牙狼外伝 蒼キ牙-SOUGA-   作:秋乃楓

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決着-SETTELEMENT-

家族。それには様々な形がある。

仲の良い家族、母か父かどちらかの仲が良くはない家族、或いは両方悪いか良いか。

それは姉妹や兄弟にも同じ事が言える。

生徒会書記、奥村マコトの家族は幼い時は仲が良かった。しかしそれは次第に崩れていく。彼には上に2歳離れた兄が居た。優しくて頼れる兄が。しかし、マコトが高校へ上がる時に兄は引き籠もりになってしまった。成績優秀で優しくて頼り甲斐のある兄が。

 

何があったのか?後から解ったがそれは兄へ対する過度なプレッシャーが両親から向けられたのが原因。幼い時から彼の兄はずっと塾や習い事に通っていた。友達と遊んだりする時間は彼になど無いに等しい。

ゲームをする時間やテレビを見る時間が有れば勉強、勉強、勉強。

兄は自分の気持ちを押し殺して周囲に明るく、優しく振舞っていた。

それが限界を超えてしまったのだ。

将来はエリートになって欲しいという両親の望みが兄を変えて彼の人格をも殺した。

次第にマコトは両親に殺意を覚え始めた。

 

そしてある日、遂に彼の番が来た。両親はマコトへと声を掛ける。

 

 

「お前はアイツの様になるなよ。」

 

 

その一言だけを彼へ投げ掛けた。

それに対してマコトは静かに頷いた。それから彼もまた両親の期待という十字架を背負わされたのだ。

 

気が付けば仲の良い友達は居らず、自分だけは常に独り。孤独だった。勉強が出来て成績が良かったとしても周りには誰も居ない。そんな日々が毎日続いていた時、ある1人の生徒から声を掛けられた。

 

 

「……キミは何者にも縛られなくて良い。キミの人生はキミだけのモノだ。だからその人生を邪魔しているモノを消してしまえば良いじゃないか。」

 

 

マコトは半信半疑で彼から赤い液体の入った受け取った。その日、家へ帰ると両親は兄の事で喧嘩していた。

玄関まで声が聞こえて来る。

育て方が悪かったからとか何とか色々。

もう、うんざりだった。

同じ事を毎日毎日聞いている。

出来ればこれ以上聞きたくない。

そしてそのストレスは自分へと向けられるのはもう解っている。

そう思った時、彼は小瓶を取り出して液体を飲んだ。その瞬間何が起きたかは解らないがリビングに居た両親は無惨な姿で床に倒れていた。

辺りには血が飛沫し、家具は乱雑に倒れている。酷く後悔したがマコトはある考えに行き着いた。

 

 

ーコイツらは死んで当然だ。ー

 

 

そしてその日からマコトは自宅へは帰らず、学校にある寮で暮らす事になる。

その声を掛けた主へ忠誠を誓って。

もう自分を縛る者は何も居ない。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

冴月は1人、自室でもある共同部屋の机に向かって頭を抱えていた。国語の課題である作文が未だ終わっていないのだ。

テーマは自分の家族について。

冴月には両親の代わりである八千代が居るが、あまり思い出が無い為、書けない。

更に自分の両親の事を書こうにも色々と複雑である事から書けない。

八方塞がりの状態だった。

 

 

「はぁ…何でこんな事しなくちゃダメなんだよ?別に書いたって仕方ないのにさ……。」

 

 

シャーペンをクルクルと右手の指先で回しながら愚痴を零す。書き出そうにも中々書き出せないまま、既に30分近くは経過していた。溜息をついたとしても課題は終わる事は無い。

 

 

[魔戒騎士様も同い歳の子の課題には手を焼くのね。ホラーなら容赦無くバッサリ斬っちゃうのに。]

 

 

「カガリ、うるさい…気が散る。少し黙っててよ……。」

 

 

 

 

[何か無いの?八千代と出掛けた時の事とか、店の手伝いした事とか。]

 

 

 

 

「……買い出しの手伝いしか思い付かない。皿とかコップなんてロクに拭けないし…何個落として割ったと思ってんの?」

 

 

魔導輪カガリを見ながら呟く。

ルームメイトの有紀は夕飯の買い出しに行っている為、部屋に居るのは冴月1人。気分転換しようと冴月は呟くとカガリを左腕に嵌めると立ち上がり、部屋の玄関へと向かった。勿論普段使っているあの黒く細長い布袋を持って。

廊下を出て、扉に鍵を掛けてから冴月はゆっくりと歩き出した。

 

月ヶ丘学園は夜間でも校則上、外出は可能であり校外へ買い物に出る事も許されているが、門限は決まっている。

それを過ぎなければ問題は無い。

冴月は1人で寮から離れた所に有る校舎の屋上へと向かった。

外へ出ると夜の風が程良く、心地よい。

外は既に真っ暗で遠くには街の明かりが見える。誰にも邪魔されないこの時間帯が冴月にとっては癒しの時間でもあった。

 

だがこの日は珍しく先客が居た。

そこに居たのは同じ学校の男子生徒が着る黒い学生服を着た男。眼鏡を掛けている。彼は冴月を見ると近寄って来た。

 

 

「おや…キミも此処へ来るのですか?珍しいですね、女子生徒が此処に来るなんて。」

 

 

 

 

「え?ああ…気晴らしに。此処から見る景色が綺麗なんだ。」

 

 

 

 

「…澄み切った夜空、時折見える月。そして下には街の明かり。確かに綺麗です…そう言えばキミの名前は?私は奥村マコトと言います。高等部でクラスは3-B。」

 

 

 

「…冴月、弥那瀬冴月。学年は中等部でクラスは2-Cだ。」

 

 

 

素直に互いに名乗ると奥村は冴月へ頭を下げた。2人は離れた位置でフェンスへ寄り掛かるとそのまま外を見ていた。

 

 

「…弥那瀬さんはいつも此処へ?」

 

 

 

 

「いつもじゃない…悩んだり、迷ったりしたら此処に来て気分転換する。今日も課題が終わらなくて気分転換に此処へ来た。」

 

 

冴月は素直に自分の素性を話した。

マコトは納得した様子で頷く。

 

 

「課題…何のです?」

 

 

 

「作文。国語の課題が終わらなくて……出来れば早い内に終わらせたいんだけど中々進まなくて。内容が家族についてだから余計に難しくて。」

 

 

 

「……家族についてですか。ご両親とは離れてお住いで?」

 

 

 

「まぁ、そんな所。正確に言えば本当の両親はもう居ない…育ての親代わりの人は居るけど。後、上に姉が居たけど行方不明になってる……。」

 

 

冴月は遠くの景色を見ながら呟いた。

もう本当の家族との記憶はぼんやりとしか思い出せない。いつの間にか八千代が自分の傍に居て、彼女の元で育った。

血は繋がっていないが彼女の娘として。

今度は冴月から話を切り出した。

 

 

「奥村…さんは?家族は居るの?」

 

 

 

 

「居ますよ…両親と兄。面倒見の良い兄と夫婦仲の良い両親の3人がね。」

 

 

 

 

「そっか…羨ましいな。仲が良いなんて。」

 

 

 

 

「育ての親の方とは上手く行ってないのですか?」

 

 

 

 

「ううん、そうじゃない。子供扱いが凄いから……ちょっと。」

 

 

 

冴月は苦笑いしながら話していた。

それから2人は幾度か会話を交わし、門限の時間が近付いた事からその場で別れるとお互いに別方向へと歩いて行く。

マコトは立ち止まると去り行く冴月の背中を見ていた。

 

 

「…正確に言えば私にも家族は居ましたよ。もう既に故人ですがね。それに彼女からは唯ならぬ雰囲気を感じる…テストしてみましょうか。朱音が探している魔戒騎士なのかどうかを……ね。」

 

 

 

マコトはポケットから黒いビー玉を幾つか取り出す。それを空中へ投げると体の素体ホラーが姿を現した。ホラーはそれぞれ女子生徒へ変貌し走って行く。それ等は予め彼がターゲットとして選んだ女子生徒達。元は人間だったが彼等に喰わせたのだ。

マコトはそれを不気味に笑いながら見守っていた。

 

 

冴月は屋上から校舎内へ戻ると廊下を進み、自分の部屋が有る女子寮へと向かっていた。するとカガリが突然口を開いて冴月へ警告を促す。

 

 

[…冴月、怪しい気配がするわ。後ろから誰かに付けられてる。]

 

 

 

 

「ホラーか?それとも人間?」

 

 

 

 

[そこ迄は流石に…冴月ッ、後ろ!]

 

 

 

 

「何!?」

 

 

 

咄嗟に振り向くと1人の女子生徒が冴月へと襲い掛かって来た。彼女は素手で冴月の首を掴もうとする。それを振り払うと冴月は身構え、指で鈴を弾いて鳴らす。途端に目が赤く発光し、人間では無い事が解る。だが本来のパターンとは異なる事に疑問を抱いていた。

憑依した際に浮かぶ特有の刻印が彼女の瞳には浮かばなかったのだ。

 

 

「…目が赤いホラーなんて初めて見た。コンタクトでも入れてるのか?」

 

 

 

[油断は禁物よ。来るわ!]

 

 

 

カガリが叫ぶと女子生徒が冴月へ拳を突き出して殴ろうとする。それを冴月は避け、右足を相手の足首へ引っ掛けると転倒させてから背中を踏み付け、身動きを封じた。すると今度は教室のガラスを突き破って冴月の左側から飛び掛って来た。もつれながら互いに転倒すると彼女との顔が異様に近くなる。やはりその目は赤く発光していた。

 

 

「くッッ…もしかして操られてるのか!?」

 

 

 

 

[解らない!兎に角…此処じゃ不利だわ、場所を変えないと!]

 

 

 

操られているだけなのかもしれないという憶測が過ぎると冴月は2人目の女子生徒を蹴飛ばし、間合いを取ると立ち上がって走り出した。それを機に2人の女子生徒も冴月を追い掛けて来る。

階段近くへ差し掛かると目の前の教室からまた1人の女子生徒が冴月の前へ立ちはだかる。

前も後ろも塞がれてしまい、唯一の逃げ場である階段の踊り場へと追い込まれてしまった。

 

 

 

「ッ…まるで狩りでもしてるみたいだな。オレは狩りの獲物って訳だ…!」

 

 

 

 

[冴月、私に剣を噛ませて頂戴。洗脳されているならそれで解ける筈!]

 

 

 

 

「……了解ッ!」

 

 

 

袋から魔戒剣を取り出し、鞘から抜剣するとカガリを外して彼女の口へ刃を噛ませて横へ引き抜いた。金切り音と共にその場に居た女子生徒らが悶え苦しむ。しかし、苦しんでいるだけで効果は無かった。

 

 

「つまり、コイツらは誰かにホラーにされた…って事か!」

 

 

 

[なんて事…酷過ぎる…!]

 

 

 

カガリを嵌め直し、冴月は剣を向ける。相変わらず向こうは此方を殺す気でいるのは間違い無い。1人が冴月へ飛び掛るとそれを剣で袈裟懸けに斬り裂いた。

真っ二つにされた女子生徒は悲鳴と共に消滅する。残り2体なのだが、突然後ろから羽交い締めにされてしまう。

もう一体潜んでいた。どうやらいつの間にか背後に回り込まれてしまったらしい。

 

 

「くそッ、離せッ!!」

 

 

 

羽交い締めにされたまま、正面から来たもう1人の女子生徒を蹴飛ばすとその直後に羽交い締めしていた彼女の足を強く踏み付ける。怯んだ隙に肘鉄を腹部へ喰らわせると剣を後ろへ向けて彼女へ刺した。

 

 

「最初ので1人…お前で2人目ッ!!」

 

 

 

蹴られた女子生徒はふらつきながらも体勢を立て直し、再び冴月へ飛び掛った。

冴月は左手に持っていた鞘を逆手で持ち変えると今度はその鞘で生徒の顔を力強く殴りつける。鈍い音と共に女子生徒が倒れると彼女の身体へ剣を突き立てて倒した。女子生徒は悲鳴と共に消滅する。

 

 

「…3人目、残るはお前だけだ。」

 

 

 

冴月へ襲い掛かって来たのは4人。

1人は斬り裂き、残りの2人は刺突で倒した。そして階段の上から此方を見下ろしている1人で最後。冴月は警戒しつつ彼女へと剣を向けていた。

だが襲い掛かる気配は無くその場から彼女だけが逃走した。だが逃走は失敗、彼女の背中には剣が突き刺さっていた。冴月が逃げる瞬間に投擲し刺したのだ。

 

 

「……これで4人目。未だホラーの気配は有る?」

 

 

 

 

[いえ、気配は消えたわ…それにしても妙ね。まるで貴女を試している様にも見えたけど。]

 

 

 

「特に最後の奴。アイツは逃げようとしてた…カガリの説が正しければ最初からそれが狙いだったのかも。本当、やってくれる……!」

 

 

冴月は剣を鞘へ納めると袋へ戻す。

階段を降りると女子寮へ戻る廊下を歩きながら自室へと戻って行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

翌朝。

結局、国語の課題である作文は数行しか書けなかった。

本来の課題として定められていた行数には達していなかった事から冴月は放課後に残って書く事になってしまった。

それを今朝の1限から言い渡された事で

冴月のテンションは最悪だった。

 

午前の授業が全て終わった為、昼休みに少しでも書こうと必死に頭を抱えて考えるものの、中々思い付かない。

目の前の席に有紀が腰掛けるとその様子をじーっと見ていた。

 

 

「どう、書けそう?」

 

 

 

「直ぐ書けたら苦労しない…。」

 

 

 

「堅苦しい文章で書こうとするから進まないんじゃない?」

 

 

 

有紀は手にしていた紙パックの野菜ジュースをストロー越しに飲みながら見ている。そう指摘されながらも冴月は何とか書こうと必死に考えを模索していた。

 

 

「そもそも冴月の家族って何処に住んでるの?」

 

 

 

「……話せば長くなる。オレも記憶が曖昧だったりするし。それに、此処に来る前は育ての親代わりの人と暮らしてたから。」

 

 

 

「ふぅん…つまり本当の家族じゃないって事か…そりゃ書きにくい訳だ。」

 

 

取り敢えず1行〜2行は埋める事が出来たものの、あと数行がどうしても埋まらない。そうこうしてると昼休みも終わり、午後の授業が始まる。

冴月も作文用紙を片付けると支度をしてから教室を後にした。

 

それから更に時間が経過し放課後。

冴月は教室に1人残って作文を書いていた。皆は部活動だったり、帰宅したりと様々。有紀には課題のせいで遅れるとだけ伝えてある。

外はもう夕方で教室にも夕日が射し込んでいた。室内にはシャーペンでカリカリと文字を書く音だけが響く。

漸く基準の箇所まで書き終わると冴月は背伸びをした。

 

 

「終わった…ッ!やっと解放された……。」

 

 

冴月はシャーペンを置くと一息つく

後はコレを出しに行けば終わる。

支度をすると原稿用紙とカバンを持つと教室を後にする。

だが廊下に出た冴月を待っていたのは先程とは全く違う光景。

壁面や床も全て真っ白、更に窓も一つも無い。

 

 

「何これ…どういう事?」

 

 

 

[誰かが意図的に空間を操作した…そう考えるのが自然でしょうね。]

 

 

 

冴月は辺りを見回しながら進んで行く。本来なら下へ降りる為の階段が有る位置へ来るのだがそれすら消えていた。

目の前に広がるのは真っ白な空間だけだ。

辺りを見回していると向こうから誰かが来る。それは冴月も良く知る人物だった。

 

 

「…こんにちは、弥那瀬さん。」

 

 

 

 

「奥村…どうして此処に?」

 

 

彼女の前へ来たマコトは立ち止まると挨拶する。昨日見た格好と全く同じ。

 

 

「…呼び捨てですか。私はキミより1学年上なのに。ですが…今はそんな話はしなくて良い。」

 

 

 

「お前がこの空間を作ったのか?」

 

 

 

 

「ええ……そうですとも。2人きりで貴女と話がしたかったから。」

 

 

 

 

「話だと?……オレは用事が有る、話している暇は無い。早くコレを解け!」

 

 

 

 

「いけませんねぇ…女の子が乱暴な言葉を使うとは。礼儀というモノを貴女は知らない様だ……。」

 

 

 

マコトはメガネを片手で少し上げた。

そしてニヤリと彼は微笑む。

 

 

「おい、聞いてるのか!?解っているならさっさと…ッ!?」

 

 

 

冴月が叫んだ途端、乾いた音と共に左頬に鋭い痛みが走った。マコトがいつの間にか目の前におり、彼女へ平手打ちを放ったのだ。

 

 

「……何ですか?その言葉遣いは。貴女は女の子だ…もっと丁寧な言い方をしなさい。」

 

 

 

「くッ…五月蝿い、余計なお世話だ…ッ!?」

 

 

 

そう言いかけた途端、今度は右頬を平手打ちで殴られてしまう。咄嗟に冴月は距離を取ろうとするが身体が動かない。

まるで金縛りに襲われている様に。

 

 

「痛ッ…!くそッ…身体が…動かない…ッ!!」

 

 

 

 

「ふふ…無駄ですよ、足掻いても意味なんて有りません。」

 

 

マコトは冴月の両肩へ手を置くと彼女の身体を舐め回す様な視線で見つめている。ゆっくりと彼女の顎を片手でクイッと持ち上げると覗き込む様な形で見つめていた。

 

 

「良いですね…そのお前を許さないという目付き…!」

 

 

 

 

「…言いたい事はそれだけか?」

 

 

 

 

「ふふ…私はね、貴女の事はもう全て解っています。世の中は不思議なモノです……いやはやまさかこんな事が有るとは。」

 

 

マコトはニヤニヤと笑いながら冴月の後ろへと回り込む。そして後ろから彼女へ覆い被さると耳元で囁いた。

 

 

「…貴女、自らを魔戒騎士と名乗っているそうですね?魔戒剣を扱えるのは男、更に鎧を纏えるのも男。それなのに何故…貴女が扱えるのでしょう?」

 

 

 

「答えるつもりは無い。」

 

 

 

「隠さなくて良いのですよ…他の誰にも話す気は有りません。どういう経緯でそうなったのか…それを知りたいだけなのです。」

 

 

マコトは冴月の左胸を片手で撫でる様に触っていた。身体を愛でる様な手付きは不快感でしか無い。だが動けない以上は身体を弄ばれるだけ。冴月は目を閉じて、一呼吸置くと再び目を開いてから話し出した

 

 

「…生憎、オレはお前に話す事なんて何も無い。お前こそ正体を現したらどうなんだ?」

 

 

 

 

「…何の話ですか?今は貴女の話をしているのですよ?私の話はどうでも…ッ。」

 

 

 

 

「お前は人じゃない。とっくの昔に人間であった事を捨てている…。」

 

 

 

 

「ふッ…何を言い出すかと思えば。今度は人を化け物呼ばわりですか?いけませんねぇ…なら貴女の身体に教えて差し上げますよ。私を怒らせたらどうなるかをッ!!」

 

 

マコトは右手を冴月の腹部から下へ這わせようとした。が、冴月の左手がそれを掴むと今度は彼の片足を力強く踏み付けた。悶絶しながらマコトは冴月から離れると足を抑えている。

 

 

「な、何故だ!?何故拘束を!? 」

 

 

 

 

「…仲間が前にくれた札が役に立ったよ。御守り代わりとして持ってたけどまさかこんな形で使う日が来るなんてね。」

 

 

冴月は得意気に笑って見せた。

しかし、肝心の剣は教室へ置きっぱなしの為扱う事が出来ない。

つまり丸腰なのだ。

 

 

「くッ…おのれ……!ですが、この空間は私の思い通りに出来る!此処で貴女を殺す事も容易では無いという事ッ!!」

 

 

マコトは片手を突き出すと日本刀の様な刀を取り出し、鞘から引き抜く。そのまま刃先を冴月へと向けた。

そのまま突撃すると彼女目掛けて刀を縦に振り下ろす。冴月が後退し避けると今度は横一線へ振る。それも避けられるが、彼女の髪が数本切れて足元へ散らばった。

 

 

「…自分に従わなければ力で支配か?ホラーのお前が考えそうな事だな!」

 

 

 

「さっきから五月蝿いぞ…貴様ぁッ!!」

 

 

顔を上げたマコトの目が赤く輝いている。相当頭に来ているのか呼吸が荒くなっているのが解る。

 

 

「やっと本性を現したな…ッ!!」

 

 

 

 

「私は…貴女が欲しいだけなのに…何故、思い通りにならない……何故!!」

 

 

 

 

「思い通りに成らない事だって有る…それをお前に教えてやるッ!!」

 

 

冴月は何も持たずに走り出した。

1つの可能性に賭けて。マコトが空間を好きに出来るのなら何かしらの形で冴月も干渉し何か出来るという事。

左手に意識を集中させ、マコトとの距離を縮めていく。

 

 

「丸腰で突っ込むとは…ヤケになりましたか?ふふッ、なら貴女をこのまま真っ二つに斬り裂いて差し上げましょうッ!!」

 

 

 

「それは……どうかなッ!! 」

 

 

冴月は素早く右手を左下から右上へ斜めに振り翳すとマコトの胸元を斬り裂いた。いつの間にか彼女の手には青い持ち手の剣が握られている。マコトはふらつきながら後ろへ下がり、胸元を抑えていた。

 

 

「ば、バカな…ッッ!?」

 

 

 

「…終わりだッ!!」

 

 

 

冴月は再び剣を構えると彼を刺突し、トドメをさした。引き抜いて離れるとマコトは膝をついて倒れてしまった。

 

 

「見事…です……その剣捌き…やはり…貴女は…只者では無い…ッ!」

 

 

 

「…人間の姿のまま散れ。これ以上醜態を晒すな。」

 

 

冴月は背を向けたまま、マコトが消滅するのを待った。それから塵の様に彼が消滅し空間は元へ戻る。カシャッという軽い音と共に彼のメガネだけがそこに残されていた。それともう1つ、その傍に何かが落ちている。

冴月は振り向くとそれに近寄り拾い上げた。

 

 

「…瓶?中身が未だ入ってる。」

 

 

 

[これは嘆きの滴!?どうして……!]

 

 

 

「嘆きの滴?」

 

 

 

[…一種の薬液よ。これを飲んだホラーが人間を喰らえば喰らうほど力が増して強くなる。でも有り得ないのよ…魔戒の技術では生み出せない筈なのに。どうして此処に?]

 

 

 

「……もし人が飲んだらどうなるの?」

 

 

 

 

[ホラーになるわ…無条件で。陰我が有ろうと無かろうと関係無く。集め方は…確か人間の悲鳴や絶望を特殊な魔術で変換し、それを液体へ変化させるのよ。けど古の魔術だし、そもそも意図的にホラーを生み出せる事から魔戒法師の間でも禁術として扱われているのよ。]

 

 

 

「…つまり、誰かがこの学校で此奴を集める為に動いているって事か。」

 

 

 

 

[ええ…そうなるでしょうね。コレは回収し、紗那か八千代に見て貰いましょう。]

 

 

冴月は瓶を手に取るとポケットへしまい、教室へと戻る。支度を済ませてから彼女は課題を提出しに向かった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

同じ頃。

生徒会室では1人の女子生徒が居た。

手にはマコトが掛けていたメガネを持って。

 

 

「…呆気ない最後だったわね、奥村君。所詮…貴方の実力はその程度という事か。」

 

 

黒いカーテンを少し開いた窓から彼女は見ていた。不気味な笑みを浮かべながら。

 

 

「私も見てみたいわ、変わった魔戒騎士をね……。」

 

 

ふふふっと笑うとメガネを机に置いて小瓶を手に取る。赤い液体、嘆きの滴が入った瓶を。

 

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