牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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魔導具-KAGUYA

「…どういう意味なんだ?オレ達の武器じゃ此奴らを倒せないって。」

 

 

「そうです!どう見ても弾や札は効いてました、オマケに魔戒剣でも斬れていたでは有りませんか!」

 

 

冴月、紗那の2人は従業員が変化したホラーを追って旅館からこの森へ駆け付けた。既に10体もの素体ホラーを斬り裂いたが冴月の魔戒剣には邪気が封印されていない。そこへ姿を現したのが輝弥という少女だった。本来のホラーなら魔戒騎士のソウルメタル製の武器、主に剣や刀等で斬り裂いて倒せる他、魔戒法師の魔術でも倒せる。

 

 

「……こういう事です。」

 

 

輝弥は呟くと片手をゆっくり差し出す。すると彼女の手に黒い瘴気が集まると1つの黒い玉となった。

それをグッと握り締めるとその玉が消える。

 

 

「今のは…?まさか…キミは……。」

 

 

冴月はじっと輝弥の方を見つめる。

 

 

「…私は魔導具。この地に住まう火羅を封印する為に生み出されたモノ……それが私です。」

 

 

2人の方を表情変えずに彼女は見ていた。

呆気に取られている2人を他所に彼女は此方へと歩き始める。森を抜け、向かったのは大きな建物。まるで神社の様な場所だった。朱色の柱に大きな屋根と長い廊下。3人は扉を抜けて中へと入った。

 

 

「…結界を張ってますね。それもかなり強力な物を。ホラーが触れば間違い無く消されます。」

 

 

紗那が見回しながら呟く。冴月も様子を見ながら輝弥の後ろを進んで行った。

 

 

「どうぞ、此方へ。」

 

 

 

「ありがとう…お邪魔します。」

 

 

輝弥に招かれて入ったのは和室。

畳張りの床に座布団が3枚。それぞれその上に座ると電球の代わりにロウソクの明かりがパッと灯った。続いて入って来たのは和服を着た小柄な少女2人。冴月と紗那の前へお茶を出し、頭を下げると戻って行く。

 

 

「…今の子、輝弥の知り合いか?」

 

 

 

「私の式神です。人間の子供では有りません…では改めて自己紹介を。私は如月輝弥…この屋敷に住まう者です。」

 

輝弥は2人へ頭を下げる。

 

 

「オレは弥那瀬冴月、魔戒騎士だ。この左腕のがカガリ。」

 

 

 

「紗那と言います、私は魔戒法師です。」

 

 

お互いに挨拶を済ませると輝弥は少し微笑んでいた。

 

 

「…では本題に入りましょう。先程、貴女方が倒した化け物の名は火羅(ホラー)と言いこの地に古くから住まう邪な存在。それ等を封印し二度と目覚める事の無い様にしているのが私なのです。」

 

 

 

「その火羅が居るのはこの辺だけなのか?」

 

 

冴月が問い掛ける。すると輝弥は頷いて話を続けた。

 

 

「嘗て…この辺りは都の外れと聞いています。都は検非違使により守られていますがその都の外迄は見回りに来ません。都から離れた場所に住まう者…彼等は魔物に怯え暮らしていたのです。しかし、突如現れた希望の光はこの辺りの火羅さえも一掃し消し去った…誰もがその光の主へ感謝と慈しみを忘れはしなかったと聞いています。」

 

 

 

「輝弥殿、希望の光…というのは?」

 

 

 

「黄金騎士…自らの名を牙狼。そう名乗ってこの地を去ったと伝説には有ります。」

 

 

冴月と紗那は呆気に取られていた。

黄金騎士牙狼、彼はこの地に居たのだ。

恐らく何世代も前の話になるのは間違いない。

 

[確かに…魔戒騎士の鎧も、牙狼の鎧も何世代にも渡って受け継がれていく。とは言えその当時に牙狼を継いでいた者がどういう存在なのかは私にも解らないけれど…。]

 

 

そうカガリが話す。輝弥は立ち上がり、巻物を持って来るとそれを2人の前へ置いた。

そこには確かに黄金の鎧を纏った者が化け物と対峙している絵が描かれていた。

 

 

「うわぁ、確かに黄金騎士ですよ…冴月殿。」

 

 

 

「でも…牙狼は突然潰えてしまった。何が有ったかは解らないけど……。」

 

 

冴月も同じ様に絵を見つめていた。

巨大なバケモノと戦う黄金騎士の絵。それには何処か臨場感さえ感じられた。ふと顔を上げ、外へ視線を向けると夜が開け始めている事に気付いた。

 

 

「紗那、そろそろ戻ろう。皆起きて来る。」

 

 

 

「え?あ…そうですね、戻らないと。」

 

 

2人はお茶を飲んでから立ち上がる。

すると輝弥は冴月の手を握り締めた。

 

「…冴月様、また夜にお会いしましょう。今宵は紅き月の晩。最も火羅の出現する日であり…そして女夜叉の甦る晩です、呉々もご用心を。」

 

 

 

「解った…気を付ける。行こう、紗那。」

 

 

2人はまた夜に会いに来ると輝弥へ話すと建物を出て来た道を引き返すと旅館へと戻るのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

2日目の朝を迎え、冴月を含む2年生全員はキャンプ場へと来ていた。野外炊事という事でカレーを作ってそれを昼食に食べるという物。食材は現地のスーパーで調達して来た物を調理する。

達弘と優一、浩介は火起こし、有紀と楓は食材の調理。冴月と紗那は火種となる木を拾いに来ていた。

 

 

「紅月の晩に女夜叉が甦る…本当だと思うか?」

 

 

 

「にわかには信じ難いですが、輝弥殿の仰る事はどれも信憑性が有ります…だから油断は禁物です。」

 

紗那は枝を拾いながら話をしていた。

冴月もそれらしい木の枝を拾っていく。気が付けばキャンプ場から離れた所へきてしまったらしく、木々が更に生い茂っていた。冴月が右を向くとそこには祠が有ったが誰かに壊されていた。

 

 

「…壊れてるな。酷い事をする輩が居たもんだ。」

 

 

 

[罰当たりです事…ねぇ、冴月?何か落ちてるわよ。]

 

 

 

「え?…何だこれ?」

 

 

カガリに言われ、しゃがんで何かを手に取ってみる。それは青いビー玉の様な物。光に翳すとキラキラ光っていた。

 

 

「冴月殿、あまり奥へ行くのは危ないですよ?…何です、それ?」

 

 

 

「さぁ?…夜にでも輝弥に見てもらおう、行かないと有紀が勘づくぞ」

 

 

ポンポンと紗那の左腕を軽く叩くと森を抜けてキャンプ場へ戻って来た。再び達弘達と合流し、枝を渡した。

 

 

「どうだ、火は起こせそうか?」

 

 

 

「全然無理だよ…上手くいかない。何度も試してるけどダメみたいだ。」

 

 

冴月は達弘から事情を聞き、優一と交代する。

ものの数分で冴月は火を付けてしまった。

 

 

「え!?火が付いた!?嘘でしょ…。」

 

 

 

「…昔、父さんと焚き火した時に教えて貰った。ちょっとしたコツさえ掴めれば簡単だよ。」

 

 

ポカーンとしている達弘を他所に冴月が枝を置いて火の火力を上げる。それから調理班の有紀達と合流し何とか昼食には間に合った為、昼食抜きにならずに済んだのだ。こうして出来上がったのがカレーライス、野外炊事の定番だ。冴月は鍋に入っていたカレーを見て不思議そうにしていた。

 

 

「…何だこれ?食い物なのか?」

 

 

 

「カレーだよ。知らないの?美味しいよ、食べてみなって!」

 

 

有紀が不思議そうに彼女の元へ近寄る。そっと彼女へ皿に持ったご飯を手渡すと有紀がそこへカレーのルーを盛り付ける。すると香辛料の匂いが冴月の鼻の中へ立ち込めた。

 

 

「…食べてみるよ。」

 

 

 

「じゃあこっち来て食べよう、一緒に。」

 

 

冴月と有紀は同じ席へ腰掛けると有紀が先に食事を始める。冴月も手を合わせると試しに1口食べてみた。口の中に程良い辛さと野菜、米の甘みが舌を通し伝わって来る。

 

 

「美味しい…!」

 

 

 

「ふふッ、良かった!どんどん食べちゃって!!」

 

 

有紀が声を掛けると微笑みながら見守る。

達弘達も同じ席へ座ると食事を始めるのだった。

約30分後、ルーとご飯の入った容器は全て空になると今度は後片付けを始める。

冴月も立ち上がり、自分の皿を持った時だった。

 

 

「……視線を感じる。」

 

 

この場に居るのは自分以外にも同学年の生徒が居る。だから視線の1つや2つ此方へ有っても不思議では無い。だがそれとは違い、獲物を見定める様な感覚。

 

 

「冴月?どうしたの、置いてくよ?」

 

 

「え?…今行く!」

 

有紀と楓が少し進んだ先で此方を向いて呼んでいる。我に返ると冴月は2人へ合流し洗い場へと向かって行った。

 

 

[…何か感じたのね?冴月。]

 

 

 

「あぁ…それも強い殺気だった。」

 

 

 

[あの輝弥という子が言っていた火羅かしら…でもその類は夜じゃないと現れない筈。]

 

 

 

「…じゃあ、その殺気の持ち主は人間?」

 

 

 

[さぁね…ほら、手が止まってる。お皿洗わないと。]

 

 

冴月はカガリへ促されると洗い物を再開した。

暫くして洗い物を済ませると冴月達はキャンプ場を離れ、草原へと向かう。そこはネットでも有名な写真スポットだった。冴月はポケットから拾った玉を取り出すと草原へ腰掛けて眺めていた。

 

 

「前に父さんから貰ったっけ…こんな玉。何の役にも立たない玉だけど綺麗だから集めてたっけ…。」

 

 

そんな事を1人で思っていると隣へ達弘が腰掛けて来る。この辺は人目に付かない為、2人きりになるのは丁度いい。

 

 

「…楽しい?初めての野外学習は。」

 

 

 

「それなりには。お前はどうなんだ?」

 

 

 

「僕もそれなりに楽しんでるよ…同好会の皆の違う顔が見られて面白いし。」

 

 

そっと達弘が冴月の左手を上から握り締める。

思わず冴月が振り向くとそのまま俯いてしまった。

 

 

「…誰かに見られても知らないぞ?」

 

 

 

「だ、大丈夫だよ…多分?」

 

 

 

「多分ってお前なぁ…まぁいいや。それとお前に言っておく事がある。」

 

 

冴月は達弘の方を向くとじっと彼を見つめる。

そして話を始めた。

 

 

「この村にホラーが居る…今日の夜は誰も外に出すな。」

 

 

 

「え?こんな所にホラーなんて居るの?…どう見ても田舎だけど?」

 

 

 

「…昨夜見た。けど未だ何処かに潜んでいる筈。この件はお前から先生に伝えて欲しい…但しホラーの事は伏せろよ?」

 

 

真剣な目で彼を見ると達弘は解ったと頷いた。

じっと見られた事から彼は少し何かを期待していたらしく頬を赤くしていた。

 

 

「…どうした?顔真っ赤にして。熱でも有るのか?」

 

 

 

「へ?あ、いや…何でもない!何でも…!」

 

 

達弘は手を離し、じゃあ行くねと話すと彼は立ち上がって歩いて行った。

 

 

[あらあら…あの子、貴女にキスするつもりだったみたいよ?中々隅に置けないわね。]

 

 

 

「んなッ…そんな訳あるか!だ、第一…そういうのはもっとこう…色々と段階を踏んでだな!!」

 

 

冴月が顔を真っ赤にして1人で叫ぶと溜め息をつき、頭を抱えていた。

異性と手を繋ぐだけでも精一杯なのに更にその上が有ると知った彼女は頭がパンクしそうだった。

それから冴月は仲間と再度合流し、残りの時間を利用して再び村の施設を散策する事に。

村を去るのは明日。そして時間が経過しこの日2回目の夜を迎える。全員が旅館へ戻り、夕飯の時間を迎えるが冴月と紗那だけは夕飯を取らずこっそりと旅館から外へと出た。

 

 

「…月が真っ赤ですね。まさに紅月とはよく言った物です。」

 

 

 

「あぁ…早い所、輝弥と合流しよう。」

 

 

2人は森の奥へ向かって走り出す。

少女達の姿が生い茂る木々や草村の中へと消えて行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「…冴月殿アレを!」

 

 

何かに気付いた紗那が叫び、前方を指さす。昨日訪れた輝弥の屋敷の門を火羅と思われる怪物らが襲撃している。それも1匹や2匹では無い。

 

 

「くッ…急ぐぞ!!」

 

 

紗那と共に木の上へ飛び移ると裏手から彼女の屋敷の中へ入る。既に輝弥が待っていた。

 

 

「来て下さいましたか…紗那様と冴月様。既に火羅は此処まで嗅ぎ付けております。」

 

 

 

「解ってる!どうしてもキミを倒したいらしい……とは言え、オレの剣じゃアイツらを斬れ無いけど…。」

 

 

そう話すと輝弥が両手で冴月へ刀を差し出す。

それは赤い鞘を模した刀だった。

 

 

「これは…?」

 

 

 

「黄金騎士…彼が去った後、これをこの村へ置いて行かれました。それ以来この刀はこの村の宝となり代々、私の家の者が守って参りました。守りし者としての力を持つ者が扱うに相応しいと……。」

 

 

冴月は刀を受け取ると小さく頷く。

紗那と彼女と共に屋敷の外へ出ると門が破られ、火羅がゾロゾロと入って来る。しかし少女を模した式神による攻撃により何体も焼かれていくがそれでも絶える事は無い。まさに百鬼夜行だった。

 

 

「…此処で火羅を全て討滅する。それに輝弥は端からそのつもりだったんだろう?自らは魔導具、だからその肉体を利用しこの村に住む火羅全てを我が身に封じ込める為にこの日を選び…そして出会った。オレ達と。」

 

冴月は刀を握り締め、紗那共に歩く。

そして奴等を見据える様に睨むと話を続ける。

 

「…紅月の晩。つまり火羅が最も活動する日…貴女達が此処へ来たのも何かの運命の巡り合わせ。どうかお願いします…この村の因縁を、陰我を断ち切って下さいませ……守りし者達よ。」

 

 

紗那が小さく頷くと右手に魔導筆を握り、両手を広げる。そして印を描くと光りの弾が素体の火羅へ向けて飛んで行った。紗那が用いたのは昨夜の様な現代式の武器を用いた戦闘では無く、魔導筆を用いた戦闘方法。効果は有ったのか次々と火羅が射抜かれては悲鳴と共に消えていく。

 

 

「うぉおおッッーー!!!」

 

 

冴月は走り出して刀を引き抜こうとする。

だが、鞘から刀は抜けない。舌打ちし、鞘で火羅を殴り付けた。鈍い音と共に火羅が後退する。

 

 

「何で抜けない!?」

 

 

 

[冴月ッ!来るわよ!!]

 

 

カガリからの警告が来ると大きな太刀が振り下ろされる。それを咄嗟に避け、見上げるとそこに居たのは般若の面を顔に付けた甲冑。その後ろからは白髪の長い髪が伸びている。腰辺りの細さからするに女性なのは解った。此奴があの女夜叉だろう。

 

 

「ッ…危なかった、下手すると身体が真っ二つだった!」

 

 

 

[また来る、油断しないで!!]

 

 

今度は横へ薙ぎ払う様に振られると冴月はそれを赤鞘の刀で受け止める。しかし力を載せて振られている事から吹き飛ばされてしまい、地面を転がり回ってしまった。

 

 

「冴月殿!?大丈夫ですか!?」

 

 

 

「あぁ…、何とか…ッ!」

 

 

冴月の元へ駆け寄りながら紗那が魔導筆で砲撃し火羅を打ち倒して行く。飛び掛って来ようものなら札を投げ付けて次々と爆散させていった。

そして近寄って冴月の手にする刀を見ながら紗那は言葉を詰まらせていた。

 

 

「この刀…封印がされています!」

 

 

 

「解けないのか?」

 

 

 

「無理です、今の私の術では…!」

 

 

ギリッと冴月が歯を食い縛った途端、女夜叉が攻撃を放って来る。紗那を押し退けて刀を用いてそれを防いだ。強く握り締め、無理に跳ね除けると再び構える。その時だった。

 

 

{汝…何故、その刀を手にする?}

 

 

 

「…!?誰だ、誰か居るのか!?」

 

 

声がする。此処に居る誰でもない声が。何処からとも無く男の声が聞こえて来る。その瞬間、目の前の景色が固まった。空気も風で揺れていた木の葉も何もかもがピタリと固まったのだ。

 

 

「止まった…?一体何が……。」

 

 

 

{我が止めたのだ。若き騎士よ。}

 

 

声のする方へ振り向く。そこに居たのは黄金の鎧を身に纏った騎士。勇ましく、そして鋭い目付きで此方を見ている。その目は紅く輝いていた。

 

 

「が…牙狼…!?」

 

 

 

{若き騎士よ…貴公は女だな?何故、女が騎士を語り…刀をその手に握り締める?騎士になれる者は全て男のみと定められている……答えよ、何故だ?何故御主の様な女が騎士として戦うのだ?}

 

 

じっと牙狼は冴月を見つめる。

冴月は深呼吸し話を始めた。

 

 

「…私は自身の父が騎士だった故にその姿に憧れ、剣を握ったのです。本来、男でしか魔戒騎士に成れぬ事は私も重々承知しております……ですが、守りし者は騎士であろうと法師であろうと皆、思う事は同じ…私はそう思います。例え性別が異なろうとも。」

 

 

 

{鎧を纏う騎士が女であったとしても……か?}

 

 

 

「…はい。女が騎士になる事自体が異端であり、例外である事は承知しております。ですが私は騎士としての誇りを、与えられた使命を最後まで全うします…我が身に掛けて。」

 

 

少しの間、互いは見つめ合う。

そして話が再び始まった。

 

 

{…貴公の覚悟、確かに聞き入れた。その覚悟に嘘偽りは有るまいな?}

 

 

 

「有りません。」

 

 

 

{なら…我が力を御主に託そう。迷った時は刀へ問え。何が正義で何が悪なのかを。最後に問おう……貴公の名は?}

 

 

 

「冴月…弥那瀬冴月。またの名を幻創騎士蒼牙。」

 

 

 

{…冴月、幻創騎士よ。迷うな、真っ直ぐ己の信じた道を貫き進め。例えどの様な困難に当たろうとも…挫けず進め!!}

 

 

トンっと身体を突き飛ばされる。するとブオンという風を切る音と共に刀が振り下ろされると髪が数本斬られてパラパラと落下した。どうやら、寸前で躱せたらしい。

 

 

「……紗那、カガリを頼む。」

 

 

 

「え?…どうするつもりですか!?」

 

 

すっと左手からカガリを外すと冴月は上着のポケットから青い玉を取り出す。それがドクロの様な指輪へ変化した。それを自分の左手中指へ嵌める。

 

[…我が名はザルバ。我はガロと共に生まれ、ガロと共にある者…お嬢ちゃん、まさか俺と契約するつもりか?止めときなケガするぜ?]

 

 

ドクロの指輪は冴月へ話し掛ける。だが冴月は首を横へ振ってしまった。

 

 

「ザルバ…この瞬間だけ力を貸して欲しい、お願い。」

 

 

 

[仮契約か…本来なら認めないが良いだろう。特別だぞ?]

 

 

 

「ありがとう…行くぞッッ!!」

 

 

飛び掛って来た素体の火羅を鞘から刀を引き抜き、斬り捨てた。走り出すと無言でまた1匹、2匹と次々に斬り裂いていく。

 

 

[お嬢ちゃん、右だッ!!]

 

 

 

「解った…ッ!!」

 

 

ザルバの指示通り、右から飛んで来た触手を避けると他の火羅を足場に飛び上がってその持ち主である火羅を頭上から一直線へ斬り裂いた。無論、足場にした火羅も刀を突き刺して倒してしまう。

 

 

「あれが…冴月殿…?」

 

紗那もその光景を見て驚いていた。

普段と比べると鋭い剣さばきで火羅を斬り倒していく。残ったのは女夜叉と数匹の火羅のみ。

 

 

[此奴は前のガロが倒した火羅だな…お前にやれるか?お嬢ちゃん。]

 

 

 

「問題無い。女だろうと…オレは騎士だッ!!」

 

 

冴月は刀を真上へ掲げて円を描く。

その瞬間、彼女は黄金の鎧をその身に纏った。

鋭い目は冴月と同じで金色の目をしている。真っ直ぐ敵を見据えると刀は剣へ変化、その刃先を突き付けると一気に立ち向かった。

 

 

「だぁああああッッッーー!!!」

 

 

 

「シャアアッッ!!」

 

 

束になって飛び掛って来た火羅を次々に斬り裂くと残る女夜叉へと立ち向かう。何度も互いに攻防戦を繰り広げていき、真正面からぶつかり合う。

 

 

[お嬢ちゃん、烈火炎装を使え!]

 

 

 

「言われなくたって…!紗那ぁッ!!」

 

 

振り払い、右足で脇腹へ蹴りを打ち込んで距離を取ると剣を紗那の方へ向ける。紗那が頷くと魔導筆で光を放つ。その光が剣へ纏われると全身へ転移し緑色の炎が立ち上る。炎を纏った剣を空中で1回転させると反撃の姿勢を取る女夜叉へと立ち向かう。

繰り出された一撃を剣で防ぐとそれすらもへし折り、飛び上がると勢いに任せて女夜叉の身体へ突き刺した。女夜叉は悲鳴を上げながら緑色の炎に巻かれて焼き尽くされていく。地面へ崩れ落ちると消滅してしまった。

冴月は鎧を解き、じっとそれを見つめる。

 

 

[…やるな、お嬢ちゃん。中々の戦いぶりだったぞ?だがこれで仮契約は終わりだ。じゃあな…。]

 

 

 

「あぁ…またな、ザルバ。」

 

 

左手に嵌めていたザルバはパラパラと砂の様に砕ける。冴月が手にしていた刀も役目を終えたかの様に刃がボロボロになってしまう。

紗那も冴月へ近寄るとその様子を見ていた。

 

 

「刀が…こんな姿に……。」

 

 

 

「ずっと待ってたんだよ…誰かに使われるのを…。」

 

刃が壊れぬ様に刀を鞘へ戻した。

輝弥はあの時と同じ形で火羅を封印し、全てが終わった。

 

 

「…ありがとうございました、これでこの村の火羅は全て消えました。感謝致します。」

 

 

 

「礼は良いよ。これがオレ達のやるべき事だから。それよりこれからどうするんだ?」

 

冴月は刀を彼女へ手渡すと首を傾げていた。

火羅が全て消えた今、彼女はどうするのだろうか?

 

 

「少し考えさせて下さい。またいつかお会い出来る日を楽しみにしております……冴月様、紗那様。」

 

 

輝弥は頭を下げた。

気がつけばもう朝、冴月と紗那は輝弥と握手を交わしてから彼女の屋敷を去った。

現代に現れた女夜叉伝説はこうして幕を閉じたのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

旅館へと戻り、2人は身支度を済ませると他の同学年の生徒達に合流し明蘭村からバスで帰った。

珍しいのか自然なのかは解らないが冴月と達弘は共に座っていた。

 

 

「達弘…ちょっと肩貸して…。」

 

 

 

「え?ちょっとッ…弥那瀬さん!?」

 

 

冴月は彼へ寄り掛かる様にして眠ってしまった。

どうやら余程疲れていたらしい。

その姿はどう見てもごく普通の女の子にしか見えない。そのまま彼女は学校へ戻るまでの間眠り続けていたのだった。

失われた筈の黄金騎士は確かに実在しあの村に居た。だがそれ以上の事は誰にも解らない。

 

 

 

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