牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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因縁 -AKANE-

「…明蘭村。彼処に牙狼が残した刀が有った…間違い無いね?御影。」

 

 

生徒会副会長こと姫村アイは裸で御影こと弥那瀬舞衣を見ていた。御影は彼女に背を向け、服を着ようとしていた最中であった。

 

 

「…はい。確かにこの目で見ました。そしてその鎧をあの少女が纏って戦ったのもしかとこの目で。」

 

 

御影が下着を取ろうとした時、アイがそれを止める。そのまま彼女の背中からもたれ掛かる。

アイの柔らかな胸が御影の背中へ当たると耳元で彼女が囁いて来た。

 

 

「確か…貴女には妹が居た。纏ったのはその子かしら?」

 

 

 

「…そうです。あの蒼い魔戒騎士も彼女が。」

 

 

 

「そう…凄いのね?貴女の家は。それはそうと未だ私は満足していないの、だから帰っちゃダメよ? 」

 

 

アイの片手が御影の左胸へと触れる。その手を御影が握り締めて止めて来た。

 

 

「お戯れが過ぎます…どう為さるおつもりですか?真宮朱音の件は。」

 

 

 

「大丈夫よ、アレを使うから。」

 

 

 

「まさか…例の騎士の剣ですか?」

 

 

暗黒騎士の剣とは、嘗て闇に堕ちた騎士が手にしていた物。それを何故かこの少女は持っているのだ。

何処で手に入れたのかも定かでは無い。

 

 

「そう。暗黒騎士グロリア…堕ちる前は星明騎士グロリア。私が彼を殺した時に奪ったのがその剣、そして朱音には魔獣装甲の代わりにコレを纏って貰う。」

 

 

 

「つまり…彼女を暗黒騎士として扱うと?」

 

 

 

御影がそう話すとアイは無言で頷いた。

程無くして立ち上がって姿を消し、戻って来るとアイは再び裸のまま御影へと近寄り、剣を手渡す。

 

 

「…頼んだわよ。あまり失敗すると会長がお怒りになるから。それと校長の処分だけど…貴女に委ねるわ。宜しくね…私の愛しい魔戒法師……。」

 

 

そのまま彼女を抱き締めると押し倒し、再び戯れが始まった。それは夜が開けるまで続いたという。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「真宮さん、真宮さーん!おっかしいなぁ…何処行ったんだろう?」

 

 

放課後。竜弘は校内を歩き回り、真宮朱音を探していた。

折角だから同好会のメンバーを紹介しようと考えていたのだ。しかし彼女の姿は何処にも無かった。

廊下を曲がった所で紗那と擦れ違う。

声を掛けようとしたがまた後でとそのまま流されてしまった。

 

 

「紗那さん、あんなに急いでどうしたんだろ?」

 

 

普段の彼女とは違い、忙しそうな様子だった。

冴月も朝から見当たらない。竜弘は何処か自分だけ取り残された様な気がしていた。

溜め息をつくと1人で教室へと戻る。

 

 

「みんな居ないなんて事有るのか…珍しい。」

 

 

部室に戻るとそこには楓も浩介も有紀も優一すら居なかった。無論、冴月も紗那も。4人の内、浩介は用事で帰宅。楓は図書委員で来られず、有紀はどういう訳か居ない。優一に関しては塾へ行くと事前に彼から言われていた。

1人でぼんやりと考えていると、いきなりガラス窓が割れて誰かが入って来る。

驚いて振り向くといきなり刀の刃が喉元へ当てられた。あの時見た紗那と同じ黒い服装、それから白い面。切れ長の目元から見える赤い瞳が此方を見つめていた。

 

 

「……答えろ、真宮朱音は何処だ?」

 

 

 

「し、知らない!僕だって何処に居るか解らないんだッ!」

 

 

その声は何処か冴月に似ている気がした。

彼女の声を少し低くした様な雰囲気が有る。

 

 

「言え。下手に誤魔化すと貴様の首が身体と離れるぞ?」

 

 

 

「知らないって!本当に…!!」

 

 

竜弘と暫く睨み合うと相手は舌打ちし、刀を収める。そして彼女は達弘を睨み付けると姿を消してしまった。

 

 

「何だったんだ…今の?それにあの人、弥那瀬さんっぽい様な……?」

 

 

割れた窓ガラスを片付けるべく、立ち上がると竜弘はロッカーへ向かう。扉を開けて箒と塵取りを出すと掃除を始めた。

 

 

「どう説明するんだよコレ…!」

 

 

ガラスを処理しカーテンを閉めて誤魔化すと清掃道具を片付けてから報告の為に職員室へと向かうと、その途中で朱音と出会った。オレンジ色の髪が開いた窓の外から吹く風で靡く。

 

 

「居た…!探したんだよ、真宮さん!」

 

 

 

「竜弘…?どうかした?」

 

 

 

「同好会の皆に会わせようと思ったんだけど…皆来られなくて。そろそろ帰ろうかと思ってたんだけどガラス割っちゃって……。」

 

そう話すと朱音は達弘の右手をすっと片手で取ると指先を見ていた。微かだが血が滲んでいる。

 

 

「ケガ…してる。」

 

 

 

「気付かなかったな…さっき片付けてた時に切っちゃったんだ。大丈夫、絆創膏有るから…!」

 

 

そう言って絆創膏を探そうとした時、朱音は彼の人差し指を口へ咥えると血を舐め取った。突然の出来事に達弘は驚いている。

 

 

「ん…これで良い。」

 

 

 

「あ、ありがと…じゃあ職員室行ってくるから玄関で待ってて!」

 

 

 

「解った、待ってる。」

 

 

朱音はコクンと頷くと達弘は立ち去った。

1人残された朱音の元へ黒い服装の少女が現れる。それは御影だった。

 

 

「漸く見付けたぞ…真宮朱音。貴様の出番だ…コレで蒼い魔戒騎士を狩れ。」

 

 

すっと彼女へ黒い鞘の剣を手渡す。

朱音はそれを受け取ると不思議そうに見ていた。

 

 

「…魔獣装甲でもソウルメタルを扱える様にその剣に術を施している、ぬかるなよ。」

 

 

朱音は頷くと御影は姿を消した。

戻って来た竜弘と合流し彼女は彼と共に帰路へ着くのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

その日の晩。冴月と紗那はコハク様に呼び出され、番犬所へ来ていた。薄暗い通路を進むと3人の少女の内、1人が此方を向いている。

 

 

「…特命じゃ。悲しき事に星明騎士グロリアが闇に堕ちた。」

 

そう告げると紗那が聞き返して来た。

 

「星明騎士…グロリア?」

 

 

 

「…確かオレ達の協力者だった筈。そして最も強い魔戒騎士を自称する騎士だ。」

 

 

冴月が紗那へ説明する。

それから更にコハク様による話が続く。

 

 

「…闇に堕ちたというよりは誰かに殺された。身体をバラバラに引き裂かれ、見るも無惨な姿で…悲しいのう……。」

 

 

すると今度は右側の黒い長髪の少女が話し始める。

名をテン様という。

 

 

「そして彼の剣だけがその場から消えていた。…発見した他の魔戒騎士による報告だ。」

 

 

そして今度は黒い髪を後ろで結んだ少女が話し出す。名はキコ様。

 

 

「剣はかなり強いホラーが持っている。そう考えるのが妥当!」

 

 

3人がそれぞれ話すと冴月は考え込んでいた。

紗那もまた頭を抱えている。

そして冴月から話を切り出した。

 

 

「それで…オレ達にどうしろと?」

 

 

コハク様はピッと指をさすと冴月へ話し掛ける。

 

 

「幻創騎士蒼牙、弥那瀬冴月。そして魔戒法師、紗那。其方達に剣の回収と奪ったホラーの討伐を命ずる!これは拒否出来ぬぞ…何としても剣を回収し帰還せよ。解ったな?」

 

コハク様は2人の方をじっと見つめると、冴月は頷いて返事を返す。紗那も慌てて頷いた。

話を終えて外へ出ると辺りは既に真っ暗だった。

 

 

「殺された騎士の持っていた剣の回収…また変わった指令ですね、冴月殿。」

 

 

 

「そうだな…でもグロリアがそう簡単に敗れるとは思わない…それに斗真も言ってた、グロリアはかなりの手練だって。」

 

 

グロリアはホラーの群れに囲まれたとしても跳ね除ける程の強い力を持つ騎士。それがただのホラー1体に負ける筈が無いのだ。そんな話をしながら2人が歩いていると1人の少女が前へ来た。

 

 

「…貴女は確か。」

 

 

 

「真宮…朱音…、竜弘と同じクラスの。」

 

 

2人がじっと見ていた時だった。

 

 

「…蒼い騎士は何処? 」

 

 

 

「蒼い騎士?何の話だ、それより早く帰った方が…ッ!?」

 

 

冴月が近寄った途端、何かが目の前を掠った。足元にパラパラと髪の毛が落下する。その手には剣が握られていた。

 

 

「冴月殿!?貴様ッ!」

 

 

 

「…何処?蒼い騎士は何処!!」

 

 

威圧すると朱音から尋常では無い殺気が放たれる。冴月は咄嗟に魔導鈴を取り出し、目の前で鳴らす。すると彼女の両目が発光し紅く光った。オマケにホラーとしての刻印が浮かぶ。

 

 

「ホラー!?どうして…ッ!!」

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

朱音は再び剣を振り翳すと冴月は咄嗟に剣を鞘ごと突き出して防ぐ。2人は競り合うと睨み合っていた。

 

 

「お前か?お前が蒼い騎士なのか!?」

 

 

 

「執拗いッ…!?お前、その剣…!!」

 

 

冴月はある事に気付く。黒い鞘に槍を象った様な紋章。それは紛れも無くグロリアの持つ剣だった。

 

 

「言え!!何処でそれを手に入れたッ!!」

 

 

 

「ッ…!!」

 

 

朱音は冴月を無理矢理突き放すと構えて見せる。

そして右横へ剣を向け、円を描くと鎧を纏う。

それは冴月が何度も見たあの黒い鎧と同じだった。

 

 

「まさか…コイツが!?」

 

 

 

「グアァアアアアッッッーー!!」

 

 

けたたましい雄叫びを上げると冴月へ襲い掛かる。剣は何度も冴月目掛け振り下ろされる。冴月は鞘から剣を引き抜くと何度も渡り合い、距離を取った。

 

 

「冴月殿、援護します!今のうちに鎧の召喚を!!」

 

 

紗那が魔戒銃をホルスターから引き抜くと発砲する。弾は何れも命中したが鎧に弾かれてしまった。

 

 

「解ってる…くそッ!!」

 

 

冴月も同じ様に正面へ剣を突き出し、円を描くと鎧を身に纏う。互いに真正面からぶつかり合うと互いの刃が何度も交錯した。

 

 

「蒼イ騎士…見付ケタ…コロス!!」

 

 

 

「生憎…ッ、殺される訳にはいかないんだよッ!! 」

 

 

冴月は背中のマフラーを巻き付け、橋から河原へ叩き落とすと自分もそこに降り立って構える。即座に黒い鎧が飛び掛ると再び激しい斬り合いが始まった。

 

 

「ガァアアアッッーー!!!」

 

 

 

「うぉおおッッーー!!!」

 

 

ガキィイインと金属音が響き渡り鍔迫り合いが始まる。蒼い狼は牙を剥き出しにして、黒い鎧は紫色の単眼を輝かせて。再び突き放すとガックリ項垂れたかと思えば姿を変えた。それは蒼牙に近い何か。

そして剣を蒼牙へと突き付ける。

 

 

「まさか…グロリアの鎧を取り込んだのか!?」

 

 

 

「グォオオオッッッ!!!」

 

 

咆哮と共に紫色の目を爛々と輝かせてグロリアと同化した敵は蒼牙へ更に刃を突き立てる。太刀筋もより荒々しく獰猛なモノへと変化していた。

蒼牙が避ければ地面が抉れ、防げば凄まじい衝撃により弾かれそうになる。その力は計り知れない。

 

 

「ちッ…長引かせれば此方が不利か…くそッ!」

 

 

繰り出される1つ1つの攻撃を受け流しながら睨み合う。だがそれと同時に冴月が鎧を纏っていられるタイムリミットも近付いていた。これを超えれば鎧に魂を喰われてしまう。

 

 

「くそッッ!!」

 

 

無理に振り払うと後退する。すると2人の前に煙幕が張られ、蒼牙はその中へと消えた。取り残されたのは黒い鎧のグロリアのみ。

 

 

「何処だ…何処に消えた…何処に…何処に!!」

 

 

鎧を解くと朱音は叫び始める。まるで獲物を求める者の様に。

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「はぁッ…はぁッ…!」

 

 

冴月は鎧を解いた後、紗那に支えられながら辛うじて逃げ延びた。彼女の両手には未だ痺れが残っており、額には脂汗が滲んでいた。歩いている途中で立ち止まってしまった。

 

 

「…冴月殿、大丈夫ですか?」

 

 

 

「ああ…何とか…ッ!」

 

 

不意に力が抜けて座り込んでしまう。

呼吸を整えながら、色々と思考を巡らせる。

1つ目は星明騎士グロリアがホラーにより殺され、剣が奪われた事。

2つ目はその剣を経緯は不明だが真宮朱音が拾い、目の前で鎧を纏った事。オマケに彼女がホラーでありしかも自分が何度か刃を交えた相手だったという事実。考えれば考える程理解が追い付かない。

 

 

「私達だけでは無理です…下手をすれば冴月殿が……!」

 

 

心配する紗那の腕を掴むと冴月は首を横へ振った。

任された以上、どうやら自分でやり切るつもりらしい。その後紗那に支えられながら冴月は学校へと戻るのだった。

 

翌朝、紗那はとある場所を訪れていた。

本来なら学校での授業が有る筈なのだがそれを欠席し1人山奥をさ迷っていたのだ。

約1時間半歩いて辿り着いたのは洞窟。その前で懐中電灯を点けるとその中へと入って行く。

中は外の外気と比べるととてもひんやりとしており、水が滴る音がする。奥へ進むと刃物を研ぐ音が響いていた。立ち止まると紗那は頭を下げる。

 

 

「……紗那か。」

 

 

 

「…お久しぶりです、舞衣様。」

 

 

そこに居たのは冴月の姉である舞衣。

彼女は自分が普段使う刀を研いでいた。紗那の方を振り向かずに話を続ける。

 

 

「…何の用だ?お前と私は敵同士。話し合う事も無いだろう。」

 

 

 

「教えて下さい…何故、星明騎士の持つ剣をホラーが操っているのですか?」

 

 

 

「答える義理は無い。」

 

 

 

「では…貴女の妹が仮に死んでも貴女は何も思わないと?」

 

 

 

「…当然だ。私と冴月は既に姉妹の縁を切った。魔戒騎士に成るのなら姉妹では無いと決めたのだから。」

 

 

その言葉に紗那は歯を噛み締めた。

出来るなら此処で吹っ飛ばしてやりたいが、その気持ちを押し止めて。そして呟いた。

 

 

「…私は貴女様に秘術を教わりに来ました。魔戒法師でも鎧を打ち砕く術…それを教えて下さい。」

 

 

 

「言った筈だ…互いに敵同士だと。それでも貴様は敵に教えを乞うのか?」

 

 

舞衣は刀を取ると紗那へ刃先を向ける。

そして睨み付けていた。

 

 

「敵同士である前に…貴女は私の姉弟子。私は貴女から術を教わり、守りし者の在り方を教わった。だからそこに変わりは有りません。違いますか?」

 

 

紗那は舞衣を真っ直ぐ見つめる。すると刀が降り、舞衣が立ち上がった。

 

 

「良いだろう…但し、条件がある。」

 

 

 

「……何でしょうか?」

 

 

舞衣は何も答えず、紗那を更に奥へ案内する。

着いたのは洞窟の中にある筈の無い広間。

そこへ来ると舞衣は中央にある岩場へ火を点け、振り向くと紗那を見つめる。

 

 

「…服を脱げ。身に付けている物全てだ。」

 

 

 

「…?…解りました。」

 

 

紗那は舞衣の前で衣服や武器類全てを脱いでその場に置いた。色白い肌に対し、程良く成長した身体付きが露になる。舞衣は魔導筆を取り出すと紗那へ向けた。

 

 

「…私から提示する条件は1つ、私の仲間になれ。姉弟子ならそれ位出来て当然だろう?」

 

 

 

「私に冴月殿を裏切れと…そういう事ですか。」

 

 

紗那は拳を握り締める。そして彼女は小さく頷いた。

 

 

「…素直なのはお前の良い所だ。その誓い、忘れるなよ?」

 

 

そっと紗那の左胸へ筆を充てると何かを記す。

それは黒い花弁の様な物。紗那は再び服を纏うと舞衣の方を見ていた。

 

 

「鎧を打ち砕く術は幾つか有る…1つは筆による物。もう1つは刀による物だ。自身の魔力を集中させ破壊する…私と同じ、刀による破壊をお前に教えてやろう。」

 

 

投げ渡されたのは鞘が紫色の刀。それを引き抜くと銀色の刃が火に照らされて光り輝く。

舞衣が程良い大きさの岩を見つけると刀を引き抜き、目を閉じて集中する。途端に刃先が金色に輝き始めた。そして目を開いて振り下ろすと岩が粉々に砕け散る。刀は無傷だった。

 

 

「…この辺の岩はソウルメタルと近い性質が有る。お前の練習には丁度良いだろう。」

 

 

 

「ありがとうございます…舞衣様。ではお願いしますッ!」

 

 

頭を下げてから舞衣と共に鍛錬が始まる。

冴月を裏切り、舞衣の元に付くという条件を飲んで鎧を砕く術を会得する為の鍛錬が。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

紗那が山奥で修行していた同じ頃、冴月は学校に居た。既に昼休みを迎えており屋上のフェンスに持たれながら1人で黄昏ていた。

するとそこへ引き戸を開く音が響き、竜弘がやって来る。彼女の元へ来ると立ち止まった。

 

 

「僕に話って何?弥那瀬さん。」

 

 

 

「あぁ…ちょっとな。」

 

 

冴月は竜弘へ説明する。

真宮朱音がホラーである事、そして彼女を討伐する必要が有ると。少し沈黙が続くと達弘は冴月の両肩を掴んで話して来た。

 

 

「嘘だ…何かの間違いだよ、真宮さんがホラーだなんて!!」

 

 

 

「嘘じゃない…オレもこの目で見た。」

 

 

 

「ッ…嘘だ…絶対違う!ホラーな訳あるもんか!!真宮さんは人間だッ!!どう見ても…どう見ても人間じゃないか!!」

 

 

達弘は力を込めて冴月の肩を掴んで揺さぶる。

それでも彼女は何も言おうとしなかった。

 

 

「ホラーは斬る…それが騎士の役目。例え親しい人だろうとホラーになってしまえば斬るしかないんだ。もし斬らなければ他の誰かが犠牲になる…ッ!?」

 

 

直後に冴月はフェンスへ押し付けられ、格子が身体へ食い込んで来る。竜弘は冴月を睨み付けていた。

 

 

「騎士だから…何だよ…そんなの勝手過ぎるだろ!?僕は許さない…僕は弥那瀬さんの方が余程信じられない!!キミはこれまで何人斬って来た!?誰かの大切な人を…ホラーになったからって理由だけで!!何だよ…黙っちゃってさ…何とか言えよ人殺し!!」

 

 

「ッ……!」

 

 

冴月は達弘の剣幕に押され、何も言えなかった。

言い返そうにも言い返せない。言葉が見つからない。彼だけは自分の事を理解してくれていると思っていた。だが違った。

 

 

「兎に角…彼女に何か有ったら僕が許さない。彼女を斬るなら僕はキミを絶対に許さない…絶対に!!」

 

 

そう吐き捨てると竜弘は立ち去ってしまった。

追い掛けようにも追い掛けられない。

足が前へ進まず、冴月はそのまま座り込んでしまった。カガリが俯いたままの彼女へ声を掛ける。

 

 

[冴月…大丈夫?]

 

 

 

「人殺し…そう言われればそうなのかもしれない……。じゃあオレは…私は…今まで何の為に…ッ!」

 

 

俯いたまま拳を強く握り締めると唇を噛み締めた。

噛み過ぎたせいで血が滲むとその味が伝わって来る。それでも朱音を斬らねばならない、それが守りし者としての役目であり掟なのだから。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「…蒼い騎士、蒼い騎士を…斬る…!」

 

 

朱音は1人で夕暮れの街をさ迷っていた。

ぶつぶつと同じ事を繰り返しながら。

ドスっと通り掛かった男の1人にぶつかってしまい、足を止めた。

 

 

「痛ってぇ!あー…どうしてくれんだよ、骨折れちまったかもしれねぇだろ!」

 

1人が倒れて腕を抑える。2人が朱音を取り囲んで来た。

 

「あーあ、どうすんだよ?俺のダチにこんな事しちゃって…こりゃ慰謝料払うしかねぇよなぁ?」

 

 

 

「お嬢さん…かなり可愛いから身体で払ってよ。オッパイもそれなりに有るんだしさ安いモンだろ?」

 

 

1人が朱音の身体へ触れる。その瞬間、ドサッと何かが宙を舞って落ちた。

 

 

「え……?」

 

 

男の腕の肘から先が無くなっていた。

朱音は目を細めると顔を近づけて来る。

 

 

「……触るな。」

 

 

そう呟き、手にしていた剣で男を斬り裂く。

その場に居た残り2人の男は彼女の持つ剣は小道具かと思っていた。しかし本物だった、現に腕が斬れた上に身体が目の前で斬り裂かれたから。

 

 

「ひ、ひぃいいッッ!!?」

 

 

 

「化け物だぁああッ!!!」

 

 

朱音へ絡んだ2人は一目散に逃げ出す。

返り血を浴びた朱音の制服は真っ赤に染まり、顔も汚れていた。すると路地の方から帰宅途中の竜弘が顔を覗かせて来た。

 

 

「あ…真宮さんッ!真宮……さん?その血は…何?」

 

 

 

「竜弘…私…ごめんなさい……。」

 

 

 

「そんな…まさか……ッ!?」

 

 

竜弘は冴月の言う事を思い出す。真宮朱音はホラーだと。そして今目の前に居るのは朱音本人。

その手には剣を、足元には人だった何かの肉片が転がっている。

 

 

「何かの間違いだ…きっとそうだ、そうだよね…真宮さんッ!!」

 

 

 

「……。」

 

 

朱音は何も言わず達弘の方へ近寄る。ゆっくりと剣を向けて。その距離が縮まりつつあった時だった。

 

 

「ッ…!!」

 

 

銃声と共に朱音へ弾丸が放たれるが、それが彼女の足元へ真っ二つに割かれて落下する。一瞬の内に全て斬り落としたのだ。竜弘の前へ来たのは紗那。朱音へ魔戒銃を向けている。

 

 

「…お逃げ下さい、竜弘殿。」

 

 

 

「でもッ!彼女、真宮さんは…!!」

 

 

 

「……列記としたホラーです。変に彼女へ情を抱けば貴方も喰われますよ、彼女に。」

 

 

 

「ッ…!?」

 

 

いつもの温厚な紗那とは違い、何処か冷たい雰囲気が有った。竜弘は後退ると離れた位置から様子を見る事にした。その場から逃げようとはせずに。

 

 

「…さっさと鎧を纏え、その時が貴様の最後だ。」

 

 

 

 

「蒼い騎士…蒼い騎士は何処に居るッ!!」

 

 

 

「……蒼牙は来ない。代わりに私が貴様の相手をしてやる、光栄に思うがいいッ!!」

 

 

紗那は走り出すと銃を撃ちながら接近する。

朱音の繰り出した斬撃を右へ飛んで避けると左手に持った短刀で彼女の足を斬り裂いた。黒い血が飛沫し地面を汚す。再び彼女が繰り出して来た斬撃を後方へ宙返りし避けるとそのままの姿勢から発砲、弾が彼女の左肩へ命中しふらつく。

 

 

「ぐぅッッ…!!」

 

 

 

「…覚悟しろ、ホラーッッ!!」

 

 

紗那は短刀を捨てると紫色の鞘から刀を引き抜き、刃を向ける。朱音は紗那を睨むと鎧を纏う。

 

 

「殺シてヤる…殺シてヤるぅううッッーー!!! 」

 

 

変化した剣を持ち、走り出す。紗那はその間に魔導銃をホルスターへ戻すと代わりに剣へ魔導筆の先を這わせる。刀身が金色に輝くとそれを構えた。

 

 

「我が、一太刀の元に…散れッ!!」

 

 

 

「死ネぇえええッッ!!!」

 

 

朱音が振り下ろした刃をそれで跳ね除け、彼女の身体へ金色の刃を当てて一線で斬り裂く。鈍い音と共に鎧が砕けるとそこから悲鳴と共にドス黒い血が噴き出す。剣を落とすと鎧が解け、朱音は苦しんでいた。

 

 

「あ…ッ!?あぅッ…うぁあああッッ!!?」

 

 

 

「……ホラー如きに鎧など維持出来るものか。」

 

 

紗那は朱音へ近寄ると首筋へ刃を当てる。

致命傷を負っている事から朱音の戦闘の継続は不可能。すると朱音は紗那の奥に居た達弘と目が合った。

 

 

「助け…て、竜弘……怖い…怖いよ…助けて…!」

 

 

 

「ッ…命乞いのつもりか?ホラーは命乞いなどッ!!」

 

 

 

「止めろぉおおッッ!!!」

 

刀を振り下ろそうとした時。

竜弘が駆け寄ると紗那を突き飛ばす。刀が落下し紗那は倒れた。

 

 

「竜弘殿!?まさか…逃げずにッ…早く退いて下さいッ!」

 

 

 

「ダメだッ、退かない!!退くもんか!!」

 

 

 

「いい加減にして下さいッ…竜弘殿ッ!!彼女はホラー!人間じゃ無いんですッ!!」

 

 

 

「違う!彼女は…真宮さんは…人間だッ!!」

 

 

 

「竜弘殿ッッ…!!」

 

 

2人が揉めている間に朱音はフラフラと立ち去った。血を傷口から流し、ボロボロになりながら。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

どれ位歩いたか解らない。朦朧とする意識の中で朱音が辿り着いたのは公園の池近くだった。

そこで立ち止まった。

 

 

「ッ…ぐぅう……!!」

 

 

傷口からは絶えず血が溢れる。

先程受けた攻撃が思ったより効いていたらしい。

朱音はその場へ吐血してしまった。

ガシャンという足音がし、振り返るとそこに居たのは蒼牙。赤い目を輝かせて剣を向けずに立っている。風で黒いマフラーが靡く。

 

 

「蒼い…騎士……ッ!!」

 

 

朱音は睨み付けると立ち上がって剣を向けようとする。しかし、もう手に力が入らない。

 

 

「……真宮朱音、せめて苦しまず楽に死なせてやる…オレはお前を斬らない。」

 

 

蒼牙が呟くと朱音へ近寄る。そして彼女を魔戒剣で斬らず、そっと手を当てて彼女の額へ触れた。

その瞬間朱音は眠る様に膝から崩れ落ちると人の形を保ったまま彼女は死んだ。冴月は鎧を解くとその様子だけを見守っていた。

 

[…幻覚を見せたのね。]

 

 

 

「あぁ…彼女は奥村がオレを調べる為に生み出したホラーだった。そして探る内に知ってしまった…竜弘という人間の事を。だから死ぬ前に竜弘の幻覚を見せてやったんだ…オレは魔戒法師じゃ無いからこれしか出来ないけど。」

 

 

冴月は彼女から剣を取るとそれを鞘へ収める。

その場を去ると冴月はこれ以上何も言わなかった。

奥村が死して尚、残しておいた切り札的な役割が朱音だったのだろう。それは間違い無く冴月を傷付けた。彼女の心という部分に癒えぬ傷を深く刻み付けて。その足取りのまま冴月は番犬所へ向かうのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「星明騎士グロリアの魔戒剣、確かに貰い受けた。ご苦労だったの…冴月よ。」

 

 

 

「……いえ、責務を果たした迄です。」

 

 

 

「その割には浮かばれぬ顔をしておるが…何かあったのか?腹でも減っておるのか?ん?」

 

 

冴月はハク様から尋ねられると首を横へ振る。

不意に彼女へと冴月は尋ねた。

 

「…騎士は、魔戒騎士は…人殺しなのでしょうか?ホラーとなった誰かの大切な人を斬る…それは傍から見れば人間が人間を殺すのと同じでは無いのですか…?」

 

 

 

「……我は色んな騎士を見て来た。大切な者を失った事で闇に堕ちた者、復讐の為に仲間へ刃を向けた者…他にも沢山じゃ。…例え人殺しと言われようが1人を犠牲に大勢が救われるならそれも止むを得ぬ事。唯一出来るのはホラーとなった人間の存在を忘れぬ事…じゃのう。」

 

そう告げるとポイッと何かを冴月へ投げ渡す。

それは以前にも貰った金平糖の袋。

 

 

「褒美じゃ、紗那と仲良う食べるが良いぞ。甘味は心を穏やかにする…そうじゃ。」

 

 

冴月は受け取ると頭を下げ、立ち去った。

外へ出ると1人で路地を歩いて行く。金平糖の袋を持ちながら進むと目の前に白い狐のお面を付けた人物が冴月の前へ姿を現す。首から下は魔戒法師なのは解る。冴月は立ち止まると睨み付けた。

 

 

「…誰だッ!!」

 

 

 

「我が名は月影…弥那瀬冴月、貴様の命…貰い受けるッ!!」

 

 

月影と名乗った人物は薄紫色の髪を靡かせながら魔導筆を向ける。腰には紫色の鞘の刀を下げて。

 

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