風紀委員の肉壁くん   作:阿良良木歴

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おまたせしました。3章編2話です。
難産でした……。


暗躍と謀略、それとバカ

夜のトリニティ、その運営の要たる生徒会長達ティーパーティーの集まる場所に人影が2つ。片方は席に着かずに立ち、もう片方は優雅な所作でティーカップを傾ける。

 

「約束通り、イチゴも補習授業部の一員としてこちらで預かる事になったよ」

 

「ありがとうございます、先生。これで多少の不安材料は消えました」

 

立ったままの方ーー先生は少し眉を顰めて、座っている方ーー桐藤ナギサは安堵した様に微笑んでいる。

 

「別に私の監視下に置かなくても、イチゴはそんな真似しないと思うんだけどね」

 

「いいえ先生、これは必要な事です。エデン条約締結に向けてデリケートな時期に、あの異分子は予測出来ない」

 

「異分子って……」

 

事の発端たる補習授業部の発足。それに付随して先生はナギサから山楯イチゴを監視下に置く様に依頼されていた。そして、

 

「彼の行動原理や交友関係、その他の情報が錯綜しています。その為、裏切り者との内通者である可能性も捨てきれません」

 

「……単純に何も考えてないだけだと思うよ?」

 

「ですが、彼はシャーレ所属でありながら殆どゲヘナ風紀委員幹部の立場にあります。何か腹に一物を抱えていると考えても不思議ではありません」

 

「ん〜、これに関しては私からは何も言えないかな」

 

裏切り者の内通者、これが今イチゴに掛けられた嫌疑だ。

先生と共にキヴォトスに来た身でありながら、先生のサポート等を一切行わず、ゲヘナに入り浸っている。客観的に見たイチゴの印象に加え、アビドスの対策委員会と共に居た、ミレニアムのある部室に頻繁に出入りしている等様々な目撃情報。その他にも路上で喧嘩をしていた、ブラックマーケットで見たという情報もある為、山楯イチゴという存在はもはやどういう行動をするか分からないブラックボックスと化していた。

ーー実際には、先生が最初に言った自由に動いて助けるを実践しているだけに過ぎず、アビドスの面々はたまたま会っただけ、ミレニアムはゲームがしたいだけという思惑もクソもない行動だった。路上の喧嘩は闇討ちを返り討ちにしていた所だし、ブラックマーケットに関してはそこを危ない場所とさえ認識出来ていない。つまり、底抜けにバカなのだ。

 

(ゲヘナの風紀委員幹部にしたってイチゴがただ……いや、これ以上は野暮なことだ)

 

イチゴを擁護しようとした先生だったが、思い留まり口を噤む。監視下に置くと言っても期限はエデン条約締結まで。それにイチゴに勉強を教えようと思っていた所でもあったので、デメリットという程の事でも無かった。

 

「先生には引き続きスパイの洗い出しと山楯イチゴの身辺調査をお願い致します」

 

「生徒を疑うのは気が引けるけどね。みんなで潔白を証明して追試を突破するよ」

 

それじゃあね、と口にし先生は踵を返しその場を離れる。少し歩き、人気の無い廊下で立ち止まり月を見上げため息を吐く。

 

「本当はイチゴをこういうゴタゴタに巻き込みたくは無かったんだけどね」

 

もう1つだけため息を落とし再び歩き出す先生には、いつもの雰囲気ではない剣呑とした空気が漂っていた。

 

 

 

***

 

 

 

「……やっぱ無理だー!」

 

「ちょっと静かにしなさいよ!」

 

泊まり込みでの勉強合宿を初めて2日、ついにオレの頭はオーバーヒートした。ペンを投げ出し机に突っ伏すオレを隣の席のちっこいピンクーー下江コハルが注意する。だが、オレにはもう起き上がる元気も気力も無かった。

 

「いや、無理無理こんなもん。ただでさえ動いて無いと死んじゃうのに、2日も机に齧り付くとか出来る訳ないじゃん」

 

「まだ今日は昼にもなっていないから、机に向かったのは実質1日だな」

 

「白州、うるさいぞ」

 

言い訳を並べていると白髪ジト目ーー白州アズサがちゃちゃを入れてきた。いやまあ、言い訳してるオレが悪いのはわかってるんだけども。

 

「あはは……。も、もう少しでお昼ですから頑張りましょう!」

 

「……はぁ、了解。ヒフミの言う通りもうちょいで昼飯にありつけるし、頑張ってみるよ」

 

「はい!」

 

後ろの席のおさげの子ーー阿慈谷ヒフミに応援され、座り直して再度机に向かう。クレーンゲームでの事もあり、1番親しくなったから無下にしたくなかったってのもある。

 

「つか、先生はどこ行ったんだよ。教える側が居ないんじゃ意味無いだろ」

 

「先生でしたら、少し用事が出来たみたいで少し席を外すそうですよ。それとイチゴ君、そこの計算間違えてますよ」

 

「うえぇマジかよ。ありがとな、浦和」

 

下江に教える為席を立っていたでっかいピンクーー浦和ハナコが計算ミスと共に先生の事を教えてくれた。こいつ、結構頭良いと思うのになんでここにいるんだろう?あと教える時に無駄に近寄って来るのは勘弁願いたい。色々当たって対応に困る。

 

「午後はなんか気分転換に体動かしてぇな〜。最近暑いしプールにでも飛び込みたい」

 

「それなら、ついこの間プール掃除したばかりだ」

 

「ナイスタイミングじゃん。水着は……無いからパンイチで入るか」

 

「そんな事しちゃダメ!エッチなのは死刑!!」

 

「そこまで言う!?」

 

「だ、だって!私たちも入るのにそんなのはダメ、不潔!!」

 

「……ん?一緒に入る予定で話進んでる?オレはてっきり1人で楽しむもんかと」

 

「……っ!?」

 

「ちょ!?まっ!爆弾はやめろーッ!!」

 

鞄から爆弾を取り出そうとする下江を引き止めなんとか事なきを得る。短い期間だがなんだかんだ補習授業部の面々と親交を深める事が出来た様に感じる。……思考が読めない奴もいるが、敵対とまでは至っていないし。

 

「遅れてすまない。勉強は捗っているかい?」

 

「遅せぇよ先生」

 

「少々手間取ってね。ちなみにイチゴ、君そこの問題間違えてるよ」

 

「ちくしょう!またかよ!?」

 

頭をガシガシと掻くオレをヒフミが苦笑いしながら見つめている。浦和はいつもの様に微笑んで、下江は呆れた様に溜め息を吐く。白州は考えの読めない表情でオレをじっと見ていた。

頭を1度リセットするために頬杖を付いて窓の外を眺める。青く晴れた空とどこからか聞こえる他の生徒の声。学校に通ってたらこんな感じだったんだろうか、と少しだけ物思いにふけるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「ーーとまあ、特に何事もなく1日が終わった感じだな」

 

『そう。それにしても、本当に勉強してるだけなのね』

 

恒例となったヒナとのビデオ通話、そこで1日の出来事の報告をする。補習授業部の手伝いという名目なので、オレも一緒に勉強しているとは思ってないようで安心する。今までずっと会って話をしていたので、こうして画面越しで会話をするのはなんだか慣れず、むず痒い気分になる。

 

「とりあえず追試突破まではまだかかりそうだ。迷惑をかけて悪いな」

 

『問題ない。今は条約締結に向けての仕事ばかりだから、イチゴが手伝える事はない』

 

「そうは言っても、やっぱ大変な時に居れないのはなんか申し訳なくてさ。何かあったらすぐ言ってくれ」

 

『わかった。でも、イチゴは元々シャーレの人なんだからちゃんとすること』

 

「了解。そっちの様子はどうだ?」

 

『別に、いつも通りよ。今日もーー』

 

少し素っ気ない感じがしないでも無いが、あまり気にせず話を続ける。画面越しでは分かりづらいが、疲れているように見える。声もいつもより覇気がないし、今回の条約に向け相当コンを詰めているみたいだ。一緒に居れれば、無理にでも休ませてやれるのだがオレは今ここを出られない。出来るだけ早く休める様に、報告会はここで打ち切った方が良いだろう。

 

『ーーがあったくらいね』

 

「そうか。通常運転だな、ウチの学校は。それじゃあ今日はこの辺にしとこうぜ」

 

『え?……別に、まだ時間はあるから大丈夫よ。聞きたい事もある』

 

「それはまた明日にしよう。これ以上は夜遅くなっちゃうし」

 

『……まだやらなきゃいけない仕事もあるから平気よ。そ、それにーー』

 

ヒナが何かを言い淀んでいると、ガラガラっと教室のドアが開いた。そこからひょこっとヒフミが顔を覗かせた。

 

「イチゴ君、いますか?……っあ!お取り込み中でしたか?」

 

「いや大丈夫だよ。どうかした?」

 

「えっと、みんなでトランプするのでイチゴ君も良かったら一緒にどうかな〜と思って」

 

「良いね、面白そうじゃん。電話終わったらすぐ行くから先にやってて」

 

「わかりました!それじゃあ待ってますね〜」

 

ヒフミは嬉しそうな顔をした後静かに扉を閉めて出ていった。こういうゲームで親交は深まる物だし参加しない訳にはいかない。それに先生も参加するだろうし、長年の屈辱を晴らさせて貰おう。

 

「そういう訳でヒナ、やっぱり今日はこの辺りでお開きに……ヒナ?」

 

『……』

 

「どうかしたか?」

 

『……っ!』

 

さっきまでの疲れた顔とは違う、怒りとも悲しみとも言えない表情のヒナに酷く動揺する。まるで、裏切られたかの様な……。

 

『……そうね。もう終わりにする』

 

「ヒナ、ちょっと待って!」

 

『じゃあね、イチゴ』

 

「待てって!……クソ、切れてやがる」

 

もう一度電話を掛けるも電源を切っているのか繋がらない。やるせない気持ちでいっぱいになるが、明日もう一度電話すれば良いと気持ちを切り替え、教室を後にする。

 

ただ、何故だか言いようのない不安が胸を支配していた。

 

 

 

 

 

 

 




ーートランプ中、

「……?次イチゴ君の番ですよ?」

「え?ああ、悪い」

「……大丈夫ですか?」

「大丈夫。ちょっとボーッとしてただけだから」

「……」



***


???

「ふーん、意外と真面目な感じか〜。本人に隙が無いな〜」
「でも、周りはそうじゃないみたいね」
「うふふふふ、明日が楽しみだね」


ーーーー

とりあえず一言。
早くイチャイチャさせたい。
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