VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ ――『ガールズ・リプレイ』―― 作:日傘差すバイト
特訓を開始する。
そう思ったが。
一番最初のフロアは、初心者がいっぱいいるので。
ローリエとユナは、ふたりで相談して、1階分階下へ進み、奥のフロアにした。
さらに。
その階層の端の通路に陣取る。
先が行き止まりになっていて、丁度魔物のリポップ位置だし。
狭い分、ほぼ強制的に1VS1で戦える。
奥に進んだ分。敵も強めになっているけど――。
ギリギリ何とか戦えるくらいだろう。
というローリエの予想だ。
そして通路の奥――袋小路には、既に、剣と盾を持った骸骨兵の姿が見える。
最初の標的はアレになるだろう。
「じゃあいきます!」
肩の鞘から、フランベルジュを引き抜くユナ。
年季の入った石畳を踏みしめ、接敵しようとする所作。
それを、ローリエが止める。
「ま、待って……バ、バフ……強化の魔法かけるね」
それで、ユナが踏みとどまる。
「あ、はい……」
「『
ローリエは、持ちうる強化魔法から、基本的な4種をユナに施す。
AGI、最大HP、F/DEFが上昇し、さらに、HP自動回復が付与される。
風以外の魔法が混じっているけど、死ぬよりはましだ。
それに単体強化の魔法はぜんぶマスタリレベルLv1で習得できるので、ちょっと齧りましたと言い訳が効く。だから、まぁ良いか、とローリエは考えた。
それよりも、死んでもう一度リスポーンし、砂漠の街と遺跡を往復するのはかなり大変だし、リスポーンしてから、動けるようになるまでの5分の待機時間も面倒だから。ちょっとくらいサービスしても、罰は当たらない筈。
「ありがとうございます、先輩」
「もう大丈夫です」
「では今度こそ行きます」
再び、今度は確実にユナが敵に向かっていく。
AGIは強化されているが、元々の値が低すぎるからか、眼に見えた違いはない。
他の強化も、似たようなものかもしれないが。
ローリエの経験上、強化した、紙一重の値で、生きれることもあった。
その紙一重を作り出すための、強化だと考えれば、無駄と言うことは無い。
ローリエは後方で、様子を見る。
一応、木属性の治癒スキルも念頭に入れながら――。
そしてユナは、走り込む勢いのままに。
両手剣を真っ直ぐ上段に構え、力いっぱい骸骨兵に振り下ろす。
STRだけに振っているというステータスは本物で。
武器に身体を持っていかれてへっぴり腰になる、ということもなく。
煌めく刃は。
それなりの速度をもって、骸骨兵に襲い掛かる。
骸骨兵は、左手の丸盾でガードを試みるが、動作が間に合わず。
左の肩口から肋骨を撃ち砕かれ、骨が何本か、断ち切られる。
骨片が乱れ飛び、骸骨兵の左腕が用を成さなくなった。
もっと上級の魔物なら、きっと盾を間に合わせていたに違いないが。
そこが、下級の魔物の程度という事だろう。
両手武器マスタリを上げているというユナの一撃は、補正込み46の筋力と相まって、SP5000の戦士にしては、ずいぶん重い一撃だった。フランベルジュの攻撃力が高いというのもあろう。
その1発だけにおいては、既にローリエよりも強い。
だが。
痛みも何もないアンデッドは、ダメージでは怯まない。
骸骨兵が、何の躊躇もなく、一歩、踏み込んだ。
「右、薙ぎ払い、来る」
思わず、叫ぶローリエ。
ユナは、重い剣を振り下ろした直後だ。
そこに、骸骨兵の残る右腕が、片手剣を薙ぎ払う。
ほぼ回避の間に合わないタイミングで。
ユナは慌てた。
慌てて、左から振り回される剣の軌道に対し、右後方へ飛び退きざま。
取得したばかりの両手武器スキルを試みる。
【
フランベルジュの刀身を盾にして、ダメージを軽減するスキルだ。
『無効化』でもなければ、『弾く』でもない。『軽減』であるという所がポイントで。
バックステップとスキルの合わせ方が良かったのだろう。
クリーンヒットは免れ、軽減された分のかすり傷を負うだけで済む。
しかし、返す刀が返ってくる。
相手は片手剣だ、取り回しが良い。重たく長い両手剣とは違って。
逆に
スタミナは初心者特典で無限にあるからいいとして、『軽減』である以上ダメージがかさむ。
強化による自動回復も、最大HPの10%なので、2~3ポイント程度が関の山。
軽減して6ポイント食らっているようでは――。
すでに瀕死になる。
「うわぁ、ヤバいぃ!」
それに、アンデッド種族は、漏れなく種族スキルに『再生/闇』がある
日光が無い場所で、HPが再生するということだ。
ここは遺跡の中。
だから。
ユナが断ち切った骸骨兵の左肩が少しづつ元に戻る。
完全に戻れば、また盾を構えだすだろう。
「『
ローリエが、後方から、薬草がつまった木の実を投擲する。
地面に着弾すると、果実が割れて中身が散り、周囲に薬草の効果を解き放った。
ユナの傷が回復する。
風属性の治癒魔法は、範囲は広いが効果量が低く、割合回復なので低HPには適さない。
ユナに死んでもらっても困るし。
だから、木マスタリレベル3の魔法を使用した。
「すいません」
「大丈夫、です。何度でも、回復しますから……!」
「助かります、先輩」
「でも、ユナさんは、もう少し、敵との距離に気をつけて」
「え? 距離……?」
「そのツルギは、1.5メートルくらいですよね。相手の剣は、90センチかな。60センチ、差があります。だから……そんなに近くに行かなくても……。その分でもう少し、余裕を作れないかな」
「なるほど……!」
ユナは、ローリエのアドバイスを素直に実践し。
相手に『常に踏み込まなければ剣を当てられない、という距離』から、フランベルジュの切っ先をぶつけていく。
まだSPが足りず、両手武器マスタリを多めに振ったこともあって、ユナのアクティブスキルは、【
だから時間はかかるモノの。
最期の方では、殆ど一方的に相手を叩きのめすようなかんじで、まず1匹。
ユナは勝利を収めた。
「やったぁ、先輩のアドバイス通りやったらできましたよ?」
「よ、良かった。ユナさん、センスある」
「そんなぁ、ローリエ先輩のお陰ですよ。魔法使いなのに、武器の事詳しいんですね」
「え!? あ……えっと。そう! 攻略サイトに、そう書いてあったから、ね」
「そうだったんですね!」
そうやって。
二人が勝利の余韻? に浸っていると。
背後から、ローリエが聞いたことのある声が。
「なんだ、こっちは行き止まりかよ」
振り返ると。
――どこかで見た顔が居た。
「……?」
その長身痩躯の男は、ポッケに手を突っ込んだまま、上半身を前倒し。
じぃ、っとローリエの顔を眺めながら、顔をしかめる。
「……なぁんか、お前、どっかで見た顔なような……」
ユナは当然知らない人で。
「お知合いですか?」
いえ、とんでもない、そいつはヒトゴロシです。
ローリエは思い出した。
いつぞや、山岳地帯で、蹴り飛ばしたPKだと。
そして、面倒くさいことになりそうな気がしても。
ここは袋小路なのだ……。簡単に逃げられない。
視線を逸らし、気づかれないことを祈るけど。
「アッ! てめぇ……!」
気づかれた――?
「――このまえ、オレに金貸してくれたやつだな!」
「違います!」
もしや、この人、うましかさんなのかな?