獣人の男と人間の女が焚き火にあたっている。
獣人は狼種のようだ。特徴的な三角の耳と長いノズルがある。
二人は焚き火を挟んで仲良く会話をしていた。
「姐さんのスキル便利ですよね。モンスターの肉食べたらその能力使えるやつ」
「全部は使えないけどね」
見ると女の手はまるで竜の爪の様に変化していた。
"姐さん"と呼ばれた女は、喰らった相手の能力を使えるスキルを有するようだ。
女は変化した手を眺めながら、獣人の男に話し掛けた。
「あとね、スキルじゃあないよ。スキルじゃ」
「どういう事っすか?」
「こう言う事」
「え」
女の変化した手が男の胸を貫いた。
心臓を一刺し。男は当然即死している。
…
……
………
"グチャリグチャリ"と肉を咀嚼する音が聞こえる。
女は人間などではない。
彼女は"なりそこない"と呼ばれる決まった形を持たない種族。
人にもモンスターにも似ていない。
特徴は、"食べた相手の姿形と能力を真似できること"。
◆
二人組の冒険者が町に帰ってこなくなってから一週間が過ぎた。
行方不明の冒険者は最近売り出し中のチーム"ライカン&レディ"。
獣人の男と人間の女のチームだ。
彼らが採取の依頼で近くの森、大して強いモンスターが出る訳でもない森に行ってからの足取りが掴めなくなっている。
冒険者ギルドは行方不明者が出たら探す事になっている。
冒険者は報酬を得るために命を賭けることもある職業だ。
当然、肩を並べる事の多い同業者に対しての味方意識は強くなる。
流石に自分の狩り場は教えたりはしないが、危険な場所の共有や怪我で暫く働けない者、
駆け出しで金が無い者への援助などをギルド組員、
つまりは冒険者達で率先してやってきた。
そのため今回も捜索チームが結成されることとなった。
捜索チームと銘打ってはいるが、結局のところは近場にいた奴ら全員だ。
二次遭難しては堪らないので大所帯で捜索するのがルールとなっていた。
その中に一人、奇人変人の類で数えられる者がいる。
自称"探偵"冒険者のアケチだ。
東方国出身の父親とエルフの母親を持つ、ハーフイースタンエルフである。
父親譲りの褐色の肌を持つためダークエルフと間違えられる事もある。
そんな事は置いといて彼は"事件狂い"で有名だった。
何でも事件と結びつける変な癖だ。
毎日お店を開いている人が休んだら事件、子供が泣いたら事件、安スープの肉の量が
いつもより多ければ事件、彼の周りには何気ない事件が溢れていた。
しかも毎回大仰に推理と捜査を始めるのだから、周りの人は大迷惑だ。
犯人が見つかるまでやる為、毎回無実の人が自ら手を挙げて、この茶番を終わらせている。
勿論、自主した人が逮捕される事もなく、毎回大団円で捜査は終了している。
そんな彼が集まった冒険者達に興奮しながら言う。
「皆さん!これは事件ですよ!」
「そんなこたあ、分かってんだよ!行方不明だからな!」
そもそも手練の冒険者が行方不明になっているのだ。
事件以外の何ものでもない。
思わず近くにいた人が言い返すが、彼はそんなのは無視して更に続ける。
「私の推理では……」
「俺、こいつと組むの嫌だぜ」
「我慢しろ。これでも腕は確かだ。近くにいれば安全だぜ」
「それが我慢ならねえ!」
他の冒険者が言うようにアケチは強い。
東方国出身の父親の剣の腕は確かなもので、アケチは幼少の頃からシゴかれている。
更にはエルフの母親も母親で、弓のイロハを幼少のみぎりから彼に叩き込んだ。
彼は、"にっちもさっちも"いかなくなった者が就く職業第1位の冒険者の
英才教育を施された異端児なのだ。
「じゃあ行こうかコバヤシくん」
「俺はコバヤシじゃねえ!しかもお前を待ってたんだよ!」
自慢の推理の披露が終われば、次は現地調査とばかりにアケチは冒険者達に出発を告げた。
アケチと青年探偵団達(同じ捜索班)は一緒に森の中へ進む。
勿論、他の班は彼らを置いて既に出発済みである。
…
……
………
出発してから2時間後、アケチ擁する捜索チームは森の中ほどまで来ていた。
今のところ何も痕跡はない。
流石は手練のチーム"ライカン&レディ"と言ったところか、自分達の危険になる様な
痕跡は何も残していなかった。
「うーん、証拠がないなあ」
「手練なのも考えもんだな」
「ああ、少しは痕跡残せってんだ」
口々に文句を言う面々。
痕跡が無いと足取りを追うことも出来ない。
捜査は早々に打ち切られそうである。
しかし、アケチの探偵力?がそうはさせない。
「ん……これは血痕だ!証拠だよ!証拠!」
「血痕?森の中なら珍しくねえぜ」
「動物もモンスターもいるしな」
「吸血鬼くんはチームにいないのかい?」
「うちらの班にはいないな」
「呼んできてくれたまえコバヤシくん!」
「正論だが何か腹立つな……よし、お前とお前、他の班呼んでくるぞ」
「よろしくね〜。私はお茶でも飲んでるよ」
どこから取り出したのか小型の湯沸かしセットを地面に置いたアケチは、
その場でお湯を沸かし始めた。
それを見て顔を顰めるお使いを頼まれた冒険者達。
「おい、俺の分も作っておけよ」
「もちろんだとも。私とコバヤシくんの仲じゃないか」
「よし、3人分余計に作っとけ!行くぞお前ら!」
「「おう!」」
それから暫くして吸血鬼の冒険者と連れたってコバヤシ達が帰ってきた。
吸血鬼の冒険者は昼間に行動している為か顔色が悪い。
そんな吸血鬼にアケチが話し掛ける。
「やあやあ待っていたよ吸血鬼くん!早速舐めてくれ!」
「は?何でお前を舐めないといけないんだよ」
「言葉が足りねえんだよ!こっちだ吸血鬼の旦那。この血痕を見てくれ」
「ふむ……人のものだな。獣人、それも20代の男……」
ブラッドリーディングは血液からその人物、動物、モンスターの情報を読み取る技だ。
吸血鬼の種族特性として備わっており、使う者の職業によっては反則的に使える。
それを見たアケチが喚く。
「ずるいじゃないか!私もそれ使いたい!」
「ちっ、何だコイツ」
吸血鬼は思わず舌打ちをした。
頼まれて来たのに文句?を言われたからそれも仕方ない。
険悪な雰囲気になる前にコバヤシが助け舟を出した。
「許してやってくれ!こいつ"探偵"なんだ」
「ああ、コイツが……じゃあ仕方ないな」
「なんだ、なんだ!悪口を言われてる気がするぞ!」
「違えよ」
「違う」
「そうかい。なら良いや。それにしても獣人の男で20代って当たりじゃないかな?いなくなった狼くんの特徴とそっくりだ!」
そう、血痕の主は行方不明になった片割れとそっくりである。
冒険者達は、血痕の周辺に何らかの痕跡があると決め、暫く周辺を捜索した。
「おい!ライカン野郎の武器があったぜ!」
「こっちには服だ!」
冒険者達は続々と痕跡を集めていった。
採取や収集依頼を日頃からしている者たちだ。
捜索は朝飯前である。
「全部地面に埋まってたんだね。野生の動物やモンスターだったらこんな事しないけどなあ」
「そうだな。女の方は見つかってねえから、そいつがはんに……」
「そいつが犯人だ!もしくは攫われたか!」
「急に叫ぶな!」
「いやあ、探偵が言いたいことを取られそうだったのでつい」
それから、もう暫く捜索を行ったが、武器と服以上のものは見つからなかったため、
一同は捜索を切り上げた。
ギルドに戻った面々は、ギルドマスターに遺留品を渡し、事情を説明する。
ギルドマスターは得心のいった顔で話を聞き、そして口を開いた。
「よし、重要参考人として女の方を手配しろ」
「了解っス。職員さん達お願いするッス」
こうして"ライカン&レディ"の失踪事件は全国に知れ渡り、重要参考人として女(名前はエンド)が手配される事になる。
後にシェイプシフター事件と呼ばれる事になる事件の始まりは静かなものであった。
◆キャラクターシート
名前:アケチ
年齢:18歳、男
種族:ハーフイースタンエルフ
備考:主人公、自称探偵の冒険者。
腕っ節は確かだが頭の方は……。
名前は明智小五郎から。
名前:コバヤシくん
年齢:35歳、男
種族:人間
備考:アケチの相棒……にされる。
探偵ごっこしていない時のアケチは信頼している。
名前:吸血鬼くん
年齢:130歳、男
種族:吸血鬼(人間)
備考:刑事役な人。
吸血鬼は本名を明かさないので吸血鬼呼びで良いらしい。
名前:エンド
年齢:20歳くらい、女?
種族:なりそこない
備考:怪人二十面相がモデル。
本家は人殺しを嫌い、知略タイプだが、こちらは脳筋人殺しタイプ。
早く人間になりたい。