牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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高校-HIGH SCHOOL-

月ヶ丘高等学校。

 

男女共学で最新設備を取り入れた学校として有名な学校。その最新設備というのが学生証と出席記録を兼ねている1枚のIDカード。登校時はそれを玄関付近に在る端末へ翳す事で登校完了となる。

下校時も同じ様にカードを翳す事で初めてその日出席したという事になるのだ。

 

その為、出席だけして帰るという事は当然許されない。此処を通り過ぎても教室で出席の確認を行うダブルチェック付き。だからサボろうとしても逃れられないのだ。そして生徒にはそれぞれポイントが付与されている。これは校内で使用する物であり購買での飲食物や消耗品の購入時に使う。

 

そして持つ1つポイント制度が存在する。それは教師や生徒会らの案で考えられた物で遅刻や無断欠勤を始めとする学業に背く行為を取り締まる為に用意された制度。1人6000ポイントあり、上記の様な行為が見なされた場合は減点されていく。1年、2年、3年と学年が変わる頃に失ったポイントは取り戻せる。だがゼロになった時点でIDカードは失効し、退学という扱いになってしまう。

 

 

そうなるとどうなるのか?

それは誰にも解らない。唯一言えるのは退学となった生徒は皆、謎の失踪を遂げているという事だ。

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ある朝の事。

 

冴月の家でもある喫茶店、グラシアは朝から揉めている。冴月の部屋では2人が言い争いになっていた。

 

 

「だから、オレは絶対嫌だッ!そんなの穿かない!」

 

 

 

「ワガママ言わないの!ほら、この方が可愛いんだから!」

 

 

ここで話は昨夜、冴月が帰宅した時に戻る。帰ってから直ぐに別の指令書が届いた。しかも断れる色の赤では無く、その逆の断れない色の黒。

内容は行方不明者が多発している学校へ向かい、その元凶を断てという物。

潜入する為の制服をどうするかで揉めていた。女子はスカートを穿くのが鉄則なのだが、当の冴月は普段からズボンを着用している。故にスカートなんて初めてなのだ。それに本人は女性扱いを受けたくないという考えがある為、それが尚更邪魔していたのだった。

 

 

「幾ら八千代さんの頼みでもコレは聞けない…第一、恥ずかしいってば!!」

 

 

 

「むぅ……なら仕方ない…!」

 

 

 

「へ?な、何を……んッ!?」

 

すると八千代は片手の指先をコツンと冴月の額へ。すると冴月は急にパタリと倒れてしまった。その隙に制服のスカートを穿かせ、更に身支度を整える。

更に女性スタッフの1人を呼び、彼女に冴月の髪を整えさせた。少ししてからカランカランというドアの呼び鈴が鳴った。

 

 

「来た来た…ちょっと待っててねー!」

 

 

 

八千代は返事だけすると冴月を抱えて階段を降りて来た。そして階段を降りた先で立たせてから今度は背中を少し押すと冴月が目を覚ました。

 

 

「ん…あれ?八千代さん……おはよう?」

 

 

 

「はい、おはよう。お友達来てるから早く会ってあげてね♪」

 

 

 

「お友達?…オレに友達なんか居ないって…!」

 

 

ふとドアの方へ視線をやると制服姿の竜弘が立っていた。此方と目が合うと小さく会釈した。

 

 

「…お前、何で!?」

 

 

 

「あー…えっと……。 」

 

 

 

「私が頼んだのよ。この前のコーヒー代の代わりにね♪そういう事だから、うちの子宜しくね?竜弘君!」

 

 

ポンポンと彼の肩を叩いて八千代が笑う。色々と腑に落ちず、納得が行かない。冴月はウンザリした顔でカバンを持つと竜弘を押し避けて外へ出ようとする。すると今度は棚に置かれてるドクロの形をした指輪が声を掛けて来た。

 

 

[おい小娘、中々似合ってるぞ?可愛いじゃないか。そこら辺を通ってる女よりはマシだぞ?]

 

 

 

「ザルバ、五月蝿い!ったくもう…行ってきます!」

 

 

 

「ちょっとサッちゃん、剥き出しで剣は持ってっちゃダメよ?それと忘れ物♪」

 

 

また八千代に呼び止められる。渡されたのは細長い黒い袋と魔導輪カガリ。

ソウルメタルの剣だろうと破れない特殊素材で出来ているらしい。そこにしまうとそのまま肩から担ぐ。それからカガリを左手首へ嵌めてから足早に店を後にした。外でペコリと竜弘が店側へ頭を下げ、それを八千代が手を振って返していた。そして2人はそのまま学校へ向かったのだった。

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無論、学校へ向かう最中でも2人は一言も話さなかった。特に冴月の場合はブツブツと愚痴やら不満を漏らしていた。

何故スカートを穿かないとダメなのかとか、何でよりによって断れない指令を寄越してくるのか等々。暫く歩くと同じ制服を着た生徒らが続々と増え始めた。

自転車で登校する者や友達と登校する者とそれぞれ違った形で学校へ登校して来る。冴月が校門前へ差し掛かると竜弘に呼び止められた。

 

 

「僕は普段通り正門から入るけど、キミは向こうから入ってね。そこに居る先生に聞けば教えてくれると思うから。」

 

 

 

「…そう、解った。」

 

 

 

「それじゃあ…また後で。」

 

 

冴月と竜弘は此処で別れた。

竜弘に言われた通り、男性教師へ事情を説明するとそのまま連れられて別の入口から校舎へ入って行く。

下駄箱で靴を脱いでから冴月が案内されたのは小さな空き教室。真ん中にぽつんと机と椅子が置かれておりそこに座る様に言われた。座って待っているとそこへ入って来たのは先程の教師とは別で自分より年配の教師だった。言ってしまえばオッサンだ。

 

 

 

「ようこそ月ヶ丘高等学校へ。私は国語教師の沢村と言います、宜しく。さて…先ずは本校の規則というのが幾つか有りまして……。」

 

 

沢村は校則の話をし始める。

1つ目はスカートの長さや髪型に関して。2つ目はアクセサリー類の注意事項

、3つ目は禁止事項に関する事。

 

 

「そして最後……四つ目は男女交際に関してです。えー、本校では男女共学としておりますが…行き過ぎた交際は御法度としています。青春だの何だのと世間では言いますが、此処は由緒正しき進学校ですので。 まぁ弥那瀬さんは…大丈夫だと思いますが。」

 

 

チラチラと冴月の身体を見ながら沢村は話して来る。しかも事もあろうに胸ばかりに視線が行っている様子。

恐らく、他の転校生にも似た様な事をしているのだと察しが着いた。

そして最後に沢村は1枚のカードを冴月の机の上へ置いた。黒い1枚のカード。そこには白いフォントで学校の名前が記載され、顔写真の欄だけ空欄になっていた。

 

 

「このカードを登下校時に校門前にある装置にタッチする事で生徒の情報を全て管理する事が出来ます。また、登校時のみや下校時のみにタッチしても出席扱いには成らないのでご注意を。このカードが有れば校内に有る購買で買い物は出来ますが、予めポイントを専用の機械にてチャージする必要が有ります。それに関しては手元の資料で確認して下さい……。」

 

 

やや早口でまくし立てる様に説明していく。更に追加で説明が入った。

 

 

「退学処分に関してですが、カードには予め別で付与されているポイント…RPが有ります。計6000ポイントがこのカードに有り、このポイントがゼロになれば退学となりますのでご注意を。ポイントが引かれるのは以下の通りです…テストで此方の定めた目標点数に到達し無かった場合、校則に違反する行為が確認された場合、もう1つは……。」

 

 

沢村は最後の1つを言わず、冴月へ近寄る。すると後ろから彼女の顔を覗き込んだ。彼の両手はいつの間にか冴月の肩を握っている。

 

 

「教師の言う事に逆らった場合……です。解りますね?この意味が。」

 

 

 

 

「ええ、勿論…。」

 

 

つまり教師の言う事は絶対、何があろうとも逆らうなという事。

今度は沢村の片手が冴月の胸元へと伸びて来る。それを左手で止めた。

 

 

「…少々、お戯れが過ぎるのでは?沢村先生。」

 

 

 

 

「おや…早くも校則違反ですか?私と2人きりという事はつまりそういう事です……。逆らえば退学、だからされるがままの方が良いと思いますよ?くれぐれも親御さんにはこの事をご内密にお願いしますよ……。まぁ、仮に話しても誰も信じてくれないでしょうがね?」

 

 

冴月の耳元へ、ふぅっと息が当てられた。教師という権力を利用したセクハラ、或いは肉体関係の強要。

進学校が聞いて呆れる。中身はクズの塊なのだと冴月は察していた。

 

 

「弥那瀬さん……その手、離して貰えますか?」

 

 

 

「…嫌だと言ったら?」

 

 

 

「無理やりにでも…ッッ!!?」

 

 

沢村が何かしようとした途端に握力を更に強める。痛いと声を漏らした途端にカードと資料を取って立ち上がり、距離を離した。

 

 

「くぅッ…大人しく言う事を聞いていれば良い物を……!!」

 

 

 

「…物事には限度ってのが有るでしょう?一般人に危害を加えるのは掟に反するからコレで勘弁ッ!!」

 

 

冴月は床へ札を放る。すると白い煙が巻き上がり、その隙に逃げ出した。長い廊下を走り、外の出口へ向かう。しかし何か様子が可笑しい。幾らドアノブを動かしてもドアが開かないのだ。

 

 

「開かない!?何で…ッッ!?」

 

 

 

[冴月、さっきのカードを使って!]

 

 

カガリに促されてはっと我に返る。それから冴月は握っていたカードを近くの端末へ翳した。すると解除音が鳴り、やっと外へ出られた。

 

 

「ありがと…カガリが言わなかったらドアぶっ壊してたかも。」

 

 

 

[どういたしまして…それにしてもあの変態教師、中々ヤバい奴ね。ホラーじゃ無いのが不思議な位……。]

 

 

 

 

「あんなクズでも守らなきゃいけないなんて…ちょっと納得出来ないけど。」

 

 

冴月は最初に来た道を歩いて校舎へ向かう事に。中へ入ると建物の中は授業中なのか静かだった。近くに居た女性教師を見つけ、事情を説明すると教師と共に職員室へ。戻って来た教師と共に冴月はクラスへ案内された。

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案内されたのは自分と同い歳の生徒達の居るクラス。教室内は転校生の噂がどうのこうので割りと賑やかだった。

どうやら案内してくれた教師のクラスだったらしい。

冴月に対し教師は自己紹介をする様に促して来た。

 

冴月は黒板へ自分の名前を書いた。

そして振り向くと全員の方を向く。

 

 

「……弥那瀬 冴月と言います。宜しく。」

 

 

一言伝えてから頭を下げると拍手と共に後ろの席へ座る様に言われ、そこへ向かった。先に担いでいた布を下ろし、ロッカーの上へ置いてから座る。

それからはホームルームそっちのけで女子生徒や男子生徒らに取り囲まれて質問攻めが始まった。

色々と聞かれるものの、冴月は適当に受け流して誤魔化していく。

周りからすれば転校生と言う物が珍しいのかホームルームが終わるまでずっと質問攻めが続いたのだった。

 

気が付けば時刻は昼休みになり皆がザワザワと外へ出て行く。そんな中、冴月は1人で外を見ていた。

 

 

「……群れるのは好きじゃない、鬱陶しいだけ。」

 

 

外は青空が拡がっている。

ぼーっと景色を眺めていると声を掛けられた。振り向くと別の女子生徒が立っている。

 

 

「弥那瀬さん…だっけ?良かったらお昼、一緒にどう?」

 

 

 

「……私は大丈夫、構わなくて良いから。」

 

 

 

 

「ふぅん…変わってるんだ、まるで男の子みたい。」

 

 

 

 

「…そう?」

 

 

 

 

「うん、変わってる。…私は吾妻有紀。宜しくね。」

 

 

彼女は冴月へ手を差し伸べて来た。

軽くそれを冴月は握り返した。だが、そのまま手を引かれて教室から連れ出されてしまう。連れて行かれたのは食堂だった。

 

 

「ちょっと…いきなり何……!?」

 

 

 

「何か食べないと午後が持たないって事!好きなの食べなよ、どれも美味しいんだから!」

 

 

冴月が顔を上げた途端にメニューを、はいっと渡される。そこには様々な料理の名前が書かれていた。

 

 

「あ…えっと……じゃあ、サンドイッチを。」

 

 

 

「サンドイッチかぁ…じゃあ私はオムライスにしよ。そこの機械にカード差し込んで、ボタン押すと食券出て来るからそれで買えるよ!」

 

 

そう言われてやってみるものの冴月のカードはチャージしていない為、食券は出なかった。見兼ねた有紀が代わりに購入し、2人は食券をカウンターへ渡して奥の席へ腰掛けた。

 

 

「そっか、来たばっかりだもんね。チャージなんてしてる場合じゃ無いかぁ……。」

 

 

 

「…ごめんなさい。今度ちゃんと返すから。」

 

 

 

「良いよ、気にしなくても。それよりさっきから気になってるんだけど……その左手に付いてるの何?飾り?」

 

 

 

「これ?えっと…。」

 

 

 

[失礼な小娘ね…私はカガリ・アルヴァ!これでもれっきとした……!]

 

 

 

「嘘、喋った!?」

 

 

 

「…お守り。母さんが昔くれたの。」

 

 

 

 

「へぇ…カガリって言うんだ……。有紀って言います、宜しく!」

 

 

有紀は興味深々といった顔でカガリを見ていた。すると2人の元に自分達が頼んだ料理が置かれ、残りは食べながら話す事に。

 

「ふぅん…つまり、弥那瀬さんは学校を転々としてると?」

 

 

 

「そう。両親の仕事が忙しくて…だから此処も長くは居られないかも。」

 

 

 

無論、全ては冴月の正体を隠す為の嘘。

そうでもしなければ会話にボロが出てしまう。冴月は手早く食事と会話を済ませ、有紀へお礼を述べると食堂から去る。そして自分の教室へと戻った。

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その頃、国語教師の沢村は倉庫に居た。

頭の中で色々な事を考えながら、ああでもない、こうでもないとブツブツと1人で話していた。

 

 

「私の何がいけなかった!?あの手段なら、いつものやり方なら確実にあの子を…あの子をモノに出来た筈なのに……!!」

 

 

沢村は冴月を異様な程に欲していた。

あの時に見た、人を蔑(さげす)む様な目付き。そしてあの華奢(きゃしゃ)な肉体。あの子を無理やりにでも押し倒して乱暴してやりたかった。

沢村はこれまで何度も肉体関係を生徒と持って来た。これは今に始まった事では無い。

 

お前の身体を好きにさせてくれれば、テストの点数は上げといてやると。その代わり呼び出したら必ず応じろとまで苦言を指して。職権乱用だろうと咎める者は居ない。何故なら全て裏で上手く回しているからだ。秘密を漏らせば退学にすると脅せば嫌でも応じるのは目に見えていた。それに漬け込んで好きにしてきたのだ。

 

 

「欲しい…どうしても…どうしても……!! 見てみたいんだ…彼女が助けてくれ、止めてくれと懇願する姿が!!彼女の身体を隅から隅まで穢してやりたい……!!」

 

 

片手で顔を抑えながら沢村は唸っていた。その時、1人の生徒が入って来る。

 

 

「誰だ!?確かキミは……。 」

 

 

そこに居たのは1人の女子生徒。

光が反射して此処からでは顔が見えない

 

 

「そんなに欲しいなら…手に入れてしまえば良いんですよ、沢村先生?欲望に忠実なのが人間ですもの……何も間違っていませんわ。それに……。」

 

 

 

「それに…何だね?」

 

 

 

「貴方みたいに常に欲望でドロドロに塗れていた方が……良いモノが生まれそうですからね…?ふふふ……ッ!!」

 

 

 

「さっきから何を言って……うわぁぁぁッッーー!!?」

 

 

 

その瞬間、沢村の意識はそこで途絶えた。そして次に目を覚ました時には先程まで沢村だった者がそこに居た。

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ー放課後ー

 

授業が全て終わった時、既に外は夕方。下校する生徒もいれば部活動で学校に残る生徒も。この月ヶ丘高等学校は学生寮も兼ね備えており、冴月も事情により寮を使う事になっていた。片付けているとまた有紀が近寄って来る。

 

 

「弥那瀬さんは部活動とかどうするの?」

 

 

 

「…未だ考えてない。剣道部にするつもりだけど……?」

 

 

 

「剣道部?あそこ、結構色々厳しいから止めといた方が良いと思うよ? そこよりもっと良い部活…有るんだけど、どうかなぁ?行ってみない?」

 

 

 

「……はぁ?別に構わないけど。」

 

 

冴月は有紀と共に教室を後にし、そのまま連れて行かれる。暫く歩いてから1つの教室に付いた。そしてドアを横へガラガラとスライドさせ、中へ。

 

 

「おっすー!良い子連れて来たよん!」

 

 

有紀は手をブンブン振っている。

ふと視線をやると、そこに居たのは如何にも好奇心が有りそうな男子生徒。それから大人しめな女子生徒。そして竜弘だった。

冴月と竜弘は思わず互いに指さしてしまう。

 

 

「お前…何で!?」

 

 

 

「み、弥那瀬さんこそ…え…どうして……!?」

 

 

 

有紀はお互いを見ると、ふぅんと納得していた。顔見知りなのだと察したらしい。すると有紀は戸棚から書類を1枚持ち出すと冴月へ手渡した。

 

 

「入部届け…?」

 

 

 

「そう!出来れば入って欲しいなぁ…なんて思ってて。人数が後1人足りなくて、下手をすれば……」

 

 

 

「下手をすれば…どうなるの?」

 

 

冴月は首を傾げていた。すると竜弘は両手を合わせて此方へ懇願して来る。

 

 

「廃部になっちゃうんだ!だからお願い!!入って……!!」

 

 

冴月は周囲を見回す。誰もが同じ様に手を合わせて見ていた。しかも断ろうにも断れないこの状況。とは言え、人と関わり過ぎるのは良くないという此方の事情も有る。

 

 

「…解った、入るよ。」

 

 

そう言った途端、わっと歓声が上がった。どうやら余程嬉しかったらしい。

書類へサインすると冴月は教室の外へと出た。メンバーにはトイレに行くとだけ伝えて。

 

 

[…どうするの?魔戒騎士は赤の他人と関わるべきじゃないっていう掟が無かったかしら?]

 

 

 

「解ってる…けど、仕方ない事でしょう?此処に居る以上は接触なんか避けられないだろうし。」

 

 

事情だけをカガリに説明し、再び教室へ戻る。部活動の割りにはやたら喋ったり騒いでる印象が強い。戻ると今度は残りの2人が挨拶をして来た。

 

 

「俺は高橋浩介!そんでこっちが……。」

 

 

 

「弥空 楓って言います。宜しく。」

 

 

互いに2人と握手を交わすとニヤニヤしながら浩介が近寄って来た。

 

 

「なぁ、冴月ちゃんと竜弘ってどんな関係なの?」

 

 

ぐるっと近くに居た竜弘も有紀も振り向いて来た。竜弘は慌てているが、有紀は興味深々。楓は良くないと止めようとしている。

 

 

「…岡本君が助けてくれた。変なのに絡まれてた所を。そうでしょう?」

 

 

冴月は目で合図し彼の方を見た。竜弘もまた小さく頷いて誤魔化したのだった。

 

 

「マジか!?スゲーな竜弘!こんな可愛い子助けるなんてさぁ! 格好良いー!」

 

 

 

「偶々だよ、偶々!運が良かったんだよ…。」

 

 

浩介は竜弘へ絡んで行った。

笑って話していると廊下から突如として悲鳴が上がった。どうやら女子生徒の物らしい。冴月は咄嗟に袋を担ぐと乱暴にドアを開け放ち、走って行った。続いて有紀も彼女の後に続いて走って行く。

 

 

「ち、ちょっと…何処行くの、弥那瀬さんッッ!?」

 

 

2人とも出て行ってしまうと3人だけ部室に取り残されてしまった。

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冴月は廊下を走り、階段を下りる。悲鳴がした場所へ駆け寄ると座り込んだ女子生徒が居た。

 

 

「どうした、何があった!?」

 

 

 

「化け物…化け物が……更衣室に!!」

 

 

冴月は彼女の話を聞き、指をさした方向へ向かった。そして中へ入ると凄まじい光景が拡がっていた。何かを引っ掻いた様な爪痕、それからバラバラに散らばったユニフォーム。部屋中が滅茶苦茶に散らばっていた。カガリも何かを察したらしい。

 

 

[微かだけど邪気を感じるわ…恐らく、此処に居た子達は……。]

 

 

 

「…全員食われた。或いはソイツが何処かに連れ去ったか……。」

 

 

部屋を見回していると有紀が入って来る。そして辺りを見回していた。

 

 

「吾妻さん!?何で此処に…?」

 

 

 

「何でって…弥那瀬さん、いきなり飛び出して行くから心配で…!」

 

 

 

「…オレの事は良いから、早くあの子を此処から連れて逃げて!!」

 

 

 

「へ…今オレって…?」

 

 

 

「いいから早く!」

 

 

 

冴月はそう促すと再び走って探しに回る。有紀は冴月に言われた通りに廊下に居た生徒を自分の居た教室へと連れて行った。

一方、冴月は各教室のドアを開けたりと怪しい所を探し続けていた。

しかし何処にも見当たらない。すると近くの階段からカツンカツンと革靴の音が響き、思わず立ち止まった。

 

 

「…誰だッ!?確か…沢村先生…?」

 

 

 

「ああ……キミですか。弥那瀬さん…。」

 

 

そこに居たのは沢村だった。

向こうも足を止めて此方を見下ろしている。すると、いきなりニタニタと笑い始めた。

 

 

「弥那瀬さん…大人しく私に食べられてくれませんか?……悪い事は言いません、大丈夫…痛くしませんから……たぁーっぷり可愛がってから食べてあげますよ……ふふふ…。」

 

 

 

「……どういう意味ですか?」

 

 

 

「あぁ…君は知らないんですね……。食べるというのは……。」

 

 

 

次の瞬間、目の前から沢村が消える。そして冴月の前へ来ると片手で両手首を掴み、彼女の制服を斬り裂いた。

 

 

「こういう事を言うんですよぉおおッッ!!!」

 

 

 

「ッッーー!!?」

 

 

制服の上着が引き裂かれ、中の白いブラが見えてしまう。胸は歳頃の子の様な大きな物では無いが形は整って綺麗な形をしている。沢村は下衆な笑みを浮かべながらそれを見ている。

 

 

「やっと…やっと君を食べられる……ずっと欲しかった…あの時、君に腕を掴まれた時から……!!大丈夫、痛いのは最初だけ……後は先生が優しく……!」

 

 

 

「……これがお前の本性か?考えなくても解る。お前はオレ以外にも他の生徒も食らっている……!」

 

 

 

 

「何を言って…ほごぉおッッ!?」

 

 

冴月は沢村の股下を右足で力強く蹴り上げ、手が離れた所を狙って顔面を拳で殴り飛ばした。沢村はその場に倒れ、メガネがカラカラと落下する。

 

 

「教師を…殴るとは……ッ!!」

 

 

 

「教師?……もうお前は教師なんかじゃない。ただのホラーだッッ!!」

 

 

冴月はポケットから魔導火を取り出し、彼へ照らす。両方の瞳に浮かんだのはホラーの証である刻印そのもの。

 

 

「くくッッ…成程……いけませんねぇ…?学校にそんな物を持ち込むとは…校則違反ですよぉおッッ!!!」

 

 

いきなり沢村は飛び掛って来た。

ヨダレを口から垂らしながら、冴月目掛けて右腕を振り下ろそうとする。

冴月はそれを後退して躱し、反撃として胸元へ再び鋭い蹴りを放つ。すると今度は階段から下へ転がり落ち、沢村は踊り場で唸っている。

 

 

「…オレはタバコは吸えない。ただ形態してるだけ……。お前達の様な卑劣な輩を見抜く為に必要だから持ってるのさ……。」

 

 

沢村を見下ろし、同時に肩に担いでいた布から青い鞘の剣を取り出すと鞘ごと彼の眼前へ向けた。冴月の鋭い眼差しは冷徹に獲物を見る狼と何ら変わらない。そしてゆっくりと彼の方へ距離を詰めて行く。

 

 

「ま、まさか……魔戒騎士だと!?馬鹿な…そんな……そんな筈は無い!!だって君は…女……ッ!」

 

 

 

 

「…ご名答。カガリ、此奴の名前は?」

 

 

 

[ホラー、ベルゼブ。ハエのホラーで兎に角大食らいって事かしら……食べる事への執着心は他のホラー顔負けね。]

 

 

カガリが沢村の正体を見抜く。

だが沢村は何とかこの場から逃げようと模索している様に見えた。

 

 

「……他の女子生徒は何処へやった?」

 

 

 

「だ、誰が言うものか…弥那瀬さん、その剣を早く下ろしなさいッ!!今なら見逃してあげますから!!」

 

 

 

「随分と臆病になったな…オレの制服を引き裂いて、胸まで見て笑ってた時とは大違いだな……?」

 

 

冴月は剣を鞘から抜き、刃先を彼へ見せ付けた。外の明かりが反射し、刃がキラキラと光っている。

 

 

「ひ、ひぃいいッッ!?こ、殺されるぅうッッ!!」

 

 

隙を見て沢村は階段を慌てて駆け下りる。だが、直後に背中を斬られてしまい階段から転がり落ちてしまう。そしてそのまま沢村は1階の通りから外の中庭へと逃げた。

 

 

「こ、ここまで来れば……!」

 

 

 

「逃げられると思った…か?」

 

 

 

「なぁ…ッ!?」

 

 

冴月は沢村が逃げて来た入口の方に立ち、退路を塞いだ。これでもう逃げられない。

 

 

「こうなったら……今度こそ喰ってやるゥウウ!!!」

 

 

沢村は肉体を変化させてハエの化け物へと生まれ変わった。顔面はハエと同じ頭部、背中には大きな羽。胴体は脇腹の辺りから腕が新しく左右から2本生えている。

 

 

「ウゥ…グガァアアッッッ!!!」

 

 

 

 

「正体を現したか…ッッ!!」

 

 

 

冴月も目の前で剣を用いて円を描くと鎧を纏う。鎧の赤い目が爛々と輝いていた。

 

 

「ホラー…ベルゼブ……貴様の食に対する陰我、オレが断ち切るッッ!!」

 

 

 

「ギィイイッッッ!!!」

 

 

 

凄まじい咆哮を上げ、ベルゼブは蒼牙へ襲い掛かる。羽根と鋭い鉤爪の付いた腕を生かした近接攻撃を仕掛けて来た。

繰り出される攻撃を次々と蒼牙は剣で受け流していく。反撃として斬り裂こうとするが、躱されてしまった。

 

 

「ちぃッ…早い……!!」

 

 

 

「ソの程度カぁ……?魔戒騎士ィイイ!!」

 

 

再びベルゼブは飛んで来る。素早い動きで蒼牙を撹乱(かくらん)しようと飛び回る。だがそんな戦法は直ぐに打ち破られた。

 

 

「……嘗めるなッッ!!」

 

 

擦れ違い様に4枚有る羽の内、左の羽を2枚切り落としたのだ。ベルゼブは地面へ叩き付けられ、周囲に土煙と大きな音が響く。

 

 

「……やったのか?」

 

 

 

[いいえ、まだよ!!]

 

 

 

カガリが警告したと同時に土煙の中から何かが飛んで来た。放たれたのは液体状の何か。それを避けると近くの壁へ命中、ドロドロと壁の壁面が溶け落ちた。

 

 

「成程…アレを喰らったら不味いって事か……!」

 

 

蒼牙は構え直すと立ち上がったベルゼブを見据える。羽を斬られた事で飛べはしないが、凶暴な事に変わりは無い。

だが鎧を纏っていられる時間も限りが有る為、長期戦になれば今度は此方が振りになってしまう。

 

 

「グギッ…グギギッ!!」

 

 

 

 

「次で…最後だッッ!!」

 

 

 

ベルゼブは走りながら顔を左右に振り、溶解液を放つ。蒼牙も同じタイミングで走り出すと空中へ高く飛び上がった。そこから身体を捻ると狙いを定め、剣でベルゼブの首を撥ねた。胴体と首が切り離され血が辺りへ撒き散らされる。ドサッとその場に首が落下し、蒼牙の後ろで黒い塵と化した。

 

 

「ギギ…ギ……ッ……。」

 

 

 

「……これで終わりだ。」

 

 

冴月が鎧を解くと同時に何かが此方へ放たれ、それを剣で弾く。まるでクナイにも見えるそれは彼女の離れた場所へ刺さっていた。

 

 

「ッ…誰だッ!!」

 

 

 

「…その歳で鎧を纏えるのか。未だ世の中は捨てた物では無いな……お前はこの悪夢の連鎖を断ち切れるか?牙狼では無い無名の騎士よ……!!」

 

 

 

「どんな闇だろうと必ずオレが振り払ってみせるッッ!!例え、牙狼では無くても…必ず!!」

 

 

 

 

「ふふ……その心意気は良し。ではまた何処かで会おう……、冴月。」

 

 

そう言い残すと声の主は闇夜に消えた。

此処からでは姿をよく見れなかったが声はハッキリ聞こえていた。冴月は先程、飛んで来たクナイを地面から拾った。

 

 

「何でアイツ、オレの名前を…それにこのクナイは……?」

 

 

 

[このクナイ…まさか……!?]

 

 

 

カガリは何か心当たりが有るらしいが、冴月が尋ねても何も答えてくれなかった。その後、沢村が攫った女子生徒達は倉庫の中で無事に無傷で発見された。

何人かは服を脱がされ裸にされていたが、外傷は無かったものの心に傷を負ったのは間違い無いと冴月は思っていた。

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ー翌朝ー

 

朝から集会が開かれ、国語教師の沢村が謎の失踪を遂げたと教頭から説明が有った。冴月が何か手を施した訳では無い。

あの夜に起きた事も、あの時に見た光景も全て無かった事にされた。

ざわめきが起こる中、冴月達 生徒らは自分達の教室へ戻った。すると開口一番に有紀が話し掛けてきた。

 

 

「あ、弥那瀬さん、弥那瀬さん!! 昨日は…その……大丈夫だった?」

 

 

 

「え?まぁ…大丈夫。」

 

 

 

「良かったぁ……!あの後、戻って来ないから心配してて……!」

 

 

 

ガシッと強めに抱き締められた。柔らかい胸が冴月へと押し当てられる。

冴月は恥ずかしそうにすると何とか離れた。

 

 

「お、オレは大丈夫…ケガなんてしてないし、ただ制服破れただけだから……!」

 

 

 

「昨日から思ってたけど、オレっ娘かぁ…良いじゃん、ギャップ有ってさ!」

 

 

 

「ほんっと、やり辛い……。」

 

冴月は苦笑いしながら様子を見ていた。

だが、冴月は悪い気はしなかった。守れた事には変わりは無かったのだから。

そして冴月は別の事も考えていた。

それは謎の人物が話した牙狼が居ないというのはどういう事なのか。鎧を継ぐ者が居ないのか、それとも別の意味なのか。何れにせよ謎は深まるばかりだった。

 

 

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