牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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法師-SYANA-

思い出した事は殆ど無い

遠い昔の記憶。

未だ彼女が剣を持つ前の話。

嘗ては屋敷の様な家に家族4人で住んでいた。母は魔戒法師、父は魔戒騎士。姉もまた優秀な魔戒法師だった。ただ1人、彼女だけは違った。

父と共について行く事で日増しに父への憧れが強くなった。日が暮れるまで、剣術も教えて貰った。その家族は笑顔が絶えない程、仲が良かった。

 

しかしある日を境に全てが変わった。

父と姉の行方は突如として知れなくなってしまったのだ。別の日に家に来たのは父の弟子を名乗る騎士。彼は父がコレを残して消えたと言い、青い鞘の剣を持って来た。父が魔物と戦う時に使っていた剣。この家の家系は女人が多く、鎧を継ぐ存在が居ない。此処で血が途絶えるというのは目に見えていた。

すると、少女は悲しむ母へ話し掛けた。

 

 

「私が父さんの鎧を継いでみせる、だから母さんは泣かなくて良い。」

 

 

母は最初呆気に取られたが、その後彼女にある術を施した。それは転換の刻印と呼ばれる物。即ち、性別を女なら男と逆で認識させる事が出来る。

 

しかしそこから先、何が起きたかは覚えていない。母もいつの間にか消え、気が付いたら八千代という女性の元で彼女は目を覚ましていた。これは未だ冴月が10歳の時の話である。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

話が変わって今。

竜弘達オカルト同好会は廃墟に来ていた。活動報告の成果を上げる為だ。

しかし、何か大きな発見をした訳でも見つけた訳でも無い。冴月も懐中電灯を持たされていた。新メンバーの優一を含めた男子3人はガチャガチャと色々弄っている。尚、女子3人は後方で待機。

冴月は竜弘へ声を掛ける。

 

「…岡本君、同好会は不法侵入も平気でするの?」

 

 

 

「仕方ないだろ、こうでもしないと…入れないんだからッ…よし、開いた!」

 

 

 

「ほ、ホントに大丈夫?」

 

 

 

「ビビりだなー、島田は!大丈夫だってば!お嬢さん方、行くぞー!」

 

浩介の合図で男子3人は中へ入って行く。女子3人も続いて中へ。場所は既に廃墟になった病院。中はガラスが割れていたり、医療器具が散乱していた。

 

 

「…有紀、あまり引っ付かないで。歩きにくい。」

 

 

 

「だって怖いもん…冴月は平気なの?楓ちゃんもビビらないし……。」

 

 

 

「慣れてる…化け物なら特に。」

 

 

 

「わ、私も怖い映画見るから…平気。」

 

 

 

冴月は辺りを見回しながら進む。男子らは先に先行している為、距離が少し離れている。明かりの無い廊下を進み、続いて部屋を散策する。病室も荒らされており、ボロボロだ。冴月も懐中電灯で中を照らしてみる。

 

 

[怪しい気配は感じないわ。大丈夫ね。 ]

 

 

 

「…ヤツらの住処じゃないだけマシだな。」

 

 

 

「うっわ……ホントにお化け屋敷みたい…。」

 

 

有紀は部屋の中を見回す。ベットは4つあるものの、全てシーツや布団は無かった。骨組みだけだ。部屋を出ると再び廊下を進む。

 

 

「ひッ!?今何か音がしなかった!?」

 

 

 

「気の所為。行こう、長居したくないなら兎に角歩く事。」

 

 

続いて女子3人が来たのはナースステーション。やや大きめの作りで、何でも勝手にナースコールが鳴ったりする噂がある。冴月は辺りを見回し、2人を後ろに色々見て回る。

 

 

「弥那瀬さん凄いね…本当に怖くないの?」

 

 

 

「まぁね……此処も大丈夫そうだから行きましょう?」

 

 

パネルを一通り見てから出ると急にプルプルと音が鳴り出した。有紀はひぃっと冴月へ飛び付いて来る。パネルがチカチカ付いてるのは404号室だった。

 

 

「ど、どうするの!?ねぇ!?」

 

 

 

「イタズラかもしれない…こういうの高橋君やりそうだから。」

 

 

 

「でも、廃墟なのに…電気未だ通ってるのかな?」

 

 

確かに廃墟なのに通電しているのは可笑しい。それなら、他の電気のスイッチも押せば点く筈だ。しかし明かりは点かなかった。何度押してもカチカチと音がするだけ。

 

 

「やっぱり幽霊だって!神様、仏様、たすけてぇッ……!!」

 

 

 

「弥空さん、有紀をお願い。オレが見て来る…もし危なくなったら直ぐに逃げて!」

 

 

階数を確認し、冴月だけ4階へ向かう。

今居るのが2階。病院自体は10階建ての為、階段で上がるしかない。エレベーターなんざ動いている訳が無いのだ。

急ぎ足で階段を上がり、4階へ辿り着くと足音を殺して歩く。

 

 

「401…402…403…404、此処か。」

 

 

 

[…用心して、ホラーなら斬るのよ!]

 

 

 

「解ってる……!」

 

 

部屋の前へ来ると、やはり中からプルプル鳴っている。ドアへ手を掛け、横へスライドさせると開けて中に入る。しかし誰も居ない。

 

 

「……イタズラか?全く、趣味の悪い。」

 

 

 

「冴月ッッ!!」

 

 

いきなりカガリが叫んだ。すると入って来た後ろからメスが飛んで来る。それを咄嗟に飛び退いて避けた。

 

 

「誰だッ!?」

 

 

振り向くものの、誰も居ない。

冴月は廊下へ戻るもやはり居ない。

カガリでもホラーの気配は感知出来なかった様だ。

 

 

「…戻ろう、有紀達が心配だ!」

 

 

冴月は階段を降りて2階へ。

悲鳴が聞こえると走って元居た場所へ戻って来た。

 

 

「さぁつきぃ…!!竜弘君が…竜弘君が変な子に捕まったって……!」

 

 

 

「変な子?…兎に角、オレ達も此処を出よう!嫌な予感がする。」

 

有紀が冴月の片手を掴んで泣き叫ぶ。

抱き着いて固まっていた2人と共に急ぎ足で階段を降りて来た道を引き返す。

そして外へ出ると門の前に誰かが居るのが解る。冴月は2人を自分の後ろへと追いやった。

 

 

「誰です?私の実験場へ勝手に入る輩は……不法侵入ですか?」

 

 

 

「実験場?気味が悪いな…こんな廃墟を実験場にするなんて。お前こそ誰だ?」

 

 

 

「侵入者に名乗る名前は有りませんッ!!」

 

 

すると銃の様な物を取り出し、発砲して来た。冴月は剣を取り出すと弾を刃で弾く。今度はそれを撃ちながら冴月へ接近し、右足による蹴りを繰り出す。冴月は左腕で蹴りを防ぎ、反撃として剣を振り翳した。しかしその一撃を飛んで躱し、後ろへ下がると今度は筆を取り出して逆手に持った。だがこれ以上の攻撃はして来なかった。

 

 

「…冴月殿?冴月殿ではありませんか!」

 

 

 

「へ…?紗那なのか?」

 

 

 

「はいッ!私です!!まさか本当に騎士になっていたとは……!」

 

 

 

紗那と呼ばれた少女はぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。とは言え、他は呆気に取られていた。そして冴月は諸々の事情を全て説明した。

 

 

「成程、つまり冴月殿の御学友という事ですね?」

 

 

「そうだけど…話し方、普通に成らないの?同い歳なのに。」

 

 

「そうは参りません、騎士のサポートをするのが私の務めですから!」

 

 

紗那が笑っていると有紀が冴月へ近寄り、話し掛けてくる。

 

 

「この目隠れっ子も冴月の知り合い?」

 

 

 

「まぁ…そういう所。幼馴染みって奴。」

 

 

肩辺りまでの紫髪であり前髪で右目を隠している。目の色は透き通る様な水色。そのニコニコ笑う姿は今時の子と変わらない。服装はへそ出しの黒いタンクトップに長袖の上着。これも黒。更に右足にはホルスターが有り、ブーツもヒール付き。これまた黒色。 ほぼ全身黒だ。

 

 

「それで…何で此処を実験場に?」

 

 

 

「実験場というよりは武器の開発とかですよ。魔導銃とか色々。」

 

 

 

「……またそんな危なっかしいのを作ってるの?」

 

 

 

やれやれと思っていると冴月を押し退けて浩介が紗那へ近寄って来た。無論、冴月が初めて来た時も同じ事をしている。

俺の彼女にならない?とか何とか色々聞いているが、全て軽くあしらわれてしまった。

 

 

「冴月殿、彼も御学友なのですか?」

 

 

 

「そうだよ…だいぶ変わってるけど。」

 

 

竜弘は話よりも此処を早く離れようという事で全員はその場を離れた。

ガッカリしていた浩介もトボトボと歩き出した。

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月ヶ丘生徒会_書記、奥村マコト。

彼は成績優秀な学生だった。

勉強、特に数学に関しては右に出る者も居ない。余り誰かと関わろうとはしないのだが生徒会長に誘われ、彼はメンバーになった。マコトもまた変わった思想を持っていた。何故なら自分以外の者を全て下に見ていた。力の無い者は力の有る者に跪いて当然であり支配されるのが妥当なのだと。

 

しかし彼は少し焦りを感じていた。

ホラー・ベルゼブ、ホラー・フェルム。それらも相次いで倒されてしまったからだ。自分達の理想郷を生み出す為に必要な〈紅き雫〉。それを集めなければ成らない。

 

マコトは1人で明かりも点けず寮の部屋で考えていた。

 

 

「……残るカードもあと僅か。集まった雫は小瓶2つ程度。結晶化するには後3つ足りない。学校は陰我が溜まり易い…嫉妬、妬み、暴力……だからこそホラーも生み出すのも簡単という訳です。」

 

 

マコトは水槽へと近寄る。そして魚を1匹捕まえるとそれに何かを霧吹きで吹き掛ける。すると魚はマコトの手を離れ、裸の少女へと変化した。腰まで有る髪はオレンジ色、未だ16歳位にも見える。目は黒く、美しい。

 

 

「……丁度良い機会です、アレを試しましょうか。キミの名前は真宮朱音とします。キミの役目は…魔戒騎士を探し出して殺す事です。良いですね?」

 

 

 

「……。(コクン)」

 

 

裸の少女は小さく頷いた。

そして部屋に有った学校の制服の写真を見つめるとそれを何処からとも無く出現させて着た。上は白いワイシャツに青い蝶リボン。スカートは紺色。更に専用の上履きも。

マコトが背を向けると彼女もその場を後にした。

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校門前で竜弘、浩介、楓と別れると

紗那は冴月と有紀について来た。

そして2人が相部屋としている部屋に招かれる。

 

 

「紗那はどうするんだ?…やっぱり此処に通うのか?」

 

 

 

「当然、そのつもりです!お師匠からもセーシュン?を楽しんでらっしゃい!と……。」

 

 

「セーシュン?……何だそれ。」

 

 

 

「あ、青春の事でしょ?学生生活楽しんで来い!って事だよ。」

 

 

有紀は2人の近くにあるテーブルへ飲み物を置いた。持って来たのは普通の市販のオレンジジュース。

紗那は珍しいのかじっと見ている。

 

 

「おぉ…?これは変わった色の水ですね……。」

 

 

 

「オレンジって果物の汁を搾った飲み物…って言えば伝わる? 」

 

 

 

「ふむ…どれどれ……んくッ、んん…少し酸っぱいですが美味しい物ですね、コレ。」

 

 

紗那はニコニコして有紀を見ていた。

冴月は黙ってそれを飲むとコップを置く。ふと時計を見ると19:30になっていた。

 

 

「しかしまぁ…オレンジジュース知らないなんて意外だったなぁ。何処かで飲んだ事無いの?」

 

 

 

「私は幼少期から修行の身でしたから…あまりそういう事を知らないのです。そこは冴月殿も同じですよね?」

 

 

 

「ふぅん…修行って何の?」

 

 

 

「ん?まぁ……色々だよな?」

 

 

 

「ええ、色々ですよ?」

 

 

 

2人は顔を見合わせると誤魔化した。

有紀に的確に伝える方法が無いのと、変にバレると色々面倒だからだ。

その後、有紀の勧めで紗那と冴月は寮に有る共同風呂へ連れて行かれた。

湯船に浸かりながらでも話は2人の事ばかり。

 

 

「それでさぁービックリしたんだよ?冴月、髪乾かさないでタオルで拭いただけでベッドに座ってて、結局私が乾かしたんだよ?本人はオレは気にしてないから別に良いいって言ってカッコつけてさー!」

 

 

 

「ちょッ…今その話する!?」

 

 

 

「冴月殿、昔は髪が短かったですしその時の癖ですよ。乾かさないのはお師匠にも愚痴られてましたしねぇ?しっかしまぁ広い風呂ですね。」

 

 

 

「でしょー?ウチの学校の自慢出来る所の1つなんだ♪女の子同士でこうやって喋ってても怒られないし……ちょっと戯れても怒られないもんね!」

 

 

そう言って有紀は冴月の方へ手を伸ばす。すると近くの桶を手にした冴月は凄い目で有紀を見ていた。

 

 

「…変な事したら殺すよ。」

 

 

 

「こっわ…前から思ってたけど冴月の身体ってどうしてそんな傷が多いの?」

 

 

 

「修行…それでこうなっただけ。さ、早く洗って出よう。長居するとオレが逆上る……。」

 

 

冴月は立ち上がると先に湯船を出た。

それに続いて2人も出ると一通り済ませ、髪を乾かしてから3人は廊下へと出た。

 

 

「いやぁー、さっぱりした♪やっぱお風呂が1番!」

 

 

 

「風呂が1番とは吾妻殿も変わってますねぇ……。」

 

 

2人が先に歩くと後から冴月が来る。

右目の視界端に誰かが通った気配を感じた。

 

 

「……ん?」

 

 

 

[どうかした?]

 

 

 

「いや…気の所為だった。」

 

 

 

「何してんのー、置いてくよー?」

 

 

 

有紀が声を掛けると冴月は少し小走りで追い付く。部屋へ戻ってからも話のネタは尽きなかった。結局、3人が寝たのは深夜だった。

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ー翌朝ー

 

冴月は毎朝の鍛錬の為、自分だけ早起きして外へ。寮の裏手にある一角にて自分で自作した器具を使用し戦っていた。

丸太を3箇所、正面と左右に吊るしてそれを木刀で弾いたり体術で蹴り返すといった単純に見えて難しい物。

最近、的への打ち込みからこれに切り替えた。

 

 

「はぁッ!!ふぅッ…!!」

 

 

木刀を打ち込む音、それから蹴り上げた時の鈍い音が響く。

無論、丸太が直撃すればタダでは済まない。有る程度トレーニングをしていると視線を感じる。見られた?と思うと冴月は丸太を止めた。

 

 

「素人が近寄るとケガじゃ済まないぞ?」

 

 

木刀を片手に振り向くとオレンジ色の髪をした少女が木陰から出て来た。

服装から見るに同じ学校なのは間違い無い。

 

 

「……キミは?」

 

 

 

「……。」

 

 

 

少女は何も言わずに走って何処かへ行ってしまった。不思議そうに背中を見送った。

 

 

「…変わった奴も居るんだな。」

 

 

 

[冴月も十分変わってるわよ?]

 

 

 

「うるさいぞカガリ。さ、鍛錬の続きだ。」

 

 

再び構え直し、鍛錬を暫く続けた。

時間になると冴月は他の生徒に紛れて自分のクラスへと向かう。

 

しかし先程見掛けた生徒の話は誰もしていない。どうやら転校生では無い様だ。

ぼーっと1人で考えしまう。

 

 

[気になるの?さっきの子が。]

 

 

 

「ん?まぁね……。」

 

 

 

[少なくとも私の見立てでは人間よ。彼女は。]

 

 

 

「……人間か。」

 

 

 

「あ、弥那瀬さん。ちょっと良いかな?」

 

 

考え事をしていると教室の外から竜弘に呼ばれ、冴月は彼と共に廊下を歩いて行く。未だ朝のHRには時間が有る。

 

 

「そう言えば、転校生について何か知ってる?」

 

 

 

「転校生?紗那じゃ無いのか?」

 

 

 

「僕のクラスに来たんだ、確か真宮朱音さんっていう人。何かこう…人間っぽい感じがしないっていうか……?」

 

 

 

「お前な…失礼だぞ?そんな奴だとしても人間だ。」

 

 

 

「解ってるけど何か気になってさ。弥那瀬さんなら何か知ってると思って。」

 

 

 

「そう言うのは情報通の有紀か高橋君に聞けば済むだろう?」

 

 

 

「それが…吾妻さんは紗那さんと図書館行ってて、浩介も知らないって言うし……。」

 

 

 

「……オレも知らない。逆に気にしてた所だ。それより、活動報告書は出来たのか?提出期限は今日だっただろ?」

 

 

 

「大丈夫、さっき出したから!それじゃ僕は戻るね…また放課後!」

 

 

チャイムが鳴り、竜弘は走って先に教室へ戻った。冴月も来た道を引き返して教室へと戻るのだった。

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そして放課後。

冴月だけ日直の仕事を任されていた事から遅れて自分の教室を後にする。

オマケに清掃当番も被っていた事から余計な労力を使う羽目になってしまった。

 

 

「…日直なんて出来ればやりたくないんだけど?」

 

 

 

[郷に入っては郷に従え、そういう事よ。此処のルールだもの…従うしか無いわ。]

 

 

 

「はいはい…カガリは真面目だね。」

 

 

廊下を進むと何やら騒がしく、人集りが出来ていた。冴月も近寄ると野次馬を退けて見える位置へ。するとそこに有ったのは学生服、それから上履きだった。しかも5人分。肝心な持ち主は居ない様だ。

 

 

「これは……?」

 

 

 

[衣服だけ残して消えた。そう考えるのは無理そうね…。]

 

 

 

「ああ…そうだな……。」

 

 

冴月はその場から離れると部室へと向かう。歩いていると何処からか視線を感じた。それも今朝感じたものと似ている。

 

 

「…また今朝の奴か?或いはホラーか……!」

 

 

 

広間の中央で立ち止まると階段の上、廊下の隅、それから自分の後ろ。あらゆる場所へ気を配り様子を伺う。

コツンと音がした途端、冴月は自分の右側へ左手の拳を繰り出した。

 

 

「ひゃあッ!?な、何するんですか冴月殿ぉ!!?」

 

 

 

「何だ…紗那か。」

 

 

 

「何だでは有りませんよ!もーう…殺されるかと思った……」

 

 

 

「悪かった……それより、此処に来る時に誰かに会わなかったか?」

 

 

 

「え?いいえ、特には……。」

 

 

冴月は頷くと紗那と共に部室へ。

話しながら歩く2人の後ろ姿を朱音は静かに見ていた。

そして、じゅるりと舌で上唇を舐めると姿を消した。

 

部活と言っても普段は雑談がメインなのだが、今日は珍しく部活らしい活動をしていた。以前向かった先の病院でナースコールが勝手に鳴ったという物、それから冴月目掛けてメスが飛んで来たという物。無論、投げたのは紗那では無かった。竜弘は話を纏めると自分から切り出した。

 

 

「じゃあそうなるとやっぱり…幽霊?」

 

 

 

「やっぱりそうだって!!」

 

 

 

「幽霊か…それとも物の怪の類いでしょうか?」

 

 

 

「オレを刺す気だったのは間違い無い…それか知られたくない何かが有るんだろうな。」

 

 

浩介も楓も変な現象と立ち会ってる事から4人の話に頷いていた。そして話は意外な方向へ向いて行く事になる。もう一度、あの現場に行こうという事になった。当然の事ながら紗那はついて行くとし、残りの人数を決める。冴月は自分も行くと言い出し、残りはジャンケンで。

決まったのは竜弘。

 

紗那、冴月、竜弘。この3人で再び廃墟の病院へ向かう事に決まった。

 

 

「良かったな竜弘!美人2人と廃墟でおデートとは!」

 

 

 

「高橋殿、そういう意図は含んで居ませんよ?悪魔で調査です!調査!!」

 

 

 

「高橋君のそういう下世話な発想は尽きる事ないからね……全く。さ、行こう。」

 

 

3人はそれぞれ支度すると有紀達に見送られながら部室を出て校舎の外へと歩いて行った。

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ー廃病院ー

 

学校から離れた森の中に有る廃墟。

10階建ての病院なのだが、かなり前に廃墟と化してしまった。理由は不明で噂によると医療ミスによる患者数が減っただの怪しい人体実験をしているのではと

噂が耐えない。それを見つけて来たのは同好会一の自称遊び人、浩介。

 

もう辺りは薄暗くなっている事から懐中電灯で照らしながら3人は向かった。

 

 

「カメラはOK…よし、入ろう。」

 

 

 

「紗那は後ろを。オレは先行する」

 

 

 

「はいッ!お任せを!」

 

 

院内は昨日来た時と同じでガラスは散乱し、落書きも多い。それに空気もひんやりと冷たい。階段を上がり4階へ向かうと例の404号室へ。紗那が部屋の外で待機し、冴月と竜弘が中へ。

 

 

「…あった、コレだ。未だ新しいな……このメス。」

 

 

 

「ホントだ…でも誰が?」

 

メスを拾うと竜弘はそれをジロジロ見つめる。一方の冴月は室内を手探りで触り、怪しい所を探していた。しかし何も怪しい所は無い。

2人は部屋から出ると紗那と合流した。

 

 

「どうでした?」

 

 

 

「…僕からは何とも言えない。弥那瀬さんを狙ったイタズラかもね。」

 

 

 

「……いや?そういう訳でも無さそうだ。」

 

 

冴月が呟くと階段を誰かが降りてくる。

そこに居たのはスクラブという手術用の服を着た男性。俯いている為、顔は解らない。

 

 

「ま、まさか幽霊!?」

 

 

 

「…紗那ッ!!」

 

 

 

「はい…!せやぁあッ!!」

 

 

 

冴月の合図で紗那は筆を取り出し、印を結ぶと横一線へ振る。すると光が飛び、男の目の前でその光が弾けると男が顔を上げる。両方の瞳にはホラーの刻印が浮かんだ。

 

 

「やはりホラーか…!!」

 

 

 

「でも、紗那さんが来た時には居なかったんじゃ無いの!?」

 

 

 

「恐らく…何かの拍子で紛れ込んだのでしょう。岡本殿、私達から離れないで!」

 

 

竜弘を守る様に左へ冴月、右に紗那とそれぞれ構えた。右からは顔色の悪いナースが数人上がって来た。男を含め、ざっと8人。

 

 

「私達の病院…食場を荒らすのはお前達か?」

 

 

 

「…どういう意味だ。」

 

 

 

「私達医者は人間を直すのが仕事…だが、その病を治した人間、そして彼等の家族が感謝し喜ぶ姿を見ながら喰らうのが美味なのだ……!」

 

 

 

「悪趣味が過ぎるな…悪いが理解出来ないッッ!!」

 

 

歯を食いしばり、冴月は剣を抜いて走り出すと男へ斬り掛かった。すると男はメスを指の間に三本挟むとそれを受け止めて冴月と競り合う。

 

 

「ほぅ…この甘い香りといい…この身体の細さといい……貴女、女性ですね?女性の魔戒騎士の肉は初めてですが…美味そうですねぇ!!」

 

 

 

「ふざけるなぁあッッ!!」

 

 

 

何度も何度もぶつかり合い、競り合う。

一方の紗那は筆の代わりに銃を取り出し、慣れた手つきで弾を込めた。

 

 

「く、来るよ…紗那さんッ!?」

 

 

 

「大丈夫、お任せを!さぁ…先に召されたいのは何方ですか?この魔戒法師…紗那がその悪しき心を打ち砕いて魅せましょう……悪鬼退散ッッ!!」

 

 

クルクルと銃を回すと1人、また1人へ銃を放つ。リボルバー式の魔導銃から次々と弾が撃ち出されるとナースらは次々と倒れて行く。撃ち終わると空の薬莢をばら撒き、次の弾を装填する。

 

 

「冴月殿、私達は先に行きます!」

 

 

 

「ああ、ソイツを頼んだ!」

 

 

紗那は竜弘の手を引き、階段を駆け下りて行った。一方の冴月は男と競り合い、一旦距離を取ると構え直す。

 

 

「良い…実に良い……!狩りと同じです…獲物は弱らせてから仕留めなければ!!」

 

 

 

「…生憎、貴様に仕留められるつもりは無い!!」

 

 

にぃっと男が笑うと片手を向け、そこからマシンガンの様にメスを大量に放って来る。冴月はそれを剣で弾くとメスを叩き落として見せた。

 

 

「それで…芸は終わりか?」

 

 

 

「…では、コレはどうでしょう!?」

 

 

 

男は壁を2回ノックする。途端に冴月の両手足を点滴用のチューブが束になって縛り付けた。そしてゆっくりと男は冴月へ近寄ると不気味な笑みを浮かべている。

 

 

「此処は私の病院…即ちトラップも有る。侵入して来た獲物を捕える為のトラップがね……!」

 

 

 

「くそッ…!!」

 

 

 

「先ずはその可愛らしい服を剥いで…それから身体をじっくり観察し……最後はゆっくり味わって食べましょうか。最初は足から?それとも…腕から?悲鳴は最高のスパイスですからねぇ……!!」

 

 

男は笑いながら勝ち誇っている。

冴月もにぃっと笑うと男を見ていた。

 

 

「勝ち誇るのは…未だ早いと思うぞ?」

 

 

 

「ふふ…ッ、あはははッッ!!だが、貴女はもう逃げられない!逃げる術も無い……さぁ、大人しく私の餌に…!!」

 

 

 

「成る訳無いッッ!!」

 

 

 

途端にバシュンッと空を切る音が。冴月の手足をそれぞれ縛っていたチューブを矢が貫通し、穿いた。

 

 

「何だと!?」

 

 

 

「余所見をしている余裕が有るのか…ッッ!!」

 

 

驚いている男を冴月が力強く殴り飛ばした。男は冴月から離れた場所へ倒れ込む。そして顔を上げると紗那がボウガンを向けて立っていた。

 

 

「くそッ…小娘如きが……嘗めるなぁあッッ!!!」

 

 

男は起き上がると途端に化け物へ姿を変えた。口は鋭く尖ったクチバシ、目も鋭く吊り上がった目付きになり黄色い目が、そして左右の手はそれぞれ鋭い爪の付いた指へ変化する。緑色の艶の有る気味の悪い身体は外の月明かりで奇妙に光っていた。クチバシからは耐えず唾液が滴る。

 

 

「…これが医者の姿か?聞いて呆れる。」

 

 

 

[ホラー、アスクレス。油断すると毒でやられるわ!]

 

 

アスクレスはニタァと笑うと冴月へ食って掛かろうとクチバシを大きく開いた。

だが、途端に鈍い声を上げて掴まれてしまう。冴月が瞬間的に鎧を纏ったのだ。

 

 

「ギッ…ギギギッッ……離セッッ!!」

 

 

 

「離してやろうか?…ヤブ医者ッ!!」

 

 

ブォンと蒼牙は窓ガラスから外へアスクレスを放り投げた。そして紗那へ合図すると紗那は頷き、ボウガンを外へ向ける。そして連続して矢を放つと見事に全て命中した。落下したアスクレスは悲鳴を上げながら地面へ倒れている。

蒼牙も外へ出るとゆっくり近寄る。

血を身体から噴き出しながら此方を見ていた。

 

 

「ワたシは……オおゼいの…ニんゲんヲ……!!」

 

 

 

「治した訳じゃない。医者という立場を利用し、命を踏み躙っただけだ……。」

 

 

 

「タのム…おマえノ肉ヲ……!!」

 

 

 

「…喰わせる気は無いッッ!!」

 

 

 

剣を突き刺すとアスクレスは断末魔と共に消滅。全てが片付いたと思われた。

しかし、この日は何か違った。

 

 

「見つけた……魔戒…騎士は……私が…殺す…あぁァァッッーー!!!」

 

 

叫び声が辺りへ響く。そして少女は黒い鎧を纏い、茂みを掻き分けると蒼牙へ突然襲い掛かって来た。

 

 

[冴月ッ!!]

 

 

 

「え?ぐぁあッッーー!!?」

 

 

突然の不意打ちに対応し切れず、蒼牙は吹き飛ばされてしまう。顔を上げて視線を向けると、そこに居たのは女性のシルエットをした黒い鎧。顔は黒い横一線に対し紫色の目が左右に光る。右手には魔戒剣の様な剣を持つ。頭部の後ろから生えた薄紫色の細長い毛の様な飾りが靡いていた。

 

 

「此奴…何だ?ホラー……なのか? 」

 

 

 

[禍々しくて嫌な気配を感じる……油断禁物よ!!]

 

 

 

「魔戒騎士ハ……私ノ手デ…殺ス!!」

 

 

突然走り出すと剣を蒼牙へ振り翳す。

剣自体も黒く、銀色の線が中央に刻まれていた。防ぐと互いにギリギリと競り合いながら睨み合う状態へ突入した。

すると紗那が病院の窓から飛び降り、駆け寄ろうとする。

 

 

「冴月殿ッ!?」

 

 

 

「来るなッッ!!竜弘を連れて先に戻れ!!ぐぅ…ッ!!」

 

 

 

「殺ス…殺ス殺ス殺ス!!!」

 

 

 

乱暴な剣術はまるで殺意を一方的にぶつける様な素振りだった。そして一発、一発が重い。冴月も振り払うか受け流すかがやっと。

 

 

「まるで殺意の塊…ぐぅうッ!!」

 

 

 

[不味い…鎧の維持出来る時間が!]

 

 

 

「死ネぇええッッーー!!!」

 

 

 

「くそッ…やられる訳には……ッッ!!」

 

 

蒼牙へ振り下ろされた剣は鎧を右袈裟懸けへ斬る形で一撃が入ってしまう。

だが直後に蒼牙も反撃し、横一線で相手の鎧を斬り裂いた。

 

 

「ッッーー!?」

 

 

ふらつきながら黒い鎧の相手は蒼牙から離れ、姿を消してしまった。

冴月も鎧を解くと剣を手放し、地面へ倒れてしまう。

 

 

[冴月!?ねぇ、しっかりして!冴月ッ!!]

 

 

 

カガリが必死に呼び掛けるも、冴月は深い眠りへと落ちてしまった。

冴月/蒼牙を襲った謎の黒い鎧。その正体は未だ不明のまま。

 

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