ー光が有るところに漆黒の闇ありき。
古の時代より人類は闇を恐れた。
しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ。ー
(TVシリーズ牙狼 冒頭より引用)
この物語は人知れず闇を断ち切る存在、魔戒騎士がもし女性であり元の魔戒騎士である彼等と同等に戦う事が可能だったら?という空想の物語。
気を付けろ……[ヤツら]はいつでもお前達の事を狙っている……。
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男はタブレット端末を片手に人が行き交う駅を歩いていた。そんな光景は珍しい訳じゃない。右を見ても、左を見ても、似た様な光景は幾つも有る。
誰かとメッセージのやり取りをする者、電話をする者。景色や食べ物の写真を撮ったりとそれは日常生活では欠かせないモノとなっていた。
しかし、男だけは違った。
そんな事をする為にこの小型タブレットを持ち歩いている訳では無い。
男はキョロキョロと見回し、上りのエスカレーターへ乗る。
そして画面を操作しつつカメラ機能をONにしてそれをコッソリ前の女子高生のスカート下へ。
男がやっているのは紛れも無く盗撮だった。当然、前の女子高生は気付いていない。自分の下着がこの男により撮影されている事も。
エスカレーターを登り切ると男は慣れた手付きで素早くタブレットをポケットへしまい、足早に去った。
無論、これが初めてでは無い。もう何件も何十件以上も同様の行為を繰り返していた。この端末には数多くの動画が保存されている。男は自分が獲物と認識した相手を駅の中で物色し顔や好み、スタイルが合えば相手に接近し同様の行為を繰り返していた。
男は駅の外に停めてあった自分の自転車へ跨り、満足気な笑みを浮かべながら家へ帰宅する。そして部屋へ入ると早速、端末をパソコンへケーブルを通して繋ぎ、動画の編集作業を始めた。
「ふひひひ…良く撮れてる、良く撮れてる……この見た目で下着は黒かぁ…いけないなぁ……。」
下衆な笑みを浮かべながら事前に撮影した相手の顔写真の目元に黒い棒線を引いてから、動画投稿サイトを開く。
タイトルには[神映像]と記載し、加工した画像と動画を貼り付けてアップロード。後は似た様な趣味の人間がそれを見て評価をするだけだ。男はそういった悪趣味な連中から神と呼ばれ、親しまれていた。
「ふぅ…今日もノルマ達成!後は……ん?」
満足気に男は背伸びをした。すると一通のメールが届いた。それをマウスポインターを動かしてクリックすると、そこにはこう書かれていた。
[もっと、スリルの有る映像を撮りたいと思わないか?]
男は眉間にシワを寄せて考えた。
確かに、ここ最近投稿している動画はどう見ても在り来りのアングルで撮った物ばかり。そろそろ別の刺激が欲しいと思い悩んでいた。しかし、思い付くのはどれも捕まるリスクの有る物ばかり。
自分は捕まりたくない、もしバレれば一環の終わりだ。
しかし、撮ってみたい。
撮れるものなら撮ってみたい。
もっと、もっと、スリルの有る動画を。
気が付けば男は返信欄にメッセージを書き込んでいた。一言、撮りたいと。そして送信をクリックした。
「さぁて…どうなる……ッッ!?うわぁぁぁああッッッーーー!!!?」
その瞬間、画面から何かが飛び出して来た。得体の知れないバケモノ。
男はそれに喰われた。そして男と同じ姿へとバケモノは変化した。
「もっト…モっと……すリるヲ……!!」
ニヤリと不気味に笑うと男は再び外へと出て行った。新たな獲物を探しに……。
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ー僕の人生は極めて平凡だ。ー
1人で街中を歩く少年が居た。
首からは今時、珍しい一眼レフのカメラを下げて。彼の名前は岡本竜弘。都内の高校に通う男子生徒。四角いレンズの黒縁メガネを掛けている。その姿は目立たないというか地味。
彼が撮るのは何気無い景色や風景。時折、空へカメラを向けては飛んでいる鳥を撮ったりする。一方で彼は昔から不思議な事が大好きだった。UFOや未確認生物、超常現象などそういった不可解で理解し難い物が。全ての影響は彼の父がそうだったから。家から星空を見てはUFOを探したり、出掛けた先の山でも何かを探したり。それが楽しかった。
だが、高校へ上がる頃には自分の趣味に理解を示す人間は少しづつ減ってしまった。試しに同じ趣味を持つ人間を探す為に部活を作ったが集まったのは自分を入れた男2人、それから女子生徒2人の4人。部活動として認められるにはあと一人足りない。オマケに集まらなければ部活は強制解散させられてしまう。生徒会により部活動をする為の教室やら資材も纏めて取り上げられ、処分されてしまう。その期限が残り1ヶ月、つまり彼には時間が無い。
「…どうしてこう、人生は上手く行かないのかな。僕は普通に皆と楽しく過ごせればそれで良いのに……なのに人が集まらなきゃ解散だなんて、無茶だよ……。」
目の前で何か凄い事が起きればと思うものの、現実はそんな事は有り得ない。もし起きたらそれこそパニックだ。
UFOが飛んで来たり、隕石が落ちて来たりなんかする訳が無い。軽く笑って誤魔化すと彼は立ち止まり、カメラを向けた。
そこは駅の中へ向かう為の通路、行き交う人々の姿が。自分以外の学生やサラリーマン、幅広い年代の人間が歩いている。ふとシャッターを切ろうとした時だった。
「……?何だ?妙に騒がしいけど…。」
駅の通路の一角、何やら人集りが出来ている。少しすると警察もバタバタとその辺へやって来るのが見えた。
自分も気になってそこへ駆け寄る。野次馬を押し退けてそれを見ると、そこにあったのは女性物の上下衣服、それから中身の散らばったカバンと携帯電話が。
通り魔なのだろうか?周りからは突然コレが降って来たという話がちらほら聞こえて来る。
「コレが上から?でも何で……?」
上は改修工事の最中であり、天井は資材が剥き出しになっている。こんな所から女性の服が落ちて来る事なんて有り得るのだろうか?そもそも立ち入る事は絶対に不可能なハズだ。竜弘も不思議そうに天井を見上げていた。
それから約数分後、規制線が辺りに設けられて立ち入る事が出来無くなってしまった。そして野次馬達は解散を余儀無くされ、竜弘もまた帰路へ着いた。
駅を通り抜けて見慣れた路地を歩いて行く。何も変わらない風景の筈だった。歩いてると女性の悲鳴が聞こえ、思わず辺りを見回す。この辺は住宅街なのだが街灯が少なく、更に空き家も何軒か存在する。少し外れた所には廃墟も存在しているのだ。竜弘は咄嗟に悲鳴のした方へ走って向かう。するとそこに居たのは1人の中年の男。そしてパサッと力無く男の前で何かが地面へ落ちた。竜弘は近くの塀へ身体を押し付けて様子を伺った。
男は振り向くと口元を拭い、美味かったと口にして笑っている。竜弘には何が起きているのか解らなかった。女性を男が食った?いや、だとしたら肉塊が残らないのは何故だ?そんな事を考えていた時、うっかりカメラの本体が塀に当たり音を立ててしまう。
「ダれだ!?ソこにダレか居ルのカ!?」
男は見回すと不気味な呼吸音を立てている。逃げ出したいが身体が動かない。足がガクガクと震えているのが解る。
「オとナしク出てコい…!!サもナくば……!」
竜弘は顔を少し覗かせる。男は威嚇とも思える様な素振りを見せると同時に口が大きく開き、アゴをギチギチと動かした。もはや人では無い、バケモノだ。
それを見た竜弘は、ひぃっと叫び声を上げてしまう。
「見ツけタ……オマエか?オれの食事ノ邪マをスるノは……ッ!!」
不意に男と目が合ってしまった。男の姿が一瞬消えたかと思うと竜弘の目の前に来る。
そして爛々と光る眼を此方へ向け、口からヨダレを垂らしながら見ている。
この世の物では無い。人の形こそしているが、どう見ても化け物だ。
「嫌だッ…死にたくない……こんな所で……!!」
「安心シろ…オれがジックり味ワってヤる……女ノ悲鳴モすりるが有ッて美味カっタが…男の悲鳴モ美味そウだ……!!」
喰われる。自分もこの男の食料にされてしまうのだ。人間が動物の肉を食べる時と同じ様に、身体を引き裂かれてバラバラにされて。
だが男が大きく口を開けた瞬間、ぐぇっという声と共に男が自分から離れた。ゆっくり目を開けると男から離れた後ろに誰かが立っているのが解る。
「…品性が無いな、食事のマナーが最悪過ぎる。まぁ……ヒトじゃないから当然か。」
向こうは片手でポンポンと石を上下に投げてはそれをキャッチし、話している。
「オ、おマえは…ダれだ!?」
「……オレか?オレは狩る者。お前の様なバケモノを狩る存在さ。」
竜弘には何を言ってるのか解らなかった。バケモノを狩る?向こうは丸腰なのに。足元にはさっき向こうが投げて来た石が転がっていた。すると男は石を投げて来た相手へ背を向けると先程見た威嚇する仕草を見せた。
「オまエも……オれガ喰ッてやル!!」
「…やって見ろよ。その前に斬ってやる!!」
男が飛び掛ると片腕を大きく振り翳し、相手を掴もうとする。だがそれを向こうはひらりと避けて蹴りを食らわせた。メリメリッという鈍い音と共に男がふらつき、そこへ追い討ちを掛ける様に顔へ右ストレートを打ち込む。そしてフラフラとよろめいてバタリと倒れてしまった。
「…ふぅ、我ながら良いパンチだったかもな。おい、お前…大丈夫か?」
すると相手は竜弘へ駆け寄って来ると手を差し出した。竜弘が顔を上げるとそこに居たのは黒い長い髪、首から下も黒い服を着ている。それに紺色のロングコートを羽織った人物。
竜弘はそっと手を握ったのだが何処か違和感を覚えた。男の手にしては妙に柔らかい気がする。
「まさか…キミ……女の子…?」
「……そんなのどうでも良いだろ。それより、今は早く此処から…ッ!?」
そう話していた時、首へ白い何かが巻き付いて来る。竜弘が視線を向けると先程倒れた男が口から何かを吐いて彼女の首へと巻き付けていた。
「許サなイィイ……オマえダけハァアア…!!」
ギリギリという音と共に首が締められていき、その度に彼女は苦しんでいる。すると握っていた手がすり抜け、男の方へ引き寄せられてしまった。
「ッ……!!」
だが男の所へ完全に引き寄せられる前に糸を剣で断ち切り、着地した。
「げほッ、げほッッ…あー、クソッ……!」
[カッコつけて油断するからでしょう?ホント、詰めが甘いんだから……!]
「悪かった…。それでカガリ、アイツは?」
[ホラー、ラパクス。蜘蛛のホラーで…冴月が嫌いな虫型ね。]
「そんなの見れば解るっつーの…!」
サツキという少女は何かと話をしながら男の方を見る。そして会話を終えると冴月という女性は剣を鞘から引き抜いた。気が付けば辺りは夜、付近の街灯が剣の刃を照らしていた。
「さぁて、メインディッシュと行こうか……オッサン!」
「喰ッてヤる…喰ッテやルゥウウ!!! 」
そう叫んだかと思えば男は更に化け物へと変化した。下半身は蜘蛛、身体は人間の女性。両手には鋭い鎌が。顔は蜘蛛と同じで目が幾つも出現している。
「図体がデカくなっても…蜘蛛は蜘蛛か。そこのお前、早く逃げろ!」
「でも…ッ!」
「いいから早くしろ!! 」
竜弘は大声で彼女に促されると急ぎ足でその場から去ろうと必死に走り出した。彼の足音が消え去るのを確認した冴月は安堵し、バケモノへと剣を向けた。
「…己の欲望を満たす為に大勢の人間を喰らい、その魂をも穢した貴様の陰我……オレが断ち切るッッ!!」
「ナるホど…そノ剣…キサマ……魔戒騎士カ!?だガ、魔戒騎士ハ…!!」
「男だけ…だと思ったら大間違いだぞ?」
冴月は前方へ円を大きく描く。すると空間が裂け、途端にその身体は鎧を纏った。紺色、そして黒を基調とした狼の様な出で立ち。そして鋭い眼光の紅い瞳。
そこに現れたのは1匹の狼。またの名を
ー幻創騎士蒼牙ー
「…ギシャアアアッッ!!!」
バケモノは威嚇し糸を弾丸の様にして放つと攻撃を先に仕掛けた。しかしバチィッという何かが弾ける音と共に糸は蒼牙の足元へ落ちた。向こうからしたら確かに命中した筈。だが相手はケロッとしている。
「おいおい、まさかもう終わりか?」
「グォアアアアーーー!!!!」
挑発に乗ったバケモノはドスドスと走り出し、片腕の鎌を振り上げて斬り裂こうとする。振り下ろしたそれはいつの間にか剣で受け止められていた。ギリギリと剣と鎌の擦れる音が響き、火花が散る。直後に蒼牙はそれを振り払い、右腕を斬り落とした。バケモノは悲鳴を上げて後退る。
[冴月、鎧の装着時間は解ってるんでしょうね?]
「解ってるって…ッッ!!」
蒼牙は構えると走り出す。糸による攻撃を巧みに躱し、飛び上がった。だが向こうも最後の抵抗として左腕の鎌を横に振り翳して薙ぎ払おうとした。
が、既に遅く、すれ違い様にバケモノは胴体を剣で横一線に斬り裂かれてしまった。バケモノはその場に崩れ落ち、倒れてしまう。
「モォっと…モっトォオ……すりルをヲ……!」
「スリルか…それはお前が身を持って1番感じてるんじゃないのか?……快楽とスリルの果てに待つのは破滅、お前はそのスリルの方に喰われたのさ。」
鎧を解くと同時にバケモノは消滅した。
跡形も無く、黒い塵と化して。冴月は長い髪を風に靡かせ(なびかせ)て振り向いた。
「…ホラー討伐完了。とは言え、5人も喰ってたとはねぇ……。」
[けどまぁ…初陣にしては及第点かもね。本来のホラーの出現方法とは異なるのが気掛かりだけど……。]
「はいはい…そんじゃ、帰って仮眠でも取るか……カガリもご苦労様。」
カガリという腕輪に話し掛けると冴月は夜明けの空の元、1人で歩き出した。
魔戒騎士、弥那瀬冴月。またの名を幻創騎士蒼牙。彼女の騎士としての物語が今、この瞬間から紡がれ始めた。