キタローとハム子の戦争   作:ハーイヨールニャル

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                  感じるぞ……

              おまえと、もう一人のおまえを

                  影は見ている……

                ずっと……ずうっと……



対立の影

 

 図らずも出来てしまった特異点。テオドアは新たなニュクス封印の座を見回りながら、何が不備がないかを確認していた。

 

 琴音のことを思い、あまりの不憫さから、つい手をだしてしまったが後悔はしていない。特異点が生まれたことはまずいが、有里湊という同一存在が現れたことはテオにとっては歓迎すべきことであった。

 

(そういえばあの時も事故でしたね)

 

 テオには湊が忘れてしまった記憶がある。異なる二つの時間軸が繋がった閉じた世界での文化祭。その戦いの中で有里湊は琴音とはまた異なる客人と共に戦い抜いて事件を解決へと導いた。

 

 口癖こそ、どうでもいい、と投げやりだが、内に秘めたものは自身の客人たる琴音と何ら変わらず、やはり同一存在なのだと敬服を抱くと共に、琴音に会えない寂しさを紛らわせてくれた一種の恩人でもある。

 

(あの場にもし琴音様も訪れていたなら……)

 

 そう考えて止めた。テオの気持ちは楽になっていたであろうが、琴音のことを考えれば酷に思えた。自分を知らない仲間というのは来るものがあるだろう。いっそ琴音の世界の仲間も共に、と頭を悩ませてはやはり首を振る。湊と琴音はともかく、彼らの仲間は統合を免れない。綾時のような存在でもない普通の人間がそうなってしまえばどんな影響が出るのかわからない。

 

 それに何故かそうなればエリザベスの八つ当たりとマーガレットの叱咤を浴びそうな予感がした。ぶるりと寒気がした所で背後に気配を感じて振り返る。

 

「おかえりなさいませ。エリザベス姉上」

 

「ええ、ただいまに」

 

 偽装を終えて帰ってきたエリザベスである。彼女は近くのテーブルと椅子に腰掛けている湊たちの姿を確認すると、どこかほっとしたような息をこぼした。

 

「テオ、何か問題は……」

 

「いえ、特には見当たりません。むしろこれほどまで上手く統合が果たされたことに驚いております。本来、門の形は二人のお客人がイメージされただけの外装であったはず。ですが、合わさったことにより門そのものが封印の効果を持つほどに強化されております」

 

「……二人のお客人のイメージが重なり、新たな効果を生んだという所ですか。門とは外敵より身を守るためにあり、また何かを封じるためのものでもある。精神世界である此処においてはそのイメージが強ければ強いほど反映されるのは必然ではありますが……なにか…………癪ですね」

 

「は? 姉上、何か仰っしゃいましたか?」

 

「何も言ってなどおりませんが」

 

 口をへの字に閉じてこちらを威圧する姿にテオは機嫌が悪いと判断して追求することを諦める。それに対処すべき本当の問題があった。

 

「そ、そうですか。しかし姉上、やはり報告なされた方がよろしいかと。遅れれば遅れた分だけ、主よりもマーガレット姉上の怒りを買います」

 

「問題ありません。いくら姉でも二つの世界となると探索に時間がかかります。そして特異点であるここは更に異なる位相にある。そうそう見つかることはありません。それに姉も自身のお客人の相手で忙しい筈です。仮に……偽装に気づいたとしても問題はありません」

 

「姉上、なにを……?」

 

 なにか非常に嫌な予感がテオの全身を襲った。

 

「わかりませんか、テオ。これはすべて貴方がやったこと! そう、私は無実ということです!」

 

「図りましたな、姉上っ!! なんということを!!? もしや偽装になにか細工を……!!?」

 

 慌てるテオの前ではエリザベスが頭を抱え、大げさによろめく演技をしている。

 

「まったくなんたることでしょう……。このようなことを仕出かすとはよもや思いもよりませんでした。されど、愚弟なれど我が弟、情が湧き報告が遅れたことをお詫び申し上げます、と謝る準備はバッチリにございます」

 

「そのような戯言に耳を貸すマーガレット姉上ではございません!! かくなる上は私の方から……!」

 

 冗談ではない、とテオは急いでこの場所を離れて報告することを決めた。特異点を作ったことでさえまずいのに偽装を含めてそれらを全て自分のせいにされてはどんな罰を与えられるか。

 

 マーガレットが自分と比べてエリザベスに甘いことなどテオは百も承知であった。もしや戯言と確信しながらもその言を採用する可能性だってある。どちらにしろ怒られるのは自分ばかり。

 しかし、テオはそのマーガレットへの不確かな信頼故に失念した。目の前にいるのはそのマーガレットに匹敵するほどに自分を弄り倒しおもちゃにし、時に無情な姉であることを。

 

「待ちなさい。仮に、これがすべて私のせいとなったら何が起こるか。貴方、本当にわからないのですか?」

 

「それはどういう……」

 

 意味深な台詞にテオの動きが止まる。見ればエリザベスは瞳を潤ませどこか悲しげだ。

 

「あの不遜で作られたような姉が怒り狂って上から物を言うのは仕方ないことです。勘には触りますが、まあ受け入れましょう。されど、それに便乗した世のすべてを知ったかのような生意気でちんちくりんな妹が反省してるにも関わらず私を責め立てるのです。

 

 そうなれば私の姉としての威厳は地に堕ち、図にのったちんちくりんめの増長は留まることなく、ほどなく一家離散を招くことでしょう。貴方はそうなってもよいと!?」

 

「そ、それは困りますが、それは兄である私でも変わらないのでは……」

 

「テオ…………私や姉は当然ですが、今更あのこまっしゃくれた妹が貴方に威厳を感じているとでも?」

 

「そ、そんな……!!」

 

 よもやの一撃にテオの心の中で何かがぽっきりと折れた。まさか、おまえだけは……、とうわ言のように繰り返しては頭を抱える。愛くるしい唯一の希望が二人の姉のように自分をいじっておもちゃにして弄り倒す姿を想像して絶望へと陥った。その姿にエリザベスは心の中でにやり、と笑い満足気である。

 

「わかりましたね、テオ。貴方ひとりが罪を被るのが一番丸く収まるのです」

 

「は、はい……」

 

 こうして姉弟の言い争いは姉の勝ちといういつも通りの結果を迎えた。しかし、その側のテーブルで密かに起っていた争いはそう簡単に収まるような様相を見せてはいなかった。

 

 

 

 

 

 望月綾時はあるか、ないか、わからない胃の痛みを感じていた。彼の目の前では恐れていた事態が早くも訪れている。

 

 テオが何処かから出してくれたテーブルと椅子に座って湊を食い殺さんばかりに睨みつける汐見琴音。端的に言ってガンを飛ばしている。

 その視線の圧力は感じながらも一切顔を向けない有里湊。端的に言ってガン無視である。

 

 はじめは良かった。三人で仲良くテーブルを囲んで、これまたテオが何処から出してくれたコーヒーや紅茶に舌鼓を打つ。お茶菓子なんかも交えて、この一年の過ごし方をお互いに話し合っていた。時には綾時も加わり会話に花を咲かせていた。

 

 しかし、日数が進むたびに話がおかしくなる。

 

 何か合わない会話。何処か違う違和感。

 

 互いが互いにそれを感じつつ、深く聞くことを避けて、たどり着いた卒業式の屋上。

 

「荒垣先輩が……生きている……?」

 

 湊が発したそれが、おそらく導火線だった。

 

「生きてるに決まってるでしょ。ずっと入院中だったけど、ニュクスとの戦いでは力を貸してくれたし、最後にはみんなと並んで顔が見えたでしょう?」

 

「……」

 

 湊は答えられない。湊の世界では荒垣は入院などせず亡くなったからだ。

 

「もしかして亡くなったの……? なんで……?」

 

「わからない……」

 

「そう……」

 

「あの……琴音……?」

 

 急激に雰囲気が悪くなったのを察して、綾時がなんとかフォローすべく言葉を紡ごうとするが遅かった。

 

「ふぅ~ん? 順平や真田先輩とは絆は結んでないのにゆかり達とはちゃんと結んでるんだ……。この女たらし……!」

 

「……っ!」

 

 湊が言葉に詰まる。思い当たる節はある。

 

 なぜかコミュを深める度に恋愛感情を向けてくる女性陣。告白を受けて、沈黙を返せば涙目で迫られる。それを更に突き放せるほど湊の精神は成熟してはいなかった。

 

 ──バカね。女の涙は嘘よ。

 

 Y子ならばそう言って湊に諭したかもしれない。しかし現実世界で実際に出会って涙作戦が有効だと見れば迷わず彼女は使うだろう。

 

 湊はその生い立ちから、どうしても他者との間に距離を取ってしまう。外界との繋がりを拒絶するよう常にイヤフォンを身に着け、どうでもいい、と口癖のように呟けば殆どの人間は離れていった。湊もそれを追いかける気はなく、非常に狭い世界で彼のコミュニティは完結していた。

 

 しかし、それはこの一年以前の話だ。

 

 どうでもいい、と言っているのに何故か絡んでくる人間、面白がる友人、不思議がる少女。湊にとってはすべてが初めての体験だった。今まで誰にも見せたことのない心の奥底、見たこともない他人の奥底、垣根を越えて踏み込んで、それ以上を求める少女たちにあえなく湊は陥落した。

 

 悪いとは思っている。責められるべきは僕だ。僕はどうなってもいい──。そんな覚悟も処刑の前ではティッシュ一枚分の防御力もなかったけれど。

 

 話を戻そう。

 

 ──男女間の友情は成立しない。

 

 これはこの一年で湊が得た真理である。故に男性陣相手にコミュを築きまくった琴音に言いたいことがある。

 

 

「……そっちこそ……ずいぶんと頑張ったんだね。天田まで守備範囲だなんて……淫売……」

 

「はぁ!? い、淫売……っ!?」

 

 言ってから湊は自分で驚いた。これほど口汚く他者を罵った覚えなどないからだ。ましてや相手は女の子、すぐに謝罪を、と考えて言葉がでない。何故なのかはわからない。でも、どうしても言いたくない。

 

 そして言われた琴音は、といえば、目を吊り上げ頬を染め上げ、ギリッと奥歯すら鳴らすが言葉が続かない。

 

 思い当たる節が多すぎる。

 

 コミュを深める度に友情が恋愛へと変わっていく。天田の過去は琴音自身とよく似ている所があり、どうしても気にかけざるを得なかった。母代わり、姉代わり、そんな気持ちの筈がいつしか琴音は思い知る。天田が自分を女として見ていることを。

 

 そしてデートと言えば牛丼、コミュと言えばプロテイン。幻想と憧れで出来た女心をサンドバッグの如く打ちのめす真田が、琴音と目があって頬を染めて視線を逸した時には嫌でも理解しかけた。

 

 しかし、そんな中にあって琴音には湊にはない希望があった。

 

 テレッテー! 順平である。

 

 順平は決して琴音に恋愛感情を抱かなかった。どれだけコミュが深まろうとも、あくまで友人として接してくれた。もし彼までもが欲望のままに琴音を性的対象として見ていたのなら、琴音はもうそういうもんだね、と、なし崩し的にみんなと関係を持っていたかもしれない。

 

 故に琴音は否定する。

 

 ──男女間の友情は成立する。

 

 これはこの一年で琴音が得た真理である。それはそうと体の関係こそ持たなかったが、告白してきたコミュメンバー全員と付き合ったのは湊と一緒である。

 

 ──琴音さんはビッチガールですね。

 

 特に悪気もなく言われたアイギスの台詞が今になって心に突き刺さる。というか女の子に向かって言っていい台詞じゃないでしょ、それ、と琴音はアイギスに対する怒りまで湧いてきた。

 

(察するに同族嫌悪なのかな、これ。いや、同一存在だと考えれば自己嫌悪になるのかな……)

 

 睨みつける琴音と視線を合わさない湊に、綾時は考え込むような仕草を見せた。けして口にはしない。そんなことを言えば同一存在のワイルドによる夢の共演、ダブルハルマゲドンによりニュクスの死の概念すら超えて消滅させられてしまう気がした。

 

 やがて、バンッ、と怒りの限界に達した琴音がテーブルを叩いて立ち上がる。また湊も顔をあげる。

 

「いーよ。決着つけようじゃない。こんな奴が私だなんて認めない!」

 

「僕だって君みたいな奴と一緒にされたくない!」

 

(やっぱりこうなった……)

 

 綾時は何処か諦めていたが、それでも言わないわけにはいかない。湊と琴音、二人は大切な友達なのだ。

 

「二人ともやめ」

 

「「綾時は黙って()!!」」

 

「はい……」

 

 あえなく撃沈された綾時はお手上げ侍である。バカじゃないの、と突っ込んでくれるゆかりはいなかった。

 

 

 

 

 

「同一存在だというのにその在り様はまるで逆……静と動、水と油、いえ、ジャックフロストとジャックランタンのようなもの。そんなお二人が争えばどちらが勝利なさるのか。私、ワクワクして参りました」

 

「姉上! 何を呑気に仰っているのです!? 今すぐお止めしなくては! それにジャックフロストとジャックランタンは見た目が違うだけでやっていることは同じです。あ、いえ、つまり正しいのですか……?」

 

 エリザベスと少し混乱気味のテオが二人の行く末を見守る。テオは止めたいようだが、エリザベスは戦いに興味があり、正反対の立場を示していた。

 

「なぜ止める必要があるのです? 先に喧嘩を売ったのはテオ、貴方のお客人の方。湊様はそれをお買いになられだけのこと」

 

「それはっ……そうですが……このような戦いに意味など……」

 

「意味があるかないかを決めるのはお客人方です。もっとも湊様が勝利することは間違いないでしょうが」

 

「姉上といえど聞き捨てなりません。それでは私のお客人が姉上のお客人に劣るようではありませんか」

 

 生意気にも言い返してきたテオを鼻で笑うとエリザベスはそれこそドヤ顔で言い放った。

 

「テオ、お客人方の資質は同じ。では、なぜ差が生まれるのか? それはずばり──導いた者の差にございます!」

 

「わ、私と姉上の差だと言うのですかっ!?」

 

「そうです。それ故に貴方のお客人はあられもなくハレンチな姿を晒してトホホと敗北することになるのです」

 

 エリザベスからすれば話はここで終わりだった。自分の客人たる湊の勝利を疑う故もなく、戦いを観戦しようと歩き出した。しかし、テオが顔を歪めながらも食い下がる。

 

「ええ……、ええっ! わかりましたとも、姉上! なれば私も大人しく見守るとしましょう! もっとも姉上の予想が叶うことはないでしょうが……」

 

 聞き捨てられない一言にエリザベスも立ち止まりテオを睨んだ。声は酷く冷たい。

 

「テオ……暫く見ないうちに姉に対する口の聞き方を忘れてしまったのですか……」

 

「姉上こそ……いつのまにか力を司る者としての目が曇ってしまわれたようだ。私の見立てでは琴音様と湊様の力は拮抗しており、どちらかが必ず勝つなどと断言できるようなものではありません」

 

 一歩も引かないテオにエリザベスの眉根がどんどん釣り上がり、今にも襲いかかりそうなほどに雰囲気も変化していく。不運だったのはこちらの空気をも感じ取ってしまった綾時だ。

 

「あの……君たちまで何を……」

 

「だまらっしゃい!!」

 

「そうです! 貴方は黙っていてください!」

 

「ひぃ!」

 

 怯える綾時を無視して二人の睨み合いは続く。

 

 ──自分の客人こそ最高。

 

 それはエリザベスとテオドアに限らず、この場にいないマーガレットと末妹ラヴェンツァとて同じこと。いくら姉に弄り倒されてきたテオといえど、客人を貶されては黙ってなどいられない。確かに湊と琴音の戦いは喧嘩を売ったのは琴音の方だ。しかし、こちらで喧嘩を売ったのはエリザベスの方である。

 

 それはエリザベス自身わかっているし、客人を貶めたことに関しては謝罪の気持ちもある。されど弟、されどテオ。素直に頭など下げれるわけがない。結局ウヤムヤにすることにした。暗に湊に勝てると言ったことにムカついたのも事実である。むしろそちらの方がでかい。

 

「……そういえば久しく模擬戦というものをしておりませんでした。ここは一つボコ……力の差というものを改めて教えて差し上げましょうか」

 

「私は特にやりたくはありませんが、姉上がお望みとあらば受けて立ちましょう」

 

「言うようになったものです。生意気な……──メギドラオンでございます!」

 

「いきなりですか……っ!?」

 

「うわぁあああああ!!!!?」

 

 挨拶代わりに放たれた一撃の余波で綾時が軽くふっ飛んでいく。今ここに戦いの幕が上がった。

 

 力の管理者にして姉弟たるエリザベスとテオドア。

 

 その客人にして同一存在、ペルソナ使いにしてワイルドの有里湊と汐見琴音。

 

 もっとも、前者の戦いは既に勝者が決まっているような気がした。

 

 




「ヒーホー! 人間を苦しめてやるホ―!」

「やるホー!」

 ほらね……

P3PP4P5で浮気をせず純愛を貫いた者だけが彼らに石を投げなさい

エリザベスの姉妹評はP3Dにおいて彼女が発した言葉ほぼそのまま

そしてテオの評価

背丈だけはいっちょ前な世間知らず……フフフフフ

仕方ないね。なお妹は威厳は感じている模様。二人の姉の被害おもにエリザベスを食い止めてくれるメイン盾として……。

関係ないけどP3D風花のモデルだけ可愛いすぎる。
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