VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ ――『ガールズ・リプレイ』――   作:日傘差すバイト

11 / 65
12

 

 

 第二世界(スフェリカ)では、キャラクターは一人しか作成できない。

 そのため、ログイン時には、キャラクター選択をするという過程は無く。

 今のキャラクターの状態やステータスはこんな感じですよ、というプロフィール画面のような部分を経る。

 

 そうして、キャラクターと融合したかのような、そんなエフェクトの後に。

 

 

 プレイヤーはキャラクターとなって、世界に降り立つのだ。

 

 

 

 

 

 ヘッドキアや、ゲーミングセットの無機質な感触。

 自室の空気。

 家の傍を通る車の音。

 

 

 そのようなリアルが。

 

 

 一瞬で、切り替わる。

 

 

 あわく吹き抜ける、そよ風の感触。

 大気に満ちる、魔素(マナ)の感覚。

 数多の往来がうむ、雑踏の反響。

 

 そして、ひんやりとした空気。

 

 

 昨日、ログアウトした路地に、キャラクター:ローリエと化した、

 プレイヤー:(すめらぎ)愛海(なるみ)が、現れる。

 

 

 日本の時刻は19時30分。

 ゲーム内では、今は早朝のようだ。

 

 ローリエが閉じていた目を開けると、そこは文字通り別世界。

 

 

 建物の壁と壁で挟まれた路地に、朝日が差し込んで、陰陽のコントラストを作り上げている。

 レンガの一つ一つ。

 石畳の1枚1枚。

 細かな影が、浮き彫りになって、西洋の伝統ある街並に居るかのような錯覚を生み出す。

 

 

 10秒ほどして、ログイン直後の硬直が解け、実体化が完了する。

 ――このゲームは、ログイン直後はいわゆる霊体のような状態で、どのような干渉も受けない状態にある。

 これは、ログイン直後を狙った悪質なPK対策で、この状態のプレイヤーに攻撃を行うと、そのすべてが攻撃者に跳ね返る仕様になっている。

 

 

 ログインが完了すると、直後に、ぴろん、とサウンドエフェクトが鳴った。

 フレンドからの【伝言(メッセージ)】を受け取ったという合図。

 

 

 私の親友であらせられる、フェルマータさんからかな?

 とウキウキ気分で確認すると、送り主はフェルマータ――。

 

 ――ではなかった。

 

 

 だ、誰!?

 

 フレンドからではなく、知り合いでもないので、送り主の名前が解らない。

 

 どこの誰かも解らない人からだ、が。

 

 

 一応、文章の冒頭に、「フェルマータです」と書かれている。 

 ちょっと不可解だが、フェルマータからの伝言に違いない。

 

 内容は、首都に数ある冒険者亭の中で、『ミミズクと猫』というお店に来てほしいという事だ。

 場所は、首都のほぼど真ん中。

 

 人混みは苦手だが、頑張っていくしかない。

 

 さておき。

 

 「え、えっと、そう、まず返事、返事しなきゃ……」

 

 とはいう物の。

 ローリエは【伝言(メッセージ)】に対応する方法が無い。

 なぜなら【伝言(メッセージ)】というのは無属性の魔法であり、だれでも自由に行えるわけではないからだ。

 無属性魔法の習得者にお願いするか、運営がリアルマネーで販売している同様の効果を封じたスクロールを使用する。 

 スクロールはそんなに高価じゃない。

 たまに、運営が無料配布することもあるくらいだ。

 

 ローリエもいざという時のために、以前は倉庫に配布されたスクロールをためていたが、自分の作ったアイテムに圧迫されていつしか捨ててしまった。

 

 どうせ、メッセージをやり取りする相手なんていないのだから無駄だし、ローリエがそれに代わるスキルを習得しているのもある。

 

 

 【伝言(メッセージ)】の代わりになるスキル。

  

 それは、風属性魔法の【風の囁き(ウィスパー)】というスキルだ。

 これも、安価な課金アイテムとしてスクロールを運営が販売しているが。

 

 ローリエは自前で習得しているので無料。

 

 ただ、メールと電話くらいの違いがある。

 

 

 誰かに電話をかける。

 (すめらぎ)愛海(なるみ)にとっては、すごく勇気を必要とする事だ。

 面と向かって話をするよりはマシだけど、それでも緊張する。

 

 

 しかし、やらなければ始まらない。

 時間は刻々と過ぎていく。

 約束の20時が迫っている。

 

 冒険者亭まで行く時間を考えれば、今すぐに実行しなければならないだろう。

 

 

 意を決して、ローリエは風魔法を発動する。 

 

 【伝言(メッセージ)】に返信をする形で。

 

 

「『風の囁き(ウィスパー)』」

 

 

 魔法が効果を発揮し、遠くの対象と通話状態になる。 

 

 しかし、何を言い出せばいいのか、解らない。

 急に上手く言葉が紡ぎだせない。

 

 結果的に、ローリエは無言電話のようになってしまう。

 すると。

 先に通話先からの返答があった。

 

「どちら様?」、と。

 

 あれ!?

 

 ローリエは驚く。

 全然違う人の声だったからだ。

 

 答えないローリエに声は、再度尋ねてくる。

 

「もしもし、どちら様?」

 

 

「えっ、いっ、あ、あ、あの……も、もしもし? あの、ろ、ローリエ、です、けど……」

 

 

「ろーりえ?」

 

 

 初めて聞いたような反応だ。

 通話越しだから声が違って聞こえるのかもしれないと、一瞬ローリエは考えたが。

 

 違う。

 

 これは、絶対にフェルマータではない。

 もしかして間違えたかもしれない。

 

「え、あ、ご、ごめんなさっ、間違えました」

 

「あ、ちょ……」

 

  

 ローリエは、即座に通話を切った。

 

 切った後で、困惑は続く。

 

 え? 今のは何だったのか?

 

 

 ローリエは訳が分からなかった。

 

 勇気を振り絞ったのに、間違い電話をかけてしまった。

 これだから、電話は苦手なんだ、もう嫌だ、とローリエの電話嫌いが加速しそうになる。

 

 自己嫌悪に陥っていると。 

 

 ぴこん、と新しい【伝言(メッセージ)】が入る。

 

 確認すると。

 『――【伝言(メッセージ)】に返信しないで、フレリストから送ってByフェルマータ――』

 

 

 ああ、そうか。

 とローリエは思う。

 

 

 経験が浅かったり。

 慣れていなかったり。

 

 そういう時は、良く何かが不足する。

 

 普段使いなれていない魔法を使ったせいで、勝手が解ってなかったらしい。

 

 ローリエは【伝言(メッセージ)】というスキルの特性を、すっかり忘れていた。

 そして、【風の囁き(ウィスパー)】の使い方もちょっと間違えていた。

 

 

 

 改めて、ローリエはフレンドリストから、フェルマータに囁きを送る。

 

 

「こんにちは、フェルマータです。今どちらに?」

 

 

 今度はちゃんとフェルマータの声がして。

 ローリエはちょっと泣きそうになった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。