記憶喪失で目覚めたら、不思議ちゃんの安心毛布と化していた件について   作:みそすうぷ

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三話

おばさんは僕たちのために少し遠くまで、車を走らせてくれた。

着いた場所はそのあたりではそこそこ大きな駅らしく、地方都市の大きなまで電車が通っているらしい。

 

僕たちはおばさんに何度もお礼を言い、車を降りた。

 

「なんだよ。まだついてくるのか」

「うっ」

痛いところをつかれたようにたじろぐと、少女はそっぽを向いてぶつぶつ喋り出した。

「アリスはうさぎを追わなくてはなりません。それがアリスというものですから」

「あっそ、ついてくるのは勝手だけど。仮についてこれなくても僕は止まったりしないからな」

「望むところです! もう白うさぎを見失ったりしません!」

「そうか」

僕はおばさんからもらった二人分の電車賃を握りしめて、全力疾走を始めた。

 

 

「今度逃げたら、ウサギパイにしちゃいますからね!」

少女は、僕のTシャツの端っこを持って、プンスカ怒る。

「わかったよ」

僕が彼女に捕まったのには理由があった。このめんどくさそうな少女を振り払ったところで、僕にはいく先がないのだ。そのため、券売機の前まで走ってきたものの立ち止まってしまった。

「白うさぎ! あのキラキラしたのはなんですか?!」

少女の指さす先には、駅内に設置された交番があった。おそらく交番の紋章のことを言っているのだろう。

交番、警察。なぜか胸がぞわりとした。そこにだけは行っていけないと脳の奥深くに閉ざされた記憶が警告していた。

「家には、帰りたくないな……」

帰りたくない。本能的にそう思った。とにかく警察に見つかれば、家に帰されてしまう。それが今の最優先事項だと僕は自分の中で決定付けた。

「白うさぎ! 聞いてますか?!」

「うるさいな、ばか」

「ええええ?!」

 

少女が僕のTシャツを破れんばかりに引っ張るので、僕は必死に引き剥がそうとする。

「アリス!」

そのとき、目を真っ赤にして僕らの方を見る一人の女性がいた。

「アリス! やっと見つけた!」

その三十代くらいのスーツを着た女性は、僕から少女を引き剥がすと。いや、少女から僕を引き剥がすと彼女を思い切り抱きしめた。

「もうどこへも逃げるんじゃないわよ!」

「だ、誰ですか?! 助けて! 白うさぎ!」

「とぼけても無駄よ。とにかく、東京へ戻るわよ!」

女性はスマホでどこかへ電話をかけて少し言葉を交わすと、僕を睨んだ。

「それで、あなたは?」

「僕は……」

僕が誰なのか。それははっきり言って僕の方がよっぽど気になっていることだった。

「僕は何よ」

「すみません。ちょっと頭の整理が追いつかなくて……」

「もしかして、あなたがアリスを連れ出したの?」

「はい?」

「場合によっては、誘拐になりかねないわ。説明ができないなら、警察を呼ぶわよ」

「なっ……!」

なんだこの女は。突然現れては僕を犯罪者よばわりして。でも僕は僕自身が犯罪者でないことを証明できないし、確信もできない。記憶がないのだから。

そのとき、少女が大声を上げた。

「そんなことより、その手を離してください! アリスは痛いのは嫌いです!」

「アリス?」

女性は、何かがおかしいとやっと気づいたらしい。

「あなた、それ演技じゃないの?」

「演技でも、うさぎでもないです! アリスはアリスです!」

女性は顔の色を変え、頭を抱える。

「病院へ行くわよ」

「病院も嫌いです!」

「君」

少女を掴んでいるのと反対の手で、女性は僕の手を掴む。

「君にも来てもらうわよ」

 

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