キタローとハム子の戦争   作:ハーイヨールニャル

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              幾度失敗しようとも、過去を振り返り

               未来を掴もうとするのが人の性

             僅かでも、夢を掴まんと伸ばす腕が動くなら

                 必ず闇の中でも星は瞬く

              それを頼りに、己が運命の舵を取れ




現在地

 

「先輩……この後って……どうなるんです……?」

 

 岳羽ゆかりは遠く走り去っていく車を見送ると隣の桐条美鶴へと問いかけた。弔辞を送り、喪主までも努めた美鶴はまさしく疲労困憊といった様子であり、固い表情を崩さないままに答える。

 

「出棺後は本来家族のみが立ち会える時間だ。だが、汐見は…………遠縁の親戚とやらも当たってはみたが……誰も来てはいない……。代わりに私達が見送ることになるだろう……」

 

「それじゃ、まだ少しは一緒に居られるんですね……」

 

 本当に小さくも儚い笑みをゆかりが浮かべたことに美鶴の胸は悲痛で締め付けられた。

 

 汐見琴音の月光館への転入と入寮は幾月の指示の下、桐条グループが裏から手を回したものである。縁者が姿を見せないのは最後まで面倒を見ろという意思表示なのか、罪悪感で会わせる顔がないのか、あるいはもっと最低な理由なのか、は美鶴にはわからなかったが、その罪は自覚しており罵るような真似は出来なかった。だからと言って、こんな最後は寂しすぎる。

 

「ああ……それに彼女はペルソナ能力者でありワイルドの保持者でもあった。誰かが引き受けに現れたなら引き渡すつもりであったが、来ない以上、一旦は桐条の施設へと運び、問題が起きたとしても対処できるよう一般客のいない時間に斎場を貸し切って行うことになるだろう。いくら桐条でも斎場を丸々抑えるなんて真似はできないからな……そのことをよかったと考えてしまうのは我ながら最低だがな……」

 

「先輩、そんなことないです。今さら誰かが来たって琴音は喜ばない。私達の方がずっとあの子を想ってる」

 

「ゆかり……」

 

「私……まだ信じられないんですよ……琴音が死んだなんて……。ううん……頭じゃわかってるんです。でも、朝起きてロビーに降りて、一緒に学校へ行こうって、ずっと待ってる私がいる。いつまでも降りてこない琴音に、痺れを切らして、また寝坊してるって部屋のドアを叩いて入ってから気づくんです。もう……いないんだって……」

 

「そうだな……私もだ。まだ汐見は何処かにいるような気がするよ……」

 

「ですよね……棺桶の中で開けろーって騒いでそうですもん……」

 

「違いないな……」

 

 そうやって小さく笑いあった所で彼女たちの側へと近寄ってくる人影があった。その足下にはコロマルの姿もある。

 

「荒垣先輩……そっちは……」

 

「ダメだな……アキも天田も完全にまいってる。特に天田はやばい。下手したら後追いしかねねえ。アキも平静に努めようとしちゃいるが……言ってることが支離滅裂だ」

 

 退院という状態には程遠いにも関わらず、無理やり病院を抜け出してきた荒垣真次郎である。今も体に走る痛みよりも真田と天田のことが気になっていた。美鶴が大きくため息を零す。

 

「無理もない……。天田にとっては二人目の母を失ったに等しく、明彦は妹のことがある……。二人とも重ねて見ていたのは明らかだ。……すまない、おまえの前で言うことじゃなかったな……」

 

「構わねえよ……天田のことは俺がやったことに違いねえ……。何とかしてやりてえが……俺が近づくのは逆効果だ。順平に見て貰っちゃいるが……あいつだって死にそうな顔してやがる」

 

「先輩は……結構平気そうですね……」

 

「ああッ!?」

 

 ゆかりの悪い癖だった。悪気はないが不用意な一言。平然としているような荒垣の姿につい口に出してしまった。

 

「ごめんなさい……」

 

「ちっ! 俺はずっと寝てたからな……実感がねえんだよ。耳元で早く起きろだの、起きないとイタズラするだの、散々がなりたてておいて、いざ、起きてみりゃ、あいつはいない。ふざけんじゃねえって話だぜ……!」

 

 荒垣真次郎は死を克服し、乗り越えた人間だと言えた。肉体的にも精神的にもである。かつては己の犯した罪に苛み、死を願っていた。これでいい……、と罪からの解放を望んで終わるはずだった人生は、いつの間にか現れ、ちょろちょろと纏わりつく少女によって変えられた。

 

 変わったのは最底辺だった自分の価値。生きていたいとすら思えなかった荒垣の心を引き上げ、生への渇望を与えた。

 

 少女がもういない、という事実を受け止めながらも、湧いてきたのは悲しみよりも怒りの方が強かった。ただ寝込んでいただけの自分、勝手に逝ってしまった少女。後悔がこの先なくなることはないだろうが、絶望へと陥ることもまた、なかった。

 

 少しだけ沈黙が気まずい空気を作る中、息を切らせて一人の少女が駆け寄ってくる。

 

「風花、アイギスは見つかった?」

 

「ううん、何処にもいない……たぶん……帰ったんだと思う……」

 

「帰っただっ!? あいつがか!?」

 

 荒垣の中でアイギスの記憶は琴音にべったりとくっついていた時のままで止まっている。だからこそ信じられない。本当に最後だというのに、その琴音から離れようとする姿は。

 

「アイギスずっと様子がおかしかった……まるで初めて出会った時に戻ったみたいに……ううん、それより悪い……。たぶん琴音ちゃんがいなくなって自分の存在意義がわからなくなってるんだと思う……」

 

「あの子は……ほんと、もう……」

 

 ゆかりが天を仰ぐよう顔を抑えて呆れた仕草を見せた。しかし、それも一瞬のこと、強い意思が瞳に籠もっていた。

 

「ゆかりちゃん……?」

 

「いいわ、私が探してくる。あれだけ側にいることが大切だって言っておいて、最後にいないだなんて、私、許さないから……!」

 

「なら、コロマルも連れていけ。闇雲に探すよりはいいだろう」

 

「よーし、頼んだよ、コロマル」

 

「ワン!」

 

 軽く頭を撫でると先導するよう動き出したコロマルを追いかけてゆかりもまた歩きだす。まだ肌寒い風が吹いては頬をさらった。会場の敷地を出れば見慣れた街の光景が広がり、隣にいない誰かを強く思い起こさせる。

 

「なんで……こんなことになっちゃったのかな…………私ね……まだ泣けないんだよ……」

 

 きっとこの痛みは一瞬で引き裂かれるようなものではなく、日常の些細な時に緩やかに訪れるのだろう。それに気付きながらも、今は気付かない振りをして、ゆかりは雑踏に紛れるよう消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦い方が変わった。

 

 それまではまだ何処か喧嘩の範囲内だった。ペルソナは撃てど追撃はせず、また握りしめた武器も相手を本気で傷つけてやろうという意思は見られなかった。

 

 しかし、今は違う。

 

 打ち下ろす湊の小剣は腕の一本くらい十分に断ち切れるほどの威力がこもっている。またそれを交わし跳ね上げる琴音の薙刀も頭と胴体を切り離さんばかりの鋭さだ。

 

「やめるんだっ!! 二人とも……!!!!」

 

 綾時は先程からずっと叫び続けている。それに二人が耳を貸すことはない。いや、貸そうとして意識を割いた瞬間、自分がやられると本能的に感じ取っている。

 

「こうなったら……」

 

 ならば激突の瞬間、自分が間に入ればいい、と綾時は覚悟を決める。被害は甚大だろうが、シャドウであり宣告者たるこの身はそう簡単に滅ぶことはない。いや、彼らに滅ぼされるのなら、それは仕方のないことだと。

 

「……ッ!?」

 

 しかし実行へと移せない。命が惜しいわけじゃない。だが、心の何処かで止めてはいけない、と綾時自身にもわからない確信めいた何かが邪魔をしていた。

 

 

 綾時がそうやって苦悩している間にも二人の戦いは激しさを増した。小剣と薙刀、武器による有利性は一見すれば琴音に傾くが、ペルソナという飛び道具のある二人にはあまり意味をなさない。むしろ琴音が不利に働いている。

 

「"ミカエル"」

 

 湊は手を塞ぐことなく、両手で小剣と召喚器を扱えるが、長物である琴音はそうもいかない。召喚器を扱えば自然と片手になり薙刀を振り回すことが困難になる。天軍の長による苛烈な剣閃が降り注ぎ、それに合わせるよう湊も斬り込んだ。

 

「甘いよ。"アラハバキ"」

 

「……ッ!」

 

 しかし、琴音は召喚器を扱う事なく呼び出した土偶によりその全てをテトラカーンで跳ね返した。咄嗟に後ろに飛んで顔を守るも湊の体には軽くない斬撃の後が刻まれた。何処か見下すような口調で琴音が言った。

 

「舐めないでね。ここは精神世界なんだよ。召喚器も私達が生み出した物であり、あくまで形式的な儀式に過ぎない。そりゃ、あったほうがやりやすくはあるよ。でも、ないからって召喚できないわけがない!」

 

 それは湊とてわかっている。わかっているが故に湊は召喚器を手放さない。こめかみに召喚器を当てて引き金を引く。このプロセスを介さず召喚した場合、湊のペルソナ能力は落ちる。

 一年間、常に冷静沈着であることを心がけ、戦い続けてきた湊にとって召喚器を介さぬ召喚は邪魔でしかない。仲間たちの状況を見守り見極めペルソナを切り替える。もはや呼吸と変わらぬレベルで召喚器を扱うという行為は成立していた。

 

 一方、感情任せにペルソナを振り回してきた琴音にとってそれは大した問題ではない。むしろやりやすいかもしれない。多少威力が落ちる程度に留まり、ペルソナ能力が湊を上回る以上支障ないと言えた。

 

 こうなってくると分が悪いのは湊である。テトラカーンで常時反射を維持している相手への接近戦など自殺行為に他ならない。

 

「さて、どうするのかな? そこにいても何も出来ないよ?」

 

「……」

 

 それをわかった上で琴音が挑発するよう微笑んでは湊を煽る。

 

「"スカディ" テトラカーン」

 

「ああ、そうだよね。私もそうする……って、バカにしないでっ! "ジークフリード" 空間殺法!!」

 

 湊もまた反射を纏っての突貫だったが、勇壮な戦士による剣戟の檻の前に反射効果は消費させられ、ジークフリードは耐性により跳ね返った全てを無効化した。それは湊も予想というよりは挑発しており、深く踏み入ることなく直前で留まると大きく後方へと飛び退いている。小細工を弄して琴音の精神を乱そうとしたが、今の琴音にはそれも通用しそうにない。

 

 琴音は別に頭が悪いわけではない。その性格からくる奔放さ故にわかりにくいだけである。有する頭脳は湊と互角。決断力も何ら遜色はない。そしてキレた時の非情さではおそらく上回る。

 それは湊とは違う生き方をした琴音の生涯からくるものであり、仲間や友人には一段と優しいが敵と認めた相手には容赦しない。

 

「来ないんなら、こっちから行くね。"アスラおう"」

 

 琴音は薙刀を構えたままにその背後から強大な阿修羅が現れた。憤怒の一撃とでもいうべき力が六腕から次々に放たれる。湊は冷静に身を捩りながら回避を続けると共に琴音の様子を見てはその思惑を悟る。

 

 深く呼吸して佇まい、微かな振れすらない穂先。ただ視線だけは湊に固定しており、飛び込んだ瞬間その刃は振るわれるだろう。

 

 これは結界だ。間合いに入ったもの全てを切り捨てる。後の先を取るようで、そうではない。こうやってペルソナを駆使して湊が飛び込まざるを得ないよう逃げ道を塞いでいる。

 

 誘いは明らか。それがわかった上で湊は飛び込む決断をした。

 

 琴音が湊を敵と認めているなら湊も琴音を敵と認めている。その余裕ぶった態度が気に入らなければ、感情をこうまでかき乱されていることも気に入らない。どうでもいい、と流すことが出来ないほどに苛つき気が昂ぶっている。

 

 もはや二人とも自分達が同一の存在、いや、同じ人であるとさえ認識していなかった。これはシャドウだ。倒すべき敵。見たくもない自分自身の影――――。

 

「……ッ!」

 

「なに……? けど……ッ!」

 

 意識の果てで何かが繋がる。心の奥底で何かが悲鳴をあげた。それら全てを押し込めて二人は激突する。

 

「"シヴァ"!!!!」

 

 そして琴音より現れたるはインド神話の三神にして破壊の神。その三眼にて虚構の大地を睥睨すると、まるで踊るよう一つ、二つと踏み鳴らしては圧倒的なまでの暴力の渦が四方八方へと乱舞する。

 

――プララヤ。

 

 点ではなく面による全面制圧。360度、何処を見渡しても逃げ場はない。巨大な爆発とも言えた衝撃は一瞬にして湊の眼前に迫り、僅かに遅れて爆風と爆煙が広がりその視界を奪う。だが、それで足を止めるような湊ではない。

 

「"ヴィシュヌ"!! "アナンタ"!!」

 

 撃鉄が落ちる音は一度。されど同時に現れた2体のペルソナ。奇しくも同じ神話に連なる一柱と創生と終焉を見届けし竜王。世界を支える千の蛇頭は虚構の大地を揺らし、その背を揺り籠にてヴィシュヌは命のシャンカを吹き鳴らした。

 

 ミックスレイド。

 

 ワイルドの中でも特別と言えるペルソナ2体の同時召喚。重なったペルソナが生み出した技はすべての攻撃に対して数瞬の完全無敵化を有したインフィニティ。

 

 柔らかな光が湊を襲う衝撃すべてを打ち消していく。そのまま琴音がいた場所へと一直線に斬り込もうとして――すぐ側で声が聞こえた。

 

「わかってたよ。そうするってね」

 

 琴音は顔面蹴りのお返しとでも言うような表情を浮かべており、爆煙を隠れ蓑に湊へと近づいていた。虚を付かれた湊が見た光景は、横薙ぎの刃が自分の腹へと吸い込まれていく所だった。が――

 

「あ、あれ? まだ効果中?」

 

 カンッ、と弾かれるような手応えに琴音は一瞬呆然とする。直ぐに爆煙に隠れようとした分、召喚のタイミングを見極められず誤差が生じたようだ。その隙きに湊は距離を詰める手間が省けたのだ、と体勢を整え直して引き金を引く。声は重なった。

 

「「"デカラビア"!」」

 

「「"フォルネウス"!」」

 

 くるくると回るヒトデのようなペルソナが2体。エイに似た姿のペルソナが2体。二人から現れた計4体のペルソナは一瞬、んん? と戸惑ったようにも見えたが、交差して交わることなくお互いの親友を見つけると、そのまま再会を祝して飲みに行くかのよう直ぐに消えていった。瞬間、湊と琴音の能力が底上げされる。

 

 ベストフレンド。

 

 ミックスレイドにして個人の攻撃、防御、素早さを上げるバフだ。しかし、両者が同時に使ったことでその差は生まれない。依然として分が悪いのは湊の方である。

 

 得物の差、それ以上に琴音がデカジャを使ってバフの効果を打ち消せば終わる。精神を乱して召喚をさせないために湊は苛烈に責め立てるしかない。

 

「はぁぁあああ!!!」

 

「ちょ、ちょっと……!」

 

 珍しく烈帛の気合と共に小剣を打ち下した。そのまま息もつかせず重ねる連撃。防戦一方になった琴音が薙刀の間合いを確保しようと下がるのなら、その何倍も踏み込んでは食らいつく。懐にさえ飛び込めば小回りが効く小剣の方が有利。琴音が慌てて受け損なえば湊の召喚チャンスも生まれる。そこにこそ勝機が――――なかった。

 

「――なんてね。言ったでしょ。()()()()()って。"オルフェウス"! "アプサラス"!」

 

 薄く笑う琴音は焦ってなどいなかった。精神にも乱れはない。必死な湊を嘲笑うよう現れ、赤き奏者が弾いた竪琴より物悲しくも美しい旋律が流れ出る。それに合わせて報われぬ魂を(いざな)うよう天女が舞い踊った。それはまるで湊に送る葬送曲であり、琴音を慰撫した鎮魂歌のようでもあった。

 

 確実に当たる筈だった湊の剣は琴音に触れることなく、その体ごと目の前から消え去った。

 

――カデンツァ。

 

 その効果は回避率の急激な上昇及び体力の回復。今となっては後者に意味はないが。

 

 これを見越しての近接。冷静であるが故に湊がペルソナではなく確実に小剣を振るってくるタイミングを誘っての。すべては近接しかないと湊に思い込ませて選択肢を奪うためものだ。

 

 踏み込んで空振った分、湊の体勢が歪に崩れる。側面――そう、判断した時にはもう遅い。

 

 琴音は止まることなかった。半身を横へと傾けながら体ごと回る足取りで側面へと移動すると勢いを殺すことなく下段に構えた薙刀を振り上げる。剣戟に遅れて湊の食いしばった悲鳴が僅かに漏れた。

 

「ガァ……」

 

 琴音は何の容赦なく、切り上げ、振り切った。大きく弧を描いて加速された一撃は小剣を弾き飛ばして湊の脇腹へと食い込んだ。おそらく傷は肺にまで達したであろう。

 

 血を吐き出し、崩れる姿に琴音が決着はついた、と軽蔑と失意で染まった瞳で判断する。瞬間、湊と目が合う。嫉妬混じりに憎悪の籠もる瞳。死んでいない――。

 

「あんた……まさか……」

 

 彼らの体は自我の意識が定義したものである。生身の肉体との決定的な違いは、例え致命傷であっても、そう思わなければ動けるということ。

 

 やり返しとばかりに湊が薄く笑った。

 

「僕も……()()()()()……近接に持ち込めば……そうするってね……ッ!」

 

「くっ……!?」

 

 即座に離れようと琴音が後ずさる。しかし、湊が薙刀の柄を掴んで離さない。そして、こめかみへと押し当てられる召喚器。猛々しい荒武者が具現化する。

 

「"ヨシツネ"――ッ!!!!」

 

「――ッ!!? オ――がっ……!!」

 

 咄嗟にオルフェウス・改による全耐性で身を固めようとした琴音だが、それより速くヨシツネの一撃が顔を襲った。踏ん張る暇もなく、そのまま浮かび上がる体。途切れそうになる意識。全身を引き裂いて尚やまない衝撃に漏らした慟哭も反抗する意思さえも呑み込まれて地へと叩き落された。

 

――八艘飛び。

 

 神速で繰り出されたヨシツネの連撃は、琴音の体を無惨に蹂躙した。

 

「げはっ……」

 

 湊もまた膝をついたまま咳き込む。いくら自我の意識が定めた肉体とは言え、いや、であるからこそ致命傷をそうでないと認識することは難しい。これは大した傷ではないと無理やりに言い聞かせては回復へと務める。

 

 湊にとってヨシツネの召喚は賭けであった。有するペルソナとその能力はおそらく互角、捨て身で飛び込んだとしても既知のペルソナでは対応される可能性が高かった。なんとか琴音の知らないペルソナを、と考えた時、頭に浮かんだのはテオの姿である。そして断片的にだが思い出した。

 

 閉じた時間の文化祭。特別捜査隊、そう名乗った彼らと育んだ絆を。

 

 上手く呼び出せるかすらわからず、それでもやるしか勝ち筋が見えなかった。瞬時の対応を防ぐ為に距離を完全に潰した上でのヨシツネの強襲。集中した精神の途切れと油断を誘うために深手を負うことも折込み済みであった。この肉体は実体のない仮初のもの。完全に消滅しないよう意識さえ保てればいい。薄氷の上で踊るような拙い作戦だったが、見事耐えきり勝利を呼び寄せたと言えるだろう。

 

 その一番の功労者になってしまった白髪の友人はこの惨劇を見たら顔を引き攣らせてドン引きするか、怒り狂うか、の2択であろうが。懸念は琴音もその体験をしているかどうかであった。

 

 だが、琴音が体験していようとしていまいと結果はでた。大きく息を吐き出して勝利を確信しようとした所で、湊はチッ、と忌々しげに舌打ちをした。

 

 倒れていた琴音の体がぴくり、と反応する。がばっと立ち上がりながらも、その姿はまるで幽鬼のよう。摩擦で皮膚が焼けただれ、腕も足もあらぬ方向に折れている。ヘアピンが弾け飛んで崩れ落ちた髪の中から赤い瞳が不気味に眼光を放った。

 

「痛かった……本当に痛かったよ……私が見たこともないペルソナに見たこともない技……なのに……なんでかな……」

 

 何処か上の空でブツブツと呟きながらもその闘志はまるで萎えていない。独り言を繰り返す内に即死と判断できるような怪我が癒えていく。琴音の精神は湊と比べて遥かにポジティブであり、それ故に不可能を可能と思える範囲が広い。生身の肉体があれば、どちらもとっくに終わっていた。

 

 しかし、これは精神の戦い。相手の心を完全に折らない限り決着などない。あるいは――どちらかの魂の消滅をもってしか。

 

「チッ……」

 

「フン……」

 

 また両者が歩み寄る。湊は立ち上がり、小剣と召喚器を握りしめる。琴音は薙刀を振り直すと動くようになった体の感覚を確かめて嗤った。

 

 堪らず、叫んだのは綾時だ。

 

「もうやめてくれっ!!! 二人ともそんなことを繰り返せば魂が傷ついて、いずれ消滅する!! 僕は君たちを失いたくないんだ!!」

 

「……」

 

「……」

 

 今度は黙っていろ、とは言われなかった。

 

「それにいいのか!!? 君たちが守っているのはニュクスの封印だ!! 君たちがいなくなれば君たちが守ろうとした人たちだって死ぬ!! それじゃ君たちは何のために戦って此処まで来たんだっ!!!?」

 

「……ッ!」

 

「……ッ!」

 

 苦々しく両者が顔を歪めた。そう言われてしまえば、もう先程のような戦いは出来ない。どれだけ相手が気に入らなくとも背負う世界は同じで、そこに生きる人々も同じなのだから。同一で在り、違う世界を生きたからこそ相手の世界を滅ぼすことなど望みはしない。

 

 いっそ、今の戦いで自分たちも同一だということを証明できればよかった。わかっているのにわかっていない。認めろ、と叫ぶ心は互いにある。ただ、それを認めてしまえば自分の生きた証が否定されるようで怖い。湊が見せたヨシツネの召喚は、琴音にとって新たな溝となった。

 

「真田先輩たちとは絆もないのに……っ! なんで、こんな……!」

 

「……その言い方はやめろ。コミュがないからって絆までないわけじゃない……!」

 

「なら、なおさらよ! なんでないのよ、あんたには!! 私の知らない他の誰かとこれだけの力を持つペルソナを生み出せる絆を結べるあんたなら……!! みんなとコミュを築くことなんて簡単だったでしょう!!? そしたら荒垣先輩だってきっと……」

 

「そんなの僕にも――」

 

 わからない、と言いかけて湊は止めた。それを言った所で何になるのか。それに活動部のことばかりで、そのアルカナに当てはまるであろう自分のコミュを軽んじているような物言いにはずっと虫唾が走っていた。やはり相容れないと小剣を握る手に力が入る。だが――

 

「なんでそこで黙るの!? 言い返しなよ!! 順平たちとコミュがなくても、それと変わらないくらい大切な人たちとコミュを築いたんだって!!」

 

「……ッ!」

 

 湊の中に溜まっていた暗い感情が少し晴れた気がした。

 

「なに驚いてるの? わかるに決まってるでしょ。順平たちとコミュのある私があんたを倒せない……いや、まだ負けてないし、最後には私が勝つけどね」

 

 悔しそうに琴音が語る。その胸中を正確に察させたのは綾時だけだ。

 

(さっきの台詞は湊には無理だ。琴音だから言えた。この一年以前から他者と関わることで自分の居場所を作ろうともがいてきた琴音だからこそ。けど、湊もわかっているはずだ。それを認めることがどれだけ難しいことなのか。二人にとっては結んだその絆こそが、生きた証だから)

 

 考えながら綾時は目眩がしてきた。本当になんでこの二人は争っているのか。それぞれが結んだ絆と相手が大切で、それを蔑ろにされるような真似をされれば怒るのはわかる。活動部の面々はその中でもまた特別だったのだろう。故に湊はコミュがある琴音に嫉妬するし、琴音はコミュがない湊を軽蔑する。寮内で三股されれば喧嘩するのも当然だ。

 

 けど、明らかにやり過ぎなのだ。まだ自分が把握できていない何かがあると思いながらも綾時は期待を込めて二人を見た。琴音は不満を呑み込んで歩み寄る姿勢を見せた。後は湊だと。

 

「……ぜんぶを暴力で解決しようとするのはどうかと思うよ」

 

「仕方ないでしょ。喧嘩しないとわからないこともあるの。と言うか、君が悪いんじゃない? 都合悪くなるとすぐ黙ちゃって無視してさ」

 

「説明しようにも聞く耳持たなかった人が一人で怒り狂ってたからね……」

 

 また二人の間で火花が散って、こみ上げてきた吐き気に綾時はよろめいた。湊が悪いとも言えない。無視することを止めて琴音と向き合おうとしている。未だ燻る不満は端々から漏れたが、それは琴音も同じだろう。

 

 あえて言うのなら性格と性質の違いか。元は同じだとしても選ぶ余地のなかった道程の歩き方が違いすぎた。

 

「言っとくけどね、私が君に一番ムカついてるのはそうやって人との付き合いを避けるところだよ」

 

「相手によるよ。僕が君を一番気に入らないのはそうやって人の中に土足で入っていこうとする所だよ」

 

「怖いもんね? 誰かに自分の心を見せるのは」

 

「怖いんだろ? 自分が誰かにどう思われるのか」

 

「だから他人を拒絶する」

 

「だから自分を押し付ける」

 

「「そうしなければ心が壊れたから……!!」」

 

 言い切ってから二人とも同時にため息をついた。目は合わさず、宙をぼんやりと眺めては、この一年以前の自分の姿を思い返す。

 

 自分には関係ないと切り捨てたこと。距離を測り損ねて失敗したこと。

 孤独が辛いことだと知っていたから、また失うことを恐れて人を突き放した。孤独は辛いことだと知っていたから、そうじゃない振りをして人の輪の中で自分を偽った。

 本当の心はずっと隠したまま自分でさえ気付かないように。

 

 この一年を生きた今だからこそわかる。満たされてなどいなかった。

 

「嫌になる……」

 

「ほんとにね……」

 

 青の瞳と赤の瞳が何処か互いを気遣うような視線で重なった。どちらともなく声をかけようとしては口籠る。

 

 その頃に出会えていたなら、きっと――

 

 そんな在りもしない仮定を呑み込んで。

 

「ねえ、お母さんのこと覚えてる……?」

 

「いや……」

 

 代わりに出た言葉は二人にとって、すべての始まり。すべてを失くした日。

 

 橋の上で炎上する車。自分を庇い車外へと押し出して、そのまま母は炎に包まれた。朧げな顔で、生きて、と願われたことを思い出せたのは10年の時が過ぎ去ってからだ。それまであった筈の幸せは等に霞んで、もうすべてが曖昧だった。

 

「そう、私もぼんやりとしか覚えてない。けど、彼処から私達の生活は一変した。何処に行っても厄介者扱いで君が暗くなるのもわかるよ」

 

「別に暗いつもりはない……」

 

「暗いよ。それでも君はまだいいよ。男だからね。女の子で暗くて可愛いなんて格好の虐めの的じゃん。私は無理にでも明るくしなきゃ身を守れなかったんだよ」

 

「……自分で可愛いとか言うからだよ」

 

「おーおー言いますね。ま、いつの間にか、これが素になって本当の私なんてものは、もうわからないんだけどね」

 

「本当の僕……」

 

「コミュのことはもういいや。君がみんなを大事にしてない訳じゃないって、わかったから。でも、私にはまだ君に何か言いたいことがある気がするし……わかる?」

 

「さあね……ただ……僕もまだ君に言いたいことがあるみたいだ……」

 

「あのさ、もういいんじゃないかな? 引き分けってことで、ここはさ……」

 

 ここだ。ここしかない、と綾時はこの不毛な戦いを終わらせるべく、さりげなく会話に割り込んだ。しかし、そんな時に限って二人の意思は一致する。

 

「「綾時は黙って()」」

 

「はい……」

 

 綾時は再びのお手上げ侍である。ただ、先程までとは違い、何処か安心していた。そしてまた二人は戦い始める。

 

 何のための出会い、何のための戦い。

 

 後少し、後少し、と。

 

 両者が自分の心を確かめるよう戦い、その奥底にたどり着いたのは同時であった。

 

 

 





天田「僕は有里さん最低だと思います。琴音さんに八艘飛びを仕掛けるなんて……」

順平「それを食いしばる琴音っちに俺っちドン引き……」

番長「……」

P3にヨシツネがいなければPQから持ってくればいいじゃない……

FESではサイコパスにしか見えない天田だけどP4U2を見ると一番引きずってるのも天田じゃないかなって。キタローでそれだからハム子だったらもうね……。

ハム子のキャラは好きなんだけどバイタリティの塊で超ポジティブで超コミュ強というだけではP3のシナリオは成立しないと思うの。この作品ではキタローと同一でもあるのでこういう書き方をしている。上記のハム子の性格はこの物語ではそこまでに積み上げてきた理想の自分の集大成デビューであり一年を通して完成した感じかな。過去が辛いからこそ見ないよう極端に走った。

インフィニティの真実

シャンカとは現在を司り維持を意味する神でもあるヴィシュヌが持つ法螺貝。つまり、

アナンタ 「はーい、ちょっとこの辺り揺らしますねー」

ヴィシュヌ「ブォーーン。ブォーーンw ブォオオーーンwwwww」

シヴァ  「(#^ω^)ターンダヴァ」

 無敵化して煽りダメ絶対!

 シヴァと言えば最強、最強と言えばシヴァ。

 しかしペルソナに置いてその地位はヨシツネに奪われている。P3にはいないにも関わらず。

 ぜんぶP3のプララヤのモーションがショボすぎたのが悪いんだ。
 
 プララヤの意味は全宇宙の消滅。

 つまりキタローとハム子どっちもどっち。
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