キタローとハム子の戦争 作:ハーイヨールニャル
生に意味などないと知るがいい!
答えなど、何処にもないと泣くがいい!!
故に闇があり、影がある!
私は、お前たち人間そのものだ!!
その日、真田明彦はとある会場にいた。つい先日には卒業式を終え、二度と着ることはないと思っていた学生服に再び身を包まれることになるなど想像すらしていなかった。彼の前には同じく卒業を迎えた桐条美鶴が制服のままでいた。
生気などまるで見られない顔に真田の声も強張る。
「大丈夫か……美鶴……?」
「明彦か……ああ……問題ない……。私は大丈夫…………大丈夫だ……」
虚ろな瞳にメイクでは隠しきれない隈の後。髪も艶を失い随分と傷んでいる。
「しかし、おまえ……」
「わかっている……わかっているさ。自分がどんな顔をしているかなんてわかりきっている……。それでも、私はこう言うしかないんだ……。ゆかりも山岸も伊織も天田も、皆、焦燥しきっている。アイギスだって平静じゃない。明彦、おまえもだ」
そう言われてから初めて真田は自分の身を振り返る。はみ出たシャツに跳ねた髪、無精髭さえ伺えた。美鶴の虚ろな瞳と目が合う。
「だから、私は大丈夫だ、と言うしかないんだ……。こういうことに一番慣れているのは私だからな……」
「美鶴っ!!!」
自嘲するよう頬を引きつらせて美鶴が笑った。
「ああ、すまない……」
「やはり誰かに代わってもらおう。今のおまえには酷過ぎる」
「それはダメだ。彼を見送るのは私でなければいけない。他の誰かに譲るなんて真似は許されない……。それが桐条として、彼を戦いに巻き込んだ一人の人間として……、私にできる最後の徒花なんだ……」
「……ッ!」
まるで罰を受ける罪人のように弔辞へと向かう美鶴に声が出ず、真田はただ見送るしかなかった。
「徒花……だと……?」
呟いて拳に力が入る。そのまま力任せに壁へと叩きつけた。
「違うっ……世界はあるじゃないか……っ!! あいつが守った世界がここに……っ!!」
激しく音が響き渡り、壁へと亀裂が入る。踏みとどまるよう奥歯を強く噛み締めた。されど、叶わず、膝から崩れて落ちた。あの時と同じように──。
「シンジ……俺は無力だ……。美紀の時も、おまえの時も……っ!! 誓ったのに…………また……失った……」
この日、その会場では一人の少年の葬儀及び告別式が行われていた。
本来であれば家族が受け持つ筈の葬儀は故人の両親が既に他界しており、その親類縁者も渋ったことにより桐条グループが代わりにその役目を受け持つこととなった。会場となったのは故人に縁深き月光館学園、最寄りのホールである。学生たちは学友の突然の訃報に戸惑い涙しながらも会場へと詰めかけていた。
また社会人と見られる者の数も多く、涙混じりにお教を読み上げる僧侶を始めとして、寄り添い慰め合うかのような老夫婦、ハンカチを目元に当てる芸能人と思わしき男、制服のまま職務を抜け出してきたであろう警察官。更にはボロニアンモールの店舗スタッフ達などと、本当に数多くの弔問客が訪れていた。
故人の名は有里湊。まだ17歳の少年だった。
人知れず世界を守り、世界の為にその命を散らした少年。
確かに、ここには彼が守った世界があった。
だが、はたしてその守られた筈の世界と自分は繋がっているのだろうか。
たった一人の少年の死が、それらの輪郭を曖昧にしていた。
山岸風花は特別課外活動部の中で、一番死に触れたことが少ない人間だった。幾月修司、桐条武治、吉野千鳥 、そして荒垣真次郎が死んだ時でさえ悲しみはしても引きずりはしなかった。直接的に深い仲ではないということもあったが、自分より悲しんでいる人間がいたことが大きい。それらを前に自分が泣くわけにはいかない、と生来の真面目さが死を直視することを避けてきた。
だから、知らなかったのだ。本当に大切な人の死が、こんなにも容易く心をへし折るなんてことを。
「っうぁぅうぁ゙ぁぁ゙……」
言葉はでないのに嗚咽だけはいつまでも止まらない。世界にただ自分ひとり──かつて抱いていた昏い感情が体を支配していく。そして不幸なことに、彼女を気遣えるほど余裕のある存在は側にはいなかった。
岳羽ゆかりは別れの花を柩へと収めて、さよならを告げるつもりだった。あの日から何度同じ言葉を重ねたか。今日が最後、今日だけは言うまい。ちゃんとお別れをするんだ。そう決めた筈なのに。
「なんでよっ……ねえ、起きてよ……っ!! 嫌だよ、私……っ!!」
心と頭が連動しない。青白いその顔を見る度に涙が溢れ、心が引き裂かれていく。
「ねえ……起きてよ……お願いだから……っ」
そして繰り返す。縋る言葉が途切れない。けして返事がくることはないと知りながら。
その姿を見て伊織順平は深く帽子を被り直した。おそらく特別課外活動部の中で一番湊の死を理解して受け止めようとしているのは彼だった。腕の中でチドリを失った時の喪失感と言葉では言い表せない絶望が思い起こされる。だからというわけではないが、じっと声を押し殺して耐えていた。
後悔がないわけじゃない。言いたいことなんて腐るほどあった。良いことも悪いことも。
それでもそれが、何の意味も持たないことを知っていたから。
「どうして、みんな……死んじゃうんだろう……」
遠くに飾られた遺影をぼんやりと眺めながら天田乾は呟いた。
「母さんも……荒垣さんも……有里さんまで…………命の答えって……死ぬってことですか……?」
死の影に引っ張られそうになる。想い出の中で笑う母が愛しくて。険しい顔つきをした荒垣がずっと傍らに佇んではこちらを見ている。だけど、もう何も言ってはくれない。責め立てた筈の罪は自分へと跳ね返ってお前のせいだ、と然も言いたげな目つきをしたままに。
甲高い遠吠えが聞こえて意識を取り戻す。
「コロマル……」
この場に居たくなかった。会場から走り出ては悲痛な鳴き声を上げるコロマルに抱きついて顔を埋めた。この温もりが失われることが死だと理解しながら理解したくなかった。
誰もが死を受け入れられない。受け止めきれない。もっともその反応が顕著なのは。
「湊さん……」
合成ガラスの瞳には映る世界すべてが灰色に見えた。幾度、自己診断を走らせようとも返ってくる結果は正常の一言。ならば、この胸の奥につっかえたような鈍い痛みも問題のないことなのだろうか。
「私の一番の大切は……あなたの側にいることであります……」
機械音声で発したいつもの台詞は何処か虚飾を伴って響いた。生命の終わり。生命活動を停止すること。人はそれを死と呼ぶ。わかっている。ただ認識を繰り返す度に大切な何かが欠け落ちていった。
葬儀は進む。
粛々と。
「なんなの、もう……さっきから……」
汐見琴音は困惑していた。先程まで圧倒的と言えるほど優勢であったにも関わらず、いまは一転して劣勢へと追い込まれている。
「くっ! "トール"!!」
「"スパルナ"」
「またっ!? 痛っ……っ!!」
雷神が振り下ろした鉾は雷を纏いて広がり、湊の体を貫いたが、まるで効果はない。湊が呼び出した霊鳥のペルソナは雷を完全に無効化して逆に琴音のペルソナの弱点である疾風を放った。トールはかき消え、それを召喚していた琴音にも少なくないダメージが入る。
「なんで……っ」
顔を歪めもする。痛みよりも不可解さによってだ。
何度やっても琴音が召喚するペルソナの全てが不利属性。正確には湊が後追いで琴音が出したペルソナを見て即座に有利属性を当てている。
「なら、これで……ッ! "ウリエル"!!」
「"ギリメカラ"」
「嘘でしょっ!!? どうしてわかるの……っ!!? ……ッ!!」
ウリエルが放ったデスバウンドは象の怪物に当たるとその全てを琴音へと跳ね返した。いくら後追いの召喚であろうと、どの技を出すかまではわからない。ウリエルは神の炎という異名を持つ天使であり、そのペルソナのスキルは光と火が多くを占める。その中に紛れているデスバウンドが来ると確信して湊はギリメカラを出したのだ。
「なんで……こんな事ができるの……」
「……」
無表情にこちらを見る姿に琴音は少しばかりの恐怖を感じた。召喚器をだらりと下げたまま先に行動を起こそうとする気配はない。しかし、一度仕掛ければ即応して召喚器をこめかみへと押し当て反属性のペルソナを持って痛烈なカウンターを見舞う。
理屈はわかる。自分たちが同一であるのならそのペルソナもスキルも似た構成のものであるだろう。後追いのほうが有利なことも。だからと言って、ここまで完璧にできるようなものではない。
最初こそやる気の欠片も感じられないその姿に舐めているのか、と激情のままに仕掛けたが、今に至るまでその全てで手痛い反撃をくらい、更にウリエルでさえ読み切られた。
もはや思考すらも読まれているのでは、と思わせる姿に琴音は手詰まりに陥っていた。いや、まだ打てる手はいくらでもあるのだが、それさえも読まれている気がして琴音は仕掛けることを躊躇っていた。
「湊が意地になってる……」
見守っていた綾時は湊の戦い方をそう判断した。同じワイルドではあるが格の違いを見せつけるかのような召喚技術。そしてこれは琴音には不可能な技術だと綾時が一番良く知っていた。
二人は確かに同じ資質、同じ一年を歩んだ。
リーダーとして皆を率いて戦い抜いた。
だが、その戦い方がまるで違う。
琴音は本質的にはチャンスと見たら自らが決めにいくアタッカーである。細かい指示など出さずとも全員とコミュを築き絆を結んでいる琴音には皆が勝手に動きを合わせてくれる。多少無茶に切り込んでもフォローは間に合うし、強力なワイルドである琴音は止めを譲られることも多かった。
そして琴音自身もそれを疑問に思ったことはない。なにせ仲間たちから、これといった不満がでないのだから。
しかし、湊は違う。
全員とコミュを築けなかった湊は全ての戦いに置いて冷静な判断を迫られた。文字通り
別に男性陣が助けてくれない、なんてことはないが、やはりコミュのある女性陣と比べては連携が劣る。かといって、ゆかりと美鶴とアイギスばかりでタルタロス攻略なんて出来るはずもない。体力的な問題もあるが、もっと別な問題が発生するからだ。
好き勝手にパーティを組める琴音とは違い、常に戦力を均等に振り分けることを迫られた湊。そして、更にそこに男としてのプライドの問題が関わってくる。いくら湊が強力な力を持っていたとしても自分が活躍してばかりでは不満がでる。
天田、荒垣はともかく、順平、真田はまずい。ヒーロー願望を持っていた順平とバトルジャンキーの気質がある真田。適度に活躍できなければ不満を溜め込んで暴走を招き、全体の戦力が落ちる。下手をすれば壊滅だってあり得たのだ。
もしもの時に備え、真田には美鶴、順平にはゆかり、と自分より上手く彼らを宥めてくれるであろう存在を配置して指揮を取る。当然、仲間たちの得意なことは違うので、その度にワイルドの力を駆使して自分の役割は何か、と追求し続ける。そうやって湊はこの一年を戦い抜いてきた。
確かにペルソナ能力は琴音が上。しかし、戦術眼は比べ物にならないレベルで湊が上であった。
繰り返される一方的な攻防は琴音の精神を乱して疲弊をよんだ。自然と意識は散漫となり召喚されるペルソナもレベルを落している。頃合いである。
琴音が動かないことを見て取った湊が初めて先手を取る。
「"ユルング"」
「……っ! 私だって……! "モスマン"!!」
湊に比べれば遅いが、後追い召喚した琴音の読みは当たっていた。虹色の蛇が放ったマハブフダインは琴音の周辺を凍りつかせて氷塊で埋めたが、琴音自身は耐性のあるペルソナによりダメージを抑えて踏みとどまる。そのままユルングの弱点である雷属性のジオダインを放つ。しかし、当たる寸前で湊はまた引き金を引いた。
「"スルト" ラグナロク」
「危ないでしょ!!」
湊にはそのまま雷が降り注ぎ、琴音は地から湧き上がったマグマのような火柱を必死で回避する。氷塊は一瞬で蒸発して擬似的に煙幕を作り出した。見ていた綾時にはわかった。湊がわざと技名を呟いたことは。
「あれ……どこいったの? 汚い! 正々堂々と戦いなよ!」
「これは終わったかな……」
きょろきょろと首を振りながら湊を探しているであろう琴音に、綾時が決着の時を感じ取る。後は視界を奪われ更に苛つきと混乱を掻き立てられた琴音を抑えるだけだ。
「はぁ……とりあえずはよかったと言うべきなのかな……」
綾時は重いため息を吐いた。元より綾時は勝敗には興味がない。負けた方のケアとこれからのことを考えると気が重くなるばかりだが、それよりも二人が大きな怪我も負わず無事に終わってくれることが一番だった。だが、どうにも不安が消えない。
何故ならば喚く琴音よりも、感情を示さず無表情の湊の方がよほど苛ついているように見えていたからだ。それを綾時なり考察してみる。答えはすぐに出た。
「そうか……。湊、君は自分に怒っていたのか……。琴音が歩んだ道は本来君にもあった筈の可能性だ。それを選び取れなかったことを悔いて────えっ?」
綾時は目を疑った。
煙幕の間に微かに見えた二人の影。それが交錯した時、思いもよらぬ事が起きた。
琴音は湊を探していた所で脳裏に直感が走った。同時に首筋がちりちりとするような感覚。何度もシャドウと戦ってきた琴音はそれを警告と受け取った。
「うひゃあーー!」
瞬間的に頭を抑えて身を屈める。その上を体を捻りながら湊が飛び越えていった。ぜーはー、と息を吐いてから琴音は湊をきつく睨みつけた。
「ちょっと!? あんたっ!!! 今、本気で私の顔蹴ろうとしたでしょ!!!? 信じらんないっ!!!」
「チッ……」
「舌打ちしたあああー!!!?」
「あれ……湊……? ねぇ、湊くん……? 湊くんだよね?」
喚く琴音に、状況が信じられず混乱する綾時。そんな二人の視線すら煩わしい、と湊が気怠そうに前髪をかき上げながら言った。
「ごちゃごちゃとうるさいんだよ……君は……! みんなと絆を結んでおいて、その程度なのかよ……!!」
低くドスの利いた声に殺意すら籠もるであろう瞳。それは先に琴音が湊に感じたものと同じであり、そこに込められた感情だけが桁違いであった。おそらく震えたのは琴音よりも綾時だっただろう。
「湊が……本気でキレてる……」
綾時ですら見たことがない姿。タカヤやジンとやりあった時もここまで感情は出さなかった。
「これは……嫉妬……? いや、それだけじゃない……」
伝わってくる想いに綾時が頭を悩ませれば、それを一身に受けている琴音の瞳も再び激情によって染められていく。
「もう怒ったからね!! 泣いて謝っても許してやらない……!!」
「止めれないかな、これ……」
ゆかり、順平、アイギスはFESルート基準。他は全部へし折る。真田はあれでいいとも思うけどね。意見がキャラとズレてるとは思わないし、美鶴はゆかりを援護するようでちょっと隠れ蓑にして楽し過ぎ。P4Uではグラフィックから影を背負っている癖に。FESのあっさり感ではああはならんやろう……。
二人の違いを出そうとした結果 Pull The trigger より wiping all out よりのハム子
どっちもいい曲ですね
というわけで唐突なif FESハム子編
「あいつがそうまでして守った世界をなかったことにしていいのかと言っている!!」
「僕は……琴音さんに会いたいです。例えニュクスに勝てなかったとしても……」
「天田っ!? おまえ何を……!?」
「私も天田くんに賛成。琴音に会いたいし、文句言ってやりたい……」
「くっ、美鶴!? おまえはどうなんだ!!?」
「私はゆかりに味方すると決めている。例えその先に何があってもだ」
「先輩……」
「……っ! シンジ、おまえは……」
「……伊織が言うよう俺らが争うのは馬鹿なことだ。もし、そうなるなら俺は止めるつもりだった。だが、天田がそう言った以上俺の答えは一つだ。過去に戻ってニュクスをぶっ飛ばす。ついでにあのバカ女もな」
「荒垣さん……」
「気にするな……こんなんで罪滅ぼしになるとは思ってねえ……。だがな、天田、やるからには勝つんだよ。負けることなんざ考えんじゃねえ!」
「は、はい!」
「正気か……お前ら……」
「諦めろ、アキ。おまえだって本当はあのバカに会いたいんだろう。あいつの気持ちを尊重してえってことも、俺らのことを考えておまえが言っているのもわかる。だけどな、腹が立ってしょうがねえんだよ。てめえが死んでんのに俺らを守ったと勘違いして、このまま幸せになれるとでも思ってるバカ女によ!」
「…………わかった。あいつがバカなら、お前らはみんな大バカだ。俺も含めてな……」
「あっ! 俺っちもその大バカに加わりまーす。みんなが覚悟決めてんのに俺だけが逃げるわけにはいかねーしょ」
「あんたはただのバカでしょ」
「ひどっ!」
「あの……私も……加えて欲しいかなって……」
「風花……いいの?」
「うん……私も琴音ちゃんに会いたいし……怖いけど……みんなが一緒ならきっとなんとかなるって思えるから……」
「わん!」
「みんな、死んだ人のことばかりで姉さんのことを考えていない……こんなの……」
「それなんだけど、メティス、この空間ってすぐには崩壊しないよね?」
「え、ええ……あなた達の心がバラバラだったなら即座の崩壊もあり得たでしょうが、今はどうやら安定しているみたいです。それが何か?」
「じゃあ、アイギスの気持ちが決まるまで待ってみない?」
「ゆかりさん……」
「あんた、いつも言ってたでしょ。あの子の側にいるのが一番の大切だって。それを思えば自然と答えはでるんじゃない? それに、あの子と同じその力がアイギスを苦しめるためのものだなんて、私、絶対に思わないから」
「……わかりました。少しだけ、考える時間をください」
こうしてみんなで仲良く過去に戻ったとさ……。
書いといてなんだけど……なんやこれ……。