牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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父娘-FAMILY-

吾妻時宗。月ヶ丘高等学園の理事長を務めている人物であり知らない人間は居ない。同学園の校長である月島秀(つきしま みのる)に学園の様々な事柄を任せている。

元々この学園は進学校では無かった。

ごく普通の学校とは程遠く、男女共に不良生徒が多かったのだ。

暴力事件や事案は度々発生し一般の生徒や教員にも危害が及ぶ事すらあった。

時宗が理事長になる前、彼も教員としてこの学園に来たが学園の現状を知り愕然とした。

授業は成り立たず、無断欠席者が多い。

時にはいざこざにより警察沙汰になる事もあった程。

時宗は真面目なタイプだった事からこういった事案が許せなかったのだ。

何としても学園を変えてやる。そう彼が決心した時と同じ年に後の校長となる月島秀と出会った。彼もまた時宗と似た思想だったが彼は違った。不良生徒は皆、社会のクズであると決めつけていたのだ。いつか彼らを消してやりたい、罰を与えてやりたいと思っていた。

 

それから数年程経過したある日。秀と時宗はある事を思い付いた。それは生徒らにポイントが付与されたカードを配る事。

そのポイントがゼロになれば退学にするという物だった。これにより不良生徒らをポイントがゼロになった段階で相次いで退学処分とし学園から追放する事に成功していた。

だが時宗は何か違和感を感じていた。

退学させた生徒らが相次いで行方不明になっていたのだ。

秀に問いただすと彼は特別だからなと話し、時宗を学校の地下へと連れて行った。秀が重たい鉄のドアに付いた南京錠と鎖を外しドアを開ける。

秀は懐中電灯を点けると中へと入って行く。時宗もまた彼の後ろへ続いて歩いて行った。

それから歩き続けると秀は立ち止まった。

 

 

「…吾妻、コレがお前の知りたがっていた真実だよ。」

 

 

 

 

「何だ…何なんだコレは!?まさかお前ッ…!!」

 

 

そこに居たのは顔の部分だけガラス張りになった筒状の入れ物に入れられた男女達だった。どれも眠る様に目を閉じている。入れ物から伸びた数多の管からは赤い液体が絶えず流れ続けていた。

 

 

「…退学になった不良生徒は皆、此処に居るよ。勿論…俺に刃向かった奴等も。」

 

 

 

 

「何……!?」

 

 

時宗は彼の言葉に耳を疑った。

彼を他所に秀は淡々に話を続けていく。

 

 

「ふふ…実験だよ。前に話しただろ?俺はどんな手を使ってでもこの学校を変えて行くって…コレはその証。そして俺は力を貰った!!ホラーと契約して!!」

 

 

 

 

「ホラー…?!」

 

 

 

 

「ああ、そうさ!!此奴らの肉体はこのカプセルで紅き雫へと変換され、それはホラーの渇きや飢えを満たす養分となる!!良いじゃないか…こんなクズ共でも誰かの役に立てているのだから!!!」

 

 

 

 

「秀…お前ッッ!!」

 

 

 

時宗は彼の胸ぐらを掴んだ。

だが秀は時宗をじっと見ると再び話を始める。

 

 

「ククク…止めるとか言わないよな?お前は理事長になり…俺は校長になるんだ。それに、此処の管理は既に俺では無い奴がやる事になっている…だから呉々もご内密に頼むよ、吾妻理事長?」

 

 

 

 

「くッ…!」

 

 

それから此処の地下の存在は2人しか知らぬまま月日が幾度と無く流れて行った。だが此処は現在も可動している。月ヶ丘高等学園生徒会メンバーらに此処の管理が義務付けられたからだ。

この秘密を知るのはごく一部の人間のみ。不良生徒や規律を乱す者を此処にあるカプセルへ入れ、ホラーの養分となる液体を生み出し続ける存在として利用し続ける為に。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「…くッ、何だ此奴ッ!?前より強くなってるッッ!!」

 

 

 

[油断しないで冴月!…まさか生きてたなんて。]

 

 

 

夜。冴月は学校から離れた建物の屋上で戦っていた。

相手は過去に自分が教会で倒した筈の黒い西洋風の鎧。紫色の両目が兜の隙間から爛々と輝いている。

冴月は息を整え、剣を構えると

対する鎧側も同じ様に構えてみせた。

 

 

「今度こそ…ッ!!」

 

 

冴月は走り出すと真正面から剣を振り翳し、それを防いだ鎧と鍔迫り合いを始める。互いの力が込められる度に刃からは火花が散る。

 

 

「お前は誰なんだ…ッ!何故オレを狙うッッ!!」

 

 

 

「騎士ハ…私ノ…敵ッッ!!」

 

 

 

 

「何度も何度もそればかりだな、お前は…ッッ!!」

 

 

冴月は振り払うと鎧の胸元を力一杯、蹴飛ばした。鈍い音が響くと蹴りを入れた箇所だけが大きく凹む。

鎧はふらつきながら冴月を見つめると、剣を地面に擦りながら冴月へ走って来た。

 

 

「ガァアアアッッッーー!!!」

 

 

 

 

「これで…終わらせてやるッ!!」

 

 

 

冴月は前方へ剣で円を描くと蒼い狼の鎧を纏う。両肩の装飾から黒いマフラーの様な物が風で靡いた。月明かりに照らされた鎧は美しくまるで青いサファイアの様に光り輝いていた。

地面から真上へ目掛け振り上げられた相手の剣を後退し避けると蒼牙は両足を開いて左手を前へ突き出し、右手で剣を構える。一瞬の静寂が訪れた途端、蒼牙は走り出した。

 

 

「うぉおおッッーー!!」

 

 

黒い鎧もまた咆哮しながら蒼牙へ突撃する。だが、先に蒼牙が突き出した剣が黒い鎧の左肩を刺し貫いた。

 

 

「ア…ガッッ…!?」

 

 

 

 

「ッ…!!」

 

 

トドメと言わんばかりに剣を引き抜き、再び振り下ろそうとした時だった。

 

 

「おーい…真宮さーん?…何処行っちゃったのかなぁ……。」

 

 

ふと建物の真下の通りから聞き覚えのある声が聞こえた。その声の主は竜弘だった。

 

 

「竜弘!?何でこんな時に…ッ!!」

 

 

蒼牙は一瞬、躊躇うと黒い鎧の首元で剣を止めた。すると黒い鎧はフラフラと後退りながら建物の屋上から飛び降り、闇夜に消えた。

 

 

「待てッ!!ちッ…逃した。」

 

 

 

 

[あと一息だったわね…あの傷ならそう遠くへは行けないわ。それに、今の此処は斗真の管轄…後は彼が狩るでしょう。]

 

 

 

「…そうだったな。早く帰ろう、部屋から抜け出したのがバレる。」

 

 

実は番犬所から特別に元々自分の管轄だったエリアの辺りを見回る事が許可されていた。学校から冴月の実家が有る周囲までならとの条件付きで。

最近もこの近辺や或いは少し行った先でホラーによる被害が出ているのは確かだった。だが学校内でもホラーが稀に出る事も有る。今は紗那が探知式の結界を貼っている事からホラーが出れば彼女が討伐してくれる。

冴月は建物の屋上から軽々と飛び降り、着地すると竜弘の方へ向かって行くと声を掛けた。

 

 

 

「…何してるんだ、こんな夜中に。」

 

 

 

 

「うわッ!?み、弥那瀬さん…はそっか、ホラー狩りか。実はちょっと色々あってさ。」

 

 

 

 

「…色々?」

 

 

 

 

「うん…何処か行っちゃったんだ。家に住んで居る子。」

 

 

竜弘は何かを誤魔化す様な喋り方で冴月と話していた。冴月も何処か違和感を覚えていた。

 

 

「…家に住んでいるって両親とお前以外に誰か居るのか?」

 

 

 

 

「あ…いや、まぁ…親戚の子がね。今家に来てるんだ。さっき出掛けて行ったきり戻って来ないから気になって…!」

 

 

 

 

「人探しか…でも気を付けろよ。ホラーが動いているのもこの時間帯だ。さっさと連れて家に帰れ。」

 

 

冴月はそう言い放つと竜弘は立ち去って行った。

 

 

[…冴月、あの坊やから邪気を感じる。]

 

 

 

 

「竜弘から?…何でまた急に。」

 

 

 

 

[しかもあの鎧と同じ。冴月…彼に何かあったら遅いわ、追い掛けましょう?]

 

 

 

 

「カガリがそう言うなら…。」

 

 

冴月は竜弘の向かった方向へ走って行く。暫く進むと誰かと話している竜弘の声が聞こえた。そこは河川敷の橋の下からだった。冴月はバレない様に柱の陰に身を潜める。

 

 

「…あれは確か真宮朱音?」

 

 

 

 

[邪気はその朱音って子から感じる。]

 

 

 

 

「じゃあ…あの子はホラーに憑依されているとでも?」

 

 

冴月はカガリと話をしながら気配を消してゆっくり近寄る。よく見ると彼女は竜弘の前で上半身裸になり、何かに刺し貫かれた左肩を竜弘が止血していた。

それから竜弘に連れられて彼女は帰って行った。

 

 

「…竜弘が隠していたのはコレだったのか。」

 

 

 

 

[あの傷…ねぇ冴月?貴女の剣が鎧を貫いたのはどっちの肩だったかしら?]

 

 

カガリは冴月へそう尋ねた。

 

 

 

「左だよ。…まさか彼女が鎧の主とでも言いたいの?」

 

 

 

[…その可能性は捨て切れない。だとしたら坊やと何か有るのかもしれない!]

 

 

 

 

「……紗那に探りを入れさせよう。未だ断定は出来ない。それにそろそろ夜が明ける迄時間が無い。引き上げよう?」

 

 

 

[ええ…そうね。続きはまた明日ね。]

 

 

冴月とカガリはその場を去った。

黒い鎧の正体が真宮朱音なのでは無いかという不確定な情報を入手し、竜弘との繋がりが有るという事を知って。

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翌朝。冴月が部屋のリビングへ向かうと有紀が段ボールに荷物を詰め込んでいた。冴月に気付いた有紀は彼女へ軽く手を振る。

 

 

「…ごめん、休みなのに起こしちゃった?」

 

 

 

 

「別に…平気。どうしたんだ、その荷物。」

 

 

冴月に聞かれると有紀は少し黙ってしまった。それから1枚のカードを差し出す。それはこの学校で生徒の誰しもが持っているカードだった。

冴月は受け取ると数字を確認する。

 

 

 

「ゼロ……。」

 

 

 

 

「…昨日、進路の事で先生に当たっちゃって気が付いたらゼロにされてた。多分…寮に入る時にスキャンしたからその時に引き抜かれたのかも。」

 

 

 

 

「進路…?」

 

 

 

 

 

「うん…私ね、本当は医者になりたいんだ。今の成績じゃ無理なのは解ってる…それと親に辞めろって言われたの、同好会。だからついカッとなっちゃってさ……。」

 

 

有紀は溜め息をつくと写真立てを見ていた。そこには冴月と紗那と自分を含めた仲間が写った写真があった。

 

 

「…私のお父さん、吾妻時宗はこの学校の理事長。だからお父さんの決めた事は絶対守らなきゃいけないって言われて来た。家でもそう。友達と遊ぶ時の家の門限とか習い事とか色々……全部父さんが決めたの。でも、同好会に入ったのと寮に住む事にしたのは私が勝手に決めた…父さんに内緒で全部。でもそれも全てバレちゃった。」

 

 

写真立てを段ボールへしまうと

冴月の方を向いて微笑んだ。

 

 

「…ありがとう、楽しかったよ。冴月と居られて。」

 

 

 

 

「その…これから…どうするんだ?」

 

 

 

 

「別の学校に通うよ。父さんが勧めて来た別の進学校…そこも父さんが理事長を務めてる…。」

 

 

寂しそうに微笑むと部屋は好きに使って良いと伝え、有紀は出て行ってしまった。

 

 

「……有紀。」

 

 

 

冴月は彼女を見送る事しか出来なかった。自分には何も出来ない事を悟っていたのだった。他人の人生なのだから自分が干渉すべき事では無いと。

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あれから有紀は離れの棟に有る生徒指導室の中に居た。

自分の処分を受ける為に。

少し経つとカラカラとドアを開けて1人の男性教師が入って来た。

 

 

「確か2年B組の…吾妻有紀さん。だったね?」

 

 

 

 

「……そうです、黒田先生。」

 

 

 

入って来たのは少し大柄の男。

生徒指導の黒田という教師だった。

彼はバスケ部の顧問であり、校則に厳しい事で彼は有名だった。

 

 

「面談中に石川先生へ掴み掛かるという愚行…言ってしまえば教師への暴力行為が有った…認めるかい?」

 

 

 

 

「……はい、認めます。同好会の悪口を言われたからつい…カッとなって……。」

 

 

 

 

「まぁ…そう言われても仕方無いだろうね。オカルトなんざ信じるのはロクでも無い連中ばかりだから。それに…お父様からも言われなかったかね?くだらない部活よりも勉学に勤しめと。」

 

 

黒田は書類を見ながら話すと有紀の方を途中で見ていた。彼女の顔は何か堪える様に唇を噛み締めている様にも見える。

それから黒田は更に続けた。

 

 

「…吾妻、退学を取り消してやっても良いぞ?」

 

 

 

 

「え…ッ?本当ですか!?」

 

 

 

 

「但し…条件が有る……。」

 

 

希望が見えた有紀の目を見ると

黒田はニヤリと笑い、椅子から立ち上がると有紀の方へ近付いて来た。

 

 

 

「キミのお父さん…理事長にも内緒にしてくれるなら…考えてやろう。今から俺がする事になぁあッ!」

 

 

 

荒々しく有紀の右腕を掴むと黒田は有紀を椅子から下ろし地面へ押さえ付ける。

それから仰向けに倒れた彼女の身体を左右の足で挟む形になると顔を近付けて来た。

 

 

「な、何を…まさか…ッ!?」

 

 

 

 

「…そのまさかだよ。良い歳なんだ、解っているだろう?お前が悪いんだぞ…こんな綺麗な黒い髪と顔立ちに…こんな豊かな胸まで持ちやがってッ!!」

 

 

荒々しく黒田は有紀の左胸を鷲掴みにし、彼女の着ていたワイシャツへ手を掛けると勢い良く左右へ引き裂いた。

空中にボタンが舞うとそれが落下する。

 

 

「嫌ッ、止めてッ!!嫌ぁあッッ!!」

 

 

何をされるか察すると有紀は大声で泣き叫ぶ。逃れようとするが直ぐに手首を抑えられてしまい、何も出来ない。

 

 

「へへッ…どうせお前はホラーの餌になるんだ、その前に処女だけ奪って女にしてやる…!!俺の手でッ!!」

 

 

 

下衆な笑みを浮かべた黒田は有紀の下着へ手を掛けようとする。有紀は思わず目を閉じると黒田が悲鳴を上げて有紀から離れて行った。

 

 

「…え?」

 

 

思わず有紀は目を開く。そこに居たのは紗那だった。

 

 

「どうして…紗那が……?」

 

 

 

 

「…偶々、通り掛かっただけです。有紀殿の退学を消して欲しいと竜弘殿も楓殿も…浩介殿も…それから冴月殿も必死に動いていると聞きましたから。」

 

 

 

微笑むと紗那は有紀へ制服の上着を掛けた。それから黒田の方を向く。

 

 

「…ホラーの餌にしてやるとはどういう意味だ?ホラーがこの学校内に居るのかッ!?」

 

 

 

 

「答える訳無いだろう…!お前も纏めて退学処分にしてやるから覚悟するんだなぁッ!!」

 

 

黒田は紗那から逃げる様に部屋を飛び出して行った。

再び有紀の方へ向くと紗那へ目掛けて飛び掛って来た。余程怖い思いをしたのだろう、有紀はずっと泣きじゃくっていた。

 

 

「…私の部屋で良ければ使って下さい。これが部屋のカギです。大丈夫…何が起きているのか直ぐに突き止めて来ますから!」

 

 

紗那は有紀を抱き締め、落ち着かせてから彼女を外へ逃がした。

残った紗那は廊下へ出ると竜弘達の元へ向かうのだった。

 

 

それから竜弘、浩介、楓とは理事長室の前で合流する。肝心の冴月は中で話をしているとの事。4人はただ部屋の前で見守っていた。

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理事長室のソファに座っていた冴月と理事長である吾妻時宗はテーブルを挟んで話し合いをしていた。

 

 

「…有紀さんの退学は取り消せないのですか?」

 

 

 

 

「ああ。全ては私と先生方が決めた事…面談の最中に教師に手を上げたと聞いている。だから退学扱いにした迄だ。それにあの子にはあの子の進路が有る…だからキミももう帰りなさい。話す事はこれ以上無いよ。」

 

 

 

 

「有紀さんは…あんな事をする子じゃない。オレ…いや、私はそう思います。」

 

 

 

 

「事実なんだ…これは全て。全く恥ずかしい話だ。くだらん連中とつるんで、挙句に親である私に内緒で部活をしたり寮に住んだりと勝手な事をするからこうなる……!親の言う事さえ聞いていればそれで良いモノを…!!だから教師に暴力を振るう様になるんだッッ!」

 

 

眉間に皺を寄せた時宗は若干だが怒りを顕にしていた。自分の言う事さえ聞いていれば良いというエゴを此処で吐いたのだ。

 

 

「ッ…くだらなくない…くだらない訳が無いッッ!!有紀は右も左も解らない私に…優しくしてくれた。このネックレスだって彼女が私にくれたんだッ!!自分の決めた事ばかりそうやって押し付けるから…ッ!!」

 

 

 

「黙れッ!!キミに何が解る…!私は…私は有紀を託されたんだ…亡くなった妻から!!だから妻の分まであの子を幸せに…守ってやる義務が有るんだッッ!!それが父親としての私の責任だッ!!」

 

冴月は時宗の表情からこの話は嘘では無いと察した。この人は有紀が大切だから成る可く目の届く所に置いておきたいという事も。

 

 

「ッ…ごめんなさい……勝手な事を言ってしまって。でも…私は有紀さんとずっと一緒に居たいと思っています。私だけじゃ無い…あの同好会のメンバーもそう思ってる…だからお願いします…!」

 

 

冴月は頭を下げる。

時宗は黙ってその様子を見ていた。

すると1人の黒いスーツを着た年配の男が入って来た。

 

 

「まぁまぁ吾妻理事長…良いではないですか。退学を取り消しても……。」

 

 

 

 

「ですが校長ッ!!もうこれは決めた事であり!!」

 

 

 

 

「…ならこうしましょう?有紀さんの退学処分の罰を…弥那瀬さんが代わりに受ける。」

 

 

秀はニヤリと笑うと冴月の方を見ていた。

 

 

「こ、校長…!彼女は本件と無関係ですよ!?」

 

 

動揺する時宗を他所に秀は話を進めた。

 

 

 

「大丈夫…彼女は特別な人間です。知っていますか?人知れず魔を狩る存在がこの世には存在するという噂話を。そして我が校の生徒の中にそれが混じっているという噂を……!」

 

 

 

 

「ど、どういう事です!?まさか…彼女が……?」

 

 

 

時宗は冴月の方を向く。

冴月は唇を噛み締めて俯いていた。

 

 

「悪魔で…噂話ですよ。彼女がそうと決まった訳では有りません…ですが、私の見立てではそう思うのです。」

 

 

ジロリと獲物を見る獣の様な目で冴月を睨む。

 

 

「では弥那瀬さん…此方へ。宜しいですね?吾妻理事長……?」

 

 

 

 

時宗は目を逸らし、苦悶の表情を浮かべ冴月を見てから頷いた。それから秀は冴月と共に理事長横の扉から出るとドアを閉め、合わせて鍵も閉めた。

 

 

「さて…弥那瀬さん。貴女には有紀さんの代わりに罰を受けて貰いましょうか?」

 

 

 

 

「……その前に1つ聞いて良いですか?」

 

 

 

冴月は部屋の真ん中で立ち止まる。

秀の後ろでこっそりとポケットから紅白の紐が付いた鈴を取り出し、構える。

 

 

「…何です?弥那瀬さん。」

 

 

 

 

「何故…校長は魔戒騎士の存在を知っているんですか?」

 

 

秀が此方へ振り向いたタイミングで鈴を鳴らす。

綺麗な音色が響くと秀の両目にホラーの刻印が露になった。

 

 

「成程、道理で詳しい訳だ…!!」

 

 

 

「そういう貴女も…良いのですか?自分から正体を明かしてしまって。」

 

 

 

 

「背に腹は変えられない…お前はこの学校の教師を何人ホラーに変えたんだ?お前の目的は何だッ!!」

 

 

秀は片手で顔を抑えながら笑いながら冴月を見ていた。

 

 

「クククッ、私の目的はホラーの支配する世を創る事…!!今は教師だけですが…行く行くは生徒達も皆ホラーに変えて差し上げます。その第一号が吾妻理事長の娘、有紀さんなのですッ!!彼女は選ばれた…サバトによって!!」

 

 

 

「つまり…お前が有紀を嵌めたんだな…!!」

 

 

冴月が身構えた。しかし、魔戒剣は手にしていない事から素手での戦闘になってしまう。

 

 

「黒田先生は失敗しました…ですが今頃、別の教師が有紀さんを探している頃でしょうねぇ?」

 

 

 

 

「貴様ぁッッ…!!」

 

 

 

歯をギリギリと食い縛る。

冴月は背を向けてドアを開けようとする。しかし、ドアは開かなかった。

 

 

「開かない!?くそッ…!!」

 

 

 

 

「無駄ですよ…貴女は此処へ誘い込まれた時点で負け。つまり、此処に私と2人きりという訳です。しかしまぁ…沢村先生が目を付けた理由が解りますよ。貴女は美しい…それに強さを兼ね備えている。胸は貧相ですが…まぁ良しとしましょう。貴女を此処で食べてあげます、弥那瀬さぁん…ッ!!」

 

 

 

秀は舌舐りをすると冴月を下衆な目で見ていた。

 

 

「私…いや、オレを食う前にお前を倒してやるッッ!!」

 

 

 

「抵抗すれば!!有紀さんがどうなるか…解りませんよぉ?」

 

 

 

指を鳴らすとモニターが現れ、有紀が数人の教師に連れて行かれるのが映される。それを見た冴月は構えを解いた。

 

 

「ふひッッ…いひひひッ!!そう来なくてはぁあッッ!!」

 

 

秀はいきなり冴月を右手の拳で殴り飛ばした。

吹っ飛んだ冴月がドアへ激突する。

それから彼女の胸ぐらを掴んで引き起こすと何度も両手を使って殴りつける。

 

 

「お前がッ!お前みたいなッ…生徒が居るからッ…学校の風紀がッ…乱れるんだぁッ!!私が…どれだけ…苦労してこの学校に…尽くして来たか…解っているのかぁッ!?」

 

 

 

 

「ッ…何の話を……ッッ!!」

 

 

 

 

「うるさぁいッ!!口答えするなぁッ!!」

 

 

今度は冴月の腹部へ蹴りを放つ。

それが命中すると冴月は前のめりに蹲ってしまった。

 

 

「ふぅッ…ふぅッ…有紀さんは前から不良生徒の1人だと教師の間で噂されていました…幾ら吾妻理事長の娘とはいえ特別扱いなんて出来る訳が無い…!此処では私が法なのだッ!!だから…!!」

 

 

 

 

「最もらしい理由を付けて…蹴落とす。ホラーの考えそうな事だ。何がルールだ…何が規則だ…お前はそうやって…自分に都合の良い解釈を…他人に押し付けている…だけだッッ!!」

 

 

冴月が反論すると秀は蹲った彼女の顔を足で踏み付け、地面へ押し付けた。

 

 

「口答えをするなと…おわぁあッ!?」

 

 

直後にガラスが割れる音が響く。

ドスッという音と共に秀が吹き飛んで転がって行った。彼はドアに激突すると頭部を抑えていた。窓から紗那が飛び込んで来たのだ。

 

 

「よっと…ご無事ですか?」

 

 

 

「紗那ッ!?何で…!?」

 

 

 

 

「先程、有紀殿のお父上と名乗る方と廊下ですれ違った時に教えてくれました。それと…忘れ物ですよ!」

 

 

冴月へ近寄ると黒く細長い袋を手渡す。

それを受け取ると中から青鞘の剣を取り出し、冴月は立ち上がった。

顔を抑えながら秀が此方へ振り向く。

 

 

「おのれ…よくも…ッ!!」

 

 

 

 

「…よくも私の魔戒騎士に傷を付けてくれたな。その代償は高いぞ?」

 

 

 

紗那は鋭い目付きで秀を睨み付ける。

秀は拳を握り締めて立ち上がった。

 

 

 

「そ、そうか…お前もか!!お前もソイツの仲間か…!!」

 

 

 

 

 

「ああ、仲間だ。…黒田と他の教師を操って有紀殿を襲ったのも、彼女を嵌めさせたのも全てお前が仕組んだ事だろう?彼女がお前に何をしたッ!!」

 

 

紗那もまた拳を握り締め、怒りを露にしていた。

 

 

「くッ…くそぉおッ!!あと少しだったのにぃッ…!!」

 

 

 

秀は悔しがって2人を睨んでいた。

冴月は剣を抜かずに鞘を向けると秀の喉元へそれを当てた。

 

 

「知っている事を全て話せ。全部だ…少しでも隠せばお前を此処で斬るッッ!!」

 

 

 

「ッ…ひぃいッ!!」

 

 

秀はドアを開くと走って逃げ出した。

その姿はまるで小物の悪党そのもの。

 

 

「…追いますか?」

 

 

 

 

「他の生徒に見られると不味い…人気の無い場所へ誘い込む!!」

 

 

 

 

「承知ッ!」

 

 

 

2人は廊下を走り、階段を駆け下りる。

思ったより秀は逃げ足が早いらしく追い付けるかすら怪しい。

途中で二手に別れると冴月は昼休みで混み合う廊下をすり抜けて行く。

だが秀は見当たらない。気が付けば外まで来ていた。

 

 

「逃げられたか…!」

 

 

 

[いいえ!そこの資材の裏よ!!]

 

 

カガリが叫ぶ。冴月は催しで使う為に積まれていた木箱を蹴飛ばし、払い除ける。やはり居たのは秀だった。

 

 

「ひぃいッ!?」

 

 

 

「もう逃げられない…観念しろ。」

 

 

 

 

「ええい…こうなればッ!!来い!」

 

 

 

指を鳴らすと冴月の周囲を黒いローブを着た3人が取り囲む。

 

 

「また会いましょう…弥那瀬さんッ!」

 

 

 

 

「待てッ!くそッ…退け!」

 

 

秀が走り去る。

ローブの集団は各々、違う武器を取り出して冴月を取り囲む。1人は剣、もう1人は斧。それから槍。

 

 

[冴月、向こうは手練よ。気を付けて!]

 

 

 

 

「解った…よッッ!!」

 

 

 

冴月は鞘から剣を引き抜くと構える。

剣を握った1人が冴月へ向け走って来る。冴月も合わせて走り出すと鍔迫り合いへともつれ込んだ。

何度か刃を交わし、隙を見て腹部を一線に斬り裂くとバタリと上半身と下半身が別れて地面へと倒れた。

すると今度はもう1人の持つ槍による刺突が繰り出されると刃先が冴月の左側を掠めた。

髪の毛がパラパラと落下し、2度目の刺突を今度は右側へ避ける。素早く間合いへ入るが冴月の繰り出した攻撃は尽く槍の刃や柄で受け流されてしまった。

 

 

「ちぃいッ…邪魔をするなぁあッ!!」

 

 

正面から繰り出された刺突を刃まで受け流し、弾くと右から袈裟懸けに斬り裂いて倒した。吹き出した紫色の血がグラウンドの土へ小さな水溜まりを作っていく。

今度は後ろから斧が飛んで来るとそれを振り向き様に剣で弾き飛ばした。

残っていたのは斧を持った同じ格好の者1人。

 

 

「残るはお前だけだ。さっさと終わらせる!!」

 

 

 

冴月が剣を向けると向こうは懐から斧を取り出し、両手に持つ。先に相手が仕掛けると斧を左右の斧を何度も繰り返し振り翳して襲って来た。それを剣で弾く度に火花が散り、刃を通して手に痺れが伝わる。繰り出される一撃の1つ1つが重たい。

 

 

「こんな所でッ…足止めを喰らうなんてッ!!」

 

 

 

[冴月、上から来る!]

 

 

 

カガリが叫ぶとローブを纏った人物は飛び上がり、冴月へ両手の斧を振り下ろして来た。咄嗟に躱すと大きな音と共に先程居た箇所の地面が抉れた。

 

 

「危なかった…でも、お前の動きは見切ったッ!!」

 

 

 

再び相手が攻撃を仕掛けて来る。右手の斧によって繰り出された攻撃を剣で弾き、左手の斧による横からの攻撃を1歩下がって躱す。それから冴月は地面に突き刺さっていた槍を左手で引き抜くと

それを勢いに任せて刺突する。それが相手の顔面へ直撃しそのまま仰け反ると地面へ串刺しになった。両手に握られていた斧がドサリと落下した。

 

 

「はぁ…はぁ…ッ、早くアイツを追わないと!」

 

 

 

 

[そうね…急ぎましょう!]

 

 

冴月は秀が逃げた方向へ走って向かう。

それから辿り着いたのは大きな鉄製の扉の前。寮の有る方向や移動教室の有る方向とは異なり、校舎の離れにあったそこは何か雰囲気が違う。

 

 

 

「此処は…?」

 

 

 

[旧館…つまりもう使われていない校舎って事ね。恐らく取り壊すさず何かしらの形で残しているのよ。]

 

 

ドアには鎖と南京錠が付けられていた痕跡が有り、足元にはそれが落ちていた。

冴月は意を決して中へと入るのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

旧館の中は使われていない事から換気もされず、かび臭い匂いがした。

全ての窓に木材がバツ印で置かれ、そこに釘を打って固定していた。

 

 

「カガリ…校長は本当に此処へ来たの?」

 

 

 

[先程感じた邪気と同じ気配がする、間違い無いわ。]

 

 

 

階段を上に上がり、奥へ進むと教室の近くを通り掛かる。ドアを開いて中を覗くと気味の悪い物が転がっていた。

 

 

「…骨だ。それも人間の。」

 

 

 

 

[形から見るに頭の骨の様ね…冴月、魔導火は有る?]

 

 

 

 

「ああ、持ってるよ。」

 

 

薄暗い教室の中で変わった形をした入れ物に入った魔導火を点ける。オレンジ色の炎と共に照らされたのは無数の骸だった。

 

 

 

「これだけ大勢の人間を…ッッ!」

 

 

 

 

[どれも此処の生徒のモノと見て間違いないでしょう…立ち止まっている暇は無いわ、先へ急ぎましょう。]

 

 

カガリに促され、教室を後にする。

進むに連れてかび臭い匂いから血や肉の匂いが立ち込めて来た。

左右のどの教室を覗いても頭蓋骨や大小様々な骨が転がっている。

上へ続く階段の付近に有ったのは大きめの扉。冴月はそれをゆっくりと自分の方へ引いて開ける。

中へ入ってみるとそこだけ異様に広い造りになっていた。

左右には黒いカーテンが有り、真ん中のステージには誰かが横たわっている。

近付くにつれそれは明らかになった。

 

 

「有紀…?有紀ッ!!」

 

 

 

冴月は駆け寄ると彼女の方を見つめる。

首へ触れると未だ脈は打っていた事から彼女は生きていた。しかし、制服は全て剥ぎ取られ下着姿のまま大理石の台座の上で寝かされていたのだった。

 

 

「…しっかりしろ、有紀ッ!」

 

 

 

冴月が揺さぶっていると乾いた拍手の音が広い部屋に響き渡る。振り向いた先に居たのは秀だった。冴月が入って来た所に彼は立っている。

 

 

「良かったですねぇ…お友達と再開出来て。私は感動のあまり胸が裂けそうですよ?」

 

 

 

 

「貴様ぁ…ッ!!」

 

 

 

 

「…ですが、彼女はホラーになる運命。この嘆きの雫によってね。」

 

 

 

取り出したのは注射器に入った赤い血の様な液体。

彼はそれを軽く揺さぶってみせた。

 

 

「また嘆きの雫…!」

 

 

 

「ククッ…ご存知の様ですね?弥那瀬さん。嘆きの雫はホラーにとっては人間の言葉で言うエナジードリンクと同じ…そして此処は嘆きの滴を生み出す為の場所ッ!!つまり工場という訳ですよ…あっははははは!!!」

 

 

秀は高笑いをする。校長と言えど本来ならかなり歳を取っている筈なのだが彼だけは妙に若い気がするのだ。

例えるなら未だ20代後半位だろう。

 

 

「…嘆きの雫の材料は人間の悲鳴と絶望だった筈…まさか…!?」

 

 

 

 

「ええ、貴女が思った事で合っていますよ?退学処分となった生徒がどうなるのか…それともう1つ。更生が不可能と判断された者はどうなるのか?何れにせよ我々ホラーの餌になるのです…前者はエキスに、後者は食料に…素晴らしいとは思いませんかぁ?ふッ、ふはははッ!!!」

 

 

冴月は無言でツカツカと近寄ると秀の胸倉を片手で掴み上げ、睨み付ける。普段見せる冴月の表情とは比べ物に成らない位に彼女は激怒していた。

 

 

「良い表情ですねぇ…弥那瀬さん?いや、魔戒騎士…!」

 

 

 

 

「…有紀をホラーなんかにさせるものか。絶対に…絶対に生きて帰すッ!!」

 

 

 

そう呟いた途端、大きな物音と共に有紀の両手を縛った形で天井へ吊り上げられていく。ある程度の高さへ達した時、彼女は建物の天井から吊るされていた。

 

 

「離して貰えますか…穢らわしいッ!」

 

 

 

冴月を無理に跳ね除けると秀は有紀の丁度真下へ来る。彼が合図すると左右の布から何匹もの素体ホラーが出現した。

 

 

「…生きて帰すな!!此処を知られた以上、あの方に合わせる顔が無い!!」

 

 

 

 

「全て自分で蒔いた種だろう…!!オレを此処に招き入れた事が間違いだ。これ以上は…やらせないッッ!!」

 

 

冴月が鞘から剣を引き抜く。

左右、正面を見ても素体ホラーが居る。

ざっと10匹は越しているだろう。

 

 

「…やれッ!!」

 

 

 

 

「有紀…必ず助けるからッッ!!」

 

 

冴月は襲って来た素体ホラー1匹を剣で斬り裂いた。別の1匹が繰り出した爪による攻撃を剣で弾いては剣で刺突し倒す。冴月は次々とホラーを体術と剣術を駆使し倒して行く。

 

「ええい!やはりコレを使うか…!」

 

 

秀は自身の近くに居た素体ホラーへ滴の入った注射器を打ち込む。

その瞬間見た目が変化し両腕から剣が生えた姿へ変貌した。身体の色も赤黒くなっている。目も緑色へ変わった。

 

 

「まさか…ホラーを強化したのか!?」

 

 

 

[いいえ、生み出したのよ!あれはホラー…スパーダ!!普通のホラーよりも素早いから気を付けて!]

 

 

 

カガリがそう警告すると他の素体ホラーを跳ね除けて冴月へ襲い掛かって来た。

片手の剣を振り翳し、冴月と交戦を繰り広げる。

 

「ウォオオオッッッーーー!!!」

 

 

 

 

「此奴…早いッ!!」

 

 

蹴りを喰らわせようにも避けられてしまう。ふと天井を見上げると有紀の身体を素体ホラー数匹が今にも食わんと見ているのが解った。その光景を秀は笑いながら見ていた。

 

 

「あははッ、良いですねぇ?必死になって有紀さんを守ろうとするその姿…!」

 

 

 

「黙れッ!!退けッ!!」

 

 

 

冴月が秀の挑発を流した途端、スパーダの持つ長い尾による攻撃を受け吹き飛ばされると壁に激突してしまう。

背中から全身に痛みが走る。

気が付けば冴月の周りをホラーが取り囲んでいた。

 

 

「諦めるもんか…ッ!!諦めたら…諦めたら何も守れない…!!」

 

 

 

 

「無理ですよ…諦めなさい!!貴女は此処で彼等に食われて死ぬのが運命…!剣を置いて許しを乞いなさい!ごめんなさい、校長先生。私が間違ってましたと!今なら許して差しあげますよ?弥那瀬さん?」

 

 

 

 

「五月蝿いッ!!オレは…魔戒騎士…ッ!目の前に居る女の子1人を守れなくて…どうする…!これから先…オレは何百…何千…何万の命を…守っていくのにッ!!」

冴月を動かしているのは最早、気力だけ。素体ホラーを何匹も斬り倒したのに未だ湧いてくる。

途方も無いのは解っている。自分の制服もボロボロで上は下着の1部が見え、スカートでさえ裂けている。

膝も腕も擦り傷や切り傷だらけだ。

それでも冴月は前を向いて立ち上がる。

 

 

「ほぅ…?なら、もう終わりにして差し上げなさいッ!!」

 

 

 

 

「オレは…絶対に諦めない…そう誓ったからッッ!!」

 

 

 

素体ホラーが一斉に冴月へ飛び掛る。

だが取り囲んだ黒い塊は弾き飛ばされ消滅した。冴月は蒼い鎧をその身に纏った。蒼い狼、蒼牙の鎧を。

赤き目は目の前に居る夥(おびただ)しい

素体ホラー達を睨んでいた。

 

 

「未だそんな力が!?ふふッ…なら、今度こそ消して…ッ!」

 

 

 

 

「…カガリ、烈火炎装を使う。」

 

 

 

[解った。でも有紀を巻き込まない様に気をつけてね。]

 

蒼牙は自身の剣へ魔導火の炎を纏わせる。それはオレンジ色に発光し、今度はそれを鎧全体へと纏わせる。

 

 

「…行くぞッッ!!」

 

 

蒼牙は次々と襲い来る素体ホラーを斬り裂いて突き進む。その度に炎がホラーの身体を焼き尽くしていく。

1匹、また1匹と炎に巻かれて消滅していった。

 

 

「月島ぁああッッーー!!」

 

 

走って来た蒼牙が咆哮し炎を纏った剣を振り上げ、斬り裂こうとしたがスパーダが介入しそれを阻止する。

 

 

「お前に用は無い…消えろぉおおッッ!!」

 

 

スパーダの剣を跳ね除け、自身の剣を突き刺すと傷口を中心にオレンジ色の炎がスパーダの全身を焼き尽くした。悲鳴を上げながら崩れ落ちると黒い煤(すす)の様になってしまった。

 

「月島…有紀を返して貰うッ!!」

 

 

 

蒼牙は秀へ剣を向ける。いつの間にか素体ホラー全ては全滅していた。

残るのはこの男ただ1人。此方をずっと睨みつけている。

 

 

「お、おのれぇッッ…!!」

 

 

 

 

「覚悟しろ…次はお前の番だッ!!」

 

 

だが蒼牙が構えを取った瞬間に秀は逃げ出した。彼が部屋の中程まで走ると、秀の姿は突然発生した黒い霧の中に消えた。

そこには舞衣が居たのだ。彼を1度睨み付けると共に姿を消す。

それから蒼牙は飛び上がると鎖を剣で切断し有紀を下へと下ろした。烈火炎装と共に鎧を解くと冴月は有紀を揺さぶる。

少ししてから彼女は目を覚ました。

 

 

「…あれ、冴月?どうしたの…そんなボロボロで。口から血が出てるし…服も裂けてる。」

 

 

 

「オレは大丈夫…さ、戻ろう?皆が心配してる。」

 

 

有紀を背負うと冴月は歩き出す。

旧校舎の外へ出ると陽射しが射し込んで来た。それは眩しく暖かく感じられた。

1人の少女を冴月は助けたのだ。

絶対に死なせないと単身で戦い続けて。

校舎の入口にて紗那と合流した冴月と有紀は彼女の部屋で手当を受けるのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

それから約1週間後。

有紀の退学は取り消しとなった。

彼女の父親である時宗と有紀が話し合った結果、勉学と同好会の両立を条件として許して貰えたのだった。

 

一方の冴月は理事長室に居た。

時宗から話があるとの事で。

2人はテーブルを挟んでソファへと腰掛けていた。

 

 

「…弥那瀬という苗字を聞いた時、まさかと思った。まさかキミが彼の娘さんだったとは。」

 

 

 

「ジンを…父をご存知なのですか?」

 

 

 

 

「ああ。かなり前に有った事が有る…私も彼に助けて貰った事があるんだ。仕事の帰りに化け物に襲われた時、彼が現れてた…。そしてキミが転入する前、キミの代理母と名乗る八千代という人からキミの家族構成を聞いた時に思い出したんだ。一度会ってみたかった…ジンの娘と。」

 

時宗はこの間の厳しい顔付きとは違い、優しく微笑んだ。

 

 

 

「…そうだったのですね。それと校長先生の事ですが…。」

 

 

 

「その件は然るべき処置を取るつもりだ…それと此処に呼んだのはキミにしか頼めない事があるからなんだ。少し待って欲しい。」

 

 

 

時宗は立ち上がると机の引き出しへ向かう。そこから取り出したのは黒いカード。それを冴月の前へ差し出した。

 

 

「…ブラックカード。本来なら入れない所もコレで入れる筈だ。これをキミに託す…魔戒騎士。この学校で何が起こっているのかを白日の元に晒して欲しい。キミの友達の女の子にもそう伝えてくれないか?」

 

 

 

冴月は立ち上がってそれを受け取ると小さく頷き、時宗もまた頷いた。それから冴月は理事長室を後にすると廊下を歩いて行った。

 

 

[…いよいよ近づいて来たわね。]

 

 

 

 

「そうだな…未だ謎は多いけど……。」

 

 

カガリと話しながら歩いていると

有紀が走って駆け寄って来た。

 

 

「冴月ッ!一緒にお昼食べよ?」

 

 

 

「……解った、良いよ。」

 

 

 

冴月は少し微笑むと有紀と共に歩いて教室へと向かった。

それから2人は屋上で昼食を取り始める。有紀は自作した弁当を、冴月は購買で購入したパンをそれぞれ食べていた。

 

 

「あ、そういえば…気になってた事が有って。」

 

 

 

「…気になってた事?」

 

 

 

 

「うん。私が吊るされてた時…蒼い狼?みたいなのがこっちを見てたの!アレ…何だったんだろうなーって。冴月は何か知ってる?ほら、あの時私と一緒に居たから…知ってたら教えてくれる?」

 

 

 

[教えてあげましょうか?それは冴月が……。]

「喋ったらダメだって、カガリッ!!お、オレは何も…知らない!」

 

 

 

無理やりカガリを抑え込むと冴月は誤魔化した。彼女が蒼い狼の鎧を持つ者であり、守りし者、魔戒騎士である事は未だ誰にも話してはいない。

例えそれが自分の友であったとしても。

彼女の口から直接語られる日は果たして来るのだろうか?それは未だ解らない。

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