VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ ――『ガールズ・リプレイ』――   作:日傘差すバイト

54 / 65
55

 

 下顎を大きく開き。

 声なき声が上げる咆哮は。

 竜の威厳と、不死なる異形さで戦場の戦意を失わせる。

 

 それは、ゲーム的に言えば、範囲内の敵の先制攻撃をためらわせるという効果で。

 

 怯んだ前方の魔物に向けて、竜は飛ぶ。そのボロ布のような翼で。

 そうして。

 閉じ込められっぱなしだった不機嫌さを叩きつけるかのように、振るわれた鍵爪が、魔物に突き刺さった。

  

 

 

「ヒューベリオン!!」

 

 傍若無人なドラゴンに向けて、ユナが叫ぶ。

 

 重装甲の騎乗用甲冑と馬具一式を身に着けた、竜の骸は。

 何の統制もなく。

 ユナの声も聞かず。

 

 ただ感情のままに暴れ出す。

 そんなヒューベリオンは、まだ主との信頼関係が皆無だ。

 鎖を解かれた狂犬に他ならない。

 

 しかも、端的に言えばレベル1だ。

 さしもの竜族と言えども、突き立てた爪はレベル70の敵の有効打にはなりえない。

 

 しかしながら。受けた反撃で即死しないのは、流石だった。

 初期で250を超えるHPは、キャラクターではありえない。

 そして、アンデッド種族特有の再生力もある。

 耐久面だけなら、VITを振っていない、SP67Kのマナよりも既に高いのだ。

 その上、高速で飛び回るため、飛行できない近接型の魔物に対して、アドバンテージを得ている。

 

 まぁ。

 今直面しているのは。

 だから何だというレベルの大問題なのだが。

 

 というのも。

 さぁ、狩るぞ。

 と意気込むパーティメンバーを放って飛び出したヒューベリオンは、全く言うことを聞かないのだ。

 これは、騎乗スキルではどうにもできない。

 ペットの感情と、飼い主との信頼関係。

 この二つを良好に保てなければ、連携プレイなど夢のまた夢となる。

 

 

「どうしましょう」

 

 ユナは攻略サイトの情報で、ペットのことをある程度把握していても。

 現状、事前知識程度にしか働いていない。

 全く有効打になりえない攻撃を、ヒットアンドウェイで繰り返すドラゴンゾンビを見つめ。

 ユナは途方に暮れる。

 

「……閉じ込めっぱなしでしたからね、機嫌が悪いのでしょうか」

 

「私が『聖櫃なる鎖(セイクリッドチェーン)』で縛ろうか?」

 

「そんなことしたら、ますます信頼は得られないわよ」

 

 ローリエ、フェルマータ マナも、ペットには詳しくないため、対処に困っていた。

 

 暫くして。

 ヒューベリオンを観察していたマナが言う。

 

「でも、良く見るとベリオンは上手く戦ってるわ。ちゃんと隙を作ってから殴りかかるし、余計なダメージを負わないように、距離も測ってる。まだステータスが足りていなくて敵を倒すのは無理だけど、そう簡単には死なないんじゃないかしら」

 

「つまり?」

 とフェルマータ。

 

「放っておいても大丈夫、ってこと」

 

「なぁるほど」

 

「一人は寂しいですからね、そのうちユナさんの所に戻って来るかもですし」

 ローリエはしみじみと言った。

 放っておかれるのも意外と寂しいものだ。たぶん、ドラゴンもそうだろう。

 ふと振り返った時。

 誰もが皆、自分が居ないかのように振舞う。

 そんな、ただの空気みたいな扱い。

 

 ローリエは慣れっこだが。

 ヒューベリオンには慣れてほしくない。

 

 そう思いながら。

 

 ローリエは、戦闘準備する皆に混じる。

 

 というわけで、いったんヒューベリオンは放置し。

 ユナを含めて4人で、狩を開始することになった。

 

「ユナちゃん、持ってるアクティブスキルは、『装備武器防御(ウェポン・ディフェンス)』だけ?」

 

「いえ、『薙ぎ払い(モーダウン)』という範囲スキルを取りました。LV1ですけど」

 

「オッケー」

 

 ヒューベリオンが暴れている一画とは別の方向。

 

 その魔物の群れをターゲットに。

 フェルマータが、皆に言う。

 

「私が、あの群れに突っ込んで注意を惹くから、先生はボム、ロリちゃんはサイクロン、ユナちゃんは今のでやってみて。順番は、サイクロン、ボム、さっきのね!」

 

 皆がそれぞれ、了解したのを確認すると。

 

 フェルマータが、防御スキルを幾つか使ってから、敵の群れに吶喊していく。

 そんなウサミミドワーフの身を包む魔銀全身甲冑(ミスリルフルプレート)は伊達ではなく。

 とても堅牢だ。 

 元の最大HPが1500近くある上、自前の自動回復もある。

 さらに今は、ローリエの強化で、追加の自動回復も乗っているし、防御力も上がっている。

 最大HPは、強化で2200に届いている。

 

 だからフロア内の25%に及ぶ数の魔物から猛攻を受けても。

 数々の防御スキルを帯びた、フェルマータのHPは微動だにしない。

 

「――虚無(そら)にたゆといし見えざる羽根よ、想起、高みのすべてを示せ――、破壊の奔流よ、無慈悲にして冷徹な神罰となって荒れ狂わん――『風の大災害(サイクロン)』!!」

 そこに巻き起こるのは、ローリエが紡ぐ風の暴力だ。

 遺跡の奥深くには風の現象核(オリジン)が少なく、日傘の風結晶からの抽出がメインとなり。

 いつもよりも遅い速度で完成したが、魔法とは、自然現象の再現。

 たとえ屋内であろうとも、無関係にその大災害は再現される。

 

 強風に巻き上げられ、切り刻まれ、天井と地面に叩きつけられる、魔物の群れ。

 

 それで負傷した魔物を、マナの【炸裂魔弾(マジックボム)】が吹き飛ばし。

 風耐性などで生き残っていた瀕死の魔物を、ユナの【薙ぎ払い(モーダウン)】がとどめを刺す。 

 

 特に、ユナの一撃は、低レベルながらも高い筋力と、新調したハルバード攻撃力の高さで馬鹿にできないダメージを出す。

 

 

 そうやって、まとめて敵を倒すことで、効率的にSPを稼ぐことができ。

 それを3週間ほど続けることで。

 ユナは25000まで、ヒューベリオンは20000までSPを稼ぐことが出来た。

 

 ヒューベリオンのしつけは、まだまだだが。

 強くなったことで、その爪も尾撃も、敵にかすり傷程度なら追わせられるようになったし。

 ユナに至っては、既にパーティで一番の物理攻撃力値に躍り出た。

 

 ついでにフェルマータも1000、マナも2000ほどSPを稼いでいて、フェルマータは76K、マナは69Kとなり、種族特徴が強化されましたというアナウンスがパーティに流れていた。

 

 そしていつものごとく。

 ユナのタイムリミットでその日の狩りは解散する。

 

 それがここ3週間ほどの流れだったが。

 

 今日は、マナの一言で狩りは終了を告げた。

 

「悪いけど、今日はこんなもんでいいかしら」

 

「オッケー、そろそろ切りあげましょうか」 

 

「あ、はいッ」

 

「私もそろそろ、時間だったので丁度良かったです。今日も、皆さんありがとうございました」

 

 よし、撤収。

 

 の前に、フェルマータがローリエに言う。

 

「そういえば、ロリちゃんは、索敵範囲が広いのね。それに、敵を見つけるのも早いわ」

 

「え?」

 

「今日も何度か後方に来たやつを魔法でさばいていたでしょ? いつも先生より後ろに陣取ってるのは、そういう時のため?」

 

「え、あ、いえ……その……、まぁ、そうです……」

 

 ローリエは、無意識的にずっとパーティの殿を担当していた。

 だから、一番柔いマナに強襲しようとする魔物を、いち早く察知して撃退していた。

 

「ありがとう、助かったわ。PKの時といい、ロリちゃんは頼りになるわね」

 

「――!!!!」

 

 その一瞬。

 ローリエは、落雷を受けたかのように脳裏が真っ白になった。

 それから、どうやって街に戻ったのか記憶がない程だ。

 

 

 そのとき、フェルマータが言った言葉。

 

 頼 り に な る わ ね。 

 

 ローリエは、その日、その一言だけでご飯3杯は余裕だった。 

 

 なぜなら、パーティプレイできていたって、ことだからだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。