Special Rapid Service   作:永谷河

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天皇賞(秋) 後編

 

10月30日、東京競馬場では、第154回天皇賞(秋)のパドック周回が始まっていた。

各放送局の中継では、パドック解説が行われていた。

 

『……続いて17番のスペシャルラピッド、馬体重509㎏。前走の関屋記念から+5㎏です。現在6番人気となっております』

『はい、馬体の調整はかなり上手くいったのではないでしょうか。毛艶もいいですし、筋肉の付き方もかなりいいですね。前走の走りは決してフロックではないと思います。パドックでチャカついていますが、これはいつものことなので気にしなくても大丈夫だと思います』

 

スペシャルラピッドは、GⅠの舞台でもいつもと変わらず、首を上げ下げしたりと落ち着きのない様子を見せていた。

 

『すべての馬の解説が終わりました。パドックを見た感じですと、どの馬が良さそうでしたでしょうか』

『うーん、やはりモーリスやドゥラメンテ辺りはしっかり仕上げてきてますね。キタサンブラックも馬体重を絞ってきていますから、調整はうまくいっているように思えます。ただ、自分の見た中で一番調子がよさそうだったのは、17番のスペシャルラピッドですね。もともと馬体はしっかりとしている馬なのですが、前走あたりから中身が加わったといいますか、重厚になったといえばいいですか。とにかく見違えるような馬体になったと思います。現在は6番人気ですが、いいところまで行くかもしれません』

『なるほど、スペシャルラピッドですね』

 

GⅢを1回勝っただけの馬にしては高い評価を受けていた。

パドック周回が終わる合図が出され、いよいよ騎手が馬に乗り込む。スペシャルラピッドの背中にも、能海秀明騎手が乗り込み、地下道を通って本馬場へと向かっていった。

 

 

『東京競馬場第11競走、メインレース天皇賞(秋)、GⅠ、芝2000メートル。馬場状態は良。伝統と格式ある古馬中距離レース。今年は18頭のフルゲートで争われます。それでは18頭を紹介します』

『1枠1番。世界を揺るがす大逃げ快速ホース。エイシンヒカリ。馬体重は502㎏』

『1枠2番。ベテランの意地を見せるか。クラレント。馬体重は500㎏』

『2枠3番。昨年の悔しさをバネに栄光を。アンビシャス。馬体重は466㎏』

『2枠4番。15年クラシックの主役はこの舞台で初の栄光を。サトノクラウン。馬体重480㎏』

『3枠5番。春秋天皇賞制覇へ。キタサンブラック。馬体重は538㎏』

『3枠6番。再び王者を覆すか。ロゴタイプ。馬体重は496㎏』

『4枠7番。ベテランに導かれ、初のGⅠタイトルを。アドマイヤデウス。馬体重は476㎏』

『4枠8番。この距離では負けられない。サトノノブレス。馬体重は496kg』

『5枠9番。マイルの王は中距離の覇者となるか。モーリス。馬体重は514㎏』

『5枠10番。今日は紅一点。重賞連勝中の勢いのままに。ルージュバック。馬体重は450㎏』

『6枠11番。初めてのGⅠの舞台でどんな走りを見せるか。カムフィー。馬体重は462㎏』

『6枠12番。15年クラシック二冠馬、復活なるか。ドゥラメンテ。馬体重は492㎏』

『7枠13番。約4年ぶりのGⅠ挑戦。ヒストリカル。馬体重は450㎏』

『7枠14番。ドバイでつかんだ栄光をこの日本でも。リアルスティール。馬体重は502㎏』

『7枠15番。2000メートル重賞を2勝中。GⅠでも強さを見せるか。ヤマカツエース。馬体重484㎏』

『8番16番。昨年は2着。今年こそ勝利を。ステファノス。馬体重486㎏』

『8枠17番。前走はレコード勝利、初のGⅠで栄光を。スペシャルラピッド。509㎏』

『8枠18番。史上2頭目の天皇賞秋連覇へ。ラブリーデイ。482㎏』

 

それぞれが返し馬を行いながら所定の位置に向かっていく。スペシャルラピッドも首を上げ下げしながら、騎手の導かれるように軽やかに芝の上を走っていた。

 

『以上の18頭で争われます。第154回天皇賞(秋)。ファンファーレまでお待ちください』

 

暫くすると、各馬が2000メートルの発走地点に集結する。ゲート入りに向けて待機していた。スペシャルラピッドは相変わらず、ドゥラメンテを睨みつけていたが、絡みに行くようなことはしなかった。秀明は、それを見て「よしよし」と首元を撫でて、集中しているなと馬を褒めた。

 

全頭が集まり、ゲートの準備等が終わると、発走の時間がやってくる。

スターターがスターター・スタンドカーに上ると、観客席も色めき立つ。そして、旗を振られ、関東GⅠファンファーレが競馬場内に鳴り響いた。

 

『東京競馬場メインレース、第11競走、第154回天皇賞(秋)、GⅠ。芝コース2000メートル、18頭で争われます』

『天候は曇り。やや気温が下がり肌寒さを感じる状態となっております。馬場のコンディションは良馬場となっております』

『GⅠ馬7頭。うち海外GⅠ馬3頭が出走。今年は18頭のフルゲートとなり、豪華なメンバーが集結しました』

 

 

枠入りは順調に進んでいた。17番のスペシャルラピッドも秀明の合図とともに、ゲートの中に納まった。

今まで五月蠅くしていたのが嘘のように、ゲート内で大人しくしており、ゲートが開くのを待っていた。

そして偶数番号の馬もゲートに入っていき、18頭全頭がゲートに入った。

 

『最後に18番のラブリーデイがゲートに入りました。これで全頭ゲートインしました』

 

 

18頭が滞りなくゲートに入り、係員がゲートから離れる。その数秒後、一斉にゲートが開いた。

 

『さあ、第154回秋の天皇賞、今スタートしました』

 

ゲートが開くとともに、18頭の馬が芝を蹴り上げる。大きく出遅れた馬はおらず、横並びでゲートを飛び出した。

その中で、積極的に先頭を獲りに行ったのが、エイシンヒカリであった。1枠1番という絶好の枠順を生かして、騎手が手綱を扱きながら前に押し出していた。

 

『さあ、1番エイシンヒカリが前に押し出してくる。そこに外から5番のキタサンブラック、6番ロゴタイプが競り掛けてくる。外枠ヤマカツエースとスペシャルラピッドも前へ前へとやってくる。熾烈な先頭争いだ』

 

同じように逃げを画策したキタサンブラックとロゴタイプが先頭に立ったエイシンヒカリに並びかける。第2コーナーに入ると、外から被せるようにヤマカツエースとスペシャルラピッドも先頭争いに加わっていく。

 

『第2コーナーに入って、先頭1番エイシンヒカリ、そこから5番キタサンブラック、6番ロゴタイプ、17番スペシャルラピッド、15番ヤマカツエースが続きます。外からはスーッと前年覇者のラブリーデイが並びかける』

 

向こう正面に入ると、スペシャルラピッドをふくめた6頭の馬が先頭集団を形成し、その後ろに数頭が馬群を形成していた。注目のモーリスは、中団の後方付近に位置取っていた。ドゥラメンテとリアルスティールは、後方に控えており、自分のペースで走っていた。

第2コーナーを超え、600メートル地点を通過する。通過タイムは当然のように早くなっていた。先頭を走るエイシンヒカリは、本来であればここまで早いペースで逃げる予定ではなかった。しかし、後ろから5頭の馬が競り掛けていたことが原因で、早いペースで逃げざるを得なくなっていた。

そして、スペシャルラピッド鞍上の秀明が、キタサンブラックの横につけて徹底的にマークをしながら、加速するエイシンヒカリに差を付けないように走っていた。これが原因か、ペースメイクが上手い騎手が騎乗しているキタサンブラックも、馬の方が無意識にペースを上げてしまっていた。

さらに、後ろからロゴタイプ、ラブリーデイ、ヤマカツエースもハイペースな逃げに追従したため、ペースダウンの余地が失われていたのであった。

 

先頭がエイシンヒカリのまま、向こう正面終盤に入り、東京競馬場名物の大欅の姿が横目に見え始める。実況が後方の馬の紹介を終えるころには、先頭は第3コーナーに入り始めていた。

 

『3コーナーに入りまして、先頭は1番エイシンヒカリ、1馬身後方に5番キタサンブラックと17番スペシャルラピッド、さらに1馬身後方に6番ロゴタイプと18番ラブリーデイ、15番ヤマカツエースがおります。1000メートルの通過は……57.4です。早い前半の1000メートル。このラップを刻んでいるのはエイシンヒカリ。持つのか、このラップで!』

 

逃げ馬たちの競り合いにより、非常に早いペースで前半1000メートル地点を通過していた。先頭のエイシンヒカリは、57.4で逃げていたが、2番手のキタサンブラックとスペシャルラピッドには2馬身ほどしか差を開けていなかった。この2頭の2馬身後方にラブリーデイとロゴタイプがおり、そこからやや遅れてヤマカツエースが走っていた。この6頭が先頭集団であった。そこから、3馬身ほど後方で、サトノクラウンを先頭とする中団の馬群がいた。このからやや離れた後方付近で1番人気のモーリスは走っていた。

最後方の馬群では、ドゥラメンテとリアルスティールが走っていた。差し・追込みを考えていたこれらの馬の騎手たちは、このままのペースなら、先行集団が総崩れになる可能性があると予想し、仕掛けどころをどこにするか、進路はどうするかを冷静に考えていた。

 

『三・四コーナー中盤になりまして、中団後方に8番サトノノブレス、外から7番アドマイヤデウス。さらに11番カムフィー、その2馬身後方に9番モーリス、14番リアルスティールと12番ドゥラメンテが控えている。そして1馬身後方に10番ルージュバック、16番ステファノス。最後方には13番ヒストリカルがいる』

 

実況が最後方の馬の名前を挙げたころ、先頭はすでに4コーナーの中盤を通過していた。先頭はエイシンヒカリが通過し、その1馬身半後方にキタサンブラックとスペシャルラピッドが併走。その後ろにロゴタイプとラブリーデイ、ヤマカツエースがいた。

 

『先頭エイシンヒカリが4コーナーカーブを抜けて直線に入ります。後ろにキタサンブラックとスペシャルラピッド。外からラブリーデイにロゴタイプ、ヤマカツエース』

 

直線に入り、各馬が一斉に仕掛け始める。

残り500メートル地点では、エイシンヒカリが先頭で、その斜め後ろからキタサンブラックとスペシャルラピッドが迫っていた。鞍上の秀明も、スペシャルラピッドに仕掛けの合図を出して、隣のキタサンブラックに合わせるように、スピードを上げていった。

しかし、その時点では鞭は使わなかった。それは最後の最後の勝負所での一発と決めていたからだ。その一発に反応するように、前から調教していたのであった。

 

『直線残り400メートル。キタサンブラックとスペシャルラピッドが先頭に立つ。エイシンヒカリは厳しいか。馬群中央からモーリスが抜け出してきた。さらに大外ドゥラメンテとリアルスティールが追い込んでくる!』

 

残り400メートル地点で、エイシンヒカリの先頭が終わり、2番手にいたキタサンブラックとスペシャルラピッドが先頭に立つ。その後方では、馬群が開けた隙間を縫って1番人気馬のモーリスが、先頭集団に襲い掛かっていた。

さらに、この時を待っていたとばかりに、赤バツの勝負服の2頭、ドゥラメンテとリアルスティールが外側から突っ込んできていた。

 

『モーリスが伸びてくる!さらに外からドゥラメンテとリアルスティール!しかし、先頭はキタサンブラックとスペシャルラピッドだ。粘る粘る。先頭で粘り続ける!』

 

先頭のキタサンブラックとスペシャルラピッドの2頭が残り200メートル地点を通過する。そのコンマ数秒後、2頭が通過した地点を猛烈な勢いで追い上げるモーリス、ドゥラメンテとリアルスティールの3頭がいた。足を貯めていた馬たちによる猛追であった。

道中で逃げていたエイシンヒカリやラブリーデイ、ヤマカツエースは残り400~300メートル付近で先頭集団から脱落。ロゴタイプも200メートル付近で、先頭争いから脱落していた。

スペシャルラピッドとキタサンブラックの2頭は先頭で粘り続けていた。両者ともに、馬体を合わせながら、競り合っていた。

スペシャルラピッドの鞍上の秀明は、なかなかスピードが鈍らないキタサンブラックを見ていた。そして、後ろから警戒していた馬が来ていることを感じ取っていた。その瞬間、この残り200メートル地点が最後の勝負所であると確信した。

 

「行くぞ、ラピッド」

 

最後の仕上げとばかりに秀明は鞭を一回だけ馬に使った。

それに反応して、馬がさらに加速し始めた。

 

『先頭スペシャルラピッドが抜け出した、抜け出した。キタサンブラックも粘る。外からモーリスだ。ドゥラメンテとリアルスティールも追い込む。しかし、これは、これはスペシャルラピッドだ!ラピッド先頭。モーリスドゥラメンテが差を詰めるがこれは届かない。キタサンブラックも粘るがこれは届かない』

 

残り100メートル、50メートルとゴールまでの距離が縮まる。最速の末脚で、先頭を走るスペシャルラピッドを捉えようとする。しかし、先頭との距離はなかなか縮まらなかった。

 

中団後方から馬群を割って追い込んできたモーリスは、残り50メートル付近で先頭の影を踏むことができた。しかし、二の脚を見せたスペシャルラピッドを追い抜くことができなかった。

ドゥラメンテは、モーリスのさらに外側から上がり最速の末脚で追い込んできた。しかし、モーリスと同様に先頭を捉え切ることができず、ほぼ同タイミングで入線した。

100メートル地点でスペシャルラピッドに抜かされたキタサンブラックはその驚異的なスタミナと意外と侮れない末脚を生かして、再度加速して先頭を狙ったものの、2着からやや後ろでゴール板を通過した。

リアルスティールは、ドゥラメンテと同様に後方から追い込んだが、一歩及ばず、先頭から2馬身ほど後方で入着した。

 

この4頭の猛追をかわして先頭で入線したのは、17番のスペシャルラピッドであった。

 

『スペシャルラピッドだ!芝転向から2戦目。初のGⅠでそのタイトルを掴みました。スペシャルラピッドが決めました。鞍上能海秀明、見事な手綱さばきで天皇賞優勝へと導きました』

 

ゴール後、能海秀明の望んだとおり、馬券が空に舞っていた。

徐々にスピードを落としながら、スペシャルラピッドの様子を確認する。流石の彼も、息を荒げて、かなりの発汗を見せていた。ありていに言えば、疲れていた。

 

「おめでとうございます」

 

後輩の騎手が隣に来て、勝利を讃える。秀明にとって久しぶりのGⅠ勝利であった。

 

『先頭を駆け抜けましたスペシャルラピッド。この王者集まる2000メートルで、その強さを証明しました。2着争いはモーリスかそれともドゥラメンテか。』

 

ターフビジョンには、入線の瞬間が映し出される。先頭に17番のスペシャルラピッド。その約1馬身後方にモーリスとドゥラメンテが入線していた。素人目では、2着争いが全く分からない状況であった。

 

『勝ち時計は1分56秒4です。2011年以来の56秒台です。非常にハイペースな消耗戦となりました。しかし先頭で粘り強さを見せたスペシャルラピッドが勝利しました』

 

レコード決着ではなかったものの、56秒台前半という非常に早い勝ち時計であった。世界を舞台に結果を出してきた馬、同期のクラシック馬たちを抑えての勝利であった。

競馬場内も騒然としつつもの、スペシャルラピッドの勝利を讃えた。

そして、判定がおこなわれていた2着争いも判明する。

 

『着順掲示板、1着スペシャルラピッド、2着モーリス、2着ドゥラメンテ、4着キタサンブラック、5着リアルスティールです』

 

着差はそれぞれ 「1と1/4、同着、クビ、1」 であった。

 

『東京競馬11レースは第154回天皇賞(秋)、18頭フルゲートで争われました。道中2,3番手でレースを進めました17番のスペシャルラピッド。非常に早いペースでのレースとなりましたが、粘り勝ちました』

 

クールダウンが終わり、正面スタンド前の芝で堂々のウイニングランを始める。

今まで1着は5回経験していたが、ここまでの大観衆の前でのウイニングランは初めてであった。

 

『同期がダービーの歓声に讃えられる中、デビューを果たしました。その後もダート戦線で力を蓄え続けました。ケガもありました。その溜めに溜めた力は、今日この日のためにありました』

 

デビューは、今日一緒に走ったドゥラメンテが勝利したダービー当日であった。その時は、だれにも注目されていなかった。しかし、着実に力を貯めて、このGⅠの舞台にやってきたのだった。

 

東京競馬場のファンは、歓声でスペシャルラピッドと能海秀明の勝利を讃えた。秀明は、手を振りながらその歓声に応えていた。いつもなら人間でもわかるくらいドヤ顔のラピッドは、さすがに疲れたのか、無表情で芝のコースと歩いていた。

 

『ハイペースの消耗戦でありましたが、見事な粘りを見せて勝利しました。第154回天皇賞(秋)は、スペシャルラピッドが制しました!』

 

こうして、スペシャルラピッドの初GⅠは勝利で終わった。タニノギムレット産駒としては、ウオッカ以来のGⅠ勝利であった。

 

 




スペシャルラピッドの理想系は、アメリカ競馬の強い馬です。母父のゴーストザッパーや、アメリカンファラオやアロゲート、フライトラインのような勝ち方です。あの走りを最強クラスの強さを持つ馬にやられると対処ができません。
これらの馬の勝ち方からいえば、まだラピッド君は強くなる余地がありますね。
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