言語チート転生〜幼女VTuberは世界を救う〜   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第3話『お姉ちゃんのお願い』

 

 俺が交番で通訳を行い、外国人の男性は友人と合流できた。

 問題は無事に解決された。

 

 繰り返し《ありがとう!》と言われながら見送られ、今度こそ帰路へ。

 その間マイは「アレ英語だったんだぁ〜?」「全然わかんなかったぁ〜」「マイの知ってる英語と全然ちがったよぉ〜」「いつの間にあんなにしゃべれるようになったのぉ〜?」といろいろ聞き出そうとしてきた。

 

「いや、そんなん俺が知りたいわ!」

 

 自宅のベッドで頭を抱える。

 一度死んだから? 脳に異常? それとももっとべつの?

 

 なんでこんなことになってるんだろう?

 たしかに、物語では異世界転生では言語理解チートが基本装備なのも珍しくない。

 しかし、ここはどう考えても現代日本だし。

 

 けれど言われてみれば、前世で死ぬ直前……いや、死んだあとか?

 男たちの会話が理解できていたような気がする。

 

 俺を襲ったあいつら、いったいどんなことを話してたっけ?

 たしか……。

 

「ハッ!?」

 

 そのとき、俺はあることに気づきベッドから跳ね起きた。

 まさか、まさかまさかまさか!

 

 急いでスマートフォンを操作する。

 タップする指があまりに遅く、じれったい。

 

「急げっ……!」

 

 俺が開いていたのはイチ推しの英語圏VTuberのチャンネルだった。

 震える指でその最新動画をタップした。

 

《”ぐるるる……どーもゾンビです”。あんぐおーぐです!》

 

「きちゃぁああああああ! ”あんぐおーぐ”ちゃんかわいいよぉおおお! 言ってることがわかる、わかるぞぉおおおおおお!」

 

 あぁ、神さま仏さま天使さまありがとう!

 死んだ甲斐があったよ!

 

 今まで雰囲気でしか楽しめなかった配信が、ちゃんと内容まで理解して楽しめるようになっていた。

 なんという幸せ!

 

「あんぐおーぐちゃん、イメージよりめっちゃ生意気なクソガキじゃん! でもそこがいい!」

 

 俺は狂ったように英語圏VTuberの配信や動画、切り抜きを見漁った。

 おこづかいの都合でプレミアム登録できてないので、次々と迫りくる広告と戦いながら、だけれど。

 

 そうして何本か何十本か見たころ、テンテンティロテンテンとスマートフォンが鳴った。

 発信者はマイ。

 

 俺は無言で着信を切って、動画鑑賞に戻った。

 電話。切る。鑑賞。電話。切る。鑑賞。電話……。

 

「あーもうっ! なに!?」

 

『イロハちゃん酷いよぉ〜!? なんでそんなにムシするのぉ〜!?』

 

「俺、動画見るのに忙しいから。じゃ」

 

『”俺”!? じゃなくてちょっと待ってぇ〜! お姉ちゃんが家に来て欲しいって、助けて欲しいってぇ〜』

 

「お姉ちゃん?」

 

 マイと俺――というか”わたし”は幼なじみだ。

 付き合いも家族ぐるみ。

 

 当然、マイの姉のこともよく知っているが、記憶を探るかぎりこんなことは初めてだ。

 助けが必要? なんだろう?

 

『今すぐお願い、だってぇ〜』

 

「直接、電話してくれればいいのに」

 

『その余裕もない、みたいなぁ〜?』

 

「え~……はぁ。わかった、行くよ」

 

 面倒臭いが、ここは行く一択だろう。

 マイの姉はすこし年が離れているせいか、しょっちゅうおこづかいをくれるのだ。

 

 ここでムシするより、行って助けてお駄賃をもらったほうがいい。

 それで、MyTubeのプレミアム登録をしたほうが結果的に時間効率がよくなる。

 俺はそんな打算的な思考で徒歩3分のマイの家へと向かった。

 

 ――この判断が、俺の運命を大きく変えることになるなんて思いもせずに。

 

   *  *  *

 

 ピンポーン、と一軒家のチャイムを鳴らす。

 カチャカチャ、ガチャリと玄関の扉が開きマイが姿を現す。

 

「ありがとうイロハちゃん、来てくれて。お姉ちゃんもすぐに――」

 

 ドラバタガッシャン、ゴロゴロとすさまじい衝突音を鳴らしながら何者かが階段を駆け下りてくる。

 そして「ぎゃふんっ!?」とマイを吹っ飛ばし、ひとりのギャルが現れた。

 

「きゃぁあああ~っ! 待ってたよ~、イロハちゅわ~ん!」

 

「ごはっ!?」

 

 すさまじい勢いで抱き着かれる。

 ゴツっと音が鳴った。固っ!?

 

 おっぱいが薄く、ダイレクトに肋骨が頭に当たって本当に痛かった。

 しかも力が強いもんだから、まるで万力にでも絞められているような感覚。

 

「お姉ちゃんぅ~、ひどいよぉ~!」

 

「ぐ、ぐるじ……」

 

「おー、ごめんごめん」

 

 ようやく解放され、彼女の全容が視界に収まる。

 年齢は今ちょうどハタチだったか?

 

 パーマを当てた髪、ラフに着たLLサイズのTシャツ、すこしギャルっぽいメイク。

 リア充だ、リア充がいる。

 

「ごほっ、ごほっ……”あー姉ぇ”おひさ」

 

「久しぶりイロハちゃんっ。まずは入って入って!」

 

「お邪魔しまーす」

 

「待ってお姉ちゃん、扉閉めないでぇ~! マイまだ入ってないよぉ、お姉ちゃん!? お姉ちゃぁ~ん!?」

 

 そんな声を背中で聞きつつ、家の中へ入る。

 そのまま階段を上がり、彼女の部屋へと案内された。

 

 背後から「うぅっ、ブラックジョークが過ぎるよぉ~」と慌てて追いかけてきたマイの情けない声が聞こえていたが、それも部屋の扉を閉めるとピタリと止む。

 

「わたしが言うのもなんだけど、いいの? マイのやつ『え、ウソ。ほんとにマイだけ部屋入れてくれないの? フリじゃなくてぇ~!?』って叫んでたけど」

 

「マイってほんとかわいいよね~。イジメるほど輝くよね~」

 

「鬼か!?」

 

 満面の笑みで言われてしまい、俺はそれ以上ツッコめなくなる。

 これでマイがツラい思いをしていたら話はべつなのだけど、アレでお姉ちゃん大好きっ子だからなぁ。

 

 むしろ普通以上に仲のよい姉妹、といえよう。

 スキンシップの取りかたって人それぞれだもんなー。

 

「にしても、ずいぶんと部屋の雰囲気変わったね?」

 

 イロハの記憶を探るに、前回この部屋に入ったのは1年以上前か。

 そのときはもっと女の子らしい部屋だったのだが、今はなんというか。

 

「すごいでしょ? じつは業者入れてリフォームしたんだ。ほら、壁とか扉も防音仕様。マイの声も全然聞こえないでしょ?」

 

「あっ、ハイ。って、防音? PCまわりもすごい機材。もしかしてあー姉ぇって」

 

「そ! じつは今、あたし――MyTubeで配信者やってるんだ!」

 

「え!? ニートじゃなかったの!?」

 

「ちがうよ!?!?!? ちゃんと自分で生計立ててるからね!?」

 

「でも、おばさんからそう聞いた気が」

 

「ちょっとママぁ!?」

 

 あー姉ぇは「ママとパパにもちゃんと説明したはずなんだけど、よくわかってないみたいなんだよね~。ま~、べつにいいけど~」とケラケラ笑っていた。

 しかし生計を立てられるほど配信で稼いでるだなんて、すごいな。

 

「それよりもイロハちゃん英語しゃべれるってホント!? いつの間に覚えたの!? 今、しゃべれる!?」

 

「まぁできる、らしい、みたいな、感じ?」

 

「あいまいだなぁ〜。めっちゃペラペラだったってマイに聞いたよ? お願い! 助けて欲しいの!」

 

「助けるって、なにを? わたしにできることなんて大してないよ?」

 

「それはねー、配信に出て欲しいの!」

 

「……はいぃいいい!?」

 

   *  *  *

 

 あー姉ぇの話はこうだった。

 もともと今日は、英語圏――アメリカ在住のMyTuberとコラボする予定があったそうだ。

 

 企画の内容は、日本語と英語の双方からヒントを出し、両者を合わせることで答えを導くクイズ。

 その出題役として日本語も英語も話せる配信者に、司会を頼んでいたのだが……。

 

「急遽参加できなくなったから、その代役がいる、と」

 

「そーなの! 代役探したんだけど急すぎてみんな厳しくて、しかも今日を逃すと次にコラボ相手との予定合うの1ヶ月後だから、日をズラすことも難しくって」

 

「でも、いきなりシロウトが配信に混ざっちゃってもいいの? コラボ相手は了承してるの?」

 

「さぁ? まだこれからだし。でもいけるっしょ!」

 

 自信満々の笑顔でサムズアップされた。

 コミュ強、怖ぇ!? 断られることとか考えないのだろうか。

 

「それで、やってくれる? 原稿は預かってるんだけど、ネタバレになるからあたしもチェックできてないんだよね。ちょっと見てみる? ……どう、いけそう?」

 

「あー」

 

 印刷したテキストを渡される。

 パラパラとページをめくり、頷く。

 

「うん。まぁ、普通に読めるね」

 

 いやいや、なんで普通に読めるんだよ!?

 意味がわかる。わけがわからない。

 

「よかった! じゃあ、お願いね! コラボ相手に確認とってくる――オッケーだって!」

 

「はやっ!?」

 

「配信開始まであと1時間だから。それまでにあたしもいろいろ準備しなきゃ。あっ、そうそう」

 

 PCに向き合っていたあー姉ぇが、くるりとゲーミングチェアを反転させてこちらへ向き直った。

 イタズラっぽい笑みを浮かべて彼女は問うた。

 

「好きな名前とか、ある?」

 




※カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/16817330651735205548
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