ウマぴょい保険   作:新グロモント

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そなた(5)

 北海道札幌市にあるラーメン屋アイヌランド。

 

 北海道の原住民であるアイヌと元担当ウマ娘の出身国を掛け合わせて、秀逸なネーミングであった。中央トレーナーは伊達じゃない。経営から栄養学まで幅広い知識があり、仕入れから仕込みまで全て自前で行うスーパー店主であった。

 

 地元のウマ娘達から旨い!安い!美味しい!で大好評。更には、トレーニングの相談まで対応するという非の打ち所がないお店であった。ここまできたら、地元テレビが取材にくるのも当然の帰結。

 

 トレーナー視点で順風満帆の時も、終わりを告げる。

 

 仕込み中のトレーナーは、恐怖のあまり振り返る事すら出来なかった。その恐怖は、中央トレーナー試験で冬眠前の熊から二日間逃げ切る命がけの試験より恐ろしい。

 

「再度言います。私は、今、冷静さを欠こうとしています。そなたさぁ~」

 

 再び、言い訳を言えと急かすファインモーション。

 

 だが、何をどう言い訳すれば良いのだと何も言えない元トレーナー。そんな時、テレビのNHK放送から、君の愛バが~とか、国民的な歌が流れ始める。あまりのタイミングにトレーナーは、今後NHKとは契約しないと心に誓う。

 

 そして、一か八か……苦しい言い訳を始めた。

 

「ヒト違……」

 

 ベキと大きな音がした。

 

 檜で作られたカウンターの一部が、ファインモーションの手の形でえぐりとられる。その様子は見えてこそ居ないが、元トレーナーはパワー1350位かと計算してしまう。流石は、世界で通じるウマ娘だと感心する……だが、助かるわけじゃない。

 

「そなた。日本には、仏の顔も三度までという諺があると聞きます。仏様はお優しいのですね~。――ねぇ、なんでこっちを見てくれないの」

 

「………」

 

「ねぇ、覚えてる?ブライタルのお仕事を引き受けた時の事。トレーナーには分からないかも知れないけど、女の子にとってウエディングドレスってね……大好きなヒトに見せたい大事な大事な衣装なんだよ」

 

「あぁ、綺麗だった。本当に」

 

 思い出したかのようにトレーナーが呟く。

 

 仕事とは言え担当ウマ娘にウエディングドレスまで着せるトレーナーは果たして無罪と言えるのだろうか。100人中100人の男性が、ギルティだというだろう。

 

「……だったら、なんでこんな酷い事したのよ!! ねぇ、私の嫌いな所があったら言ってよ。直すから。お願いトレーナー、こっちを向いて」

 

 涙を流すファインモーションを背に。トレーナーは、ウマぴょい保険会社に助けを求めていた。だが、帰ってきた返事は――。

 

『残当です。アイヌランドとかラーメン屋やっている時点でお終いです。ご自身が無駄に廃スペックなのを忘れて本気でラーメンなんて作るからこうなるんです。バカなんですか? そのお陰で我々みたいな商売があるんですけどね。既に、契約が切れている貴方を助ける義理はありません。……ですが、事は人命に関わりますので、妻子の方だけはコチラで保護します』

 

 神は死んだ。

 

 外部から助けが来ないので、自力で逃げるほかないトレーナー。だが、相手は重賞ウマ娘だ。それもとびっきりの。そんなウマ娘から逃げられるのだろうか。

 

 世の中には、ウマ娘と併走するトレーナーやウマ娘の本気の蹴りを顔面に受けても平気なトレーナーもいる。つまり、ヒトミミだってその気になれば、なんとかなる。

 

 大事な事だが、トレーナーは別にファインモーションが嫌いなわけではない。素晴らしい女性だと思っているし、こんな女性と付き合える男性は幸せだと思っている程だ。だが、その男性が自分である必要はないと考える真っ当な思考をしている。

 

 私生活を全て監視される王族生活なんて耐えられるはずがない……とどのつまり、これが彼の結論だ。自由なき生活など、牢獄と同じだ。

 

「すまない…だが、君の気持ちには応えられない。俺には――SP隊長がいるから」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 想定外の言葉に、ファインモーション含むSP隊も思わず思考が停止する。そして、その視線は当然SP隊長へと向かった。予想外の方向からの攻撃であったため、熟練のSP隊長でもこの攻撃を防ぐ事はできなかった。

 

 一瞬のスキ、その警備網が崩れた瞬間にファインモーションの元トレーナーが自由へと逃亡を始めた。

 

◇◇◇

 

 ウマぴょい保険会社。

 

 そこに一本の直通電話が掛かってきて、責任者である代表がとる。

 

『彼の携帯端末の位置情報を売りなさい。私が自由に出来る一億を即日貴方の指定の口座に振り込みます』

 

『おやおやおや、自己紹介もなしにいきなりだね。どうやって、この番号を?たかが、一億()程度で大事なクライアントは売れないね。コチラも信用商売です』

 

『蛇の道は蛇ですよ。だれが、円と言いましたか?一億ドルです。安心してください。トレーナーはこれから一生表にでませんので、ずーーーっとわたしと一緒に過ごすんです。ウマぴょい保険なんでしょう?だったら、私がウマぴょいする状況を1億ドルで保証しなさい』

 

『……これだから権力者達は嫌いだ。ヒトミミの命を何だと思っている。あぁ、口座はスイス銀行の○○○○×××までお願いします、振り込みが確認でき次第。彼の現在位置を連絡する』

 

 受話器を横におくウマぴょい保険会社の代表。

 

 その代表は、「全てのウマ娘を幸せにする」など崇高な事を掲げている。ウマ娘達にぴょいをさせ幸せにし、ウマ娘達が獲得した賞金が集まる。更には、集まったお金で更にウマ娘を幸せにする。

 

 ヒトミミの幸せは、そこには含まれていなかった。

 




ふぅ、第一弾のファインモーション編はサッパリした感じでお終いです><

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