なお今回は深夜テンションの為変かも
「……イチゴから、連絡はあった?」
「いえ……。電話も繋がらず、メッセージを送っても既読すらつかないです。ヒナ委員長も?」
「……ええ」
ゲヘナ学園、風紀委員室。そこでは重苦しい空気が流れていた。原因は山楯イチゴの噂、すなわち裏切り者なのではという疑惑からだ。決して短くない時間を共にしてきた風紀委員の幹部達は各々鎮痛な面持ちで座っていた。
「やはりあの男は最初から追い出すべきだったんです!ヒナ委員長を悲しませるなんて万死に値します!」
「アコちゃん落ち着いて。それに最近はアコちゃんだってイチゴの事認めてたじゃん」
「そ、それは……」
「それに、イチゴ君が裏切るというのもおかしな話だと思います。冷静に考えてみると、シャーレ所属のイチゴ君がわざわざトリニティに肩入れするメリットが見当たりません」
チナツの言葉に全員が黙り、考え込む。チナツの言う通り、シャーレのイチゴが肩入れする理由が見当たらない。しかし、逆に言えばゲヘナに肩入れしている理由も無いのだ。元々はヒナが依頼する形でやってきたイチゴ。そこから親交を深めてきた訳だが、大元の仕事であるという事実は変わらない。ヒナもイチゴも期限を決めていなかったからズルズルと長いこと一緒にいる訳だが、それを解消してしまえば繋がりは消えてしまうかもしれない。そんな可能性が全員の頭を過ぎった。
「……もしかすると、トリニティに想い人でもいるのでは?」
「……ぇ?」
「あの男、籠絡とかに弱いじゃないですか?前も便利屋に良いようにやられてましたし、トリニティの何某かに懸想をーーモグゥ!?」
「アコちゃん!ちょっと黙って!!」
「ヒナ委員長、そんな事は絶ッ対にありえませんので安心してください!」
「……」
アコの不用意な発言を必死に止めた2人だったが、返事は無くヒナの表情はあからさまに落ち込んでいた。
「そ、そもそも!エデン条約締結の大事な時期にこんな話題が出る方がおかしいんです!」
「……それは、そうね」
「いくら犬猿の仲とはいえ、今回の条約締結が重要な事は誰しも知ってる。つまり、この条約を破談にしたい者の狂言の可能性が極めて高いと思う」
「……イオリの言うことも一理ありますね。山楯イチゴにしろトリニティのティーパーティーにしろ、ここでこんな話題を流布するのにメリットはありません」
「……アコ、この情報の出処を探って。チナツはアコのサポート、イオリは私と一緒にこの後の出張に着いてきて」
『了解!』
少しだけ元気の戻ったヒナの言葉に3人が声を揃えて応える。それぞれの役割を果たそうと別れる、その前に。
「……ちなみにヒナ委員長、本当に山楯イチゴがトリニティの誰かを好きだった場合は」
「アコちゃん!!」
「行政官はもう黙っててください!」
どうしてもイチゴは亡きものにしたいのかアコが余計な一言を言い放つ。それに対してイオリとチナツは半分キレながらアコを抑えようとする。が、
「……ゃだ」
「え?」
「それだけは、なんだか、いや」
そう小さく呟くヒナは、瞳を潤ませ何かに耐える様に制服の裾をギュッと握り締めていた。今にも泣いてしまいそうなヒナを3人は必死にフォローしつつ思う。
あの男、こんなに可愛いヒナ委員長を不安にさせる理由がしょうも無かったらタダじゃ置かない、と。
***
「やっべ、ケータイ洗濯しちまった」
「バカじゃないの!?」
全身びしょ濡れで洗濯物を取り込みに走ったオレ達は部屋に戻ってきた。下江はコケたのもあって酷い有様だったが。そうしてびちゃびちゃになった洗濯物を洗い直そうと自分の制服を触ったところ、ポケットから昨日から行方不明だったオレのケータイが出てきた。
「ヤバいよな、これ……。電源着くかな?」
「さ、さすがにそれは無理なんじゃ……」
「だよな。実際着かんし」
元々型落ちもいいとこのオレのケータイ。落としたり戦闘の衝撃もあって画面がバキバキだったし、防水なんてあってないようなもんだった。
「しっかしどうするかな〜。これじゃあヒナと電話出来ん」
「先生のを借りればいいんじゃないか?」
「……白州、お前天才か?」
「あんたがバカなだけでしょ」
それより早く洗濯機回すわよ、と下江に言われずぶ濡れの制服と寝巻きを洗濯機に放り込む。ピッピとボタンを押して洗濯機が回り出す。とりあえず一息ついた所で、全身びしょ濡れだった事を思い出す。
「なあ、全員先にシャワー浴びてこいよ」
「なっ!?」
「あらあら〜」
「「??」」
男のオレより女の子達の方が先だと思い、そういうと下江と浦和が変な反応をする。白州とヒフミはそれを見て不思議そうにしていた。
「え、エッチなのは駄目!死刑!!」
「ちょっと待て!?今のどこにそんな要素あった!?」
「だ、だって……」
「あらあらコハルちゃん。シャワーを浴びた後に、イチゴ君とナニするつもりだったんですか〜?」
「……ッ!!」
「中学生か!?」
浦和の言葉を聞いた下江が、首まで真っ赤に染まる。そんな思春期成り立てみたいな反応、こっちが逆にビックリするわ。
「全員濡れてるんだから、早くしないと風邪引くだろ」
「え?全員ヌレてるから早くシないと?」
「へ、変態!!」
「変な変換すんな!」
つか、何故浦和は言葉だけでそんな意味に聞こえる感じに出来るのか。
そんなやり取りをしている間にも、濡れた衣服から体温が奪われ心做しか寒気が襲う。
「いい加減に早く風呂入って来い。ここでまた変な変換しやがったら一緒に風呂場に行くからな」
「ーーッ!?」
「私は一向に構いませんよ〜?」
「わ、私が構います!みんなで一緒に行きますよ!ほら、アズサちゃんも」
「みんなでお風呂は久しぶりだな」
ようやく全員がシャワールームの方に向かったところで、オレも男子部屋に戻り濡れた衣服を脱ぐ。うげ、パンツまで濡れてやがる。しょうがない、替えのパンツを先に履いとくか。タオルで全身の水気を拭った後、パンツを履き替える。と、気づいた。
「やべ、替えの服なんも無いじゃん」
元々寝泊まりするために来た訳じゃないから制服しか無かった。持ってきていたリュックにはいつ出張が入っても良いように寝巻きと替えの下着を何着か持ってはいたが私服までは持っておらず、さっきまで来ていた寝巻きと洗っている制服と寝巻きを除けば着る服は無くなっていた。
「まあ、乾くまでタオルでも巻いときゃ良いだろ」
流石に女子の前でパンイチもマズイしな。バスタオルを腰に巻き付ける。そうして風呂の順番を待っていると雷の大きな音が近くで響く。それと同時に教室の電気が全て消えた。
「……は?」
遠くで女子達の叫び声も聞こえる。ブレイカーが落ちたのか、とりあえずブレイカーのとこに向かおうとする。……くそ、こういう時ケータイが無いのが死ぬほど不便だ。真っ暗になった廊下を手探りで歩く。たまに光る雷の光が唯一の光源だ。自分の中では結構な距離を進んだと思っていると、対面から物音が聞こえてきた。
「……もしかして、ヒフミ達か?」
「え?い、イチゴ君!?なんでここに!?」
「ブレイカー上げに来たんだよ。そっちも目的は一緒だろ?」
「それはそうなんですけど……。い、今はイチゴ君は元の所に戻ってください!」
「いや、一緒に行けば良いだろ」
「今はダメなんです!とにかく、イチゴ君は早く引き返してーーッ!!」
何故か頑なに同行を拒否するヒフミに疑問を持ったその刹那、外で一際明るい雷が落ちる。
一瞬の光源が照らしたのは、浦和の豊満でたわわな胸元、下江のすべすべして柔らかそうなお腹、白州の普段は見えない所まで見えている生脚。そして先頭に立っていたヒフミの華奢で白く、されど柔らかそう胸やくびれたお腹そして小ぶりなお尻などの全身がオレの目に焼き付きーー、
次の瞬間には催涙ガスで何も見えなくなっていた。
暗闇で催涙ガスは反則だろうが……。
***
「……なんかこの感じ、2回目な気がするんだけど」
「う、うるさい!」
まさか2度目の椅子拘束にげんなりする。今回は目隠し着きだし。……まあ、今回も全面的に非があると思うので甘んじて受け入れよう。
「見てしまったのは本当に申し訳ない」
「はひぃ!?い、いえ!ふ、ふふ不可抗力ですから!?」
何処にいるかは分からないが頭を下げると、声の裏返ったヒフミの声が聞こえる。どもりまくってるし、これは前回よりも大惨事だな。けど、
「いくらなんでも裸で歩くなよ。せめてバスタオルとか……」
「巻いてましたよ!?ただ、雷にびっくりして手放しちゃって……あぅ」
「マジですまん」
思い出してしまったのか、ヒフミの声が尻すぼみに聞こえなくなる。オレも視界ゼロにされたせいかあの場面を思い出してしまった。
「あ、安心しろヒフミ!とても綺麗な身体だった!」
「〜〜ッ!?」
「変態!エッチなのは駄目!死刑ッ!!」
「イチゴ、君の記憶を消させて貰う」
動揺して言葉選びを盛大にミスったオレはその後下江と白州にサンドバッグにされ、ここに来て初めて銃弾じゃない状況でボロ雑巾にされるのだった。あと、ヒフミには3回何でも言う事を聞くということで示談が成立したのだった。
ーーーー
「なあ、結局コレっていうのもどうなの?あんまオレが言える立場でも無いけど」
「しょ、しょうがないでしょ!他に着るものが無いんだから!」
「水着パーティー、楽しいですね〜」
ようやく解放されたオレの目の前には、学校指定水着をきたみんながいた。聞けば、全員オレと同じように替えの服が無いらしい。それで水着っていうのもおかしい発想だとは思うが。でもまあ、パンイチにタオルという変態スタイルのオレよかマシか。そんな訳で、この状況で勉強が出来るはずも無く、みんな集まって水着パーティーという名の雑談をしているのだった。
「通気性も良いし動きやすい。ハナコがこれを着て学校を歩いていたというのも納得がいく」
「あら、だそうですよ。コハルちゃんも是非一緒に」
「しないから!!」
「残念です。じゃあイチゴ君は」
「そこで何故オレに振る!?そもそも学校違ぇだろ!」
他愛もない……というか中身の無い会話を重ねるが、案外こういうのも悪くない。放課後っていうのはこうやって駄弁るのも多いって聞くし、こういう緩い雰囲気なんだろう。……服装はともかくとして。
そうして色んな話をしていく。トリニティのアクアリウムに珍しい魚が展示されていること。何処かで水着に覆面の犯罪集団がいるということ。モモフレンズのこと。そして、アズサのこと。アズサが少し思い詰めた表情で最後に言った裏切ってしまうという言葉その真意を相談したくて、同じく悩んでる顔のヒフミに声を掛けようとする。
ただどうしてもヒフミとは少しギクシャクしてしまう。そりゃあそうだけど、オレはやっぱり前みたい喋りたいので話しかけに行く。
「なあヒフミ」
「はぃ!?」
「あ〜、えっと」
「……ッ」
「……すまん、なんでもない」
「ぁ……」
性急過ぎたらしくまだ話せそうに無いので、すごすごと退散しているとパッと周囲が明るくなる。どうやら電気が回復したみたいだ。
「どうやら直ったみたいですね」
「そうだね……ってうわぁ!?」
「ヒフミ!?」
立ち上がったヒフミが何故かオレを見て仰け反り、倒れそうになる。咄嗟に抱き寄せ、勢いそのままにヒフミがオレの胸元にスッポリ収まる。水着と上裸のせいか異様に肌同士の接触が多い気がする。でもあまり気にしてもヒフミにまた気を遣わせてしまうだろうと思い、平常心でヒフミに話しかける。
「大丈夫だったか、ヒフミ……ヒフミ?」
「……きゅぅ」
「ヒフミ〜ッ!?」
頭から湯気が出たヒフミに抱き寄せたままの体勢で叫ぶ。色々起きすぎてオーバーヒートしてしまったみたいだ。下江の叫び声と浦和の笑い声に混じり、パシャリという乾いた音が聞こえた気がした。
ヒフミ気絶中、
「そういや、さっき言ってた魚って?」
「ゴールデンマグロのこと?」
「マグロ……マグロか」
「どうかしたんですか?」
「いや、なんか嫌な予感が……」
ーーーー
という訳で4話目でした。
ちなみに先生が出てこないのは、情報収集を独自でやっているからです。
機会があればまた次回