひたすら戦場を翻弄し続けた荻野レンゲが、悲鳴を上げながら痛みに悶える事しかできない──その光景が、傷の深さを何よりも物語っていた。

 

 思わず息を呑むナギサだが、それを表情に出すことは決して無い。

 

「ご苦労様です、()()()()()。やはり良い腕ですね」

 

 存在を悟られないようずっと視界から外していた建物の影へ、ナギサは精一杯の労いの言葉を送った。()()()の協力者として呼んでいたその少女は、建物の影からゆっくりとナギサの前へと姿を現した。

 

「な、ナギサさん……私は……こ、こんなつもりじゃ……」

 

 その少女はツルギと同じ正義実現委員会の黒色のセーラー服を身に纏っていた。

 小柄な体を震わせ、長い黒髪から覗く瞳は、血溜まりに沈むレンゲを呆然と見つめている。

 

 ガタガタと、彼女の握るライフルが音を鳴らしていた。

 

「あぁ……私はなんてことを──」

「それ以上は言わないで下さい、ハスミさん。貴女たち三人は私が呼び寄せてこの場に立っているのですから。気に病む事など何一つありません」

「ですが! 私は額に当てるつもりで狙ったのに、まさか目に当たってしまうなんて……! あぁ、こんなに血が出て……」

 

 顔を真っ青に染めながら、震える自分の体を抱いているハスミ。

 

──影から機会伺い、チャンスがあれば対象を打ち抜け。

 

 それがナギサがハスミに下した命令だ。

 ハスミはただそれを完璧に実行しただけだ。ツルギとミネで隙を作り、致命の一撃をハスミが叩き込む。誇りこそすれど、ハスミを責める者は誰一人いない。

 

「落ち着け、ハスミ。お前は自分ができる事をやり遂げただけだ。()()を気にするだけ時間の無駄だ」

「ツルギ……」

 

 自分自身も満身創痍になりながらも、ツルギは今にも泣き出しそうな同級生の頭を優しく撫でた。返り血で赤く染まった顔には、不器用ながらも気遣いを見せようとしているツルギなりの精一杯が顔を覗かせていた。

 

「ハスミさん、貴女には一番辛い役割を押し付けてしまいました。全ての責任は私にあります。だからどうか、この事はお気になさらず──」

「それはお前もだ、桐藤ナギサ。()()()()()()()

「ッ……! 戦闘狂に見えて冷静に周囲を観察する力を持ち合わせている……やはり貴女は私の見込み通りの方です」

 

 凄惨な光景を前にやはり動揺を隠しきれていなかった自身に嫌悪感を抱きながら、ナギサは唇を噛み締めた。

 

 全身に傷を負い満身創痍になるまで戦い続けたツルギ、ナギサを守るために大きな武器である盾を手放した結果負傷してしまったミネ、致命の一撃を打ち込む事に成功するものの心に大きな傷を残してしまったハスミ。

 

 限界まで戦力を集めたといえ、今回の作戦はあまりにも被害が大きすぎる。

 

──全て自分の責任だ。

 

「ミネさんはレンゲさんの治療をお願いします。彼女を捕えるのはその後でも問題ないでしょう」

「言われずとも、元よりそのつもりです。そもそも、私はレンゲさんを救護するためにこの場にいるのですから」

 

 地面に突き刺さったままの盾を引き抜く。ナギサを守るという役目をしっかりと果たしたそれには、無数の弾痕が刻まれていた。それをどこか誇らしげに眺めながら、ミネは未だ倒れたままのレンゲへ駆け寄った。

 

 血溜まりに沈んだままの彼女は、痛みで気を失ったのかもうピクリとも動いていない。

 

「出血が多い……安心して下さい、レンゲさん。貴女は必ず救護──」

「必要無いよ、クソが……ッ!」

 

 突然、レンゲが勢いよく振り返った。

 そして、()()()()()()()が勢いよくミネへと叩きつけられた。

 

「こ、これは……カバン!?」

 

 遠心力を利用して攻撃してきたのは、レンゲがずっと背負っていたカバンだった。

 

 多数の物質が詰め込まれたカバンのパワーは凄まじく、咄嗟にガードしたミネの腕が悲鳴をあげる。

 

「くぅ……!」

 

 しかし、所詮は武器でもない道具。

 勢いに一瞬圧倒されるも、即座にミネは体勢を立て直し、盾を構えた。

 

「はあ……はあ……!」

 

 盾越しに映るのは、血まみれになりながら荒い吐息を隠そうともしないレンゲの姿。額は血に混じって汗が滲み、おぼつかない足取りは今にも倒れそうだ。

 

 戦える状態ではないのは明らか。

 

 しかしそれでも、彼女は残った右目でミネたちを睨み続けていた。

 

「やってくれたねェ……痛すぎて何度か意識が飛びかけたよ……ッ!」

「レンゲさん、落ち着いて下さい! 今の貴女の傷では──」

「ぐっ……くぅ……おかしなこと言うね。今の私は自分でもビックリするぐらい冷静だよ?」

 

 左目に添えている手を真っ赤に染め上げながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「それに、片目潰した程度で勝った気になられても困るんだけど。私を止めたきゃ両手足を引きちぎって心臓を潰すぐらいはしないとねェ!」

 

 血を撒き散らしながら声を荒げるレンゲに、ミネは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。

 

 これ以上出血を続ければ、レンゲの命に関わる。

 だが、肝心の彼女がこの様子では治療どころでは無い。

 

 心の奥底に残っていた躊躇いを飲み込み、ミネは銃口をレンゲへ向けた。

 

「良いでしょう。少々手荒になりますが、必ず貴女をお救いします!」

「はは、冗談はやめて。私の『救い』は君じゃない!」

 

 レンゲは渾身の力を振り絞り、抱えていたカバンをミネに向かって投げつけた。一瞬目を見開いたミネだが、迫り来るカバンを難なく盾で受け止める。

 この程度の攻撃など、時間稼ぎにもならない。これまでの戦いでは無駄な動きなんてほとんど見せなかったレンゲが、なぜ──?

 

 だが、大きなカバンを盾で受け止めた瞬間、開けられていたポケットから()()()がこぼれ落ちた。小さな突起が付いた球体のようなもので、ポケットからコロコロといくつも転がり落ちている。

 

 それが()()()()()()()だと認識した瞬間、ミネは咄嗟に背後の仲間に向かって叫んだ。

 

「皆さん、伏せてくださ──」

「遅いんだよ!」

 

 片手で構えたハンドガンから銃弾が放たれる。

 

 寸分の狂いもなくカバンへと命中した瞬間、腹の底にまで響くような衝撃がミネを襲った。盾を構えた状態のまま体は衝撃で弾き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられる。

 

 盾で身を守ってなお、全身が悲鳴を上げるほどの威力。

 

 レンゲの()()()は、文字通り盤面をひっくり返した。

 

「くっ、ミネさんッ!」

「けほっごほっ……私の事は気にしないで下さい……! それよりもレンゲさんをッ……!」

 

 舞い上がった砂埃が晴れ、ナギサは慌ててミネへ駆け寄った。

 地面に倒れ込んだ彼女は苦しげに表情を歪ませているものの、その視線はレンゲが倒れていたはずの場所へと向けられている。

 

 大きな血溜まりと、奥へ点々と続く血の跡。

 

 レンゲの姿はどこにもない。

 

「あの出血量は危険です……! これ以上放置すれば最悪、彼女の命が……!」

 

 だが、何度起きあがろうと力を込めても、言う事を聞かない自分の体にミネは苛立ちを隠せない。

 

 救護を待っている人がいる。

 

 なのに、肝心の自分が立ち止まってどうするのだ。

 

「落ち着け。お前もここでリタイアだ」

 

 前に進もうともがくミネお前におろおろと慌てているナギサの背後から、ツルギもまた姿を表した。先程の爆発で多少は砂埃を被っているものの、しっかりと自分の両足で立っている。

 

「ツルギさん……いいえ、私はまだ救護を──」

「お前が行くより、今はこいつを診ておいて欲しい」

 

 そんなツルギは、腕の中に抱えていた小柄な少女をゆっくりとミネの隣に寝かせた。もう一人重傷者が出てしまったのかと、ナギサは思わず目を見開いた。

 

「は、ハスミさん!? だ、大丈夫なのですか?」

「爆発の衝撃で気を失ってるだけだ」

 

 規則正しく寝息を立てているハスミに、ナギサはそっと胸を撫で下ろす。反対に、ミネはハスミへ視線を移すと、深くため息を吐いた。

 

「……くっ、私の力不足ですね……分かりました、ハスミさんは私が責任を持って救護します」

 

 既に立ち上がることすらままならない自分と気を失っている同級生を前にして、ミネは悔しげに地面を殴った。今の自分では、レンゲの救護はできない。

 

 これで残るは重傷ではあるもののまだ動けるツルギと、ミネに護られたおかげで大きな怪我を負っていないナギサのみ。

 

 自ら頭を下げて協力を頼んだ三人が、自分の判断ミスでこれほどの被害を被ってしまった。

 

 全て自分の責任だ。

 

「……終わらせましょう、ツルギさん」

 

 これ以上戦いを続けられない。

 

 ホルスターから自身の愛銃──ロイヤルブレンドを手に持つ。

 

 彼女は決して戦闘向きとは言えない。

 

 幼い頃、ミカと遊んだ時はよく力加減を間違えたミカに泣かされた。銃だって数えられる程度しか撃った事がないし、適材適所という考えのもと、彼女は荒事に自ら踏み込むことを避けてきた。

 

 しかし、今この場で動けるのは自分とツルギだけだ。

 

 ならば、この場で彼女はすべき事など、初めから分かりきっている。

 

「既に傷を負っているツルギさんにお願いするのは大変心苦しいですが……どうか最後までお付き合い頂けますか?」

 

 ナギサの強い視線に、ツルギもまた改めて自身の二丁の愛銃を強く握った。

 

「まぁ……キヒヒ、あいつには随分と手を焼かされたからなァ……今度こそ破壊してやるゥ……」

「ツルギさん、破壊するのではありません。救護するのです!」

「えっあっごめんなさい」

 

 足元から飛ぶミネのツッコミに、思わず素面に戻るツルギ。

 

 最後の最後に締まらないと苦笑しながらも、ナギサは点々と続く血の跡を追い、走り始めた。

 

「ありがとうございます、ツルギさん。では──参りましょう」

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

 息が苦しい。

 

「あはは……流石にこの状態で自爆するのはやりすぎちゃったかな……」

 

 爆風で焼かれた両腕と飛び散った破片でズタズタにされた自分の両足を見つめながら、私はただただ笑うしかなかった。文字通り火事場の馬鹿力で爆発の後すぐに逃げ出せたけど、しばらく走っていたら突然ぷつりと電源が切れたみたいに動かなくなってしまった。

 

 近くの空き家の壁に寄りかかりながら、首から下げていたカメラを胸に強く抱く。

 

()()()()()のために咄嗟に自分の体で庇うなんて、やっぱり私ってバカだなぁ……」

 

 カバンを投げつける寸前で抜き取っておいた、大切な宝物。

 まともな考えを持つ人ならこんなものお構いなしに爆破してればいいのに。

 

「無理だよ……サオリたちとの思い出なんて捨てられないよ……」

 

 そして、震える手をなんとか動かして、スカートのポケットに入れていたものも取り出す。

 

「えへへ……『宝物』はどうにか全部取り返せた……」

 

 血に塗れたシュシュを目の前に掲げ、思わず笑みを浮かべる。

 死に物狂いで逃げた時にこれを咄嗟に拾えたのは、我ながら奇跡だと思う。そのせいで余計な血を流す事になったとしても。

 

 あんなに可愛かったのに汚しちゃって、ミカに怒られるかな。

 

 せっかく結び方を教えてくれた髪も、爆風で焦げちゃったし。

 

 髪のこと、ミカに褒められて嬉しかったのになぁ。

 

「うっ……ぐぅ……!」

 

 肩に掛けていた愛銃も壁に立てかけ、ズルズルと体から力が抜けてくる。気がつけば、ぺたんと冷たい地面に座り込んでいた。

 

 なんだか頭がボーッとしてきた。

 このまま眠ってしまいたくなるけど、自分の中の本能が「今寝たら取り返しのつかない事になる」と必死に警鐘を鳴らしている。

 

 でも、全身に力が入らない。

 

 あぁ……意識が……もう──。

 

「おはよう、レンちゃん。良い夜だね」

 

「……あぇ?」

 

 倒れそうになった私の体を誰かが受け止めると、聞き慣れた心地良い声が脳に響いた。

 

 視線を上に向けると、綺麗な二つの赤い瞳が私を見下ろしていた。

 

「あはは……いよいよ私も死ぬのかなぁ……? ついに姫ちゃんの幻覚まで見え始めちゃった……あぁ、最近の幻覚は暖かくて柔らかいなぁ……」

 

 薄い紫色の髪に、柔らかい笑み。

 

 大切な妹の一人──秤アツコが目の前に立っていた。

 

 まぁ、アツコがこんなところにいるわけがないから、これは私が見てる都合の良い幻覚なんだろうけど。

 

 思わずぎゅっと抱きついてみると、幻覚の癖に私の知るアツコと抱き心地がそっくりだった。

 なんだかとても落ち着く。幻覚の癖に。

 

「えっと……うん、私は幻覚。レンちゃんの頭の中だけにいる、イマジナリーアツコだよ。ぶい」

「急に変なテンションになるのも本物そっくりだぁ……」

 

 そんなイマジナリーアツコは私を抱き返してくれると、ゆっくりと私の頭を自分の膝の上に持って行った。

 膝枕の心地良さまで一緒だなんて……今際の際にしては贅沢すぎる気がする。

 

「──サッちゃん、レンちゃんを見つけた。場所はA地区のポイントC。かなり傷が深くて手当てが必要だから、私はしばらく動けそうにない」

『……そうか。了解した、ターゲットの治療が終わるまで私たちが敵を食い止める。頼んだぞ、姫』

「任せて、サッちゃん」

 

 アツコが耳に手を当てて何かを呟いているけど、私は意識を繋ぎ止めるのに精一杯で話の内容は頭に入ってこない。

 

「さて、ここでサプライズだけど、実は私はイマジナリーアツコじゃないの」

「え?」

 

 私の頭の中の姫ちゃんじゃない?

 なら、この子は一体……?

 

「実は本物のアツコでした。ぱちぱちぱち」

「あ、本物かぁ。こりゃ一本取られたよぉ……あはは」

「えへへ」

「あはは……え、アツコ!?」

 

 どうしてアツコがトリニティにいるの!? 偵察任務を受けたのは私だけのはずなのに!?

 

 眠気も吹っ飛び思わず身を起こそうとする私の頬を、アツコはむにゅっと両手で挟んだ。今更ながらいつもの仮面を被っていないのにも気づく。

 

「起きちゃダメ。レンちゃんは自分が思ってるより危険な状態なんだよ?」

 

 うーん、自分の事は自分が一番よく分かってるつもりなんだけどなぁ。でもこれを言うとアツコにジトっとした目で睨まれてしまうから口をつぐむ。

 

 コートの内ポケットから包帯を取り出すと、アツコはゆっくりとそれを私の顔の左半分を覆うように優しく巻き始めた。最後に頭の後ろできゅっと力強く結ぶと、ミイラ女の完成だ。

 左目をずっと押さえていた私の左手は真っ赤に染まっているし今もじわじわと包帯に血が染み込むのを感じるけれど、それでも大分楽になった気がする。

 

「ありがと、アツコ。少し楽になった気がする」

「あ、待って。レンちゃんの事だし、まだ他に隠してる大怪我もあるかもしれない」

「いや、流石に今回はこの左目ぐらいで他は見ての通り──ちょいちょいちょい、ナチュラルに人のスカートめくろうとしないの! いくら家族でも恥ずかしいってば!」

「むぅ、じゃあ残りのチェックはサッちゃんと合流してからするね」

 

 頬を膨らませながらも渋々引き下がるアツコ。まるでいつかのサオリみたいだ。

 

「で、どうしてトリニティにいるわけ? その様子からするとサオリたちも来てるんでしょ?」

 

 他にも傷を負った箇所に包帯を巻いてもらいながら、私はアツコに聞いた。

 

「サッちゃんにミサキ、ヒヨリとアズサも来てるよ」

「あはは、スクワッド勢揃いじゃん。私の尻拭いで迷惑を掛けちゃったみたいだね」

 

 自虐も込めてそう告げると、アツコは苦笑しながら首を振った。

 

「ううん、本当はその逆。私たちはマダムから()()()()()()()()()()()()を任されたの」

「は、え? 救出って……」

 

 あのマダムが私を助けるためにスクワッドを出動させた?

 

 ありえない。

 彼女にとって私はただの捨て駒でしかないはずだ。ここで都合よく排除してアツコを好き勝手しようとすると思ってたのに……まさか私の回収にわざわざスクワッドの初陣を使うなんてね。

 

「どう言う風の吹き回しだろうねぇ……」

「レンちゃんは私たちの大切な家族だから。ベアトリーチェもそれでレンちゃんを助けようと決めたのかも?」

「あの化け物にそんな人の心みたいなのが備わってるとは思えないけど」

 

 でも……まぁ……今回ぐらいは感謝してもいいかな……。

 

 どこかぎこちなくそう口にする私にアツコはクスクスと笑うと、あらかた手当てが終わったのか、小さくなった包帯をコートのポケットに戻した。

 

 血まみれになっちゃった私のとは違い、真新しいアリウスのコート。

 

 それをアツコが着ている光景に、なぜか胸の奥がほんの少し痛む。

 

 それを悟られないように大袈裟に笑顔を浮かべ、ゆっくりと全身に力を込める。

 

「サンキュー。これで私も戦える──」

「は?」

 

 壁に立てかけていた銃を手に取って立ちあがろうとすると、今まで聞いた事がないような威圧感たっぷりの声がアツコから発せられた。

 

 いや、そんなまさか……。

 

 全身が『可愛い』で構成されてるぐらい可愛くてお淑やかなお姫様である末っ子の姫ちゃんが私に向かってあんな声を出すなんて──。

 

「レンちゃん、今何しようとしてるの?」

「ひえっ……」

 

 アツコの両手がゆっくりと私の肩に添えられる。

 体重なんて全然乗せられてないのに、私の体はなぜか鉛のように重くなって動かなくなる。

 

 お、落ち着け荻野レンゲ。

 今までブチギレモードのサオリとか殺る気スイッチオンのミカを前にしてきたんだ。この程度で狼狽える私ではない。

 

 でも、アツコのこの表情、ちょっとぞくっとしちゃった……サオリみたいにお仕置きされちゃうのかなぁ。どんなことしてくれるのかなぁ。

 

 って、私は何を期待してるんだ!

 これじゃあまるでお仕置きして貰いたいみたいじゃないか。

 

 頭に蔓延る邪念を振り払い、私は毅然とアツコを見つめ返す。

 

「さ、サオリたちが戦ってるんでしょ? なら私たちも援護に向かわないと──」

「さっきも言ったけど、レンちゃんは自分が今どれぐらいボロボロなのかを理解してないの」

「……私ってそんなにやばい事になってるの?」

「うん、凄くやばい事になってる」

 

 片目が潰された程度で大袈裟な気もする。元々見えなくなってたんだから、今更あっても無くても変わらないのに。

 

「それに……レンちゃんは今のサッちゃんには会わない方がいいかも」

「え? あはは、もしかして私がいないのが寂しくておかしくなっちゃったとか?」

「……ある意味間違ってない」

 

 だが、そんな呑気な事を考えていた私は、アツコが口にした言葉に耳を疑った。

 

 

「サッちゃん──サオリは変わった」

 

 

 

 





次回、「だが奴は弾けた」

あと5話ぐらいで原作に入れればと思っています。

・レンゲ
安静にしてれば左目の視力は回復していたかもしれない。
サオリのお仕置きを受け続けて何かに目覚めかけてる。

・ナギサ
ミカへの想いが重い。
一年生でここまで対応できているのはようやっとる。

・ツルギ
ハスミ以外初対面のため内心ではキョドリまくってる。
戦闘モードが切れたら多分喋れなくなる。

・ミネ
救護のためなら半殺しもやむなしの精神。
なお全て善意でやってる。

・ハスミ
一年生の頃は正実モブと見た目変わらなかったら萌えるという理由だけでちんまくさせられた。2年で色々とデカくなる。

主人公の名前どうする?

  • 変更なし
  • 改名するべき
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