牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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深淵-ABYSS

人は何処から生まれ、何処へ流れて行くのか。

それは誰にも解らないし解る訳が無い。

僕も同じだ。

僕は魔界に産まれ、育ち、剣士となった。

だが僕には1つだけ許せない事があった。

それは女の子が鎧を纏うという事。

元来、魔戒騎士は男しかなれず誰しもがそれに憧れる。だがソウルメタルの加工技術は高い物となり

女性でも扱える様に加工された物

俗に言うアナザー・メタルという物が出回った。

僕はそれが許せなかった。

女は例え法師だろうと足でまといにしかならない。

騎士の誇りを穢す輩は皆殺しにする…あの時そう誓ったのだ。だから僕は闇へ身を捧げた…僕の師であるジンもまた娘が騎士になりたいとそう話したから。彼もまた騎士の誇りを穢そうとする輩の1人だったから。そして今、まさにそれは起ころうとしている。僕の目の前に居る彼女…彼女こそ僕が殺した亡き師であるジンの娘、その子と僕は戦おうとしている……。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「紗那、大丈夫なのか?」

 

 

「万事問題有りません!元気ですよ、ほらこの通り!」

 

普段の服へ着替えた紗那がその場でバク転する。

先程、姫村により負わされた怪我を治してきたのだ。しかも即効性の有る特効薬だった事から傷口も塞がっている。

 

「八千代さんの薬がどれだけ凄いか見て解るよ…それより、此処の生徒は?」

 

 

「全員避難させてます。有紀殿のお父上の力を借りましたので、万事問題有りません!」

 

 

「斗真はもう向かった。よし…乗り込むぞ!」

 

冴月は前に貰ったカードを正面玄関横のゲートへ翳すと途端にコンクリート製の地面が下へ陥没し階段が出来上がる。意を決して2人はその中へ入って進む。カツンカツンと奥へ進む度に空気がひんやりと冷たくなって来る。

 

「…明かりを点けよう。」

 

 

「はい…!」

 

そっと紗那は懐中電灯を取り出す。

これだけは現代的だった。

白い光を頼りに前方へ進むと今度は長い廊下が出て来る。明かりも無ければ人の気配なんて無い。

何せ此処は地下なのだから。

進み続けるとT字路の様な場所へ行き着く。

 

「…左右に別れてる。どうする?」

 

 

「右ですかね…?大丈夫、後方は何も異常は有りません。」

 

 

「なら、右へ行こう。」

 

2人が右へ曲がった時、殺気を感じて冴月は立ち止まる。するといきなり正面から素体ホラーが飛び掛って来た。

 

「やはり…ッ!!」

 

剣を素早く引き抜くと頭部から一刀両断し斬り裂く。するとガラスの割れる音と共に複数体のホラーが姿を現し、天井からもその不気味な目を輝かせてニヤリと笑っている。

 

「ギシャアアアッッーー!!!」

 

 

「来る…ッ!!」

 

数匹が2人へ向け飛び掛って来ると紗那もまた魔戒銃を引き抜いて応戦する。暗闇の中を何発もの光の筋が掠め、ホラーを撃ち抜いては塵へ返して行く。

 

「退けぇえッ!!」

 

冴月が爪による一撃を避け、回し蹴りを叩き込むと剣で刺突しトドメをさす。

だがキリは無い、倒しても倒しても湧いて来る。

 

「このままじゃ…!」

 

 

「キリがない…ッ!!」

 

 

2人は背中合わせで構え合う。そして紗那が数枚の札を取り出し、屈んだ冴月の真後ろから投げ付ける。それがホラー達の前で炸裂し強烈な光を放った。

 

「早く!此方へ!!」

 

 

「解ったッ!!」

 

走って来た道を戻り、左へと引き返す。

追い掛けて来たホラーの前へ壁越しに結界を貼ると行く手を遮った。

そして今度は左へ進み始める。右は恐らくホラーの巣窟なのだろう。つまり向こうの仕掛けた罠。

更に奥へ進むと広間へ出た。

学校の地下には有り得ない広さだった。

 

「此処で何を……?」

 

 

「…恐らく、此処を棄てたのでしょう、屍が転がっています…それに……。」

 

 

「床に有る赤い液体…恐らく雫だな…。」

 

漂うのは死臭と血の匂い、それから薬品独特の鼻を突く刺激臭。すると人の気配を感じて前方へ剣を向ける。

 

「誰か居るのか!?」

 

 

「…ようこそ、我が研究所へ!!」

 

 

現れたのは不気味な嘴の付いた被り物をした何者かで両手には手袋を付けている。

指をコキコキ鳴らしながら此方を見ていた。

 

「貴様…ホラーか?」

 

 

「さぁ?どうでしょう…ねぇッ!!」

 

その瞬間、メスが冴月へ飛んで来るとそれを剣で弾き飛ばす。冴月が身構えると相手を睨み付けた。

 

「…それが貴様の返事か!」

 

 

「えぇ、そうです…そうですともぉおッ!!」

 

 

今度は両手の指の間にメスを握り締め、爪の様に持ち替えると攻撃を繰り出す。

刃と刃が接触する度、火花が散り接戦が繰り広げられる。

 

「冴月殿、此奴は私が引き受けます…早く先へ行って下さい!」

 

 

「でもッ!!」

 

 

「…私の魔戒騎士がこんな雑魚相手に消耗するのは見てられませんからね。それじゃダメですか?」

 

 

「お前、何を…ッ! 」

 

その瞬間、彼女は冴月へ目で合図した。

それは先へ行って本丸を叩けという意味。

彼女が内緒話や雰囲気を察して欲しい時にもこういった合図を昔から良くしていた。

 

「…死ぬなよ。」

 

 

「大丈夫、そう簡単に死ぬ程ヤワでは有りませんから。また会いましょう…必ず!」

 

冴月は頷き、蹴ってから距離を取ると広間の奥へ駆け出し、更に奥へ進んで行った。

 

「良かったのですか?行かせてしまってぇ…!」

 

 

「ええ、大丈夫ですよ…貴様の相手は私だけで済みますから?」

 

ふふっと笑うと冷たい目で紗那は魔戒銃を向ける。

その目は普段見せる物とは違っていた。

コーホーとマスクの下で相手は息を荒げている。

 

「小娘の癖に私をバカに…するなぁあッッ!!」

 

 

「…ッッ!!」

 

相手が飛び掛って来るとメスが振り下ろされ、それを紗那が避けると地面へメスが突き刺さる。

コンクリートがバキバキと砕かれると振り向いた。

 

「我の名はドゥクトー…!偉大にして最強の…ごふぁぁッ!?」

 

 

「…名乗ってもホラーだろう?貴様はぁッ!!」

 

 

言い終わる前に紗那が蹴りを喰らわせ、吹き飛ばすとゴロゴロとドゥクトーが転がって止まる。

それをヒールの付いた足が止めると紗那は魔戒銃を向けた。

 

「やっぱり来たのね…魔戒法師。」

 

 

「姫村…ッ!!」

 

紺色の髪を手で靡かせると赤い瞳が紗那を睨んでいた。紗那もまた左目の青い瞳で睨み付ける。

 

「…我がテリトリーへようこそ…今度こそ殺してあげるわ。我が力を持ってして!!」

 

 

「…それは此方も同じ事…貴様を討滅する!!」

 

アイが紫色の杖を、紗那も左手に魔導筆を持つと銃と共に彼女へと向けた。

2対1という状況でもやるしかない。例えこの身が引き裂かれても。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

冴月は長い廊下を駆け抜け、また1つの部屋へ辿り着く。そこは地下なのに地下という雰囲気は感じられない。天井にはシャンデリア、近くにはテーブルクロスの敷かれた丸いテーブルが幾つか並んでいる。

 

「何だ此処…まるでパーティ会場みたい……。」

 

 

「ようこそ…僕の住処へ…歓迎するよ。」

 

 

「ッ…!?」

 

すると前のステージ横からこの学校の男子の着る制服を着た少年が姿を現す。歳は斗真と同じくらいだろうか?

短い金髪に赤い瞳。それが冴月の方を見ている。

 

「…初めてだよ、此処へ人が来たのは。」

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

「…僕はね、特別な存在だから滅多に人の前に姿を現さないのさ。」

 

 

「特別な…存在?」

 

 

「あぁ…その前に先ずは飲み物でもどうだい?疲れただろう、此処まで走って来て。」

 

すっとグラスを差し出し、指を鳴らすと黄金色の飲み物が中に姿を現した。

 

「アルコールは入っていない…キミでも飲めるよ。ただの炭酸水さ。」

 

 

「…生憎、必要無い。」

 

それを冴月はキッパリと断る。

残念だと呟くと彼が代わりにそれを飲んだ。

 

 

「毒なんて入ってないのに…それとも食事の方が良かったかい?遠慮しなくて良い。肉、魚…食べたい物を言えば何でも作らせるよ。」

 

 

「……要らない。」

 

 

「…ふむ、困ったねぇ。人の新設は素直に受け取る物だと教わらなかったのかい?お父様に。」

 

 

「何ッ…!?」

 

 

「弥那瀬ジン……キミのお父様だろう?そしてキミはその娘だ…。」

 

 

「父さんを知ってるのか!?」

 

冴月は思わず1歩前へ踏み出す。

それを見た彼はニヤリと笑った。

 

「あぁ、知っているとも…僕が彼を殺したのだから。」

 

 

「な…ッ……!?」

 

 

「…最後までキミの事、そして家族の事を心配していたよ。その最後はとても悲劇的だったけどねぇ……?」

 

金髪の青年は更に話を続ける。

 

「…僕は彼の弟子の1人だった。双刃騎士…彼の後に僕が弟子入りしてね。僕は騎士の誇りを誰よりも抱いてた…無論、彼よりもだ。しかし…同時期にある噂が流れ始めた。」

 

 

「噂……?」

 

 

「…女性でも魔戒騎士になれる。そういう噂だよ。」

 

すっとグラスをテーブルへ置くと青年は壇上へ上がると冴月の方をじっと見つめていた。

 

「アナザー・メタル…それが噂の正体だった。でもね…僕は許せなかった。女の魔戒騎士の存在は元来有る騎士の誇りそのものを穢し侮辱する…それが耐え切れなかった。だってそうだろう?鍛錬も無しに剣を握り、鎧を纏い…そして戦いへ身を投じる。そんな事が許されていい訳がない!!」

 

 

「その為に…その為に父さんを殺したのか!?」

 

 

「…彼はそういった存在もまた守りし者の新たなる形だと言って受け入れていた。だから許せなかった…騎士の誇りを軽んじた彼を…!!だから根絶やしにしたんだ、彼と共に生みの者達全てを!!」

 

 

その瞬間、冴月は剣を引き抜いて彼へ斬り掛かっていた。だがその剣は鞘により受け止められる。

黒く蒼い鞘によって。

 

「僕はね、強いんだ。何故なら…あの最強の騎士であるジンを超えたのだから!!」

 

 

「ふざけるなぁあッ!!」

 

振り払われると冴月は睨み付け、剣を構える。

此奴が父親を死に追いやった相手だと知れば尚更。

そして再び斬り掛かった。

 

「お前だけは…お前だけはぁあッッ!!」

 

 

「ははッ!その太刀筋はジン譲りか?それとも我流かい?だが所詮は女…その程度でしか無い!!」

 

 

「お前がッ!お前がぁッ!!父さんを…父さんをぉッ!!許さない…絶対に許すもんかぁあッ!!」

 

 

荒々しく打ち込まれる一撃は普段の冴月とは比べ物に成らない位に荒々しく重い。

当の父親の仇である青年は涼しい顔をしてその剣を防いでは受け流す。そして振り払うと距離を取った。

 

「強いね…流石、僕達の仲間を大勢斬って来ただけの事は有る。キミの剣はアナザーじゃない…本物のソウルメタル…それもジンの剣、その刻印を見れば解る……!」

 

 

「だぁああ…ッッ!!」

 

冴月は再び斬り掛かると今度は体術も合わせて青年を追い込もうとする。だが彼女が放った蹴りは鞘で止められ、弾かれてしまった。そこへ鞘の先端を利用した突きが冴月の腹部へ命中する。

 

「うぐぅッ!?」

 

 

「キミの…動きは見切ったよ…ッ!!」

 

突き飛ばすと脇腹を思い切り鞘で殴られ、錐揉み状に宙を舞うと背中からテーブルへ叩き付けられてしまう。背中に激痛が走り、息が出来なくなる。

 

「がッ……はぁッッ…!?」

 

 

「今度は僕の番だ…ッ!!」

 

すると青年は冴月目掛け飛び掛って来る。

それを咄嗟に冴月が避け、離れで起き上がったのを確認し自身も剣を引き抜くと冴月へ斬り掛かって来た。互いにそこから何度も刃を交錯させ競り合いを続けていく。

 

[冴月、少しは冷静になりなさい!太刀筋がブレてる!]

 

 

「解ってるよ…くッッ!!」

 

 

「魔導輪カガリ…コレもジンが持っていた!!」

 

 

突き放されると今度は飛び上がって勢い任せに頭上から攻撃を放って来る。冴月はそれを咄嗟に避け、身体を反転し捻ると横一線に斬り裂く。だがこれも防がれてしまった。そしてまた刃を交錯させ、互いの蹴りがぶつかり、一撃と一撃がぶつかっていく。

 

「…強いんだね、女の癖に。」

 

 

「お前のその言い方、一々癪に障る…!!」

 

 

「見下して悪いかい?女の子は女の子らしくしていれば良いんだ…武器も持たず、戦わず!!ただ黙って言う事を聞いてさえいればッッ!! 」

 

 

「それは貴様のエゴだ!!貴様の考えを…貴様の望むモノを他人へ押し付けるなッ!!」

 

 

「キミもそうだ…何故騎士なんかになった!?何故ジンの背中を追った!?答えろ…騎士の恥晒しめ!!」

 

 

「そういう貴様こそ騎士の誇りに、使命に、強さに取り憑かれて可笑しくなってるんじゃないのか!?」

 

 

「黙れ!!小娘風情が…僕に意見するなぁあッ!!」

 

冴月の顔面を彼の剣先が横一線へスレスレで掠める。彼女は飛び退くと息を整えて構えていた。

目の前に居る彼は今まで戦って来たどの相手よりも間違いなく強いかそれ以上。

たらりと彼女の頬を一筋の汗が流れた。

そして見合ったままお互い横へ移動すると一定の位置で立ち止まり、再び駆け出した。

 

「うぉおおおおッッーー!!!」

 

 

「はぁああああッッーー!!!」

 

 

地面を蹴って互いに飛ぶと空中で刃が交錯する。

冴月の右腕を彼の刃が掠め、彼の身体に冴月の刃が届く事は無かった。

 

「ちッ…!!」

 

ポタポタと赤い血が冴月の腕から流れ落ちる。

実力の差というのを身を持って知らされている気分だった。

 

「終わりにしよう…格の違いを貴様に見せてやる。我が名は真司…又の名を…暗黒騎士アビス!!」

 

真司は頭上で剣を用いて円を描くと青黒い鎧を身に纏った。まるで蒼牙と似た様な姿をした鎧を。

元の彼の目と同じ赤色、それが冴月を睨んでいた。

 

 

「…くッ!!」

 

冴月も同じく前方へ円を描くと普段と同じ様に鎧を召喚しようと試みる。だが発動しなかった。

 

 

「嘘ッ…!?鎧が召喚出来ない!?」

 

 

「此処は騎士封じの間…又の名を処刑場。鎧を纏えるのは僕だけなんだよ…ッ!!」

 

変貌した魔戒剣による一撃が冴月へ襲い掛かる。

鋭い一撃を防いだがタイル張りの地面が大きく凹んだ。

 

「ぐッ…!?うぅッッ…!!」

 

 

「はははッ!!どうした?さっき迄の威勢は?」

 

 

「貴様ぁ……ッッ!!」

 

 

「多くの若い騎士が此処で死んだよ…キミと同じ才の有る者、そして将来を約束された者、仲間と共に此処へ踏み込んだ者…全員返り討ちさ。」

 

アビスは冴月を正面から蹴り飛ばした。

冴月の身体が吹っ飛んで壁に激突し、崩れ落ちてしまった。

 

「くぅ…ッ!!」

 

 

「そこを動くなよ…串刺しにしてやる!!」

 

アビスの剣が三本の刃が付いた刺叉上に変化すると

それを握り締めて一直線に走り出した。

このままでは間違い無く串刺しにされてしまう。

こうなったら懸けるしかない。

 

「ッッ…!!」

 

無理に身体を起こし、立ち上がると刃が到達する寸前に飛び上がって空中で宙返りしそこから身体を反転させると首を狙って一撃を加える。

だが傷が付いた位で何も無い。

壁には彼の繰り出した刺叉が突き刺さっていた。

 

「ちッ…だがその身体では満足に動けないだろう?」

 

 

「五月蝿い…ッ!」

 

 

「手負いの狼…それを仕留めるのも悪くない。」

 

 

「黙れ……ッ!!」

 

 

「四肢をバラバラに斬り裂いて…ホラーに喰わせてやる…キミの身体を弄んでからね…ッッ!!」

 

 

「黙れぇえッッ!!」

 

再びアビスが冴月へ牙を剥く。

幾ら騎士と言えど鎧を纏えなければ唯の人間。

その差は歴然。

それも冴月は16際の少女、力の差も歴然だった。

刺叉による突きが彼女を襲うと避け続けるも1発が彼女の右頬を掠め、そして彼の繰り出した薙ぎ払いが冴月の脇腹へ命中し再び吹き飛ばされる。

その戦いぶりは弱者を徹底的に甚振る様にも見えた。

 

「ッッ…げほッ、げほッッ…!」

 

吹き飛ばされ、壁に激突した冴月は途端に咳き込んで何かを床へ吐き出す。それは自分の血だった。

身体が悲鳴を上げているのは明白、口の中に鉄の味が拡がっていくのが解る。

 

[冴月…大丈夫?]

 

 

「…肋骨やられたかも…けど未だ…負ける訳には…ッ!!」

 

 

「未だ立ち上がるか…凄いね、キミは。大抵…今の一撃で死んでるよ?なら次で本当に最後だ…!!」

 

 

「来る……ッ!!」

 

アビスが刺叉を構え、突撃する。

それを冴月は左手に握った剣の鞘を噛ませて威力を抑え込む。

 

「未だそんな手を…ッ!!」

 

 

「うぉおおッッーー!!」

 

剣を逆手に握り締めるとアビスの脇腹へそれを突き刺した。突き破る音と共に鎧へ亀裂が入ると彼は冴月を左手で薙ぎ払い、吹き飛ばした。

 

「よくも…僕の鎧に傷を…!!」

 

 

「一矢…報いた……ッ!」

 

冴月はボロボロになりながらも彼の方を見てニヤリと笑った。乱れた前髪からは左側の金色の瞳が覗く。そして再び立ち上がり、髪を手で掻き分けた。

だが鎧に空けた穴は直ぐに塞がってしまう。

直そうと思えば破損箇所は持ち主の魔力を用いて念じる事により直せてしまうのだ。

 

「くッッ…!!」

 

 

「さぁ…フィナーレだ…!!」

 

冴月へ向けられた刺叉は怪しく刃先が輝いていた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

2人が乗り込んだ後、別の箇所でも譲れない戦いが巻き起ころうとしていた。

 

「……やはり来たか、斗真。」

 

 

「修司…!」

 

鷹森修司、そして斗真。

2人はお互い向き合うと立ち止まっていた。

 

「…共に剣を取り、共に同じ師の元で学び…」

 

 

「共に守りし者となった…筈だった。」

 

 

「…そうは成らなかった。私は力に溺れた…あの日アビスに敗れ、死の淵に居た時…彼から諭されたのだ。守りし者が命を懸けて守ろうとしている人間は本当に守るべき価値が有るのか?と。」

 

 

「……だから闇に堕ちたのか?お前はそんなヤツじゃ無かっただろう!?何があった…何がお前を変えたんだ!!」

 

 

「師が敗れた後…私は1つの考えに行き着いた。人間の欲望は計り知れない…満たされてもまた次の欲望が乾いて飢える。その度、そこへホラーに付け込まれて新たな敵として我々の前に立ちはだかる。その繰り返しだ……これ以上虚しい物が有るか?斗真。」

 

 

「それでも…それでも刃を振るい続けるしか無い!!誰かの明日を…希望を守るのが俺達騎士の役目…違うか?」

 

 

「何処までも真っ直ぐなお前には解らんだろうさ…私の気持ち等、1つもな!!」

 

途端に修司は自身の右側へ剣を翳し、素早く鎧を纏う。

 

 

「さぁ…鎧を纏え!そして俺と戦え、斗真ッ!!」

 

 

「……最後にこれだけ聞かせろ。」

 

 

斗真はレイドを睨み付ける。

 

「…何だ?」

 

 

「…掟を破り、人を斬ったんじゃないのか?」

 

 

「あぁ…斬ったさ……私に意見する輩共をな!」

 

 

「そうか…それだけ聞ければ充分だ。なら、俺も覚悟を決めるか…。」

 

斗真は左右の鞘から短剣を引き抜いて両手を広げる様に構えた。

 

「俺はお前を斬る…お前はもう…俺の知る修司じゃない…ッッ!!」

 

そして円を描くと銀色の鎧をその身に纏う。

双刃騎士零牙、その鋭く輝く青い目が目の前の紫色の騎士を睨んでいた。

 

「嬉しいよ…斗真……こうして雌雄を決する事が出来るのは…!!」

 

 

「ジンさんの教えを…覚悟を…そして彼の威厳を踏み躙った貴様を俺は絶対許さない…ッ!!」

 

零牙は走り出すとレイドへ立ち向かう。

そして目の前で互いの刃がぶつかり合った。

 

「師の教えだと?…ふざけるなッ!!私達守りし者は何故常に人間の下なのだ?何故見下される!何故!!何故だ!!優れた力を使えば容易く上に立てるモノを…!!」

 

 

「違う!力を闇雲に振り翳せばそれは唯の力でしかない!!この力は人間を殺める為の力でも…人間を支配する為の力でもない!!それすら忘れたのか!?」

 

 

「黙れッ!!力こそ…絶対的なる力こそ全てなのだ!!その為なら自らの使命すら捨てる事さえ構わん!!」

 

 

「修司…ッ、このバカ野郎が!!」

 

零牙を突き放すとレイドが彼を攻め立てる。何度も何度も斬り掛かり、彼が逃げれば剣先を横一線へ振って衝撃波を放つ。それが柱の1つへ命中し軽々と斬り裂いてしまった。

 

「ッ…うぉおおおッッ!!」

 

零牙は空中から降ってきたその柱を足場にし、軽々と飛び越えてレイドへ迫る。そこから勢いを利用して身体を回転させると突っ込んで行った。

 

 

「修司ぃいいッッ!!」

 

 

「来い…斗真ぁああッッ!!」

 

 

凄まじい音と共にレイドは零牙の双剣を受け止め、鍔迫り合いへ持ち込む。それを弾き返し、零牙が着地すると再び睨み合いへと発展した。

実の姉を討った冴月も同じ心情だったのかもしれない。目の前に居るのは同じ道を進んだ仲間であり同士。だからこそ、尚の事、油断は出来ない。

手加減すれば殺されるのは自分なのだから。

 

「無鉄砲に突っ込むのは相変わらずだな…ッ!」

 

 

「お前だって似た様なモノだろう…違うか!?」

 

 

「私はずっと望んでいたのだ…お前とこうして刃を交わす事を!!その為に私は強くなったのだ…喰らえッッ!!」

 

剣を天へ翳すと左右に黒い分身が出現し、左右から零牙へ襲い掛かる。

 

[気を付けろ、質量を持った分身だ!!]

 

 

「解ってるよ…ぐッ!?早い…!!」

 

黒い影が正面、真後ろから攻め立てて来た。

攻撃が当たると振り払って受け流す。

目の前のレイドは刃先を向けて構えている、どうやらトドメを刺すつもりらしい。

 

「掛かった…!死ね、斗真ぁッッ!!」

 

 

正面、後ろの左右から三角を作る形になると零牙を取り囲む。そして一斉に襲い掛かって来た。

 

「やられて…たまるかよッ!!」

 

斗真は手立てを考えていた。

左右に握った剣を構えて。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「小娘ぇ!!逃がさん!逃がさんぞぉおッ!!」

 

 

「誰が逃げるか…ッ!!」

 

冴月が去ってからドゥクトーと紗那は攻防戦を繰り広げていた。

メスを避けて発砲し、それがドゥクトーの肩や足を射抜いていく。

 

「ふふ…私を忘れて貰っちゃ困るわよ?」

 

ドゥクトーの真後ろから紫色の雷撃が飛んで来るとそれが紗那とドゥクトーの合間を掠める。

姫村アイ…彼女もまた紗那の敵として立ちはだかった。

 

「2対1…ッ!」

 

空気を切り裂く音と共にメスが振り翳される。

咄嗟に飛び退いたが、そこへ雷撃が命中し紗那は倒れてしまう。

 

「ぐはぁッッ!?」

 

 

「て、手こずらせやがって…!このまま…貴様を喰ってやる…ッッーーー!!」

 

涎を垂らしながら紗那へ飛び掛って来た。

すると紗那はパチンとブーツの踵のベルトを外し、ドゥクトーの首元を蹴り上げた。その首には深々と刃物が突き刺さっている。

 

「ぐへぇええッッ!?き、貴様ぁ…ッ!?」

 

 

「…奥の手は最後まで取って置く物。そうだろう?」

 

そして左足を添えるとそのまま蹴飛ばし、同時にドゥクトーが消滅する。起き上がると紗那はアイを見据えていた。

 

「やるじゃない…?」

 

 

「お前に褒められても嬉しくない…。」

 

 

「あらそう…可愛くない小娘ね?」

 

 

「その言葉、お前に返してやる。」

 

 

「ふふ…殺してやるわ、誰かも解らない位にバラバラに引き裂いて!!」

 

 

「すぅ…はぁ…なら私も貴様を此処で倒す。塵に返してやる!!」

 

紗那は普段隠している右目の方の髪をピンで止める。

左目は青、そして隠れている方の目は黄色。

つまりオッドアイという事になる。

 

「へぇ…?変わった目をしているのね。」

 

 

「……コレが本当の私、そして私自身。」

 

右手に魔戒銃と左手に魔導筆をそれぞれ拾って持つと向き合った。

対するべき相手を睨み付けて。

 

「さぁ始めましょう…?」

 

 

「…凛麗、必ずやり遂げよう。アイツをお前の弾で仕留めるんだ…必ず!」

 

 

残弾を確認し、新たに弾をそこへ込める。

そしてシリンダーを回転させて元へ戻すとクルクル指先で回してみせた。

右足踵に備わった隠し刃はそのままにお互いゆっくりと見据えながら横へ歩き出す。

そして地面を踏み締めると紗那が先に仕掛けた。

魔戒銃を撃ちながらアイへ肉薄する。

アイは弾を避け、杖を振り翳すと雷撃を放った。

だが紗那もそれを身を躱して避ける。

先程の動きとは全く異なっていた。

 

「ふふ…流石は優秀な魔戒法師…!!でもコレは躱せる?」

 

 

トンっと地面を杖で突くと彼女の周囲に光の槍が展開され、それが紗那目掛けて全て飛んで来た。

 

「…ッ!!」

 

紗那は飛んで来る前に赤い札を右手の指先で1枚ポケットから取り出し、それを空中へ放る。それを魔導筆で横になぞるとそれが刀へと姿を変えた。

魔導筆を口へ咥えるとその刀を握り締め、槍を鮮やかに舞いながら叩き壊していく。

着地し走り出すと今度は飛び上がって回転し、右足を蹴りの要領で彼女へ振り翳した。

杖と刃が接触し火花が散る。

 

「あらぁ残念…ッ!!」

 

 

「…ふふッ!!」

 

すると紗那は左手へ持ち替えた魔戒銃を彼女へ向けてニヤリと笑うと、何度も引き金を引いて弾を乱射した。

鈍い音と共に彼女の腹部へ穴が空いていく。

 

「あぅうッ!?このッ…小娘がぁッ!!」

 

紗那を杖で薙ぎ払うと彼女は離れた位置へ着地した。アイの腹部からはボタボタと赤い血が滴り落ちる。

 

 

「ふざけるんじゃないわよ…ッ!こんな…ッ、高々玩具みたいな銃如きに…!!」

 

紗那は刀を置き、魔導筆を口から取るとアイを見つめていた。

 

「次でお前を仕留める…覚悟しろッ!!」

 

 

「嘗めるなぁあッッ!! 」

 

杖を放り投げるとアイは本来の姿へと変貌する。

まるでマネキンの様な球体関節人形を思わせる様な歪な身体。左目を紺色の髪で隠した気味の悪い顔付きに。

 

「なッ…貴様…ホラーだったのか!?」

 

 

「これが…私の姿…!殺してやるわ…この姿を見られたからには……ッ!!」

 

 

気味が悪い事に動く度にギチギチと音が鳴る。

名はドゥローズ、彼女は踊る様に紗那へ襲い掛かって来た。

 

「そらそらそらぁあッ!!」

 

 

「ちぃ…ッ!」

 

繰り出される突きを避けつつ、紗那は刀の柄を踏んで宙へ飛ばすとそれを右手で掴んで応戦し始める。

何度もアイの振り翳す手刀が刀へぶつかり合う。

次第に紗那は追い込まれ後退して行く。

そして遂に刀が弾き飛ばされ、宙を舞った。

 

「ッ…しまった!?」

 

 

「貰ったぁあッ!!」

 

手刀が紗那の左肩へ命中すると突き刺さり、血が噴き出す。

 

「ぐぅううッ!?ッ…!!」

 

 

「させると…思って?」

 

魔戒銃を向けようとした時、片手を捕まれると

ドゥローズの指先が紗那の人差し指を押し込むとあらぬ方向に弾が幾度も発砲されてしまい

弾が切れる。途端に右手で首を捕まれ、投げ飛ばされてしまうと柱へ叩き付けられてしまった。

後頭部を打ったせいか頭が痛む。何とか意識を保つと小型のポーチ内にある弾薬を確認する。

 

「ッ…弾が…残り僅かしか……!」

 

 

「そういえば…貴女、法師なのに何故術を使わないの?先程から見ているのは短絡的でしかも初歩的な術ばかり……。」

 

 

「…ッ!」

 

 

「ふふッ…もしかして…使えないのかしら?優秀なのは武器の扱いだけ、それ以外は唯の能無し…あっはははは!!コレは傑作だわ!!その歳で術を真面に扱えないなんてねぇ?面白くて笑っちゃうわ…!」

 

 

「……。」

 

 

「図星みたいね?悔しい?悔しいなら術の1つや2つ…ッ!?」

 

その瞬間、ドゥローズの右頬を黄色い閃光が掠めた。何事かと思い向き直ると彼女の手には魔導筆が握られている。

 

「術が使えないんじゃない…術を使わないだけ…。この銃に使う弾には対ホラー用の火薬が入っている。それに、私が使うのは…ッッ!!」

 

紗那が魔導筆で空中に何かを記す。

すると彼女の左右に2人ずつ、5人の紗那が姿を現した。

 

「まさか…貴様ッ…!?」

 

 

「幻術…!我が師から継いだ秘技、胡蝶乱舞……存分に味わえッ!!」

 

本人が魔導筆を持つと右の2人が魔戒銃とクロスボウを、左の2人が射糸壱号と御札をそれぞれ握る。

ピッと筆を向けると4人が襲い掛かった。

魔戒銃による攻撃を防いだと思えば、クロスボウによる連撃が命中し、体制を立て直そうとすれば糸で身動きを封じられ、札を貼り付けられて直にダメージを負わせられる。

 

「おのれ…ッッ、小娘のッ…ぐぁッ!?分際でッ…!!」

 

魔戒銃を持っていた分身を掻き消し、今度は札を持った分身へ手刀を突き刺して掻き消した。

ブーツに内蔵された刃物を用いて蹴りを放ってきた分身の足首を掴んで顔を殴り付けて何とか掻き消す。しかしクロスボウを持っていた分身だけは見失ってしまった。

 

「何処だ…ッッ!何処に居る…出て来て私と戦えッ!!」

 

 

「……此処だッ!!」

 

 

目の前に突然現れた紗那が刀でアイの胸を刺し貫いた。

 

「成程…幻術使いか…ふふッッ…!」

 

 

「…これが私の力、これが私の使う術…ッ!」

 

 

「確かに見せて貰ったわ…貴女の…力……。」

 

刀を引き抜かれ、ドサリとアイは倒れる。

紗那は刀を消すと彼女を背に歩き始めた

後は冴月と合流するだけ…だが未だ終わった訳では無かった。

 

「…ッ!?」

 

紗那が殺気を感じて振り返るとアイの姿が無い。

途端に頭上から鋭い蹴りが飛んで来ると紗那は身を躱し左へ飛び退いた。

 

「馬鹿な!?致命傷を与えた筈なのに…!」

 

 

「私は雫の力を得たホラー…そう簡単に死にはしないッッ!!」

 

右手を向けるとドゥローズはバラの棘を乱射し紗那へ攻撃する。彼女は魔導筆を利用し障壁を作るが1発防ぎ切れず、左肩に棘が突き刺さってしまう。

 

「いッッ!?くそッ…!!」

 

 

「まだまだ遊びましょう?ほらほらほらほらぁッ!!」

 

ドゥローズが柱を蹴って飛び掛ると何度も紗那と交戦を繰り広げる。そして障壁を貫通させると紗那の持つ筆を掴み、へし折った。

 

「なッ…!?」

 

 

「私の勝ちね…今度こそッ!!」

 

彼女の手首を掴み上げ、殴る、蹴るといった暴行を加えると思い切り蹴飛ばす。その際に落下した魔戒銃をドゥローズが拾い、追い打ちを掛ける様に紗那の左足を撃ち抜いた。乾いた音と共に血が彼女の足から噴き出し、その場に蹲ってしまう。

 

「あぐぅッ!?あッ…くぅッッ…!」

 

 

「愛銃で射抜かれる気分はどう?…これで形勢逆転、貴女は此処で死ぬの。無様に頭を撃ち抜かれて。」

 

ドゥローズが近寄り、紗那との距離を詰める。

彼女は撃たれた足を引き摺りながら背を向けて少しでも逃げようとしていた。今の紗那は手負いの獣と何ら変わらない。

 

「終わりよ…魔戒法師ッ!!」

 

 

「いいや…終わるのは…貴様だッッ!!」

 

突如、紗那はガトリング砲を何処からとも無く呼び出すとそれをドゥローズへ向ける。ドゥローズも応戦しようとするが銃が手から無くなっていた。

 

「いつから…ッ!…銃が消えた!?」

 

 

「ふふ…一か八かだった…お前は勝ち誇ると油断する…だからそれを誘った…ッ!!」

 

 

「まさか…その為に…わざと撃たれたの!?」

 

 

「……多少の怪我は想定内…ッ!」

 

 

そして紗那は引き金を引くとガトリング砲を発砲した。轟音と共にバラバラと薬莢が散らばると何発もの閃光がドゥローズの身体を射抜いていく。

 

「あぁあッッーー!!?こんなッ…こんなの…認める…訳…無いじゃない…ッッ!!」

 

 

「肉片1つも残さずこのまま消し飛べぇええッッ!!」

 

電光石火の如く弾がドゥローズを貫くと

塵となって消えてしまった。バラバラと床へ空の薬莢が撒き散らされた後にガトリングの砲身が止まる。

 

「はぁ…はぁ…勝ちました……ッ! 」

 

崩れ落ちると紗那は倒れてしまった。

額の汗を拭うと天井を見つめ、目を閉じた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

紗那がアイを倒したその頃。

零牙、そしてレイドの死闘も続いていた。

 

「逃さんッ…!!」

 

三方から分身したレイドが襲い掛かると零牙は天井目掛けて自身の刃を投げ付けて突き刺すと飛び上がる。そして空中へ飛ぶとそれを引き抜いて身体を回転させつつレイドへ突進して来た。

 

「同じ手を何度も喰らうか!来いッ、ベイル!!」

 

レイドが叫ぶと真横から魔導馬が出現する。

黒い身体に青白い炎を上げた馬が。

そしてそれへ跨ると零牙の一撃を後ろ足で蹴り飛ばし相殺した。吹き飛ばされ、零牙は壁に勢い良く叩きつけられてしまう。

 

「ぐはぁあッ!?くそ…ッ!!」

 

 

「終わらせてやるぞ…今度こそッッ!」

 

ベイルが咆哮し、零牙へ突っ込んで来る。

いつの間にか剣は巨大な斬馬刀へ変化し、それを振り翳し斬り掛かる。

 

「ちぃッ…!!」

 

零牙は左右の剣を握り締め、考えていた。

恐らくこれで全てが決まる。自分が勝つか…相手が勝つか…。

 

「……死ねぇええッ!!」

 

 

「死ねるかってんだぁあッ!!」

 

横一線に振り翳して来た斬馬刀をスレスレで避けると剣を投げ付け、レイドの胸へ突き刺した。

 

「何…ッ!?」

 

 

「だぁりゃあああッッッ!!」

 

 

力任せにワイヤーを引き戻すと魔導馬から引き摺り降ろし、地面へ叩き付けた。

 

「はぁッ…はぁッッ…!」

 

 

「まだだ…まだ…俺は戦えるッッ…!!」

 

 

「止めとけよ…!」

 

 

「まだ…俺は…ッ!!」

 

 

「お前の…負けだッ…!!」

 

レイドが零牙の後方から襲い掛かる寸前、彼の背中へ剣が突き刺さった。実はもう片方の剣を投擲していたのだ。

 

「ぐはぁあッ…!?」

 

 

「修司…ッ!?修司ッ!!」

 

鎧を解くと斗真は振り返る。

そこには鎧が解けた修司が居た。

制服を血塗れにした彼は膝を着いて座り込む。

斗真が駆け寄ると彼を支えた。

 

「ッ…お前の…勝ちだ…斗真ッ…!」

 

 

「あぁ……そうだな…。」

 

 

「闇に堕ちた…本当の訳は……我らが師の…ジンの仇を…討つ為…ッ!」

 

 

「何!?それじゃ…お前は…!?」

 

 

「だが…人間に危害を加えた事に…変わりは無い…アビスに挑み…敗れ…そして…彼の言葉に…踊らされるがまま…俺は人を斬った…女の魔戒騎士…それ等を根絶やしにする為に…!」

 

 

「……!アナザーメタルの適合者達か…!」

 

 

「斗真…終わらせて…くれ…!この…馬鹿げた…計画を…ッ!」

 

 

「適合者は…全員死んだのか?…答えろ!」

 

 

「1人…逃げ出した……俺が…逃したのだ…だが、あの時の…顔は恐ろしい物だった…私の事を…恨み…いつか復讐しに…ぐふッ!?」

 

 

「修司ッッ!?」

 

修司は吐血する。

斗真が彼の手を握り締めて呼び掛けていた。

 

「斗真…俺の…剣を…鎧を…ッ!」

 

 

「……あぁ、必ず探すさ。だから…安心して眠れ…親友…。」

 

そう呟くと修司はホラーと同じく塵となり消滅した。彼の握っていた剣も同じ様に。

 

[辛い別れになったな…斗真。アナザーメタル、ソウルメタルとは別に生み出された軽量の金属。精神力を必要としないが血の滲む様な努力が無ければマトモには戦えない。あのお嬢ちゃんの鎧もアナザーだったか?]

 

 

「冴月のはジンさんのをそのまま使っている…アナザーだったのは冴月が舞衣と戦った日。あの時のアイツの鎧がそうだった。」

 

 

[それでお嬢ちゃんをお前さんが鍛え、暁の間に放り込んで本物のソウルメタルの鎧へと形質変換させた……という事か。]

 

 

「あぁ…鎧には魂が宿るという昔の言い伝えを利用した迄さ。彼処には歴代の蒼牙を纏った先人達が居る場所…ある意味では洗礼の場なんだよ。行こう、冴月が心配だ。」

 

斗真は走り出すと冴月の元へと向かうのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「鎧が纏えないキミは唯の女の子でしかない…それを自覚しろッッ!!」

 

 

「ぐぁあッッ!!?」

 

 

蹴り飛ばされ、冴月が吹っ飛ぶ。

何度壁や床に叩き付けられたかは解らない。

それでも冴月は立ち上がって剣を向ける。

 

「未だやる気かい?凄いね…勝算など何処にも無いのに……!!」

 

 

「当然…ッ、骨の1本や2本…くれてやるッ!!」

 

 

「何処までも僕をバカにする気か…キミはぁッッ!!」

 

 

アビスが接近し再び冴月と鍔迫り合いを繰り広げる。相手は鎧を纏っているが此方は生身。

不利なのは依然として変わらない。

それでもやるしかない…自分が諦めた時が本当の負けなのだから。

 

「いい加減…ッッ!!」

 

 

「くぅ…ッ、だぁあッッ!!」

 

 

剣を振り上げ、引き離すと冴月は思い切りアビスを正面から蹴飛ばして突き放す。そして距離を詰めて何度も激しく責め立てる。

 

「何処にそんな力が…ッ!?」

 

 

「さぁ…どうしてだろうな…ッ!!」

 

 

「ちぃ…ッ、調子に乗るなッ!!」

 

 

冴月から剣を無理に弾き飛ばすと彼女の腹を何度も殴り付け、髪を掴むと放り投げた。

冴月は破損したテーブルにぶつかると肩に木片が突き刺さって思わず悲鳴を上げた。

 

「はははッ、その声が聞きたかった…!!さぁもっと聞かせてくれ!!」

 

アビスがゆっくりと歩み寄る。

冴月の意識は遠のきそうになっていた。

 

「ッ…もう…充分……戦ったッ…!これ…以上は…ッッ…。」

 

すると彼女の前に舞衣が立っていた。

アビスでは無い。あの時、斬った姉である舞衣が。

冴月を見下ろす様にじっと見つめながら。

 

(此処で諦めるのか?父さんの様に成りたかったんじゃ無いのか?)

 

 

「もう…良いよ……私は…私には…無理だったんだ…剣を…振り回しても…言葉遣いを…変えても…ッ!私は…女の子なんだよ……。」

 

 

(…一度決めたら曲げない。最後までやり通す。もし折れそうになったら己に問え。そう父さんは私にも教えてくれた。鎧を継いだ冴月を初めて見た時は嬉しかった…無理だと諦めろと言って突き放した私の理想を大きく超えたのだから。)

 

 

「お姉…ちゃん……。」

 

 

(守りし者が倒れたら…それは敗北を意味する。痛いのも苦しいのも辛いのも解る…だが、決して諦めるな。弱虫だった冴月が此処まで強くなったのは冴月自身の努力もある…だが一番は心だ。)

 

 

「心……?」

 

 

(何故、戦うのか…何故、剣を振るうのか…その意味を一番良く知っているのはお前だ、冴月。私は片時もお前の傍を離れない…見守っている、ずっと。)

 

声が消えると冴月は目を開く。

そして剣を持たずによろよろと立ち上がった

 

「未だ立ち上がるのか?」

 

 

「……鎧を纏って戦う事だけが騎士の全てなんかじゃない。」

 

 

「何?ふッ、鎧こそが騎士の全て。鎧を纏っている者が強いんだよ…知らないのかい?」

 

 

「騎士は…本当の意味の騎士は…ッッ!!」

 

 

「戯れ言は聞き飽きたよ…消えてしまえッ!!」

 

 

「誰かの命を…誰かの明日を…明日に繋げる為に…戦う者の事だぁあッッーー!! 」

 

前方から繰り出された刺叉の刺突を避けると冴月は彼の後方へ飛び上がり、地面へ降り立つと剣を拾う。そして立ち上がると鎧を纏うべく前方へ突き出した。

 

 

「馬鹿な奴だ、この空間で鎧の召喚など出来る訳が無い!!」

 

 

「…カガリ。アレを使う。」

 

 

[その時が来たのね…冴月、いつも通り鎧の召喚をしたら私を外して投げて頂戴。殆ど賭けだけどね。]

 

 

「ごめんね…未熟な騎士で。」

 

 

[未熟じゃないわ。冴月…貴女はもう立派な騎士、ジンの背中を追い掛ける1人の魔戒騎士…。それと、お風呂上がったら髪はちゃんと乾かすのよ?それと竜弘の坊や達と仲良くね。紗那や斗真、八千代ともずっと仲良くするのよ?]

 

 

「……解ってるよ。さぁ、行くぞッッ!!」

 

 

冴月はカガリを外し、左手に握り締める。そして円を描くとその中へ放り投げた。するとアビスが走り出しそれを止めようとする。

 

「させるかぁあッッ!!」

 

 

「ッッ……!!」

 

 

冴月がその円へ剣を突き刺すと砕け散った白い破片と共に蒼い騎士が姿を現す。そしてアビスの刺叉を防いで止めた。そして突き飛ばし見据える。

 

「なッ…鎧を…纏っただと!?」

 

 

「…我が名は蒼牙…幻創騎士……蒼牙ッッ!!暗黒騎士アビス…貴様を…斬る!!」

 

蒼牙はそう名乗ると赤い瞳を輝かせ、構えを取る。

左手を前へ突き出し、その横に右手で握り締めた剣を翳す。

 

「あの時と同じだ…だが、また掻き消してやる…蒼い光などッッ!!」

 

 

アビスは刺叉から剣へ切り替えると蒼牙へ襲い掛かる。そして蒼牙も走り出すと再び目の前でぶつかり合った。

 

「カガリのくれた力…、無駄にはしない!!」

 

 

「小賢しい真似をッッ!!」

 

ギリギリも火花を散らしながら互いの刃がぶつかる。そしてアビスが突き放すと蒼牙へ向けて左手から光弾を放って来た。

 

「この程度…ッ!!」

 

蒼牙は走り出すと光弾を全て斬り裂いて尚も突撃する。一方のアビスは距離を詰められると身構えていた。

 

「ちぃッッ…!あんなにボロボロだったのに…何処にそんな力が!?」

 

 

「終わりだぁあッッーー!!!」

 

蒼牙は擦れ違う様にアビスの腹部を横一線に斬り裂いた。そして背中合わせの様に立ち止まる。

 

「ぐはぁあッ!?こ、この…僕が…やられる……!?こんな…こんな小娘如きに……!?」

 

アビスが膝から崩れ落ちる。鎧の口部分から吐血し、それが牙を伝って流れる様はまさに獣そのもの。

 

 

「僕は…最強なんだ…僕は…僕はぁあッッ!!」

 

 

「何!?」

 

咄嗟に振り向くとアビスの鎧が更に形を変えるのが解った。蒼牙は距離を取るとそれを見つめる。

変化が終わると此方を睨む様に見つめていた。

まるでその姿は異様で完全に黒くなっている上に瞳も赤色の光を煌々と輝かせていた。

 

「これが…アビスの本当の力。思い知るが良い!!」

 

 

「なッ…消えた!?ぐぁッッ!?」

 

 

途端に上へ突き上げられると天井へ激突し穴が空く。落下したかと思えば腹部へ鋭い痛みが走る。鎧を着ていてもダメージは計り知れない。

 

「が…ッッーー!!?」

 

 

「ははッ…どうした?さっき迄の威勢は!!」

 

そのまま間合いを一気に詰めて蒼牙の頭を掴むと壁へ擦り付ける様にすると投げ付ける。

地面へゴロゴロと蒼牙がキリモミ上に回転し倒れた。

 

「さぁ…最後の時だ…ッ!!」

 

 

蒼牙のマフラーを掴むと天井に空いた穴から上へ放り投げると教室の床を全て突き破って学校の屋上へと出る。そして蒼牙を投げ飛ばすと自身も着地した。外は暗雲が立ち込め、雷と共に雨が降っていた。

 

「キミの様な何処にでも居る騎士が僕に勝てる訳が無い…父娘共々、葬ってやる!!」

 

剣を大剣へ切り替えると蒼牙へ襲い掛かる。

そして振り翳すが蒼牙はそれを咄嗟に防いだ。

 

「まだだ…まだ死ねるか…ッ!!」

 

 

「減らず口を…騎士の恥晒しがぁッ!!」

 

無理やり振り払うと蒼牙の顔面を殴り付ける。

メキメキという音と共に殴られた箇所が砕け、冴月の右目と長い髪の一部が外へ出てしまう。

 

「ッッ…!!」

 

 

「今度こそこれで最後だ…散々苦しめてくれたお礼をたっぷりしてあげよう。僕の全身全霊を持って…!」

 

冴月は何とかアビスを見据える。顔の半分は蒼牙、もう半分は冴月自身の顔。

左目は鎧の赤い瞳、右目は黄色い彼女の目。

今彼女を突き動かしているのはこの学校に居る全員を自らの命を懸けて守るという騎士としての使命……それだけだ。

 

いよいよ最後の死闘が幕を開けた。

蒼い狼は深淵という名を持つ強敵との死闘へと身を捧げるのであった。

 

 

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