VRMMO-RPG:SecondWorld/第二世界スフェリカ ――『ガールズ・リプレイ』―― 作:日傘差すバイト
「だ、だだだだ、だ……誰ですか!?」
ローリエは一生懸命、勇気を絞り出すように尋ねる。
「あたし? あたしは……ただの吸血鬼よ?」
「きゅ、吸血鬼……?」
「それより、あんたは? ユナて子と違うん?」
「え、いえ。私は、エルフで、ローリエ、です!」
「ロォリエ……? あら? なんや、この『どらごんぞんびぃ』の飼い主とちゃうんか」
ローリエは今しがた出会った他人に、正直に言っていいものか迷いながら。
「ユナさんは、私の……と、と、と……」
そしてさらに、『トモダチ』だなんて、そんな恐れ多い主張を、本人の居ない所でしていいものかと、迷う。
トモダチだなんて、ローリエが勝手に思うだけで。
フレンド登録もパーティだからって理由だけで、『フレンド』とは名ばかりかもしれない。
ここでトモダチという事は、嘘、大袈裟、紛らわしいの誇大広告であって。
ユナには迷惑でしかないかもしれない。
そんな歯切れの悪いローリエに相手は聞き返す。
「と……? なに?」
ローリエはなおさらビビり気味で。
相手にそんなつもりは無くても。
威圧感を感じてしまって、つい言ってしまう。
いつもの尻すぼみな声量で。
「え、あ……う……、と、トモダチです。ユナさん、は……私の」
「ああ、あんたユナって子の知り合いなん?」
「はい、そうです、けど?」
「それやったら、この『どらごんぞんびぃ』、何処でゲット出来るか、あんた知ってはる?」
「さ、砂漠の遺跡です。以前イベントをしてた遺跡地帯の、地下ダンジョンで……」
「ほぉ? 今でも手に入るんけ?」
ずい、と迫る吸血鬼少女に、ローリエは仰け反りつつ。
「さ、さぁ? とても珍しいみたいですから……詳しくは私にも分からなくて……」
どうでしょう? とローリエは目を逸らす。
「そうかぁ。あの『ぞんびぃ』も、あたしも『あんでっど』やし、あたしにピッタリで恰好ええと思うたんやけど。そう簡単には、いかんのやね」
そうかぁ。
とあきらめきれない様子で、少女はちょこんと大人しくお座りしているヒューベリオンを見つめる。
そして、少女は。ヒューベリオンの下に落ちている『にゅうる』に気づいた。
「あんた、この子に食べ物あげようとしとった?」
「え? あ、はい……」
「『あんでっど』に、普通の食べ物はあかんよ?」
「え?」
「あたしもそう。あたしの食べ物は――」
ゆらり。
一瞬だけ、霧に姿を変え。
その一瞬で少女は1歩を歩んだ。
ローリエは反応も出来ずに、吸血鬼少女が間合いに入るのを許してしまう。
そんな極至近距離。
顔と顔がぶつかりそうな距離。
あまりに近く。
そして、色白な少女の顔の造形は、素晴らしく綺麗で。
赤い少女の双眸と、ローリエの琥珀色の視線が交錯する。
ローリエは照れてしまい、目をそらそうとするが。
その前に。
少女はその食べ物の名前を、囁くように言った。
「――『血』よ」
と。
「真っ赤な、血」
だと、言いなおしながら。
少女が離れる。
ほっほっほ、と笑って。
「……この子は、あんたとも、友達のようや。オイタは辞めにしとかなね」
そのままガブリとかじられるのかと思ったローリエは、ほっとして。
さらにヒューベリオンを見ると、威嚇態勢になっていた。
相手キャラクターの同意なく血を吸う行為は、PK行動に値する。
ローリエにそれをした瞬間、ヒューベリオンは飛び掛かるつもりだっただろう。
だから少女は離れたのだ。
そして。
今は夜、元々夜明けの近い時間帯だった。
それが時間が進んだことで、朝を迎えようかと言う瞬間に差し掛かる。
いつの間にか、東の空は黄金色に染まり。
やがて僅かに、太陽が顔を出す。
陽の光が、村を照らし始める。
光が、少女に当たった瞬間。
少女の身体から、しゅぅぅ、っと煙が出始めた。
墓地のノスフェラトゥ達も同じように、すごい勢いでHPを削られて煙を上げている。
ハッ。と少女は驚いた顔になり。
東の空を見て。
「しもうた……もうこんな時間か。けど、今から城に帰る時間は……」
どこか、日の当たらんところに行かんと。
少女は慌てて辺りを見回す。
「あかんあかん……このままやと死ぬる」
少女は、慌てたまま、大木の影に頭を抱えて小さく成りしゃがみ込んだ。
それでも、まだ少し煙が上がっている。
ローリエは見かねて。
とっさの判断で。
大木に立てかけてあった日傘を広げて、少女に落ちる影をさらに深くする。
日傘の影。自分の影、大木の影。
そうして、そこに寄り添いにやってくる。
ヒューベリオンの影。
それでようやく、少女は危機を脱する。
膝を抱えたまま、顔を上げた少女は。
「おおきに。助かったわ。ありがとうね」
続けて少女は言う。
「あたし、『あんでっど』やし、『きゅうけつき』やから、ダブルでお日様に弱うてね。30秒もせんうちに死んでしまうんよ……」
って、あれ?
「……なんで、あんた無事なん?」
少女の視線は、ヒューベリオンに。
ローリエは、なぜだか気づいているので、説明する。
「ヒューベリオンさんは、アンデッドですが、ドラゴンですから……」
ドラゴンゾンビは確かに太陽に弱い。
でも、アンデッド分の弱点しか帯びてないのだ。
だから、能力が弱体する、というデメリットは受けている。
そしてアンデッドも太陽でダメージを受けるが、その数値は一定時間毎に最大HPの5%というDOT。
けれどドラゴン種のパッシブスキル【竜の血】という種族スキルによって、あらゆるDOTのダメージ量は10%まで無効化され、それ以後は減少になる。つまりDOT11%なら1%に減るのだ。
アンデッドの太陽によるDOTが5%なので、それを加味すると-5%。
つまり太陽ダメージは完全に相殺されているのだ。
しかし吸血鬼はDOT20%。アンデッドと合わせると25%になる。
太陽の当たり具合や時間帯によって、割合は変動するが。
朝日は太陽の力が強く、最大の威力になる。
それを影の無いところで浴びると、吸血鬼はたった4回のサイクルで死ぬ。
だから恐れる。
少女は、
「そうか。ええなぁ……」
と呟いてから。
思い出したかのように。
「――そんで、さっきの続きやけど。その子に血をすうのは無理やろから、そうなるとその子のご飯は、魂やね」
「魂……? ですか?」
「そうよ。たぶん、どこかのお店でも売ってるんとちゃう? 邪属性……っていうん? その魔法で『
「こさえる?」
「作る、いうことや。今はそうは言わんかいな」
「邪属性魔法……」
ローリエは、邪属性魔法を使える知り合いに心当たりはない。
お店で探すしかないだろうか。
首都を練り歩くのはハードルが高い。
特に一人では。
「助けてくれたお礼に、あたしがこさえたげよか?」
「良いんですか?」
「ええよええよ? けど、太陽の在る所はすてぇたすが低ぅなりすぎて、上手いこと作れんさかい、お城まで連れて行ってくれへん? あの子も一緒にな」
「お城ですか?」
「そうや。ここから北にある、『ブラッドフォート城』」
おしろ?
「そ、あたしの、家」
「い、え……。えぇっ!?」
お城が家だと言った。
驚くローリエをしり目に。
吸血鬼少女は立ち上がる。
多少HPが削れ始めるが、日傘、ヒューベリオン、大木の影でその量は僅か。
ローリエの隣に並ぶ、少女の様子は。
相合傘であり、
「ゲェトまで、このまま走ろうか。日傘の中なら、1分くらいなら持つで」
そして。
ふたりは肩と肩を密着しなければ日傘の影に入ることはできない。
そんなタイミングで。
転送クリスタルがある方角から、猛然とダッシュで接近する人影が――。
「ちょっとぉ! ……そこの人、何してるんですかぁ!?」
その人物こそが、ドラゴンゾンビの主。
ユナであった。
なぜか、とても機嫌が悪いのだが。