VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ ――『ガールズ・リプレイ』――   作:日傘差すバイト

38 / 65
39

 真っ暗な闇の中。

 しかして、その視界は、魔法によって得られていて。

 

 進みゆく亀裂のような形の道を、囲う絶壁が、良く見える。

 

 そんな大地の裂け目のような地底を。

 

 ユナは。

 本当に闇雲に歩いていた。

 マッピングスキルも無ければ、方角を示す道具もない。

 だから、仕方がなく。

 いくつかあった分かれ道も、ただの勘だけで、進んでいた。

 

 かれこれ1時間、ずっとだ。

 両親も用事で居なくて、習い事もない今日。

 その貴重な時間を、ただ何もない道を散歩し続ける。

 それも、『一人で』となると。

 ただの簡単で、刺激のない、作業になる。

 貴重な時間でなぜこんな苦行をしているのか。

 本当ならそう思うだろう。

 

 

 だが、違う。

 見た目には一人だが。

 

 傍らには、見えない誰かが居る。

 

 

 その透明人間が、互いの暇をつぶすために、たわいのない話を振ってくる。

 例えば。

 

 本当に『ただの興味』と言う感じの声で。

 

「お前さん、これからソイツをどういうキャラにするか、決めてんのカ?」

 

 ユナは暇すぎるから。

 仕方が無しに受け応える。億劫そうに。

 

「ええ、まぁ、一応決めていますけど?」

 

「どんなのだ??」

 

「何で教えないといけないんですか。何だっていいでしょう?」

 

「なんだヨ、つれないネェ? もしかして、さっきケツ触ったことまだ怒ってんのカァ? ゲームの中の事なんだし、そんなに気にすんなよ」

 

「パンツも見たでしょ!」

 

「あぁ、見た見た。あの飾りっ気も色気もネェ、白いヤツな」

 

 ユナの歩く速度が上がった。

 その横顔は明らかにムスッとしている。

 

 それでも、声との距離は何も変わらない。

 足音も気配も何もなく、声の主は当然のように追いついてくる。

 

「現実じゃねえのに……」

 そんなに気にする事かぁ?

 と、小声で零す、『声』。

 

 しかしそういう問題ではないのだ。

 これが、仮想現実の世界でも。

 プレイヤーへのダイレクト精神アタックは、健在なのだから。

 ネット社会なのだから。

 ゲームの向こう側に居るのは、一人の心を持った人間なのだということを忘れてはダメなのだ。

 

 だが、声の主は、そんなことは知っていて。

 ただ、面白がっているだけだったりする。

 性質(たち)が悪いやつだ。

 

「さっきからうるさいですよ、もう黙っててください。って言うかなんでついてくるんですか」

 

「だから、ついていってるんじゃねえって。お前さんが勝手にオレの前を歩いてるだけだろ?」

 

「あー、もう!」

 

 鬱陶しい。

 と、さらに足を速めようかという所。 

 

「おっと、ストップだ。ユナさん様ァ」

 

 声の主がユナの傍らに立ち、伸ばした腕を。

 踏切の遮断機のようにして、前に進もうとしていた身体を通せんぼする。

 

 まぁ、その声の主は今も見えないのだが。

 

「なんですか、今度は!」

 

「……お客さんさ。気づかねえか?」

 

「え?」

 

「あ! ああ、そうか。お前さんはヒュムだから、まだ見えねぇのか。――この先に、『ファイアイーター』って魔物が居るのさ。もうすこしでヤツの視界の中だ。これ以上前に行くと、死ぬぜ」

 

 

 ユナは集中し、目を凝らしてみる。

 が、声が言う通り、ヒュムに設定された視力ではまだ見えないらしい。

 

 っていうか。

 ――その前に、ユナは気が付いた。

 

 遮断機がオッパイに『むにっと』していることに。

 当然、ゲームの中での話で現実の話ではない。

 が、だからといって許せるだろうか?

 

 そんなわけあるか。

 

 ガシッ、っと背負ったフランベルジュを抜き。

 フラストレーションをこめた全力で、即座に振り回す。

 薙ぎ払うように、そのままくるくると回転斬りのような真似をして。

 

 しかし、てごたえはゼロだ。

 うるさいハエを追っ払った程度の成果だった。

 

「っと、何しやがる。親切に教えてやったのによォ」

 

「あなた、ワザとやってますか!?」

 

「――何のことか知らねえけど? でも、何故か、なかなかオレ好みの感触がしてたナァ……?」

 

 大きくも小さくもない。アンダーとトップ差16cmによるCくらいの感触。

 

「っく!」

 腹立つ。

 と、自分が弱いばかりにあしらわれているのが、さらに腹立たしく。

 ユナは、怒鳴る様に尋ねる。

 

 

「ではどうしろと!?」 

 もちろん、ファイアイーターとやらのことだ。

 

 だが、声は関係ないようなことを言う。得意げにだ。

 

「良かったなぁ、オレに感謝しろよォ? もし、ここで松明なんて使ってたら、今頃アイツにつつかれてくたばってるところだ」

 

 え? なんて?

 という顔のユナ。

 

 声は続けて言う。

 

「あの、ファイアイーターってやつはナァ、名前の通り火を食うのさ。中級くらいの洞窟に良く配置されてて、松明やランタンなんかで明かりを確保してると、どんなに遠い距離からでも、一目散に狙ってきやがる。明かりってのは、暗がりで目立つからよ。――オレが暗視の魔法をかけてやっといて正解だっただろォ?」

 

 ようやく、ユナは言葉の意味を理解し。

 傍の男が感謝を押し売りしていることに気づいた。

 

「だから、どうしろと……」 

 

「簡単な話よ。お前さんが、涙を流しながら、タスケテクダサイッ、って言うなら、何とかしてきてやるぜぇ?」

 

 ふざけないでください。

 と、汚い言葉が出そうなのをユナは我慢して飲み込んだ。

 

「さ、どうする? アイツァ、強いぜ。今のお前さんじゃ、1発つつかれただけでくたばるのは確実だナァ?」

 

 ……意地の悪いやつだ。

 ユナでは絶対に勝てないからって。

 

 ユナは思う。

 

 確かに、自分は弱い。

 まだ見えぬ魔物に勝てる可能性はゼロなのだろう。

 けど、だからと言って。

 この人殺しな上に、セクハラ紛いの痴漢野郎に、『オネガイ』なんて。

 する気なんておこるはずがない。

 

 ユナは、フランベルジュを持ったまま、駆けだした。

 前方の、暗視範囲外の暗闇に向かって。

 

「おぉ、おぉ? 無謀なことすんネェ? ヒトの忠告は聞くもんだぜェ?」

 

 

 腹立つ、腹立つ、腹立つ、腹立つぅ!

 

 

 別に勝てるとか勝てないのとかでなく。

 もうなんでもいいので、この溜まりに溜まった怒りをぶつけたかった。

 その八つ当たり先が、この先に居るのならば。

 

 当ててやろうじゃないですか!

 

 

 やがて

 走るユナの前方に、大きな鶏のような魔物が見えてくる。

 色は炎のように明るい暖色で。

 鋭く大きなくちばしが目立つ、地上を歩く鳥型のモンスター。

 

 ユナに気づき、敵意を向け。

 攻撃を仕掛けようと走り出す、その馬のようなサイズの鳥に向けて。

 

「はぁぁあああ!」

 

 走り込んだままの速度。

 

 フランベルジュの切っ先が。

 

 当たる範囲に入った直後に、踏み込む一歩が。

 ユナの身体を、急激にブレーキングする。

 

 そこから生まれる、反動と言う名の力を。

 

 全身を使い。

 最大限振りまわす遠心力に、存分に乗せて。

 

 薙 ぎ 払 う !

 

  

 その、鳥の首根っこに――。

  

 

 がきぃん、と硬いものにぶつかる音が木霊し。

 フランベルジュがめり込んだ場所から、真っ赤な飛沫が、迸る。

 

 明らかなダメージが、格上であるはずの魔物に入った。

 おまけに、フランベルジュが高確率で発生させる『負傷』により。

 ファイヤイーターの最大HPが5%削られる。

 

 その様子に。

 

「おぉ、やるねぇ」

 

 感心の声が上がった。

 

 

 だが、当然ながら、ファイアイーターは死んじゃいない。

 普通のゲームならLv5に等しい弱さで、Lv40近い魔物にダメージが入った。

 そのことは驚くべきことだが。頑丈な鱗と羽毛に阻まれた一撃は、ファイアイーターにしてみればかすり傷にもなっていない。

 

 

 まだまだ元気いっぱいの鳥は、怒りの雄叫びを上げ、鋭いくちばしで反撃してくる。

 

「『装備武器防御(ウェポンディフェンス)』!!」

 

 そのくちばしを、ユナは、フランベルジュの刀身で防御する。

 

 が。

 

「いたぁ!?」

 

 防御の状態で26ものダメージを負ったユナは、HPが2しか残らなかった。

 最大HPは28だ。

 次で死ぬ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。