ウマぴょい保険   作:新グロモント

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お兄ちゃん(5)

 逃げる!逃げる!

 

 カレンチャンの担当トレーナーが、夕暮れの中、必死で遠くへと逃げていた。僅かな荷物を持っての大逃げ。

 

「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」

 

 数刻前、某女性トレーナーから電話が掛かってきた。普段は、ウマ娘達の門限後にメールだけというルールだったのに、この時ばかりは電話であった。その為、緊急の用件だと思って出たのが事件の始まり。

 

『あは。やっぱり、お兄ちゃんだ。もう、ダメだぞカレンがいるのに浮気なんて………今、からそっちにいくね』

 

『えっ!?え!?』

 

 こんな電話を貰ったら、真っ当な精神状態のトレーナーなら逃げる。ウマ娘が落ち着くのを待って会話をするのが一番の最適解だ。感情が高ぶっているウマ娘を取り押さえる事が可能なのは、チームカノープスの南坂トレーナー位だ。

 

 逃げながらトレーナーは、ある番号へと掛ける。こう言うときこそ、プロの出番だ。

 

『はい、コチラはウマぴょい保険会社。緊急の場合は、用件を簡潔にお申し付けください』

 

『緊急だ!! 契約番号554897。担当ウマ娘に交際中の女性の事がばれた。女性スマホより、着信があり、捕まればスキャンダルになる可能性がある。担当ウマ娘が落ち着くまで身を隠したいので、位置を逆探知して迎えを!』

 

『……あぁ~。カレンチャンのトレーナーの方ですね。大変残念ですが、ご要望にはお応えできません。』

 

『悪いが、そんな冗談を言っていられる状況じゃない』

 

『自業自得という言葉をご存じですか? 担当ウマ娘と半同棲決めて、生活費やお小遣いまで貰っていましたよね?休日にはデートまでする。それに、先日はブライタルの撮影イベントまで一緒にやっていましたよね? そのまま、捕まっても良いと思いますよ。幸いな事に、カレンチャン様は中等部を卒業されますので……多少早いですが、その年齢で結婚するウマ娘もおります』

 

 ウマぴょい保険会社の言うとおりだ。確かに、このまま捕まったとして何か問題があるのかと言われれば、ない気もする。だが、彼の同僚や先輩に担当ウマ娘と結婚して、トレーナーを続けている者がいるかといえば居ない。

 

 改めて、ありなのか無しなのか考える。

 

 カレンチャンは素晴らしいウマ娘である事は間違いない。だが、たった一人のウマ娘を育てただけでトレーナー業を廃業にしていいのかと悩むトレーナー。ここまで来るのに、何年もの時間を費やした。それが、たった三年…しかも、20代半ば寿退社など、彼には選べなかった。

 

 もっと、輝かしい成果を上げて名をあげたい。そんな思いが彼にはある。だからこそ、名門女性トレーナーともお付き合いを始めた。

 

『はっ!! そういえば、彼女は無事ですか!? カレンチャンがスマホを奪ったと言う事は……』

 

『彼女の身柄は、無事です。ご安心ください。それでは、頑張ってくださいね』

 

 名門女性トレーナーも当然ウマぴょい保険に加入している。よって、このような事態でも身の安全が物理的に守られる。

 

『それは良かった。だったら、俺の方も早く保護をしてくれ。何のために、高い保険料を払っていると思っている。こう言うときに動くのが保険会社の仕事でしょう』

 

『勿論、我々としてもご契約者様を保護するのが仕事です。ですが、未加入者様を保護する事はできません。それでは、加入者様が保険料を払っているのが馬鹿馬鹿しくなりますからね。失礼ですが、ここ二年近く、保険料未納ですよトレーナー様』

 

 そんなはずは無いと血の気が引くトレーナー。

 

 だが、身に覚えがないのも事実だ。確かに、光熱費や家賃まで全てカレンチャンに頼っていた。無駄な出費を抑えるからと言われて、色々と解約した記憶もあった。まさか、その中にウマぴょい保険が含まれていた事に今気が付く。

 

『待て待て、今すぐ払う!幾らだ、幾ら振り込めば良い!?』

 

『いけませんねトレーナー様。保険とは、転ばぬ先の杖。転んだ後に入ろうなど許されません。癌が判明してから癌保険に加入できないのと同じ理論ですよ。それでは、保険会社が儲かりませんから。……ですが、見捨てるのも可愛そうなので、三浦半島発の船を手配しました。詳細はスマホに送りますので、以後の連絡は避けてください』

 

 通話が切断されると同時に送られてくる船の情報。行き先は、不明だがここに居るより安全なのは間違いなかった。陸上から離れれば、ウマ娘とて簡単には追ってこれない。着いた先で、色々と整えればいいとトレーナーは判断した。

 

………

……

 

 島行きのフェリーに乗り込んで、夜の海を眺めてこれからの事を考えるトレーナー。何処で道を誤ったのだろうか。これから輝かしい将来が待っていたのに、キャリアを止めてしまったと。

 

 重賞レースを勝利するウマ娘を育て上げた手腕は何処でも通じる。地方に身を隠して、カレンチャンが高等部卒業後に中央に返り咲く方法をシミュレートしていた。

 

 再起を図るトレーナーのスマホが鳴る。相手は当然、カレンチャンであり、迷った末に通話ボタンを押す。

 

『「私カレンチャン。今、貴方の後ろにいるの」』

 

 電話機からと背後から……その両方から聞こえてくる忘れもしない担当ウマ娘の声。

 

【まもなく、当フェリーはメジロアイランドに到着致します。ようこそ、メジロへ】

 

 と、言う船内放送を聞きトレーナーは保険会社にはめられたと気が付いた。

 

◇◇◇

 

 ウマぴょい保険会社の代表が疲れ切った顔をしている。

 

「メジロへの協力依頼。名門への配慮など今回も大変だった」

 

「良く名門も潔く手を引きましたね、会長」

 

「名門が欲しかったのは、優秀なトレーナーの知識と種だけだよ。既に両方確保済みだから、彼自体は既に用済みだったそうだ。それに、彼女の方はまだ若い。次の優秀なトレーナーを探すんだとさ」

 

「我々とは、倫理観が異なっているんですね。しかし、男性トレーナーって可哀相な生き物ですね。稼いだお金は、我々に根こそぎ取られて、知識も女性トレーナーに奪われ、生命はウマ娘に管理される」

 

 それが事実であったとしても全てのウマ娘を幸せにするため、代表は止まらない。

 




何とか、二人目まで完了。

他に特徴的な呼び名をするのは「お兄様」「マスター」あたりかな^-^

投稿も一段落したのでいったん、お休み予定><



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