キタローとハム子の戦争   作:ハーイヨールニャル

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 ガチ目のメガテンネタをやりたい。が、流石に悪いのでペルソナから投下します。

 その前にP3Rがこの物語に与える影響ですが、大きな問題はなかったです。仲間たちの変化は既に通った道であり、彼らが持っている一面に変わりはない。ただこの変化の原因を何処に求めるかというとリロードのキタローに求めようかなと。

 Rのキタローは何かと仲間の世話を焼き、一緒に料理したり勉強したり同じ時間を過ごすことが当たり前になっており、ゆかりは屋久島で抱きしめると戸惑うことなく手を回し返してくるし順平も謝罪のできる綺麗なテレッテーであり、風花とて無印ほど遠慮がちではないです。

 一方うちのキタローは浮気を回避できない無印FES仕様であり、前話にあるようその可能性に至れなかったキタローでもあり、「オマエのせいみたいなもんじゃねえか!!」と詰められて「ごめん……」と謝って崩壊を迎えた劇場版寄りでもあります。

そしてこのシーン、Rでは順平の親父の話が飛んでるのよね。まあP3Pも映画も飛んでるんだけど。後にこの時の順平の態度は死に怯えるチドリの気持ちを考えてやれなかった自分への苛立ちでもあったと明かされて改変されたわけですが、それ自体はいいんですけど親父の話は順平にとって重要なファクターであった筈なのです。

 P3勢にとって家族の話は全員そうなんだけど順平だけが削られちゃった。逆に真田は追加された。

 Rの順平はアル中の親父にそこまで拘りがない?ことがヒーロー願望の早期消失と性格の変化にも繋がったのかなという事とギスギスしないために改変されたこともわかるんですが、なんかモニャるのでこの作品では既に書いた内容のままで行こうと思います。そこに直接触れてはいないですが。

 ちなみに漫画版だと順平の親父は死んでます。作者もずっとそういう認識だったんだけどEPアイギスであれ?ってなってFESも確認した所、改変はなくゲームではずっと生きてたみたい。無印だけは態度的に死んでそうだけど。"有里湊"的には漫画版に沿おうと思う。

 つまり順平はたこ焼き謝罪していなければ授業の答えを聞かれて間違えたらキレてくる無印テレッテー……程酷くはないですが病室までちゃんとした形での謝罪は行っておりません。記憶が朧気だけど正解でも不貞腐れていたような……。
 ゆかりも5股かけられておりツンツンぷりぷりしているのがむしろ正常だと考えます。 これらの旧作で負とされている部分を消してしまうのはキャラとしてもったいないというのもあるし、旧作あってのリロードかなというのもある。

 そしてこのお話は三学年なのでここからリロードに近づければいいんじゃねとの結論に達しました。俺等の青春ハッピーエンドで〆て行こうぜであります。一応〆てはいるので完結のまま。

 細かな問題としては3/4にコミュのその後が追加されたので基本的にはその方向性で行きますが、既にちょい出演しているキャラはフォロー入れます。グルメキングはむしろ助かる。神木はユーザーを殺しに来ている。風花のネタがほぼボツ、メカ部は別にいいのだけど……と思う所は多々あるんだけど全員が同じ展開という訳にもいかない。具体的には5股キタローを南条くんに即紹介は出来ません。ディスティニーランドのお泊りは既に潰れた、そもそも存在しない記憶かも知れない。

 ミックスレイドやオルギアがテウルギアに組み込まれたことだけはどうしようかなとは思いますが、テウルギアを出すことがあればその時そちらの設定を改変する。

 マーラのマララギダインが火炎属性に変わりましたが、浮気して処刑されているキタローなのでペルソナ的には欲望が漏れ出している物理の方が正しいとも考えます。ハム子は物理的にないので火炎にしようかなってまあネタ扱いですね。

スキルや構成が変わるのはいいんですけどタナトスが冥府の扉を持っていないことだけはガッカリだよ。5勢にメガブースタ盛る前にこっちを入れてほしい。賊神ちゃう本家やぞ。

 こんな感じでRの追加イベや設定は既に過去に有ったことになったり、無かったり、これから起こる、でごちゃ混ぜになるかと。

 後、完全に覚え間違えていた部分を修正しました。"ボ"ロニアンモールとか風花とべべのコミュが混ざって料理研究会という訳のわからんもんが誕生しとった。

 前話と荒垣の休学については取り敢えずこのまま。四文字の真名が思いっきり出てるけど作者はちゃんと斜線を入れたつもりが文字が斜めに傾いた……。
 これはきっと隠しきれない神の威光による啓示だと判断してほっときます。
 作者的にはコロマルが記憶よりデカ過ぎたのが一番の問題。豆柴クラスだと思ってたら中型犬くらいある。

 媒体と作品によるキタローの違いについては世界観説明を兼ねたメガテンネタでちょっとだけ触れます。かなりぶっ飛んだけど着地だけは決めているつもり。

 今回のお話は三学年の続きにはなるのだけどエピソードアイギスをやらずにキタローが生き返ったから起きた問題点みたいなもの。アイギス以外放ったらかしだし。P3Rでは仲間同士の繋がりも強まったからこうはならないとも思うけど。
 
 P3Rの総評としてはリメイクとしてはよい出来かなと。仲間とのやりとりが増えたことでジャングルジムに全員集合の特別感は無くなったけどこれはもうしょうがない。ただアトラスは完全版商法で新シナリオぶっこんでくるんだから生存END追加でパラレル作る冒険に出なかったのが残念ってのはやっぱある。

 まあマイルドにはなったよね。特にEPアイギス。鍵の使い道の話し合いに煽りあいがなければゆかりの鍵強奪もない。メティスも態度を控えている。エゴはあるけどそれがキタローの事に直結している。

 FES

「それはつまり、自分には受け止める力がないと認めるって事か。あれだけの一年を過ごして、おまえは自分との勝負に負けて終わりか」
「俺もあいつが死ぬ前に行けたらって思うと気持ちが揺れるけど……あの決戦の前に戻るなんて、なんつーか単純に怖くて出来ねえ……」
「何よそれ! 自分が死ぬのはイヤだけど、彼が死ぬのはアリって、そういう事? 真田先輩たちも結局は順平と同じなんじゃないですか? 正論っぽい事並べて、要は自分がカワイイってだけなんじゃないの?」

 記念ギスギス置いとくね。無駄な過去なんてないから……。

 では、どうぞ。




                   もし君が

                秩序にも混沌にも偏らず 

                 中庸の道を往くのなら

              私が僅かばかりだが協力してあげよう

                  人間が持つ価値を 

                可能性を私に証明してくれ





Spring again

 

 三月中旬、午前零時を過ぎて静寂の降りた病院には似つかない足音が響いていた。

 

 駆けるよう足早に歩を進めるもその顔には焦燥が拭えない。影時間は消えたというのに胸の内を占める不安は何ら解消されてはいなかった。エレベーターを待つ間にさえ苛立ちを噛み殺した。

 

 ようやくやって来たエレベーターに乗り込んで少しベタついてきた赤い髪を整える。手鏡を開いては荒れた肌や隈の跡がちゃんと隠せているか、僅かばかりに体裁を気にした。

 

 辰巳記念病院には特別なフロアがある。表向きは政財界の大物や事情を公に出来ない芸能人に向けた完全個室の特別病棟。出入り口には守衛が立ち並び、身元の不確かな者の侵入を拒んでいる。勤務医であっても立ち入ったことがないと言うほどにその警備は厳重であった。

 

 だが、それもその筈。裏の顔はシャドウ被害の調査と治療。そしてペルソナ能力の研究を目的として桐条が組織した部門である。

 

 その一室に彼、有里湊の姿はあった。

 

 息を切らして美鶴が病室へと立ち入ればベットの側で腰掛けた真田の背中が視界に入る。一瞬、こちらを振り向くも直ぐにまた視線はベットで眠る湊へと戻された。美鶴も近づいて近況を伺う。

 

「どうだ……? 何も変わりないか……?」

 

「見ての通り……穏やかなもんだ。時々、目を覚ましてはいるんだがな……直ぐにまた眠ってしまう。昨日は運良く山岸が立ち会えたようだがな」

 

 湊が斎場から病院へと運び込まれて七日ばかりの時が経っていた。美鶴とアイギス以外は皆、病院に泊まり込んで湊の側で目覚めを待っていた。だが、それも三日と徹夜が続けば徐々に脱落していく。四日目の夜半にはようやく目を覚ましたが、意識はまだ混濁しており、立ち会えたのは寝ずの番をしていた真田のみであった。

 

 次の日にはずっと張り付いていたゆかりから話せたとの連絡は貰ったものの、美鶴はまだ目を覚ました湊に会うことは出来ていなかった。

 

「そうか……山岸も、か……。それで、ゆかり達はどうした?」

 

「一度帰らせた。あいつらも限界だったからな」

 

 そうは言うが、美鶴の目には真田も同じに見えた。

 

「明彦、君も少しは休め。夜は殆ど寝ていないんだろう?」

 

「ああ……わかってはいるんだが……どうにも不安でな……。また目を離した隙に……俺の手の届かない所に行ってしまいそうで……」

 

「……そんなことはないさ。医者も言っていただろう。極度の衰弱は見られたが命に別状はないと」

 

「そうだな……すまんが、少し頼む」

 

 ふらつきながら立ち上がった真田は隣の空き病室へと向かう。特別とあって患者がいない時は空いたままであり、休憩所として利用していた。ゆかり達もこの部屋に泊まり込んで交互に看病にあたっていた。

 

 それも湊が目覚めたことで緊張の糸が切れて、真田に諭されるよう今は寮へと戻って休んでいる。何しろ湊の死から10日余り、肉体も精神も疲労の極みにあった。それは美鶴も変わらないのだが、彼女は休むわけにはいかなかった。

 

 湊に関する諸々の手配に加え、蘇った記憶から影時間とタルタロスのその後の調査の指揮。こちらは対策チームの幾人かが同じ様に記憶を取り戻したことで鈍いながらも進展を見せている。そして桐条としてやらなければならない仕事もある。

 

 故に美鶴が湊の所に来れるのは真夜中から明け方になった。いつも眠る湊を眺めてはその目覚めを祈る。心電図に刻まれた鼓動を確認して息を吐き出すのも毎夜のことだった。だが、今日は少しばかり心が揺れていた。

 

「後は私だけ……いや、アイギスがいるか……」

 

 真田の言ったことが頭をよぎる。ゆかりに続き風花にも先を越された。こんな時に何を、とも思うが否定しようとすればする程に想いは強くなった。かぶりを振って眠気と雑念を打ち払う。

 

 病室に滞在できる時間は限られているのだ。また明日への活力を養うためにも視線は湊の顔に集中した。土気色だった顔は生気を取り戻して色づいている。だが、何か辛い夢でも見ているのか、少し物悲しそうにも見えた。

 

 眠る湊の手を握るのも毎度のことではあったが今日は妙に距離が近い。ふと気付けば鼻先が触れる程に顔が近づいている。

 

(ただの安否確認…………安否確認だ。これは……)

 

 徹夜続きの頭は思考を放棄しようとしている。そのまま口づけて隣で眠ってしまいたい誘惑に抗う。

 

(唇が少し荒れているな……)

 

 点滴だけでは栄養は賄えても細かなケアまでは行き届かない。リップクリームがあったか、と化粧ポーチの中身を思い浮かべるが、間接キスに純情がときめいた。

 

(い、いや……普通にキスの方がダメだろう……)

 

 どうにも疲れが押し寄せて頭が正常に働かない。動きたくないと駄々をこねた体は湊の上半身に覆いかぶさる形をキープしながら互いの吐息が交わるほどに頭が近い。心電図よりも過敏な反応を刻んで鼓動が高鳴る。生唾を飲み下す音が微かに響いた。

 

「あ、有里……」

 

 誘惑に負ける。美鶴の敗北は決定的だった。その瞬間──湊が目をパチリと開かなければ。

 

 瞬時に上体を起こした。

 

「ち、違うぞ、これは……っ!! わ、私が君が無防備なのをいいことに襲いかかる様なふしだらな人間に見えるのかッ!!!?」

 

 顔をその髪色よりも真っ赤に染め上げて自らの潔白を訴えるが、それを見やる湊の目は焦点が合わず、直ぐに瞳は閉じられた。

 

「あ、有里?」

 

 美鶴が問いかけても反応はない。どうやら再び眠ってしまったようだ。規則正しい寝息が響いてくる。

 

「まったく……驚かせてくれる……いや、いつも君はそうだったな……」

 

 まだ赤い顔に手を添えてしみじみと呟いた。真田が座っていた椅子に座り込んで大きく息を吐き出す。まだ心の内では惜しかった、残念だ、なんて気持ちが渦巻いていたが、無視して眠る湊の顔を見る。頭は完全に目覚めていた。

 

「どうしてだろうな……君の前では私は自分に抑制が効かなくなる」

 

 婚約者の時もそうだった。何を言われようと、どんな扱いを受けようとも耐えるつもりだった。それが桐条に生まれた者の努めであると。なのに湊が罵られた瞬間、我を失った。思えば湊を一人の男性として強く意識したのもこの時だった。

 

「私はたぶん……君に甘えたいんだろうな……」

 

 それがずっと叶わなかったから。

 

 祖父である桐条鴻悦の犯した罪。父、武治はその贖罪の為に生きて死んだ。苦悩する父の力になりたいと甘えを捨てて生きてきた。

 

「つくづく自分が醜い女だと思い知る……。君が無事でいてくれればそれ以外に望むものなどなかったというのに……こうやって君の顔を見た途端……欲が出る。私にはそんなことを口にする資格はないのにな……」

 

 湊の人生を壊したのが桐条なら、その命を奪ったのもまた桐条である。例え、湊が否定しようとも美鶴自身がそれを認めない。桐条の罪を、自分ではないと目を背けることは父をも否定することだ。彼女は何処までも桐条美鶴であった。

 

 いっそ責め立ててくれたらいい。すべておまえのせいだと。おまえのせいでこうなったのだと言ってくれたなら、きっと────諦めも付くだろうから。

 

「君を誰にも渡したくはないんだ……。明彦にすら嫉妬している」

 

 吐き出したのは桐条ではない一人の女としてのものだった。湊が目覚めていたら、とても口には出来ない。いや、心の何処かで聞いて欲しいとも思っている。そんな自分に気付いてまた自己嫌悪に陥る。

 

「私は君と……どう向き合うべきなんだろうな……」

 

 一人の女としてただ無事を祈れたらどれだけ良かったか。どうあっても自分は桐条であることを止められない。目を覚ました所で、あの日々はもう帰っては来ないと不安に駆られる。

 

 同時に、そんなことはない、と桐条である自分を受け入れてくれた姿に縋り付く。

 

 また顔は近づいた。

 

「……本当に酷い女だ。目覚めを望みながら……目覚めた君の顔を見るのが怖い……」

 

 そっと眠る顔に手を添える。頬を持ち上げるよう笑顔を形作っては手のひらにかかる吐息に安堵と安らぎを覚えた。

 

「君はこんな私を拒絶するだろうか……変わらず受け入れてくれるだろうか……。いや、どちらでもいい。君が生きていてくれたのだから……私の想いなんてどうだって──」

 

 諦めと未練の残る手を離そうとして────愛しさに駆られた。

 

 ふしだらな女でいい。桐条でなくていい。

 

 だって、もし、

 

「これが最後なら────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩起きないね」

 

 四月も終りが近づいて、ようやく湊の学校生活も落ち着きを取り戻した頃だった。寮へと帰ってきた湊たちがラウンジのソファーに体を預けたまま無防備に眠り続けている美鶴の姿を見つけたのは。

 

 ゆかりが側に寄って軽くを肩を揺すって見るものの、まるで起きる気配はなく、無理に起こすのも気が引けるということで皆で見守る事態に発展していた。

 

「疲れてんだろ。ここ最近は桐条先輩が一番忙しかっただろうし……けど、なんでここで寝てんだろうな。間違えて帰って来ちまったとか?」

 

「あんたじゃないんだから……でも、何も連絡来てないよ」

 

 対面のソファーに座り込んだ順平がそう言えば、ゆかりは皆の顔を確認するよう見渡した。だが、反応は乏しく、湊、風花、天田、アイギス、共に美鶴からの連絡は受けていなかった。眠る美鶴の横にどっしりと陣取っているコロマルによれば何やら用事があって訪れたことだけは確かなようだ。意訳を伝えたアイギスが考えを巡らせた。

 

「学校での湊さんの警護について、でしょうか? 何も問題はないかと思われますが」

 

「いや、アイギスがずっとくっついて回ってる事が問題だからね……」

 

「でも、最近はみんな見慣れてきたみたいで、そういうものだと認識され始めてるよね」

 

「あー湊とアイちゃん付き合ってんのかって、よく聞かれるわ。もう面倒だし付き合ってるって言っちまってもいいか?」

 

「いいわけないでしょ。ちゃんと否定しなさいよ」

 

「す、すんません……」

 

 湊が返事をするよりも早くゆかりに睨まれて順平は思わず謝った。

 

 ここ最近のアイギスといえば湊の警護を名目にやりたい放題であった。席が隣ということで授業中は黒板など目にもくれず、湊を凝視している。教師が注意しようものならその機械のスペックを存分に発揮して授業妨害とも取れる学習内容の先読み講座を行うのだ。

 特に数学教師は涙目である。単純な演算能力で機械に勝てる筈がない。

 

 そしてアイギスが桐条グループの関係者であることは編入、退学、復学を繰り返したことで確定的となった。もはや放置するしかなく、美鶴に変わるアンタッチャブルな存在の出現に教師達は戦々恐々としていた。

 

「て、てか湊が注意しろよ。おまえだって迷惑……いや、面倒は被ってんだろ?」

 

「まあ、無いわけじゃないけど……助かってもいるし……」

 

 休憩時間にトイレに向かえばアイギスは当然のように付いてきて、出入り口でお手拭きの準備をしている。復帰した陸上部では結子の隣で選手のタイムを測りながら水分補給を促していた。

 

 生徒会ではやはり勝手に書記の仕事をしだして、会計の千尋をおろおろと狼狽えさせるもあまりの手際の良さに新生徒会長となった小田桐の信任は得ていた。

 

 生徒会と言えば四月は新生徒会長を決める選挙の時期であった。湊は立候補もしていないのに勝手に推薦枠に入れられ、救世主の話題性もあって圧勝していた。しかし、これに待ったをかけたのが小田桐である。

 

 小田桐は昨年のタバコ事件での自身の振る舞いを省みて、生徒会という組織での活動、権力を求める行為からは手を退こうと生徒会続投の意思はなかった。しかし、湊の死で落ち込む同輩や後輩を前に何もしないという選択は取れなかった。

 

 彼自身、傷ついてはいたが、湊に告げた人を導くという目標を嘘にしないためにも、何が出来るか、と考えた末にやはり一番効果的なのは生徒会での活動であると続投することを決めたのだ。

 

 だが、問題は多かった。昨年の自分を知る者の目は厳しい。教師にも楯突いた事で評価は悪い。そしてそんな自分を認めてくれた湊はもういないという不安。胃が潰れそうになる程のプレッシャーを呑み込んで始業式の日も生徒会としての活動に励んでいた。

 

 そして校内を彷徨う湊の亡霊を見てぶっ倒れた。

 

 目が覚めた時には放課後を過ぎており、湊も帰宅していたが校内にはまだ湊が起こしたどよめきと喧騒の後が残っていた。何よりも目の前で泣き続ける千尋の姿に生存は確かなものと受け取った。

 

 千尋は小田桐の看病と云うよりは、もう会えないと思っていた先輩の姿を追いかけて偽物というハズレを引いて気持ちの行き場がここしかなかったというのもある。あまりにも腹が立ったので言い訳をする茶髪の上級生はビンタしておいた。

 

 そんな一騒動を終えた小田桐だったが、そこからの切り替えは早かった。湊に選挙の票が集中するであろうことを予測すると自らも立候補して防波堤となった。湊の体調を気遣い、望まぬのなら会長職を引き受ける為にだ。

 

 結果として湊は会長を譲り、小田桐は新生徒会長となった。あれ程までに求めた権力は求めなくなって転がり込んで来た事に苦笑しつつも、人生そんなものかな、と見識を広げた。それに、票など入らないと思っていた自分に少数だが投票があったことは小田桐の心を勇気付け、一層の精進を誓わせた。

 

 とはいえ、月光館史上最低の支持率での会長就任である。湊から会長職を不正に奪い取ったとの悪評も飛び交い、評判ははっきり言って最悪である。ただ前期が美鶴ということで誰がやっても同じだろう、とやや同情的な見方もある。一部の教師からすれば弱みがある小田桐は逆に扱いやすいとの事で会長職の譲渡に反対を唱えることもなかった。

 

 そんな逆風の中での新生徒会スタートとなったが、本人達は気楽なものであった。湊は要職にこそ就かなかったが、生徒会には変わらず顔を出しており、小田桐や千尋の支えとして十分に機能していた。小田桐も目新しい何かをやろうというつもりはなく、校則の引き締めを重視して湊の件で浮ついている校内を落ち着かせることに専念していた。

 

 その効果もあって湊は普通の学園生活を送れるようになっていた。会長職を辞退したのは体調の問題ではなく、昨年の激務とも言える日々の過ごし方を友近に怒られたからである。

 

 もっと自分を大切にしろだの、もっと俺と遊べだの、幾分か私情が入ってはいたが、湊も思う所があり、それに加え青痣に擦り傷、引っかき傷で満身創痍な友近の訴えを無下に却下することは出来なかった。

 

 その際、長谷川理緒の事はいいの? と聞けば真顔で、何言ってんだ? 別に関係ないだろ? と返ってきて咄嗟に手が出て友近の顔に痣が一つ増えた。

 

 すぐに謝った湊にも理由はよくわからなかったが、取り敢えず琴音の怨念ということにしておいた。やはりくっつけないとダメなのかな、と友近の動向を観察している最中でもある。 

 

 月光館学園は進学校であり、夏を超えれば受験に本腰を入れるため遊べる機会というのは自然と少なくもなる。ゆかりや風花も進学を希望しており、予定がプーなのは順平くらいのものだ。

 

 湊は二年時の進路面談では就職という答えを出してはいたが、これは金銭的な事情とニュクス戦を控えて未来への希望を持つという側面が大きく、特に何かをやりたいとか当てがあるわけでもなかった。

 

 だが、琴音のことを考えればそんな場当たり的な選択というわけにもいかない。奨学金による進学も視野に入れてみるべきだと考えを改めていた。今やりたいことがないのなら、その選択肢を広げるという意味でも美鶴は進学を進めるだろう。美鶴がその際の費用を全額負担しようとしていることはまだ知らなかった。

 

 

 その美鶴は眠りながらも時折手を動かしてはコロマルを愛おしそうに撫でている。久しぶりの美鶴の姿にコロマルが甘えて側にいるのかと思えば、実は捕まっているのはコロマルの方だったようだ。

 

「先輩起きたらアイギスのこと相談してみよっかな……それに相談したいこと他にもあるし……」

 

 アイギスに大甘な湊には期待できず、ゆかりはずれた毛布を美鶴に掛け直しながらボヤいた。

 

 ゆかりとしてはアイギスの行動は当然面白くはないが、虫除けにもなっているので半々という所だ。現に湊と関係のあった結子と千尋を牽制して付け入る隙を与えていない。

 この二人ですらそうなのだから新たな虫が湧く可能性は低いと見てよい。むしろ今一番頭を悩ませているのは風花の方であった。

 

 

 

 帰宅してから就寝までの空き時間をラウンジで何をするでもなく過ごすというのは昨年の内に根付いてしまった習慣みたいなものである。

 

 その日もゆかりは雑誌を片手にソファーに座り込んでいた。側に腰掛けた順平と天田はどこか見覚えのある芸能人が脱税疑惑と詐欺の疑いでリポーターに突撃される様子を映したテレビを眺めていた。

 

 この二人も特に目的があってラウンジに居るわけではない。それが日常になっていたことには指摘されなければ気付くこともない。しかし、いつだってそんな日常は唐突に崩れ去るものである。

 

「は……い?」

 

 雑誌から目を離したゆかりの間抜けな声が小さく響く。何事かと順平が様子を伺えば階段から降りてきた湊が手荷物を抱えた風花と仲睦まじくキッチンへと向かっている所だった。

 

 この時点で嫌な予感を覚えた順平が恐る恐るゆかりの顔を伺えば呆然としており、次の瞬間にはしてやられたと言わんばかりに歯を噛み締めていた。

 

 寮内は中立地帯、そんな誰が決めたわけでもない約定は風花の独断専行によって破られた。自身の迂闊さを嘆く暇もなく、キッチンからは張り切っている風花の楽しげな声が響いてくる。

 

「あ、あの……ゆかりッチ?」

 

「今は止めといたほうがいいですよ……」

 

 側の二人の会話など既にゆかりには聞こえていない。親の仇でも見るような眼差しをキッチンへと向けるが、内心ではその手があったかと感心してもいた。

 

 湊が寮に来るまでの生活はそれなりにだが把握している。両親が亡くなった後は各地を転々としており、家庭の味はもう忘れてしまったか、憧れになっているだろう。まがりにもそれを再現できれば湊の心を一気に引き寄せられる。

 

(……て、ダメじゃん……私も覚えてない……)

 

 ゆかりも父、詠一郎が亡くなってからは各地を転々とした。何処に行っても付き纏う父の噂から逃げるよう母は男に縋り、家を空けた。残されたゆかりはいつも買ってきたお弁当やパンを一人で食べていた。

 

 料理を始めたのは、そんな噂がゆかり自身にも襲いかかり、可哀そう……、と影で囁かれることへの反発だったように思える。何度も帰って来ない母の分まで作っては帰りを待った。結局、一緒に食卓を囲むことは叶わないと悟った時に、母への嫌悪が一気に吹き出して形になった気がする。

 

(当時は気付かなかったけど……私は私なりに取り戻そうしてたのかな)

 

 平凡な家庭と父が居た頃の幸せを。

 

(あーやめやめ。今は考えてもしょうがないや)

 

 暗くなってしまった気持ちを入れ替えるよう首を振ってはまたキッチンを見据える。要は湊の心に残る味であればいいのだ。風花に先手は譲ることになったが、自分も誘ってもいいという名分は出来た。ならばやることは一つ。敵情視察である。

 

「あれ、気付かれないとでも思ってるんですかね?」

 

「そう言ってやんなって……ゆかりッチも必死なのよ……。それに風花もテンパってるみたいだし……いい勝負じゃね? あっ、まだ恋とかわかんねえか」

 

「なっ!? バカにしないで下さいよ。それくらい……」

 

 口籠ってしまった天田を背にゆかりは足を速める。

 

 顔を雑誌で覆い隠し、夢中な振りをして冷蔵庫からドリンクを取り出す簡単なミッションだ。

 

 向こうが気付いてもこちらから声をかけるなんてことはしない。風花がどれだけの勇気を振り絞って誘ったのかはゆかりにもよく分かる。それに自分が誘った時に邪魔をされたくもない。湊からの誘いという可能性は考えない。

 

 穴だらけのプランではあったが、冷蔵庫への接近は上手くいった。風花はやはりテンパっているようで湊をなるべく意識しないよう振る舞っては視界が狭くなっている。背後にゆかりが近づいても気付くことはなく、料理への熱弁を振るっていた。

 

「それでね……調べたんだけど、ここでこれを入れると美味しくなるって……」

 

「そうなん……だ……?」

 

 当然、湊には気付かれる訳だが、冷蔵庫の扉を開けば簡易的な盾の出来上がりである。湊の視線をも遮断してゆかりがチラりチラりと伺うは食材である。自分が作る時には被りは避けたいし、被るのならより美味しく作らなければならない。 

 

(ジャガイモに人参……カレーとかシチューかしら? 肉じゃがって線もあるわね……)

 

「……有里くん?」

 

「……い、いや、続けようか……」

 

 声をかけるべきか、湊は迷ったが、結局は放置することにした。この状況が少々気不味いというのもあったが、それよりもゆかりが纏っている雰囲気が怖かった。

 

(んーチーズの香りもするけど、グラタンとかドリア? けど、鍋があるわね)

 

 食材と調理器具を一通り見渡したが、肝心の鍋には蓋がされていて中身が見えなかった。

 

(どうしよう……けど、煮込んでるってことはまだ時間かかるわね)

 

 冷蔵庫からの監視には限界を感じて切り上げるもこのままでは戦果はゼロである。迷った末にゆかりは隣の広いテーブルへと腰掛けた。ちょうどキッチンを見据えられる位置でもある。

 

「あーあ、あんな所座っちゃって……あれじゃ、気になるって言ってるようなもんじゃないですか。ね、順平さん?」

 

「…………」

 

 大人ぶった天田がやれやれ、とでも言いたげな態度で順平に同意を求めるが、順平は声を返すことなく真顔になって、すっと立ち上がった。

 

 雑誌に夢中な振りをまだ続けているゆかりであったが、料理の確認が出来たら退散するつもりであった。風花の気持ちもわかる分、足の引っ張りあいというのはしたくない。少し甘くはあるが、風花とは正々堂々と戦いたい。

 

 そんな甘さがこの後の展開を生み出した。

 

「出来た! テーブルの準備してくるね」

 

(えっ!!? もうっ!!?)

 

 予想外の速さにゆかりが焦るが既に時遅しである。

 

「あっ……」

 

「…………」

 

 キッチンから飛び出した風花がテーブルに座っているゆかりを見つけて言葉に詰まる。ゆかりもまたバツが悪そうな表情を浮かべて固まる。両者がごくりと唾を呑み込んでの沈黙。

 

 風花は湊を誘うという一大事に周りが少し見えていなかった。そしてゆかりの気持ちを知りながら抜け駆けたという罪悪感が望まぬ言葉を紡がせる。

 

「え、えーと……ゆかりちゃんも食べる……?」

 

「あっ……うん、食べる……」

 

 そして、そう答えてしまったことがゆかりにとっての不幸だった。まあ部屋に帰ってあれやこれやと想像するよりはマシだったかも知れないが。だが、しかしである。

 自分がお邪魔虫になったことはゆかりも自覚しているし、このまま三人でというのは非常に気不味い。ならば順平も巻き込んでただの品評会にしようとゆかりは振り返る。

 

 が、ソファーには既に順平の姿はなかった。

 

「あっ! そうだ! そうだった! コロマルの散歩行かなきゃ!! うーし、コロマル、今日はいつもとは違うコースに連れてってやっかんな!!」  

 

「ま、待ってください、順平さん! 僕も行きますから……っ!!」

 

「キャ、キャン?」

 

 危険を察知していた順平がキッチンを一切振り返ることなく宣言すると遅れて悟った天田が続く。見るだけならともかく巻き込まれては堪らない。自分の散歩だというのにコロマルは引き摺られるよう寮から姿を消した。残されたゆかりと風花は顔を見合わせて、

 

「た、食べよっか……」

 

「う、うん……」

 

 こうして地獄のような空気の中で晩餐は始まった。ゆかりの対面には湊が着席し、風花はその隣へと座った。テーブルの上には茹でた野菜と一口大にカットされたパンが並べられる。気になっていた鍋の中身と云えば、

 

(いや、なんでチーズホンデュよ……蓋してんじゃないわよ……!)

 

 早いわけだ、と納得はいったが、ちゃんとチーズが溶けて混ざっているかは少し心配だった。それにこれなら私の方が……、と対抗心も湧き上がる。

 

 味はチーズなので特別に美味しいとか不味いとかはなく、到って普通に美味しかった。ゆかりの好みで言えば好きな部類なので黙々と口に運びながら二人の会話の様子を伺う。

 

「初めて作ったけどどうかな? 上手く出来たとは思うんだけど」

 

「うん……美味しいと思うよ」

 

「そう? よかった。有里くんの希望が簡単な物でいいってことだから、これにしたんだけど正解だったかな。それになんかおしゃれだよね」

 

 その意見には大いに賛同する。そう頷きながらもゆかりは会話に加わるか迷っていた。流石に出しゃばりすぎ。でも、何も言わないのも変。そんな迷いは風花にもあって嫌な緊張感がテーブルには漂ったままだ。

 

 そんな中で湊は妙に真剣な眼差しで何処か安全を確認するかのように食材をチーズに付けては口へと運んでいた。口数も少なくいつもの彼ではある。だが、この状況下でそれはどうなのよ? と腹立ったゆかりは軽く足先で小突いてみる。

 

「……ッ!」

 

 反応は思っていたよりも顕著で食べる手が止まり、青髪で見え隠れした上目遣いの瞳に不覚にも胸が高鳴った。

 

(可愛い……じゃなくて……)

 

 一瞬ですべてを許しそうになって慌てて頭と心のバランスを整える。怒っている。そう、怒っているのだ、と瞳に込めて責めるような眼差しを向けた。

 そのまま湊の顔を見つめていると重なった視線が気不味そうに逸らされたので、また足を振りかぶる。ただ靴は脱いだ。

 

 ──私を見て、と。

 

 駄々をこねるよう足先が当たる度に無表情を装った湊の顔が僅かに歪む。浮気してた申し訳なさか、止めてくれ、という意味か。おそらくその両方であろうが、普段見えない姿が垣間見えて足が止まらない。

 

(なんか…………癖になりそう)

 

 思い返せば湊の前ではいつもゆかりばかりが取り乱して感情を吐露させていた。それが今やゆかりの手の中、もとい足先にひれ伏している。余裕のない姿はゆかりの自尊心をくすぐり独占欲をかき立てる。秘密の背徳感も相まって軽く触れるだけだった足は脛から膝へ、膝から太腿へとさらなる成果を求めて──

 

「ゆかりちゃん……?」

 

「──ッ!」

 

 そこで底冷えするような風花の声にゆかりは足を引っ込めた。テーブルの下での行為に気付いたようで、同席は認めてもそこまでは許してない、と抗議の視線を向けてくる。少し端なかった、と反省しつつもゆかりはゆかりで確信していた。

 

 風花はゆかりからは見えない位置で湊の服の端をぎゅっと握りしめている。幼い子供がやるような、若いカップルにも見られる行為であり、ゆかりとしてはあまり好ましいものではない。無意識か、ゆかりに取られないよう意識しての事か、はともかく、食事を取っているというのに風花の左手は一度もテーブルの上に現れていない。

 

(しんどいわね……これ……)

 

 風花が自分が側にいる、と宣言した時からこうなることは予想していた。出会った頃の風花なら対立を避けようと、気付いても何も言わないか、譲ってくれたかもしれない。けど、今の風花からは絶対に譲らない、という強い意思を感じる。

 

 強くなったね、と尊敬すら抱く中で逆に自分は弱くなったと思う。自分と風花がこうなっている原因は目の前に居るのに文句一つまともに言えやしない。父を亡くした母の気持ちがこれ以上ない程に理解できていた。

 

(これも遺伝って言うのかな……)

 

 父を忘れたかのよう男に縋る姿を軽蔑していた。愛してなどいなかった、と疑ったことさえある。私はあんな風にはならない、と頑なに意地を張って生きてきた。けど、そうじゃないと今ならわかる。

 

(お母さんはたぶん……今でもお父さんの影を追ってる……)

 

 ゆかりが父の影を過去に求めたのなら、母は男へと求めた。その温もりを、暖かさをゆかりよりも知っていたから。そしてその度に違うと打ちのめされていった事も。

 

 また足が伸びて、その存在が消えてしまわないようにそっと捕らえた。この暖かさが失われた日のことをずっと覚えている。

 

 嫌だ、と泣き叫んで当たり散らして、夜が明けるまで願っても目覚めることはない。死を受け入れなければいけない。そう悟りながらも体は縋り付いて最後まで嗚咽は途切れなかった。

 

(そう言えば約束も曖昧になっちゃったな……)

 

 冷たい手を握って誓った約束と足先にある熱の間で心が揺れた。

 

 前だけを向いて生きていく。彼がくれたものを無駄にしない為に──なんて、自分を誤魔化すしかなかった一方的な約束。理不尽を受け入れることが大人の証拠であるのなら、ゆかりもまた大人になろうとした。けど、

 

(目の前にいるんだもんね……)

 

 少し泣きそうになって顔を伏せる。泣き顔はもう見られたくなかった。自分が何を言ったのかすら、ちゃんと覚えてなくて、ずっと抱きついたまま泣き続けるなんて醜態はあの病室だけで十分だった。けれど、ここでも変わらず優しい声は届く。

 

()()……?」

 

「……」

 

「……ッ!!?」

 

 膨れっ面をして今度は強めに蹴った。元々二人の時は名前で呼んでほしいと頼んでおきながら病室ではそれを覆した。だから湊が悪い訳ではない。いや、浮気をしていたのだからやっぱり悪い。

 

 本当にめんどくさい性格だとはわかっている。今も変化に気付いてくれたことは嬉しいのに素直には表現できない。

 

(君が悪いんだからね……)

 

 また、そうやって甘えてしまいそうになる自分を変えたくて名前で呼ぶことを禁止した。失敗だったのはゆかりが一番知っている。けど、そうしなければ母のように、ただ湊に甘えるだけの関係になっていた気がする。

 

 甘えたいわけじゃない。

 

 いや、やっぱり甘えたくはある。

 

 瞬時に考えを翻すどうしようもない自分の心を宥めながら思う。

 

 自分の弱さはもう嫌という程思い知った。だから前は向く。けれど、

 

(隣には君が居てほしい……)

 

「ちょっとゆかりちゃん!? さっきから何してるの!?」

 

「何もしてない……」

 

 だが、今現在、湊の横に座っているのは風花なので拗ねるようそっぽを向いた。

 

 お冠になってしまった風花にここらで退散すべきかと階段を見やればちょうど人影が降りて来る所だった。

 

「おや、皆さん何をされているんです?」

 

「アイギス……」

 

 遅いわよ、と心の中で毒づきながらもこの場を中和してくれる存在の登場にゆかりは息をついた。アイギスは未だ湊への恋愛感情を自覚していない。学校から帰った後はバッテリーの充電を優先していたようだ。先の事はわからないが現時点では中立と判断してよい。

 

「ア、アイギスも食べる?」

 

「ふむ。では一口だけ」

 

 諦めか、動揺か、さらなるお邪魔虫の襲来に風花も機械に食事を進めるという珍妙な行為に出た。だが、意外にもアイギスはパンを受け取ってチーズを付けると咀嚼する。

 

「……美味しいと思われます」

 

「ねえ、アイギス、食べても大丈夫なの?」

 

 ゆかりの疑問は当然だった。

 

「私はペルソナ能力発動の為に人間の心をより完璧に再現することを目的として造られましたので簡易な味覚機能も搭載しております。と言っても普段口にすることはまず有りませんが」

 

「そうだったの……でも、食べたものは何処へ行くの? そのままエネルギーに変換ってわけじゃないよね?」

 

 初代メカ部部長としての好奇心が風花に芽生える。

 

「流石に口腔接種からのエネルギー変換となると効率が悪過ぎますので、あくまで人格面を補佐する為のものです。そもそも私には消化機能がないので食べているわけではないのです。味は判断出来ますが、実際には丸呑み、保管に近いです」

 

「うーん、精神が人間に近づき過ぎると逆に問題になりそうだね。少しでも変換できるように改良した方がいいんじゃない?」

 

「一考の余地はありますが、現状では必要としておりません。今の私の最優先任務は湊さんの身辺警護です。いざという場面でエネルギー切れなど問題外であります。排泄という言い方も適切ではないですが、今口にした食材は後で取り出して湊さんのお夜食としてお出ししようかと」

 

「絶対やめなさい!!」

 

「冗談であります」

 

「へっ……」

 

 呆気にとられたゆかりを見てアイギスは茶目っ気たっぷりに笑った。その仕草はもはや人間と変わらないものである。風花も思わず感嘆の声を漏らした。

 

「すごい……アイギス、そんな表情も出来るようになったの」

 

「私も新たな自分を探して日々努力しているのです。今まで必要ないと考えていた事も何かヒントに繋がるかもしれない。そういう意味では良い機会でした」

 

「頑張ってるんだね……アイギス……」

 

「それはもう勿論であります」

 

 湊に褒められて嬉しそうなアイギスを見て、ゆかりは少し自信が無くなった。風花にしろアイギスにしろ成長しているように思える。特に風花は今回湊を誘うという大胆な行動に出た。

 

 自分と言えば、直ぐ感情的になりがちな性格をなんとかしようと試みてはいるが、あまり上手く行っていない。そしてそれらを相談できる友達もいない。母の事があってそういう話は敬遠して来たツケだろう。

 

 もっと気軽に相談できる友達が欲しかった。事情は詳しくなくとも風花には森山夏紀という親友が居るようにだ。おそらく風花の行動には一枚噛んでいる。そう思いたいだけかもしれないが、風花一人の考えとするには少しばかり脅威が過ぎた。

 

 美鶴が寮に戻って来てくれたら、とも思うが、更に混乱を広げそうでもある。それに湊絡みとなると全てを話せるわけもない。それでも美鶴しか頼れそうな相手が居らず、ゆかりは切に美鶴の帰りを願うのであった。

 

 

 

 順平が危惧したよう湊を巡る攻防は始まっている。だが、それとは違う所でまた問題は起きていた。

 

「なんだか皆さん楽しそうですね……」

 

 話を聞いていた天田がポツリと声を漏らした。

 

 湊が帰ってきて、また寮で暮らせることは天田にとっても嬉しいことではある。だが、こうやって、いざ学校生活が始まると年齢が違う天田だけがその輪の中に入れない時が増えた。何かと気にかけてくれた真田が寮を出たのも疎外感を強めている原因だろう。いつもは側にいるコロマルも今は美鶴に取られてしまっている。

 

「……GWにはまた映画でも行こうか」

 

「今は特に新作もやってませんよ。気を遣ってもらわなくてもいいです」

 

 湊から顔を背けて誰がどう見ても拗ねている天田に一同は苦笑する。だが、これは甘えの裏返しであり、甘えられなかった子供時代を送ってきた彼らだからこそ、その気持ちがよくわかる。

 

「あっ、それならヒーローショー行こうぜ。ちと遠出になっけどGWなら大丈夫だろ」

 

「本当ですか!? あっ! いえ、別に興味があるってわけじゃ……」

 

 六年生ともなると特撮ヒーローからは卒業の時期でもある。天田の周りにも卒業を迎えた子供が多く、天田自身も子供っぽいと見切りを付けるべきか悩んでいた。未練があるのも好きなのもバレバレなので順平も指摘はせずに湊へと話を振る。

 

「そっかー俺っち興味あったんだけどなー。じゃ、仕方ねえから俺らだけで行くか」

 

「そうだね……せっかくの機会だしそうしようか。ポロニアンモールには来てくれないしね」

 

 残念ながらポロニアンモールは雰囲気と客層に合わないのでフェザーマンはお断りである。楽しげな雰囲気に天田の心もぐらつく。

 

「お二人とも……その……恥ずかしい気持ちとかってないんです?」

 

「恥ずかしい? んーってもなー、好きなもんは好きなんだからしょうがなくね?」

 

「周りに合わせることも大事だけど……自分の気持ちを否定してまでやるようなもんじゃないよ。後、僕は映画も楽しんでたよ」

 

「おーあの湊が人に合わせるとか言ってる……俺っち感動……」

 

「……」

 

 やや余計な発言もあったが、二人に諭されて天田の心も決まったようだ。

 

「そうですか……それじゃ、僕も行きます。いえ、行きたいです。僕はまだ子供ですから好きでもいいですよね」

 

「あらー可愛いくねえ……」

 

 また子供というフィルターを悪用してはいたが、子供である今の自分を受け入れて少しだけ天田は大人になった。見様によってよほど順平たちよりも大人だったかもしれない。

 

「んーGWだと混んでそう。まあ、みんなで出かけるってのもあまりなかったし、いいかもね」

 

「え? ゆかりッチも来んの?」

 

「なによ? 行っちゃ悪いの?」

 

 当然のように着いていくつもりだったゆかりに順平が驚きを見せたが、再びの迫力に怯む。

 

「い、いや、そういう訳じゃねえけど……ゆかりッチが見てもつまんねえんじゃねえかなと」

 

「そんなことないです! 僕が教えてあげますよ!!」

 

「お、お手柔らかにね……」

 

 苦い顔で笑うゆかりは確かにヒーローショーにはさほど興味はない。しかし、恋愛脳と呼ばれても湊の近くにいたい。それは風花も変わらない。

 

「うーん、遠出で一日となると出費は抑えたいし、お昼はこっちで用意して持っていこうかな」

 

 皆の財布事情を考えると電車代に加えて昼食、夕食の出費は痛かった。献身的に皆のことを考えた上での発言だったが、風花を見る湊の顔は引き攣っていた。

 

「それって……お見舞いでくれたおにぎりのことじゃないよね……?」

 

「えっ? そうだけど……真田先輩がおにぎりの具にはプロテインがいいって……私も回復早くなるかなって思って……」

 

「絶対やめてね……」

 

 限界突破した勇気で風花の謎のおにぎりを丸呑みした湊だが、僅かに漏れ出たその味は筆舌に尽くしがたかった。ただでさえ入院中は真田と過ごした時間が多く、隙あらばプロテインを勧められていた身である。その甲斐あって以前より筋肉は増えたが、出来るならもう一生口にしたくない味だった。

 

 まさか真田との合作であったとは思いもよらず、新たな犠牲者を出さぬ為にも訓示を行うのだ。

 

「悪いけど岳羽とアイギス、手伝ってくれる? 山岸を見張っておいて」

 

「了解であります。風花さんが人体に危険な物を入れないよう見張るのであります」

 

「人体に危険って……流石に私でも食べられない物は入れないよ?」

 

「あ、うん……組み合わせがね……」

 

 なんとなく、晩餐の時の湊の態度に納得がいってゆかりは安心した。自分がリードしているわけではないが、風花が先を行っているわけでもない。勝負はこれからと気合いを入れ直して、お弁当にはこっそり湊の好きそうな物を仕込もうと画策するのであった。

 

 幾つかの問題を抱えながらもなんだかんだで寮は平穏であった。

 

 しかし、本日を持って巌戸台分寮にはまた新たな問題が加わることになる。

 

 ガチャリ、と音を立てて玄関の扉が開いた。呼び鈴すら鳴らさぬ無作法な行為に湊たちは視線を集める。そこにはよく知る人物が立っていた。

 

「真田先輩……?」

 

「ああ、揃っているな。久しぶりだな、おまえ達」

 

 

 





 長いので一度切り。ちょっと無理やりひねり出した感が強いので後編の方が面白いと思う。病室パートを全員分書こうかとも思ったけど、結局人を変えて同じことを繰り返すだけな気がしたので話の流れで必要なら書く。

 あとがきのどっかでハム子と比べて個別に責められたとも書いたけどあれは削除しますね。よくよく考えたらキタローが責められることなど一つもない。浮気以外は。友近や無達には怒られる理由はあるけども。一番キレてる森山夏紀。

 なおプロテインおにぎりはP3Dにおける実話。Rの真田と料理をしてたら真面目な顔でプロテインは使わないとか言うからびっくりした。キャラ崩壊を疑ったね。

 おまけネタ。

 メガテン的に考えるゆかりッチの悲哀

 P3をやった方なら一度は考えるであろうキタロー=ゼウス論なら正妻は風花(ユノ=ヘラ)になって美鶴(アルテミシア)とアイギス(アテナ)は娘になる。

 この場合ゆかりのイオは数いるただの浮気相手であり、ヘラにバレそうになったゼウスは証拠隠滅を謀り、イオを牝牛に変えて貰い受けると監視を付けて逃亡。ドナドナまではされなかったがイオは森の中に繋がれてしまう。困ったイオに手を貸したのが未熟な神であるヘルメスである。

 しかし案の定、順平が失敗したので風花にバレて寮を追い出されてエジプトまで彷徨う羽目になるのがゆかりである。更にこの後、神話では妊娠が発覚するのだが……そんなことになればキタローが美鶴に殺されてしまう。

 完全にゆかりのヒロインの目は消えるようにも見えるがそんなこともない。もう一つのペルソナであるイシスが結ばれるのはエジプトの冥府の神オシリス。ギリシア神話では冥府を治めているのはハデスではあるが、この両者はギリシアにおいては同一視されており、更にハデスは死の神であるタナトスとも同一視されることがある。

 そしてオシリスには植物の神としての一面が在り、Rで追加された屋上プラントをこじつけるとキタローこそがオシリスであり、ゆかりの真ヒロインルートが爆誕するんだ。ただオシリスだとセトに殺されてバラバラになるのでやっぱり悲哀なんだ。

 ニュクスを封じている状態こそが冥府の神であるとも言えるし、その扉を開くのはダメだよってことで冥府の扉は削除されたんだ。ふざけるな。

 ハデスがジンではなくタカヤだったらなと少し思う。まあそれだと双子神であるヒュプノスの方が浮いてしまうので仕方ないかなとも。

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