「……なるほど、理解したわ」
「わかってくれて何よりだよ……」
痛む頭を気合いで治して、ヒナと小鳥遊先輩の連れてきた女の子達にも経緯を説明した。結果として納得してはいないものの、理解はできた様だ。小鳥遊先輩達と相席となり、オレとヒナの対面に座った小鳥遊先輩がニヤニヤしながら口を開く。
「ええ〜、お兄さん。あんなに情熱的におじさんを口説いて来たのに〜?」
「小鳥遊先輩……?」
「可愛いとか愛らしいとか、歯の浮くような台詞で迫って来たのに〜?」
「小鳥遊先輩!?ちょっとだけ捏造して語るの辞めてください!ヒナ委員長の視線がヤバいことになってる!!」
「……ちょっとだけ捏造ということは、本当の部分もあるの?」
「やべぇ、墓穴掘った!」
「いや〜君はからかいがいのある子だね〜」
徐々に冷え切っていくヒナにもう一度弁明を試みるも、明らかに不機嫌そうなヒナにこれ以上の刺激は逆効果だと思い話題をそらす。
「そういえば小鳥遊先輩達は何故ここに?」
「先生がオススメのお店を教えてくれてね〜。いや〜安価で美味しいとは聞いてたけど、キラキラしてておじさんには眩しすぎるね〜」
「つまりあの野郎が全ての元凶か……帰ったらシバく」
「元々軽率な行動をしたイチゴのせいでしょ……」
「いや、そうだけど……ちょっと内腿抓るの止めて貰ってぇぇ!?」
じとっとした視線のまま内腿を捩じ切るんじゃ無いかという勢いで抓られる。周りからも同情の余地無しなのか、感情の読めない眼差しを向けられる。
「先生と、随分仲が良いのですね?」
「ん?まあそりゃ、幼馴染だしな〜」
ようやく解放され、患部をさすっていると眼鏡の子ーー奥空アヤネが声を掛けてきた。席に着いた時に一通り自己紹介なんかはしたのだが、比較的友好的な感じの子だ。
「幼馴染……。でも歳上ですよね?」
「まあな。ただ小学校の時からの知り合いだし、色々世話になってるから恩もあるんだけど……。あいつほんと時折とんでもない奇行に走るから」
「ああ……」
「ぶっちゃけそれに振り回されて来たし、迷惑も被ってるから……純粋に尊敬出来ない部分がある」
「……色々、苦労されてるんですね」
「わかってもらえると助かる」
少し同情というか哀れみの目で見られる。あいつここに来てまで何やらかしやがったんだ。
「えぇとぉ〜さっきの様子を見て思ったんですけど、先生もあなたみたいに頑丈なんですか〜?」
「いや、そういう訳じゃない。単にオレが特別頑丈なだけ」
奥空と入れ替わるように、おっとり口調の子ーー十六夜ノノミが話しかけてくる。ゆるい雰囲気と包容力が印象的で、なんというか歳上のお姉さん、といった感じの人だ。
そして何より服の上からでも分かる圧倒的存在感の……ヒナさん無言で抓るのはマジで止めてぇぇぇぇ!?
「?どうかしたんですか〜?」
「なんっ!……でもっ、ないです!!」
「??じゃあ、先生はやっぱり弱いってことになりますか〜?」
「そうです、ねぇ、あいつの場合はぁ、弾丸1発で致命傷だと思います、よ!」
痛みに耐えながら必死で問題ないと伝える。オレ自身、耐久力・回復力は自信があるのだが、それはそれとして痛覚は普通にある。という訳でこういう意識がトバずにずっと痛みが続く系の攻撃にはとても弱い。ヒナもそれをわかっているのか、素知らぬ顔でずっと抓っている。
気が済んだのか手を離したヒナと入れ替わるように銀髪の女の子ーー砂狼シロコが身を乗り出して、聞いてくる。
「あなたが"風紀委員長の犬"で間違い無さそうだけど、強いの?」
「さっきも言ったけど頑丈なだけ。銃器の扱いがからっきしだからそこまで強く無いよ」
素手の喧嘩には覚えがあるが、ここじゃドンパチすることが常だ。前に練習で撃たせて貰った事もあるが、結果は散々でイオリに『センスの欠片も無い』と言われる程だった。
「ん……残念」
「待て、強いって言ってたらどうなってた?」
「戦ってみる」
「バトルジャンキーかよ……」
まあ実際、ヒナの犬と言われるようになってから挑まれたり闇討ちされる事もあった。……大概がオレの耐久力に根負けするか弾切れで負けを認めたりした訳だが。
「……私はまだアンタの事、許した訳じゃ無いからね」
「許すも何も、本当になんもしてないっての」
残念そうに座り直す砂狼にホッとしているとボソッと猫耳ツインテールーー黒見セリカが呟いた。あんま根に持たれるのもムッとするが、さっきヒナに言われた通り自業自得の部分が多いので甘んじて受け入れる。
「それにしても、小鳥遊ホシノ。あなたは随分印象が変わったわね?」
「うへへ、時の流れは人を変えるものだよ〜」
「そう……」
短くヒナと小鳥遊先輩がなにかやり取りしていた。昔からの知り合いだったのだろうか。初めて会った時もそうだが、ヒナと小鳥遊先輩はどこか似た雰囲気を感じる。
「それじゃあ、私達は行くわ」
「そんじゃあ、機会があったらまたいずれ」
立ち上がったヒナに追従するように席を立つ。オレとヒナの伝票とアビドス側の伝票もバレない様に持ち去り会計を済ませる。色々迷惑掛けてしまったし、これくらいはやらせてもらう。退店前に小鳥遊先輩が声をかけてくる。
「そうだ、イチゴ君」
「どうしたんですか、小鳥遊先輩?」
「アクアリウムの割引券、もう使った〜?」
「いやそれがまだで……休みも全然無かったからな〜」
「期限、今日までだったと思うよ〜」
「え、嘘!?……ほんとだ」
小鳥遊先輩に指摘され財布から割引券を取り出すと、確かに期限が今日までだった。どうするか悩んだが、目の前の有効な使い道を思いつく。
「小鳥遊先輩、これ使ってください。アビドスの人で」
「ありゃ〜そうなっちゃったか〜。……その割引券2人までだからうちじゃ使いづらいよ?」
「まあそれはそうなんですけど……」
「イチゴ、何してるの?」
何故か受け取りたがらない小鳥遊先輩と押し問答していると、先に店を出ててもらっていたヒナが戻ってきていた。訝しげにオレの手元を覗き込む。
「割引券?」
「ああ。期限が今日までだからアビドスの人達でどうかなって渡そうとしてたんだ」
「そうだ、2人で行ってくればいいんじゃないかな〜?」
状況を説明していると、小鳥遊先輩が名案といった感じで告げてくる。オレとしてはどちらでも良いんだが、
「ヒナ委員長は、こういうの興味あるか?」
「私は別に」
「ええ〜。もったいないよ、行ったら絶対楽しいよ〜!」
「……小鳥遊ホシノがそこまで言うなら」
乗り気じゃ無かったヒナだが小鳥遊先輩の一言でちょっと興味が出たみたいだった。自然と割引券の使い道が決まった。
「それじゃあ小鳥遊ホシノ、またどこかで会いましょう」
「またな、小鳥遊先輩」
「じゃあね〜」
小鳥遊先輩に見送られ、オレたちは店を後にする。アクアリウムの道すがら、ヒナに袖を引かれる。
「どうしたんだ、ヒナ?」
「どうして、さっきまで委員長呼びしてたの?」
「ああ、流石に他校の人の前だったし。一応な」
「……驚いた。そういう気が使えるんだ」
「失礼な。オレだってそんぐらいはするよ」
敬語なんかは使い慣れなくてすぐに崩れるしボロが出るから諦めちゃいるが。それでも多少の気遣いくらいはしないとまずい自覚は持っている。
そうして色んなことを話しながらアクアリウムまで歩いていく。何故かヒナはオレの袖を掴んだまま離さなかった。
「セリカちゃん、もう許してあげたら〜?」
「まあ私も、もうそこまで怒ってないわよ。それにあんな様子を見せられちゃね……」
「なんというか、甘い雰囲気でしたね……」
「ん……コーヒーが飲みたくなる」
「でもあの2人、そういう関係じゃ無いんだよね〜」
「「「「!?」」」」
ーーーー
アビドスの面子とここまで絡ませる予定では無かったんですが、何故かこうなりました笑
デート回もうちょっと続きます