言語チート転生〜幼女VTuberは世界を救う〜   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第31話『人生の楽しみかた』

「で、人生のおもしろさを教えるには、VTuberは好きみたいだし……このまま同じ業界に引きずり込んじゃったほうが早いなーって。あとイロハちゃんは配信者に向いてるとも思ったし」

 

「え、わたしが? どうして?」

 

「ストレス耐性ありそうだから」

 

「そこ!?」

 

「いや、マジメな話だよ。スルースキルは配信者に必須なの。慣れで身につけることもできるけど、やっぱり素質はあるに越したことないから」

 

 たしかに俺はVTuberの配信さえ見られるなら、ほかはわりとどうでもいい。

 実際、思い返せばこれまでも配信中に悪意あるコメントが幾度となく投げられていた。

 が、とくに気にも留めていなかった。

 

「それでもイロハちゃんが配信を続けてくれるかは賭けだったけどね。学校もあるし、体力的な問題もある。なにより子どもは飽きっぽいから。配信まわりはあたしがフォローすれば済むけど、ほかはね」

 

 だから機材やソフトの準備など、あれだけ面倒を見てくれていたのか。

 すこしでも負担が減るように、と。

 

「というか、本来はもっと本格的なサポートをつける予定だったんだけどね。だって、あたしの勧誘でウチの事務所に入れるつもりだったから」

 

「はいぃいいい!? いやいやいや、それはムリでしょ!?」

 

 あー姉ぇが所属しているのは世界最大規模のVTuber事務所だ。

 それこそチャンネル登録者数ランキングを所属VTuberが総ナメするほど。

 そんな簡単に入れるわけがない。

 

「そーなんだよねー。マネちゃんに言ったら却下されちった」

 

「ほっ……」

 

「マネちゃん曰く『話題に困らなさそうだし、キャラクター性も申し分なし。今、海外勢が伸びてるから語学力がある人材はのどから手が出るほど欲しい。けど未成年だからダメ』だって」

 

「そりゃそうだ」

 

「だから『せめて個人VTuberとしてデビューする支援をしてあげたい』って言ったの。そしたら『まぁそれなら』って。で、あたしが直接、出資やらサポートやらすることになったんだよね」

 

 それは俗にいう”ドア・イン・ザ・フェイス”なのでは?

 大きな要求を突きつけて小さな要求を通す交渉術。

 

 無意識にやったとしたら末恐ろしいな。

 いや、さすがはあー姉ぇと言うべきか。

 

「あたしじゃ力不足でサポートしきれないんじゃないかって不安に思ってたけど、予想外にイロハちゃんがしっかりしてるからなんとかなっちゃったよ」

 

 不安? それは意外だ。

 つーか、あー姉ぇも不安を覚えることがあるのか。

 

「そこから先は知ってのとおりだね」

 

 あー姉ぇが俺をいろいろなVTuberと引き合わせて、かき回して。

 ……俺のため、だったのか。

 

 もちろん、あー姉ぇ自身が楽しんでいた部分も大きいだろうが、それでも。

 と、突然あー姉ぇの歯切れが悪くなる。

 

「ただ、そのぉ~、なんといいますかぁ~、あたし人との距離感が近すぎるというかぁ~、大雑把というかぁ~、空気が読めないというかぁ~。やりすぎちゃうことが多いらしくって」

 

「知ってる」

 

「ぐはっ!?」

 

「言っとくけど、今でもリアルでVTuberの人たちと引き合わせたことは許してないからね?」

 

「ひぃいいいいいい!? イロハちゃんの顔が恐い!」

 

 あー姉ぇはヨヨヨと涙を流し「ごめんよぉ~」と縋りついてくる。

 俺は大きく嘆息した。

 

「けど、もういいよ」

 

 推しの配信を見る目は、やっぱり直接会ったことで少なからず変わってしまった。

 純粋なファン心だけでは見られなくなってしまった。

 そのことは寂しく思う。

 

 けれど、今の俺はもうただの1ファンではなくVTuberでもあるから。

 最終的にこの道を選んだのは自分自身だから。

 

 VTuberとしてデビューした以上、少なからず顔合わせが起こるのは必然だった。

 本当に拒絶するなら、あのとき断るべきだった。

 そして断らなかったということは……。

 

「許しはしないけどもう過ぎたことだし、あー姉ぇだけの責任でもないから」

 

 それに失うことばかりでもない。

 VTuberを経験したことで、同じ立場から配信を見られるようになった。

 新たな楽しみかたができるようになった。

 

 ある意味で、今の俺はこれまで以上に配信を楽しめている。

 

「そっか。ありがとう」

 

「お礼を言うのはわたしのほうでしょ?」

 

「それでも、だよ。……じつはあたしが『人生はこんなにもおもしろいんだぞ』って伝えたいのはイロハちゃんだけじゃないんだ。ほかの子たちも一緒」

 

「だからVTuberのみんなをプールへ誘ったの?」

 

「うん。なにを楽しむかは人の自由だと思う。けど、その楽しさすら知らないなんて、悔しいじゃん? あたしはみんなのことが大好きなの。好きな人にはさ、自分の好きをもっと知って欲しいじゃん?」

 

 あー姉ぇは「もちろんイロハちゃんのことも大好きだよ!」と笑った。

 いつものまっすぐな視線。

 

「そーいうこと、よく真正面から言えるよね」

 

「えへっ」

 

 俺はこらえきれず、その笑顔から視線を逸らした。

 あー、顔が熱い。

 

「だからイロハちゃんには知って欲しいし、イロハちゃんのことも知って欲しいんだ。……ねぇ、イロハちゃん。よかったらまたみんなで遊びに行ったりできないかな?」

 

「あ~」

 

 これを認めるのはあー姉ぇに負けたみたいで悔しいが……。

 俺はあー姉ぇに振り回されてるうちに、そういうのも悪くない、と思いつつある。

 

 マイ、あー姉ぇ、おーぐ、母親、コラボ相手のみんな。

 彼女たちのことをもう他人だとは思えない。

 

 これまでがたまたま、いい結果だったからそう思えているだけかもしれない。

 だから今後のことはわからない。

 けれど……。

 

「――”次から”リアルで顔合わせするときは事前に言っておいてね」

 

「えっ、いいの!?」

 

「うん」

 

 俺は降参した。

 この人には一生勝てる気がしない、と思った。

 

「そのときは帽子(・・)でも用意するよ。こ~~やって思いっきり目深に被って、ご尊顔を拝してしまうのを防止(・・)してから参加する。……なんちゃって」

 

「”おつかれーたー”のときも思ったけど、イロハちゃんギャグセンスはないよね」

 

「お前ぇえええ!」

 

「でも、ありがとねっ」

 

「……んっ」

 

「ねぇ、イロハちゃん――人生は楽しい?」

 

 俺は肩をすくめて答えた。

 

「そこそこ」

 

「あははっ、そこそこか。じゃあもっとがんばらないとねっ」

 

 顔を見合わせて笑った。

 あー姉ぇは「よしっ、湿っぽいのはここまで」とパンと手を叩いた。

 

「そんなわけで、結局はあたしがやりたいことしてるだけなんだよね。だからイロハちゃんも、そのお金は自分がやりたいことのために使いな? それに絶対そのうち入り用になるから」

 

「え? 入り用? ……あっ、そうか!」

 

「お、わかった? 少額でもできないわけじゃないんだけど、やっぱり金額は正義だからね。今後(・・)にも大きく関わるし」

 

「たしかに! いやでも、そうなるとこの額じゃまだまだ足りないなぁ」

 

「うん。だからもっと配信がんばらないとね」

 

「わかったよ、あー姉ぇ!」

 

 俺は通帳を懐に仕舞い、頷いた。

 あー姉ぇも俺のことがようやくわかってきたらしい。

 

 つまりこのお金は――スパチャに使えということだ!

 それも赤スパを投げろという意味だ!

 

 よーし!

 今後(・・)のVTuber業界を支えるためにも、しっかりと還元するぞ~!

 

   *  *  *

 

 ……えぇ~っと、ちがったみたいです。

 




※カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/16817330651735205548
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