牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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教会-CHURCH-

月ヶ丘高等学校の近くに併設された小さな教会。そこは一部の宗派の人々らで賑わっていた。自身の行いを神に相談する懺悔や誰かへ祈りを捧げる為に訪れる人も居る程。

室内には左右に長椅子が幾つか設けられており、中央には真ん中と左右に縦長のステンドグラスが有る。その近くには教壇が設置されていた。

だがこの日は何かが違った。訪れた一部の人々が全員去った後、ドアが閉められると中の灯りは蝋燭だけになる。

そして長椅子は全て片付けられる。その周辺には赤いローブを上下全身から被り、目元しか空いていない奇妙な者達だけが居た。

 

床に赤い液体で書かれた魔法陣

その中央には裸にされた若い女性の姿が有った。

 

 

「この者は選ばれた…今宵の月夜の晩、新たなる命を授かり、彼女は我々を導いて下さる……!!」

 

 

 

「我々の願いは彼女に従い…この国を変える事に有る。腐りきった世の中を神の力を用いて浄化するのだ!!」

 

 

 

「我らの願いは皆1つ…さぁ、目覚めよ!!」

 

 

 

リーダー格の黒いローブを着た男が女性の胸元へ短刀を突き刺した。

すると黒い光が放たれるとその光は女性の中へと吸い込まれていく。

短刀を引き抜くと女性は突然目を開き、立ち上がった。その場に居た誰もがその光景を見て驚きを隠せないでいた。

 

 

「おお、我が主よ…目覚めたのですか!?」

 

 

 

「……お前達か?我を目覚めさせたのは。」

 

 

 

「そうです…そうですとも……!!」

 

 

 

「…それで何が欲しい。金か?地位か?名誉か?」

 

 

女性はリーダー格の男へ近寄ると首を傾げ、見つめていた。その身体は妙に艶めかしい。目的の為に女子高生を拉致しこうして生贄に捧げている事は明かさず、自らの願いを話し出した。

 

 

「我等の…我等の望む世界を!!腐り切った世の中を浄化して頂きたいのです……どうか、どうかお願い致します…!」

 

 

 

「……解った、その願い叶えてやろう。」

 

 

ふふふと笑い、教壇へ歩いて行くと女性はいつの間にか黒いコートを纏っていた。そして落ちていた学生証を拾うとそれを見ては投げ捨てた。

 

 

「……我が名はアルカディア。そう名乗る事にしよう。我と同じ歳の女の肉を食わせろ。それが我が望みである。」

 

 

 

「お望みとあらば……!!」

 

 

 

その場に居た全員が頭を下げ、彼女への忠誠心を見せた。これはほんの一日の間に起きた出来事である。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

翌日、冴月は医務室のベットの上で目を覚ました。2日ほどベットの上だった事から身体がやけに軽い気がしていた。

ふと机に視線を向けるとカガリが話し掛けて来た。

 

 

[やっと起きたのね。丸2日寝てたのよ ?]

 

 

 

「…ケガの影響と日頃の疲れが溜まっていたみたい。けど、もう大丈夫。オレが居ない間はどうなってた?」

 

 

 

[紗那とあの坊やがホラーを倒してくれてたみたいね…お礼なら2人に言いなさいよ。]

 

 

「……そうか、解った。」

 

 

頷くと冴月はベットから降り、ゆっくり歩くとカガリを腕に嵌める。

ガラガラとドアが開くと竜弘が立っていた。

 

 

「弥那瀬さん…気が付いたんだ!」

 

 

 

「……ああ、お陰様で良く眠れたよ。って、おい!?何だよ…離せッ!」

 

 

急に近寄って来ると竜弘は冴月を抱き締めていた。良かった、良かったと何度も口にしながら。当の本人は無理矢理 離れると少し距離を取った。

 

 

「…助けてくれた事には礼を言う。けど、それとこれは別だ!」

 

 

 

「ごめん…つい勢いで…もう何ともない?」

 

 

 

「大丈夫だ、それと風呂入って来る。色々ありがとな……竜弘。」

 

 

少し恥ずかしそうな顔をしながら冴月は歩き出し、医務室を後にする。

竜弘は名前で呼ばれた事を嬉しそうにしつつ彼女の背中を見送り、竜弘は医務室を後にした。

 

暫く経ってから再び戻って来ると

冴月は身支度を軽く整え、自分の教室へ向かう。カバンは有紀が持って来てくれているとの事。教室へ入るとキラキラした目で有紀が此方を見ているのが解る。

 

 

「お帰り。カバン持って来たけど…あの袋に入ったアレは持って来れなかったよ…あんな重たいのよく持てるよねぇ……」

 

 

「あ、あー…慣れだよ、慣れ!」

 

 

 

「そうだ、これプレゼント♪」

 

 

そう言われて渡されたのは多量のプリント。どうやら寝ていた間に授業が幾分か進んでしまったらしい。

 

 

「…2日も居ないだけでこんなに溜まるのか?」

 

 

 

「そりゃあ進学校だし?まぁ、私も手伝ってあげるよ。終わらないでしょー?冴月1人だと!」

 

 

 

[魔戒騎士が補習とか留年は勘弁してよ?恥ずかしくて見てられないわ。]

 

 

 

「へ?マカイキシ…って何?」

 

 

 

 

「な、何でもないッ!それだけは絶対避けるから!」

 

 

 

慌てて誤魔化すとプリントを机の引き出しの中に片付けた。そうこうしてると授業開始の時刻になったのだが教師が来ない。するとグレーのスーツを着た年配の男性教師が代わりに入って来る。冴月は有紀の背中を少し小突くと話し掛けた。

 

 

「……あの人は?」

 

 

 

「学年主任の斉藤先生。普段は集会とかで見るんだけど何で来たんだろ?」

 

 

 

首を傾げながら2人は話を聞いていた。

何でも、この学校に通う2年生の生徒が失踪したとの事。もし見掛けたら直ぐに報告しろという事と物騒な事件が多い事から早く帰宅する様にという2点を伝えに来たらしい。

教師が出て行ってから教室内はザワザワとしていた。よく耳を済ませると

「またか」とか「何件目?」と様々な言葉が飛び交っていた。

 

 

「失踪かぁ…ねぇ、冴月はどう思う?」

 

 

 

「さぁ?オレには何とも……。」

 

 

 

「何なら調べてみない?活動報告も上げられるし一石二鳥!」

 

 

 

「…止めといた方が良い、変に首突っ込むとろくな目に合わない。」

 

 

冴月は何やらウキウキしている有紀を宥めた。結局、自習になった事からさっさと課題のプリントを終わらせるべく取り掛かる。休んだ以降のノートは全て有紀から見せてもらい、それを頼りにすると自習の終わり迄に全て終わらせる事が出来た。

 

 

「うっそ…もう終わったの!?10枚も有ったのに!?」

 

 

 

「勉強は嫌いじゃないからね。身体の鍛錬以外にも知識とかはこうしないと得られないし。じゃあ、コレ出しに行って来る。」

 

 

冴月は立ち上がると教室を出て廊下を歩いて行った。既に休み時間の為、廊下は生徒達が話したりふざけたりと色々。

職員室は1階に有る事から自分の教室の有る2階から階段を降りて1階へ。

職員室へ向かう廊下を歩いていると突然肩を掴まれ、呼び止められてしまった。

 

 

「早百合!早百合でしょう!?良かった…探したのよ……!」

 

 

 

「…人違いだ、オレは早百合じゃない。」

 

 

 

振り向くとそこに居たのは40代位の女性。片手には多量の紙の束を持っている。今度はその紙の束から1枚取るとそれを冴月へ手渡して来た。

 

 

「ごめんなさい、後ろ姿が早百合にそっくりだったから……もしうちの子を何処かで見掛けたら私に教えて欲しいの。お願いね?それじゃ私はこれで…。」

 

 

 

「あ、はい……どうも。」

 

 

女性は玄関から外へと出て行った。

一方の冴月は頭を下げ、貰ったビラを折り畳んでポケットへしまうと職員室へ入って行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ー教会ー

 

「…もう既に手は打っているのですね?」

 

 

 

「ええ、勿論ですとも。マコト君…キミには感謝していますよ…何せこの教会に来る者はかなり減ってしまった。それが新たな神であるアルカディア様を授けて下さったお陰でまた信者達が増えたのですから…!」

 

 

 

「成程。それで、雫は溜まりそうですか?」

 

 

 

「ええ……そりゃあタップリと…!」

 

 

 

「…魔戒騎士には気を付けて下さい。此処にボディガードを用意させましょう、何せ私も後が無いのでね……。」

 

 

 

マコトに手招きされると朱音は髪を靡かせながら歩いて来た。

 

 

「この子が?…冗談でしょう?」

 

 

 

「冗談では有りませんよ……こう見えてかなり役に立つかと。特に魔戒騎士にはね……。では、私は授業が有るので。」

 

 

マコトは朱音を置いて行くとその場を去った。残るカードはこの1枚、これが無くなればマコトに待つのは恐らく死だ。

彼自身も焦っているのかもしれない。

だが、それは誰にも解らない。

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ー部室ー

 

学校側の指示により今日の授業は半日で終了。同好会のメンバーは普段通り部室へ集まっていた。話題は勿論、連続失踪事件に関する事。机の上には冴月の貰ったビラが置かれていた。それを囲みながら会議が開かれている。

 

 

「ねぇ吾妻さん、本気で探すの?こういうのは警察に任せた方が……。」

 

 

 

「当たり前でしょー!?此処使えるのも活動報告書を書く事が条件なんだから!!私だってクスクス笑われるの嫌なの!」

 

 

 

「そりゃあUFOとかUMAとか色々書いたもんなぁ。そりゃ笑われるよ…。」

 

 

 

「……私も警察に任せた方が良いと思うけど。」

 

 

「僕も弥空さんと竜弘君と同じかなぁ。」

 

 

約2名を覗いた部活メンバーは熱心に話し合っていた。警察に任せる派と此方で探す派にキッパリと別れて。

紗那は冴月と共に1つの机を挟んでそれぞれ向き合って座っていた。

 

 

「…連続失踪、そうなるとやはりホラーでしょうか?私も他の方に話を聞きましたが他校でも相次いでいると。」

 

 

 

「オマケに女子生徒を狙って……か。その可能性は有るな。番犬所は?」

 

 

 

「これを。コハク様からです。」

 

 

紗那は赤い封筒を受け取ると冴月へ手渡す。それを冴月は読まずにしまうと1人廊下へ出た。人が居ないのを見計らい、それを魔導火に焚べる。

 

 

{人々の願いを偽りの形で叶えしホラー、教会に有りき。事の次第を突き止め討伐せよ。}

 

 

と魔戒の文字で浮かぶと消えてしまう。

 

 

[やはりホラーね…この近くに教会なんて有ったかしら?]

 

 

 

「学校から離れた所に教会が有った筈。恐らくそこの事かもね。」

 

 

カガリと相談し、再び教室へ。

紗那の元へ来ると小声でホラーの仕業だと伝えた。紗那も小さく頷く。

 

 

「そこ!内緒話しない!話すならこっちで!」

 

 

いきなりビシッと有紀に指をさされると2人はため息をついた。どうやら話は調査に行くという事で纏まりつつ有るらしい。

 

 

「よっし、それじゃあ行くぞー!」

 

 

 

「…全員で行くの!?」

 

 

 

「当たり前でしょ?調査なんだよ、調査!ほら支度して!」

 

 

頭を抱える竜弘を他所に、有紀は鼻歌交じりに支度し先に出て行ってしまう。残りのメンバーはそれを追い掛けて行き、階段を降りて玄関から外へと出て行ったのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

下校する生徒の中に混ざりつつ、メンバーは校門を出て教会へ向かう。

歩いて約15分の所にその教会は有った。

怪しい様な物も何も無く、気になる様な箇所は何処にも見当たらない。

有紀は少し離れた所からそれを見ていた。

 

「うっわ…意外と大きいんだね……。」

 

 

 

「情報によると、行方不明の女子生徒が最後に目撃されたのもこの辺なんだってさー。おい竜弘…やっぱ警察に任せた方が良いって!」

 

 

 

「そうは言っても…吾妻さん、一応副部長だし?それに1度決めたら曲げないと思うよ……。」

 

 

有紀と竜弘、それから浩介はブツブツ言いながら辺りを散策し始める。

残りの4人である優一、楓、冴月と紗那は離れて探していた。有紀によれば変に固まってると怪しまれるとの事。

とは言えこの時点で傍から見たら怪しまれるのは間違い無い。

冴月は入口へ近寄るとドアへ少し手を掛け、中を覗いてみる。

 

 

「……開いてる。」

 

 

 

「邪気は感じられませんね…ですが、油断は禁物です。」

 

 

紗那もドアの隙間から様子を伺う。

中は人の気配が無く、静まり返っていた。冴月は一旦ドアを閉めると後ろに居た2人へ声を掛ける。

 

 

「楓さんと優一君は紗那と一緒に竜弘君達と合流し、成る可く此処から離れてて。」

 

 

突然の提案に楓は不思議そうな顔をして冴月を見ている。無論、優一も同じだ。

 

 

「え?でも弥那瀬さんは…?」

 

 

 

「大丈夫ですよ、冴月殿が代わりに様子を見て来てくれるそうですから我々は外で待っていましょう!それに竜弘殿達も探しに行かないとですし……ね?」

 

 

紗那が話に割って入り、楓と優一の背をグイグイ押しながら紗那は2人を連れて歩いて行く。目線で紗那が合図し、冴月はそれに頷いた。

3人が去った事を確認した冴月はドアをゆっくり開いて中へと入る。

 

教会の中はやはり人の気配が無い。

冴月が1歩踏み出すとガチャリと物音を立てて鍵が掛けられた。振り向いてドアへ駆け寄り、何度も開けようとするが開かない。

 

 

「……何か懺悔したい事でも有るのですか?」

 

 

 

「ッッ!!?」

 

 

 

声を掛けられると咄嗟に振り向く。

そこに居たのは年配の白髪の男。服装は上下とも黒の司祭服を着ていた。

胸元には十字架を象ったネックレスが有る。

 

「そう驚く事は無いでしょう。貴女は何か悩みを抱えて此処へ訪れた…違いますか?」

 

 

 

「……人を、友達を探しています。」

 

 

 

「ほぅ…お友達をお探しなのですか?」

 

 

 

「早百合…という名前に心当たりは有りませんか?」

 

 

すると男は少し考えてから再び話を始める。

 

 

「でしたら、輝姫(こうひめ)様にお願いしてみては如何でしょう?」

 

 

 

「輝…姫?変わった神様ですね。」

 

 

 

「ええ、私共の教会では輝姫様という神を祀っております。生きる上での悩み事やこれからの人生の在り方…他にも数多くの悩み事を解決して下さる神様です。ご友人の早百合さんもきっと…見つかると思いますよ?さ、此方へどうぞ。」

 

 

 

冴月は小さく頷くと男に連れられて教会の奥へ向かう。裏にあったのは広めのスペースに置かれた小さな建物の様な物。

その近くへ来ると男は足を止めた。

 

 

「この中でお待ち下さい。輝姫様が直接、貴女に解決の道標(みちしるべ)を示して下さる事でしょう……。」

 

 

 

「…解りました、ありがとうございます。」

 

 

中へ入ると格子状に仕切られた板が目の前に有る。そこへ向き合う形に座ると

仕切りを挟んだ向いに人の気配を感じる。

 

 

「…我が名は輝姫、汝の罪を打ち明けてみよ。」

 

 

 

「…友達の早百合が行方不明になったのに何もしてあげられなかった。友達なのに何も出来なかった自分が許せなくて……私は輝姫様に懺悔しに来たのです。どうすれば良いですか?」

 

 

冴月はわざと含ませる言い方をし、出方を伺う。すると輝姫という人物はこう返してきた。

 

 

「その早百合という子は貴女にとって余程、かけがえの無い方なのですね。大丈夫…時期に会えますよ。」

 

 

 

「変わり果てた姿で…という事ですか?」

 

 

 

冴月はボソッと呟いた。一瞬だが間が空いてから再び輝姫は話し出す。

 

 

「な、何を仰っているのですか?いきなり物騒な事を……。」

 

 

 

「…それとも、貴女が既に食べてしまった。その方が伝わり易いですか?」

 

 

 

「食べる?ふふ…私が?冗談も程々にして下さいますか?私は暇では有りませんので。これにて告会は終了致します…またの機会にでも。」

 

 

気配が消え、冴月は外へ出る。すると先程まで居た神父の姿は無かった。

此処に来た時と気配が変わっている気がした。

 

 

[……何かしら、嫌な気配がする。]

 

 

 

「同感…どうやらそう簡単に帰してはくれないらしい。」

 

 

 

冴月が1歩踏み出すと背後にある左右のドアから赤いローブを着た何者かが数人入って来る。そして冴月を取り囲むと彼女へ向けて各々が剣を突き出して来る。リーダーと思われる男がゆっくり前へ出ると話し出した。

 

 

「…我等が神、輝姫様に楯突くとは何事だ?小娘。」

 

 

 

「神?……アレが本当に神なのか?お前達からしたら神かもしれないが、オレからしたらあんなのは悪魔だ。」

 

 

 

「黙れ!!礼儀をロクに知らぬ小娘…貴様は此処から生かしては帰さぬ!」

 

 

 

「…元々、此処は普通の教会だった筈だ。それがいつからか変わってしまった。コレがオレに教えてくれたよ。」

 

 

冴月は懐から血の着いた生徒手帳を見せた。そこには顔写真と共に緒川早百合と記載されている。実は冴月が此処に足を踏み入れた時、神父へ付いて行く時に偶然、発見した物。長椅子の辺りに引っ掛かっていたのだ。

 

 

「…早百合はお前達に攫われた後、此処で食われた。彼女だけじゃない……何人、アイツに喰わせた?」

 

 

 

「言わせておけばッッーー!!」

 

 

1人が斬り掛かるとそれを避け、蹴飛ばす。辺りには今話していた奴を含めて6人。冴月はポケットから鈴を取り出すと数回程鳴らしてみる。だが反応は無かった。

 

 

「此奴ら…人間なのか!?」

 

 

 

[操られてるみたいね。恐らく、元凶が彼らを洗脳している……!]

 

 

 

そうしていると1人が冴月へ目掛けて剣を斜めに振り翳す。空気を切る音と共に振り下ろされた剣は冴月を掠めた。

直ぐに後退した為、躱す事は出来たが1歩遅ければ間違い無く斬られている。

即座に袋から剣を取り出し、冴月も構えようとする。

 

 

[冴月!斬っちゃダメよ!!]

 

 

 

「くそッッ…なら、どうすれば良い!?」

 

 

 

立て続けにそこから何人も冴月へ襲い掛かって来る。剣を引き抜かず、鞘に納刀されたままの状態で防ぐのがやっと。

カガリが咄嗟に指示を出して来る。

 

[私を外して、魔戒剣を噛ませるのよ!]

 

 

 

「え?でも…ッ!!」

 

 

 

[早く!]

 

 

 

「解ったよ…なる様になれッッ!!」

 

 

 

無理に押し退け、カガリを外す。

そして魔戒剣の一部を彼女の口へ噛ませて引くとキィィィという金切音を立てる。

途端に連中は苦しみ出してその場に倒れてしまった。女性の横顔にした様な腕輪であるカガリには別の使い方が有るのだ。

 

 

[これで良いわ、そのうち目を覚ますでしょうね。]

 

 

 

「…そんな使い方が有るなんて知らなかったけど?」

 

 

 

[教えてないものね。さ、戻るわよ!]

 

 

 

冴月は走って先程まで居た場所へ戻る。そこに居たのは神父とそれから同じ様に赤いローブを着た連中に捕まった同好会のメンバーだった。しかしそこに紗那は居ない。皆、室内の入り口に固められており左右から剣を向けられている。

神父はゆっくり振り向くと冴月の方をニコニコしながら見ていた。

 

 

「一足遅かったか…ッ!」

 

 

 

「これはこれは……彼等も貴女のお友達ですか?コソコソと嗅ぎ回っていたのを彼等が見付けてくれたのです。困りますねぇ…こういう事をされるのは。」

 

 

 

「…良く言う、オレを殺そうとした癖に。」

 

 

 

「それは貴女が我等が神を冒涜なさるからでしょう?もし貴女が死んだ時…導いて下さるのは何方なのでしょうね?」

 

 

 

「生憎、オレはそんなのに興味は無い。」

 

 

 

「ふむ……なら、お友達を犠牲にして貴女だけが助かるか…それともお友達だけが助かり、貴女が死ぬか。試してみましょうか……。」

 

 

 

神父がすっと片手を上げると、冴月の頭上から不意討ちに近い形で何かが襲い掛かって来る。冴月は辛うじてそれを避けると離れて向き合う様に相手を見据えた。そこに居たのは以前相手にした黒い鎧。手にはあの時と同じ剣を握り締めて立っている。

 

 

「……。」

 

 

 

「成程…お前も絡んでたのか。丁度いい、運動でもさせて貰おう。」

 

 

冴月は剣を引き抜き、鞘を左手で持つ。

じりっと床を踏み締めて構えた。

顔を上げた竜弘が思わず叫ぶ。

 

 

「弥那瀬さんッ…まさか戦う気!?」

 

 

 

「大丈夫、心配しないで。必ず全員此処から帰してみせるからッッ!!」

 

 

 

「ふふッ、はははははッ!!まるでヒーローですねぇ?貴女はそれに無惨に切り刻まれて死ぬのですよ?許して下さいと一言、言えば助かるかもしれないのに。それすら拒むとは…何て愚かな!!」

 

 

 

「愚かで悪かったな。オレは神も仏も信じない……許しを乞う気も無い!! 」

 

 

冴月は神父を見ずに答える。

すると神父の顔から笑顔が消えた。

 

 

「……もういい、やってしまえ。 これは神罰だ!神へ逆らった事をあの世で後悔するが良い!!」

 

 

黒い鎧は神父の声に小さく頷くと冴月へ襲い掛かって来た。連続して何度も剣を振り翳して攻め立てる。それを冴月は鞘と剣を交互に使い分けて受け流していき、隙を見て片足で蹴りを喰らわせ突き放す。黒い鎧はふらつきながら体勢を立て直し、冴月を見据えていた。

 

 

「……どうした?まさか、もう疲れたのか?それとも…この間の傷が未だ完全に治ってないのか?」

 

 

 

「殺…シテ……ヤル…ッッ!!」

 

 

 

「……何れにせよお前はオレが斬る!!」

 

 

 

黒い鎧は雄叫びを上げると冴月へと斬り掛かる。剣が完全に振り下ろされる前に冴月は飛び上がり、空中で身体を捻りながら相手を飛び越える。そして着地すると同時に振り向かずに剣を後ろへ向けて背中側から突き刺した。断末魔を上げながら黒い鎧は剣を足元へ落とした。

 

 

「ッッーー!!?」

 

 

 

「これで終わりだ…ッ!!」

 

 

剣を引き抜いた途端、力無くバタリと倒れた。冴月は立ち上がると神父の方へ歩きながら剣を向ける。

 

 

「なッ!?バカな……!?」

 

 

 

「…どうする、頼みの綱の1本は切れたけど?」

 

 

 

冴月は近寄ると再び鈴を鳴らす。

しかし神父はホラーでは無く人間だった。残っているとしたらただ1人、彼等が崇めている輝姫という神様のみ。

 

 

「く、くそッ…この役たたずめ!」

 

 

 

神父は後退りながら立ち止まる。

すると紗那が2階の窓から飛び降りてくると綺麗に冴月の後ろへ着地した。

 

 

「ご丁寧に法師避けの結界まで張ってくれるとは…入るのに苦労しました。その男がホラーですか?」

 

 

 

「いや、人間だ。恐らく輝姫って奴がホラーだろう……何処に居る?」

 

 

 

冴月は神父を睨み付ける。

2人の後ろからヒールの音が響き、後ろを振り向いた。2人の後ろから出て来たのは、白いドレスの様な衣装を纏った黒髪の女性。目は黒く輝いていた。

 

 

「何事ですか…騒々しい。」

 

 

 

「……お前が輝姫なのか?」

 

 

 

「如何にも。我こそが輝姫…人々を救い

、導く存在……。」

 

 

 

冴月は向き合うと剣を下ろしたまま彼女と睨み合う。そして神父の時と同じ様に鈴を取り出すと鳴らしてみせる。彼女の両目にはホラーの証である刻印が浮かび上がった。

 

 

「……それにしても器用な真似を為さるのですね。貴女が魔戒騎士。その後ろに居るのが魔戒法師…ですね?」

 

 

 

「ああ、そうだ。偽りの神を演じ…大勢の人間を喰らい続けたその代価…貴様の命で支払って貰う!!」

 

 

 

「支払う?ふふ…馬鹿な事を。彼等が勝手に私を神に仕立て上げ、崇めただけの事……。その際の供物として捧げられたのが貴女と歳の近い者達という事だけ。それに彼等は私に陶酔していた…何だってしてくれましたよ?私の望む事は何でも……ね?」

 

 

 

「…言う事も随分ご立派な物だな。オレはお前を絶対に許す気は無い。」

 

 

冴月は迷わず剣を向ける。すると神父は冴月と輝姫の前へ割って入ると左右の腕を広げて制止させた。

 

 

「や、止めろ!!我等が神を斬るつもりか!?それだけは絶対に許さん!!どれ程…どれ程苦労して彼女を神とし崇めて来た事か……!!」

 

 

 

「違う!ソイツは神なんかじゃない!!お前達の手に負えない化け物なんだぞ!?いいからそこを退けッ!!」

 

 

 

「神父殿…この者を何としても消しなさい……我に不敬を働く愚者であるぞ!!」

 

 

輝姫は好機と言わんばかりに指示を出した。すると神父は懐から刃物を取り出し、冴月へ襲い掛かる。刃物をバツの字を描く様に振り回したり突き刺そうとしながら迫る。

 

 

「ちぃッ…邪魔だ!!」

 

 

 

「冴月殿、伏せてッ!!」

 

 

紗那が指示を出し、冴月が一度屈むと神父の額へ札が張り付いた。

すると神父は刃物を落としてガックリと膝を着いて倒れてしまった。

 

 

「大丈夫、眠らせただけです!早く奴を!」

 

 

 

「解った、恩に着る!皆を頼んだぞ!!」

 

 

輝姫は背を向け、正面のステンドグラスを突き破ると外へ逃げて行った。それを冴月も同じ様に飛び越えると彼女の後を追って行く。走り続けるとそこに有ったのは墓地だった。十字架を象った墓石が幾つも辺りに並んでいる。

 

 

「…何処へ逃げた?」

 

 

 

[冴月ッ、来るわよ!!]

 

 

カガリが叫ぶと冴月目掛けて何かが飛んで来る。それを横に飛んで避けると、何かが木にぶつかって崩れ落ちた。

飛んで来たのは墓石、当たればタダでは済まない。

 

 

「最低だな、何処までもッッ!!」

 

 

冴月は飛んで来た方へ走ると再び何度も墓石が飛んで来る。それを足場にし飛び上がると飛んで来た別の墓石を剣で斬り裂いて破壊する。着地すると目の前には足を組んで岩へ座る輝姫の姿があった。

 

 

「しぶといのですね…魔戒騎士は。あの程度で死なない事は関心します。ですが、もう終わりにしましょう……貴女は此処で私により裁かれ、命を堕とす。それは絶対に避けられぬ事……ふふふッ!!」

 

 

 

立ち上がると姿はそのまま、手には青龍刀の様な剣を呼び出してそれを此方へ向けて来る。冴月も構えると睨み合う形になった。岩を片足で蹴って飛ぶと頭上から冴月目掛けて刀を振り下ろす。防御体勢を取りながら冴月は受け流し、互いに刃を交錯させていく形へともつれ込んで行く。互いに至近距離で睨み合いながら刃による命のやり取りを続けていた。

 

 

「…未だ抗うのですか?大人しく抵抗を止めれば良い物をッッ!」

 

 

 

「オレは諦めが悪い…お前を倒す迄、オレは死ねない!!」

 

 

 

「ッ……いい加減、死になさいなッ!!」

 

 

輝姫は振り払い、冴月を無理に蹴飛した。吹き飛ばした所へ何発も光球を放つと白い煙が彼女の離れた位置で立ち上っている。漸く邪魔者は居なくなったと彼女は勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 

 

「…後はあの小娘達を我の生け贄としよう。そして更なる繁栄を目指すのだ…大した事は無かったな、魔戒騎士など。我の前では無力に等しい……。」

 

 

 

「……随分と言ってくれるじゃないか。悪いが誰1人お前に食わせたりする気は無い!!」

 

 

 

「な…ッ!?どうして……!?」

 

 

 

立ち上る煙の中から赤い2つの光が彼女の方を睨んでいた。そして煙が風で吹き払われるとそこに居たのは赤目の人型をした狼。その身体は蒼く輝いていた。

 

 

「ぐッッ……我は楽園を築くのだ!!信者達と共に!それまでは死ねぬ!!」

 

 

 

「…人間の死を持って完成される楽園など、この世に有るものかッッ!!」

 

 

蒼牙は変化させた魔戒剣を構え、左手を前方へ突き出す。そして走り出した。

 

 

「ちぃ…ッッ!!」

 

 

 

輝姫は蒼牙へ光球を何発も放つが、どれも鎧に弾かれてしまう。目の前へ迫ると蒼牙は剣を輝姫へ目掛け、振り下ろした。すかさず手にしていた青龍刀で輝姫も防ぐのだが力で押され振り払われてしまった。

 

 

「貴様の陰我、このオレが断ち切るッッ!!」

 

 

 

「小娘如きに…我がやられる!?馬鹿な…ッッ!?」

 

 

 

「これで終わりだぁあッッーー!!」

 

そして振り払った同じタイミングで輝姫の身体を右肩から斜め方向へと魔戒剣を用いて斬り裂いた。血を流しながら輝姫はバタリと背を向けて倒れる。

 

 

「どう…して……ッ…我は…人間を……導き…そして……ッッ!」

 

 

 

「…お前は奴等に誘拐され、ホラーとして生まれ変わった。早百合というのはアンタなんだろ? 」

 

 

冴月は鎧を解くと彼女の方を見つめていた。輝姫が早百合という人物である事は悪魔で仮説でしか無かったが、此処でハッキリしたのだ。

 

 

「…私は帰り道に…誰かに誘拐されてから…眠らされ、気が付いたら…こうなっていた……。止められ無かった……私は…何人もの…女の子達を……。」

 

 

 

「…何か伝えておく事は有るか?アンタの家族が必死にアンタを探していた。」

 

 

 

「…ごめんなさいと伝えて…それと、今までありがとう……と。」

 

 

 

「……解った、伝えておく。」

 

 

冴月は頷くと剣を鞘へ納め、背を向けて歩き出した。彼女も被害者だったのだ。

連中に拉致され、挙句にホラーの依り代とされて神として祀られた。

冴月は拳を握り締め、怒りを堪えながら仲間と共に教会を後にしたのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

翌朝、冴月は学校に来ていた早百合の母親へ彼女の遺言を伝えると生徒手帳を手渡した。彼女が死んだという事は敢えて伏せて。母親は肩を落とし、冴月へ頭を下げると学校を後にした。

 

学校内では教会で黒魔術が行われていたとか、行方不明になったのは怪しい何かが行われていた等の噂が流れ出していた。何故なら今朝のニュースがその話で持ち切りだったからだ。

教会からは生徒手帳やカバンといった数多くの品が見つかり、中には処分された物も数多く有るとの事。

 

冴月はそんな話を聞きもせず、屋上へ上がると1人で黄昏ていた。

カガリは景色を見ている冴月へ話し掛ける。

 

[…冴月、良かったの?これで。]

 

 

 

「誘拐され、ホラーに成り果てて、生け贄として用意された他校の生徒を喰らい、オレに斬られたなんて伝えられる訳無いだろ?」

 

 

 

[そうね…あら、誰か来たわよ。]

 

 

 

そう言われると冴月は振り向く。

そこに居たのは有紀。ゆっくりと此方へ近寄って来ると立ち止まった。そして彼女は話を切り出す。

 

 

「…アレが冴月の本当の姿なの?」

 

 

 

「……何の話?」

 

 

 

「昨日の…教会の、冴月が剣を持って変な鎧と戦ってた時の話!冴月が……魔戒騎士って言われてたけど本当なの?」

 

 

 

「……そうだ。オレは人知れず化け物を狩る存在。人間を守る為に…紗那も同じだ。彼女は騎士じゃないけど。」

 

 

 

冴月は隠す気は無く、淡々と話し続けた。すると有紀は冴月へ駆け寄ると抱き締めて来た。

 

 

「ちょッッ!?な、何だよ…!?」

 

 

 

「…ううん、何でも無い!カッコ良かったなぁって思って♪紗那さんと冴月が居れば何しても大丈夫だなぁーって!」

 

 

 

「あのなぁ……!」

 

 

有紀は冴月を抱き締めたまま笑っていた。冴月は相変わらず呆れたままだが。

色々起きたものの、今日も普段と変わらない穏やかな日常が流れていた。

最後の敵が爪を研いで待ち構えているという事をまだ知らず。

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