牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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仮面-MASK-

昨夜、冴月は鎧を着た謎の存在との戦闘により意識不明の重体を負ってしまった。魔戒騎士と言えど生身の人間とは変わりない。

今は学園にある医務室にて眠っていた。

そして翌朝。ガラガラと勢い良く戸を開けて竜弘が入って来た。

駆け寄ると揺さぶって起こそうとして来た。

 

 

「弥那瀬さん…弥那瀬さんッッ!?」

 

 

 

「ダメです、岡本殿!未だ眠ってますから…!」

 

 

 

「ごめん…でも、気になって…。」

 

 

 

「気持ちは解ります……ですが、今は見守りましょう。最善は尽くしましたが、後は冴月殿の回復力に掛けるしか……。」

 

 

紗那は彼女の手を握っていた。

カガリは彼女の左腕から取り外され、近くの小さな机の上に置かれていた。

 

 

「……紗那さん、僕に出来る事は有る?」

 

 

 

 

「目を覚ますのを祈る位ですね…後は食物の調達を。」

 

 

 

 

「じゃあ、誰がホラーと戦うんだよ!?ホラーと戦えるのは魔戒騎士だけだって……!」

 

 

 

「私が戦います、彼女が起きる迄は代わりになりましょう。」

 

 

 

「それでも、もし紗那さんが倒れたら……!」

 

 

 

紗那はそっと立ち上がると竜弘の口元へ右手の人差し指を1つ立てた。そして微笑んで見せる。

 

 

「私はヤワではありませんよ?…もし、冴月殿が目を覚ましたら彼女に伝えて下さい、待ってると。」

 

 

 

「僕にも…僕にもあの剣が扱えれば……! 」

 

 

 

「…無理です、あの剣は並大抵の努力では扱えません。」

 

 

 

「やってみないと解らないだろ!?」

 

 

 

「……そこ迄言うのなら、外へ行きましょうか。」

 

 

紗那は医務室を出ると扉の近くへ札を1枚貼る。そして竜弘と共に校舎の裏側へと来た。2人は正面から向き合う形になると紗那だけが後ろへ下がる。

すると竜弘の前へ短刀を置いた。紗那は触るというよりその場に出したというのが正しい。

 

 

「短刀…?それにしては小さい……。」

 

 

 

「どうぞ、コレを持ってみて下さい。」

 

 

 

「え?解った…ッ!?」

 

 

竜弘がその短刀を持ち上げようと近寄り、しゃがんで持ち手を掴む。だがそれは上がらない。こんなに小さい短刀なのに持ち上がらないのだ。どれだけ力を込めても持ち上がらない。竜弘は息を切らしながら尻もちを着いてしまった。

 

 

「な、何で…上がらないッ!?」

 

 

 

「ソウルメタル。持ち主の精神力に強く影響する性質を持つ金属です…魔戒騎士に憧れる子供達は幼き頃からこのソウルメタルの剣や武器を扱う為に血を滲む様な努力を積むのです。そして騎士になり、守りし者として数多のホラーと戦う。それが魔戒騎士です。魔戒法師も少し違いますが、似ています。」

 

 

 

「くそッ…肝心な時に僕は何も出来ないなんて……。」

 

 

 

 

「ふむ…貴方は余程、冴月殿の事を大切に思って下さっているのですね?」

 

 

 

 

「僕はあの時、彼女に助けて貰った。そうじゃなかったら今頃、死んでたかもしれない。だから出来る限りの事をしてあげたいんだ……!頼むよ…紗那さんッ…僕に力を貸してッ!!」

 

 

竜弘は懇願する様に紗那の方へ頭を下げた。紗那は考えながらその様子を黙って見つめると、彼の肩へそっと手を置いた。

 

 

「…そこまで仰るのなら、私のサポートをお願い出来ますか?かなり怖い思いをするかもしれませんが……その覚悟が有りますか?」

 

 

 

「勿論……ッ!」

 

 

竜弘は力強く頷いた。そして紗那は彼の手を引いて立たせると小さく頷き返した。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

同じ頃、朱音はマコトの部屋で治療を受けていた。蒼牙に受けた傷は横一線に刻まれており痛々しく残っている。流す血も他の生き物の物では無く、人間が流す赤い血の色そのもの。一糸纏わぬ裸体は少し痩せ気味では有るが、健康で色白。

胸もやや膨らんでおり、左右の胸の下辺りに斬られた傷跡が有った。

 

 

「…やはり、この薬の効果は素晴らしいですね。生命のバランスを根本的に覆す事が出来る。魚から人間を作る事も造作では無いとは……。」

 

 

マコトは彼女の方を振り向く。

メイドの様な格好をし、頭から黒い布を被った2人の女性が朱音の傷を手当していた。朱音は黙ったまま動かない。

 

 

「魔獣装甲…黒鎧。対象への憎しみや怒り、嫉妬だけで彼処まで威力が増すとは……向こうもタダでは済まない筈。なら今が好機でしょう…今宵の晩で魔戒騎士に完全なるトドメを刺す…ふふふ……。」

 

 

 

笑っているマコトの後ろに仮面を付け、黒いローブを纏った人が立っていた。

そして彼へ何かを手渡す。

仮面の人物はマコトへ話を切り出した。

 

 

「……主様からの伝令だ。我々の邪魔をする者が居るのなら必ず排除しろと。それで、どうする…陰我を持つ者は見つかったのか?」

 

 

 

「ええ、見つけています……陸上選手でしたが彼は怪我で燻ってしまった……だから彼に夢を見させてあげて下さい。一夜限りの夢を……ね。」

 

 

そっとテーブルの上にある顔写真を仮面の人物へ渡すと、相手は頷き消えた。

マコトは受け取った手紙を見て少し焦りを見せていた。というのも失敗すれば自分は用無しと見なされて消されてしまうからだ。つまりもう切れるカードも数が少ないという事。精々、後2枚程。

マコトは考えながら椅子へと腰かけたのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

野田ハヤト。元は陸上の選手であり、この学校にはスポーツ推薦で入った。しかしケガによりレギュラーでは無くなった事やタイムが中々伸びない事に苛立ちと焦りを感じていた。今日も学校で行われていた練習を校内から見て自分は参加せずに帰路へ着いた。どうせ参加したとしても自分は走る事が出来ない、精々他の選手のサポートだろう。

 

周りの期待は一瞬にして裏切られる物。

最初はどれだけ期待を寄せられていたとしても、最終的には怪我や病気になったり思ったより成績が伸びなくなると期待は薄れて離れて行く。

 

もう何度も似た言葉を浴びせられたかも解らない。自分が1番それを理解している。ハヤトは帰宅し、何も言わぬまま部屋で軽装に着替えると家を出てランニングをしに外へ向かった。

それでも、現役復帰を諦めきれずこうして走っている。誰に何を言われようとも。夜の遅い時間までランニングをしていると、何気なく河川敷へ通り掛かった。普段は此処を通らないが何故か気になる。前へ視線を向けると仮面の人物がそこに立っていた。

 

 

「……野田ハヤト、だな?」

 

 

 

「誰だよアンタ……仮面被って…変質者か?」

 

 

 

「変質者とは心外だな…私はお前の願いを叶えに来たのに。」

 

 

 

「俺の願いだと?…帰ってくれ、俺は興味無い。」

 

 

ハヤトは背を向けて引き返そうとする。

しかしこう続けて来た。

 

 

「…このまま燻り続けるのか?走る事がお前の望みであり本望。嘗ての栄光を取り戻したくは無いのか?私にはそれが出来るが…それでもお前は逃げ続けるのか?」

 

 

相手の言葉にハヤトは立ち止まる。

嘗ての栄光、喝采、祝福。それが欲しいのは解る。部屋には数々のトロフィーや賞状、写真が飾ってある。だからこそ余計に悔しいという気持ちが強くなってしまう。ハヤトはぐっと唇を噛むと覚悟を決めたのか振り向いた。

 

 

「走れるんだな?もう一度……! 」

 

 

 

「ああ、約束しよう……。」

 

 

 

ぴっと仮面の人物は懐から何かを取り出すとそれを彼に渡した。それは小さな赤い液体の入った小瓶。

 

 

「何だこれ……。」

 

 

 

「それを飲めばお前はまた走れる様になる……ふふふッ!」

 

 

いつの間にか仮面の人物は消えており、ハヤトだけが取り残されてしまった。

小瓶の蓋を開けるとハヤトは覚悟を決めてそれを飲んだ。すると全身に何かが回る感覚を覚え、座り込んでしまう。

暫く大粒の汗が零れるとだんだん身体が軽くなった。何となくだが走れる感じがし、その場に立ち上がる。まさかと思い半信半疑で走ってみると先程まで有った違和感が消えていた。

 

 

「俺、走れてる……やった!やったぞぉおおッ!!」

 

 

ハヤトは嬉しくなり、走り続けた。

だが走り続ければ腹が減る。運動した後は当然の事。しかし何かが違った。

 

 

「アイツ…美味そうだぁ……!!」

 

 

偶々、通り掛かった路地で見掛けた可愛らしい服を着た女性。彼女へ飛び掛るとそれを笑顔で食した。悲鳴が上がったと思うとそこに女性の姿は無く、足元や口元は乱雑に散らばった女性物の服や持ち物が。舌舐りをするとハヤトはその場から走り去る。

それから彼が家へ帰宅する頃には計6人は食っていた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ー翌日ー

 

竜弘は授業の準備を教師から依頼され、必要な道具を自分の教室へと運んでいた。箱に入った資料と何かの入った細長い箱。それを持ちながら廊下を歩いていた。

 

 

「何入ってるんだろ…この箱?まぁ古い本とかだろうけど……。」

 

 

自分の教室へ向かう途中、竜弘は朱音とすれ違った。ふわりと彼女から香水の様な匂いがする。まるで花の様な香りだった。

 

 

「……あの子、この前の。」

 

 

 

朱音は竜弘へ構う事無く歩いて行くのだが竜弘は何故か彼女が気になる。足早に自分の教室へ向かい、教卓へ教材を置いてから彼女の後を追い掛けた。

すると廊下から怒鳴り声の様な声が響く。そこに居たのは同学年の中でも噂になっている女子生徒3人組。

陰湿な嫌がらせやら何やらを企ててターゲットが学校を辞める迄、それを続ける事で噂になっている程。

それも自分達に非が無い様に上手く立ち回る事からかなりタチが悪い。

 

 

「おい、お前アタシに挨拶しねぇとか何様だよ?」

 

 

 

「この子、怒らせたら怖いよー?」

 

 

 

「そうそう、挨拶はちゃあんとしないとねぇ?解る?あ、い、さ、つ?クスクス……。」

 

 

2人の取り巻きが朱音を囲んでからかっている。だが朱音は何もせず黙っているだけだ。すると取り巻きの1人がポケットから小型のナイフを取り出し、リーダー格の方へ渡す。

 

 

「喋れねぇなら喋れる様にしてやろうか?おらぁあッ!!」

 

 

風切り音と共にナイフが突き付けられる。しかし朱音は動じずに彼女を見ている。そして朱音は口を開いた

 

 

「……お終い?」

 

 

 

「はぁ?」

 

 

 

「それで……お終い?」

 

 

 

 

「此奴ッ…あ…が…ッッ!?おい、離せってッ…聞いてんのか!?おい!!?」

 

 

 

朱音は彼女の右腕を掴むとギリギリと掴んでいる左手に力を込めていく。離せだの痛いだのと相手が叫ぶとナイフが手から落下、そして腕をそのまま在らぬ方向へ曲げてしまう。鈍い音と共に悲鳴が上がり、その場に倒れ込んだ。

取り巻きの2人も驚いた顔で朱音を見ていた。2人で抱えて去ろうと背を向けた時だった。

 

 

「……忘れ物。」

 

 

 

ナイフを拾い、投げると取り巻きの1人の背中へ突き刺さり倒れた。

朱音は残った別の取り巻きへ近寄ると

何もせず立ち去る。竜弘は動揺しその場に固まっていた。真宮朱音は只者では無いと本能が語っている。

そうしていた時、ポンと肩に手を置かれると声を上げてしまう。

 

 

「だ、誰!? 」

 

 

 

「誰って……私ですよ岡本殿。そろそろ午後の授業が始まりますよ?……アレは?何やら騒がしいですが?」

 

 

 

 

「……例の子の後をつけたらこんな事になってて。」

 

 

「ふむ……成程…。」

 

 

廊下では人が刺されただの、腕を折られただのでパニック状態に。生徒や教員らが次々と様子を見に来る。

2人はどさくさに紛れてその場を去る。

竜弘は朱音が実は冴月や紗那の2人と同じ存在なのかと少し疑問に感じていた。

 

 

それから午後の授業も終わり、竜弘は紗那と共に街中に出ていた。紗那の付き添いとは即ちホラーを探す事。

紗那と竜弘は建物の屋上に居た。

 

 

「さて…先ずは説明から。岡本殿の役目は彼を探して下さい。野田ハヤト…私達の学校の1つ上の学年の方です。そしてこの時間帯は走り込みをしている…との噂。それと万が一の事が有ると困るのでコレを。」

 

 

紗那が竜弘へ渡して来たのは1枚の札。

もう片方を紗那が持っている。

 

 

「…お札?」

 

 

 

「その札が有れば私と交信出来ます。まぁ、此方の言葉を使うならば携帯電話です!危なくなったらそれを使って下さいね。呉々も戦おうなど思わない様に!」

 

 

警告すると紗那はゴソゴソとカバンから武器を取り出す。それはクロスボウだった。

 

 

「此方の射程範囲内へ誘導して頂いたら、其方の合図と共にコレで撃ち抜きます。本来なら冴月殿と行うのがベストなのですが……流石にケガ人に無理をさせるのは出来ません。お願いしますね、岡本殿!」

 

 

 

「解った…それと僕の事は竜弘で良いよ、紗那さん。それじゃあ行ってきます!」

 

 

 

竜弘は紗那へ背を向けると建物の階段を下りて1階へ。紗那は竜弘へ向けて頭を下げると自分も深呼吸してから武器を手にする。円形状のカートリッジを差し込み、様子を伺う。

 

 

「さぁて……後は…コレを!」

 

 

 

紗那は空へ鈴を放るとクロスボウで射抜く。すると鈴は大きな音を響かせて粉々に砕け散った。魔導火の代わりであり、こういった人混みの中でホラーを見極めるのに使う。射抜くのは彼女だけだが。

 

 

「人々の暮らしを守るのが魔戒騎士だけとは限らない……!」

 

 

彼女は建物から建物へ器用に飛び移りながら様子を伺いに向かった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

竜弘はラフな格好でランニングをしながら顔写真を見つつハヤトを探す。だが中々見つからない。彼が通るであろうコースを走りつつ、様子を伺っていた。

 

 

「本当に来るのかな…時間の無駄かもしれないのに……。」

 

 

人通りの有る場所を走っていると見た事のあるジャージを着た男と擦れ違う。慌てて写真を確認すると間違い無くハヤトの着ているジャージそのものだった。

 

 

「居た…ッ!」

 

 

竜弘は彼を離れて追い掛ける形になり、人混みを抜けて走り出した。

ふと近くの公園の時計を見ると19:50分を指している。まさに時間通りだった。

ハヤトは付けられている事を知らずにどんどん走って行く。気が付けば人通りの全く無い広場へ着くとそこで立ち止まった。竜弘は慌てて草むらへ飛び込んだ。

 

 

「……俺の後ろを付いて来る奴が居る。誰だ?」

 

 

ハヤトの両目は不気味に赤く光っていた。もう人間では無いのは人目で解る。

するとハヤトはキョロキョロと辺りを見回し、首を傾げると再び走り出した。

ハヤトが向かったのは住宅街、その通りを走って行く。竜弘も気付かれない様に付いて行くと彼は擦れ違った女性へ声を掛けていた。

 

 

「…腹が減った。今日は女二人か……美味そうだな…へへ……ッ!!」

 

 

此処からでは何をしているか解らないが不味いのは解る。誘いだせという紗那の言葉通り、彼へ声を掛ける。

 

 

「お、おい化け物!こっちだ!!」

 

 

 

「……?お前かァ?俺の事をさっきからコソコソ付け回していた奴は…食事の邪魔までしやがって……お前から先に喰ってやる!!」

 

 

 

「う、うわぁああッッッーー!!?」

 

 

 

振り向くとハヤトはベロンと長い舌を出し、竜弘へ走って来た。物凄い速さだ。

竜弘は咄嗟に背を向けて全速力で走る。

無論、向こうも同じだ。此方を食べようと追い掛けて来る。

 

 

「待て待て待て待てぇええッッ!!! 」

 

 

 

「そ、そうだッ…紗那さんッ!紗那さんッッ!!」

 

 

咄嗟に札を取り出すと必死に叫んだ。

 

〈聞こえていますッ!今暫く辛抱して下さい!!向かっていますから!〉

 

 

 

「無理だよ、早過ぎる!!」

 

 

 

〈耐えて下さいッ…直ぐ行きます!〉

 

 

それだけで通信が途絶えてしまった。

走り続けていると段々疲労感が増して来る。向こうは此方を捕らえて喰らう気なのは解っているが疲労の方が勝って来てしまう。追い掛けて来る気配が無くなると竜弘は息を切らして立ち止まった。

 

 

「逃げ切れた……?」

 

 

 

「それはどうかなァ…?」

 

 

 

「え…うわぁあッッ!!?」

 

 

 

突然目の前にハヤトらしき者が現れた。この一瞬でどうやって回り込んだのだろうか?それを考える隙も無く、首を掴まれてしまう。

 

 

「ほぉう…お前、見掛けに寄らず美味そうだなァ……男も食ったが悪くなかった…!!」

 

 

 

「ぐッ…離せ…ッッ!!」

 

 

 

 

「お前は俺の…食事になるんだ……俺の糧に成れるんだぞ?光栄だと思え…ッッ!!」

 

 

グパァっと口が大きく開く。中には細かな歯がびっしり有るだけでは無く長い舌が見える。その奥は真っ暗だ。唾液と思われる透明な液体が糸を引いている。

もうダメだと覚悟し目を閉じた時、ハヤトは苦しみながら竜弘を離した。

 

 

「ご無事ですか!?竜弘殿ッ!」

 

 

 

「し、紗那さんッ!」

 

 

慌ててハヤトから離れる。振り向いて良く見るとハヤトの太腿に黒い矢が突き刺さっていた。

 

 

「此処からは攻守交代、竜弘殿はお休みしていて下さい。」

 

 

微笑むと竜弘へ飲み物を渡す。それを受け取った竜弘は頷いて彼女から離れた。

ハヤトは矢を引き抜くと立ち上がり、紗那を睨み付ける。

 

 

「貴様ァ…!!」

 

 

 

「……既に人に在らずか。これ以上、他者へ害を成さぬ様に此処で仕留めさせて頂くッッ!!」

 

 

 

「やれるものならやってみろ…女ァア!! 」

 

 

 

ハヤトは自分の腕を鞭の様にしならせると大きくスイングし打ちつけようとする。だがそれを紗那は飛んで避けると上空からクロスボウで射撃した。空を切る音と共に矢が数発命中しふらついている。射抜かれた傷から体液と思われる緑色の液体が噴き出すと地面を汚していった。

綺麗に着地した紗那は再びクロスボウを向け、様子を伺う。

 

 

「この女ァ……よくも…俺の身体を……ッッ!!」

 

 

 

「その姿ではもう他者と生きる事は出来ない……せめて、私の手で葬ってやる。はぁあッッ!!」

 

 

クロスボウの引き金を引くと再び矢が放たれる。しかしハヤトはその場から飛び上がると大きく開いた口から溶解液を乱射する。飛沫した辺りからは煙が立ち上っていた。しかしそこに紗那の姿は無い。

 

 

「まさか…逃げたのか?くく……ッ、所詮は口だけかァ?女ァ!!」

 

 

 

「いいえ、私は逃げも隠れもしていないが……?」

 

 

 

「な…ッッ!?」

 

 

 

いつの間にか紗那は街灯の上に立っていた。そしてトンッと飛び上がるとハヤトの胸元へ鋭い蹴りを喰らわせる。地面へ叩き付けられると近くの草村へ倒れ込んだ。

 

 

「ふざ…けるな…ッ!!この俺が……負けてたまるかァアッッーー!!」

 

 

ジャージが裂けると更に醜態な姿へ変貌した。まるで食虫植物を人に変化させた様な姿。顔だった場所は十字に裂けた口と長い舌、右腕には鞭。左腕はカギ爪の付いた手。身体も緑と黒を混ぜた様な不気味な姿をしていた。その胸元辺りに仮面を片方付けた様な人の顔が出現する。

 

 

「フシュウゥ……フシュウウッッ……!!」

 

 

 

「植物型のホラー…か。なら此方も本気を出すとしますか。」

 

 

 

紗那はクロスボウを背中へ背負うと今度は魔導筆を取り出した。そして手で印を結ぶとホラーへ向け、円を描く。

すると1つの剣が空中に出現した。

赤い色をした鞘、そこには三角形の模様が刻まれている。

 

 

「……そんな玩具で俺が斬れるか?」

 

 

 

「斬るのは私では無い…私の得意分野の1つ。それが幻覚、そしてお前達ホラーが最も忌み嫌い恐れる者…それを今から見せてやる……!!」

 

 

 

「何を言っている…ッッ!?」

 

 

 

すると剣は更に形を変え、直後に現れた金色の右手がそれを握り締める。そこに居たのは紛れも無く、金色の鎧を纏った人の形をした狼。そしてその鋭い眼差しはホラーを睨み付けている。

横に立っていた紗那は彼の名を叫んだ。

 

 

「その名は…黄金騎士、牙狼ッ!!」

 

 

すると同時に紗那の声が消え、辺りが暗闇に包まれると気が付けばホラーと牙狼の2人だけになった。先程の景色とは全く異なっている。薄暗く何も無い場所には月明かりが照らしている位。

金色の鎧は月明かりで神々しく照らされていた。

 

 

「ホラー…アドニス。貴様の陰我、俺が断ち切る!!」

 

 

 

「おのれ…おのれ……小娘ぇええッッ!!」

 

 

 

アドニスと呼ばれたホラーは怒り狂って牙狼へ立ち向かう。すると牙狼は自分の左手首へ剣をキリキリと擦る様な構えを取ると突撃した。アドニスは自分の右腕を硬化させ鎌の様に振り翳すと牙狼剣と競り合う形にもつれ込んだ。そして何度か切り結んだと思えばアドニスは牙狼により一刀両断されていた。

 

 

「ば、馬鹿な……ッッ!?俺は……俺はぁあッッーー!!」

 

 

黒い塵と貸したアドニスは消滅し、空間も元へ戻る。そして牙狼は紗那へ小さく頷くと姿を消した。

 

 

「…ふぅ、ホラー討伐完了。もう大丈夫ですよ、竜弘殿!」

 

 

紗那が手を振ると物陰から竜弘が出て来た。キョロキョロと辺りを伺っている。

 

 

「紗那さん、さっきのは何…?勝手に向こうが死んだ様に見えたけど?」

 

 

 

「幻覚ですよ。私のお師匠から教えて貰った術の1つでして、相手が恐れ忌み嫌う存在を具現化し向き合わせる。そしてそれと戦っている様に仕向ける事で自然消滅を狙う……とまぁ、簡単に言えばそういう事です!」

 

 

ふふんと得意げに紗那は説明した。

竜弘は呆気に取られながらも状況を理解し、納得する。そのまま2人は話しながら学校へと戻って行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

校門から中へ入ると竜弘はいきなり紗那に突き飛ばされる。その瞬間、2人の合間にクナイが刺さっていた。竜弘は驚いた顔で紗那ともう1人を見ていた。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

紗那が視線を戻すと突然蹴りを食らってしまう。そこに居たのは仮面の人物。

着地すると紗那へ魔導筆を向けた。

 

 

 

「…やはり、お前だったか。騎士の次は法師とは。アイツも余念が無い……。」

 

 

 

「ッ…不意打ちとは……!」

 

 

 

「出来損ないの騎士と言いお前と言い…何故こうも我々の邪魔をする?」

 

 

 

「決まっている…人々を守る事が私達の使命。」

 

 

 

「人間は救いが無い程愚かなのに…何故それを知りもせず戦い続ける?アイツも自業自得だ…過去の栄光に縋りたいという浅はかな望みの末にホラーに変化したのだから……。」

 

 

 

「まさか…お前がやったのか……!?」

 

 

 

 

「ああ。そうだ…何が悪い?人の欲望は計り知れない。嫉妬、恨み、妬み、殺意…そして各々が持つ強い欲望……だからこそホラーは生まれる。例え人間を守ったとしても同じ事を結局また繰り返す。信じれば信じる程、裏切られた時の感情は計り知れない……!!」

 

 

 

「……竜弘殿、全力で走って校内へ逃げて下さい。冴月殿の事、お願いします。」

 

 

 

「ッ……解った…!」

 

 

 

竜弘は何とか立ち上がると校舎へ走る。だが仮面の人物は竜弘の方に筆を向けて攻撃を仕掛けようとした。だがそれは紗那に抑え込まれて失敗する。

 

 

「……やらせませんよ?」

 

 

 

「ふん…私と殺り合う気か?小娘?」

 

 

 

「当然でしょう…ッ!!」

 

 

 

仮面の法師は紗那を無理に引き離すと彼女へ魔導筆を向けて攻撃を繰り出す。紅い弾が放たれると紗那はそれを身体を捻り、飛んで避けた。そして魔導銃を取り出すと着地と同時に法師へ向けて発砲した。だが弾は向こうの取り出した短刀により弾き落とされてしまう。

 

 

「……その程度か?」

 

 

 

「まだまだッッ!!」

 

 

 

今度は撃ちながら突き進み、飛び蹴りを繰り出すのだがやはり躱されてしまう。

紗那の蹴りを受け流した法師は筆をクルクル回すと紗那の腹部へ押し当て、吹き飛ばす。紗那は地面へ倒れ込むと腹部を抑えながら睨み付けていた。

 

 

「ぐぁッッ!?くそッ…読まれてる……!?此方の動きが…!」

 

 

 

「魔導銃による銃撃と…そこに体術を折り合わせた戦い方。一般の相手なら間違い無く苦戦は強いられる。だが私には通じない……今度は此方から行かせて貰おう。」

 

 

すると法師は筆を戻し、懐から刀を取り出す。鍔の無く黒い鞘の刀。

その刀は紗那にとって見覚えが有った。

 

 

「あの刀…まさか……!?」

 

 

 

「……行くぞッッ!!」

 

 

 

たんっと走り出すと間合いを詰め、倒れ込んでいた紗那へ振り翳された。それを魔導銃のボディで受け止めると両手で振り払い、片足による蹴りを放ってから起き上がる。そして互いに距離を取りながら向き合っていた。先に仕掛けたのは法師、素早い動きで刀を振り翳し間髪入れずに攻撃を仕掛けて来る。

 

 

「どうして…ッ、どうしてなのですか!?貴女は誰よりも強く…優しかった筈なのに!」

 

 

 

「…知らんな、忘れた事だッッ!」

 

 

 

紗那も何度も攻撃を避けるのだが、動揺からか一太刀を躱し損ねてしまい左腕を刃が掠めた。血が飛沫し傷口からつうっと滴り落ちる。

 

 

「だったら…ッッ!!」

 

 

紗那は首を横に振り、覚悟を決める。

このままでは自分が死ぬ。例え相手が知り合いだろうと容赦は出来ない。

 

 

「…終わらせます。此処でッ!!」

 

 

 

「腹を決めたか…なら葬ってやる。次の一太刀で。」

 

 

 

紗那は銃を、法師は刀をそれぞれ構えると互いに走り出し擦れ違った。

背を向き合う形になると紗那は膝を付いてしまう。片や直後にガシャンという音が響くと仮面が割れ、法師は顔を抑えていた。

 

 

「私の仮面だけを狙ったのか…ふふッ、未だ未だ成長途中という事…これからが楽しみだ……。」

 

 

 

「私は信じたく無いのです…何が貴女をそんな風に変えてしまったのか……!?」

 

 

 

「話す必要は無い…今度会った時は私を殺しに来い。また会えるのを楽しみにしてる……紗那。」

 

 

 

呟くと法師は姿を消す。砕け散った仮面の残骸も共に消えてしまっていた。

彼女の名前を法師は呼んだ事に間違いは無い。あの物言い、そしてあの喋り方。

紗那には心当たりが1つ有った。

 

 

「舞…様、まさか生きていたとは……ッ!」

 

 

紗那はフラフラとその足で医務室へ戻ると左の二の腕、そして先程斬られた脇腹を魔導火を用いて自力で手当てした。

机の上には竜弘が残した書置きが置かれており、先に帰りますと一言残されていた。

 

 

「……この件は暫く伏せておきましょう。冴月殿の刃に迷いが生じてはいけない。」

 

 

紗那は眠っている冴月を見ると罪悪感に駆られていた。一礼すると紗那は冴月を残してその場から去るのだった。

 

 

 

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