私は今、風になっている!
お月様が優しく見守る中、全速力でスラムを駆け抜けている。瓦礫を乗り越え、朽ち果てた車を避け、へし折れた電柱をくぐり、荒れた街並みを堪能している。
もう私を止められる人なんて、誰もいない……!
「いたァ!? これは5.56ミリ!」
と言いたいところだけど、残念ながら背後から追ってくるガスマスクたちがそれを許してくれない。道を塞ぐ電柱を飛び越えようとした瞬間、一発の銃弾が背中を直撃する。
当たった箇所は動きに問題はないけれど、痛いものは痛い。
なおも無数の銃弾が嵐のように私の周囲の地面を抉り、近くの瓦礫が弾け飛ぶ。障害物を使って精一杯避けてはいるものの、数が多いとやっぱり当たってしまう。
「ひえっ、こうして見ると意外と数が多い……」
走りながら後ろを振り向くと、5メートルほど後ろから追いかけてくるガスマスクの集団。普通にホラーだ。
サオリたちが待ち構える空き家まではそこまで離れていない。全力で走れば多分五分もかからない。
でも、真っ直ぐ走れば私はあっという間に蜂の巣にされてしまう。
こうして道を曲がったりあえて瓦礫の上を登ったりとパルクールしてようやくある程度弾丸を避けられている。
「うぐっ……!」
それでも、全ての弾を避けられる訳ではない。
脇に銃弾が突き刺さり、思わず息が漏れる。ふらつきながらも、なんとか速度を落とさず体勢を整え、近くの交差点を曲がった。
最初に当たった時に分かったけど、アリウスの人たちが持っている銃の性能が上がっている。初めて遭遇した脇見運転の人は命中精度が悪い小銃を使っていたようだけど、今回に限ってはかなり正確にこちらを狙ってくる。
これがあの時の7.62ミリの銃だったらまだ避けやすいのに……。
「いい加減諦めてよ……! もうそろそろ疲れてるんじゃないの……?」
なおも背後から追いかけてくるアリウス生たちに聞くも、返ってくるのは銃弾だけ。どうやら会話するつもりは無いらしい。
「あ、まずっ」
会話は諦めて再び前を向いた瞬間、私は思わず目を見開いた。
建物の影から二人のガスマスクがこちらに銃を向けていた。完全に挟まれている。
「クソ!」
咄嗟に隣の建物の窓を突き破り、中へ退避する。同時に外から響き渡る大きな銃声と弾丸が地面を抉る音。
「はぁ……はぁ……なかなかやるじゃない……」
正直に言って、甘く見ていた。
重装備なら直ぐに引き離せると思ったし、走りながらなら相手も狙いが悪くなるから銃撃もまず問題ないと思っていた。
でも蓋を開けてみれば、確かにあいつらは引き離せたけれど、予想以上に正確な銃撃でこちらも逃げきれずにいるし、あれほどの重装備でも全然疲れている様子はない。こちらは丸腰でもう息切れしているというのに。
「早いところここから出ないと──ッ!」
なんとか息を整え立ちあがろうとした瞬間、割れた窓から何かが家の中に投げ込まれる。
コロコロと足元に転がってきたものが緑色のボールのようなものだと認識した瞬間、爆発と共に全身に激痛が走った。
「うぅ……けほっけほっ……」
痛みで消えそうになる意識をなんとか繋ぎ止める。
あいつら、グレネードなんて投げやがって……!
悲鳴を上げる身体に鞭打ち、グレネードが投げ込まれた窓と反対側に位置する窓から、なんとか外へ這い出る。
でも、アリウスは私に一息つく暇すら与えてくれない。
「こっちだ! 撃て!」
「ッ!」
目の前で待ち構えていた一人のアリウス生。
小銃の銃口が向けられた瞬間、私は無我夢中に駆け出した。この方向がサオリたちのいる方向かは分からない。でも、今はもう正しいと祈るしかない。
視界の端では腕や顔から赤いものが流れている。グレネードの破片に体が刻まれたようで、一歩踏み出す度に激痛が走り赤い雫が地面を汚す。
痛みで身体が言う事を聞いてくれない……。
「いッ!?」
ダメ押しのように左足がバットで殴られたかのような衝撃に襲われる。倒れそうになる身体を気合いと根性で起こすも、ついに左足の動きが鈍くなり、痛みや悔しさで思わず乾いた笑みをこぼしてしまう。
片足ケンケンで逃げれるとは言ったけど……流石にこの状況じゃ無理だ。
そもそも、今私はどこにいるんだろう。
無我夢中に走り続けて、気が付けばサオリたちの位置すら見失ってしまっている。もしかしたら完全に見当違いの場所にいるのかも知れない。
そしたら……サオリには悪いけど、ミサキとヒヨリを連れて逃げて欲しいなぁ。
「はぁ……はぁ……このぐらいかな……」
近くの瓦礫の山に腰を下ろす。
もう逃げる余力なんて残っていない。
すると、スラムの奥からゾロゾロと銃を構えたガスマスクの集団がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。どうやら全員集合したようで、元の十人に戻っている。
せめてこいつら全員を引きつけておきたいところだけど……あまり時間は稼げそうにない。
「……全員周囲を警戒しろ。こいつにはまだ聞きたい事がある」
隊長らしき人の一声で、周りの隊員たちは一つも意見することなく散開していく。うへぇ、全員が同じ感じに動いててなんだか気味が悪い。
ゾロゾロと隊員たちが離れ、この場には私と隊長の二人きりになる。
重苦しい沈黙。
なんだかとても気まずい。
「相変わらず逃げ足が速い」
「はぇ?」
まるで私の事を知っているような言い草に、思わず首を傾げる。
はて、私はこの人と知り合いだったのかな? ガスマスク着けてるせいでアリウスの人は全員クローンに見える。
「はぁ……声だけじゃ分からないか」
「ぐへっ……あ、いつかの脇見運転の人!」
「もう一度首を絞め上げてやろうかクソガキ……!」
乱暴にガスマスク外し私に向かって投げつけてきた。
もう躱すのも億劫な私はそれをモロに受けるも、マスクの下から出てきた顔に思わず目を見開いた。
サオリと出会った日に二人でボコボコにしたアリウスの生徒だった。
「やめてよー、あの時めちゃくちゃ苦しかったんだよ? あの後もヒリヒリしてずっと痛かったし、首のアザも何日も消えなくてサオリに心配されるし」
「殺せなかったのが惜しいな」
「今殺せるからいいでしょ」
不機嫌そうに眉間に皺を寄せてるところとかも変わらない。
まだ半年ぐらいしか経ってないのに懐かしく感じてしまう。
「でも元気そうで良かったよー。しかも昇進してるじゃん」
「随分と馴れ馴れしいな。自分の状況を理解してるのか?」
「理解してるからこうして君と話してるんだよ。どうせなら最後ぐらいお喋りしたいでしょ? 相手がちょっと残念だけど」
「奇遇だな、私もお前となんか話したくなかった」
仮にも顔見知りなんだから少しぐらいは手心を加えてくれても良いと思うんだ。
「で、私に聞きたい事ってなに? おススメの缶詰なら10個ぐらい答えられるけど」
「ロイヤルブラッドについて話せ」
ロイヤルブラッド。
スラムでも聞かない言葉に、私は思わず肩を竦めた。
「知らない。美味しいパンか何か?」
「それはブレッドだろ。くだらない誤魔化しはやめろ」
「あ、そうなの……でもその『ロイヤルブラッド』ってだけ言われても分からないよ。せめてなんなのか教えて。そこそこスラムを歩き回ってきたから、もしかしたら何か知ってるかも?」
しばらく腕を組んで考え込んだ隊長さんは、ゆっくりと口を開いた。
「子供だ」
「子供? 私みたいな?」
「お前とはまるで違うがな。高貴な血筋を持った子供だ。かつてアリウスを統治していた生徒会長の末裔がスラムに身を隠しているらしい。私たちはその子供を捕らえ、マダムの下へ連れて行く必要がある」
なるほど。
話を聞く限りだと、マダムって人はそのロイヤルブラッドの子を利用して何かしようとしてるようだ。
また子供を利用しようとする、反吐が出るような行為。
「はえー、なんだかよく分からないけど随分とその子が大事なんだね。だって、こんなに沢山のアリウス生徒を使って探してるんだもん。その子使って何するつもり?」
「これ以上は語る必要はない。知ってるのか? 知らないのか?」
「知らないし、知ってても君になんか教えないよーだ」
「……どうやら本当に知らないようだな」
隊長さんは呆れたように首を振ると、手に持っていたアサルトライフルを構える。
銃口の先は……私の額。今の状態で撃たれれば、きっと無事では済まない。
「えーもうちょっとお喋りしようよー。今度は私にオススメの缶詰10個語らせてよー」
「……なら、最後に一つ聞く」
「およ? えへへ、まさか本当に続けてくれるとは思わなかった」
「うるさい。このまま頭をぶち抜かれたいのか?」
てっきり問答無用で頭をぶち抜かれるのかと。
でも、どうも先程からこの隊長さんの雰囲気が変だ。最初に会った時と違って、私を見ても怒りに囚われている様子がない。自分で言うのもどうかと思うけど、我ながら前回よりもかなり煽ってるつもりだ。
なのに今回はなんというか……ぎこちない。
「お前、囮だろ?」
「ふぇ!? な、なんの事かな……えへ、えへへ……」
「どんだけ目を泳がせるんだ」
唐突に図星を突かれ慌てる私。
サオリからもよく考えが顔に出ると言われるけど、今ほどそれを憎んだ瞬間はない。
「待って! 違うの、私は──」
「この際お前が囮だろうがどうでもいい。大方お前と一緒にいたあの黒髪のガキのためにまた囮になったんだろ? でも私の方は、いつかもう一度お前と会った時に聞きたかった事がある」
額から銃が降ろされる。
「Vanitas vanitatum。Et omnia vanitas──全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ」
どこか遠い目をした隊長さんは私と話しているのに、どこか私以外の遠く……いや、まるで自分に向けて話しているようだった。
こんな会話をしている自分を嘲笑うような自虐的な笑み。
その表情を見て、私はどうしようもなく悲しい気持ちになった。
「あの時言ったはずだ。私たちアリウスの人間に生きる意味などない、未来などない。お前のこの決死の陽動ですら、結局のところ意味なんてない。どうせお前の大切な仲間もいつかは救いのないこの世界に打ちのめされ、絶望し、生きる意味すら分からなくなる」
「今の君みたいに?」
「フッ、否定はしない。だが、今のお前こそどうだ? お前は救いのない絶望に向けて仲間を逃しただけで、ここで終わりを迎えようとしている。そこに意味なんてあったか? 救いはあったか?」
「…………」
「それを知ってもなお、なぜお前は
縋るように問いかけてくる隊長さん。
子供みたいに──いや、本来あるべき子供に戻って。
私たちよりずっと年上だけど、結局アリウスの生徒たちもまだ子供なんだ。
「ここからは私の独り言だからオフレコにして欲しいんだけど……」
だから私も、
「私、君と初めて出会った頃って死のうとしてたんだよね」
「……なに?」
「生き急いでたって言えばいいのかな? とにかく危険なことばかりしてさ、生きれば次の日に再チャレンジ、死ねば儲け物って感じで。自分で死ぬのは怖いから、誰かに殺されれば楽だなぁって、なんとなく思ってた。だから君たちアリウス分校にも喧嘩売ったりしてたの」
「やってる事はまだしも、考え方は典型的なアリウスの子供だな」
孤独な日々を送る毎日で狂ってしまっていた頃の私。
自分で死ぬ勇気がないから誰かに殺されようと思ってそこら中の人に喧嘩を売りまくっていた。その結果がどうなったのかは、今私がここにいるという事実が物語っている。
「君もご存じの通り私って運動神経は良いけど身体自体は弱くてさ。たかがグレネード一発喰らうだけで見ての通り死にかけるぐらい。だからすぐに死ねるって思ったんだけど、これがなかなか上手く行かなくてね」
キヴォトスでは銃は鈍器みたいなものだ。撃たれたぐらいでヘイローが壊れる人なんてほとんどいない。目の前のこの人だって頭に銃弾10発を0距離でぶち込まれたのに、今こうしてなんの後遺症もなく動けている。
でも、私にとって銃弾はまさしく凶器。
ダメージは確実に蓄積しているし、そう遠くないうちに私に牙を剥く可能性が高い。
それでも私は死ねなかった。
「ただ、そんな時に私はサオリに出会った」
その結果が、この人も知るあの日の出来事。
「傷ついた私を心配してくれて、危ない事をすれば叱ってくれるようなヒトが隣にいてくれるようになった。
──私はそれに救われた」
あの日以来、私は死のうという気持ちは無くなった。
いや、もしかしたらあの日以来、私の命はサオリのものになったのかもしれない。
「これが私と君の違いだよ。さっき私のやってきたことは全部無駄に終わるって言ったよね?
そんなこと絶対にあり得ない。だって私がこうして囮になることで一分でも一秒でもサオリが笑顔で過ごせるのなら、私のやった事に意味はあるんだから。サオリだけじゃない、ミサキとヒヨリもそうだよ。『家族』を少しでも長く幸せにできるのならこんなちっぽけな命なんて犬にでも食わせてあげるよ」
「……たとえその幸せが一時的なものでも?」
「たとえ一瞬でも、私が身体を張るのには十分だよ」
「歪んでるな」
「心配しないで、自覚はある」
これが私の頑張る理由。
この世が虚しいだけで救いは無いなんて、少なくとも私は信じていない。
だって他でもない私自身が既に救われたのだから。
「大切な家族を見つけられたおかげで、このクソッタレな世界にも救いがあるって分かった」
「……ガキらしい、夢見がちな考え方だな」
「当たり前でしょ、
隊長さんは否定も肯定もしない。
「で、どう殺す? この前みたいに首でも絞める? 苦しいのイヤだからせめて一思いにやって欲しいんだけど。あ、でもその方が時間稼げそうだしやっぱり首ぎゅーってしてくれる方がいいかな?」
「殺され方にすら注文するのはお前ぐらいだ」
そして、私は
「ま、実はまだ死ぬのはゴメンだけどねっ! ほい、これヒヨリからのプレゼント!」
ずっと懐に隠していた『それ』を、私は躊躇なく隊長さんへ投げつけた。
一瞬身構えた隊長さんだが、私が投げつけたものの正体に気づいた瞬間、目を見開く。
「さっきのお返し!」
空き家で投げ込まれたものと同じ緑色のボール──グレネードが、私と隊長さんの間で弾け飛ぶ。私は咄嗟に地面に伏せたお陰でそこまで被害は無かったものの、モロに喰らった隊長さんは片膝をついて蹲っている。
これでおあいこだ。
「あばよ脇見運転さん! 悪いけど私は家族を幸せにするまで死ねないの! お喋りに付き合ってくれてありがとね、おかげでちょっとは元気になれたよ! じゃ、そういうことで!」
「くっ……」
走り去る私を悔しそうに見つめる隊長さん。
正直なところまだ全身が悲鳴を上げたくなるほど痛いし、ここまで気合と根性で動かしていた左足も限界を訴えている。
でも、そんなボロボロの身体に鞭を打ちなんとか一歩ずつ前へ進む。
少しでも気を抜けばそのまま意識が持っていかれそうだ。
「リーダー!」
「私は放っておけ! あのガキを捕らえてここに連れて来い!」
散開していたアリウス生徒が戻ってきたようで、背後から何人もの足音が迫ってくるのが聞こえる。
振り返ればあの見飽きたガスマスクが並んでいそうだけど、残念ながら今は振り返る余裕すら無い。
どこかに隠れてやり過ごさないと……。
「あっ……」
しかし、どうやら私も悪運尽きたらしい。
普段なら見向きもしないであろう小さな段差につまずき、私は無様に転んでしまった。受け身すら取れず身体を地面に打ちつけ、思わず小さく悲鳴を上げてしまう。
両足ももう動かない。
「かはっ……」
それでもなんとか両腕を使って身体を引きずろうとするも、何者かに背中を踏みつけられる。胸が地面に押しつけられ、呼吸が苦しい。
「ず、随分とお早い到着で……ねぇ、お喋りとかは……」
「黙れ」
隊長さんと違ってこの子はまるで相手にしてくれない。
きっとご飯食べる時とかもお喋りせず黙々と食べるタイプだ。
「リーダー、対象を確保しました。これより──うぐっ」
その時突然、私を踏みつけていたアリウス生徒の声が不自然に途切れる。背中に感じていた圧迫感が無くなったと思ったら、私のすぐ隣にドサっと倒れ込む分厚いコートを着込んだガスマスクの女が。
「ス、スナイパーだ! 全員伏せ──ぐぁ!?」
唐突に倒れた仲間を見て、別の隊員が大声で叫ぶ。
が、その人も喋り終わる前に一発の銃弾が額に叩きつけられ、そのまま動かなくなってしまう。
慌てて地面に伏せる残りの隊員たち。
──別の脅威が背後から忍び寄っているとも気づかずに。
「姉さんの狙い通り……これならやりやすい」
見慣れた黒髪が夜の闇に浮かび上がると、地面に伏せて無防備となった隊員たちに襲い掛かった。抵抗すらできないままガスマスクごと頭を蹴り飛ばされ、後頭部に銃弾を叩き込んでいる。
さらなる奇襲に隊員たちはすぐさま伏せたまま銃をミサキに向けるも、もう彼女たちが反撃できる隙なんて残っていなかった。
何者かが銃を蹴り上げ、ミサキへ放たれた銃弾は夜空へと消えていく。続け様に胸ぐらを掴み上げ、その隊員を別の隊員に向けて放り投げる。悲鳴と共に激突した二人の隊員はもう動く気配はない。
だが、精鋭のアリウス生徒もただでは倒されない。
一人のアリウス生が乱入してきた人影──サオリへと銃を向けた。
「サオリッ!」
響き渡る銃声。
ハンドガンとは明らかに違う大きさの発砲音が、その威力を物語っている。
銃弾は容赦なくサオリを牙を剥いた……はずだった。
「もうこれ以上家族を傷つけさせないッ!」
「な、なにッ……うぐっ」
今まで聞いた事がないサオリの咆哮。
明らかに銃弾が命中したはずなのになおも進み続けるサオリに、残ったアリウス生は慄いてしまい──それが致命的な隙となった。
二発目の銃弾を撃つ暇もなく、強烈なタックルで再び地面に叩きつけられるアリウス生。すかさず額に銃弾が撃ち込まれ、最後のアリウス生が沈黙した。
何かに取り憑かれたような凄まじい気迫に、私は言葉を失った。
「さ、サオリ……?」
フラフラと幽鬼のように振り返る相棒。
助けられたはずなのに、なぜか私までやられそう……。
サオリはジッと私を見つめたまま動かない。
「え、えへへ……助けてくれてありがと。待ち伏せポイントまで誘導しようとしたんだけど道が分からなくなって。サオリたちを危険に晒しちゃって、ごめんなさい。えへへ、私失敗してばかりだね……」
「ッ……! またそうやってレンゲは自分の事を──」
「抑えて、姉さん。見たところ重傷っぽいから」
また叱られると思って思わず身構えると、ミサキが爆発しそうになっているサオリを抑えてくれた。
でも今回ばかりは助け舟を出してくれた。
おぉ、ついに
「言いたい事があれば手当てしてからたっぷり言えばいいから。サオリ姉さんも──私も」
「なんでぇ!?」
訂正、どうやらミサキもまぁまぁ怒ってるらしい。
「れ、レンゲ姉さん! 大丈夫ですか? いや、大丈夫じゃないですよね……痛いですよね……苦しいですよね……もし楽になりたいなら私が……」
「おー、ヒヨリもありがとね。私はもう大丈夫だから銃は降ろしてくれていいよ」
「そのあと私も後を追いますから……」
「心中はやめてー。てか、そんなに躊躇なく介錯しようとしないで。少しは悩んでよ」
遠くから援護していたヒヨリも合流。
なんだか危ない事を呟いてた気がするけど、聞かなかった事にする。
呆れたように首を振るミサキ。
目に涙を溜めながら介錯しようとしてくるヒヨリ。
未だに無表情で私を見つめるサオリ。
三人の家族に見下ろされ、ようやく私も緊張の糸が切れる。
倒れたまま大きく息を吐き、夜空を見上げる。今日も月が綺麗だ。
「いや、現実逃避しようとしないで」
「だってミサキ……サオリの目がまだ怖いんだもん……」
「当たり前。これでも姉さんは我慢してる」
正直に言えば今すぐにでも土下座して謝りたいところだけど、一気に疲労感が襲ってきて身体が動かない。つまりサオリからももう逃げられない。現実は非常だ。
「うっ……」
ついに私に向かって手を伸ばすサオリ。
このままぶたれるのかと思い、私は思わず目を閉じて身構える。
せめて優しくして下さい……!
「え?」
倒れたままだった私は起こされると、そのまま暖かい感覚が身体を包み込んだ。
「さ、サオリ?」
「ごめんなさい……レンゲばかりこんな事をさせて……ごめんなさい……!」
声を震わせながら何度も謝るサオリ。
ようやくサオリが怖い顔をしていた理由を理解し、私は思わず笑みをこぼしてしまう。相変わらずサオリは心配性だ。
「これは私が望んでやった事だよ。私にしかできない事なんだから、サオリは何も悪くない」
「でも、こんなにボロボロになって……」
「サオリが私を行かせてくれなかったら、みんなこうなってたかもしれないんだよ? サオリはよくやったよ。家族を守ったんだから」
「うぅ……」
私を抱きしめたまま涙を流すサオリ。
ミサキとヒヨリからの生暖かい視線を受けたまま、私はそんなサオリの頭を苦笑しながら撫で続けた。
どこまでしっかりしててカッコよくても、サオリはまだ子供だから。
実は主人公が一番スクワッドにクソ重な感情を抱いていたというお話。
・レンゲ
能力は良くても耐久は紙というAC北斗の聖帝みたいな性能。
・脇見運転ネキ
あのやらかしから努力して部隊長になった実は凄い人。でも運転する度に隊員にビビられてる。
・スクワッド
姉二人は放っておくと危ないという共通認識が妹二人にできた。
主人公の名前どうする?
-
変更なし
-
改名するべき