目が覚めたらキタサンブラックの弟になった件   作:通りすがりの邪教徒

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第五十五話:菊花賞

 

 

 模擬レースを終えて暫くしたある日。菊花賞までのタイムリミットが刻一刻と迫っていた。今日は雨が降っているため、姉ちゃんには、僕が考えたトレーニングを体育館でやってもらうことにした。

 そのトレーニング内容についてはトレーナーさんからも良い案だと言われた。

 

「と、言う訳で……姉ちゃんにはこれから、この体育館を雑巾掛けしてもらいます」

「ええ!? これってトレーニングじゃなくて、掃除じゃん!」

「いいか、姉ちゃん。「暮らしの中にも修行あり!」マスターシャーフーの教えさ……」

「いや、マスターシャーフーって誰?」

 

 この雑巾掛けのトレーニングは、ゲキレンジャー 第3話で、ゲキレットことジャンがやっていた修行だ。

 僕がその話を昔、動画サイトで見ていた時に、これ雨の日のトレーニングに良さそうと思いついたものである。

 

「それに、この雑巾はただの雑巾じゃないぞ」

「お、重い……おもりが入ってるんだ」

「その通り! 因みに劇中だぜ。それじゃあ行ってみよう!」

 

 こうして体育館、雑巾掛けトレーニングを実行した。

 

 そして、雑巾掛けトレーニングを終えて、トレーナー室へと戻って行った僕らはひと休憩をしていた。そういえば菊花賞の出走枠って決まったのかな?

 

「トレーナーさん、姉ちゃんの菊花賞どんな感じっすか?」

「ああ、さっき出走表をもらったんだ。一緒に見よう」

 

 おお、さてさて姉ちゃんは何処かな……。今回の菊花賞は合計で18人のウマ娘が走るんだな。そして、姉ちゃんは5番人気で2枠の4番ってことは内側部分かですか。

 

 トレーナーさん曰く、これはラッキーな位置である。理由は、この京都外回り3000mを利用するのはオープン戦の『万葉ステークス』と『菊花賞』のみ。その為、特殊と言えば特殊なコースと言えるからだ。コース形状的にはスタートからすぐにカーブがあるので内枠有利といえる。

 特に外枠で先行したいウマ娘が入ってしまうと1周目で競い合って4コーナーの下り坂を勢い良く駆け下りてしまうので折り合いを欠くシーンが目立つらしい。

 

 そして菊花賞には格言がある。三冠レースの中では「もっとも強いウマ娘が勝つ」と言われているのが今回のレースだ。

 3000mのスタミナ戦はごまかしの利かない勝負になることから、このような格言が生まれましたらしい。

 

 でも、今の姉ちゃんなら3000mだって怖くないはずだ。それに、姉ちゃんにはステイヤーだけの素質じゃなくて、他にも何か秘めてそうな気がするんだよな。

 

「そうだ、菊花賞に向けてのインタビュー会見があってな」

「か、会見ですか。いつやるんです?」

「明日の午後だ。当日の服装は普通に制服で大丈夫だ」

 

 記者会見に僕も同行しても良いかと聞いたら行っても良いそうだ。ぶっちゃけ僕は文春とかジャーナリストってそこまで好きじゃないんだよね。

 あいつらってオタクの天敵じゃん。仕事だからしょうがないとはいえ、偶には良いことすることもあるけど、人の幸せや不幸を写真で撮ってオモチャにする奴らの所に行かせるのは少々不安だ。

 

「そんじゃ、キタ。明日のインタビューよろしくな」

「はい! ちょっと緊張してきました」

「キタちゃん、リラックスして行けば大丈夫だよ」

「そうですわ。ここまでやって来たんですもの、胸を張って答えれば問題ありませんわ」

 

 テイオーさんとマックイーンさんにそう言われて、心を落ち着かせる姉ちゃん。変なこと聞かれたら僕が何か言ってやろうかな。

 

 

 

 そして会見当日の日がやって来た。会場の方を見ると、僕の大嫌いなジャーナリストがうじゃうじゃいた。

 テレビのデカいカメラとかもあるし、もしかして生中継でもするのか? ま、菊花賞は三冠レースの内のひとつだしね。

 

 会見の時間が始まり、インタビューの順番は人気順との事だったので、姉ちゃんは5番目だ。

 デュラハンテさんが出ない分、中でも注目を集めていたのは姉ちゃんと何度もレースをした2番人気のリアルスピリットさんだ。

 

「あ、あたしの出番だ。なおくん、やっぱり怖いよ〜」

「わざとらしく抱きつくなよ。ほら、行ってこい!」

「なおくんがそばにいるなら怖くないかも……」

「トレーナーさん、どうします?」

「仕方ない、お前は俺の隣に立ってれば良い」

「分かりました……それで良い?」

 

 そう聞くと、嬉しそうに瞳をキラキラとさせながらヘドバンのごとく首を縦に振る。ヘドバンは首を痛めるからやめな。

 

「次、キタサンブラックさん。お願いします!」

「はーい!」

 

 スタッフさんに呼ばれ、会見の壇上へと向かった。フラッシュが眩しくて目がチカチカ高海千歌するぜ。

 

『え〜……キタサンブラックさん、前回のセントライト記念で距離の克服をされましたが、今回の菊花賞では初めての距離である3000mに挑むます。そこでレースへの心境を一言お願いします』

 

「はい、ダービーで大敗してから色々ありました。最初は諦め掛けてたのですが、あたしの大切な人が「簡単に諦めるな」と励ましてくれました。あたしはその大切な人が信じて待つゴールに向かって、今回の菊花賞を制したいと思います」

 

 えっ、何? さっきまでガクブルってたのに、僕がここに立ってるだけで噛まずに記者の質問に答えてるんだけど。流石に変わりすぎじゃねえか。

 

『その、キタサンブラックさんの大切な人とは?』

 

「あたしの弟です。彼がいなければ、あたしはここまで来れたかどうか分かりません。このレースで弟やトレーニングに付き合ってくれて方達に恩返しが出来たらなと思っています」

 

『なるほど、素敵な弟さんですね』

『次、よろしいでしょうか?』

 

 次の質問をしようとある女性記者が手を挙げた。彼女の名は乙名史悦子。「月刊トゥインクル」という月刊雑誌の記者で、よく学園に取材に来るのを見かけたことがあるので名前は知っている。

 

『もしかしてですが、トレーナーさんの横に立っている方が弟さんですか?』

 

「はい、そうです!」

 

『それでは、弟さんに質問をしてもよろしいでしょうか?』

 

「なおくん、どうする?」

「どうするって……振られちゃったんだし、やるしかないでしょ」

「せっかくだ、行ってこい」

 

 僕は質問に答える為に、姉ちゃんからマイクを預かって前に出る。か、カメラがいっぱい……緊張する。

 

『ええ……では、弟さんに質問です。今回の菊花賞、お姉さんはズバリ! 勝てると思いますか?』

 

「コホン……そ、そうですね。絶対に勝てると僕は信じてますよ。彼女の努力は、僕が1番知ってますからね」

 

『そこまで真っ直ぐに信頼している理由を聞いてもよろしいでしょうか?』

 

「信じる家族をひたすらに応援する。僕にとっては当然のことです。これからも様々な強敵達と渡り合うことでしょう。それでも僕は、これからも姉やチームの仲間と共に、これからも成長していきたいと思っています。そのための第一歩として僕ら姉弟の夢であるGⅠ初制覇を菊花賞で成し遂げて見せます!」

 

 い、言い切ったー! 僕なんか痛いこと言ってないよね? ちゃんと話せたかな?

 

『す、素晴らしいですっ! なんという姉弟の絆でしょう。お互いに信頼できる家族同士、これからも夢に向かって突き進むその関係……なんという愛情の深さでしょうか!』

 

 そう熱く語りながら、メモ帳を出して黙々と書いて行く乙名史記者の姿に、僕らは呆然としていた。

 

『お姉さんとの夢、叶える日を楽しみにしています!』

 

「あ、ありがとうございます。そして全国に刮目させます……。菊花賞を最高の祭りにすると!」

 

 こうして、今日の姉ちゃんの記者会見は終了した。慣れないことを経験したせいか、疲れて学園に帰った僕は、姉ちゃんの膝枕で仮眠を取ることにしたのだった。

 

 

 

 ー キタ視点 ー

 

 

 

 記者会見から数日が経ち、明日はいよいよ菊花賞だ。あたしは寮のベッドで横になりながら、イメージトレーニングをしている。

 

「キタちゃん、ついに明日だね」

「うん、なおくんの為に負けられない」

「私も応援してるからね」

「ありがとう、ダイヤちゃん」

 

 あたしは起き上がって、枕元に置いてあるなおくんの写真を見る。本当にこれまで色々なことがあったなと今まで思い出を振り返るように考える。

 

「よし……ダイヤちゃん、あたしはもう寝るね」

「分かった。おやすみ」

 

 

 

 そして菊花賞当日がやって来た。あたしは控室で、久しぶりに勝負服へと着替えた。

 この服を着ると、不思議となおくんから勇気を貰っているような気がした。

 

 でもやっぱり……今のあたしには心残りなことが一つだけあった。それは、デュラさんとの決着が付けられないという事だ。

 

 でも大丈夫! たとえデュラさんが出ていなくても、あたしはちゃんと走れる! なおくんのおかげでそこは迷ったりしていない。

 

 でも……走った後、納得できるかな? これが心残りだ。

 

「姉ちゃん、来たよ〜」

「おいっすー、キタサン!」

「なおくん、それにネイチャさん!」

「どうしたの? レースまでもう直ぐなのに悩み事でもあるの?」

「よくわかったね」

「長年一緒にいるんだから、分かるよ」

 

 流石はあたしの弟だ。お互いに以心伝心してるって感じがする。

 

「よかったら、話してくれない?」

「悩みがある状態で走っても勝てないよ。アタシも力になりたいし」

「うん、実はですね……」

 

 あたしはデュラハンテさんと対決が出来ない悩みを2人に話してみると、なおくんとネイチャさんは「やっぱりか……」と息を合わせてそう言った。どうやら、あたしの気持ちを察していたみたいだった。

 

「ま、気持ちはわかるよ。アタシの菊花賞の時も、アンタの大好きなウマ娘とのレースが、ケガで出来なかったのは知ってるよね?」

「はい、もちろんです」

「ずいぶん悩んだよ。勝つのが夢だった相手が、結局間に合わなかったわけだし」

 

 そしてその時のネイチャさんは、テイオーさんが出てたらなんて言わせないって思いながら走ってたんだよね。

 

「姉ちゃん、今の姉ちゃんにはデュラさんの不在を感じさせないレースが出来るって信じてるよ。自分自身の走りを信じるんだ!」

「弟くんがこう言ってるんだよ。だから一生に一度の菊花賞。悔いだけは残さないように頑張ってね」

 

 そうだ、2人の言う通りだ。あたしはその言葉で、今回のレースで真っ直ぐに走れそうな気がした。

 

「なおくん、ありがとう。ネイチャさんもありがとうございました!」

 

 吹っ切れたあたしは、椅子から立ち上がり、レース場へと向かうために扉の前に立った。

 

「よーし! それじゃ行ってくるね!」

 

 あたしはそう言い、扉を開けて控え室を出る直前に、なおくんのほっぺにキスをしてから、急いでレース場へと向かった。

 

「お二人さん、お暑いですな〜」

「うるさいよ!」

 

「ふふっ」

 

 あたしが控室を出ると、ネイチャさんに揶揄われて恥ずかしがるなおくんの声が聞こえて、思わず笑みが溢れるあたしであった。

 

 

 

『続いて出て来たのは、5番人気。2枠4番キタサンブラックです!』

『セントライト記念で見せた素晴らしい走りに期待ですね』

 

 そして全18人のウマ娘が出揃い、それぞれがゲートへと入って行く。

 

『クラシックロードの終着点。菊花賞を制し、最強の称号を手にするのは誰だ! 各ウマ娘ゲートイン完了。出走の準備が整いました』

 

 待ちに待った菊花賞。見ててね……父さん、母さん、チームの皆、ダイヤちゃん、そして……なおくん。

 

 あたしはこのレースで、夢を掴んでみせる!

 

『今スタートしました、先ずは最初の坂超え、6番レッドグリフ、このウマ娘が飛び出して行きましたが、外から17番リアファイと18番のスピリットミズホが坂の頂上に掛かるところで、かわして上がっていって……』

 

 人数も多いし、内側ということもあり、他のウマ娘達に囲まれながらのスタートとなった。

 インコースに入って、あたしは5番手として、後ろからついて行く。模擬レースでのスカイさんとの感覚と同じだ。

 

 18番のスピリットミズホさんはずっと先頭で差をつけて逃げている。バテて来たらチャンスだ。

 

『徐々にポジションを押さえて来ました。4番キタサンブラック』

 

 2度目の坂超えだ。坂なんて今のあたしには何の問題もない! 坂を越えて体力を温存しながら、あたしはチャンスを伺いながらも、走り続ける。

 

 第4コーナー手前であたしの後ろから別のウマ娘が上がってくる。皆の気迫に押しつぶされそう。囲まれて抜け出せそうにない……このままバ郡に飲まれてしまえばお終いだ。

 

 どうしよう……あたしがいる内側は、かなり狭い。どこかに入れる場所があれば……見つけた! 内側は狭いけど、ガラ空きだ。よし! このスペースに入って一か八か……掛ける!

 

『第4コーナーから直線に入りました。最内を狙って4番のキタサンブラックが追ってくる! 狭い内から4番のキタサンブラックが追って来た!』

 

「姉ちゃーん! ぶっちぎれー!」

 

「ッ!?」

 

 なおくんの応援が聞こえてくる。あたしは、あたしの勝利を信じてくれる人達のために……この脚を全力で前に出して、掴み取るんだ。なおくんと見た夢と景色を……この脚で叶えるんだ。だから絶対に……負けられない……負けるもんか!

 

「セイヤァァァァー!」

 

『さあ内から4番キタサンブラックか! 外から11番リアルスピリット! 4番キタサンブラック、リアルスピリットゴールイン!』

 

 

 

 ー 直人視点 ー

 

 

 

『さあ内から4番キタサンブラックか! 外から11番リアルスピリット! 4番キタサンブラック、リアルスピリットゴールイン!』

 

「どっちだ……頼む!」

 

 現在、僕はチームスピカの皆とダイヤ姉ちゃん、模擬レースに協力してくれたスカイさん、トプロさん、控室で一緒だったネイチャさんと、クラスメイトの音也くんを加えた面子で姉ちゃんの菊花賞を見守っていた。

 姉ちゃんとリアルスピリットが同時にゴールしたように見えたので、後は祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

『クビ差でキタサンブラックが見事、菊花賞を制しました! 祭りだ! 淀は祭りだ! キタサン祭りだ! キタサンブラック初のGⅠ制覇! 姉弟の夢が今、実現しました!』

 

「おい、おい! 直人! お前の姉ちゃんが勝ったぞ!」

「なおくん、キタちゃんが勝ったよ!」

 

 僕は目の前の光景と実況の声、そして友達とダイヤ姉ちゃんの声を聞いてターフビジョンを見ると、1の所に4番クビ差と表示されていた。

 

「やりましたね! 直人さ……あっ! 直人さん!」

 

 僕は全てのウマ娘が走り切った場面を確認すると、無意識のうちにターフへと足を踏み入れ、全力で姉ちゃんの元へと走って行った。気がつけば姉ちゃんを抱きしめていた。

 

「な、なおくん!?」

「夢じゃ……夢じゃないんだよね……?」

 

 僕は姉ちゃんの顔を見てそう尋ねた。

 

「うん……そうだよ……」

「良かった……本当に勝ったんだ! うっ……うう……!!」

「ちょっと、なおくん。泣きすぎだよ……でも、やったよ。お姉ちゃん勝ったよ……うあぁぁぁぁん!!」

 

 大泣きし出した僕を、優しく包み込むように抱きしめた姉ちゃんも僕と同じく大泣きし始めた。

 

 今まで溜めに溜めていた感情が爆発して、お互いに嬉しさの涙を流しあっていると、会場にいる観客人たちやターフに立っていた他のウマ娘たちから、盛大な拍手と歓声が聞こえて来た。

 

 しばらく泣きあって落ち着くまでに5分くらい掛かった。途中からトレーナーさんやテイオーさんがやって来た。

 

「立派だったぞ! キタ!」

「うんうん、ボクも2人に釣られて感動しちゃったよ……。カッコよかったよ、キタちゃん!」

「トレーナーさん、テイオーさん、ありがとうございます!」

 

 この後は、ヒーローインタビューを受け、菊花賞の盾を受け取り、カメラマンさんに盾を持った様子を姉ちゃんと一緒に撮影してもらった。

 

 そしてウイングライブを終えて、ひと休憩をした後は、皆で新幹線に乗って帰ることに。

 

「姉ちゃん、今日は最高のレースだった。でも、まだここからだ。姉ちゃんは菊花賞だけじゃまだ満足してないだろ?」

「もちろんだよ。なおくん、これからもよろしくね!」

「うん……それにしても眠いな……」

「奇遇だね。あたしもなんだ……」

「マックイーンさん、着いたら起こしてくださいね」

「ええ、分かりましたわ。ゆっくりお休みください」

 

 こうして僕ら姉弟は東京駅に着くまで、仲良く仮眠をとるのであった。

 

 

 

「幸せそうな寝顔ですわね。2人とも可愛らしいです」

「そうですね。(私も早く追いつかないと……)」

 

 

 かくして菊花賞は幕を閉じ、新たなる物語が幕を開けようとしていた。

 

 





最後までお付き合いいただきありがとうございました。

菊花賞はキタサンブラックにとっては1番大事なレースですからね長く書いちゃうのも当然ってもんですよ。 

レースシーンが短く感じるかもですが、あんまり細かく書くのが難しかったので、実際の菊花賞を見て、めっちゃざっくりまとめて書きました。

だってさ、スペやテイオーの世代みたいにウマ娘として実装されてる同期達が少なすぎるんだよなぁ。
そのままトレースして書くとなんかいけない気がして、その度にオリジナルのウマ娘の名前を考えるのが辛いのよw

でもね、祭りはまだまだこれからなんですよ! 

新章もスタートさせたいと思います。次回も楽しみにしてください。

次回、菊花賞編最終話「世間に晒されちゃった」をご期待ください
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