聡いウマ娘は、同じ轍は踏まない。前回の一件は、急ぎすぎたと後悔する。
失敗は成功の母とは、良い言葉である。失敗から学べる事は数多い。カレンチャンは、トレーナーの住所を手に入れた。洗面台を確認し、歯ブラシの数やタオルケットなど色々と物色し、彼女の影が無い事も確認している。
しかし、人生経験において、所詮は中等部のウマ娘とトレーナーでは差が大きい。まさか、一服盛られて気が付けばトレセン寮で朝を迎える事はカレンチャンでも想定していなかった。
そこで、優秀なカレンチャンが頼ったのが――ミスターシービーだ。その理由は簡単だ。元トレーナーと担当ウマ娘の間に生まれた彼女であるなら、親の馴れそめを聞いていると思ったからだ。
界隈では有名である為、その話を聞くためにミスターシービーの所には、数多くのウマ娘が訪れる。だが、有益な情報はなかった。有益な情報がウマ娘達で共有されていれば、今頃中央トレーナーは刈り尽くされている。
だから、カレンチャンは外堀から徐々に埋めて行き、お兄ちゃんの理性を崩壊させる方向へ行動をシフトした。
「あのね、お兄ちゃん。カレン欲しい物があるの~、新しいトレーニングシューズなんだけど……この間のお詫びに欲しいな~」
「あぁ、勿論構わないさ」
トレーナーが担当ウマ娘から差し出されたパンフレットを確認する。高給取りのトレーナーならご褒美に中等部が欲しい物程度買ってあげることは簡単だ。……そう普通の品ならば。
世界的な有名ブランドで、海外重賞レースに出場するウマ娘達が愛用すると言われるトレーニングシューズ。そのお値段は、なんと中央トレーナーのお給料三ヶ月分。まさに、婚約指輪レベルである。
「これなんて、カレンに似合うと思うんだけどな~」
「………そ、そうだね。でも、もう少し」
カワイイ担当ウマ娘からのお願いであったとしても、中等部らしい金銭感覚を身につけさせる事もトレーナーの仕事だ。若い時から莫大なレース賞金を手にしたことで、その身を崩したウマ娘もいる。
「そうそう、実はカレンね。この間、お部屋でワイシャツ一枚でいる姿を写真に収めているの」
「買わせて頂きます」
ウマッターに投稿するボタンに手を掛けるカレンチャンにトレーナーは勝てなかった。流石に、あの画像が世間に出回れば、死ぬ。ガチのファンが、本気で殺しに来る事は火を見るより明らかだ。
………
……
…
高給取りトレーナーが金欠で悩む。あまりの金のなさに、リボ払いという悪魔に手を染める事も考えるほどだ。だが、悪魔に手を出す前に、悪魔的な提案が担当ウマ娘より持ち出される。
担当ウマ娘より提示された細かい料金表。
「お弁当500円、お部屋の掃除1,000円、洗濯1,000円、マッサージ1万円、デート3万円……なにこれ、カレンチャン」
「なにってお兄ちゃん。その通りだよ。お弁当を食べてくれたら500円。トレーナーのお部屋を掃除させてくれたら1,000円。トレーナーのお洋服を洗濯させてくれたら1,000円。カレンをマッサージしてくれたら一万円。カレンとデートしてくれたら三万円をあげちゃいます。良い考えでしょう?」
普段トレーナー自身が行っている私生活の作業を担当ウマ娘がやってくれる。更には、お金を払う側ではなく、貰う側になる。
担当ウマ娘がトレーナーに貢ぐシステムがここに誕生した。お弁当など、差し障りのない事も混ざっている当たり、卑しさがでている。徐々に意識のハードルを下げさせる巧妙な罠が張られている。
「でも、これは流石に……」
「えぇ~、じゃあ今回だけ特別サービスで無料でいいよ!だから、カレンが作ってきたお弁当を食べてね。お兄ちゃん~」
金欠で食生活が満足出ない事を把握しているカレンチャン。
ここぞとばかりに、トレーナーの好物を用意してくる。一度手を付けてしまえば、堕ちるだけ。この逆貢ぎシステムの恐いところである。