牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

22 / 24
邂逅-ENCOUNTER

「2年生…弥那瀬冴月。彼女が魔戒騎士で間違い無いのね?レイド。」

 

アイは渡された冴月の写真を見ながら答えた。

僅か16歳で鎧を纏い、ホラーを狩る。

そしてこれまで多くのホラーが彼女の手で狩られて来たのは間違いない。無論自分の仲間もだ。

旧校舎に建てた雫を培養する為のプラントも彼女の手で壊されてしまった。

残っているのはこのプラントのみ、そして切れる手札も残り少ない。

 

 

「如何致しましょう?私が彼女を葬っても良いので有れば…貴女様の手を煩わせる必要は減りますが?」

 

 

「大丈夫よ。それより…楽園計画の最終段階へ入るわ。もうあのお方の堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題だもの…貴女は止められるかしら?弥那瀬冴月…幻創騎士蒼牙…?」

 

彼女は冴月の写真を火に焚べると燃やしてしまった。アイは最後のカードを切る。自分自身という名前のカードを。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「つ…き…さ…つき…さつき……冴月!冴月ってば!」

 

 

「有紀ッ…!?此処は…?」

 

 

「…冴月の家だよ。通り掛かった人に助けて貰ったの。ケガしてたから包帯しておいたけど…何でこんなに傷だらけなの?」

 

 

「話せば長くなる…それよりどうして有紀が此処に?」

 

 

「買い物してたら、冴月が上から降って来たの。幸いな事に擦り傷と撃たれた様な傷だけで済んでる。」

 

 

「でも、ありがとう…助かった。というか学校は?」

 

 

「サボっちゃった…気分転換したくなってさ。」

 

ペロッと舌を出すと彼女は微笑む。

一方の冴月は裸の上に巻かれた包帯を見て俯いていた。暗黒騎士に追い込まれ逃走し、この有様。

下手をすれば殺されていても可笑しくなかった。

 

「ねぇ冴月…貴女は何と戦ってるの?」

 

 

「…何って?」

 

 

「私、見たの…。冴月が剣を握って倒れていた所。カガリが冴月が危ないって言ってたから。」

 

 

「……簡単に言えば悪魔と戦っている。人間の欲望に反応し、その人間を喰らってソイツに成り代わり、更に他の人間を襲って喰らう。その悪魔を狩るのがオレの仕事…オレの役目。」

 

冴月はそう話すと立ち上がって黒い服とスカートを履く。それから左腕に魔導輪を嵌めた。

 

「何処行くの!?その怪我じゃ何も出来ないでしょう!?」

 

 

「…剣を探しに行く。アレが無いと戦えない。」

 

部屋のドアの前へ立ち、ノブを回して開いた時だった。もにゅんと顔面に柔らかい何かが当たり、部屋の中へ押し戻されてしまう。

 

「あら、サッちゃん!目が覚めたの?」

 

 

「ッ…八千代さん!?退いて、剣探しに行くから!」

 

 

「だーめ、怪我人はちゃんと寝てないと。せめて半日は大人しくしてて頂戴?」

 

 

「でも…ッ!!」

 

 

「血の気が多いのが貴女の欠点ね…ホント。」

 

すっと冴月の額へ右手の指先を向け、デコピンを喰らわせる。悶絶した冴月は蹲ってしまった。

 

「痛ったぁ…ッ!!」

 

 

「…手負いで戦えば返って不利!それに鎧のダメージも大きいしオマケに持ち主も怪我してる。それをみすみす見逃す程、私は甘くないの。大人しく従いなさい?解った?」

 

その姿はまるで娘を叱る母親そのもの。

冴月は観念したのか小さく頷いた。

 

「有紀ちゃんだったかしら?ありがとね、冴月の事助けてくれて。」

 

 

「いえ…では私はこれで。バイバイ冴月!」

 

冴月へ手を振ると有紀は去った。

部屋に残されたのは八千代と冴月だけ。

 

「暗黒騎士レイド…そう名乗ったのね?」

 

 

「うん…最初はマルスの鎧を着た何者か、次は暗黒騎士レイド……暗黒騎士も量産してるの?」

 

 

「可笑しいわね…そう簡単に暗黒騎士なんて生まれない筈なのに。その騎士、本名は?」

 

 

「…鷹村修司。そう言ってた。」

 

 

「タカムラ……?そう、ありがとう。私の方で調べてみるからサッちゃんは休んでてね?」

 

八千代はそう言い残すと彼女もまた部屋を去る。

するとカガリがカチャカチャと音を立てて喋り出した。

 

[…冴月、これからどうするの?]

 

 

「大人しくするしかないでしょ…半日経てば傷は治るから良いけど。」

 

 

[貴女らしくないのね?普段なら直ぐ出て行って色々調べて回るのに。]

 

 

「結界が張られてる…窓にも色々と。つまり出るなって事でしょう?剣も無いから無理。」

 

冴月はベットに寝転ぶと溜め息をついた。

 

 

「…少し寝るから。夕方になったら起こして。」

 

 

[はいはい……何か有ったら起こすわね。]

 

それから冴月はベットの上で眠りについた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

学校の裏にある研究室。

そこで紗那がクルクルと魔導筆を回していた。

 

「解けない…やはりこの筆には何か特殊な魔術が……?」

 

彼女が触っているのは亡き姉弟子である舞依の持っていた魔導筆。どうやら彼女にしか扱えない様に色々施されているらしい。

うーんと考え事をしていると外から悲鳴が聞こえ、振り向く。紗那は自身の魔導筆と武器を咄嗟に手に取ると飛び出して行った。

悲鳴の聞こえた先へ向かうとスーツを着た男が校庭に立っているのが解った。それも見覚えのある姿。

 

「月島…ッ!?」

 

 

「これはこれは…いつぞやの魔戒法師!」

 

 

「…今度は何を!」

 

紗那が左足のホルスターへ手を掛けたが制止される。そして彼は話し出した。

 

 

「我々も残る手札…切れるカードも少ない。だから交渉しよう……?」

 

 

「交渉?」

 

 

「…お前達がこの件から手を引く事。そして全ての事柄に目を瞑る事。これが条件…無論、我々もこれ以上人間を喰らうのを止めよう…エキスの精製も中止する。どうだ?」

 

 

「成程…確かに人聞きの良い交渉条件だ。‎」

 

 

「ふふ…そうだろう?解ったら大人しく……!」

 

その瞬間、彼の足元へ弾が撃ち込まれる。

紗那の左手にはいつの間にか魔戒銃が握られていた。

 

「断る…交渉は決裂だ…。生憎野放しには出来ない!そんな甘い理由で見過ごすと思うのか?」

 

 

「ぐッッ…貴様ぁあッッ!!黙って見過ごせば良い物ぉおッッ!!!」

 

 

秀は怒りの叫び声共に姿を変える。

スーツは両手や腹が裂かれ、そこから獣の様な手足が露出する。顔は人の皮や筋肉を剥いだ髑髏の様で口からは唾液が滴り落ちている。

ホラー、スレイヴ。それこそが月島の本当の正体だった。

 

 

「ッ…酷い匂い…!!」

 

 

「コれが私ノ…ワたシのホんトうの姿ダぁアアッ!!」

 

 

「くッ…なら、此処で貴様を討滅するッ!!」

 

 

紗那とスレイヴによる戦闘が始まる。

腕に付いた手錠の鎖を伸ばし、それを振り回し投げ付けると紗那へ牙を剥く。それを彼女が避けて魔戒銃を発砲する。弾はスレイヴの身体と左腕を貫くもそのまま立ち向かって来る。

 

「何!?効いてないのか…!?」

 

 

「そコだぁあ…ッ!喰らエぇッ!!」

 

飛び上がるとスレイヴは鋭い爪を振り翳し、頭上から切り裂こうとする。飛び退いて裂けたが爪が掠り、紗那の制服を少し切り裂いた。

 

「惜シい…惜しイ…次ハ…外サなイッ!!」

 

 

「弾がダメなら…ッ!!」

 

 

紗那は魔戒銃をしまい、代わりに腰の後ろから取り出したのは改良した射糸壱号。だが広い校庭故、飛び回る事は出来ないが秘策は有る。

恐らく飛び掛って来るのは明白だった。

 

「さぁ…来いッ!!」

 

 

「言ワれなクとモぉオおおッ!!」

 

スレイヴが再び走り出して飛び掛ろうとする。

チャンスはその時しかない。そしてその時が来た。

地面を蹴って一直線に紗那へ突っ込んで来る。

 

「今だ…ッッ!!」

 

右手に握った銃型の射糸壱号の引き金を引くと放たれたワイヤーがスレイヴを拘束する。

ギリギリと彼の身体をキツく縛り上げていく。

 

「なァッ!!?バカな…次!?」

 

 

「…遊びは終わりだ。残りのプラントは何処だ?答えろッッ!!」

 

 

「ッ…ダれガ…言ウもノかァ…ッッ!!」

 

 

「貴様…ッ!?」

 

魔戒銃を向けようとした途端、スレイヴの身体に杖が突き刺さる。スレイヴは悲鳴と共に消滅し地面には変わった形の杖が刺さったまま。

紫色の杖、そしてその先端には緑色の宝玉。視線を向けた先に居たのは女子生徒だった。

 

「ダメよ…何でもかんでもベラベラ喋ったら。」

 

 

「お前は…!?」

 

 

「…生徒会、会長秘書の姫村アイ。そして魔戒法師!!」

 

彼女が杖を呼び戻すとそれを手に持ち紗那へ向ける。

 

「まさか同業が居たなんて…しかも同い歳の。」

 

 

「…それは此方も同感。だが、何故ホラーへ加担する?魔戒法師は守りし者ではないのか!?」

 

 

「決まってる…闇の方が綺麗で美しいからよ。人間の欲は底をつかない寧ろ湧き上がるばかり…そして己の欲望の為ならどんな事でも平気でする……そうでしょう?」

 

 

「何を…ッ!」

 

 

「守りし者が守ろうとする人間なんてそんなモノよ。守る価値など有る訳が無い!!」

 

アイが杖を振り翳すと紫色の光が刃となり、複数に分裂すると紗那へ襲い掛かる。

彼女はそれを札を使って相殺させると躱しながら魔戒銃を発砲し立ち向かって行くと飛び上がって空中で身体を捻って蹴りを放つ。しかしそれは障壁で弾かれてしまった。

 

「体術…それから武器による攻撃。変わってるのね、貴女?」

 

 

「お前も…充分変わっているッ!!」

 

飛び上がって離れ、魔戒銃の薬莢を排出し弾を再度装填すると再び攻撃が放たれる。

今度は紗那目掛け雷が飛んで一直線に来ると躱す度にバチバチと音が聞こえて来た。

 

「御影の…舞衣の仇…討たせてもらう!!」

 

 

「黙れぇえッ!!」

 

紗那は接近しながら魔戒銃を発砲、だが弾は全て障壁により阻まれてしまう。

 

「ふふッ…残念、お得意の武器では私を傷付けられない!!」

 

 

「それなら…ッ!!」

 

射糸一号を腰のホルスターへ戻すと代わりに自分の魔導筆を取り出し、結界へ押し付けるとバチバチと音を立てながら干渉していく。

 

「ふふ…破る前に貴女が死ぬわよ?」

 

紗那へ杖を向け、アイが何かを唱える。

すると紗那の左脇腹へ地面から出現した鋭い棘が突き刺さり、距離を離されてしまった。

 

「うぁッッ…!?ぐッ…!」

 

血が飛沫し、紗那は棘を引き抜く。

ボタボタと足下に血が滴り落ちた。

白いワイシャツは血でみるみる赤く染まっていく。

 

「惜しかったわね…あと少しだったのに?」

 

 

「はぁ…はぁ…ッ、何が…起きた…ッ!?」

 

 

「私の術は異端そのもの…それも…この通り!!」

 

今度はバラのツタの様な触手が現れると紗那を殴り付け、突き放す。そして咄嗟に彼女の片足を掴むと地面へ何度も叩き付けて来た。

 

「がはッ…あぐぅッ!?」

 

 

「あっはははは!!そう簡単に死なないでよ?まだまだ楽しみましょう…ね?」

 

宙吊りにした紗那を見るとアイは微笑んでいた。

手足には擦り傷や切り傷、そして脇腹からの出血。

結んでいた髪は振り解かれ、薄紫色の長い髪が風で靡いている。

 

「…成程…闇に染まると…こうなるのか……ッ。」

 

 

「あら…まだ話せるの?」

 

 

「…お前で2人目……力に…欲に…支配され…そして…それに…溺れる…ッ!?」

 

無言で繰り出された一撃が紗那の腹部へ命中し、彼女は吐血する。本来の人間なら死んでも可笑しくは無い筈だった。

 

「黙りなさい…小娘がッ!!」

 

 

「げほッ、げほッッ…師匠の…言う通り…人は弱い…だからこそ…守る…例え…どんな人間だろうと…!」

 

 

「守る価値なんて有るの?私利私欲に塗れた人間など。騎士や法師は尽きる事の無い争いに身を投じ…そして人間は当たり前の様にのさばり続ける…結局は同じ事の繰り返しでしかない!!だからこそ支配するのよ…力の有る者が、弱き者を従えるその為に…この学校から全てを変えて行く必要が有るの!!」

 

 

「ッッ…成程…それがお前の…本心…!」

 

アイは不気味に微笑むと指先を上げ、ツタの1つが紗那の方を向く。

 

「もう貴女には用はない。消えなさい…?それと残念だったわね、この学校はもう我々の手中。既に生徒全員と教師全員をホラーに変える算段は整っている……!」

 

 

「残念なのは…お前の方だ…ッ!!」

 

 

紗那がニヤリと笑う。そしてアイが指先を動かすとツタが向かって来るがそこへ数本の矢が突き刺さると紗那の胸元付近でねじ切れてしまった。

 

「何!?誰がッ…!」

 

 

「……オレだよ。」

 

木の上から人影が飛び降りると、そこへ目掛けてツタが何本も飛んで来る。

空中で巧みに避けるとクロスボウを何発も撃ち続けた。風を切って飛翔する矢が次々とツタを射抜くと燃え広がって消滅する。

持ち主が着地し、アイの胸元へ向けてレーザーポインターを照射した。

 

「すまない、遅くなった…!」

 

 

「ッ…ふふ…やっぱり来てくれた…私の…騎士!」

 

黒いスカートに長袖のシャツを着た冴月が紗那の近くへ立つ。その手には紗那が普段使うクロスボウが握られていた。

 

「弥那瀬冴月!?どうして…ッ!!」

 

 

「さぁ?…お前の所の騎士が仕留め損なったんじゃないのか?」

 

冴月は落ちていた短刀を拾い、ツタを裂くと紗那を下ろす。

 

「奴は法師です…呉々も油断しない様に…ッ!」

 

 

「…解った。八千代さんがくれた薬がカバンに入ってる、それを持って下がれ!」

 

 

「はい…ッ!!」

 

紗那は冴月からカバンを渡され、それを受け取ると素早く後退した。冴月は睨み合うと右手にクロスボウを、左手に短刀を持って構える。

 

「…そんな武器で私が倒せると?」

 

 

「やれるさ…鎧や剣が無くてもオレは守りし者、それに変わりは無い!!」

 

 

「ふん…なら足掻いて見せなさいッ!!」

 

アイが杖を振り翳すと数体の素体ホラーが出現する。その数は6体、それ等が冴月を見ると目を爛々と輝かせて飛び掛って来た。

 

「来た…ッ!!」

 

飛んで来た1匹をクロスボウで眉間を居抜き、

更に別から飛んで来た1匹の攻撃を避けて短刀を突き刺す。そしてそれを盾にしクロスボウを持ちいて2体を消滅させる。短刀を突き刺していた1匹を蹴り飛ばしてクロスボウで射抜くとカートリッジを投げ捨て、新たな物を装填し直す。

残り3匹が空中で冴月の方を見つめている。すると今度は紫色の閃光が冴月へ目掛け飛んで来ると

彼女はそれを横へ飛んで避けた。

 

「ふふ…惜しい惜しい…!」

 

 

「…クロスボウの矢はこれで最後、短刀も使い果たした…どうする…!」

 

 

「万策は尽きたようね?仇を討たせてもらうわよ…御影と奥村君の分の…仇をねぇッッ!」

 

 

アイが叫ぶと杖からバチバチという異音が聞こえ、冴月の目の前には3匹のホラー。彼女の頬を汗が伝い落ちた。そして再び轟音と共に雷撃が放たれると冴月へ飛んで来る。

 

「ちぃッ…!!」

 

左へ飛ぶとホラーが牙を剥いて襲い掛かる。

だがボウガンを利用し的確に射撃すると眉間と胴体を矢が刺し貫いた。

 

「後2匹…ッ!?」

 

途端に死角から飛んで来たツタによりクロスボウが弾かれ、落下してしまう。冴月も同時に飛ばされると2匹のホラーが襲って来た。もはや絶体絶命としか言えない状況に立たされてしまった。

 

「不味い…やられる…ッ!?」

 

身構えようとした時、冴月の横を何かがすり抜けるとホラー2体を一瞬で斬り裂いて消滅させた。

銀色の狼が地面へと着地する。

双刃騎士零牙、冴月の良く知る騎士だった。

 

「…冴月、無事か!?」

 

 

「斗真…!何で此処へ?」

 

 

「忘れ物を届けに来た…そう言えば伝わるか?」

 

すっと黒く細長い袋を渡すと冴月がその包みを取る。入っていたのは菱形の紋章が刻まれた青い鞘の剣だった。

 

「オレの…剣!」

 

 

「鎧の調整と修理は済んでる、いけるな?」

 

 

「あぁ…大丈夫だ!!」

 

冴月が鞘から剣を引き抜く。そして構えて見せた。

 

 

「騎士風情が…束になろうとも同じ事ッ!!」

 

 

「はッ、そんなのやってみなきゃ解らねぇだろうッ!!」

 

 

雷撃が零牙へ放たれ、それを零牙が躱しながら突き進む。アイの目の前へ来ると左右の手に握り締めた刃を力強く振り下ろした。だが刃は阻まれてしまう。

 

「結界か!?」

 

 

「残念ね…?銀色の騎士さん…ッ!!」

 

 

「ちぃ…ッッ!!」

 

 

離れる前に蹴りを放つがやはり結界は貫けない。

その瞬間、零牙目掛け放たれたツタが彼へ命中し吹き飛んでしまった。

 

「斗真ぁッ!?」

 

 

「次はお前だ…弥那瀬冴月ぃいッ!!」

 

アイは更に威力を上げ、攻撃を繰り出す。エネルギー状の刃が冴月へ向け飛んで来る。

 

「うぉおおッッッーー!!!」

 

走り出し、地面を強く踏み込むと鞘から剣を引き抜く。そして前方へ円を描くと鎧を纏い、飛んで来た刃全てを剣で叩き壊した。

 

「あれが蒼牙…!ふふッ、壊しがいが有る!!」

 

 

「喰らえぇえッッ!!!」

 

飛び上がると頭上からアイへ剣を振り翳し攻撃を仕掛ける。しかし結界がそれを阻む。

接触面ではバチバチと刃と結界のエネルギーが競り合う音が響き渡っていた。

 

「残念、幾ら鎧を纏っても何も…ッ!!」

 

 

「変わるさ…!貫けると信じれば…ッッ!!」

 

すると刃先を結界へ突き立て、少しずつそれを内部へ押し入れて行く。剣の半分が結界の中へ到達し

更に突き進む。

 

「何!?そんな…馬鹿な…ッ!?」

 

 

「終わりだ…姫村ぁああッッ!!」

 

 

剣が中へ完全に侵入するとその勢いのまま

アイの胸元を蒼牙の魔戒剣が刺し貫いた。

結界が消え、離れると蒼牙は彼女の方を睨み付けていた。

 

「血…私の…血…ふふッ…久しぶりに見たわ……私の血を…!」

 

ニヤリと笑うと蒼牙の方を見つめる。

そして杖を天へ翳すと更に話を続ける。

 

「悪いけど…死ねないのよ…生憎ね…!ふふッ、あっはははははッッ!!!」

 

 

「気でも狂ったか、姫村ッッ!!」

 

 

「狂ったじゃない…狂っているのよ、私は!!さぁおいで…プラントを守る最後のホラー…最強にして最悪の…ッ!!アグロスッッ!!」

 

すると学校の真上から突然巨大なホラーが姿を現す。その大きさは人間を遥かに凌いでいた。

無論、魔戒騎士の大きさすらも遥かに凌ぐ。

下半身は無く、有るのは赤い髑髏の様な顔と人の腕の様なモノが生えた身体。両腕はどう見ても獣のそれだった。落窪んだ黒い穴からは白い目玉がギラギラと光っている。

 

「あれが…培養ホラーなのか…!?」

 

 

「…前に斬った奴とは違う!?」

 

此方を見据えるとアグロスは大きく咆哮し

校庭へ降り立った。

 

「精々…足掻くのね…!あっはははは!!!」

 

アイは高笑いすると目の前から消える。

そしてホラー、アグロスと2人の騎士による戦闘が幕を開けた。

 

「…斗真、アイツはオレがやる。」

 

 

「お前…正気か!?」

 

 

「……コイツを野放しにすればこの学校以外の人間も間違いなく襲われる。そうはさせない…させるもんか…ッッ!」

 

剣を向けて左手を突き出し構えを取る。

そして地面を力強く蹴って蒼牙は走り出した。

 

[図体が大きいけど、確実に当てれば倒せるわ!]

 

 

「解ったッ!!」

 

空中へ飛び上がり、アグロスが薙ぎ払う様に振り翳した右腕を飛び越え、そのまま走る。

そして顔へ目掛け剣を振り下ろすと肉を引き裂いた。悲鳴と共に血が噴き出すと蒼牙は屋上へ着地する。標的は此方へ変わり、掴み掛かろうとする左腕を一刀両断し斬り捨てる。

アグロスは怒り狂い、蒼牙へ闇雲に攻撃を仕掛けて来る。その全てを弾き返して斬り裂く。

 

「冴月、俺が援護する!!お前は早くトドメを!!」

途端に零牙が叫ぶと蒼牙の元へ駆け付ける。

そしてアグロスが口から放った光弾を全て跳ね除けると蒼牙と共に飛び上がり、アグロスへ飛び掛った。

 

「喰らえぇえッッ!!!」

 

零牙が身体を捻り、回転すると弾の様に軌道を変えてアグロスの身体を刺し貫く。

前屈みになった所を蒼牙が頭上から勢いを利用し剣で一刀両断する。

 

「これで…終わりだぁああッッ!!」

 

肉と骨を引き裂きながらアグロスは悲鳴を上げて

消滅する。2人の騎士はそれぞれ離れた場所へ降り立つと同時に鎧を解いた。

 

「…ふぅ。冴月、大丈夫か?」

 

 

「うん…平気、肩の怪我も治ったから。」

 

 

「……いよいよ本丸へ乗り込むんだな。」

 

 

「そうだけど…斗真はどうするの?」

 

 

「俺はプラントの残り、そして雫の出処を探して破壊する。奴等はお前達に任せる…頼んだぞ。」

 

 

「解った、紗那と共に必ずやり遂げる。」

 

互いに言葉を交わすと冴月と斗真はその場から去った。決戦の幕は上がり、後は向こうがどう出て来るか。それに全てが掛かっている。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「……プラントホラー、アグロスが死んだ。それに奥村君も、御影も…役員リーダーだった彼も。死ぬというのは悲しい物だ…そうは思わないかい?姫村君。」

 

1人の金髪の生徒が話し掛ける。

その目は紫色、そしてゆっくり彼女へ近寄ると

微笑み掛けた。

 

「…申し訳ございません。思っていたより彼等の進行が早く……!」

 

 

「弥那瀬…ジン。彼が来たのか?いや、彼は僕が殺したんだったね……それで誰なんだい?そんなに手を焼く相手とは。」

 

首を傾げるとアイは彼へ耳打ちする。

すると彼は頷いた。

 

「成程…ジンの娘か……知らない間に女の子が鎧を纏う時代になったのか。安心して良い、僕が代わりに行こう。楽園の夢は終わらせないよ…必ず果たしてみせる……僕達の悲願をね。」

 

彼の名は龍崎真司。冴月の父であるジンを殺し、闇に身を捧げた魔戒騎士である。

そしてまたの名を暗黒騎士アビス。

ホラーによるホラーだけの楽園…それは彼が想像し彼が描こうとしている最悪の理想の世界。

それが現実になるのか否かは未だ解らない。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。