酷い目に遭う事が多いという意味では、今作の主人公とキャラが似てる。
両手の震えが止まらない。
レンゲとは違いあのアリウス生とはほとんど直接戦っていないはずなのに、呼吸が苦しくて息をするのにも苦労する。今まで感じた事のない恐怖に、私の体は明らかに耐えられていない。
レンゲに堂々と信じろと言ったのに、いざ自分の状況を自覚すると、情けない話だが緊張でどうにかなりそうだった。
私が失敗すれば、レンゲは死んでしまうかもしれない。
その事実に、私は体の震えを抑える事ができなくなった。
「大丈夫。私はサオリを信じてるから」
そんな私を見かねてか、レンゲの両手が私の頬に添えられた。ほんのり柔らかな暖かさが、私を包み込んでくれる。
震えが止まった。
「じゃあ、行ってくるね」
「……うん」
頭から血を流して、きっとレンゲも苦しいはずなのに、彼女は柔らかい笑みを浮かべるとそのまま駆け出した。
狙いは勿論、こちらにハンドガンを構えていたアリウス生徒。
「ッ!?」
突如車の影から飛び出したレンゲの姿にあのアリウス生も驚いたようで、慌てて後ろへ下がろうとしている。
でも、それ以上にレンゲが速かった。
猛スピードで肉薄するレンゲにアリウスの生徒も避けきれないと理解したのか、力強く踏みとどまるとハンドガンのトリガーを引いた。
「レンゲッ!」
このままではモロに喰らってしまう。
思わず目を背けてしまいそうになるも、次の瞬間、私の目に信じられない光景が飛び込んできた。
「なッ──」
三発放たれた銃弾。それら全て
まるで銃弾が見えているように最低限の動きで躱し、止まることなくアリウス生に肉薄している。あれほどの至近距離で撃ったはずの弾丸が外れて、目の前のアリウス生も目を見開いている。
出鱈目なまでの反射神経。
でもその出鱈目さが、相手の隙を作るには十分すぎた。
「おりゃぁ!」
駆け出しながら、レンゲが
「ッ!?」
それは最初にレンゲが蹴り飛ばした扉だった。
あのアリウス生よりも大きな木材の塊が猛スピードで迫る。当たればきっと一溜りも無いそれを転がるように避けたものの、今の彼女は無防備そのもの。
「ぐふッ……」
駆け抜ける勢いそのままで飛び上がると、レンゲの右足がガスマスクに突き刺さる。
「凄い……まだここまで動けるなんて……」
傷と疲労の影響で倒れていてもおかしくないはずなのに、凄まじいとしか言いようがない身のこなし。つくづく同じ子供とは思えない。
レンゲの渾身の一撃が直撃したガスマスクは少し前に私に銃撃されていた事もあり、まるでガラスのように砕け、アリウス生の顔から弾き飛ばされた。
ついに見えるようになったアリウス生の顔は、思っていた以上に幼かった。それこそ、私たちとそこまで大きく変わらないぐらい。
レンゲとアリウス生の二人が一緒に倒れ込む。
「えへへ……充電切れー……」
その言葉を聞いた瞬間、私は背筋が震え上がった。
先程の銃弾を避けるという離れ業に、渾身の蹴り。既に疲労が限界を超えているレンゲは、その場で座り込んでしまった。
フラフラと立ち上がるアリウス生の目の前で。
「…………」
口の端から血を流しながら無言で銃を構える。
私も慌てて車の影から出ようとするも、レンゲに無言で制される。敵の注意が完全に自分に向くまで待て、と。
もういいはず。
ここで私があの人を撃てば勝てる。
なのにレンゲは頑なに合図を出そうとしない。
これがレンゲの考えた作戦。
彼女がアリウス生の注意を限界まで引き付けて、相手が完全に油断してから私が銃で倒す。
最初は二人で連携しながら戦おうと私は言ったけれど、それだと私が狙いにくいからという理由で却下された。事実レンゲがアリウス生に反撃されていた時に全弾外していた私は、反論の余地も無かった。
「私が頑張れば今のサオリは絶対外さない」の言葉でレンゲは囮役を引き受けた。
そんなレンゲの覚悟を無駄にしないためにも、私は必死に自分を押さえつけながら好機を探していた。
でも、そんな私の決意も、目の前のアリウス生の顔を見たら一瞬で折れそうになった。
「ひっ……!」
まったくの無表情。
目が血走り、理性のカケラも見受けられない。あまりに濃密な殺意に思わず悲鳴を漏らしてしまう。
なのに、レンゲからはまだ合図が出ない。
ゆっくりと、アリウス生はレンゲに向かって歩き始めた。
今のレンゲにはもう、逃げる体力すら無い。
「うぐッ! ゴホッゴホッ……」
一発目の銃弾がレンゲの胸に当たる。
胸を押さえて激しく咳き込むレンゲを見て、アリウス生の口角が少し上がる。
まだ合図は出ない。
二発目の銃弾は少し外れ、レンゲの左足に当たる。
ついにレンゲが地面に横たわる。それでも痛みを堪えながら、視線だけで私に来るなと告げる。声を出そうとする自分の口を必死で抑えながら、私は頷くしかない。
三発目……は飛んでこなかった。
カチカチという音がアリウス生が弾切れを起こしたという事実を告げ、小さな舌打ちと共に彼女は銃を投げ捨てた。
そんな彼女を挑発するように、レンゲは苦しみの中で無理やり笑みを浮かべた。
「へへ……そっちも銃無くなっちゃったね……」
「お前こそ、銃はどうした?」
「さぁ……? 野良猫にでも取られたのかもね……どっかの誰かに大事なもの盗られちゃったお馬鹿さんみたいに……」
「ッ! お前が盗んだのはマダムに渡すはずのものだ! マダムは内戦を終わらせてくれると言ったんだ、全ては虚しいこの世界で私たちに生きる意味を与えてくれるんだ! お前はそれを台無しにするのかッ!?」
無表情だったアリウス生の顔が徐々に激情に駆られる。
「やめて……もうこれ以上怒らせないで……!」
届くはずがないと分かっているのに、必死にレンゲを止めようとする。だって、これ以上怒らせたらあの人は本当に……。
「ごめん、私頭悪いからよく分かんないや……そのマダムって人が誰か知らないけど……君はとんだ
「──ッ!」
ついにアリウス生の両手がレンゲの首を捉えた。
押し倒され、首を絞め上げられているレンゲの瞳から徐々に生気が無くなり始める。弱々しく抵抗していた両手も、今はもうアリウス生の腕に添えられているだけ。
それでもまだ、アリウス生は首を絞め続けた。
「レンゲを離せぇぇぇ!」
挑発で意識が完全に私から外れたその瞬間、レンゲからの合図を待たずに私は無我夢中に駆け出した。レンゲに馬乗りになったアリウス生を突き飛ばすと、その眉間に銃を突きつける。
目の前の女が憎い……!
やっとできた
「この距離なら外さないッ!」
「がッ……!?」
一発、二発、三発。
何度も何度も、頭めがけて銃弾を叩き込む。今ままでの恐怖を、自分の弱さを、全て吐き出すように何度も。
気がつけば、銃のスライドがロックされ銃口から弾が出なくなる。
それでもトリガーを引くのをやめられない私の指が、カチカチと銃を鳴らす。もう銃弾は残っていないと気づき、漸く私は銃を下ろすことができた。
目の前には頭から血を流しながら横たわるアリウス生。
胸が微かに上下している。
つまり、この女はまだ生きてる。
「けほっけほっ……もういいよサオリ! この人もう動けないから」
拳を振り上げる私の腕を何者かが掴むことでようやく、私は我に帰った。
首を摩りながら苦しそうに咳き込んでいるけれど、しっかりと自分の両足で立っているレンゲ。私を見つめる琥珀色の瞳と、頭上に同じ色のヘイローが彼女が無事である事を示していた。
気がつけばレンゲの胸に飛び込んでいた。
両目からはとめどめなく涙が溢れる。
「おっと。よしよし、よく頑張ったねサオリ」
「レンゲが死んじゃうかと思った……! 首を絞められて段々と動かなくなるのを見てると……怖くて怖くて……!」
「えへへ、心配してくれたの? 私たち初対面なんだけどな〜」
「うるさいッ……!」
「いてて……ごめんって。ちょっとからかってみただけだから。ハグしてくれるのとても嬉しいんだけど君って結構力強いね。あれ、サオリさん? 段々と力が強くなって──いだだだだ! ごめんって! 私が悪かったってば! ぎぶ! ぎぶあっぷ!」
渋々レンゲを解放すると、背中を押さえながら「止め刺されるところだった……」と呟いているものの、元の柔らかい笑みを浮かべていた。
「ハンカチ……は無いけど、サオリもすまいるだよ、すまいる! あのチンピラを倒したんだから! もう今後どんな敵が来ても、私たち二人ならなんて事ないね! そしていつかは毎日お腹いっぱいご飯が食べられるような場所に行くぞ!」
「だからチンピラじゃなくて……」
それでも未だに実感が湧かない。
「──お前たちもすぐに分かる」
歓喜に湧く私たちの足元から、今一番聞きたくない声がした。
「ひッ……!?」
「わぁ、凄いねー。君、まだ意識あるんだ?」
仰向けのまま夜空を見上げているアリウス生徒。
マガジン一本分の弾丸を頭に叩き込んだのにまだ意識があるなんて……。
しかし流石に起きられるほどの力は残っていないのか、動く気配はない。
最後の負け惜しみ……とは少し様子が違う。
「私たちアリウスの人間に未来なんてない。希望なんてない。この世はただ虚しいだけだ。終わらない内戦、飢える子供、壊される自治区。スラムで生きてきたお前たちなら嫌というほど見てきたんじゃないか? お前たちもいつかは理解する時が来る。
── Vanitas vanitatum。Et omnia vanitas」
その言葉を最後に、アリウス生は糸が切れたように動かなくなる。
でも、最後に残した言葉が、異様に私の頭の中を渦巻いて離れない。
全ては虚しい。
なら、私たちが必死になって生きるのに、一体何の意味があるのだろうか。
「部屋に戻ろっか」
パン、と手を合わせたレンゲによって現実に引き戻される。
どこかぎこちない雰囲気を残したまま、フラフラと小屋に向かって戻り始めるレンゲを慌てて追いかける。
そうだ、今はこの人の言葉に気を取られる訳には行かない。
「よっこいしょ。良かった〜、鞄は無事みたい」
壁に立てかけていたままだった無傷のカバン見て、レンゲは大きく息をついた。あの様子だと、中の食料も無事のようだ。
「それより、頭見せて。血を止めないといけないでしょ」
「ううん。多分もう止まってるよ。そんなに深い傷じゃないし、見ての通り私頑丈だから。銃で撃たれたところとか首はアザになりそうだけど」
半信半疑でところどころ赤く染まったレンゲの髪をかき分けると、確かにもう血が出ている様子は無かった。あれだけ流れていたはずなのに、改めて見るととんでもない頑丈さだ。
でも、先ほどの言葉の中に聞き捨てならないものが聞こえた。
「ひゃう!? な、なんで急に脱がそうとするの!?」
「アザになってるところがあるんでしょ? 見せて」
「どこにあるかぐらい自分で分かるよ! それにアザは自然に無くなるものだから!」
必死に抵抗するレンゲに渋々引き下がる。
でも大丈夫、寝てる時に確認すればいいだけだ。
「なんだか悪寒が……そ、それより! はい、サオリが一番お腹減ってたでしょ? これ一番美味しいからあげる!」
そう言いながらレンゲが渡してくれたのは、薄くて長い板のようなものだった。何か書かれているけれど、残念ながら私は文字が読めない。本当にこれが食べ物なのかすら怪しい。
もしかしてからかわれてる?
「何これ?」
「チョコレート!」
「え、チョコレート!?」
スラムで時々別の子供が話しているのを聞いた覚えある。とても美味しくて、一度食べたら忘れられない味だって。
恍惚とした表情で語るあの時の子供を見てから、私も心のどこかでは諦めながらもいつか食べたいと思っていた。
そのチョコレートが目の前に……!
包装を破ると、中から茶色の板のようなものが出てくる。
固くて食べられそうにないけど、これがチョコレートなんだ……なんだか思っていたよりも美味しそうじゃない。色も食べ物とは思えない色をしてるし。
しかし固さに反してそれほど頑丈ではなかったのか、少し力を込めたら簡単に折れた。
「あ、思ったより簡単に割れた。はい、これレンゲの分」
手渡したチョコレートを割って半分渡すと、レンゲは目を丸くしてそれを見つめた。
「え、くれるの?」
「くれるも何も、元々レンゲのだし。そ、それに言ったでしょ! 食料は半分だけ貰うって……だから……あーもう! 早く受け取って!」
「……えへへ、ありがとっ!」
押し付けるようにチョコレートをレンゲに渡すと、レンゲはそれ以上は聞く事もなくへにゃ、と笑うそれを口へ運んだ。
うぅ……恥ずかしいからそんな目で見ないで!
生暖かい視線を振り払うように私も残り半分のチョコレートを口に放り込んだ。
そして私とレンゲは同時に目を輝かせた。
「ん〜やっぱり一番美味しい! あのなんちゃってチョコレートのレーションとは大違い! サオリは初めて食べるの? これはハマるよ──めっちゃがっついてるし」
気がつけば全部お腹の中に消えていた。
言いようがない満足感に思わず一息つく。あの子供が恍惚とした表情を浮かべていた理由が今なら分かる気がする。それに、ちょっとだけしか食べてないのにお腹も一気に満たされているようだった。まるで欠点が存在しない。
美味しくて食べ応えもあってお腹も満たせる。
きっとチョコレートは完成された最強の食べ物に違いない。
「分かった、分かったからそんなに凄い目で見つめないで。次はもっと美味しいものを──」
『いたぞ! あそこに誰かが倒れてる!』
レンゲがカバンの中から別の食料を出そうとしたその時、外から何者かの声が響いた。続け様にいくつもの足音がこちらへ向かってくる。
私たちは目を見合わせると、恐る恐る穴だらけの窓から外を覗いた。
『おい、しっかりしろ! 誰の仕業だ?』
ガスマスクを被った何人もの女が、先程私たちが倒したアリウス生を囲んでいた。
「通りすがりのガスマスク集団……なわけないよねぇ……」
「言ってる場合じゃないでしょ! 明らかにあいつの仲間だよ!」
「まぁそうだよねー。早くドア閉めてやり過ごさないと!」
「レンゲが蹴り飛ばしたんでしょうが!」
いつまで経っても戻らない仲間を探しにきたのか、アリウス生徒の集団が小屋のすぐ外まで来ていた。
全員が小銃を装備していて、おそらく私たちが倒したアリウス生とそう変わらない強さを持っている。
この状態で相手にできるはずがない。
『リーダー、あの小屋から話し声が聞こえました。確認しますか?』
『3人連れてクリアリングしろ。残りは外で待機』
「サオリが騒ぐからバレちゃったじゃん!」
「どの口が……!」
歓喜から一転、絶体絶命に陥った私たち。
なんとか脱出できないか頭を抱える私を他所に、レンゲはなぜか楽しげな笑みを浮かべている。この状況でも気楽すぎる!
「えへへ、もう仕方ないねこれは。よいしょ、しっかり捕まっててね」
「わっ!? れ、レンゲ!?」
突然私を背負うと、レンゲはゆっくりと助走し始める。
狙いはアリウス生徒たちがいる玄関とは反対側に位置する、まだ唯一無事だった窓。
「え、ちょっと待ってレンゲ。体は大丈夫なの?」
「チョコ食べたら元気百倍! 飛ばしていくよー!」
私が返答する暇もなく、レンゲは全速力で矢のように駆けると、そのまま窓に向かって飛び上がった。
ガラスの砕ける音とドタドタと複数人が小屋に入ってくる音が同時に響く。
「いたぞ! 逃すな、撃て!」
その直後、突入してきたであろうアリウス生徒たちから放たれた無数の銃弾が降り注ぐ。
まさに間一発という状況に冷や汗が流れるも、レンゲはまだ気が済んでいないらしい。懐から何かを取り出すと、ピンを抜いてそれを窓から室内へ放り投げた。
あの小さなボールのようなものはまさか……。
「あの人から頂いておいたものだから、返すね!」
「ちょ、中にはまだ食料が──」
「ひゃっはー、逃げろ〜!」
直後、爆発音と共に小屋が揺れ、立て続けの銃撃とトドメのグレネードについに耐えきれなくなったのか、大きな音を立てながら崩れ始めた。
あの大量の食料が入っていたバッグと一緒に。
「後から取りに戻ればよかったのに! 少しは考えてよ!」
「あはは、ご飯ならまた探せばいいでしょ。大丈夫、私たち二人なら上手くやれるよ。だから──」
背負っていた私を下ろすと、レンゲは私に向かって拳を突き出した。
「これからも宜しくね、
その拳を見つめる私の答えは、既に決まっている。
今度は迷いなんてなかった。
「もちろん、宜しくね
私も力強く拳を重ねると、そのまま崩落する小屋を背に私たちは駆け出した。
あの人が言ったように、この世は虚しいだけなのかもしれない。
でも、レンゲと一緒なら、生きる意味も見つかるかもしれない。
どこか確信めいた想いで隣を走るレンゲを横目で見つめながら、私たちは夜のアリウス自治区を走り続けた。
「うぅ〜もう無理ぃ〜」
「やっぱり大丈夫じゃなかった……!」
しばらくして当たり前のように限界が来たレンゲを私が抱える羽目になったのは、言うまでもない。
頭に銃弾を10発喰らっても死なないのがキヴォトス人。
スピンオフでは社長のライフル喰らっても効果なしの風紀委員長とかもいるので、多少はね?
・レンゲ
自分が頑丈なのを自覚しているせいでギリギリまで合図を出さなかった。サオリからしたらたまったもんじゃない。
・サオリ
この時からブチギレたら周りが見えなくなる。この日から銃の手入れを欠かさなくなった。
主人公の名前どうする?
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変更なし
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改名するべき