フライパンの上、黄身を金色に光らせる目玉焼き。
優雅な朝食に拘る。キッチンに立つ学得は、藍色のエプロンを巻いていた。
クボスが横からそれを除く。
「いつものメニューですね。なら私がお作りしましたのに。」
「いいんです。たまには自分でやらないと、すぐ腕が鈍りますから。それにやっと料理のコツを掴んできた所です。」
コンロの火を止める。
「特に卵の割り方。今回は2欠片程の殻しか入らなかった。」
「流石ご主人、成長がお早い。もうそんなレベルまで。」
「日々着実に学んでいますから。......ところで、地下室への階段を僕に無許可で取り壊したのは、あなたですか?クボス。」
「はい。」
「そこに、替わりに小さな足場を疎に設置してアスレチックみたいにしか降りられないようにしたのも?」
「ええ、私です。ゲーム性があってワクワクするかと。」
「しません。直しなさい、今すぐに。」
「...アスレチックはお嫌いでしたか?」
「そういう問題では無い。」
「ご主人!」
「...何です?」
「ご主人が求めてらっしゃる"開放感"とはズバリ、ご自身の生活に趣味が少な過ぎて、常に鬱屈とした気持ちでいるから手に入れられずにいるものかと。」
「まあ......確かに夢中で打ち込めるものは現状、機械いじりぐらいしかありませんが。」
「もっと趣味を増やすべきです。普段されないことにも手を出して、それこそアスレチックでもなんでも。」
「.........ふむ。」
「ということで、階段の件はこのまま...」
「直しなさい。」
「......承知しました。」
「あぁ、それとクボス。後でおつかいも頼まれてください。今日のお夕食です。」
小松菜♪小松菜♪小松菜♪
小松菜は梅の一種♪小松菜は梅の一種♪
小松菜♪小松菜♪小松菜♪
小松菜は梅の一種だよ♪知らなかったでしょ♪
小松菜は梅♪小松菜は梅なんだ♪
店内に流れる目的不明の洗脳ソング。
ここはミート茎野。
そして勢いよく開くドア。
「おいーす、茎野さん!またあのヤベェコロッケくれよ!3個。」
「いらっしゃーいニコ、喰子ちゃん。丁度揚げたてだニコよ!3個で259円ニコね。」
「えぇ〜〜、この間みたいにタダでくれねぇのかよぉ。」
「あの時は特別ニコ、温情ニコだよ!しかも1個だけだったニコから。」
渋々サイフを開く弾語。
ふと、店内の壁を見て気付く。そこにあったのはビルの上に凛々しく立つガァングの姿。
「あ!あのポスター!まーたガァングのグッズ集めてんのかよ、茎野さん。」
「良いニコでしょぉ、やっぱ男は憧れるもんニコだよ!全戦無敗の最強ヒーロー!!喰子ちゃんは違うニコ?」
「いやぁ別にぃ?なんつーかさあ、やっぱ彼、調子良くなっちゃってると思うよぉ?私は。最強ヒーローつっても中身はどうせ普通の、浅ましい人間なんだからさぁ。」
ヘラヘラ笑いながらレジの受け皿に小銭を乗せた。
「相変わらず斜な構えニコだねぇ。......でも、そんな君でもコレを見ればきっとガァングファンになるニコ!」
そう言って茎野が机の下から出したのは、粘土か何かで出来た、人型を模ったようなグチャグチャの何かだった。
「ナニそれ?嘘の出土品?」
「ガァングのフィギュアニコ!自作ニコ!まだ全然未完成ニコだけど。」
「自作フィギュアだとォ!?どんだけ好きだよ!てか既存品買えよ!」
「ちゃんとしたヤツは凄く高いニコからね。勿論初めて作るニコけど、情熱があれば多分完成するニコよね!」
細い棒状の粘土に針金を刺したもの。
それを素体となるグチャグチャ粘土に突き刺す。
「それドコ?」
「左腕ニコ。......なーんかしっくり来ないニコなぁ。こんな時は自分の腕とよく見比べて、構造を真似るニコだな。」
「えーと、ここがこうなってて、それでここがこうだから、あっ、え?あ?どっちが、あれ?あれれ?」
茎野が自身の左腕に針金をプスっと刺す。
「イッッターーーいニコォッッッ!!めちゃくちゃ間違えたニコーーッ!!」
「キャハハハハハハッ!!そうはならないだろっ!アホすぎるゥゥー!!やっぱアンタ最高にオモしれぇよ茎野さぁん!ダハハぁ!!」
笑い泣きする弾語、傷口をちゅうちゅう吸う茎野。
「あマズっ、私そろそろバイトだ。」
「そうニコ?気をつけていってらっしゃいニコ、喰子ちゃん。」
「おう、それじゃまた!見てろよ、アンタに譲って貰ったこのギターで絶対のしあがってやるからさ!」
勢いよく開くドア。コロッケの入ったビニル袋片手に走るように店を出た弾語を、茎野は微笑みで送った。
それと入れ替わりに客が来る。
「どうもこんにちわ、茎野様。」
「クボスくん、いらっしゃいませニコ!」
「またコロッケをお売りいただけますか?主人がすっかり気にいったらしく、勿論私もですが。」
「それはなによりニコ!それにしても"主人"なんて、クボスくん本当に執事さんなんだニコねぇ!」
「ええ。モノホン執事、略してモンしつですよ。」
スーツのポッケに手を潜らせ、財布を探し始める。
「おや?はて、お財布は何処にしまったか......あ、ここですかね。」
クボスの首の後ろがカシャッと四角に開き、そこからウィーンと財布がせり上がって来た。
「えっ!?クボスくん、体から財布ニコ!?」
「あれ、お伝えしておりませんでしたか?私はご主人の手で作られたAIロボットなんですよ。ロボットの執事、略してボトしつですね。」
「AIロボット.........」
茎野の脳裏には、間宮さんの顔。
何故彼女は自分へ襲いかかったのか。未だその理由が分からずいた。
「クボスくん、突然だけど君にお願いがあるニコ。」
「?はい、なんでしょう。」
「君を作った、ご主人様に合わせて欲しいニコ。」
向かい合わせにテーブルに着く。互いの前にはアイスコーヒー。
「髪型、変えたくなったりしますか?」
「え?」
「僕はもう3年近くずっとツインテールで。最近はサイドテールなんかも良いかと思うんですけれど、なんなら思い切って前髪もパッツンにしたりとか、でもあと1歩が中々踏み出せなくて。」
「そうなんですね...ニコ。」
「そんなんで新しい髪型に手を出せずいます。きっと慣れないファッションに触れるのを怖がっているのでしょう。つくづく自分が情けない。......さて、今日はどんなご用件で?ミート茎野 店主、茎野 等基火刃さん。」
ここは学得宅。
クボスに毎度お使いをさせていたので、面識が全く無い初対面の客。しかも一対一。緊張で話の切り出し方を普通にミスった学得。
そのことには気を留めず、茎野は口を開く。
「学得さん、貴方は超優秀なメカニック。クボスくんを作ったのも貴方だと伺ってるニコ。」
「ええ、その通りです。」
「お聞きしたいニコ。クボスくんの他にもAIロボットを作ったニコですか?例えば、成人女性の姿をしたロボットなどを。」
「いいえ。今のクボスを完成させる前に何体かテスト用のお手伝いロボは作りましたが、どれもアイデンティティとなる設定や姿は用意しませんでした。」
「そうニコですか、、なら、間宮 幸子という
名前に心当たりは?」
「?いえ、存じあげません。」
分かりやすく残念そうな顔をする茎野。一瞬で手掛かりがゼロになってしまった。
「なんだか分かりませんが、僕は貴方の求める答えを持てていなかった様ですね。お力添えできず申し訳無い。」
「とんでもないニコ。......うーん、まあ、仕方ないニコね。......じゃあついでに、もう1つのお願いも聞いてほしいニコな!」
「もう1つのお願い?」
茎野がバックから作りかけのドローンを取り出し、学得へと差し出した。
「ハイパーメカニックのあなたなら、コイツを完成させられるニコよね?」
受け取ったドローンを四方より数秒嗜め、笑みを浮かべる。
「10分程頂ければ。」
(ここで基盤などをなんやかんやするカットイン)
「テストしましょう、どうぞ。」
コントローラーを茎野へ手渡した。
上下前後左右 問題なく作動するドローン。目を輝かせる茎野。
「おぉー!凄ぇニコォ!流石天才発明家先生ニコだ、どうもありがとう学得くん!」
「どういたしまして。ですが、独学であの段階まで作られた貴方も素晴らしい。クリエイターの素質がありますよ。」
「本当ニコ?意外と物作りが性に合ってるのかもニコなぁ。俺、フィギュアなんかも作ってみたりするんですニコよ。色々興味が湧いて、自分の手でやりたくなっちゃうニコから。」
「ほう......趣味、沢山お有りなんですかね?」
今の自分に足り無いものを茎野は持っている、そう感じて問いを漏らした。
学得のそんな心を無意識に傍受した茎野が言う。
「実は今、ドハマりな趣味があるんですニコ。良ければ今度、それに付き合ってくれませんニコか?」
願ってもない誘い。学得は少し目を見開いた後、笑顔で頷いた。