「はぁッ…はぁッッ…!!」
少女は黒い髪を靡かせながら街中を走る。ひたすらに、ただひたすらに。
元は学校に居た筈なのに何故?
彼女を追っているのは学生服を着た連中、しかも自分の学校の生徒だ。
「待てッ!!魔女め!!」
1人が叫ぶと少女目掛けてボウガンを放つ。
振り向き様、それを少女は剣で弾き飛ばす。
立ち止まると複数の生徒らが此方を睨み付けていた。
「追い詰めたぞ…弥那瀬冴月ッ!!」
「忌まわしき魔女め…我ら学園の敵!!」
「排除する…排除する!!」
口々に彼らが答える。
その手には剣やボウガン等の様々な武器が握られていた。
「くそッ…ふざけるなッッ!!オレは…オレは魔女なんかじゃない!!」
冴月はそう叫ぶ。
彼女の無実を訴える声だけが響き渡った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
遡る事、数時間前の事。
冴月のクラスが移動教室の為に皆が動き出そうとしていた時だった。
「弥那瀬さん、生徒会の人が呼んでたよ。」
1人の女子生徒が冴月へ声を掛けて来た。
冴月はそれに応じると有紀と別れ、彼女だけが別行動になる。生徒会室へ入るとそこに居たのは複数の男子、女子生徒。机をカタカナのコの字にし冴月を囲う様に皆が座っていた。
その目はとても威圧的としか思えない。
「あの…オレに何か?」
そう呟いた途端、奥から1人の男が姿を現す。彼の腰には剣が添えられており、途端に冴月の後ろから2人の男子生徒が入って来た。
彼女を左右から捕らえると無理に跪かせて来る。
「ぐッ!?お、おいッ…何の真似だッ!?」
「黙れ、魔女め!!」
目の前の男がそう叫ぶと冴月の方を見下しながら席へ腰掛ける。そして更に続けた。
「2年…弥那瀬冴月。間違いは無いな?IDカードを。」
そう指示すると横に居た生徒が冴月の身体をまさぐり、カードを取り出す。それを持って彼へと差し出した。
「ふむ…間違っては居ないか。私の名は修司、鷹村修司という…生徒会執行部の1人だ。キミを呼び出したのは他でも無い……キミなのだろう?我が生徒会の秘密を…そしてこの学校の秘密を探っているのは。」
修司と名乗った男は冴月をじっと椅子に座ったまま、足を組んで見つめていた。まるで偉そうな王様の様に。
「ッ…!だったら何だッ…!!」
「……魔戒騎士、そして魔戒法師が我が校内に紛れ込んでいる。忌々しい事この上無い…。」
冷めた目で冴月の方をじっと見つめる。
冴月もまた修司を睨んでいた。
「お前が…お前達がホラーを使役しているのか!? 」
「ホラーを使役…?ふふッ、あはははッ!!面白い事を言うんだな…キミは!!」
「何だと!?」
すると修司は立ち上がると携帯を取り出し、指で合図すると1人の生徒を隣の部屋から呼び出す。彼は左右を他の生徒に抱えられたまま無理やり連れて来られると修司の前で立ち止まる。
「特別に見せてあげよう…これが真実だ。」
冴月の前へ携帯の画面を見せる。
そこには赤い封筒の様な物が映っていた。
再び生徒の前へ翳し、封筒を指で開く様な仕草を見せた途端に携帯の画面から黒い光が放たれて生徒が悲鳴を上げながら叫ぶ。そして掴んでいた2名の生徒を振り払い、冴月を睨んでいた。
「な…ッッ!?」
「これぞ近代の科学の力…人間の欲望は計り知れない。金や宝石が欲しい、他者よりも上に居たい、女が欲しい、誰よりも美しく在りたい、誰かに認めて欲しい……数え切れない程の欲望と陰我で満ちている。この手紙はそんな願いを叶える為の物。それに…未だ若い人間の方が欲望に対し純粋、だからホラーになるのにもうってつけ…という事だ。理解して頂けたかな?弥那瀬君。」
修司は冴月を見てニヤリと笑っていた。
「その気になれば、この学校に居る生徒全員をホラーに変える事も出来る。そうした時…この学校は阿鼻叫喚の渦に巻き込まれる!!優れた種であるホラーだけが生き、人間達は彼等の糧となる…そして生涯の楽園が此処に完成する。ホラーこそがこの世を統べるのに相応しいのだッッ!!愚かな人間は皆、彼等によって喰われる…それが末路。そして此処に乗り込んだ騎士も法師も全員喰らった!!次はキミの番という訳だ……!」
高笑いし修司は冴月へ近寄る。そして彼女の髪を掴み上げて顔を覗き込んだ。
「お前だけは…お前だけは絶対に許さない…ッッ!!」
「威勢の良い目だ…真っ直ぐで、それで居て純粋そのもの……男による穢れすらも知らぬ女騎士。初めては未だらしいな?ふふッッ……なら私が奪ってやろうか?生娘の処女を…!!」
「ッ…黙れッ!!」
冴月の顎を修司が片手で持ち上げて笑っている。
下衆の様な目で此方を見ながら。だが冴月は無理に1人を振り払うと修司を殴り飛ばした。
「いい加減にしろ…下衆め!!」
修司は唇を指先で擦ると血が付いていた。
冴月を見ると歯を食い縛って睨む。
「そいつを此処から出すなッ!!お前だけは絶対に許さん…ッッ!!」
「生憎だが、それはこっちも同じだッ!!」
冴月は掴み掛かってきた右側の生徒を突き飛ばし、咄嗟にドアを開けて逃走する。
階段を降りて更に走ると余裕を見て靴を履き替え、外へと飛び出して行った。
そして今に至る。
魔女狩りという形で冴月は勝手に因縁を押し付けられ、追われていた。魔戒騎士は人間への暴行は禁じられている。しかし、咄嗟の自体だからアレは止むを得ない。周りを見渡せばボウガンや剣、槍を持った生徒らが冴月を取り囲もうとしていた。
「逃げられると思うなよ…ッ!!」
1人が走って来ると冴月へ剣を振り下ろす。
冴月はそれを剣で防ぎ、弾き返すと蹴りを入れて突き放した。途端にボウガンから矢が放たれると何とか反応し矢を叩き落とした。
「成程、オレは狩りの獲物か…くッ!!」
今度は槍を持った2人が攻めて来る。
1つを弾いたが2つ目が冴月の右頬を掠め、出血する。それでも避けると剣の鞘で刺突し突き放し、
建物へ飛び移るべく飛び上がった。
だが別の箇所から放たれたボウガンが冴月の左肩へ命中、建物の上へ倒れ込んでしまう。
「あぐぅッ!?くッ…!」
[冴月、大丈夫!?]
「平気…ッ、何とか……!」
ボウガンの矢を引き抜くと投げ捨てて走り出す。
射抜かれた肩から血が滲むが立ち止まれない。
下では待ち構えようとする数人、そして後ろからは建物へ飛び移って来た3人が冴月へと迫っていた。
向こうは手負いの獣を追い掛け回す狩人そのものにしか見えない。
「どうする…ッ、このままだと本当に…!」
建物の隙間を飛んで駆け抜ける。
立ち止まって相手をしていれば体力が消耗する、かといって逃げ続けるのもキリが無い。
[冴月、アレは使えない?]
「アレは…良しッ!!」
冴月は別のビルへ飛び移ると消化器のドアを蹴破って消化器を取り出す。それを前へ放出し3人へ目眩しを仕掛けた。
「これで足止めは出来た…後は!」
振り向いた途端、直ぐ真横に剣が突き刺さった。
そこに居たのは修司。冴月を見るとニヤリと笑う。
「そこまでだ…魔女め!もう逃がしはしない…!!」
「この剣…まさかお前!?」
修司は冴月を見ると話始める。
「魔戒剣…ソウルメタルと呼ばれる刃で出来た剣。そして……」
「ホラーを斬る為の…剣!!」
そう冴月が呟いた時だった。
修司が冴月へ肉薄し、冴月は咄嗟に避ける。
彼は剣を引き抜くと冴月へ斬り掛かって来た。
「まさか…お前も騎士なのか!?」
「ああ、そうだ…ッ!!」
鍔迫り合いへ持ち込むと互いの刃から火花が散る。
「だが、私は違う…アイ様に魅入られ…そしてその力を更に強化した…存在ッッ!!」
「どういう意味だ…ぐぁッッ!!?」
無理に振り払われると冴月は壁へ叩き付けられる。
背中を強打したが何とか立ち上がった。
陽が傾き、空が赤く染まり始める。
修司は剣を冴月へと向け、睨み付けた。
「冥土の土産に見せてやろう…我が鎧をッ!!」
彼は剣を右横へ突き出し、円を描く。
そして鎧を纏った。黒く雄々しい鎧を。
白い目が冴月を睨みつけていた。
「…我が名はレイド。暗黒騎士…レイド!!」
黒い剣を向けると突撃し襲い掛かって来た。
「ちぃ…ッ!!」
冴月は前方へ円を描くと蒼牙の鎧を纏う。
そして互いの剣が再びぶつかり合った。
「それが貴様の鎧か?魔女め!!」
「黙れッ!!貴様は闇に堕ちた者…何故魂を売った!?」
「ふはははッ、決まっている…強き者が弱き者を支配する為…それ以外に何が有る!」
何度も互いの刃が交錯する。
しかし冴月は左肩を負傷している事から動きが鈍くふらついてしまう。そこを突かれてしまい、蹴りを打ち込まれると倒れてしまった。
「くそッ…肩が……!!」
「くははッ、終わりだ…観念しろ…魔女めぇえッッ!」
レイドが走り出しその剣を蒼牙へ向け振り翳す。
土壇場でそれを防ぎ、何とか耐えていた。
「未だ抵抗するのか…貴様はぁッ!!」
「オレは…オレは魔女じゃないッッーー!!」
蒼牙は押し退けるとレイドの隙をついて剣を振り翳した。振り翳した刃は鎧を大きく斬り裂くとフラフラとレイドは後退る。
「中々やる…だが…貴様の負けだ…ッッ!!」
レイドは鎧へ小瓶に入った赤い液体を掛けると鎧に受けた傷が再生し塞がる。そして再び剣を向けた。
「何!?再生しただと!?」
[冴月ッ、鎧の限界が近いわ…そろそろ解かないと貴女が不味い!]
「ッ…だが、やれる事はやる…!!」
ギリっと剣の柄を握り締める。
向こうは左手の指をクイクイと曲げて挑発して来た。
「さぁ来い…魔女ッ!!」
「うぉおおッッ!!」
蒼牙は走り出すとレイドとは刃を交えず、彼の後方に有った柱へマフラーを結びつけて飛び上がる。
そして飛び越える形で落下すると空中で鎧を解いて
街中へ逃げ込んだ。修司も鎧を解くとビルの上から街中を見下ろしていた。
すると1人の生徒が修司へ話し掛けて来る。
「…追いますか?」
「いや…あのままで良い。何れ奴とはまた戦う時になるからな…ふふふッ!」
暗黒騎士レイド。また新たなる敵が彼女の前へ立ちはだかった。