牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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陰謀-CONSPIRACY-

黄金騎士 牙狼。

 

それは魔戒に存在する鎧の中で最強の鎧。どの魔戒騎士の鎧よりも最上位に君臨している。その輝きは正に金色そのもの。そしてそれを扱う事が出来るのは真の守りし者だけだと言われている。

 

だが、ある日を境に黄金騎士は姿を消した。何故そうなったのかは全くもって誰にも解らないまま。何処かで次の主を待っているのか、或いは誰かがその身に纏いホラーと戦い続けているのかも不明のままだ。

 

 

ーこの世界に希望(牙狼)は無いー

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

未だ夜が明ける前の事。

カーテンを締め切ったとある部屋では話し合いが行われていた。

1人の女子生徒、それから男子生徒。更に仮面の人物。その3人は不気味な赤色で照らされた部屋の中にそれぞれ集まっていた。

 

 

「……ホラー、ベルゼブが死んだそうです。彼はホラーの中でも最も貪欲で大食らいな存在だった。」

 

 

 

「それを沢村を器として覚醒させ、欲望のままに暴れさせた……。彼は元々、女子生徒を性的な目で見てはターゲットとした者を卑怯な手を使って脅した挙句に犯していた。彼は覚醒する前から陰我に塗れていた……だからコレを使ったの。ホラーの陰我を封じ込めた赤き手紙をね。」

 

 

 

「……それをネット上にもデータ化し、盗撮犯と自身の人気に執着する風俗嬢をターゲットとして実験しましたが何れも失敗している。」

 

 

 

「…そして予想外のイレギュラーが紛れ込んで来た事で自体は悪化した。御影、貴女が見た事を全て話して頂戴。」

 

 

すると御影と呼ばれた人物は頷き、椅子から立ち上がった。

 

 

「…魔戒騎士がこの学校に紛れ込んでいます。恐らく、先の2体を討伐した騎士で間違い無いかと。ベルゼブもこの騎士により討伐されています。」

 

 

 

「成程…それで、その騎士の名は?」

 

 

 

 

「そこまでは不明ですが……脅威に成るのは間違いありません。我々の計画…そして聖域を犯す者です。」

 

 

御影は淡々と話終えると再び座る。

そして残りの2人は考え込むと少ししてから話を切り出した。

 

 

「ふむ……では魔戒騎士の相手はこの私が。宜しいですね?姫村さん。」

 

 

 

 

「ええ…構わないわ。失敗だけはしない様に……。」

 

 

 

 

「解っています…全てはこの学校から世界そのものを変えていくのです。我々、選ばれし者しか暮らす事が出来ぬ様に……。では、失礼。」

 

 

メガネをクイッと動かすと男は部屋を後にした。そして姫村は御影の方を向くと合図し、耳打ちした。そして御影も暗闇に紛れて消えてしまった。

 

 

「会長の手を煩(わずら)わせる訳には行かない……だからこそ魔戒騎士は我々の手で…!!」

 

 

不気味に姫村は笑うと彼女も姿を消す。

そして3人が消え去ってから暫くして朝日が登り、いつも通りの朝が来た。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「はぁあッッ!!せいッ!はッッ!!」

 

 

朝から冴月は木刀を用いて身体を動かしていた。正面、斜め、突きと独特の型による素振りが続く。今日は日曜日の為、学校は休み。寮に居る生徒も外へ出掛けたりと自由が許されているのだ。その中で冴月は1人で体育館横に有る武道場で素振りをしている。すると何故か竜弘が近寄って来た。

学校も休みだから恐らく暇なのだろう。

 

 

「弥那瀬さん、何してるの?」

 

 

 

「見れば解るだろ…ッ!素振りだよ…ッッ!!」

 

 

人型の的へ打ち込む。その度にバスッという音が響く。そしてふぅっと呼吸を整えると再び構え直し、再度打ち込む。その繰り返しだ。

 

 

「そういえば…弥那瀬さんの剣って誰でも持てるの?」

 

 

 

「…誰でもって訳じゃない。何なら試しに持ってみるか?」

 

 

素振りを止めた冴月は木刀を地面へ置き、布袋から剣を取り出す。そして竜弘の前へ横向きで突き出した。

 

 

[冴月、持てると思う?この子に。]

 

 

 

「やってみなきゃ解らない、ほら。」

 

 

 

竜弘が剣を持つ。すると突然重力が掛かった様な感覚に襲われ、地面へ倒れ込んでしまう。

 

 

「な、何でこんなに重たい訳!?幾ら何でも重すぎるでしょ…!?」

 

 

 

「ソウルメタル…この剣はそれで出て来てる。言ってしまえば、持ち主の精神状態や魂の有り方に反応する金属って事。」

 

 

ひょいっと軽々しく冴月は持ち上げ、再び袋へしまう。そして木刀を手に持つ。

 

 

「へぇ……それを弥那瀬さんはあんなに軽々しく振り回してるのか…。」

 

 

 

「それで、オレに何の用だ?暇潰しで来た訳じゃ無いだろう?」

 

 

 

竜弘の方をじっと見つめると此処に来た理由を彼から聞き出そうとする。

竜弘は徐ろに口を開いた。

 

 

「実は…弥那瀬さんの歓迎会をやろうって吾妻さんが言っててさ、良かったらどうかなって……。」

 

 

 

「……断る、賑やかなのは嫌いだ。」

 

 

 

「主役が来ないって言ったら元も子も無いじゃんか……どうしてもダメ?部活は入ってくれたのに?」

 

 

 

「ダメなものはダメだ、オレは忙しい。」

 

 

 

キッパリと断ると竜弘は残念そうな顔をしていた。そんな竜弘を他所に冴月は練習を再開する。すぅっと、一呼吸置いてから素早い斬撃を的へ繰り出し、そこに体術も練り込む。飛び上がったと思えば的の首へ蹴りを叩き込んだ。そしてゆっくり離れ、頭を下げると練習を終える。

振り向くと竜弘がその場に立っていた。

 

「……まだ居たのか。行かないぞ、オレは。」

 

 

 

「どうしても…ダメ?」

 

 

 

「……ダメだ。」

 

 

 

「お堅いんだなぁ…魔戒騎士って。何か妙に避けられてる気がする。」

 

 

 

「…堅くて悪かったな。逆にお前が柔らかいんじゃないのか? 不思議でしょうが無いよ、お前は男なのに何処か女々しい感じがする。」

 

 

武道場を出ると2人は廊下を歩いて行く。すると突然、怒鳴り声が聞こえると2人は走ってそこへ向かった。そこに居たのは同学年の男子生徒数人に囲まれている1人の生徒が。話を聞く限り金をせびられていた。竜弘が助けに行こうとするとそれを冴月が片手を出して止めた。

 

 

「どうしよう…助けないと…!」

 

 

 

「……止めとけ、お前も巻き込まれるぞ。」

 

 

 

「ッ…じゃあこのまま黙って見てろって言うのか!?」

 

 

 

「中途半端な正義感はかえってアイツを苦しめるだけだ…それに、アイツ自身が敵に立ち向かわなくてどうする。じっと助けを待って居ても何も現状は変わらない……行くぞ。」

 

 

冴月は背を向けて別方向へ歩き出す。

竜弘はそれを見て悩みながらも冴月の方へついて行った。

 

 

「弥那瀬さんは人の心は無いの?……困っている人を見掛けたら助けるとか、そういう事はしない訳?」

 

 

 

「……しない。人同士の揉め事や争い事は当事者達が解決するべきだと思っているから。オレが斬るのはホラーだけ、他の事には手を出さない。」

 

 

 

「そんなの薄情すぎる!!…間違ってるよ、そんなの絶対におかしい!!困っている人が居たら助けるべきだッ!!」

 

 

グッと彼女の肩を竜弘は掴む。すると冴月はゆっくりと竜弘の方へ振り向いた。

 

 

「…お前の言ってる事は偽善だ。そのお前の言う誰かの為にってのは本当はお前自身の為じゃないのか?」

 

 

 

「違う!僕は…僕は……ッッ!!」

 

 

 

[2人もそこまで。熱くなり過ぎるのは良くないわ…。魔戒騎士は人同士のいざこざには関わらないという掟が有るのよ。冴月はそれに従っているだけ。]

 

 

「え…腕輪が喋った!?」

 

 

[お初だったわね…坊やには。カガリよ。宜しく。]

 

 

 

カガリはペラペラと喋り、竜弘に対して挨拶をした。

一方の竜弘は驚いて2度見している。

冴月は溜息をつくと再び歩き始めた。

 

 

「弥那瀬さん、何処行くのさ?」

 

 

 

「……一々、お前に行き先を言う必要が有るのか?お前はオレの保護者じゃ無いだろう。」

 

 

 

「気になるんだよ。昨日、突然沢村先生が行方不明になった件も有るし……。」

 

 

 

「沢村?ああ…あの変態教師か。オレの身体触って来た奴だな……思い出すだけで寒気がする。」

 

 

 

「え?それってどういう…?」

 

 

 

[犯されそうになった…要はレイプされそうになったのよ、そいつに。]

 

 

 

「ええ!?そんな風には見えなかったけど…第一、沢村先生はそんな事する人じゃないと思う……。」

 

 

 

「オレの見当が間違って無ければ、アイツは此処の女子生徒を食い物にしてた…それしか言えない。」

 

 

冴月は立ち止まると昨日の現場へ来た。立ち入り禁止の表札を越えて更衣室へ入る。中は既に片付けられていた。昨夜見たなぎ倒された複数のロッカーも壁の傷跡も無くなっている。

 

 

「…証拠隠滅か。余程、見られたくなかったらしい。」

 

 

 

「流石に不味いよ…勝手に入るのは!」

 

 

 

「…今日は休みだろ?それに、此処へはオレ達以外来ない。来るとしたら用務員のオッサン位だろ………。」

 

 

更衣室から出ると今度は使われていない倉庫へ。残りの女子生徒らが閉じ込められていた場所でもある。やはりそこも立ち入り禁止の立て札が置かれていた。

 

 

「此処もか……覗いて見たけど、この前の女みたいに現場に痕跡は落ちてなかった。何か解ると思ってたけど。」

 

 

[八千代の話だと、前に冴月が見せたスマホからは微かな邪気を感じたそうよ。けどそれ以上の事は何も……。]

 

 

これ以上探ろうにも手掛かりは無い。

振り向くと息を切らした竜弘が後ろに居た。

 

 

「と、突然居なくならないでよ……!」

 

 

 

「…何処へ行こうがオレの勝手だろ。これで用は済んだし、お前も帰ったらどうだ?折角の日曜日なんだろ、オレに構わず誰かと遊べばいいのに。」

 

 

 

「解ったよ…じゃあそうする。…歓迎会の件、吾妻さんが何て言うか解らないけど……それじゃ、また明日…学校でね。」

 

 

竜弘は1階の廊下で冴月と別れて学校を後にした。冴月はポツンと1人残され、中庭にあるベンチへ腰掛けた。外は静かで穏やかな風が拭いている。

 

 

[冴月、これからどうするの?]

 

 

 

「…オレの管轄は代わりの騎士がやってくれてるから良いとして、オレは剣の浄化をしに行くつもり。魔導火の残りの燃料も気になる。」

 

 

 

[そう。…ねぇ冴月、歓迎会に出る位は別に良いんじゃない?あの子達は貴女と仲良くしたいのよ…だから……。]

 

 

 

「…執拗いよ、カガリ。オレはそう言う賑やかなのは好きじゃない。こうして此処に居るのは任務の為…それ以上は何もしない。」

 

 

立ち上がると冴月は中庭を後にし、それから学校外へと出た。いつも自分が訪れている番犬所へと向かって歩き出した。

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ー番犬所ー

 

小さな寺へ来るとそこで鈴を鳴らす。そしてこの間と同じ風景へ変わると奥へ歩いて行く。出迎えたのは黒服の男、それからハク様と呼ばれる此処の主。

冴月は先に剣を差し込んで浄化、そして魔導火を黒服の1人に預けた。

 

 

「御主のその格好…やっと女子(おなご)らしくなったのう?似合っとるぞ?」

 

 

 

「…任務の為です、着たくて着てる訳では有りません。」

 

 

 

「まぁ良い…それで、どうじゃ?元凶の根は掴めたかの?」

 

 

 

「いえ、未だ解りません…昨夜出現したホラーは学校内から突如として現れました。恐らく何者かが手引きしている可能性も……。」

 

 

冴月は現状を淡々と報告した。

話しを終えてハクの様子を待つ。

 

 

「……成程、現状は解った。引き続き解明に尽力せよ。それとほれ、持って行くが良い!」

 

 

ぽいっと何かを渡して来る。受け取るとそこにあったのは小さな赤い小袋だった。

 

 

「…これは?」

 

 

 

「開けてからのお楽しみじゃ…ではの。」

 

 

冴月は不思議に思いながらも魔導火を受け取り、外へと出た。少し歩いてから赤い小袋を開けてみる。そこには紅白の紐で結ばれた2つの鈴、それから1枚の折り畳まれた紙が入っていた。それを試しに拡げてみる。

 

 

「鈴…それと紙?」

 

 

 

[火の代わりに。鳴らせば善悪を見極められる……ですって。]

 

 

 

「つまり、魔導火の代わり……か。この方が良いかも。まだ何か入ってる。」

 

 

そして最後に出て来たのは色とりどりの尖った丸い玉の様な物。薬にも見える。

 

 

「……何これ?」

 

 

 

[金平糖よ。大丈夫、食べても害は無いわ。]

 

 

 

「本当に?凄い見た目してるけど…?」

 

 

 

[ええ。試しに食べてみたら?]

 

 

 

「…大丈夫なんだな?どれどれ……。」

 

 

試しに1つ取り出すと出て来たのはピンク色の金平糖。それを口へ1つ放り込み、噛んでみる。すると甘い味が口の中へ拡がっていき、自然と冴月は微笑んでいた。

 

 

「甘い……。」

 

 

 

[ふふッ、久しぶりに見たわ。貴女が笑ってる顔。小さい時以来ね……。]

 

 

 

「…五月蝿い、黙ってて!」

 

 

 

冴月は少し頬を赤らめると幾つか食べてから残りを袋に戻した。それをポケットへしまうと再び学校の方へと歩き出した。冴月の今日の予定はこれで終了、後の残り時間は鍛錬に充てるつもりで居た。

 

学校の近くを歩いていると先程、竜弘と共に校舎内で見掛けた生徒と擦れ違う。眼鏡を掛け、リュックサックの肩紐を握り締めて歩いていた。向こうは此方を見ると睨み付け、そのまま歩いて行ってしまった。

 

 

[凄い目付きね…さっきの子でしょう?]

 

 

 

 

「ああ…何も無ければ良いけど。」

 

 

冴月は何だアイツと不思議に思いながらも学校にある寮へと帰って行った。

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ー翌日ー

 

普段通りに午前中の授業を受け、終わると移動教室の為に準備を始める。

すると有紀が冴月の元へ絡んで来た。

 

 

「弥那瀬さぁーん、本当に来ないの?歓迎会!」

 

 

 

「行かないって岡本君に伝えたんだけど?…苦手なの、そういう賑やかのは。」

 

 

 

「ふぅん…残念だなぁ。絶対楽しいと思ったのに。」

 

 

 

「…ところで吾妻さんはリュックサック背負ってる男の子って知ってる? 青い縁の眼鏡掛けてる……。」

 

 

 

「青い縁の?あー、島田君でしょ?島田 優一!変わってるんだよね、その人。」

 

 

 

「変わってる?」

 

 

「そうそう!カバンにね、ヒーロー物の人形入れて持ってるんだ。それが有ると強くなれるんだーって言ってた。でもまぁ……それが一部のヤンチャな奴に知られたせいで虐められてる。」

 

 

 

「…助けないの?誰も? 」

 

 

 

「先生達も見て見ぬフリしてる…私だって怖いもん、次に標的にされるの私かもしれないし……。」

 

 

有紀は彼の事情を知っているだけ話してくれた。島田優一というのが彼の名前らしい。冴月はその事を頭の片隅に入れておいた。準備を済ませると冴月は1人で廊下へ向かう。

そして階段の近くを通り掛かると、優一はそこに居た。昨日と同じで4人の生徒から恫喝されている。昨日見た通りで本人からは何もせず、自分の財布を取り出そうとしていた。

 

 

「カガリ、オレはこれから掟を破る……だから何が起きても絶対に喋らないでよ?」

 

 

 

[…素直に助けるって言えば良いのに。]

 

 

 

「関わるのは今回だけ……アイツが余計な事言うからだ…まったく。」

 

 

冴月は、つかつかと歩いて行くと金銭を取り上げるのも仕事なのかと丁寧に尋ねる。すると不良の1人は冴月を睨み付けると冴月の胸倉を掴みあげた。

 

 

「てめぇッ!女の癖に嘗めてんじゃねぇぞ!」

 

 

 

「……やり過ぎだって言っただけ。カッとなって直ぐ手を出すのは良くないと思うけど?」

 

 

 

「言わせておけば…いだだだぁッ!?」

 

 

 

冴月は相手の手をわざと握らせる様にし、そのまま相手の身体を外側へ倒させた。不良が尻もちをつくと、そこから腕を相手の背中側へ捻り上げた。

 

 

「…階段で騒ぐと危ないから、これくらいにしといてあげる。」

 

 

 

「くそッッ…覚えてろよ!!」

 

 

パッと手を離すと4人は逃げて行った。

それから冴月は優一の方を振り向く。そして彼に手を差し伸べた。

 

 

「…大丈夫?立てる?」

 

 

 

「ッ……ほっといてくれ!!」

 

 

冴月の手を振り払うと優一は何処かへ走り去ってしまった。助けられたのが女の子だったのが気に食わなかったのだろうか?何も解らずに冴月は立っていた。

 

 

[かえって傷付けちゃったかしら?]

 

 

 

「さぁね……おっと、そろそろ行かないと。」

 

 

カガリの言葉を聞きながら冴月は足早に

教室へと急ぐのだった。

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本来なら午後の授業なのだが、優一だけは違った。彼は屋上に1人で座っていた。先程、冴月が介入した事で余計に虐められると思っていたのだ。

そして手に持っていたヒーローの人形を強く握り締めた。

 

 

「誰も…誰も俺を助けてくれない……ヒーローなんて居ない…!アイツらをやっつけてくれるヒーローが居れば……!」

 

 

 

「ヒーロー…ですか。欲しいですか?ヒーローが……。」

 

 

 

そこに居たのは1人の真面目そうな生徒。優一の方へ近寄ると彼を見ていた。

 

 

「貴方は……奥村さんですよね?生徒会の。」

 

 

 

「ええ、そうです…私ならキミの望みを叶えてあげられますよ。ほら、コレを……。」

 

 

そう言って彼が渡したのは赤い持ち手の短刀。銀色の刃が怪しく輝いていた。

 

 

「これで…アイツらを刺すんですか?」

 

 

 

「いいえ、コレをその人形に刺すのですよ。…最もキミが嫌っている者達の事を浮かべながら。生徒会も迷惑してるんです…彼等には特に。だからキミが我々に変わって正義の裁きを与えて下さい。もうキミは虐められる必要は有りません…これからはヒーローとして新たな1歩を踏み出すのです……!」

 

 

優一はその言葉を聞き、目を輝かせていた。彼の言う事全てが気持ち良く聞こえて来る。自分はもう虐められる心配は無い、これからはヒーローとして悪を裁くんだと強く思い込んでいた。

 

 

「解りました…俺、なります。ヒーローに!!」

 

 

 

「…ええ、期待していますよ。島田君。」

 

 

優一は力強く人形へ刃物を突き立てた。

すると刃物から黒い光が放たれ、人形へと取り込まれていく。すると人形は巨大化し、やがて優一の頭1つ分の背丈の大きさとなった。

 

「これが…俺だけのヒーロー…!」

 

 

ぐるりと振り向くと仮面を身に付けた素顔のまま頷く。マスクセイバー、それがこのヒーローの名前。優一が最も好きな特撮のヒーローでもあった。

 

「セイバー…先ずはコイツらを倒そう。俺を虐めた悪い奴等なんだ!」

 

 

 

「ワカッタ…セイギノタメニ……オレハタタカウ…。」

 

 

 

頷くとセイバーは屋上から飛び降りた。

彼の手には不良グループの顔写真が握られていた。秘密裏に優一が撮影した物。それを受け取り、戦いに向かったのだった。

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その頃、冴月と有紀は別の教室で授業を受けていた。移動教室と言っても化学の実験とレポートの説明。冴月にとっては初めての課題となる。真面目にノートを取っていた時、外からガラスの割れる大きな音が響いた。周りもそれに気付き、ザワザワとし始める。

有紀は寝ていた様で、がばっと起きた。

 

 

「嘘!?何、何!?」

 

 

 

「ガラスが割れたらしい…顔にヨダレ付いてるよ。」

 

 

冴月はハンカチを彼女へ渡し、野次馬を退けて窓から外を見た。倒れていたのは先程、此処へ来る前に自分が手を出した不良の1人。そしてその前に立つ何者かの姿が。首には赤いマフラー、それから足元の白いブーツが見える。しかし顔までは見えない。解るのは教師では無いという事だけ。様子を見ているとカガリが突然声を上げた。

 

[不味いわ、冴月!あの子殺される!!]

 

 

 

「はぁ!?ったく…!!」

 

 

冴月は教室を飛び出し、足早に校舎の外へ向かう。咄嗟に近くのバールを手に取ると外へ出た。

 

 

「ひ、ひぃいい!?助けてくれ!誰かぁあ!!」

 

 

 

「オマエハ…ゼッタイ……ユルサナイ。サバキヲクダシテヤル……!!」

 

 

マフラーの男が持っているのは一見、玩具に見えるが間違い無く本物の剣。その証拠に襲われている不良の腕からは血が流れている。

 

 

「カクゴシロ…!!」

 

 

 

「ッ!?うわぁぁぁーーッッッ!! ?」

 

 

その瞬間、ブォンと剣は風を切って不良目掛けて振り翳された。だが、直前に割って入った冴月がバールでそれを受け止めていた。見ていたギャラリーからも若干だが歓声が聞こえる。助ける気は無いらしい。

 

 

「おい、早く逃げろ!何だこの力はッッ…!?」

 

 

 

「ジャマダ!!ドケ!!!」

 

 

 

マフラーの男と競り合っていると不良は一目散に逃げ出した。冴月は振り払うとバールを相手へ向けた。

 

 

「ホラーなら夜にしか活動しないのに…何だコイツ!?」

 

 

 

[…油断しないで、邪気を感じる!]

 

 

 

冴月は様子を伺う。よく見ると顔には仮面を付けており、目元は緑色でV字のバイザーになっている。口元も銀色で何処と無くヒーロー物にも見えた。すると向こうはいきなり喋り始める。

 

 

「ワルイヤツハ…ユルサナイ……オマエモ、ワルイヤツカ!?」

 

 

 

「生憎、そっちの方が悪い奴にしか見えないけど?」

 

 

 

2人は互いに睨み合う。突然、マフラーの男は剣を銃器へ変化させると煙幕弾を放ち、行方を眩ませてしまった。

 

 

「げほッ、げほッッ…逃げられたか……!」

 

 

煙が晴れると既に男は居なかった。

冴月はバールを元あった場所へ返すと教室へと戻って行ったのだった。

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放課後もその話題で持ち切りであり謎のヒーローが不良を倒そうとしていたという話は直ぐに広まった。

冴月も担任から事情を聞かれ、漸く開放された。その足で部活へ向かうとドアを開けた途端に有紀に抱き締められる。

冴月はバタバタともがいていた。

 

 

「大丈夫、弥那瀬さんッ!良かったぁ…ケガとかして無くて!!」

 

 

 

「だから、大丈夫だってば!もう…!!」

 

 

そんなやり取りを室内の男子2人が羨ましそうに見ていた。冴月は目もくれずに離れるとカバンと剣を置き、奥の方へ腰掛けた。もう学校に残っているのは寮を使っている生徒か或いは部活動をしている生徒位。冴月は窓から外を眺めていた。

 

 

「……アイツも動くかな?」

 

 

 

[どうかしら?けど油断は出来ないわね……。]

 

 

カガリと話していると、あーっと有紀が声を上げた。振り向くと何故か慌てている。見る限り余程深刻らしい。

 

 

「やっっば…!ノート買い忘れた……!」

 

 

 

「ノート?購買って未だやってたっけ?」

 

 

それを聞いた竜弘が確認を取る。浩介の話だとどうやら既に閉まっているらしい。ガックリと有紀は肩を落としてしまった。すると楓がふと思い付いたのか話始める。

 

 

「ま、未だ外出時間は有るから買ってくれば?此処からなら近いと思うし。」

 

 

 

「それだッ!楓ナイス!!でもなぁ…外怖いし、変なのに絡まれるのも嫌だし……誰かついて来てくれないかなぁ?」

 

 

 

「じゃあ俺が一緒に行くよ、有紀ちゃん!」

 

 

 

「ええー?浩介はパス。竜弘君は日誌纏めて貰わないとだし…楓もその手伝いだし……残ってるとすれば…。」

 

 

有紀は冴月の方へ視線を向ける。偶々、振り返った冴月と目が合い、本人は首を傾げていた。

 

 

「弥那瀬さぁん、お買い物付き合って!」

 

 

 

「…良いよ。」

 

 

 

「やった!ラッキー♪財布も携帯も持ったし…じゃあ行って来るね!」

 

 

 

有紀は冴月の手を引いて廊下へと出て行った。竜弘はその様子を見ると珍しい事もあると思っていた。間違い無く自分なら嫌な顔をされるからだ。何故か有紀だけはそういう顔をしないのを不思議に思いつつ、その横でブツブツ言ってる浩介を見ながら苦笑いを浮かべていた。

 

 

その頃、2人は街中を歩いていた。

学校から歩いて大体20分位の所に文房具を扱う店が有る。冴月は有紀の横を並んで歩く。家路に着くサラリーマンや学生達も居れば、寄り道してファーストフード店等のお店に寄る若者の姿もちらほら見える。

 

 

「着いた着いた…じゃあパパっと買って来よう!」

 

 

 

「……はいはい。」

 

 

建物の中へ入り、エレベーターへ乗り込むと3階へ。そこに目当ての店があった。有紀が買い物をしているのを近くで見ながら冴月は辺りを見回していた。

するといきなり目の前にネックレスを突き出され、有紀がニコニコ笑っていた。

 

 

「一緒に付けようよ、きっと似合うと思う♪その…迷惑じゃなきゃ弥那瀬さんの事、下の名前で呼んで良い?私の事もそれで良いからさ。どうかな?」

 

 

 

「……呼びたければ好きにすると良い。外で待ってる、人混みは苦手だから。」

 

 

冴月は頷くと先に店の外へ出た。

そして1人の男を追い掛けて階段から上へ上がった。というのも、さっき店内で優一に絡んでいた別の不良を見つけたのだ。もしかしてと思い、後を付ける事にしたのだ。

 

この建物は5階建てとなっており、4階はゲームセンター。5階は屋上のある駐車スペース。不良はゲームセンターでは無く、屋上へ向かった。

冴月は屋上の入口へ潜み、剣の入った布袋を手に持つ。

 

 

「…何だよアイツ、急にこんな所へ呼び出しやがって……!!」

 

 

駐車場の真ん中で不良はキョロキョロと見回している。するとガチャガチャと足音を立てて、柱の影から今朝見た男が姿を現した。

 

 

「ヤクソクトオリニ キタナ……。コンナ ガッコウノクズデモ ジカンハマモレルノカ……。」

 

 

 

「うるせぇ!それより他の奴等はどうした!?タカシも、トモカズも、それからヒロシも!!てめぇがやったのか!?」

 

 

 

「……アイツラカ? アア…トウゼンダロウ? ゴミハ キレイニソウジスルノガルールダロウ……?オマエデ サイゴダ…フジムラ カイト!!」

 

 

 

「ふざけてんじゃねぇぞコラァ!!」

 

 

 

カイトはマフラー男へ殴り掛かる。

だが拳は受け止められ、振り払われると首を掴まれてしまう。

 

 

「うッ!?あッ…うぁッッ……!!?」

 

 

 

 

「イセイガイイノハ コエダケカ…オマエダケハ ブザマナ サイゴニシテヤル……。」

 

 

男はカイトの首を掴んだまま、駐車場の外へ突き出した。下は勿論、コンクリート。叩き付けられればケガでは済まされないだろう。

 

 

「わ、悪かったッ…謝るから!謝るから……!!」

 

 

 

「イマサラアヤマルノカ…?オトナシク……シネ!」

 

 

 

バッと手を話した。するとその瞬間、カイトの身体は宙に浮いたと思うと落下。だがスレスレで飛び出した冴月が彼の手を辛うじて掴み、何とか助けた。

 

 

「しっかり掴まれッッ…!! 」

 

 

女の握力で男を助けるのは難しいのは解っている。しかし、例えどんなクズだろうと助けなければ自分の騎士としての名が廃る。

 

 

「ナゼタスケル…!オマエハ…コイツガニククナイノカ!?」

 

 

 

「オレが助けると決めたら助ける…それだけだッ……!」

 

 

無理矢理、引き上げるとカイトは助かった。冴月は彼に逃げる様に伝えると一目散に逃げて行った。その場に残されたのは冴月とマフラーの男の2人。

 

 

「…お前の正体は解ってる。全て仕組んだのはキミでしょう、島田君。」

 

 

冴月はじっとマフラーの男を見ていた。すると男の左後ろから姿を現した。

 

 

「良く解ったね……そうだよ、俺がやったんだ!」

 

 

 

「…目的は彼等への復讐?」

 

 

 

「ああ、そうさ!!俺がアイツらに虐められてるのを皆は無視し続けた…先生も取り合ってくれなかった……俺の味方なんか最初から居なかったッ!ずっと苦しくて、ずっと辛かった…その気持ちがお前なんかに解るもんか!!」

 

 

 

「……確かに、オレはキミの辛さや苦しみは解らない。だからってやり返す事が本当に正しいとは思わない。キミがやってるのは…奴らがキミにしていたのと同じ事。」

 

 

 

「黙れ…お前だって俺を見捨てた癖に!!ソイツもやっちゃえ…セイバァアアッッーー!!!」

 

 

その瞬間、セイバーと呼ばれた男は咆哮した。そして冴月の方へ歩み寄る。

冴月はポケットから鈴を取り出し、鳴らしてみるが優一はどうやらホラーでは無い。となれば、目の前の男こそがホラーだろう。

 

 

「オマエニモ…サバキヲクダシテヤル!!」

 

 

 

「…来いよッッ!!」

 

 

セイバーは殴り掛かり、拳を繰り出す。冴月は素早く身を躱して避けると顔面へ拳を繰り出した。しかし、通用している気配が無い。バイザーが一瞬、光ると冴月の腹部へ鋭い蹴りが放たれた。

冴月は吹き飛ばされ倒れてしまう。

 

 

「フフフ…ドウシタ? ソノテイドカ?」

 

 

 

「ッ……まだまだ…!!」

 

 

 

今度は布袋から剣を取り出して斬り掛かる。冴月は適切な間合いを測ると飛び上がり、頭上から剣を振り下ろした。しかし向こうも剣を構えており、防がれてしまった。刃の擦れる音と火花がチリチリと飛沫する。距離を取ると今度は何度も互いに切り結ぶ。金属音が辺りに響き渡り、何度も何度もぶつかり合う。

 

 

「どうだ、俺のセイバーの剣さばきは!!あんな奴、切り刻んでしまえ!!」

 

 

「ウォオオオッッッーーー!!!」

 

 

 

セイバーが剣を振り上げ、冴月へ重い一撃を繰り出す。冴月も防御するも払われない様にするのがやっとだ。その間もギリギリと力が込められていく。

 

 

「それで良いの…本当に?キミは…未だ引き返せるッッ……!そこから先は終わりの見えない悪夢が続いて……キミはずっと囚われる……!!やられたらやり返してやりたい…その気持ちも解る……けれど、それじゃあ何も変わらない……!!」

 

 

 

「五月蝿い…黙れ黙れ!!偉そうに説教なんかするなぁああッッッーーー!!!」

 

 

 

セイバーは無理やり冴月を跳ね除けると

冴月を何度も殴り、蹴り続けた。

倒れた冴月を見るとゆっくり離れていく。

 

 

「はぁ…はぁ……ッ、これで良い…これで……!俺は強くなったんだ…誰よりも!!」

 

 

 

「…ジャア、モットツヨクナロウ?ユウイチ……。」

 

 

 

「は?何を言ってるんだ……!?」

 

 

 

「オレト ヒトツニナルンダ……ソウスレバ、キミハ モウ ダレニモバカニサレタリシナイ…イジメラレナイ……!」

 

 

 

そっとセイバーは手を差し伸べる。

それを手に取ろうとした時、冴月の言葉が脳裏を掠めた。

 

 

(そこから先は終わりの見えない悪夢が続く。)

 

 

優一は躊躇っていた。だがセイバーは彼の手を掴むと無理矢理、引きずり込もうとする。

 

 

「ダマッテ…オレニ…クワレロ……!!ナニモ…カンガエルナ……オマエハ…オレノ……エサダッッ!!」

 

 

 

「やだよッ!止めろよ…誰か……誰か助けてくれぇえッッーー!!」

 

 

その瞬間、セイバーは苦しみながら後退った。よく見ると肩に剣が刺さっていた。

 

 

「……やっと言えたね、助けてくれって。」

 

 

冴月が立ち上がっていた。口元を拭うと優一へ近寄り、彼の前へ立つ。

 

 

「声にしなきゃ…動き出さなきゃ……何も始まらない。キミの痛みや辛さはアイツを通して全部解った……大丈夫、キミはもう1人じゃない。」

 

 

 

「ヨクモ…ヨクモ……アトスコシデ クエタノニ……!!」

 

 

 

セイバーは緑色の血を流しながら立ち上がる。そして2人を睨み付け、襲い掛かる。冴月は彼の背を押して優一を逃がすと攻撃を避けた。そして隙を見て剣を奪うと鎧を纏い、着地した。

 

 

「キサマ……!!?」

 

 

 

「…行くぞッッ!!」

 

 

剣を相手に向けると蒼牙は走り出し、斬り掛かる。セイバーも再び剣を構えると走り出し、そのまま互いにぶつかり合う。ギリギリと鍔迫り合いが続くとそれを振り払う。一方のセイバーは剣から銃へ切り替えると数発、発砲する。

 

 

「そんなモノでッッ!!」

 

 

 

飛んで来た弾を剣で切り裂くと分割された弾が火花を散らして落下する。

すると蒼牙は剣を正面へ持ち、更に横へ構える。そして魔導火の炎を剣へ走らせると剣は美しいオレンジ色の炎を纏った。

 

 

「…これで終わりにしよう。お前達の陰我、オレが断ち切るッッ!! 」

 

 

 

「グッッ……ナメルナァア!!」

 

 

 

セイバーは左手にも剣を持ち、再び斬り掛かる。そこから互いに何度も切り結んだ。両手の剣をセイバーが振り上げて押し付け、蒼牙を力で押そうとするのだが直後に振り払われてしまう。そして頭部から股下目掛けて剣を振り下ろされ、一刀両断された。身体にはそのまま炎が燃え移り、焼かれていく。

 

 

「オレ…ハ……ッッ!!?」

 

 

 

「何も喋るな。そのまま燃え尽きろ…憎しみと共に…。」

 

 

セイバーは燃え尽きた。冴月は鎧を解くと膝をついて座り込んでしまった。

 

 

[バカね、死ぬ気!?全く…無茶するんだから……!!]

 

 

 

「仕方ないだろ…ああでもしなきゃ、アイツは立ち直れなかった。」

 

 

 

[だからって…はぁ……。]

 

 

そんな話をしていると有紀が駆け寄って来た。ずっと探したんだと軽く説教されてしまった。ボロボロなのも色々聞かれたが、冴月は何とか誤魔化して2人はその場を後にした。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ー翌朝ー

 

優一を虐めていた不良らは重傷を追ったが命に別状は無かった。

そして唯一、無傷だったカイトは優一へ教師を通じて謝罪。その後、停学処分となった。一方の冴月は頬に絆創膏、それから両足に包帯、腹部にも湿布を貼るという状態になってしまった。

竜弘は彼女と共に部活の資料を運んでいた。

 

 

「大丈夫?弥那瀬さん…ボロボロだけど?」

 

 

 

「大丈夫だ、これくらい慣れてる……。」

 

 

 

「その…あんな事言ってごめん。人の心が無いとか何とか……。」

 

 

 

「……オレの方こそ悪かった。偽善者って言った事は取り消す。掟だけじゃ守れない事も有るってよく解ったから。」

 

 

2人は会話をしながら廊下を歩く。

部室へ入ると普段通り賑やかだった。

冴月は普段通り自分の席へ座り、足を組むと外を見ていた。

 

 

「冴月!ほら、この前の奴!渡しそびれちゃったから。」

 

 

有紀に呼ばれるとぽいっと何かを手渡される。開けてみると三日月の飾りの付いたネックレスだった。

 

「…付けてみてよ、絶対似合うから!」

 

 

 

「……こう?」

 

 

 

試しに首から下げる。するとニコニコと笑いながら有紀がうんうんと頷いている。すると冴月は突然呟いた。

 

 

「…やってくれるんでしょ?歓迎会。その……何だったら参加しても良い。」

 

 

 

「え!?ホント!?やった!良かったね、竜弘!」

 

 

 

「……但し、騒ぎ過ぎるのは勘弁。五月蝿いのは好きじゃない。」

 

 

冴月は浮かれて喜んでいる他の3人を見て少し笑っていた。少し出て来ると冴月は呟き、部室を後にする。

そのまま廊下を進むと曲がり角で優一と出会した。

 

 

「あ…えっと……。」

 

 

 

「弥那瀬。弥那瀬 冴月…オレの名前だ。」

 

 

 

 

「その、ありがとう…弥那瀬さん。俺…!」

 

 

 

「オレは何もしてない…島田君が自分で決めた事。それと…良かったら部活に来てくれない?オレ、騒がしいの余り好きじゃないからさ。」

 

 

冴月は優一の方を見ると少し頭を下げた。そしてクイクイと右手の親指まで後ろを指した。

 

 

「良いの?でも、迷惑なんじゃ……?」

 

 

 

「言ったでしょ?…キミは1人なんかじゃない。そもそも、人は1人じゃ生きて行けない…誰かの支えが有るからこそ生きて行ける。」

 

 

 

「解った。掛け合ってみるよ…岡本君と!」

 

 

冴月は頷くと優一は彼女の方を通り過ぎて行った。冴月は暗い廊下で1人、窓の外から校舎を眺めていた。

他人との関わりを避けて来たが自分の中でも少しずつ何かが変わって来ているのを感じていた。

 

何があってもアイツらはオレが必ず守る。

 

そう強く心に思いながら、決意を新たにしたのだった。

 

 

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