キタローとハム子の戦争 作:ハーイヨールニャル
※ 注意点
この話はP3R発売で使えなくなりそうなネタの供養でもあるんですが、文量が多過ぎて修正が間に合わない所か、地の文がなく会話文のみの箇所が多々あります。
心情的にはニュクス戦が迫る中、育成もコミュも足りてないけど、ネタだしハルマゲドンぶっぱしちゃえという投下です。
それでもよい方はお読みください。
この話は三学年の何処かとしか時期を定めておらず、普通に続きを書いた場合でも何れ行き着くことにはなるであろう話です。内容は変わるでしょうからやはり今の時点ではネタなのです。ただ恋愛面はこの話がないと進まない気はする。
汐見琴音にとって生き返ってからの生活はけして順風満帆と呼べるものではなかった。体が回復してきた頃には傍らにいた真田から別れ話を切り出され、放心する間もなく入れ違いで入ってきた天田から別れ話をくらった。
目が覚める前からずっと側にいた湊を睨みつけて恨み言を吐いてみるものの、その湊が自分を罵りはするが慰めてはくれなかったことに、自分の心が生んだただの虚影であったことを知って一人で涙した。
いや、頭の何処かではわかっていたのだ。湊はまだあの場所にいるのだろうということは。けど、それを信じたくはなく、また湊も幸せでなければいけない、幸せである筈だという願いと離れたくなかったという思いは虚像の湊を作り上げる程に琴音の心を悩ませていた。
荒垣進次郎の生存という喜ばしい結果もここでは逆に働いた。両親を失った時以来と言っていい痛みは慟哭となって溢れ出した。アイギスとの話し合いではむしろ琴音が現状を認識して受け入れることに苦心した。
それもあってか、荒垣に別れ話という止めをさされた時には流石の琴音でも最早立ち上がる気力はなく貝となって引き籠もることを選んだ。
そんな後ろ向きな企みはゆかりと復活したアイギスによって阻止され、渋々ながら学園生活を始めた琴音だが、すべてが悪い方向に向かっていたわけではない。
荒垣は昨年時の前期は学校をサボり続け、後期には入院と、出席日数が足りておらず二度目の三学年を送ることが決定していた。
また美鶴や真田は寮を出たものの荒垣だけは変わらず寮に在籍しており、琴音にとって一度恋愛関係をリセット出来たことは前向きに捉えられる要因となっていた。ただ荒垣たち三人の関係を考えるにそれは茨のような道であったが。
ともかく、ようやく訪れた平穏を噛みしめるよう日々を歩み始め、琴音たちは最後の高校生活を全力で楽しまんと青春を謳歌していた。
これはそんな日常を揺るがした一幕。非日常からの再びの誘い。
交わることのなかった世界は再び交わる事となる。
「あーもう、なんで今さらシャドウの相手なんかしなくちゃいけないのよ!!」
琴音はその辺に落ちていた棒きれを振り回しながら低い声で唸った。側には美鶴、真田、荒垣、それに天田の姿があったが、シャドウ相手に応戦しているのは荒垣だけである。他の三人はシャドウとも言えぬ何か得体の知れない影のような存在による強襲をくらい沈黙を余儀なくさせられていた。
三学年に上がり、寮を出た美鶴と真田と会うことは少なくなったが、珍しく皆が揃うことになり、寮は宴会じみた盛り上がりを見せていた。それが体感にして今よりおよそ2時間程前のこと。
気付いた時には琴音たちはこの何処とも知れない場所にいた。宴会とはいえお酒を飲んだわけでもなく、記憶を失い酔いつぶれたということもない筈なのに、どうにも此処に到るまでの記憶が曖昧である。ただ急に強い眠気を感じたことだけは覚えていた。
召喚器もない中で軽く探索を始めた所、転移の罠にひっかかり、ゆかり、風花、順平、アイギス、コロマルとは分断されてしまった。そちらの様子も気にはなるが、召喚器がなくとも風花なら感覚である程度シャドウを避けられる筈と深刻には考えていない。問題があるとすれば、やはり先ほど皆を襲った影だろう。
あの時もはっきりと見えた訳ではないが、時間や距離を無視して引き合い溶け込んだように見えた。精神のみならそれは可能に思えたが体はどうなったのだろう? と戦いながら琴音は自分の体の感覚を探ってみる。すると繋がりは感じるものの、どこか遠くに在るよう感じられた。
(ベルベットルームに近いのかな……ここ?)
精神と物質の間にあるベルベットルームに自分が訪れている時には仲間たちからボーっと虚空を眺めていたとも言われたことがある。
繋がりが確認できたことで、死んでいるわけじゃないと一安心したものの、別の問題の発生に気づき、その鼓動は高鳴り続けていた。
半ば確信めいたものはあるが、信じられない気持ちと、どう受け止めればよいのかわからず、シャドウを掃討する琴音の顔は百面相のように変化し続けていた。
(なんか気持ちわりぃな……)
側で戦う荒垣がそんな感想を抱きつつ最後の一体を倒した所で蹲っていた真田へと声をかけた。
「アキ、大丈夫か?」
「ああ、問題はないようだ…………シンジ? バカな……ッ!? シンジだとっ!!?」
「あ? てめえなに言って──うおっ!? いきなり何しやがるッ!!?」
起き上がりざまに放たれた拳を避けて荒垣は真田を睨んだ。混乱でもくらったかと思い、荒垣も拳を構えたが、真田は申し訳無さそうに謝罪を述べた。
「い、いや……すまん。おまえがシンジだということはわかっている。わかってはいるが……なんだこれは……ッ!? 俺の中におまえが死んだ記憶がある……!」
やっぱり、と真田の変わりように琴音は確信したが、言われた荒垣からすればただ不快なだけであった。
「……だから、確かめる為に俺を殴ったってか? そういう時はまず自分だろうが。それに俺が死んだとは冗談にしても笑えねえぞ」
「冗談……なんかじゃないんですよ……」
「天田?」
「僕の中にもあります。荒垣さんがあの時、僕を庇ってそのまま亡くなった記憶が……これは……この感情は……嘘なんかじゃない……!」
「いったいどういうことだよ、これは……」
天田にまでそう言われては荒垣も頭ごなしに否定はできなかった。怪訝そうに皆の顔を見ると美鶴もまた立ち上がって自分の記憶を確かめている所だった。
「どうやら私たちはまた面倒なことに巻き込まれているようだ。私の中にもあるな。荒垣が彼処で死んだ記憶と生き延びてこの場所に到るまでの記憶が。どちらも鮮明であり、どちらかが嘘だとはとても思えない」
「つまり……俺は死んじまったからその記憶はねえってことか? ふざけんじゃねえぞ!!」
「そうは言われてもな……」
「正直すごくきついんですよ、これ。僕には真田さんと一緒に墓参りに行った記憶まであるんですよ。なのに荒垣さんは生きていて話し合った記憶もある。二つの感情と記憶がせめぎ合ってて頭がおかしくなりそうなんですよ」
「……」
「荒垣のこともそうだが……他に気になる記憶がある。汐見……君は何か心当たりがあるようだが?」
そこで話を振られて琴音がびくっと体を跳ねさせた。
「心当たりと言いますか……あるにはあるんですが……まさかねって感じで……私にもよくわからないと言いますか」
「なんだそりゃ? 知ってることがあるならとっと吐きやがれ。気持ち悪くてしょうがねえ」
「と、とりあえず、ゆかり達との合流を優先しません? 私の予想通りならゆかり達にも変化がある筈です」
「岳羽がどう変わると言うんだ?」
「たぶん……乙女になってます。ああ、でも私から見ての話だから、みんなからしたら変わらないのかな。私よりも美鶴先輩の方がわかるんじゃないですか?」
「私がか?」
そう言われて腕を組んで考え込むような美鶴であったが、記憶にある何かを見つけて一瞬で顔が朱で染まる。明らかに動揺しており、声も甲高く上ずっていた。
「…………君の言いたいことはわかった。いや、だが、しかし!! これは本当に私の記憶と感情なのか!!? 私がこんな……」
「受け入れたほうが楽ですよ。まあ、私もなんで? って思いましたけど。うーん、どうも綺麗には混ざらず私の方のみんながベースになってるような気がするなぁ。私が側にいるからかな? まあ、あっちに会えばはっきりするか。本当に生きているんならだけど」
同じ頃、転移の罠にひっかかった面々にも琴音の予想通り変化が現れていた。其処にいない筈のもう一人、有里湊はただ一人でシャドウを掃討し終えた後で蹲っていた少女へと声をかける。
「岳羽?」
「ち、近づかないで!!」
「……」
「うわっ! いつにもましてゆかりッチのきついこと……。湊、おまえ何したんだよ?」
手を払われ拒絶されたことに湊は少しだけショックは受けたが、顔には出さないまま順平へと声を返した。
「……特になにも」
「い、いや、違うからっ!! 君がなにかしたわけじゃなくて!! 私の感情の整理がつかないっていうか!! もう、ほんと何なのこれっ!!!? なんで今さら……」
顔を赤面させて必死に言い訳をしているかのようなゆかりの姿とそうなったであろう原因には湊も思い当たることがあり、それを信じるかは別として追求はせず、合流を優先することにした。
「……山岸、先輩達の位置は?」
「ひゃ、ひゃい!! えっと! たぶんだけどあっちの方じゃないかなって!!」
頬を紅潮させて目線を合わさず風花が答えた。召喚器がないため当てずっぽうではあるが、この中では一番信頼がおける。しかし、慌てて指さして方角だけを示す姿では精度は落ちているかもしれない。
「なんか風花もおかしくねえか?」
「ゆかりさんと風花さんは共に心拍数の急激な上昇及び、体温の上昇が見られます。風邪でしょうか?」
「アイギスと順平は変わらないんだね……コロマルも……」
アイギスの状態は半ば予想していたこともあり驚きはなかったが、順平の姿は意外に思えた。足下にじゃれついてくるコロマルはよくわからない。
「あー、いや、そう言われっと……さっきから何か変な感じはしてんだけど、湊……おまえさ、男だよな……?」
「……先を急ごう。たぶんそこに答えがある」
半ば確信に近いものはあった。風花のようにその気配は感じ取れなくとも魂が震えている。あの日、失くしたものを求めて。
「あ、いた」
「……」
湊と琴音が出会った場所はまるで中世の城の大広間のようであった。豪華絢爛なシャンデリア吊るされ壁際には今にも動き出しそうな騎士甲冑が剣を掲げて配置されている。それらには目もくれず、湊と琴音はお互いの顔を見つめ合っていた。
「琴音……!? 無事で……ッ!」
「有里……これは……?」
「痛……っ」
荒垣以外の面々が声を出すと同時に頭を抱える。湊と琴音の姿を確認したことでその記憶と感情ははっきりと認識され混ざり合う。心にかかる負荷は相当なもので暫くの間誰も声を出すことができなかった。コロマルですら二人の顔を交互に見合わせてはそのままお座りの状態で静止していた。
そんな中で最初に動いたのは、
「湊さんと琴音さんに同時に会える日が来るなんて……今日は私が目覚めてから最良の日であります」
恍惚とも思えるような表情でアイギスが再起動を果たした。続けてコロマルが尻尾を高速で振り回しながら二人の間を行き来する。
「……有里……湊です」
「いや、知ってから……なんだその唐突なボケは……あっ、琴音に対してか?」
突然、自己紹介を始めた湊に釣られるよう順平がツッコみ、整合の取れない湊と琴音の存在に美鶴が頭を悩ませる。
「これはどう受け止めればよいのだろうな……有里と汐見……共に過ごし戦った記憶はあるが……二人が同時に存在していた事実はない……」
「世界が二つ在ったってことですよ。私がいる世界と湊がいる世界……だから私達は同時には存在していない。存在自体は同一らしいんですけどね。私も自己紹介するべきなのかな? けど、さっきのは私に言ったわけじゃないよね」
琴音が疑問に答え、隣にいる荒垣の様子を伺う。やはり荒垣には湊の記憶はなく、黙り込んだまま怪奇そうな表情を浮かべていた。
「並行世界ってこと……? それも彼か琴音のどちらかしかいない……あー頭こんがらがる……嬉しい……うん、嬉しいけど」
「こんなことってあるんだね……でも、有里くんと琴音ちゃん。どっちも大切だし二人が同時にいる今はすごく素敵なことなんじゃないかな」
ゆかりと風花は混乱しながらも現状を受け入れだした。
「真田さん……これって喜ぶべきことですよね……」
「ああ……そうに決まっている……。だが、難しいな、これは……」
やはり荒垣の存在がちらついて真田と天田の雰囲気は重く表情も固い。受け入れるには時間がかかりそうだった。
「つまり何らかの要因によって有里と汐見の世界が繋がり、側にいた私達はその記憶と感情を同化させてしまったということか……いや、待て、精神はそうだとしても肉体はどうなった? 物理的にそんなことが可能なのか?」
「それはたぶん大丈夫です。ここは精神と物質の間、ベルベットルームに近い気がするので。私達の肉体は今頃、寮で眠っている筈です」
「ここは精神世界になるのか……だが、意識してみてもそうとわかるほどの違いがない。本当にと疑いたくはなるが、あの時、急激な眠気を感じた後にはこの場所に迷い込んでいたことを考えれば事実だと言えるのか」
美鶴がいまいち自覚できない体の感覚に戸惑い、天田からは不安がもれた。
「戻れるんですかね……これ? いえ、特段戻りたいってわけじゃないんですけど。もし、どちらか片方にしか戻れないとなると大問題になるんじゃ……」
「……寮で学生の集団が変死……笑えねえな…………はっ!? て、ことはどっちかの世界じゃ俺っちを偲んでチドリが泣いちまうってことじゃねーか!」
「あんたふざけたいのか、深刻なのか、どっちかにしなさいよ。それにチドリちゃんこないだ言ってたわよ。順平は私の探してた人じゃないって」
「えっ……? ゆかりッチ、それ、どどういうこと!!?」
「知らないわよ。別に相談されたわけじゃないんだから。自分の胸にでも聞いたら」
「おい、おまえら。もう少し真面目に事態を考えろ。俺たちは今ここが何処で、なぜここにいるのかすらわかっていないんだ。現実世界への帰還については気になるが、それを考えるのは後だろう」
話がずれそうになった所で真田が一喝した。ゆかりや順平、あるいは美鶴も困惑よりは二人が同時にいるという嬉しさの方が勝っているようで何処か浮ついた雰囲気が漂っていた。
そして肝心の湊と琴音といえばまだ一言も会話していない。互いに視線だけ何度かは合わせるものの、すぐにどちらかが逸してしまう。その微妙な空気に気づいたアイギスが橋渡しのよう話を振った。
「お二人は面識は有るのでしょうか? 推測になりますが、お二人が私と病室で話し合われた時、涙を流されたのはお互いのことを思って泣かれていたのではないのかと思う次第であります」
「えっ!? 湊、泣いたの? 私を思って?」
「……」
嫌な流れだった。目を丸くしたかと思えば次の瞬間、琴音はにやにやと顔を綻ぼせながら湊を見つめてくる。
「琴音さんは心を失くしていた筈の私が何としても心を取り戻して慰めなければいけないと思うくらいの大泣きでした」
「ちょ!? アイギス!! それは秘密だって言ったでしょ!」
されど続けての暴露にううっ、と小さく唸ると恥ずかしくなったようで湊からまた顔を背けた。
この話はやめよう。二人が同時にそう思い、その原因となったアイギスを見る。
「アイギスは合わさっても問題はなさそうだね……」
「湊、アイギスは変わらないって言ってたじゃん。こういう状況を想定したわけじゃないけど、その通りだったね」
「当然であります。私にとっては湊さんも琴音さんもどちらも変わらず大切な方。二つの記憶が重なり嬉しさは倍倍増であります」
誇らしく胸を張り、アイギスが応じる。しかしだ、いつもの台詞を言おうとして異変が起きた。
「私の一番の大切はあなたの…………? あな……あなたの? 大切はあなあなあなたの大切は……」
「ちょっとアイギス!? 煙出てないっ!?」
「アイギス、それ以上考えちゃダメ!」
「はっ!!? す、すみません。どうも"あなた"というワードはこの場合どちらか一人のみを示すようで思考機能が処理落ちしたようです。仕方ないので緊急措置として、私の一番の大切はお二人の側にいることです、と訂正を行わせて頂きます…………しっくり来ませんね……」
「これは予想外」
ゆかりや風花に介抱されてショボくれるアイギスに琴音が呟き、湊が相槌を打った。
「こうやってみんなを見てると綾時は凄かったんだなって思う……」
「なにも変わらなかったもんね」
「心と心がせめぎ合ってる……本当に大丈夫だと言えるのはコロマルだけかもしれない」
そのコロマルはアイギスを元気づけるよう顔をペロペロと舐めていた。その仕草に不意に琴音が何かを思いついたようで確認のように湊へと問いかけた。
「ねえ……コロちゃんって最後に何が食べたいと思う?」
「…………先輩の作ってくれたご飯……」
荒垣が側にいる現状であえてその名を外したことで、この湊が自分の知る湊であることを琴音は確信した。
「あ、本物の湊だ。覚えてたんだね、こんなやり取り」
「そりゃ、この後に僕は弾かれたからね……」
「んん? そうだっけ? むしろ私がものすごくキレられたような……」
「そんなことはないと思うけど……覚えてないことの方が多いから……」
「私も全部は覚えてないよ。綾時の事とか聞きたいことはたくさんあるんだけど、それよりも先に言わなくちゃね。湊、生き返れてよかったね」
「……君もね」
意外にもあっさりとした再会だった。別に劇的で感動的な再会を期待していたという訳でもないが、琴音のことだから抱きついてくるくらいのことを湊は覚悟していた。湊だってそうやって喜びを示したい気持ちがないわけではない。
ただ、そんな事をしてしまえばこの先、一生このネタでいじられる。湊がそう考えているということは琴音もそう考えているということ。
(相変わらず素直じゃない……)
まったく同じことを両者共に考えていた。
しかし、ここから先となると湊には不安があった。何処とも知れぬ場所で手がかりを求めて探索を始めようにも言わばリーダーが二人いる状態であり、おそらく湊は主導権を握れない。
今さら仲間たちとの関係性に引け目は感じないが性格の違いはどうしようもない。その予想通りに琴音が突拍子もない事を言いだした。
「せっかく私と湊が居るんだしチーム分けしよっか。ゆかりと美鶴先輩、それにアイギスとコロちゃんはこっちね。湊の方は荒垣先輩に真田先輩、順平と乾くんね。風花は私たちと一緒に来てこっちからナビ出して」
「えっ? 構わないけど男女で分けるの? それにナビって言っても今は召喚器がないから、みんながどの方向に居るかくらいしかわからないよ」
「その方がたぶん今はやりやすいよ。順平は変わらないかもしれないけど。何かあったら私達の方から湊目指して合流すればいいしね」
「いや……、俺も今はそっちに混ざる気はねえな……なんつーうのかな……自己嫌悪?」
順平が混ざってしまった自分の感情を確かめながら言った所で湊は大きくため息を吐き出した。
「琴音が何を考えてるかはわかるつもりだけど……露骨過ぎない? それに僕の方で何かあったら……」
「えっ!? 何のことだかわからないなー! ほら、早く行った行った。話したい事あるんでしょ?」
「はぁ……まったく……ずるいよね、そういう所……」
微笑みながら湊の背を押す琴音の視線は荒垣へと向かっていた。
「汐見、このチーム分けの意味は……」
男性チームの姿が見えなくなった所で不思議そうに美鶴が問いかける。確かに湊が荒垣に抱く想いの解決という考えも琴音にはあった。しかし今やそれはメインではない。
「恋バナをしようかと思いまして」
「「「……っ!!?」」」
焦る女性陣を尻目に琴音は心の中でグッと一人ガッツポーズを決める。これこそが琴音の目的。ここが何処だとか。この状況は何だとか、今はそんなことはどうでもいい。
なにせ彼女達は花も恥じらう女子高生(内一人卒業済み)にも関わらず、琴音以外は恋愛に現を抜かすことなくシャドウとの戦いに明け暮れ、平和になった今でさえ意識を共有した女性陣には恋愛話がこれぽっちもなかった。いや、美鶴だけは琴音がぶち壊したようなものだが、気持ちもない政略結婚など琴音は恋愛とは認めない。
琴音から相談をすることはあれど相談を受けることは皆無。これまで非常に寂しい思いを琴音は抱えていた。そこに降って湧いたこのチャンス。唯一その相手が相手な為気に入らない所はあるが、そこはこの際目を瞑る。例え夢であろうと目が覚める前に何としてでも琴音は恋バナがしたかった。
「恋バナでありますか?」
「アイギスは平気そう……心がまだ成熟してない……もしくは恋愛感情じゃない……? うーん、保留で。ゆかり達はやっぱりって感じかぁ」
「何がやっぱりなのよ……」
「おやおや、ゆかりはどうしたのかな? いつも彼氏なんていらないって言ってたのに」
「琴音……あんたねぇ、わかってて言ってるでしょ……てか、ニヤニヤすんな!」
「風花もね、意識してるのバレバレだよ。まあ私の方のゆかりは恋人なんて興味ないって言い切ってたし、風花もその手の話題はからっきしだもんね。あっちのゆかりと風花が合わさったらそうなるよ」
「あう……」
真っ赤になって抗議するゆかりと顔を隠してしまった風花を見て楽しむ琴音であったが、琴音もここまで気の置けない友人たちと恋バナをしたことなどなく、これが正しい楽しみ方であったかどうかは琴音自身にも不明であった。
「美鶴先輩は……あれ? さっきより平気そう?」
「……そう見せないように対処しているだけだ。私だとわかっているのにきついな、これは……。思い返すと羞恥で憤死しそうになる……」
「皆さんも湊さんと琴音さんに抱いている感情が整合を取れないということでしょうか?」
「アイギス、説明しなくていいから……」
「二人に、というよりは自分自身への折り合いだな。彼に対する気持ちがある自分とそんなことを考えもしなかった自分。出来事は違うが天田が言っていた意味がよくわかる……」
「美鶴先輩……っ!!」
「今さら隠すことでもないだろう。少なくとも彼の方の私たちは自分の気持ちを自覚して選択を委ねた身だ…………言っておいてなんだが……腹が立つな。その選択を受け入れている自分にも」
「いや、でも琴音の前で言うことじゃ……」
「ほうほう、なにを自覚して何に腹が立っているって?」
実に楽しそうな琴音の表情にゆかりの頭の中でなにか線が一本切れた。
「あんた、ほんと腹立つ顔するわね……。なに? あんたの恋愛相談切り捨てたこと根に持って面白がってんの? あれはあんたがどう考えても悪いでしょ!」
「うぐっ!!」
調子に乗りすぎてた琴音に痛烈なカウンターが突き刺さる。琴音がガードを固めて後退を考えるより早く追撃が飛んでくる。
「あ、そっか。有里くんは琴音ちゃんと同じ存在なんだよね。だから真田先輩たちが好きになっちゃったみたいに、私達もこうなっちゃったのかな……」
「明彦たちに呆れを抱いている私がいれば、同じ目に合わされて、それでも彼を嫌いになれない私がいる。まったくもって笑えない話だが……そんな所まで同じでなくてもよいだろうに……」
「そうよ! ぜんぶ浮気者の琴音が悪いんじゃない! あんた私達をどれだけ振り回すつもりよ! 責任取りなさいよ!!」
「せ、責任って……待って待って! やったのは私じゃないから!! 湊だから湊!!」、
「やってることはあんたと一緒じゃない!!」
「違うー!!!」
身に覚えのないことまで追求されて必死で弁解を図る琴音だが、怒り出してしまったゆかりには届きそうにない。まるでリベリオンやコンセトレイトのようにバフをかけてその罪は上乗せされていく。
「……そうだな。汐見と有里は違う。なにせ有里は報いとして私が処刑しているからな」
「そういえばそうですね。私も思いっきり殴りましたもん。琴音は何の罰も受けずにのうのうとしてたもんね」
「私は何もしてないけど、琴音ちゃんが何のお咎めもないのは不公平だよね……」
「えっ!? なに、この流れ……?」
楽しい楽しい恋バナの筈が気づけば琴音は猛獣の檻にでも入れられたような息苦しさと圧迫感を味わされていた。
「観念しなさいよ、琴音。先輩たちが優しいからって好き勝手やってきたあんたにツケが回ってきたのよ」
「ツケって……湊のやったことまで私のツケにされても…………」
後ろ暗さからか小さく言い淀んでいた琴音だが、そこであることに気づく。
「ねえ……ひょっとして統合したことで湧き上がった湊にはぶつけられない怒りを私にぶつけようとしてない?」
「……ッ! そ、そんなことないわよ。ね、ねえ、風花?」
「そ、そうだよね。ゆかりちゃん、そんなことはない……かな」
目を泳がせながら、ゆかりが琴音から顔を背けた。琴音はジト目である。
「怪しい……大体私のせいで湊までってのがおかしいんだよ。それを言うなら湊のせいで私がこうなったとも言えるでしょ」
「それはそうだけど……」
「ね! ね! だからそう、悪いのは全部みな──」
「琴音さんと湊さんは同一であるため、どちらかのせいと言う問題自体が正しくないと思われます」
「アイギスっ!? 余計なことをっ!!」
「やっぱり琴音は悪いんじゃない!!」
「ちぃ! はいはい、私が悪うございましたよ。でも、ゆかりたちに3股かけたのは湊であって私じゃないからね。それでも私を処刑するってんなら好きにしたらいいじゃない。あーあーゆかりが親友よりも男を取る日がくるなんて思わなかったよ」
「開き直った上に不貞腐れてるわね。嫌な言い方してくれちゃって、もう……」
「それに罰なら受けたもん……私はもう振られてて湊みたいに選択権とかありませんけど!」
「そりゃそうでしょ。威張らないの」
「琴音ちゃん、振られてたの!?」
「そうよ。聞いてよ、風花。琴音は先輩達に振られてどうしたらいいかって私に泣きついてきたのよ。そんなもん切り捨てるでしょ」
「ちょ!? ゆかり!」
「なによ? 恋バナしようって言ったのはあんたでしょうが! 私達だけが面白がられてたんじゃ不公平にも程があるわよ。それに、さっきの台詞は次に言ったら許さないからね」
「ごめん……」
「──つまり、明彦は汐見の死で自分の無力さに嫌気が差して自ら身を引いたと?」
「荒垣先輩も同じですよ。それに荒垣先輩は天田君が琴音に気があることに気付いてるから余計に自分がとは言えないんですよ」
「その天田君も同じように無力さで自分がとは言えない。まだ子供だから一番可能性は残るとは思うけど、今のところ琴音ちゃんにはそういう気持ちはないんだね」
話を聞き終えて美鶴が大きくため息を零した。
「なんというか、これは……」
「先輩、はっきり言えばいいんですよ。琴音の自業自得だって。こんなの相談されてもどうしようもないでしょ」
「うぐぅ!!!」
「真田さんや荒垣さんは琴音さんを大切に思っているからこそ身を引かれたということですか? 大切だから側にいたいという私とは正反対ですが、そういう気持ちの表し方もあるのですね。なるほどなー」
「そりゃねって、あーダメダメ。これ以上ライバル増やしてどうすんのよ、私。ただでさえ最近のアイギスは油断ならないってのに……」
「明彦と荒垣らしいと言えばそうだが、自分が守ると言えないのは情けなくも思うな……。荒垣はともかく明彦がそう簡単に諦めるとも思えないが……ああ、いや、それで大学を休学してまで旅に出るとか言っているわけか……」
「それって自分磨きの旅ってことですか? 自信を取り戻してから再び琴音ちゃんに告白を?」
「どうだろうな……。案外、汐見に相応しい男を見極める為に立ち塞がりそうな気もするな」
「それって倒せる人いないんじゃないです? 荒垣先輩も身を引いているんなら尚更」
「天田に期待してるんじゃないか? 前より鍛えている様子だったし、荒垣と天田があれ以来いざこざを起こさず上手くやっているように見えたのは二人の間に、いや、明彦も入れて三人の間で汐見に関して何らかの協定が結ばれたと考えれば辻褄は合う」
「あー私達のようにですね……」
額を抑えるよう手を添えてはゆかりが頭を悩ませた。湊を巡り三人の間で協定を結んだと思えば知らぬ所で琴音を巡って同じように協定が結ばれていたとあってはなんとも因果なものである。
「それじゃ最終的には天田君が名乗りを挙げることになるのかな?」
風花がそう告げた所で結論は出たようで、ゆかりが先程の仕返しとばかりに琴音に笑いかけた。
「だってさ、よかったね。琴音」
「よくない!! よくないよ!? 私の気持ち完全無視じゃん!!!」
慌てふためく姿に、なるほど、これは面白い、とゆかりもまた碌に恋バナなどして来なかったが故に先程の琴音の気持ちがわかってしまった。しかし。それはそれとして置いておく。少なくともこの件に関してゆかりは琴音の味方ではない。
「っても、あんたが答えを出さないでずるずるしてたのが悪いんでしょ」
「そんなこと言われても荒垣先輩はずっと入院中だったし、ニュクス倒したと思ったら記憶なくなっちゃうし、やっと思い出した頃には死んじゃうし、湊を殴って殴られて消滅しそうになって生き返ったら別れ話だよ。私に何が出来たって言うの!?」
「あーそう言われると意外と同情の余地はあるわね。でも、やっぱりあんたが3股かけたのが原因でしょ。てか、消滅ってなに? 聞いてないんだけど」
「私と湊は同一存在らしいからね。今のゆかり達みたいに統合される所だったんだよ。ただ私たちは男と女で性格も違って、みんなみたいに上手く統合されることなんて無理だから、たぶん自我が消滅するまで喧嘩する筈だったんだけど、なんでかその途中で私は弾かれて訳もわからないまま生き返って、湊は死んだままだと思ってたのに生きてるし、私もたぶん湊も本当に意味がわからないんだよ」
ゆかりの目つきがきつくなり、美鶴は少し寂しそうな表情を浮かべた。
「穏やかじゃない話だな。二人が生き返ってくれたのは素直に嬉しいが……私も初めて聞いた話だ。ゆかりには及ばないとしてもそれなりに信頼されていると思っていたが……明彦たちは知っていたのか……」
「いえ、違いますよ! 心配かけたくないから話さなかったってだけで、私だって真田先輩たちには話してないですよ。湊は……話したかもしれないですけど……それは信頼とかじゃなくて……たぶん荒垣先輩のことがあるから……」
「その話も気になるけど琴音、あんた今は大丈夫なの? 彼と喧嘩したり統合しちゃわないの?」
「喧嘩はするかもしれないけど統合は大丈夫そう。なんて言えばいいのかわからないけど、そういう感覚がなくなってる。やっぱり理由はわからないし、説明してくれそうなテオや綾時もそれ以来姿を見せないからお手上げ……お手上げざ」
「言い直さなくていいから。バカが伝染るわよ。望月くんはわかるけど、テオって誰よ? いや、なんか聞き覚えあるような……あんたまたどっかで男引っ掛けたの?」
「違うから! 年がら年中私が男漁りしてるみたいに言わないで! テオはずっと陰ながら戦いをサポートしてくれた人だよ。ワイルドしか行けないベルベットルームでね。湊にも付いてた筈だよ。名前は忘れたけど凄く綺麗なテオのお姉さん」
「すごく綺麗って……まだライバル増えるの……やめてよ、もう……」
「私の勘だと……湊に惚れてるような気はするかな……」
「その勘が当たってるんなら、やっぱりテオって人もあんたに惚れてるんじゃないの?」
「やっぱり……間違いで……」
テオの態度に思い当たることはあって気不味そうに琴音は顔を背ける。別にテオが嫌いというわけではなく、むしろ好意を抱いてはいるがそれはあくまで友人関係であって恋愛となると候補から外れるというだけである。ゆかりは呆れていた。
「今さら遅いわよ。あんたほんと磁石みたいに男引き寄せるわね。ワイルドってみんなそうなの?」
「言い得て妙だな……有里と汐見は同一であるからそうだとしても、あの彼も複数の女性から好意を向けられていたような…………彼? 彼とは誰だ?」
「あっ、美鶴先輩もですか? なんか引っかかってるんですよね、さっきから。今の状況もなんだか似たようなことを前に経験したことがあるような……って、風花? どうしたの?」
記憶の片隅にあるなにかをゆかりは思い出しそうになったが、気落ちしてるかのよう暗い表情を浮かべた風花の方が気になった、
「あ、うん……真田先輩たちや琴音ちゃんの話聞いてると私って見苦しいのかなって。彼に救って貰ったのも助けられなかったのも一緒なのに、私はそれでも彼の側にいたいって思ってる……。彼が答えを出してくれないのも琴音ちゃんのことを話してくれなかったのも本当は迷惑だって思ってるんじゃないかなって……」
「それは……」
「耳が痛いな……」
「あ、違うの! ゆかりちゃんや先輩のことを言ってるつもりじゃ……」
ゆかりや美鶴もその考えは少なからずあり、かと言って聞けるはずもなく、ずっと心に溜め込んでいたものだった。しかし、ここには琴音がいた。
「風花、それ悩むだけ無駄だよ。湊はね、喜んでるよ。そりゃ無愛想で感情はわかりにくいかもしれないけど、自分を好きって言ってくれて側にいたいと想ってくれる人を迷惑だなんて絶対に思わない。私が保証する」
まるで湊の感情を代弁するかのようにすらすらと言葉を紡いでいく。
「そもそも私や湊が命と引き換えてまで守りたかったのは風花やゆかり達なんだよ。だからこそ悩んでるんだと思う。誰かを選べば誰かを傷つける。だから傷つけるくらいなら誰も選びたくない…………いや、違うかな……?」
しかし、そこで疑問を感じた。
「それがないとも言わないけど……むしろ怖がってるのは湊の方? 湊は図太く見えて変わることには臆病だから……たぶん……過去のせいだね。期待なんて初めから抱かなければ傷つくこともなかった……。だから……初めて出来た大切な場所を壊したくなくて…………ゆかり、どうしたの? 変な顔して」
自らの過去を思い返しながら琴音は気づいた。いい子を演じていた自分ですら家主の都合で出ていけと言われたのだ。湊はそれこそ遠縁というほぼ他人でしかない人間の所か施設をたらい回しにされていたことだろう。
変化を嫌うのも、ひねくれるのもわかる、と納得顔を浮かべそうになった所で苦虫を噛み潰したかのような顔をしているゆかりが目に止まった。
「……いやね、琴音や彼が私達をそこまで想ってくれてるのは嬉しいんだけど……それって結局泥沼じゃない? それに琴音の方が彼を理解していると思うとなんかね……」
「そうだな……ゆかり……なんだろうな……この気持ちは……」
なにか溜め込まれたまま未発動だったコンセントレイトにラスタキャンディが上乗せされているような気がした。
「また流れが……あっ、ほら、私と湊は同一だから気持ちがわかるっていうだけでそれ以上の感情とかないから!!」
「今度は素直に認めるのね……」
先の語りを聞かされては悔しいがゆかりとしても反論はなかった。しかし、ここでアイギスから特大の爆弾が放りこまれた。
「つまり同一である琴音さんが誰かを選べばそれは湊さんの意思に一番近いということになるのではないですか?」
「「「……!!」」」
「えっ!? いや、私は私で、湊じゃないから!」
「さっき認めたじゃない。それにそんなのわかってるわよ」
「自分が選ばれなかったことを想定しておくという意味では……よい経験になるのかもしれないな」
「いずれその日は来るんですよね……。私達じゃなかったとしても……予行演習だと思えばいいかな……」
慌てる琴音など無視して皆、思い思いにその覚悟を決めていく。何気なく言ったアイギスでさえもその発言の意味を深く考え、心と向き合い始めた。
「湊さんがゆかりさん達の中から誰かお一人を選ぶのならば……その時、私は側に居てもよいのでしょうか……? 考えるだけでお二人を失った時のように心がバラバラになりそうです。
ですが、生きるということはけして楽しい事ばかりではないと教えてくれたのもまた湊さんと琴音さんであります。どのような結果であれ、私は受け入れて生きていかなければならないのです! それがお二人と私との絆の証なんです!」
「アイギスが重すぎるよ!! そんな重大に考えることじゃ……って、ゆかり?」
血走った目のゆかりに強く肩を掴まれ、もはや琴音に逃げ道はなかった。
「さっさと言いなさいよ。あくまで参考だから」
「そうだな。あくまで参考だが聞きたいな……」
「私も聞きたいけど……やっぱり怖いな……」
「私は逃げない、逃げないであります!! 例え、湊さんや琴音さんが私を必要ないと言っても、私にとってお二人が大切な存在であることに変わりはないのです! ですので──私の名を挙げて頂いても一向に構わないのであります。むしろ挙げるであります!」
「ちゃっかりアイギスまで参戦した!? ね、ねえ、みんな? 参考って言ってる割には目が本気で怖いんだけど」
「当たり前でしょ! なんで私達が協定結んでまで彼の選択を待ってると思ってんのよ!? 私達が気持ちを伝えて押し切ることはたぶん出来る。けど、それじゃ前と一緒じゃない! ただ言われたから、傷つけたくないからなんて半端な気持ちで向き合ってほしくない。そうじゃないとまた繰り返す羽目になる。傷つく覚悟なんてこっちはとっくに決めてんのよ!!」
言い終わってからゆかりは久しく見せなかった目つきでアイギスを睨んだ。
「それにアイギスがいずれそうなることなんてわかってた。そしてそれを拒む権利なんて私達にはない。私が気に入らないとしたら、その最後の背を押したのが琴音だってことくらいよ」
「私何もしてないよ!!?」
「罪を重ねる人はみんなそう言うの。はい、もうさっさと答える。こっちは心臓バクバクなんだからあまり焦らさないでよ……」
怯えの籠もる瞳をそれでも逸らさずに覗き込んでくるゆかり。目を瞑り指先を絡み合わせ祈るような風花。腕を組んで一見年上の余裕を醸し出しながらもソワソワ、ソワソワしている美鶴。胸を張り、いつでもどうぞ、と言わんばかりのアイギス。
(これ、誰を選んでもヤバくない?)
4人を見回して琴音は困り果てた。だって琴音は琴音であって湊じゃない。傷つける資格がなければあえて傷つけたいとも思わない。かと言って答えを出さなければそれこそ処刑されそうだ。
窮地に陥った琴音は視線を彷徨わせ唯一の光明を見つけた。いや、どう考えても無理筋だということはわかっている。それでもそれに縋るしかなくモフッとした物体を抱え上げて覚悟を決める。
──押し通る!!!
「コ、コロマルです!!」
「く、くぅーん!!!!?」
よもやの強制参加にコロマルが慌てふためき、必死の離脱を試みる──が、悲しいかな犬。両の前足を捕まれ宙ぶらりんとなっては何も出来ない。握る琴音の手には絶対に離さないという意思がありありと込められていた。
「い、いやー意外だったよね。まさか私が一番好意を抱いているのがコロマルだったなんてね。ちょっとコロちゃん、暴れないで。お願いだから。あ、これはあくまで私であって湊じゃないからね。そこの所を勘違いしちゃダメだよね。アハハ……ハハ…………やっぱダメ?」
「美鶴先輩……」
「ああ、わかっているさ……こういうことなんだろうなッ!! 選べないというのは……ッ!!」
「私、覚悟したのに……」
「なるほど、琴音さんの一番の大切はコロマルさんであると…………何でしょうか……コロマルさんに不満があるわけではなく大切な仲間ではありますが、私の心に納得できない何かが生じています。コロマルさんは巻き込まないでくれ、と仰っています」
アイギスさえも普段からは考えられないほどに苛ついた眼差しをしていた。ゆかりと美鶴は屈伸運動を始めたようでこれから始まることに備えていた。
「そういえば私、部活も上がって最近は弓道の練習してなかったんだよね。久しぶりに頑張ってみようかな。的は琴音ね」
「私も大学に上がってから色々と忙しくてな。久しぶりに全力で体を動かしたいと思っていた所だ。力の加減には自信がないがな」
「私も二つの心が重なったニューアイギスの性能を確かめたいと思っていた所であります。琴音さんには存分に胸を借りたいと思う次第です」
「や、やだなぁ。みんなそんな怖い顔しちゃって……あくまで参考だって…………あっ、湊!」
「えっ?」
ゆかりが振り返り、皆も釣られて振り返る瞬間に琴音は全力で駆け出した。生命線であるコロマルを脇へと抱え直して。
「逃げたであります!」
「風花ッ!!」
「うん! 逃さないよ、琴音ちゃん!!」」
「さっさとコロマルを離しておとなしくしろッ! 汐見っ!!」
「離したら処刑されるでしょうがぁあああ!!! なんでこうなるのよ!!? 湊のバカ! ぜんぶ優柔不断の浮気者のせいじゃない!!!!」
「全部あんたに跳ね返ってるわよ!!」
何処とも知れぬ場所で逃走劇が始まる。
そして、それに程なく巻き込まる不運な少女がひとり────
「なんで私がこんなことしなくちゃいけないのかな……。マーガレットの奴、見習いだからってこき使ってくれるよね」
それはこれより少し前の話──―
「あら、また新たなお客人のようね……って、これは──」
「姉さま、これって……」
「そうね……どうしたものかしら? あの二人が姿を見せないということは、このお客人方は特異点を越えた時間軸の方々。どうして迷い込んだのかはわからないけど、このまま放置するのはまずいわね。貴女たち丁度二人居ることだし、どちらかが代わりに案内人として迎えに行くつもりはあるかしら?」
「絶対にお断りだ!」
「後でエリザベス姉さまに何されるか……」
「そうよねぇ……そうなるわよねぇ……となると、仕方ないわね。マリー、貴女が行きなさい」
「えっ!? 私? なんで!?」
「一時的にとはいえ、あの子たちのお客人を私やこの子たちが担当するなんてことになれば機嫌を損ねるわ。それはもうかつてないほどにね。だから、担当を奪ったわけではなく見習いに経験を積ませたと言い訳ができる貴女が適任なのよ」
「ねえ、言い訳ってなに? なんか物騒なこと言ってるけど、それって私は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。弟は優しいから気にしないわ」
「妹は!? 妹のほうが気になるんですけど!!? あの色々とぶっ飛んでる妹は!!?」
「…………、さ、はやく行きなさい。お客人を待たせるものではなくてよ」
「聞けよっ!! ちくしょう!!!!」
「なんか琴音の悲鳴聞こえねえか?」
遠く耳に届いた声に伊織順平は会話のきっかけを見つけたとばかりにボヤいた。なにせ琴音達と別れてから、こちらのメンバーには会話らしい会話がない。湊が琴音とは違い、積極的に話しかけるタイプではないということもあるが、一番の問題はここにいる荒垣真次郎の存在であった。
湊の世界ではとうに亡くなっており、荒垣からすれば湊の存在は琴音と同一だと告げられても簡単に信じられるようなものではない。統合を果たした筈の真田と天田も思う所が多く、自然と空気は重くなった。順平とてそれは一緒である。このまま無視されたらどうしたもんかな、と考えた所で湊から返事があった。
「……勘違いじゃない? 聞こえたとしても……どうせまた琴音がいらないことしたんだと思う」
「なんかおまえら同一って割にはお互いのことになると刺々しいよな。仲悪いのか?」
「……仲が良いとか悪いとかそういうんじゃない。彼女を見れば自分が見える。嫌でもね。できれば僕は……みんなには会わせたくなかったよ……」
「ふーん。珍しいな」
「……何が?」
「どうでもいい、って言うもんだと思ってたわ。そういや最近は言わねえな。ひょっとしてそれも原因は琴音かよ?」
「……否定はしないよ」
「その割にはすげえ嫌そうな顔だな。つーか何処で、いや、どうやって知り合ったんだよ?」
「それは……」
何と説明したものか。湊が会話に困った所で真田が割り込んできた。
「前に話していたやつか」
「真田さん知ってるんです?」
興味深そうに天田も話に加わる。
「ああ、俺もそこまで詳しくはないが病室で少し聞いていた。もう一人の自分に会ったとな。あの時はそれが話のメインではなかったし、有里は目覚めたばかりだったからな。混乱もあるだろうと追求はしなかった。まあ、今となっては真実だったと言うしかないな。いや、疑っていたわけじゃないぞ」
「わかってます。自分が荒唐無稽な妄言を吐いたってことは」
「あれはおまえにとって必要なことだったんだろう? その上で俺の気持ちを考えての事とあっては俺だって信じるしかないだろう。まさか汐見のことだとは思いもしなかったがな。あいつの性格を考えればおまえが何か言われたであろうことはわかる。その上でもう一度言うぞ。気にするな。おまえのせいじゃない」
「ああ、そういうことですか。それなら僕にもって……無理ですよね。すみません……」
「えっ? えっ!? 何がどういうことなの? 俺っち、全然わかんねんだけど!」
「順平さんは知らなくてもいいことですよ」
「ひっで! 可愛くねーぞ天田!」
「いいですよ、別に。可愛くなくて」
わざとらしく大げさに騒ぐ順平をぞんざいに扱う天田と、見慣れた光景に一同の間の空気が緩んだ。湊も例外ではなく、ほんの少し表情がやわらぐ。しかし、一人取り残された荒垣の発言によりまた緊張感を伴った。
「おい、なんでおまえらが納得してんのかわかんねえんだが、そろそろ俺にも説明しちゃくれねえか?」
「ああ、そうだな……だが、どう言えばよいものか……」
「いいです、真田先輩。僕の方から言います」
「あん? おまえは……確か有里だったか……?」
「……」
姿も口調もあの日のまま。されど荒垣の湊を見る目には警戒や猜疑心だけが溢れている。ぐっと言葉に詰まるかのような湊に真田が先にフォローを入れた。
「……悪いが有里、このシンジはおまえのことを知らない。おまえの方のシンジはあの日、あの場所で死んだ。記憶が統合されることもない」
「ええ……わかってます……」
「あの、有里さん! あれは有里さんのせいじゃなくて僕が……!!」
続けて天田が湊と荒垣の間に入り遮るよう声を荒げた。二人の行動に一瞬唖然としたような荒垣であったが不機嫌そうに眉を顰めるとニット帽の上から頭を掻いた。
「ちっ、そういうことかよ。道理でおまえら揃いも揃って辛気くせえ面してるわけだ。で、俺はどうすりゃいいんだ? てめえの謝罪を受け入れて許せばいいのかよ?」
「荒垣先輩……」
「おい、シンジ!! そんな言い方はないだろうっ!!」
「黙れ!! アキ!! 今てめえと話しちゃいねえ!」
真田が憤り詰め寄る中、それを振り払って荒垣は湊をきつく睨むよう見据える。
「まあ、俺はおまえのことは知らねえし、そっちの俺とやらが死んだってのはこの俺からすりゃムカつく話だ。だけどな、はっきり言っちまえばそんな事はどうでもいい!! なのに、てめえはどうせあのバカと似たようなこと考えて悩んでんだろ。ふざけんじゃねえぞ!! そっちの俺がバカやって勝手に死んだだけだ。てめえが気にするようなことじゃねえ!!」
「……」
「だいたいよ……本当にてめえのせいで俺が死んだってんなら、アキや天田がてめえを庇うわけねえだろ。これで、この話はお終いだ」
「はい……」
ぶっきらぼうで荒い口調ながらも込められていた変わらぬ優しさが垣間見えて湊はただ頷いた。おそらく反論したなら次は拳が飛んでくる。
「やけに素直だな……てめえ本当にあいつと同じなのか? 俺にはそうは見えねえが?」
「……荒垣先輩なら……たぶんそう言うんじゃないかって……思っていたので」
「ちっ……てめえらには俺がどう見えてんだよ」
荒垣が少しだけ恥ずかしそうに顔を背けた所で会話は打ち切られることになる。湊たちを囲むようシャドウが現れた。
「少し騒ぎすぎたか。空気の読めない奴らだな、まったく。行くぞ、天田」
「あ、はい」
「なんだその気の抜けた返事は。そんなことでは汐見は任せられんぞ」
「……っ! シャドウよりも真田さんに空気読んでほしいですよ、僕は……」
率先して突っ込んでいく真田に煽られ、天田は荒垣を気不味そうに伺うと視線を湊へと僅かに向けた後でシャドウへと向かって行った。追うよう湊も続く。召喚器がない為、ペルソナを切り替えての援護という形は難しいが、リーダーとして培った経験は生きており、万が一の場合フォローできるよう真田と天田から少し離れた場所で戦いを見守るようなポジションを取った。
そして後方に残された二人は戦闘に加わるでもなくこそこそと内緒話を始める。順平にはどうにも気になることがあった。
「あのー荒垣さん確認なんすけど、真田さんってひょっとして琴音が荒垣さんと付き合ってたこと……」
「あいつが気付くわけねえだろ。知ってた上で手出したんなら、こんなややこしいことにはなってねえよ」
「そっすよね。あーでも天田は気付いてるぽいっすよね。真田さんのこともすけど」
「……順平、てめえは何だかんだ言いながらもよく見てるよな。だからよ、尚更ややこしいんだよ。アキもそうだし、ましてや俺なんかに遠慮する必要はねえってのによ」
「いやーそりゃ厳しいんじゃないですかねぇ……相手側の気持ちもあるわけですし……」
「まぁ、そりゃそうだな。何なら順平、おまえが手を挙げるか? おまえならアキもちっとは納得すんだろ。俺もな」
「えっ!? い、いや、遠慮しとくっす。全力でボコられる姿しか見えねーし天田に恨まれんのもごめんっす。それに俺にはチドリンがいるんで」
「っても付き合ってる訳じゃねえだろ。まあ見た感じ嫌われちゃいねえとは思うが」
「あーチドリはどうにも記憶を失う前の俺っちの姿がこびりついてるみたいで……その……今の俺にはちょっと冷たいって言うか……」
たぶん先程ゆかりの口づてに言われた、順平は私が探してた人じゃない、はそういう意味なのだろう。そうでなければ更にヘコむことになる。
「なんだそりゃ? 過去の自分に負けるとは情けねえ話だな。まあ、こっちに比べりゃマシじゃねえか。てめえを磨きゃいいんだからな」
「そうは言うっすけど過去の俺かなり強敵なんすよ。時間追うごとに美化されてねえかってなもんで。俺こんなことしたっけってレベルっすよ」
「そりゃしょうがねえな。適性も完全に失くして覚えてるはずがない影時間の記憶が残ってんだ。過去のおまえはそれだけあいつにとって大切だったんだろうよ」
「嬉しいっすけど複雑っす……。あーもうなんで顔は覚えてねんだよ!」
「重要じゃねえからだろ? それとも順平、おまえ自分の容姿にそんな自信があったのかよ?」
「そりゃ、ねっすけど……なんだかなー。あっ、おーい、湊、ちょっとこっち来いよ」
真田と天田の戦いは何の危なげもなく順調であり、手持ち無沙汰になっていた湊もこれなら問題ないだろうと順平の声に応えて下がってきた。しかし、その顔は何処か不機嫌そうでもある。
「なに? 正直、琴音の恋愛事情とかだったら関わりたくないんだけど」
「お、おう。やけにはっきり言うな。話聞こえてたのかよ?」
「聞こえてはいないけど予想は付くよ。真田先輩に言われて天田は荒垣先輩だけじゃなく僕の顔も伺ってたからね。後、順平は頑張るしかないね」
「聞いてんじゃねえか! 話に参加しろよ! 俺っちにアドバイスくれよ! おまえ恋愛経験豊富だろ?」
ちょっと気不味そうに湊が目を逸らした。
「……豊富って程のものじゃないし、僕の場合は参考にならない気が……」
「んなことねーって! ゆかりッチに風花に桐条先輩まで落してんだぞ。今は別れちまったみてえだけどあの三人ぜんぜん諦めてねえじゃんか!」
「……っ! 順平……気付いてたの?」
「ん、ああ……まぁ、なんとなくそうなんじゃねえかなーとはな。あの頃は戦いとか自分のことに必死で疑惑くらいのもんだったけど、こう平和になっちまったら流石にわかるわ。ゆかりっちなんか明らかに態度チゲ―もん。てか、告白まがいもあったろ? もう隠そうともしてねえじゃん」
「……」
「おまえ今初めて気づいたみたいな顔やめろ。あんなのおまえにだけだからな」
「ごめん……」
「あーもう、謝んなよ。いいか、湊。そりゃお前がやったことは最悪だし、羨ましいし、何なら変われってなもんだけど、別にそれで俺らの仲が壊れたわけじゃねえじゃん。あの三人なんかむしろ前より仲いいぞ。それがおまえと付き合ったおかげとは流石に言わねえし、これから先もそうであるかはわかんねえけどよ。本人同士が納得してんなら俺っちは口出さねえよ。いや、羨ましいけどな」
「順平……」
本当にただの軽口のように言う順平に湊の心にのしかかっていた重りが少し軽くなった気がした。しかし、ここで荒垣が今日一番の声を張り上げた。
「おい、順平! 黙って聞いてりゃこいつ三股かけてんのか!? それも桐条相手にだと!? 命が惜しくねえのかよっ!!?」
「いやいや荒垣さん落ち着いて下さいよ。昔の話っすよ。それに琴音もかけてたわけで、なんつーか、こいつらってもう存在がこういうものなんじゃないっすかね」
「…………」
なにか違う重みを持った石が湊の心に降り注いだ。荒垣は呼吸を整えながら信じられないものを見たとでも言わんばかりの顔で湊を覗き込んでくる。
「あ、ああ、ちとビビっちまっただけだ。岳羽はまぁわかる。口と態度があれな分、いざ落ちたら執着すんだろ。山岸は自己評価の低さから自分から男に声をかけれるような性格じゃねえ。それが一度別れても切れないとなると……下手すると地雷化してんぞ。それで桐条だが……言うまでもねえな。よく落したもんだ。むしろ褒め称えてやるよ……。おい、よく考えなくても厄介な女しかいねえぞ」
「そんなことは…………ねえとも言えねえな……。ゆかりッチや桐条先輩に言ったらぶっ殺されそうなんで言えねえけど……」
散々な評価ではあったが順平も間違っているとは言えず、この事は墓場まで持っていくことを決めた。
「流石に俺もあいつらの前じゃ言わねえよ。しかし、よく許して貰えたもんだな。いや、それだけおまえのことが好きってことか……あの桐条がねぇ……」
真田と並んで美鶴と付き合いが長い荒垣からすれば感慨深くもなる。男を視界に入れていても寄せ付けず、まさに孤高という言葉が似合う女だった。その美鶴がデレる姿など話を聞いても想像できない。せめて美鶴のファザコンぶりを知っていれば少しは違ったのだろうが。
「あのさ……順平も荒垣先輩も怒らないの……?」
そこで当然怒られるものと思っていた湊が問いかけた。
「ん、ああ、まあ気分は良くはねえよ。仲間内でそんな真似をされたとあっちゃな。けど、あの桐条が許してんだろ? けじめは付けただろうし、断れず、流されちまったんだろうなってのは汐見を見てりゃわかる。それに俺はおまえにどうこう言えるような資格はねえ。なんせバカな俺はおまえ等を止めることも出来ず、寝込むか死んじまってんだからな」
「確かに荒垣さんいればそうなる前に止められた可能性高いっすね。特に琴音の方は……」
「……汐見はともかく、桐条相手に三股かけると知ってりゃ力付くでも止めてやったよ。寮の中に氷漬けのオブジェなんざ作られたら堪んねえからな。これに関しちゃいくら鈍いアキだって賛成すんぞ。まあ、あいつにこの手の話題は無理か。どうせ有里の方でも気付いちゃいねえんだろ?」
「あーどうっすかねー。湊が好意寄せられてるくらいは流石に気付いてると思うんすけど、先輩らは進学して寮出ちゃったんで詳しいことはちっとわかんねっす」
「まったくため息がでるぜ。汐見の方じゃ変な意地張りやがって、有里の方じゃ相変わらずの脳筋馬鹿ときてやがるとはなあ」
「荒垣さんが言うのもなんすね……」
「ああ?」
少しだけ不思議そうに首を傾げる荒垣の考えは湊には伝わった。しかし、順平がわからなかった。どうしてここまで自分を庇うような発言をしているのか。
「……順平はどうなんだよ? 琴音のことは詳しいみたいだけど……」
「俺っちか。琴音の方は詳しいつーか、それなりに相談受けてんだわ。友達の話って定番のバレバレな嘘つかれてるけどわかるに決まってんじゃん。だから、それもあって湊に肩入れしてんのかって言われるとそうじゃねえんだ。第一おまえの方の俺は琴音のことは知らなかったわけだしな」
「それじゃ、なんで……?」
ここまで陽気に話していた順平だが、そこで表情が曇った。
「……これはあんま言いたくなかったけどよ。俺にはゆかりッチ達の気持ちも分かんだよ。俺らのあの戦いってマジで大変だったじゃん。理事長には裏切られて荒垣さんや桐条先輩の親父さんも亡くなって最後にはダチだと思ってた綾時に絶対死ぬとか言われてんだぜ……」
思い出すだけで苦痛と後悔が押し寄せる。大切な思い出にして未だ順平の中で影を落としたままの記憶。すべてが崩壊した日のことだ。
「みんな極限状態の中で誰を信じていいのか、何を信じればいいのかわかんなくて、縋るものが欲しかったんだと思うんだよ。それが湊、おまえだったって話だ。リーダーとしてみんなを引っ張って、ろくに弱音も吐かずとうとう世界まで救っちまうんだ。そりゃ、ゆかりッチ達が惚れるのもしょうがねえだろう……」
今なら心から湊を認められる。けど、あの時の自分はそうじゃなかった。
「で、だ。そんな湊に対して俺は悪態ついて、ひでえ言葉まで言っちまったわけよ。もし俺があの時もう少し上手くやってたんならって今でも思う。おまえだって何かに縋りたかった筈なのにな……」
──おまえ特別なんだろ! なんとかしろよ!!
縋ったのは順平も同じ。ただ形が違っただけで。その果てに何が訪れるかなんて知りもしなかった。
「俺は、いや……俺らはたぶん……おまえが死んだ時にようやくわかったんだ。おまえは特別なんかじゃなかった……。生きてりゃ死にもするただの高校生なんだって。いつも何でもないような顔して乗り越えてくからずっと気付けなかったんだ……」
湊が今生きているからこそ、こうやって言える。もしあのまま死んでいたのなら自分たちはすべてを記憶の片隅に追いやり、忌まわしい過去としてすべてを忘れようとしていたかもしれない。
「だからよ、荒垣さんの台詞じゃねえけど俺だっておまえを責める資格なんかねえんだよ。ゆかりッチを除けばおまえの一番近くでずっと見ていたのは俺なのにな。何の力にもなれねえどころか、くだらねえプライドのために張り合って嫌な思いばかりさせちまった。チドリがいなけりゃ俺はあのまま変われなかったと思う」
「その話はもう……」
順平の語る多くは病室で話したことであり、湊にとってはもう決着のついたことだと思っていた。
「いいから言わせろよ。今はそれだけじゃねえんだよ! 今の俺は琴音の方の俺と一緒になってんだろ。だからよ、余計になんだよ……。なんで俺はあっちじゃできたことが湊の方じゃできてねえんだって!! そりゃ男と女の違いはあるけどよ。それだけじゃねえか!! おまえらが同一だって言うんなら尚更だ。こんなの最低じゃねえか……ッ!」
「別に気にしてない……琴音はもう一人の僕だ。そう在れた可能性を閉ざしたのはこの僕だから……」
湊の言葉は自己嫌悪と後悔で苛む順平の気持ちを考えてのものだった。湊からすれば順平からその言葉を聞けただけで満足だった。琴音には及ばないかもしれないが、ちゃんと絆があると証明された言葉であったから。
しかし、その何処か他人事のような冷静な態度は見ていた荒垣の勘に触った。
「……おい、有里。そいつはちげえぞ。順平が言いてえのはそういうことじゃねえ。いや、合ってんのかもしれねえが、その返事はちげえだろ!? ああ……、今わかったぜ。てめえは確かにあのバカ女と一緒だ。なんであいつもおまえも全部一人で背負おうとしやがんだ!? ダチがこう言ってくれてんだぞ。なら素直に言えよ。頼りたかったってよ」
「……っ!」
無表情であった湊の顔が大きく歪む。それは苦痛ではなく自分の中には存在していたが、けして外には出そうとしなかった、出し方を知らなかった本心を見つけてくれたという嬉しさから来るものであった。自然と頬が緩むが、
「おい、気持ちわりいぞ。あのバカ女みてえな顔で俺を見るんじゃねえ」
「すみません……あの、荒垣先輩……」
琴音と同じと言われて即座に湊の表情筋が引き締まる。だが、同時に知ってしまった。琴音はきっと、荒垣のこういう所に惹かれているのだと。
「礼なんか言うんじゃねえ……。こりゃ、ただの供養だ。ダチがずっとそう言ってくれてんのに、まともに聞こうともせず、全部一人で抱えこんだまま死んじまったバカな俺へのな……」
生き延びた荒垣からすれば一人で全てを抱え込もうとする湊の姿はかつての自分を見ているようで危うく見えていた。自分がそれに気付くきっかけとなったのが琴音であり、その同一存在である有里へと説くことになるとはまったくもって変な話だと荒垣はそれ以上語ることなく口を噤んだ。
「おい、おまえら、何を手伝いもせずに騒いでいたんだ?」
「あ、いや、ちょっと真田さんには相談しにくい内容って言うか……」
そこでちょうど戦闘が終わったようで真田と天田が戻ってきた。咄嗟に顔を取り繕った順平が声を返すも真田は不満気である。
「なんだと? フン、舐めるなよ。どうせ有里の恋愛問題だろう? 俺もあいつと付き合って少しは成長したんだ」
「……!!?」
「そ、そっすけど……さ、真田さんが……?」
湊と順平があまりの事態に驚き、声すら失うが荒垣の目は冷ややかである。
「アキ……おまえ変なプロテインでも食ったのか?」
「どういう意味だ! プロテインは体を作るのみではなく心にも効く。もちろん恋愛にもだ!」
「なんか自信満々に言ってるけど、どうするよ?」
「別に僕の方は話してもいいと思うけど……琴音の方はバレるの不味いんじゃない?」
こそこそと耳打ちするように湊と順平が会話を重ねた。何故か真田は自信に溢れている。話さないとなると余計に問題がこじれそうだ。
「だよなー。いや、待て。湊、おまえ絶対殴られんぞ」
「……それも構わないよ。罰は受けるって決めてたから。それに──順平は助けてくれるんだろう……?」
「おまっ!? こういうのは違うくねえか……。ああー!! もうしゃーねえなー! 2、3発、いや、5、6発は覚悟しとけよ。それまでは流石に止めらんねえわ」
「ありがとう……」
思いがけず言われた言葉に順平は焦るが、何処か晴れやかな顔で引き受ける。湊もまた笑っていた。しかし、ちゃんと保険はかける。
「荒垣さん、もし俺っちが止められない場合は頼みますよ。いや出来ればその前に止めてほしいんすけど」
「しょうがねえな。後は任せて存分に殴られてこい。ったく、くせえ話だが…………わるくはねえな……」
「順平さんがダメなら僕が止めますよ。たぶん、その必要ないですけどね」
何か確信しているかのような天田の声が響き、湊は仁王立ちしている真田の前へと足を進めた。そしてアドバイスが送られた。
「いいか、有里。最初のデートで牛丼に誘うのはどうもウケが悪いらしい。おまえが美鶴たちの中から誰を選ぶかはわからないが、お勧めしないぞ。特に美鶴はやめておけ。せめて二度三度と時間を重ねてから行くべきだな」
「…………」
「あっ、やっぱその程度っすよね。安心した」
「真田さんですよ。何を期待してたんですか」
「天田……おまえはもう大人だな……」
「そう思うなら頭撫でるのやめてくださいよ!」
わしゃわしゃと頭をかき回す順平の手を振り払って天田は湊へと目を向けた。
「言っときますけど、僕は有里さんがやったこと最低だと思ってますからね。ただ……、僕も力になれない所か問題起こした側なんで強くは言えませんけど……」
「天田……いつも言ってんだろ。おまえが謝る必要なんざねえ……。あれはおまえにとっちゃ正当なもんだ。けど……そいつで俺が死んで……いらねえ重りを背負わせちまったんなら、すまなかった……有里もな」
「荒垣先輩……」
「い、いいですよ、もう謝罪は! ……とも言えませんね……今の僕は……。けど、荒垣さんが死んだ世界と生きてる世界……比べて見たら僕は後者の方がいいって思えますから……きっと大丈夫です」
解けていく。幾つもの運命の糸で複雑に絡み合い、わだかまりを残していた結び目が。絡まったまま切れ落ちた筈の糸すら奇跡のような邂逅を経て。
もっとも、何がどう絡まっているのか、気付いていない人間もいるが。
「なあ、順平。有里がやった最低なことってなんだ?」
「そっすねー。最初のデートで牛丼行っちゃったんじゃないっすかねー」
「なにっ!? そこまでダメなことなのか!? だが、汐見は喜んで……」
「琴音はちょい特殊っすからね。一般的な女のカテゴリーに入れない方がいいっすよ」
「アキ……おまえ今度ボクシング部の元マネとでもデートして勉強してこい。心配すんな。あの女はおまえがやらかすことの大概は許してくれる筈だ。話は俺の方から付けといてやる」
「そんな不埒な真似が……」
「不埒じゃねえよ! もうちょいマシな恋愛観を身に着けてこいってんだ。旅に出て体鍛えるよりやることあんだろが!」
あまりにも残念な先輩の恋愛観に一同が笑い声を上げた。湊もまた心から笑った。日常の中で笑ってはいてもずっと心に残っていたのだ。
自分は琴音を犠牲にして生き延びたのではないのかと。
されど琴音は生きていた。自分とは違う世界で自分と同じ仲間たちに囲まれて。もう何の憂いもなかった。
しかし、そうやって解けかけた運命の糸が一瞬にして団子になることなど想像しようもなかった。
「みーーーなーーーとーーーー!!! 見つけたっ!!」
「……ッ!!?」
必死の形相で走り寄ってきた琴音が湊に突如としてダイブした。そのままもつれ合って転がる二人。よく見れば琴音の髪は水で濡れており、仄かに火薬の匂いも全身から漂っている。
「湊、会いたかった!! ほんとぶっ飛ばしたいけど会いたかった!! 後で絶対ぶっ飛ばすけど会いたかったよ!」
「……なんでいきなり喧嘩売られてるのかな」
「湊がゆかり達にひどい事するからでしょ!! ほら早く決めて! 誰が本命なの!?」
湊の上に乗った琴音は涙目で湊の襟元を掴むとガクガクと揺さぶる。
「さー言え。すぐ言え。誰を選んでも振られた三人に代わって私が湊をぶっ飛ばすから!!」
「意味がわからないよ……。それになんで三人……」
「アイギスもあんたが毒牙にかけたからでしょうーが!! ほんと信じらんない!!」
「は? 何したんだよ……」
「私何もしてない!! 何もしてないから!!」
「おい、これはどういう……」
「待てって言ってんでしょ!! ……っ!!?」」
状況を真田たちが把握するより早くゆかり達が追いついてきた。が、湊と琴音の現状を見てゆかりからは金切り声が上がった。
「ちょ、ちょっと琴音!! 何してんのよ!! 離れなさいよ!!!」」
「琴音ちゃん、大胆…………いいなぁ……」
「湊さんと琴音さんの間に私が挟まるスペースがないであります……」
引き離そうと腕を引っ張って実力行使に出たゆかりに羨むような風花。僅かなスペースに何とか自分が入れないか企むアイギス。美鶴はその二人の姿に怪訝な顔つきで考え事をしていた。
ゆかりの力は強くなるが離せば処刑されるので琴音は一層強く湊に縋り付いた。湊は迷惑そうな顔だが積極的に突き放すということはなかった。その二人の姿に男性陣も思う所がある。
「あ、あのですね! 二人とも近くないですか、距離!?」
「有里……おまえ等が同一だってことは理解しているつもりだが節操ってものがあるだろう。汐見も少しは慎みを持て」
天田は顔を真っ赤にして叫び、真田は眉根を寄せて険しく顔をしかめる。なにせ琴音は湊に抱きついて押し倒し馬乗りの状態である。その上で暴れるもんだから体の至るところが離れたりくっついたりしている。もっとも当人同士は気にした様子もないが。
「怒られたじゃん。湊のせいだからね」
「なんでだよ。そっちが勝手に抱きついてきたんだろ。早く離れてくれる? 重いから」
「お、重くはないでしょ! あんた前から思ってたけど女の子に言っていい台詞とかわかんないの!?」
「琴音以外には言わないよ。それに、それを言うなら琴音こそどうなんだよ?」
「湊以外に言うわけないでしょ。あっ、だからって自分が特別だとか勘違いしないでよね」
「するわけないだろ。嬉しくもないし」
「嬉しくないってどういうことよ!? ほんとは嬉しい癖に」
「それは琴音の方だろう。僕に構われて嬉しいんだろ」
「なっ!? 自惚れないでよ!! そんな訳ないでしょ!!」
「そっくりそのまま君に返すよ!」
「あー琴音を見れば自分が見えるだっけ……湊が言ってたのはこういうことかー。納得だわ」
見るに堪えない争いを、湊の言葉を聞き、中立な順平はそう判断した。だが、他の人間の目にはそうは映っていなかった。
「ねえ……これって喧嘩だよね?」
「ああ……一見喧嘩のように見えるが……」
「兄妹喧嘩にしてもだな……俺と美紀はここまでは……」
「なんて言うのかな……二人とも喧嘩する振りしてお互いに甘えてるみたい……」
「……あってんじゃねえか、それで。有里の方はわかんねえが……少なくとも汐見の方でおまえが悪いなんて難癖、真っ向からつけられたことある奴がいんのかよ?」
「「「…………」」」
「「…………」」
綾時が罪悪感で気付かなかったそれに、活動部の面々は気付いてしまった。荒垣は先ほど湊に言った言葉を思い出す。
なんで、てめえらは全部一人で抱えようとしやがんだ、と。そうやって抱えて抱えて抱えこんだものを二人はただお互いにだけは遠慮なくぶつけ合っているのだ。
「あ、荒垣さん……それ、たぶんあってんすけど……ちょっとまずいっす」
「あん……? ああ……そうだな……こりゃ、ちとまずいか……まさか汐見の問題よりややこしいとはなぁ……」
順平が周囲の空気を感じ取った時には既に遅かった。皆、それぞれの想いを胸に二人へと詰め寄っていく。
「ねえ、琴音。ちょっとお話しようか。彼も一緒でいいからさ」
「待て、岳羽。俺も有里に少し話したいことがある」
「ぼ、僕も聞きたいです! いいですよね」
「やはり……そうなのか……」
そんな中で美鶴だけがある事に疑念を抱き、輪に加わらなかった。それは今の湊と琴音の状況を言い表すにもっとも相応しい因果である。
「……死の国から戻ったオルフェウスはその後の生涯を信仰に捧げ、女を愛することはなかった。それは妻への変わらぬ愛の証明であったのか、寸前の所で振り返ってしまった自分の罪を悔やんでのことだったのか……。だが、どうだ? 失くしたと思っていた筈の妻が、もし、生きていたのなら……」
「えっ?」
「えっ……」
きょとん、としながら顔を見合わせた琴音と湊であったが、そのお互いの姿に、ないない、と心の中で即座に結論を出した。しかし、くっつきあって甘えあっている現状を見せつけた後で誰がそれを信じるのだろう。
仲間たちから向けられた瞳に籠もる感情は嫉妬、羨望、執着が入り乱れ、言い表せない程に複雑なものだ。ただ一つだけわかることはこのままでは二人共ヤバいということだけ。自然と二人の目は一人の少年へと向けられた。
「あ、あれ? なんで二人とも俺っちを見るのかな……? いや無理だから! 流石にこれは無理だって!!」
「湊……」
「ああ、わかってる……」
順平が頼れないと見ると、二人は目線を合わせることもなく最善と思われる一手を打つ。
それはつまり──
「逃げたであります!! ……息ぴったり、流石ですね」
「言ってる場合か! なんなの、もう……勝てる気しないんだけど……」
「僕、このまま体鍛えてていいんですかね。根本的に間違ってる気がしてきましたよ……」
「確かに有里なら……いや、しかし有里は汐見と同一であり……」
何処とも知れぬ場所で再びの逃走劇が始まる。
そしてそれに巻き込まれる不運な少女がひとり──
「なんなんだよっ! あいつら……!! なんでいきなり攻撃してくるんだよ!!!? 迎えにきたって言ってるじゃんか!! 聞けよっ!! 私の話をよぉおお!!!」
全身をびしょ濡れにしながらマリーが嘆く。先程自身を襲った理不尽極まりない仕打ちを思い出してまだ体が震えた。
「ああ、いた居た。めんどくさいけど迎えに来てあげたよ。黙ってついて──」
「ちょっと!! そこ退いて!!!!!」
「えっ!?」
「足止めのため牽制射撃を行います。目標位置、琴音さんの予想進行ルート前方。ファイアであります!」
そこからの記憶は定かではない。ただ気づいた時には墓標のように突き立てられた氷塊の隙間からなんとか這い出した所であった。
もう案内など止めて帰りたかった。たが、手ぶらで帰ればマーガレットに何を言われるかわからない。それにもしこの客人たちがひどい目に遭えばその何倍もあのぶっとんだ妹に痛めつけられる気がした。
図らずも零れ落ちてきた涙を拭ってマリーは前を向く。すると目的の客人たちがこちらへとやってくるではないか。
「フ、フン!! 今さら謝っても遅いからね。でも、君たちがどうしてもって言うんなら案内してあげても──」
「あっ、さっきの子。湊、その子ちょっと捕まえて」
「……」
「ぶっ……!? ちょ、どこ触って……!!?」
しかし無情である。半ばタックルまがいの一撃を浴びせられ、憐れにも小柄なその身を攫われてしまった。
「お腹……? と言うかこの子、誰?」
「わかんない。なんか知ってそうだから取り敢えずね。どさくさ紛れにセクハラするなんて最低ね」
「……投げ捨てていいかな……恨むなら琴音を恨んでね……」
「なに言ってんだよっ!! もう……って、そっちは!!」
抱えられたままマリーが涙声で叫び、同時に湊と琴音が踏んだ床が怪しい光で包まれた。転移の罠によって飛ばされた先ではバランスを崩して三人が縺れて倒れ込んでいた。
「いったぁ……」
「……」
「最悪だ……最悪だよ……こいつら……」
無惨にも、一番下になっていたマリーがほうぼうの体で抜け出しては感情を爆発させた。
「ばかあほきらいさいてー。もう私、帰るっ!! 後はそっちでなんとかしてよね!!」
マリーの視線の先には一つの集団がいた。同じ年頃の高校生であり、特徴的なのは全員が眼鏡をかけていたこと。ちょうどシャドウとの戦いが終わったようでリーダー格と思われる少年が怪しげに湊や琴音の顔を伺っていた。
すぐにゆかり達が追いついて来て、図らずも集団は対峙する事となる。誰もが抱いた困惑の中で不意に灰色髪の少年が笑った。
彼もまた、思い出したのだ。
「……いつも派手な登場をするんだな、おまえ達は……。久しぶり……と言うほど時間は経っていない気もするが、元気そうで何よりだ。有里」
「……鳴上?」
「誰……?」
はい、導入部終わり。
以下この話のネタバレ的なもの。
番長まで集めて何するの? って、そらもう協力レイドですよ。
ここからメガテン注意。
糞計画再び
人修羅さんがコラボしすぎた結果。
真5? ちょっと何言ってるかわからない。
出口こそ見つからないが、探索を繰り返してその仲を深めていく客人たちを見守るマーガレットには気がかりなことがあった。
カロリーヌとジュスティーヌ、元は一人であったにも関わらず、とある存在の策略を受け二人に別れてしまった妹、ラヴェンツァ。それが二人の状態でも自分を姉として認識していることだ。
当初は妹が担当する客人が旅路の終着へとたどり着いた上でこの場所へとやってきたのかと考えていた。だが、話を聞くとそうではなく、自分の客人と同じように妹の客人もまだ旅路の途中であった。
(この場所の時間軸がおかしいのは元より、並行世界からテオのお客人すら迎えているのだからそれはわかるわ。ベルベットルームの住人である私が今の時点では知り得ない筈の未来の記憶を持っていることも時間軸が狂っていると考えればそう不思議ではない。
マリーやラヴェンツァがその記憶をはっきりと持ち得ないのは現世におけるお客人方の旅路が途中であり、ここでもあれらの存在から干渉を受けて…………いえ……ひょっとして逆なのかしら……? もし、この場所が……あれらの干渉すら弾くほどの存在が作り出したものなら──)
その時だ。休憩していた湊たちに重くのしかかるような圧が走った。
「貴方達備えなさい! 来るわよ!!」
逸早くマーガレットが叫び、その力の発生源である天井へと目を向ける。亀裂が入り、崩れ去るかと思われた天井は歪んだ空間に呑み込まれ、その果てに星々が見えた。そしてそれらは舞い降りる。
眩いほどの神々しさと象徴的な翼をはためかせて。
「なに……あれ……天使……? シャドウなの……?」
されど、思わず呟いたゆかりの発言を嗤うよう纏め役であろう一体の天使が答えた。
「シャドウ……? ああ、人の子の心の影より生まれし低俗なる存在であったか。そんなものと同じにされては困るな。我が名はミカエル。偉大にして全知全能の主に使えし天軍の長である」
「四大天使だと……!? それも本物の!!?」
美鶴もまた驚き、声を上げれば女型である天使が語りかけた。
「何を持って真実とするかはあなた方の自由ですが、我々は此処ではない地より、我が主の御名において下された使命を果たすためにやって参りました」
「左様。即ち其処な罪人二人に罰を下す為である」
「待ちなさい……っ! 仮にも神の名を出すのなら対話の余地はあるのではなくて? それとも下々の者とは口も聞けないほどに器量の狭い神なのかしら?」
そこで浮足立つ客人達が落ち着く時間を稼ぐためにマーガレットが割り込んだ。しかし彼女を見る天使たちの瞳は湊たちに比べて一層冷徹なものであった。
「言うものだな。造魔風情があろうことか我が主を愚弄しようとは」
「控えなさい、ウリエル。元より人の子への神託は私の役目でしょう」
「よいではないか、ガブリエル。この者らは主が創り出された人の子ではない。姿こそ変わりはないが、言ってしまえばマネカタの亜種のようなものだろう」
「それでもです。罪人ではありますが、主はこの者らを認め、我々を遣いへとだされた。なれば我々が為すべきはただ主のお言葉を伝え、その命を果たすのみ」
「固いことだ。しかし、やはり造魔風情に主導権を握られるのは気に食わん。口出しはさせてもらうぞ」
「あら? この中で一番事情に詳しいのは私だと思うけど? それにあなた達が言うよう私は造魔であり、決定権はないわ。ただあなた達の主が認めたという彼らにわかりやすく説明を行うだけよ」
「……良いだろう。罪人二人もまた何故そう呼ばれるのかわかっておらぬ様子。では、すべての始まりとなる出来事から話すとしよう」
それ此処ではなく、また天使たちの世界でもない別次元の宇宙の話。
「本来交わる筈のない多元宇宙はあの反逆者がたった一体の人でも悪魔でもない存在を生み出したことでそのバランスを崩してしまった。あろうことかその世界における主を滅ぼし、その権能を奪って異なる宇宙に侵攻を仕掛けようとは赦されざる大逆である」
「しかし、それ故に宇宙同士が繋がる可能性は格段に跳ね上がり、我々もこの地へと姿を現すことが出来たのです。罪人二人の世界が繋がったのもその影響でしょう」
「我が宇宙の主も嘆いておられる。多元宇宙の異界とはいえかつて滅ぼした筈の反逆者めが再び混沌を率いて世界を荒らし回っている。法と秩序によって統一された我らの世界とて影響がないわけではない」
「つまり……その反逆者と悪魔をなんとかするために
「話を急くな、造魔よ。我らの世界には我らの側に立った救世主がいる。例え、あの悪魔もどきが攻め込んで来ようとも必ずや討ち果たすことであろう」
「多元宇宙の異界とはいえ混沌に呑み込まれる世界が増えるのは良きことではない。宇宙とは大いなる意思の導きの下、主の誕生と共に生まれるものでなければならない。主が滅ぼされ混沌で満ちた世界が増えればそのシステムに異常を来たし、新宇宙の創世を企てる多神共がつけ上がる要因ともなっている。そんな折に、我が主はこの世界を見つけられた」
そのきっかけとなったのはエリザベスがこの世界に持ち込んだガラクタであった。
「本来、主の誕生と共に生まれるべき宇宙ですが、稀に違うコトワリの下、我々といった天使はおろか神々や主さえも存在しない状態で生まれることがあります。あなた方の世界のようにです。ですが、その因子はどの世界で在ろうとも存在しているのです」
「因子……まさか……!?」
「気付きましたか、賢しき造魔よ。あなた方が
旧約聖書における神とは宇宙の創造主であり、絶対の支配者でもあり、唯一の真の神である。
そして
更に言うならばこんな説がある。
タロットカードの21番目の大アルカナ、世界/宇宙のカードに描かれた絵のモデルとなった存在こそが、
「故に二人の罪人の肉体は滅びた。神の力の行使に脆弱なる人の身では耐えられない。されど神々にとって死が存在の消失を意味するわけではない。精神体となって形を保っていた事でしょう。魂は変容し存在としての格が神へと近づいたが故にです」
「待ちなさい! ならば尚の事、彼らが罪人と呼ばれる謂れはない! 二人はただ神の力を持って世界を、互いを救っただけ。あなた達にとってそれは敬うべき奇跡であって喜ばしいことのはずよ」
「そうですね。その事は我々としても責めるべき事でありません。少なくとも主はお許しになられた。人の子ですらない存在が神の御業を行使したことを。されど、けして許されぬ大罪がある。二人の最大の罪は同化を拒んだこと。もう少しでこの神無き不毛の地にも主が降臨なされたというのに……!」
「なにを……」
「わかりませんか? 二つの精神と自我は消滅してただ神の力だけが残る。救世主として信仰を集めた二つの世界は合わさり一つの世界として再誕する。新たな宇宙の誕生は神の誕生と同義。その時、自我なき神の子はその力に呑み込まれ神そのものへと変貌を遂げるのです。すなわち我らが神であるYHVHへと──」
「……神の誕生のためなら神の子すら犠牲にしようと言うの……。やはり碌でもない神のようね……」
「口を慎むのだな。神の子であるのなら神の誕生の贄となることを喜べど不満など抱きはしない。そして栄光ある主の生誕を否定しようとはこれ以上の不敬と冒涜があろうか」
「そう……狂信って怖いわね……。けど、言われてみるとそうね。自己の存在意義を知り、矛盾も過ちも犯さない完全な存在なんて神以外にはあり得ないわ。まさか御方がそんなものを生み出そうとしていたとは思いたくないけど……」
意識と無意識の間ではフィレモンとその宿敵が、知らない知らない、と首を横に振った挙げ句、俺は悪くねえ!! とでも言わんばかりにその責任をお互いに押し付けあっていた。まあこれに関しては特に彼らが何かをしたというわけでもないのだが。
しかし、
(真意はどうであれ、人の普遍的無意識の化身である御方や這い寄る混沌が神を作ろうというのなら、不完全な人の心は救いを神に求めているという証拠でもある。敵は神々、されどお客人方が真に向き合うべきは、その都合の良い神を求める人の心の弱さそのもの……。なればこれは、まさに来るべくして来た戦いということかしら……。けど、早すぎるわ。私のお客人はまだ……)
マーガレットがエリザベスの客人と比べて、まだ旅路を終えていない自分の客人に一抹の不安をよぎらせた時、天使たちからはせせら笑うような発言が下された。
「故にあなた方の精神のみをこの場へと引き寄せた。我々の目的である二人の自我と精神を消滅させるにはそれで十分ですから。ですが、この次元には神の力へと至る可能性を持つ者が他にもいた。故に招いたのですが……ハズレですね。救世主としては十分な力はあれど、それは神へと至る力ではない。まあ、おまけのようなものでしたが、どうぞお帰りになって頂いて結構です」
「そう……それは有り難いことね。ハズレにおまけ……おまけ、ね……ッ」
「ぶち殺されたいのかっ!! クソ天使が!!」
「姉さま、あいつ潰しちゃいましょう!!」
「そうね……そうしたい所だけど──それを決めるのは私達じゃないわ」
「えっ! ちょっ!?」
「姉さま……痛いです……」
今すぐ暴れそうな妹達を押さえつけるよう自分へと抱き寄せてマーガレットは後ろへと下がった。かなりの力が込められていたようでジュスティーヌからは小さな苦悶の声がもれた。
そして天使たちはそれを肯定と捉え、話を聞き終えた湊たちを見る。
「分は弁えているようだ。造魔であればそれも当然だが」
「何も悩むことはあるまい? 罪人たる二人の死は礎となりて、新たな世界を永劫に照らす主の糧となれるのだ」
「言わばこれは罰ではなく救済である。この神なき不毛の地を主の御心が満たす天上へと生まれ変わらせる為のな」
「人がかつて過ごせし常世の楽園。人の子らが求めて止まぬ理想郷。そして人の子ですらないあなた方にも主はその慈悲を持って絶え間ない幸福と安寧を与えて下さることでしょう。今こそ栄光で彩られし千年王国の──」
「──ギガントマキア!」
「──ッ!!」
しかし、その悦に入った高らかな演説の最中に痛烈な一撃を見舞われ衝撃波を受けると揃って顔を歪めて後退した。
一気に緊張感が高まり静寂がもたらされる。天使たちは知らなかった。
その一撃を放ったペルソナが、神々の示現と敵が呼んだ場所を目指し滅ぼすためにルビコン川を渡ったカエサルであったことは。
「なんだ? 意外といけるじゃないか」
「おい、アキ。いくらムカついたからって、まだ喋ってる最中にやんのはどうかと思うぞ」
「そうか? 私としては明彦によくやったと喝采をおくってやりたい気分だが」
「桐条……てめえまで何言い出してやがる。まあ、気持ちはわかるがよ」
「ああ、すまんな。あまりにふざけた物言いだったので考えるより先に体が動いてしまったようだ。しかし、神の威光とやらも言うほど大したものじゃないな」
「おまえ、マジで脳まで筋肉になってんじゃねえだろうな。だいたい神の威光だ? そんなもん通じるわけねえだろ。俺たちの人生において神が助けてくれたことなんざ、ただの一度ですらありゃしねえ。今更どの面下げて出てきやがったんだって話だろ」
「不幸自慢みたいで嫌ですけど、その通りですね。祈ることすらもうしてないですよ。一応、僕のペルソナも神の名を持ってはいたんですけどね。それだって結局は碌な結果を生みはしなかった……」
「わ、私はまだちょっと敬ってるし怖いかな……」
「ちょっと風花! 彼や琴音が死んだ時にわかったでしょ! 神様なんて何処にもいないって!!」
「ゆかりッチの言う通りだぜ。救うってんならもっと早くに救えっての!! あー今思い出してもきっちい……つーか二人分あるから余計にきちい……」
「ゆかりちゃん……順平くん……うん、そうだね。二人を救ってくれなかった神様なんて神様じゃないよね」
「異界の神とやらにはすまないが、今さら私たちは神を恐れることも敬うこともない。ニュクスの到来を見過ごした時点で出番は終わっている! 貴様らの言う救いなど私達には必要ない!」
「機械として生み出された私には知識として神の存在はあっても神の概念はありません。湊さんと琴音さんを害そうというのなら、ただの敵であります」
「ワン!!!」
「コロマルさんも神主であった主人を想い、怒っております。つまり、このペテン師共めと!」
「アイちゃん、それ、ほんとに言ってんのか……?」
「いいでしょ、順平! どっちにしろ私達の気持ちは一致してる。彼と琴音を再び私達から奪おうってんなら、相手になってやるわよ!!」
「岳羽……」
「ほんといい親友を持ったね、私は。てか、彼じゃなくて湊って呼べばいいのに」
「ちょ!! まだ感情の整理がつかないの!! やめてよ!! こんな時に」
「かわいい」
「琴音、あんた後で絶対怒ってやるから生き残りなさいよ。次に勝手に死んだら本当に許さないからね! それに、み、み、湊くんも」
「かわいい。ちょ、ゆかり首は止めて……」
「からかいすぎだよ」
「おっ、湊はゆかりの肩もつんだ。ふぅーん?」
「……僕も久々に君を殴りたくなったよ」
「野蛮。でも後にしてね。せっかく生き返ったのに、訳の分からない理由で殺される気はないでしょ」
「そりゃね……そして、もう一度君だけが死んだなんて気持ちを味わうのもごめんだ」
「気が合うね。珍しい」
「そうだね。不本意だね」
「先輩たちすごい……まったくビビってない。つーか、天使殴っちゃったよ……」
「なんか聞き逃がせねえ会話も聞こえてきたけどな……。まあ、俺も神は信じちゃいねえよ。祈って小西先輩が生き返るんなら、なんぼでも祈ってやるけどな。相棒、おまえはどうなんだ?」
「……信じているとも言えないが、信じてないとも言えないな。有里たちほど不幸……と言ったら怒られるか。そこまで悲観して神に祈るような人生を送ってきたわけじゃないからな」
「鳴上くんのペルソナ、最初はイザナギだっけ? 言いにくいよね。私もだけど」
「そういう問題なんすか? えーと、俺は今はロクテンマオウだから……いや、でも、あれは自称しただけだし元々の意味だと神つーよりは魔?」
「完二の癖に博識ー」
「うっせ! 自分のペルソナくらい調べて悪いかよ!」
「私はどっちかって言うと信じてるかな。八十稲葉って土地柄的にそういう話が多くて、それ目当てで宿泊するお客さんも居るから」
「八十神高校……神の名が入るというのはそれらにまつわる伝承や風説、あるいは事件があったという歴史的事象からのことが多いとは聞きますが……、僕は信じてなかったですね。マヨナカテレビのことがあったから柔軟にはなったとも思っていましたが、実際に目の前に現れた今となっては少しばかりの恐怖を感じます」
「クマは神とかよくわからんクマー。でも、ミナトもコトちゃんもいい子だからクマはそのためなら戦うクマ」
「おっ! クマの癖にいいこと言うじゃんか。なんか話がずれてたんだよな。神を信じる信じないじゃなくて、あの天使たちをどうするかってことだろ?」
「言い出したの花村先輩じゃないっすか」
「うっ! 完二……そういう細かいことをだね」
「なんすか? なに言うつもりっすか? また男らしくねえとか言ったらぶっ飛ばしてくれんぞ!」
「はいはい、花村君は謝る。完二君も落ち着いて。今はそんなことしてる場合じゃないでしょ。それで、鳴上君はどうするつもりなの?」
「クマの言う通りだ。相手が神であれ天使であれ、あの二人をみすみす殺させるわけにはいかない」
「それって戦うってことだよね。シャドウに始まり敵は天使かー。いやはや何ともすごいとこまで来たね」
「なんだ里中、ビビってんのか?」
「は、はあ? ビ、ビビってるわけないじゃん! 私の神はカンフーの神って決まってるの! それ以外なんて眼中にないね!」
「それはそれでどうなんだと思うが、つっこむのもアホくせえ……」
「それじゃ、こっちで一体受け持つって風花ちゃんに伝えるね。流石に二体以上は無理。先輩たちくれぐれも注意してね。あの天使たちヤバいなんてレベルじゃないから」
「おいっ!? 今から戦おうってのにビビらせんなよっ!!」
「あれれ? 花村ひょっとしてビビってんの?」
「嬉しそうに言うんじゃねえ! ビビるに決まってんだろ!! 神と天使が相手だぞ! 信じる信じないの問題じゃねえーつうの!!」
「先輩、かっこわるいー」
「先輩、ダサいっすよ」
「ヨースケはビビり屋さんクマね」
「三人とも言いすぎです。あちらの先輩方が少しおかしいのであって花村先輩の態度はむしろ普通だと思いますよ。確かに……かっこよくはないかもしれませんが……」
「クソっ……好き放題言いやがって……ちなみにりせ、ヤバいってどれくらいヤバいんだ?」
「えっとね……見えてる力だけで…………ねえ、先輩……ほんとに聞く? 正直、頭おかしくなるよ。いくら有里先輩や汐見先輩の命がかかってるって言っても……鳴上先輩が死ぬなら私は逃げて欲しいもん……」
「……やっぱやめとくわ。これ以上ビビってもしょうがねえ。代わりに聞くけどよ、おまえの神は?」
「えっ? やっだー!!! 花村先輩わかってて聞いてるでしょ! もちろん鳴上先輩だよ。だから、先輩が戦うって言うなら私は全力でサポートするから──死なないで」
「だよな……。つーことで相棒、神には縋らねえけど、おまえに縋ることにするわ」
「勝手だな……、だが、まあ任せとけ。俺も実は怖いからな。頼りにしてるぞ」
「あいよ。任されて」
メガテンのロウルートに選択肢があると思うのは甘え。
P5勢はタグにないからカットなんだ。すまないね。ちょっと纏まらなかった。完全に冤罪だからジョーカーはブチギレてるけど、彼らの物語を考えるとここで揉めといた方がいいんじゃねえかなとも。
P3勢は覚悟ガン決まり。ようやく平穏が来た所だから今更ノコノコと神とか出てきたらそりゃキレる。マリーの扱いが悪いのはその余波。番長がなんとかしてくれる筈。真田はギガントマキア使えませんが成長したんじゃねと。ただ真田にこの技は合わないな。
P4勢は旅路の途中だからこんなもんかなと。P4G後にしたら会話内容変わると思うけどビビる下りは変わらないとも思う。しかしその場合番長8股問題が確定で発生する。ジョーカーも狂気の11股が発覚する。ちょっとフォローしようがないですね……。
荒垣まで使ってなんとか修正したキタロー順平の関係をナチュラルに体現していて三行で終わらせる番長陽介なんなん? キタローに謝っ……らなくていいや。間違いなくここはフォローくると思う。P3Mではここらについての謝罪シーンあるから。ヨシツネは諦めている。
この物語の主役はキタローだけど作者はペルソナ勢で最強なのは番長だと思っている。なんというか神に愛されているというか、生まれた星が違うというか、能力という意味ではキタローやジョーカーが上回るかもしれないけど、どうしても危うさが付きまとう。ついでに達哉もね。
番長にはそれがない。betterではなくbestへとたどり着ける運命。そして任せてしまえば何とかなるという安心感で彼を超えるキャラはいない。
本編では出せなかった設定
ユニバースについて
この作品は初めからペルソナユニバースを採用しておりません。と言うのもP3におけるユニバースとはこう説明されています。
その力は生身で宇宙を越える事すら容易にし、もはや実現不可能な事象は何一つ存在しない。森羅万象から奇跡の意味を消し去る力であると。そしてその行使には代償を伴うとも。
うん、それで出来たのがニュクスの封印程度。それも人柱になるオマケ付き。ショボい。真に実現不可能なことがないのならこんなことは起こり得ない。百歩譲って命という対価を払っての封印まではよい。しかしその後エレボスが何をしようが目覚めることなどない。そういう説明じゃないか。
P2の達哉のように幸せな夢として並行世界を作り出したのならまだ納得できる。その代償が自分だけはその幸せを享受できないとしても。
こう2まで入れて考えるとハム子というキャラとその世界はキタローが今わの際に生み出した夢であるとも考えられるのですが、胸がモヤモヤムカムカするので採用しない。
というわけでこの作品におけるユニバースとは四文字の力であり卑劣な罠なのです。ただし、琴音と出会って世界ごと統合するようなことがなければ罠は発動せず、人の心が行き着いた最高峰の力には変わりないのです。人の身では耐えられず命持っていかれるけどね。6話は精神体であったから大丈夫だっただけです。
フィレ「諸君が属する宇宙を生んだ力さえも諸君の心の力と同じもので……」
そんなペルソナの道理が通るのならメガテン世界は優しさで満ちているよ……。
はい、長々とここまで読んでくれた方ありがとう。疲れたと思います。メガテン世界とこのペルソナ世界の説明的なものはまたいつか。長い上メタネタよりだからカットした。
P3Rをお楽しみくださいな。