VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ ――『ガールズ・リプレイ』――   作:日傘差すバイト

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 リアル。

 現実世界。

 

 とある都市の。 

 とある居酒屋に。

 がらがら、と和風な木製扉を手動で開けて。

 ビジネススーツ姿の女性が入ってくる。

 

 らっしゃっせー。

 的な店員の歓迎が発せられる中。

 

 女性が見渡すと、店内で一番奥のカウンター席に居た客が、手を振った。

 

「おっ、ヨルヨル。こっちこっち」

 

 それに、スーツの女性は恥ずかしそうに俯きながら、無言で接近すると。

 

「大声で呼ぶな、恥ずかしい。あとなんで、ヨルヨルなの」

 

 小声でそう言って、隣に座る。

 

 手を振っていたのも女性で、こちらはカジュアルな装いだ。

 今日はたまたま、遅い梅雨入りのせいで肌寒いが。

 今は、6月の下旬である。

 黒ノースリーブ、黒フレアスカート、緑カーディガン、という服で。

 緑色が目立つコーディネートをしている。

 

 その女性の名は、東三条(ひがしさんじょう)(かなで)

 年齢は19。

 

 そしてスーツの女性の名は、先生(せんじょう)夜々(やや)

 年齢は23。

 

 そんな二人は、とあるゲームで知り合ったリア友だった。

 元々はゲーム内で出会い、ほぼ初心者のころから一緒に狩りに行ったり、探検に行ったりしていたのだが。 

 両者ともすぐに多忙になった。

 

 それというのも。

 ヤヤは就活中の大学4年生で。

 カナデは大学受験を控えた高校3年生。

 

 都市部の大学を受験するカナデが、受験のための宿泊先を探している時。

 ちょうど同都市にヤヤが在住という事で。

 ヤヤが下宿先の自宅(アパート)に泊っていい、と申し出たのがリアルでの付き合いの始まりだ。

 

 

 カエデはヤヤに、下宿先で受験のアドバイスを貰ったり。大学入学後も勉強を見てもらったり。

 そういう意味でも、先生(せんじょう)夜々(やや)は。

 名実ともに、カナデにとっての『先生(センセイ)』だった。

 

 その関係が今も続いているのだ。

 だからたまに、こうしてオフ会をしている。

 

 席に着いたヤヤのファッションの変化に、カナデはすぐに気づく。

 

「ヤヤチー今日は眼鏡なんだ? 珍しい」

 

 ヤヤはいつもはコンタクトなのだが。

「1回外しちゃったから、めんどうで眼鏡」

 

「なーる? ところでプラン『飲みほプラス』にしといたけど、おっけー?」

 

 ヤヤが座った席には、既にお箸やお手拭きが用意されている。

 その中から、お手拭きを破き、ぬぐいながら。

 ヤヤは言う。

「何でもいいわ。どうせビールしか飲まないから」

 

「たまに日本酒とかワインも頼んでたじゃん」

 

「今日はビールの気分なの」

 

「なるほー」

 

 料理はコースで頼んであり、友人の合流を待っていた。

 だからカナデは今しがた店員に、コースを始めても大丈夫だと告げた所だ。

 

 料理を待つ間。

 二人は、水を飲む。

 

 そんな。

 ガヤガヤと喧しい喧騒が続く。

 居酒屋で。

 

 やはりふたりの会話は、自然とゲームの話になる。

 VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ。

 その名のゲームの話に。

 

 

 溜息は、カナデから。

「ねえ、先生。私、耐久力には自信があるわけよ?」

 

「まぁ。見たら解るわ? そういうビルドでしょ?」

 

「そうなの。なのにあのドラゴンちゃんもう私よりHPあんのよ? ずるくない?」

 

「ヒューベリオン? 20KくらいだっけSP」

 

「そうよ! 私76Kなのよ?」

 

 フェルマータはここ3週間の狩りの成果で、この前種族強化が進んで75K⇒76Kになったのだ。

 それはヤヤも知っているが。

 

「いくつだったの、ベリオンのHP」

 

「2047!」

 

「フェルは?」

 

「今1491……」

 

「うちのマナHP220くらいしかないから、全然多く見えるけど?」

 

「そりゃVIT1でしょ、あんた!」

 

「もぉ。何が言いたいのよ。ペットと比べてもしようがないわ。相手はドラゴンだし」

 

 先に届いたビールとチューハイ。

 そのチューハイを、速攻でぐぃっと飲んで。

 カナデは言う。

 

「私が言いたいのは、あのドラゴンちゃん、育ったらめっちゃ強いんじゃないかってことよ」

 

「でしょうね?」

 テンションの高いカナデに対し、ヤヤは、だから何? と言う感じで冷めている。

 

「私は嬉しい」

 

 ああ。そう着地すんのねこの話。とヤヤは思った。

 ビールをぐぃーっと、一気に3割ほど飲むヤヤをしり目に。

 ぷはー、っと、仕事終わりの疲れに浸透するシュワシュワを堪能するヤヤをしり目に。

 

 カナデは続ける。

 

「ユナちゃんも、ちょっとづつ強くなってるし、あのドラゴンちゃんと仲良くできたら、きっとパーティの要になってくれるわ」

 

「そうね。この前聞いたら物理攻撃力430だって言ってたもの。まだ25Kなのにね」

 

「うんうん。将来有望よ」

 

「あとユナはセンスもいい。呑み込みが早いと言うか。いろいろリアルで習い事してるらしいけど、それが少しづつ活きてるのかもね。」

 

 うちの新入りもアレくらい呑み込みが早かったらいいんだけど。

 そんなつぶやくヤヤの愚痴は無視して。

 

 カナデは、ぽつりと言う。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「ロリちゃんは、全力出してない気がする……」

 

 あぁ、そうかも、と言いたげに。

 一瞬言葉を噛み砕き。

 同意するかのような間を残し。

 ヤヤは尋ねた。

 

「カナデはどうしてそう思う?」

 

「そうねぇ、例えば、PKを蹴り飛ばした時。あのキックはただの魔法使いじゃ無理よ」

 

「それから?」

 

「あとは……、遺跡から卵持って帰ってきたでしょ?」

 

「ええ。すごい運ね」

 

「それもあるけど、ロリちゃんはユナちゃんと二人で行ってたのよ? ユナちゃんはSP5Kだったでしょ、その時」

 

「フロアボス?」

 

「そう! 卵手に入れるとき、そいつに襲われるらしいじゃない。卵ゲットしたら、すぐに帰還アイテムで帰る、ってのがセオリーらしいけど。ユナちゃんは帰還用アイテムなんて持ってなかったでしょう?」

 

「ロリが一人で倒した……?」

 

「違うのかなぁ……」

 

 そんなタイミングで、料理の一品目が届く。

 

 ヤヤは考える。

 気にかかるのは、ヒューベリオンだ。

 あそこで竜の卵をゲットしてきた。

 それはものすごく低い確率だろう。

 カトブレパスの卵をゲットしたら即帰還して、ボスとは戦わない。

 それがセオリーなら。

 

 ボスの討伐が、竜の卵の獲得条件の一つ。

 その可能性はかなり高いだろう。

 

 ヤヤはそう考えた。

 だから。

 

「違わないんじゃない?」

 と答える。

 

「じゃあ、めっちゃ強いわよ?」

 

 あともう一つある。とカナデは言う。

 届いた小鉢をつつきながら。

 

 ヤヤはビールを飲みながら。

 

「もう一つ?」

 

「この前、私がヴィエクルスフィアを持って行ったとき、50Mって言ったんだけど、『あぁ、その程度ですか? 余裕で出せますよ』みたいな反応だったわ。50Mぽんと出せるって相当よ、しかも自分のためじゃないのよ?」

 

 ちなみに、その50Mの値段と価値については、あとでユナに説明されている。

 ユナはたいそう驚き。いつか絶対に返します、と何度もローリエの感謝を述べていた。

  

 すいません、生ビール追加お願いします。

 店員に話しかけるヤヤに、カナデは尋ねる

 

「先生は? 何か変だと思うことないわけ?」

 

「あるわよ、たくさん」

 

「おぉ、例えば?」

 

「私の目算では、少なくとも、フェルより強い」

 

「おぉ、おぉ。何故そう思う、ヤヤチー?」

 

 いきなり、カナデの声が甘い。 

 

 ぐでん、とカウンターにほっぺたをくっつけ。

 なぜそんなポーズをする。

 っと、つっこみたくなる。

 そんな恰好で発せられた甘い声。

 たぶんちょっと、カナデは酔っているだろう。

 チューハイ3口くらいしか飲んでないのに。

 

 ヤヤは酔っぱらいの奇行は無視して、訊き返す。

 

「じゃ、訊くけど。カナデはロリが『種族特徴が1段強化されました』のアナウンスされたの見たことある?」

 

「無い」

 キッパリ。

 

「そうよね。フェルですら1上がったのよ? 75だったフェルですら」

 

 はっ!?

「実は、ロリちゃんは、ぜんぜんSP貰えてない?」

 

「そういうこと。獲得SPのペナルティが深いんだわ、きっと。――それに、この前、所持スキルについて聞いた時、ロリは慌ててた」

 

 

 あのとき、ヤヤは少し鎌をかけた。

 土属性、重属性の基本バフを全体化して掛けていた。

 だから、その全体化は装備で補っているのか?と尋ねた。

 それにローリエはイエスと答えた。

 

 でも。

 ――……基本バフを全体化できる装備オプション、そんなものはこのゲームに無いのだ。 

 少なくともヤヤが調べた限りでは。

 

「なんで、実力を隠してるんだろうね?」

 

「さぁ」

 

 料理の二品目が届く。

 カナデはチューハイをちびちび飲み。

 ヤヤは届いたサラダを取り分ける。

 

「つまり、風の魔法使いは仮の姿ってわけでしょ」

 

「わけでしょうね」

 

「本当のロリちゃんが見たいなぁ?」

 

「見たいなぁ、と言われても」

 

「なんかないの、アイディア」

 ねぇ、ヤヤチー。

 と甘えるカナデ。

 

 うっとうしい、と言いたげなヤヤ。

 

「……まぁ、無くもないけど」

 

「え!? 何々!?」

 

「この前、『猫耳』のマスターが、エスペクンダの街の闘技イベントに興味持ってたのよ。それを手伝ってあげたら?」

 『猫耳』とは『ミミズクと猫』の略だ。

 以前は『ミミ猫』と言っていたのだが。

 可愛いので、『猫耳』にあらためたのだ。

 

 そしてエスペクンダとは、首都から東の大き目の都市で、大きな湖があり、水の都と言われている。

 白い街並みに、湖から続く運河が美しく有名だが。

 他に、都市を統べるギルド、アシュバフが牛耳る闘技場も有名なのだ。 

 

「アシュバフってギルドが主催してるスポンサー付き闘技イベント?」

 

「そう」

 

「出場者に、武器屋や防具屋のスポンサーがついて、その武器や防具をアピールするついでに、闘技を行おうって、そういうシステムのイベントね? 『猫耳』が、何で売り込むのかはともかく、それは楽しそう」

 

「そこなら、1対1で戦うロリをじっくり見れるわよ?」

 

「私らその間、トイレにでも行ってるふりしとけばいいわけね?」

 

「失敗しても、『猫耳』には有益だし、どう?」

 

「採用!」

 

 

 そうして、大学生と社会人の夜は更けていく。

 

 

 

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