風紀委員の肉壁くん   作:阿良良木歴

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すまない
ただ、フウカも好きなのでどうしても出したかったんです


食ってすぐに寝てはいけない

「ああ〜、腹減ったぁ〜」

 

いつもの訓練を終えたオレはどうしようもなく呟く。夜中に騒動を起こした奴らのせいで昨日の夜からぶっ通しで風紀委員会の活動をしていた。元々訓練の予定も入れており、そのまま寝る暇も食う暇もなく働くことになっていた。ヒナも一緒だったのだが、その前の日の騒動もあり流石に連勤が過ぎたので、無理矢理帰らせて寝させている。オレはオレで溜まっている書類仕事をやろうと思ったが、目が死んでるとイオリに言われ泣く泣くオレも帰ることになった。時刻は午後3時を過ぎた辺り。

 

「飯食って帰るか……ん?」

 

どこで何を食おうか考えていると、ふといい匂いが鼻をくすぐる。匂いに釣られてフラフラと寄っていくと、そこはゲヘナの食堂だった。って言うことは、

 

「おいっす、愛清。今やってる?」

 

「あ、イチゴ君!大丈夫ですよ」

 

三角巾にエプロン、右手にお玉を持った女の子ーー愛清フウカがそこにいた。寸胴鍋で煮込んでいるのはカレーのようで、食欲を刺激する香りが腹に刺さる。話が出来る程度にキッチンに近い席に座る。

愛清と仲良くなれたきっかけは、まあ勿論風紀委員会の活動だ。美食研究会から拉致られた所を救出したのを始まりに、美食研究会の無茶ぶりを一緒に乗り切ったり給食部のピンチを手伝ったりしていつの間にか仲良くなっていた。今ではたまにご飯を作ったり作って貰ったりの仲になっている。

 

「悪いな、昨日からなんも食べてなくてな〜」

 

「忙しいのはわかるけど、ちゃんとご飯食べなきゃダメですよ?」

 

「そうするよ。先生みたいにインスタント漬けになるのは御免だ」

 

「イチゴ君が作ってるんじゃないの?」

 

「時間合えばな。合わないと適当に済ませちゃうからな、あの人」

 

先生は別に料理が出来ない訳じゃない。作らせれば結構いい感じのだって作れる。ただ、いまいち自分で作るのを面倒がる癖があり1人の時はインスタント食品に頼りっぱなしだ。何度やめろと言っても改善も見られないから困ったもんだ。

そんな話をしている間に目の前にカレーが置かれた。肉がメインにありながらも野菜がゴロゴロと入っている。手を合わせ、いただきますと口にしてから1口食べる。

 

「ああ〜1日ぶりの飯うめぇ〜」

 

「それは良かったです」

 

カレーをがっついて食べるオレをなんだか嬉しそうに眺める愛清。まあ夢中になって食べる姿は料理を作った側からすれば嬉しいもんだよな。そうして一心不乱に食べるとものの数分で完食、口直しに水を飲んで一息ついた。

 

「ふぅ、ご馳走様。ありがとうな、いきなり来ちゃって」

 

「ふふっ、大丈夫ですよ。むしろ美味しそうに食べてもらって嬉しいです」

 

「実際美味しいからな。……明日の仕込みか?手伝うよ」

 

「いいんですか?じゃあ甘えちゃおうかな?」

 

キッチンで何かを切る音が聞こえ、手伝いを申し出る。一飯の恩義ってやつだな。頼まれた食材から見て、明日は唐揚げかなと推測する。自己流のタレを作り鶏肉を漬け込む。以前手伝った時から、オレの好みの味付けで良いと言われていた。なんでも味付けの変化によって食べる人が喜ぶからとか。

余っている食材で、ちょっとしたおかずも作ることにする。とはいえ、野菜の切れ端や魚のアラしかないので、簡単に煮込んでスープを作る。そんな事をしていると、手元を覗き込んだ愛清が感心した様に呟く。

 

「イチゴ君はそう言ったお料理作るの得意ですよね?」

 

「まあ節約が染み付いてるっていうか、余り裕福な暮らしじゃなかったからな〜」

 

主に趣味に金をつぎ込んでたせいだけど。趣味に金使うとどこかで削らないといけないからな。

 

「そういう愛清は家庭料理全般得意だよな?」

 

「そうですね。よく作るからというのはあると思うんだけど」

 

「そうだとしてもだよ。この間食べた卵焼きはマジ絶品だったわ〜」

 

「そ、そうでしょうか?そう言ってもらえると嬉しいですけど……」

 

「マジマジ。あの卵焼きだったら毎日だって食いてぇな〜」

 

「ま、毎日!?」

 

「愛清の料理は全部美味しいから、いいお嫁さんになりそうだな」

 

「およッ!?」

 

話している途中で、包丁の音が途切れ鍋の煮立つ音だけが響く。不思議に思い愛清の方を見ると、やけに赤くなった顔でじとっとオレを睨んでいた。

 

「え?どうした?」

 

「……自覚無いんですか?」

 

「……?もしかして何かそっちに飛ばしちゃってた?」

 

「違います!……はあ、自覚が無いのはわかったので、さっきみたいな発言はあんまりしない方が良いですよ?」

 

「??話が読めないけど、お嫁さんどうこうっていうのは愛清にしか言ったことないぞ?」

 

だって周りに料理得意な女の子いないし。

そう思っていると更に顔の赤みを増した愛清が俯きながらボスボスとオレの肩を叩いてくる。特に痛くは無いんだが、とりあえずなんか抗議されている事だけは把握出来た。そして女子に何か抗議されている時は基本男が悪いとオレは元いた所の友達から教わっている。

 

「すまん、愛清!たぶんオレが気に障ることをしちまったんだろ?申し訳ねぇ……」

 

「……いえ、イチゴ君が悪い訳ではありません。ただ感情の整理というか……」

 

「それでもすまん!何か詫びをさせて欲しい!」

 

「……わかりました。じゃあ今度から私の事、名前で呼んでください」

 

「……へ?そんな事でいいのか?」

 

「良いんですよ。いい加減、私だけイチゴ君のこと名前呼びっていうのも変じゃないですか」

 

「……わかったよ、フウカ。これで良いか?」

 

「はい!イチゴ君!」

 

何か釈然としないながらも、嬉しそうな表情のフウカにまあいいっかと納得する。その後は他愛のない会話をしながら料理を進めていると、食堂へ誰かがやってくる音が聞こえた。

 

「風紀委員会です。パトロールと給食部の監査に……って何してるんですか、イチゴ君?」

 

「げ……チナツ」

 

「今日はもう帰宅指示が出ていた筈ですが?」

 

「いや〜、帰る前に腹ごしらえでもと思ってな?」

 

「それで何故料理を作っているんですか?」

 

「ええっと、まあ。なりゆき?」

 

「……はぁ、まあ良いです。イチゴ君が素直に帰るとも思っていませんでしたし」

 

「……ある意味信頼されてる?」

 

「褒めてません」

 

そう言うとチナツはおもむろにカメラを取り出し1枚パシャリと写真を撮る。……って、え?

 

「今のなに?」

 

「気にしないでください。ただの報告用の写真ですから」

 

「いやいや!怖いんだけど!?」

 

「明日の委員会活動が楽しみですね?」

 

「怖い怖い!?え?オレ何されんの!?」

 

そのままスタスタと去っていくチナツを料理を途中で投げ出して追いかける事も出来ずただただ見送ることしか出来なかった。

 

 

ーー翌日、

何故か不機嫌なヒナに訓練でズタボロにされた挙句、そのまま引き摺られるように出張へと連行された。

 

 

 

***

 

 

 

「……良し。こんなもんかな?」

 

ズタボロで出張に行ってから数日、ゲヘナへと帰ってきたは良いが未処理のまま溜まってしまった書類を片付けるべくオレは夜中まで仕事をしていた。集中力が途切れ、小腹が空いたオレは給湯室で簡単に作れる軽食を作っていた。こうして夜中まで仕事することも多いから、ちまちまと給湯室に食材や調味料を仕込んでいて正解だった。お盆に乗せ、給湯室から風紀委員会の部屋まで運ぶ。扉を開けると、見慣れた白髪が少し揺れている。

 

「ヒナ、少し休憩にしよう。ほら、夜食作って来たしさ」

 

「わかった。……いい匂いね」

 

「だろ〜?結構いい出来なんだぜ?」

 

お盆をテーブルの上に置くとヒナが近寄ってくる。やはり少し眠いのか、目がいつもよりとろっとしている。コーヒーを入れた方が良かったかとも思ったが、時刻は日付を跨ぐギリギリ。軽食を食べて、少し休んだら寝た方が良いかもと考える。二人掛けのソファに並んで座り、軽食を並べる。

 

「サンドウィッチと野菜のスープだ。体も暖まると思うよ」

 

「ん、ありがとう。……美味しい」

 

「そりゃあ良かった。そんじゃあオレも……。うん、うめぇ。我ながらいい出来だ」

 

少し顔を緩ませたヒナに安堵しながらオレもサンドウィッチに手を伸ばす。いい出来ではあるが、もう少しマスタードを入れても良かったか?でも夜食としてはこのぐらいがちょうどいいのかもしれないし……。

改善点について考えていると、ヒナに見つめられていることに気づく。スープを口に運びながら微笑ましそうにオレを眺めていた。

 

「本当に、料理が好きなのね?」

 

「好きっていうか、まあ癖みたいな感じかな?どうしても改善点について考えるというか、もっと美味しくしたくなるっていうか」

 

趣味に関しては常に全力だったから、その癖が未だに抜けていないというのもあると思う。そんなオレをいつもより蕩けた表情で見つめてくるヒナが口を開く。

 

「でも、イチゴの料理は美味しいから、私は毎日でも食べたい」

 

「……っ!?」

 

「イチゴはいいお婿さんになると思う」

 

「……っぁ!!」

 

その言葉を聞いて、この間のフウカの様子にようやく合点がいった。異性にこんな事を言われるのはなるほど、物凄くいたたまれない。なんというか、すごくむず痒い気持ちになってしまい、心の中でフウカに土下座して謝っていると肩にポスッとした衝撃。目をやるとヒナがオレに持たれかかって来ていた。

 

「……ヒナ?」

 

「……んぅ」

 

なんだこの可愛い生き物。

声を掛けたらオレの肩に頭を擦りつけてきたヒナに思考を破壊されそうになりながら、オレはヒナを起こしにかかる。

 

「ヒナ〜?せめて歯磨いてベッドに行こうな〜?」

 

「やだ……めんどくさい」

 

「ダメだって、ほら立って」

 

「んん……」

 

いつもの凛とした雰囲気とのギャップに脳を破壊されながらヒナを立ち上がらせ一緒に歯を磨きに行く。ここに泊まる事の多いヒナの私物の置き場所はだいたい把握している。途中寝そうになるヒナを何度も支えながら、歯磨きを終えて部屋に戻る。……つか、歯磨いてサッパリしたらオレまで眠くなってきた。

 

「ヒナ悪い。オレはソファで寝るからヒナはそのままベッドまで行ってくれ」

 

「やだ」

 

「ヤダって……ああ、なんかオレまで面倒くさくなってきた」

 

それでも頑張って窓辺のベッドにヒナを寝かせる。と、強引に引っ張られヒナの横に寝転ぶ。

 

「ヒ、ヒナ……?」

 

「……すぅ」

 

「……寝てるし」

 

無意識なのか、オレにしがみついたまま寝入ってしまったヒナ。どうしようかと考えているうちにヒナから感じる温みがオレの眠気を加速させる。少し高めの体温が湯たんぽのようで心地良い。

 

「……ああ、もういいや」

 

諦めたオレはそのまま温もりを抱き締めるように、眠りに落ちていった。

 

 

ーー翌朝、

第1発見者のアコちゃんに半狂乱状態で乱射されるという最悪の目覚めを迎えることとなった。なお、ヒナは軽食を持ってきた辺りから何も覚えていないらしく途中でアコちゃん側に協力し、見事オレはボロ雑巾になった。




ーー数日後、

「ヒナ、ほい。今日のお弁当」

「ありがとう。でも、毎日大変じゃない?」

「平気。最近は先生のも作ってるし、別に作るのも嫌いじゃないからさ」

「そう。それでも毎日食べたいって言ったのは私だし、なんだか申し訳ない気がする」

「いいっていいって!変わりに感想、聞かせてくれよな?」

「……わかった」

「それじゃあ、また後で。……んん?なんか違和感があるような??」



***

主人公が天然タラシ野郎になっている件について。
こんな子に育てた覚えは無いんですが、気づくと口説きに行ってるので手がつけられませんでした笑
でもとても一途な子なので見守ってもらえると幸いです。
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