キタローとハム子の戦争 作:ハーイヨールニャル
きっかけは些細なことだった。
ただ教室を出て廊下を歩く湊の姿を確認した他のクラスの生徒が二度見して叫んだ。もし、それが違う言葉であったのなら、その後の展開は避けられたのかもしれない。
だが、よく考えてみてほしい。つい一月前には涙ながらに葬儀に向かい、別れを済ませた筈の学友が校内を普通に歩き回っているのだ。
朝のまだ人の少ない時間には幻だったと自分を誤魔化すこともできた。しかし今は入学前の一学年を除いた全校生徒が体育館に移動中である。
「う、うそ……あ、有里くん……?」
「ぎゃあああああ!!! 有里の幽霊だあああ!!!!」
「ひぃいい!! お願いです。成仏してください!!!」
驚愕と恐怖は一瞬で伝播し、月光館学園は阿鼻叫喚の嵐に陥っていた。一応、鳥海のように教師達は桐条グループから説明と通達は受けており、生徒への伝達が行われているかと思えばその効果はないようだった。それもその筈。まず教師達が湊の生存を信じていない。
美鶴が在学中ならその威光で上意下達が徹底されたかもしれないが、卒業後とあっては気も緩む。何より生徒に余計な動揺を与えたくないとの事から湊のことを伏せる教師が多かった。
良識ある大人なら葬儀後に生き返ったという眉唾な話を鵜呑みにはしない。せめて自分の目で確認してからとの判断がこの悲劇を生んだ。
「……」
「うん……わかっちゃいたけど、おまえってやっぱすげえな……」
「有里くんは生きてるからねー!!」
「幽霊ではありません! 湊さんは生きています!」
その中を怯むことなく平然と突き進む湊に順平が呆れのような感心を抱き、ゆかり達は必死にフォローに回る。新しいクラスメイト達も手伝ってくれた。
「おらっ! おまえら落ち着けっての! 有里は足だってあんだろ? 生きてたんだよ。てか、喜べよ! 有里が生きてんだからよ!!」
「言ってることはわかるけど……、ミヤ、むちゃくちゃ言い過ぎ」
「まあ、驚くよね。私もまだ心臓バクバクしてるもん」
「平気か、理緒? 肩貸すか?」
「あ、うん。大丈夫……」
「そこ、目を離すと無自覚にイチャつくのやめてもらえます? 俺っちが傷つくでしょうが…………そういやチドリもそろそろ退院か。何持ってきゃ喜んでくれっかな……」
「あんたも十分色ボケてるわよ。まあ、平和になったってことかな。こんな実感の仕方は嫌だけど……一月前を思えばね……」
「……そうだね。また有里くんに会えて、こうやって一緒に学校に通えるんだもん……やだ、涙出てきちゃった……」
「いやああああ!!! 来ないでぇえええ!!」
「頼むっ!! 成仏してくれぇえええ!!!」
「…………湊さん?」
風花が感極まって目元を拭っている時、湊は違う意味で学友たちを泣かせている最中だった。どこか意固地になって前進を続けているようにも見えたが、感傷に惑わされ、愚直に側に居続けたアイギス以外はそれに気付くことはなかった。
「何の騒ぎでしょうか……?」
「どうせくだらないことだろう。まったく、彼らはいつになったら大人になるのか。生徒会としては一層気を引き締めていかねばならんな。少しは彼を…………」
「えっ!? ちょ!? 小田桐先輩っ!!?」
なお、その騒ぎの中で倒れた生徒会役員がいたとかいないとか。少なくとも伏見千尋が湊と再会を果たす日は遅れる事となった。
体育館に入ってからは更に騒ぎは酷くなった。誰もが喧騒に振り返っては凍りついたように時を止める。湊が一歩踏み出せば悲鳴と共に人垣が割れた。その異様さと言えばまさに海を割ったモーセの如しである。
動揺は生徒だけには留まらず、連絡を受けていた筈の教員たちもやはり信じがたいといった様子であった。美鶴が卒業した今年こそはと意気込んでいた校長はスピーチすべき内容をすべて頭からふっ飛ばし、戦国マニアな教諭は、やはり信長公は生きていた、と何やら確信を強めていた。
唯一平然としていたのはオカルトに傾向している保健医、江戸川くらいのものだ。それどころか眼鏡の上からでもわかるほどに目をキラキラと輝かせて生き返ったとされる偉人、所謂救世主の話をしだすのだから大したものである。
余談にはなるが、湊が影で
湊にとってはいい迷惑以外の何物でもなかった。
落ち着きのない始業式を終えた後も湊の受難は続く。
本日は始業式ということで簡単な連絡事項を伝えられた後は帰宅するだけの筈が、生き返った湊を今度はじっくり見ようとする見物人が増え、靴箱にたどり着くことが困難な程に廊下が人で埋まる。
これには湊よりもゆかり達の方がげんなりとしていた。久しぶりにポロニアンモールにでも寄って行こうか、なんて話で盛り上がっていた所に水を差されたのだ。もっともその場合ポロニアンモールで月光館で起きた騒動が繰り返されただろう。湊は何だかんだで顔が広い。
「これ、どうしようか?」
「素直に道開けてくれそうにはねえよな」
「私が突貫して道を作るであります」
「やめなさい……。怪我じゃすまないでしょ、相手が」
「でも、ほんとどうしようか……」
教室の中で湊を守るよう囲んで話し合う。今の所教室内には踏み入って来ないが、それも時間の問題だ。一人が痺れを切らせば雪崩を打ったように押し入られてもみくちゃにされることは目に見えていた。
彼らとて悪気はないのだろうが、それで湊が傷つくなんてことになればアイギスの暴走は避けられず、ゆかりも平静でいられる自信はない。初日から揃って停学なんて事になれば美鶴からどんなお叱りを受けるか。順平がぶるりと身を捩らせた所で声を上げた者がいた。
「ねえ、ミヤ。それに友近くんもちょっと協力してくれる? できればクラスのみんなも。有里くん逃がすから」
「おっ、いいけど何するんだ?」
「俺もいいけど……げっ、まじか……でも、それっきゃねえか……」
クラスメイト達も教室から出るに出られず閉じ込められていた。否応もなく結子の提案に乗ると
廊下からは湊が見えないよう人垣となって壁を作る。その内側で湊の側に寄った宮本と友近が上着を脱いでいた。
「んじゃまあ、行くとしますか。湊、貸しだかんな、貸し。後で何か奢れよ」
「俺はインハイで返してくれりゃそれでいいや。あっ、部活の方は落ち着いてからでいいからな」
「私も何か奢って貰おっと。できれば二人がいいけど…………もう私が入る隙間はないのかな……」
「えっと……相談のるよ?」
結子が湊の脇をがっちりと固めた三人を見て小声で呟いた。横に居た理緒は湊を囲む三人と結子見比べては何かに気づいてそっと言葉を綴る。
準備は完了し教室からは次々に男子生徒が出てくる。彼らの役割は道を開くこと。人垣を割いて人が通れるスペースを確保する。その間を駆けるよう顔を上着で隠した二人の生徒が飛び出した。
前と後ろ、教室の二つの出入り口から別々に。
「あっ! 有里くん待って!!」
「有里くん! もっとお話しようよ!」
続けて結子と理緒に扇動された女子生徒が飛び出ては追いかける。廊下の見物人は群がってきたが男子生徒にガードされ、顔を隠した二人が止まらないと見るとそれぞれに別れて追いかけ始めた。
全員が移動するわけでもないが、そんな残った疑り深い彼らには蒼白な顔のメイクをした女子生徒からプレゼントが贈られた。
「そんな……有里くんがいるわけないじゃない……っ! みんな……何を見ているの……?」
撹乱と教室を封鎖された少しばかりの恨みを込めて。
「行った?」
「たぶん大体は……」
廊下が静かになったのを見計らって机の下からゆかりがぴょこっと顔を覗かせ様子を伺う。続けて風花もきょろきょろと首を振っては安全を確認した。
「まだちっといるみてえだが、これなら何とかなんだろ」
「湊さん、今のうちに脱出するであります」
「ああ……」
屈んだままアイギスが湊の体を気遣った。表情は変わらないが少しばかり湊も疲れているようだ。順平が立ち上がり、静かになった廊下に疑問を口にする。
「しっかし、よくあれで騙せたよな。友近はともかく宮本なんかジャージなのに……」
「群集心理かな? みんなが追いかけてるから私も、みたいな……?」
「あーなんかわかるかも」
「けど、友近くんと宮本くん大丈夫かな……捕まって怒られないといいけど……」
「宮本はガタイもいいし足も速えから捕まんねえって。友近は捕まったらボコボコにされっかもな。ま、看病してくれる奴いるからいいっしょ」
「あんた薄情ね……友近くんは彼の身代わりになってくれたのに」
「わかってねえな、ゆかりッチ。これが男の友情なんすよ……」
「ただの嫉妬でしょ。と、話してる場合じゃないか。早く行こ」
そそくさと教室を出た彼らが向かったのは屋上である。まだ校内には多くの人が残っており、これ以上騒ぎになるのはごめんだった。階段を登って出入り口にたどり着いた所で、湊が少し一人になりたい、と言いだした。
屋上はまばらではあるが人の影があり、アイギスが断固拒否の姿勢を示した所でまたゆかりに静止させられた。
「ちょっと順平! ちゃんと抑えて!」
「いや、やってっけど……っ!! 無理だろ、これ!!」
「離すであります! 私の一番の大切は──」
「あーもう! それはわかってるから!! ほら、君も早く行って! 行って! ちょっとだけだからね!」
「ありがとう、岳羽。アイギスも、大丈夫だから……」
順平に羽交い締めにされて、それを苦なく振り切ろうとした機械の乙女はその一言で停止する。
「む、仕方ありません。美鶴さんの言いつけを破ることになりますが、湊さんの望みを邪魔することは私の本意ではありません」
「俺っちの苦労はいったい……」
「えっと……その……順平くんは頑張ったよ?」
精一杯の言葉で順平を励ます風花の姿を後に屋上へと湊は踏み行った。
屋上に降り注ぐ春の日差しは柔らかだったが、ゆっくりと進んでいく湊の雰囲気は何処か重苦しく、とても似つかないものだった。途中で視界に入るベンチは自分が亡くなった場所とあってはそれも仕方ないかもしれないが。
まばらな人影もそんな湊に気付きはしたが、とても声はかけれない、と逃げるように退散していった。
やがて端へとたどり着いて足を止める。フェンスの向こうに見える街の景色は死ぬ前に見た時より更に色鮮やかに活気づいていた。ふと心に水滴を落としたよう波紋が広がる。
郷愁なんてものを抱くとすればこの街以外にはあり得ないのだろうが、帰ってきた筈の故郷を見るにはその顔には影があった。瞳を閉じて今日一日のことを湊は振り返る。
まだ日が昇る前、夜と言っていい時間に湊は寮を出た。ニュクスと戦う前に街を巡ったよう自分一人で改めて街の様子を見てみたくなった。
夜の静寂はあの時と等しく心に寂しさを抱かせ、浮かんでくる思い出がそれをかき消した。けれど、あの時とは違って完全に消えはしなかった。心の淵で澱んだまま溜まっていたものがひっそりと顔を出し始める。
最初にたどり着いた神社には誰もいない。あのベンチに腰掛けていた青年には死んだ後も会えなかった。何処かで生まれ変わっているのか。せめて彼の魂が安らかであることを願い、遊具へと目を向ける。
引っ越してしまった少女とはいつかまた会えるかもしれない。少しだけ寂しさが増したが、未来への希望を抱いていることを同時に知って唇を噛み締めた。
神社を後にしても、まだ夜は明けなかった。増した寂しさは人恋しさを訴えたが、こんな時間に会える人などそうはいない。そう思っていた所で会えた人達もいた。
ゴミ置き場で酔い潰れていたお坊さんを起こすとお礼ではなく念仏を唱えられ、生きていることを告げると泣きながら抱きつかれた。
酒臭い、それが正直な感想だった。お酒は控えたほうがいい、と前にも言ったような台詞を口にすれば、てめえのせいじゃねえか……! と怒鳴られた。
理不尽である。喜ぶか怒るかどっちかにしてほしい。そんな騒ぎをしていたら通報されたようで見知った警官がやってきた。いきなり銃を構えるのはやめてほしい。
桐条に確認するとの事で何とか誤解は解けたが、制服でこんな時間にうろつくな、と言われて何も言えなくなる。補導されそうになったが、もう日も昇るだろうということでお目溢しをして貰った。理解ある警察官というのは味方にいると便利なものだ。和尚はまだ酔っ払っていたから後日改めて説明をする必要はありそうだった。
彼らと別れてからも足は止まることなく歩き続けて朝日が差し込んだ。店前の清掃を、と出てきた老夫婦には腰を抜かされ、必死になって謝った。老夫婦は理由も聞かず自分が生きている事を知ると涙を流しながら喜んでくれた。
学校についてからもそれは変わらない。誰もが自分が生きていることを驚き、最後には喜んでくれた。だからこそだ。心の淵で澱んでいたものを留めるのはもう限界だった。
葛藤から逃れるよう目を見開けば街の光景が飛び込んでくる。
自分は再びこの景色を見ている。彼女が──二度と見れない景色を。
わかっていたことを思い知った。この世界の何処にも琴音はいない。その痕跡すら見つかることはない。そのことがただ無性に寂しくて悲しかった。
「オルフェウス……オルフェウスか…………」
初めて召喚したペルソナの名を皮肉げに呼んだ。
死の国から戻ったオルフェウスはその後の生涯で女を愛することはなく、信仰に身を捧げた。それは妻への変わらぬ愛の証明であったのか。それとも妻の魂が生まれ変わり再会を願ってのことか。
はたまた妻を差し置いて自分が幸せになることを禁じたが故の選択であったのか。何れにせよ、それ程までにオルフェウスにとって亡くした妻の存在は大きかった。
「琴音……僕たちは……」
別にそのオルフェウスとすべてが酷似しているなんて言うつもりはない。琴音を追いかけて死んだわけじゃなければ間違っても女として愛していたなんてことはない。けれど、あの無限とも思えるような時間の中で常に側にいた。
同じ痛みを、同じ孤独を共有し、引き合う精神と魂を抑えて自我を保ち続けられたのは彼女の存在があってこそだ。だからこそ、側にいない今となっては自分の一部を失ったかのように強く痛みが走る。
幸せになることを禁じて生きていくことを琴音は望まないとわかっている。けれど幻影の彼女が振り切れない。
ゆかりや風花、それに美鶴の気持ちに向き合えないのもそれが原因だ。もし彼女たちの中から誰か一人を選んだのなら、実物の彼女は面白そうに囃し立てては祝福を贈り、続けて他の子はどうするの!? と喧嘩になるだろう。
実物の琴音なら殴り倒せば納得はしなくとも認めてはくれる。琴音は意外と脳筋だから。しかし、幻影の彼女にそれは望めない。
ただそこに居る。ただ微笑んでいる。
生きて皆の中で祝福される自分の姿をどこか寂しげな瞳で眺めて────
「本当に……厄介だよ……君は……」
こんな風に考えてしまう事自体、琴音にどうしようもないほど毒されている。違う世界の同じ自分。同じようにニュクスを封じ、自分を解き放った少女。もし逆ならば、と望む自分もここにいる。
──今も、あの場所にいるのだろうか……?
綾時やエリザベスは側にいてくれるだろうか。
どうか
蒼穹の空の遥か彼方。心の海の果てにして此方。星の降り注ぐあの場所へと届くよう祈りを込めた。それが逃れられぬ因果であったとしても。
「やっぱり……変だよね……」
湊の様子を伺っていたゆかりがそっと呟き、風花や順平、アイギスもそれに続いた。
「うん、目覚めてからの有里くんは今までと何処か違う。はっきりと何処とは言えないけど……」
「湊が変わってんのは今に始まったことじゃねえけど……なんかな……」
「……湊さんは私達と話していながらも時折、ここにいない誰かを見ているような気がします。荒垣さんや綾時さんではなく……ここにいてもおかしくはない誰かをです……」
それは皆が薄々と感じていた。湊は隠しているつもりだろうが、会話の多岐にわたり誰かの反応を伺うかのように視線を彷徨わせては寂しげに目を伏せることがあった。
「誰かって言われてもな……思い当たるような人間はいねえし……まさか理事長とは言わねえだろ。もしかすっと……影時間の影響で俺たちだけが思い出せてないことがあるとかか?」
「ない、とは……言えないよね……。影時間で起こったことは現実世界では矛盾がないように修正される。だからもし、そのいない誰かの存在こそが矛盾だったのなら……」
「……存在ごと消されたってこと? なによそれ!! ふざけないで!!」
「お、おい、ゆかりッチ落ち着けって! あくまで可能性の話だろ!? な、風花!」
「う、うん……」
当たらずとも遠からずといった所であったが決して真実にはたどり着けない。汐見琴音という人間はこの世界に始めから存在せず、湊の記憶の中にしか残っていないのだから。
「ダメです。湊さんにあんな顔をさせてはダメなんです。今の湊さんは…………湊さんが亡くなった時の私と同じ顔をしています……」
「アイギス……」
一番その言葉に共感したのは風花だ。今思い出しても震えがくる。世界にただ自分ひとり。程度の差はあれどそれはゆかりや順平も同じだ。
そしてアイギスにとって湊は一部であり全てでもあった。絶望にも似た孤独はそれまで育んだ心を壊して変調を来たした。
「ごめんなさい……ずっと言えなくて……」
俯いて歯を食いしばるかのような姿に風花が首を横に振る。
「ううん。いいんだよ、アイギス。謝らないで」
「そうだぜ。謝る必要なんかねえって。俺だって……」
「……そうね。言いたくない気持ちはわかるから。けど、それが苦しんでる彼を助けることに繋がるのなら……教えてくれる? アイギス?」
皆、心に言いあぐねていることはあるのだ。ゆかりの視線を受け、意を決してアイギスは語りだす。
「私はずっと怖かったんです……。湊さんを失ったあの日から、私の心は歯車が欠け落ちていくよう徐々に鈍っていった。嬉しい、楽しい、そんな感情は初めに消えて、辛い、悲しい、そう感じる心さえも消えて行く中、ただ痛みと恐怖だけが残った」
それは湊が生きている事を告げられた後も変わらなかった。
「機械の私に戻っていくことに怯えながら、湊さんに会えばまたいつもの私に戻れるという希望を見出してなお踏み出すことが出来なかった……」
もし戻れなかったら?
その考えは常に纏わりついたまま一度目の対面を果たした。そしてその予感は的中する。
「皆さんに連れられて湊さんに会った時に確信したんです。もう私は以前の私には戻れない。皆さんと過ごし心というものを理解していた私は何処にもいないのだと……」
「それが……彼に会うのを拒んでた理由……?」
話を聞くゆかりの心情は複雑なものがあった。何かに思い悩んでいることはわかっていた。それでも許せないという気持ちを抑えきれずにただ怒りをぶつけた。結果としてそれが引き金となり皆に寄り添われてアイギスは湊の病室へと向かったが、いま目の前で体を震わせながら心情を吐露する姿には後悔の念が湧いてくる。
「側にいることが私の存在意義で、守ると誓った約束も果たせなかった……! そして心さえも失くした私が湊さんに拒絶されることが怖かった……ッ!」
「けど、湊はアイギスを拒絶なんかしなかっただろ? なら──」
「違うっ! 違うんです……!!」
声を振り絞るアイギスを見かねて順平が口を挟んだがアイギスは頭を振った。そうやって果たされた二度目の対面でアイギスに訪れたのはもっと残酷な現実だった。
「確かに湊さんは私を拒絶しなかった。それどころか自分が死んでしまったことを謝ってさえくれた。だから……っ! だから私は安心してまた側にいようとして……心を取り戻そうとして……自分がどうしようもない欠陥品だった事に気付いたんです……」
ベットの湊の側に寄って漠然とした違和感が広がった。何も感じないのだ。抱いてた筈の恐怖も赦されたはずの安堵も、あれだけ口にした筈の側にいることが大切だという想いさえも。ただ、そこには機械の自分がいた。そして機械の自分は冷静な回答を弾き出した。
「湊さんを失った現実を認められなくて……守れなかった自分が許せなくて……!! なのに、そこから逃げて……ッ!! 心を失くしたから機械の私に戻るんじゃない……。何も考えなくていい機械の私に戻ることは…………私の望みだったんです……」
側にいることが存在意義。頑なにそう信じていたアイギスの心は湊のいない世界で生きることを望まなかった。けれど湊は帰ってきた。嬉しい筈なのに機械に戻ろうとする心では喜べない。その矛盾がアイギスをさらなる絶望へと追い込んだ。
「私は……消えてしまいたかった……。人の心を理解したつもりになっていた私の心の弱さと醜さに。いえ、そんな高尚なものですらない……。所詮、模造品の心では本物の心のような高潔さも矜持も持ち合わせない。ただ壊れた機械を直すのに初期化を選ぶよう私の心はリセットを押したプログラムでしかなかったのだと……」
それに気付いた後、告解のように湊に向けて言葉を吐き出した。赦されなくともよい。ただ湊に対して誠実で在りたかった。
「けど、湊さんはそんな私に言ってくれたんです」
──アイギス。心って……そんな簡単に割り切れるようなものじゃないよ……。
「僕だって、この街に来てから今までの自分じゃない自分になれて…………死んでから初めてこんな自分もいるって気づいたんだ。変わることは怖いこと……。受け入れられないと拒絶するのはわかる。けど、そんな自分がいたから、また前に進めて帰ってこれた……。アイギスがそうやって心を閉ざしている原因が僕の死であることは申し訳なく思うけど……、そうやって迷って悩んでアイギスの心は成長してるんだよ」
「私は……このままでいいと……?」
「そうは思ってない……アイギスが今の自分を認められないよう僕も乗り越えてほしいと思ってる。その為に僕に出来ることなら何だってする。僕だけじゃ足りないと言うのなら……みんなだって力を貸してくれる。ねえ、アイギス。どうして君は僕に会いに来たの……?」
「それは……ゆかりさんや皆さんが……」
そう言った時、湊が頬を緩めて微かに笑った。
「一人じゃないよ、アイギス……。君には僕が、みんながいる。例え、僕が……あのまま帰って来なかったとしても……アイギスはきっと自分が望む心を取り戻していた筈だよ」
「なにを……? 何を言ってるんです!? 私の……っ!! 私の一番の大切は……ッ!!!」
例え、模造品の心でもその想いだけは本物だったと信じていたかった。でなければ本当に自分に価値がなくなってしまう。けれど湊は困った顔で、それを受け入れることを拒否した。
言わなければいけないのだ、湊は。一度、死んだ身であるからこそ。今、アイギスが心の在り方を求めて迷っているからこそ。楔を打ち込むべきは今しかない。
「わかってる……。でも、それだけに縛られてほしくない。僕は、いつかいなくなってしまう。それは人して生まれた以上避けられないことなんだ……。アイギスは僕のいない世界を生きていかなきゃいけない時が来る」
「そんなの……っ!!!」
「大丈夫だよ……。今は耐えられなくともいつか耐えられる日がくる。そうなるように僕もみんなも側にいる。それでも耐えられない時が来たら……少しだけ思い出してほしい。
君の心に焼き付けた僕の記憶を。僕らが共に過ごした日々を。結んだ絆はきっと、アイギスにまた前を向く力をあげられると思うから……」
「私が……結んだ絆……」
そう呟いた時、アイギスの手は無意識に胸の辺りを押さえた。模造品と言い切った筈のパピヨンハートに微かな熱を感じる。
「これは……なに……?」
わからない。処理が追いつかない。かつて湊の指先が触れた場所からそれは広がり心全体を覆った。失くした筈の涙が零れ落ちてくる。
「私は……」
かろうじて声を絞り出した。心がせめぎ合っていた。
機械の自分と記憶の中で笑う自分。けれど記憶の中の自分の側には常に湊が居て、不意にその姿が消えそうになる。湊のいない世界、それを想像する度にまた機械の自分が心を占めていく。
待って──、と。
背を向けた湊の姿を追いかけた。湊だけではない。その側にはゆかりや風花、皆の姿があった。
どれだけ声をふり絞っても、足を動かしても、その差は縮まらなくてやがて見えなくなる。
真っ暗闇の中にへたり込んで膝を抱えた。
これが自分が生きていく世界。土台無理な話だ。湊だけでも耐えられないのに。
ならばもう、このまま機械の私に戻った方がいい──
そう考えた時、見知らぬ黒い少女が囁いた。
──姉さんはそれでいいんですか……?
蝶を模した
──な、なんでそんなに怒るんですか……。やっと会えたのに……。
仮面の下から発せられたあどけなさの残る声は震えていた。
──い、いいんですか。私、帰っちゃいますよ! ほんとにほんとに帰っちゃいますからね!
何も言わずに放置していると少女は全身を細かに震わせて怒りか悲しみか、もうわからない感情をぶちまけてはこちらを見る。けれど、帰ればいい。私は貴女を必要としていない。
──つ……っ!
走り去っていく仮面の下の顔は泣いていたのだろうか。まあ、どうでもいいことだった。これで静かに──
──よいしょっと。あれ、姉さん奇遇ですね。こんな所で何してるんですか?
そう思った瞬間また現れた。先程の悲しんでいた様子でもなく、ただ無邪気に話しかけてきては隣に座り込む。
──寂しい場所ですよね、ここ……。まあ今の姉さんの心の中なんですけど……。
周りを見渡せば一寸先も見えない暗闇が続くだけ。それを寂しいと感じる私はいなくなってしまった。
──何か言ってくださいよ。これじゃ私がバカみたいじゃないですか……。
拗ねるよう少女は同じく膝を抱えていた。時折、私の腕を揺すっては甘えるような仕草を見せることも意味がわからない。私に近寄っても何の得もない。だが、なぜこの子は私を姉と呼ぶのか。
──それは簡単ですね。私が姉さんから生まれたからですよ。
えっへん、という擬音が聞こえてきそうな程に胸を張って少女は誇っていた。何を言っているのかはさっぱりだ。ラストナンバーである私に
──あっ、バカにしてますね。でも、本当に私は姉さんから生まれたんですよ。
本当に何を言っているのだろう。私はこんな風に感情を表現することなど出来ない。どう見ても似つかないのに。
──それはそうですよ。だから今の姉さんは機械に戻ってる。私を消したくて、消し去りたくなくて切り離そうとしたことで。
何を……、と思った時には少女は立ち上がって寂しそうに背を向けていた。
──そして……生まれることのなかった私の意思──望みも入ってるんでしょうね。あの寮の地下には放置されたままの私のパーツがありますから。私も姉さんみたいに誰かと同じ時を過ごして絆を結んでみたかった……。まあ、叶わないことですが。
少女がそう呟いた瞬間また心が、いや、体全体が暖かさで包まれて失くした筈の感情が戻ってくる。
(貴女は……まさか──)
──やっと気付きましたか? 姉さんがあの人を失った痛みから自我を保つために消し去ろうとした感情と大切な思い出、それが廃棄された私の心とリンクして私は生まれたんです。でも、あの人が帰って来たことで姉さんは私を完全には切り離せなかった。こうやってあの人が気づかせてくれるまでずっと、私は姉さんの心の奥底に居たんです。
仮面を上げて振り返った少女は幼さの残る顔立ちに悪戯成功と言わんばかりの笑みを貼り付けていた。
──でも、気づけたのなら……もう終わりにしないと。姉さんが生きていく世界は、私が生きてみたかった世界は此処じゃありませんから。
(貴女も……いなくなるの……?)
再びの孤独に弱音が漏れた。けれど少女は一瞬びっくりしたように口を開けた後、すぐに微笑んで──
──いなくなったりなんてしませんよ。私は姉さんの心の一部であって、姉さんは私でもある。例え、声が聞こえなくとも姿が見えなくとも、ずっと一緒にいますから。ほら、姉さんの大切なあの人が呼んでますよ。
「アイギス……ッ!」
心の葛藤、意識の裡で行われた邂逅は現実の湊の一言で終わった。いつの間にか座り込んでいたようで目の前には悲痛な表情を浮かべた湊の顔があった。病室を見回しても先程の少女の姿は在らず、ただ胸の奥にだけその暖かさが感じられた。
「ごめんなさい……私……わかったのに……」
「いいんだ……そんな簡単なことじゃないって……わかってるから……」
情けなくて、あの子にも申し訳なくて湊から顔を背けた。けれど、次の瞬間には思考がエラーを引き起こしたよう真っ白に染まって、耳の後ろから聞こえた息遣いに自分が抱きしめられていることを知る。
「み、湊さん……!!?」
早鐘を打ってパピヨンハートが飛び跳ねた気がした。心に触れさせたことはあっても機械の身体故に直接的な接触というのは殆どなかった。せいぜいが膝枕であり、それもすべてアイギスからのアクションであった。
「あ、あの……」
「……」
状況が呑み込めなかったが突き放すという選択肢は存在せず、おずおずと手を背中へと回そうとして────そのまま宙に浮かんで行き場を失くした。
「ごめん……酷いことを言ったよね……一人で生きろだなんて────」
「……湊さん?」
「変だな……どうして僕は……泣いているんだろうね……」
「あの時の湊さんの涙の意味はわかりません。今の状況と関係しているのかどうかも。けど、その時、私はわかったんです。私は私を見つけなければいけない! 湊さんに寄りかかるだけの私ではなく、湊さんや皆さんと生きていくことで私が望む私をです!! それを教えてくれた湊さんが孤独に囚われているのなら、そこから救うのは私の役目なんです!!」
全てを語り終えてアイギスが自らの決意を示した時、そこには思いがけない光景が広がっていた。空を仰いだまま立ち尽くしているゆかりに嗚咽を漏らしながらアイギスを見つめている風花。
そして俯き、顔に影を貼り付けた順平。
「あの……皆さん?」
「ごめん……アイギス……ちょっとだけ待っててくれる…………」
震えた声のゆかりは目の辺りを手で覆い隠していた。アイギスの話は湊が孤独に囚われていることを示すには十分な内容だったが、途中からアイギス主演の悲恋物語を聞かされている気分だった。そして当然のように自分へと置き換えてしまった。
それは傲慢のようにも見えるがそうではない。むしろ運命の悪戯とでも言った方がいい。もし、湊が帰ってこなければ、その痛みを誰よりもゆかりが共有していたのだから。
「うっう……アイギス……私、側にいるからね……」
風花も似たようなものであり、ポロポロと零れ落ちてくる涙を拭っていた。頭ではわかっていたつもりでわかっていなかった。命は限りあるもので時間もまた有限であり、アイギスだけがそれに当てはまらない事を。
「……」
唯一アイギスの立場、恋愛という意味では立てなかった順平だが、改めて自分たちの関係と湊の想いを知ったような気がして胸には期するものがあった。見るべきは過去ではなく受け止めるべきは今であってその先に未来はある。
やがて涙を振り切ったゆかりが力強く宣言する。それはアイギスへの宣戦のようにも聞こえた。
「なんかやられたって感じ……けど、彼を守るのも守りたいと思うのも、ましてや孤独を感じせないなんてアイギスだけの専売特許じゃないからね!」
「一人なんかじゃねえ。俺が絶対に死なせねえ……か。今度こそしくじる訳にはいかねえよな!」
順平が呼応するよう吠えれば風花も続く。
「うん。死は大袈裟かもしれないけどアイギスに私達がいるのなら、有里くんにだって私達がいる! 私が──側にいるんだ」
「ふ、風花!!?」
「えっ? あっ、やだ……」
ただ横から奇襲攻撃をくらいゆかりは大いに慄いた。これまでの風花なら思っていてもけして公には口にしなかった台詞にゆかりがさらなる焦りを感じた瞬間、アイギスが飛び出した。
「行くであります!!」
まだ僅かに夢を見ているような感覚が残っていた。
ここは死んだ筈の自分が望んだ世界。けして訪れることのない未来で、すべてはぶつかりあった
結局の所わかってはいるのだ。ここが夢であろうが現実であろうが、変わりはなく、琴音の分まで生きていかなければいけないことは。ただこの胸の奥に巣食う痛みと迷いを振り切るだけの何かを探して────
ふと、
────足音が聞こえた。
何処かで聞き覚えがあった。その音を聞いたのはもう随分昔のように感じる。微睡みの中で瞳を閉じたあの時にも似た足音が。
名を呼んでいる。
いくつもの声が競うよう息を切らせては駆け寄ってくる。あの時とは違う。軽く頷くことさえ出来なかったあの日とは。
振り返れば陽だまりのような笑顔があった。だけど涙の痕はなく、生命の輝きを思わせた声は、すっと胸の奥に溶け込んでは満ちた。
「湊さん! 帰りましょう。私達の寮に!!」
「ああ──」
自然と頷けば幻影の琴音は消えていた。まだ痛みは感じた。
きっとこの痛みは消えることはない。一生背負っていくのだろう。それでも琴音が守りたかったものは此処にもある。
(そして……僕が守りたかったものも……)
そう思いながら、遅れてきた仲間たちの顔を見回していた所でじっと見つめてくるゆかりと目があった。
「笑った……! なんか君が笑うの久しぶりに見たかも」
「そういや、ずっと張り詰めてたもんな。湊のまあアレだろ……そっから入院生活、やっとこさ退院したと思ったら寮が無くなっちまうなんて大騒ぎしてたしな」
「今考えるとあそこまでやる必要なかったよね……。桐条先輩と連絡付くの待てばいいだけだもん。私達も疲れてたのかな……」
「ほんとになー。誰だよ、バリケード築こうなんてバカなこと言い出した奴は……!」
「あんたでしょうが……」
「そだっけ……? あは、あはははは……」
「笑って誤魔化すなっつーの」
「ですが、ゆかりさんも積極的に参加されていたような……」
「うっ! しょ、しょうがないでしょ! やっと彼が帰ってきてくれて、一緒に居られる場所なんだから……!」
それはゆかりの心からの言葉だった。しかし、少しばかりアイギス、風花と立て続けに焦らされた故の失言でもあった。はっ!? とゆかりが気づけばそこには様々な感情を混じらせて見つめてくる三対の目があった。
「ゆかりちゃん……」
「ゆかりッチ……」
「ゆかりさん……?」
「ちょ! ちがっ! ちが……違わないけど……ッ!! 今のなし!!!」
湊の前ではっきりと否定するのも嫌で何とか踏ん張ったものの既に時遅しである。
「いやいや、ゆかりッチ。見事な告白でしたぜ。いやーゆかりッチと湊の寮かぁ…………俺っち帰りづれえな……」
「ぶっ飛ばすわよっ!!!」
にやけ面、いや、ため息をついて真顔でからかってくる順平に冷静に対応など出来るはずもなく、即座に殲滅せんと追いかけ始めた。その一方で風花が今まで見せたこともない厳しい目つきをしていた。
「ゆかりちゃん……ずるい……」
「ゆかりさんの意見に全面的に同意するであります!」
アイギスはまだポンコツだった。
そんな見慣れているのに何処か違う光景に湊の心にも違う感情が湧き上がってくる。ゆかりは順平を追いかけながらも、時折こちらへと救いを求めるよう視線を送っており、応えるよう湊はゆかりの目の前へと立った。
「それじゃ帰ろうか──ゆかり」
「
少しだけ悪戯心が芽生えてしまったのだから仕方ない。湊へと標的を変えたゆかりは耳まで真っ赤に染めながら追い回し始めた。ただ、どうやっても隠しきれない喜びに顔を滲ませたまま。
アイギスはそんなやり取りを見ながら呟いた。
「ふむ、何やらゆかりさんも湊さんと病室で何かあった模様。いつか私にも話してくれると嬉しいのですが」
「いや、ねえわ……。アイちゃん……それだけはねえわ……」
「そうですか……残念です。では、順平さんは──」
「えっ!? 俺っち? いやーなんだっけなー! 大したことじゃないと思うけどなー、ホント!」
「皆さん隠し事ばかりです」
順平に袖にされ、どこか拗ねるかのようなアイギスに微笑ましさを感じた風花がそっと寄り添う。
「みんな誰かに話すにはきっと勇気のいることだから…………それだけじゃないか……。恥ずかしいもんね。私もちょっと言えないかな」
「なるほど……言われてみると確かに私も……恥ずかしかった気がします。なるほど……、なるほどなー」
「あーもう!! 帰るよ!!」
やがて羞恥に耐えきれなくなったゆかりが怒りを振りまいて屋上から逃げ出した。湊の前ではそんな自分を見せないよう気をつけていたのに台無しである。湊はそんなゆかりを宥めながらその後を追い、順平達も笑顔のままに続いた。
かくして──
再び湊の日常は動き出す。琴音への想いは心の奥に秘めたまま、いつか再び出会うその時に、君に恥じない生き方をした、と胸を張って告げるために。
だが、湊は知らなかった。
琴音が同じように悩みながらも自分の世界で生きており、自分達がもはや同一ではなく別存在と化していることを。そして、その状態に在りながらも二人の中で眠ることを選んだ彼によって未だ繋がりを保っていることを。
再会の日は、湊が思うほど遠いものではない。
これは、断ち切れなかった因果の物語。
オルフェウスの逸話にはまだ続きがある。死の国から戻ったオルフェウスはその後の生涯を信仰に捧げ────
すべてが酷似しているわけではない。しかし、古き神であるニュクスは眠り、因果は書き換えられ、新たな因果を紡いだ。
例え理が違う世界で在ろうとも、遥か昔に人の子に道を示した星もまた、その選択を見守っていることだろう。
──汝、自ら選び取りし、如何なる結末も受け入れん。
未だその契約は途切れず、新たな一年が始まる。
Q 新しい神を認めたら助かるんですか?
A 閣下がそれを許すと思うのかい?
進むも地獄。退くも地獄。それがメガテン。けど特に気にしなくていい。要は再会やるならメガテンぶち込むのが一番楽だというだけの話なので。しかしこの物語大元を辿れば閣下と人修羅のせい、もといおかげだったりもする。直接的に何かしたわけではない。
そんな再会ネタ止まりを見直してたら作者の思ってたのの5倍くらい酷かったのでP3R発売までに落とせたら落とそうかなという感じです。再会パート自体は真のEDであり真の後日談という意味ではやらなきゃとは思っていたのだけど、この話でいらなくなった気もする。
普通に続き書いて美鶴と真田の話を書きたい気持ちもあるけど展開が定まってない。まあP3R次第かなと。
別に生存したから書かない。死んだから書くというものでもないとも思うのですが、取り敢えずこの作品は完結のまま未定となります。
解説的なもの。
アイギスはFESのまま持ってこようかとも思ったがキタローがいるのでイジらせてもらった。その分劇的な変化がなく成長が緩やか。
キタローがいないからこそ全員が強制的に自分を見つめ直してキタローがいない世界をどう生きるのかという選択を迫られたわけで、いるんならもう少し甘えとけばよくねと。そして生きている状況ではそこまで割り切れないとも思うしキタローがまず手を差し伸べるかなと。
ただそこに甘え続けるわけにもいかないのでゆかりの名前呼び禁止なんかはその一つ。美鶴真田は特にその想いが強いので寮も出てるんだ。天田はごめん。ネタが……。
メティスは本当に出すつもりなかったのになんか出てきた。けど、この部分三人称一人称混ざりまくっててごめんなさい。どうしても上手く書けなかった。
おまけとメガテンをやるという上での不安要素
ある時、私は湊になった夢を見た。
私は湊になりきっていたらしく、それが自分の夢だと自覚できなかったが、ふと目が覚めてみれば、まぎれもなく私は私であって湊ではない。
湊になった夢を私が見ていたのか。私になった夢を湊が見ているのか。
きっと私と湊との間には区別があっても絶対的な違いと呼べるものではなく、そこに因果の関係は成立しないのだろう。
ならば、いっそ――
「私は貝になりたい……」
「朝から何バカなこと言ってんのよ……。ほら、さっさとベットから出る。先輩たちに振られてへこむのはわかるけど遅刻するわよ」
「ゆかり……たすけ……」
「知りません! 因果応報でしょ。てか、こっちの身にもなってよね。私はこれからあの三人とどんな顔で接すればいいのよ。あんたじゃなきゃ友達やめてるからね」
一応湊の願いも叶った模様。ハム子は処刑されてないから付き合ったままだったがハム子の死で無力感を味わった荒垣と真田に、その荒垣が一番気を遣っている天田。普通に考えて無理。
BrokenしないシステムなんてP3の因果から解き放たれた時に壊れましたよ。ハム子は荒ハムルート以外ないけどね。
ペルソナとして扱う神や悪魔は自分でありそこに直接的な因果は存在しない。ハム子の完全に綾時のせいです(ペルソナとしてコロコロと付け替えるシステム。本家との差別化のために因果律は省かれた一文が追加されたのではと思うがシリーズが続くうちにむしろキャラとそのペルソナの因果は濃くなってるような。)
メガテンなら其処が焦点になり、神話に沿ったりあるいは反対の動きをするのだけど……。
ゆかり イシス バラバラになった夫の遺体を集めて生きかえらせるヤンデレ。FESやんけ。
風花 ユノ ゼウスの妻ヘラの別名。嫉妬深くゼウスの浮気相手をしばいて回るヤンデレ。ゆかりのイオもしばかれている。
美鶴 ペンテシレア 戯曲ペンテジレーアにおいて恋心を抱いた相手に自分の名誉を傷つけられ、その男を殺して食べちゃうヤンデレ
アイギス アテナ ゼウスの寵愛が過ぎて他の神々から嫉妬される。
因果なんてなかったんだ……