目が覚めたらキタサンブラックの弟になった件 作:通りすがりの邪教徒
主人公は合格をつかみ取れるのか!?
それではどうぞ!
はぁ……緊張する。転科試験まであと1週間だけど、だんだん不安になって来た。
無事に合格することが出来るのか……せっかく皆が応援してくれたのに、もし落ちたらと思うとカッコ悪いよなぁ……。
「ダメだ。ネガティブに考えちゃ! 前向きにいかんと!」
姉ちゃん達に余計な心配はかけたくない。残りの一週間、自分の出来ることを精一杯やっていかなきゃ。
僕はこの日、久しぶりにオールで勉強をしまくり、気が付けば朝を迎えていた。
こんなにも長時間勉強をしたのは何だか初めてだな。それにしても眠いな……慣れないことするもんじゃないね。
「今日が休みで良かった。ちょっとだけ寝ようかな」
僕は一睡するために、ベッドに入って横になった。そういや朝ご飯食べてないけど、今は食欲よりも睡眠欲の方が買っているから、目を閉じるといつの間にか眠りについていた。
寝ている時に、僕は夢を見た。広い草原の上でキタサンと昼寝をしていた時の夢だった。
天気の良い日とか、昔はよく一緒に寝てたよな。温かくて心地よくて、いつも僕と一緒にいてくれた。
挫けそうになった時、弱気になっちゃった時もキタサンは僕のそばにいてくれた、僕の人生においてかけがいのない存在である。
それにしても本当に何かに包まれている感じで温かいな。
電気毛布みたいな何かを温める物はこのベッドには付けてないはずだが……と謎に思った僕が目を覚ますと。
「すぅ……すぅ……」
「えっ? ……は?」
姉ちゃんが僕を抱きしめて眠っていた。は? 何で隣で寝てんだ? てか、呼んでもないのに、さも当然のごとく僕の部屋にいることに驚いている。
「ね、姉ちゃん!?」
「うん……? おはよう、なおくん」
「おはよう。じゃなくて、何でいるの!?」
「なおくんに会いに行こうと思って、潤一郎さんが通してくれたんだ。部屋に入ったらなおくん寝てたから、ついお姉ちゃんも釣られて寝ちゃった……ふわぁ〜」
「そか……てか、今何時だ?」
ベッド脇に置いてたスマホで時間を確認すると、お昼になっていた。
それにしてもお腹が空いたな。何食べようか……と考えていると、姉ちゃんが僕が勉強をしていた机を見る。
「なおくん。やっぱり徹也で勉強してたんだね」
「何で分かったし」
「見れば一発で分かるよ。13年もなおくんのお姉ちゃんやってるからね!」
ふっ……何でもお見通しか。本当に敵わないな、姉のキタサンブラックには。
ここで姉ちゃんが何処かに遊びにいかないかと提案して来た。
でも勉強もしたいし、時間もないからそんな余裕が無いと言ったら。
「勉強頑張るのも良いけど、無理しすぎて身体壊すと試験どころじゃないよ。ちゃんと気分転換もしなきゃ!」
「そう……だな。そうするか!」
「そうと決まれば、早く着替えて!」
この後は、姉ちゃんに連れられてお昼ご飯を食べた後、ショッピングやカラオケなんかにも行った。
姉ちゃんのおかげで最近頑張り気味で溜まってたストレスが抜けていった気がした。姉ちゃんには感謝しかないな。
「どう? 楽しかった?」
「うん、リフレッシュ出来たよ。ありがとう」
「夜はちゃんと寝なきゃ駄目だよ? お姉ちゃんとの約束!」
「はい、分かりました。気を付けます」
「よろしい。じゃあ、おやすみ!」
「うん」
その夜、姉ちゃんの言いつけをちゃんと守って夜はゆっくり眠った。
それから僕は、トレーニングやバンド練習を休んで、転科試験に向けての勉強を姉ちゃんの言った通り無理せず、ひたすらに続けた。
昼休みに僕が図書室で勉強をしてると、ゴルシさんから学業成就のお守りを貰ったり、スズカさんが「合格しますように」と想いが込められた黄緑色のシャーペンをくれた。
またある日のお昼ご飯の時は「合格を勝ち取るために」と言う意味で、食堂の大盛りカツ丼をスペさんが持って来てくれたり、マックイーンさんが自分の大好きなメロンパフェを持って来てくれた。
あの食いしん坊なスペさんが食べ物をあげたり、甘味好きのマックイーンさんが甘いものをあげたりなど……皆どうしたんだ?
「皆、あんたが景気良く試験に臨めるようによくしてるのよ」
「スカーレットさん!」
「そうだぜ! それと、オレからはこれをやる」
「ウオッカさん、これは?」
「オレが麦茶を飲んでる時によく使ってるお気に入りのボトルだ。同じやつを直人にあげるぜ!」
「アタシからは運気の上がる消しゴムをあげるわ!」
「お2人とも、ありがとうございます。この礼、いつか返したいくらいです」
「返すらなら、ちゃんと合格を掴み取ってからにしなさい!」
「そうだぜ。じゃあ午後の授業も始まるしオレ達はこれで」
スピカの皆が優しくて今にも泣きそうな僕は、それを抑えながら午後の授業も頑張ることができた。
そして帰り道の途中。テイオーさんに誘われて、はちみードリンクを奢ってもらった。
姉ちゃんは現在トレーニング中で、テイオーさんのトレーニングはお休みらしい。
「ぷはぁ〜! やっぱり硬め濃いめは最高だね!」
「そうですね。僕もこのはちみーすっごく好きになりました」
「いよいよだね。キタちゃん心配してたよ」
「ははっ、本当に心配性だなぁ……」
多少苦笑いをしながらはちみーをちゅーちゅー吸う僕。
「あ、そうだ。直人くんが合格するように……これ貸してあげる」
「これは……手作りのお守り?」
「これはね、キタちゃんが昔ボクにくれたお守りなんだ」
「姉ちゃんが?」
これはテイオーさんが3度目の骨折から復帰した時に、小学生時代の姉ちゃんがテイオーさんにあげたものだそうだ。
実際、骨折中だった時はテイオーさんは凄く落ち気味で、つい姉ちゃんに酷いことを言ってしまった時期があったと話す。
憧れてた三冠を逃し、天皇賞・春で無敗の夢も敗れ、3度も骨折をしたとなったら流石のトウカイテイオーでも応えるよな。
僕だったらそんな悲劇の連続が襲って来たら絶対に耐えられる気がしない。
「それでもね、キタちゃんはボクのことをずっと信じて、支えようとしてくれてさ。直人くんがキタちゃんのことを想っているのを見てると、昔のキタちゃんが重なって見えたんだ。ホント、似たもの姉弟だね」
僕はテイオーさんから姉ちゃん作のお守りを手に取る。
「似たもの姉弟か……。テイオーさん、ありがとうございます」
「ボクも直人くんのこと信じてる。頑張ってね!」
テイオーさんは優しい笑顔で、僕の頭を撫でてくれた。ヤバい……好き。
「はい!」
姉ちゃん憧れのテイオーさんって、やっぱり凄いウマ娘なんだな。
「あっ、なおくん!」
「ダイヤ姉ちゃん」
テイオーさんと別れて、寮への帰路を歩いてる途中。ジャージ姿のダイヤ姉ちゃんとすれ違った。ロードワークをして来た帰りだそうだ。
「なおくん、今から帰り?」
「うん、勉強するためにね」
「そう言えば試験があるんだったね。でも、なおくんなら絶対に大丈夫だよ!」
「ダイヤ姉ちゃんも応援してくれてありがとう」
「合格したら私にもいっぱいお祝いさせてね?」
「その時はよろしく」
「うっふふ、じゃあ私は戻らないと。ばいばい!」
そう言い、ダイヤ姉ちゃんは急いで学園の方へと走っていった。
そう言えばダイヤ姉ちゃんの誕生日って今月の30日だったよな。プレゼントとか用意しないとな。
そして転科試験当日。土曜日の朝早くから僕は学園の教室へ向かった。
それにしても外は寒かった。今日は曇っていて、今でも雪が降りそうなくらい天気が悪く手が悴む。
「おや、直人くんじゃないか。こんな朝早くからどうしたんだい?」
「か、会長さん! おはようございます!」
教室に向かう途中、久しぶりにシンボリルドルフ会長と会った。会長さんはもしかしなくても生徒会の用事なのかな? 大変だなぁ。
「実は試験を受けに来まして……」
「そう言えば、今日は転科試験の日だったね。君が受けることはテイオーから聞いている」
会長さんに僕に関する情報は、テイオーさんを通じて全て筒抜けになってるな。
「おや、手が震えているな。緊張しているのかい?」
「はい……それに外が凄く寒かったので、指先めっちゃ冷たいですよ」
「……ちょっとこっちに。試験までまだ時間もある」
「は、はい」
僕は会長さんに連れられて自販機でホットの生姜チャイを奢ってくれた。生姜は体を温めてくれる効果があるからこれにしてくれたのかな?
「ありがとうございます。あったけぇ〜」
「これを飲んで頑張るんだ。未来のトレーナーくん」
そう言い、会長さんは背を向けて生徒会室方面の廊下を歩いていった。
僕は一礼をし、奢ってもらった生姜チャイを飲み干して、試験会場の教室に向かった。
いつもと変わらない教室の中には転科をするためにやって来たと生徒達がちらほらいた。
皆もこの日のために頑張って来たライバル達がいる。僕だって姉ちゃん達の想いを受け取ってここにいるんだ……。
だから、絶対に合格する。僕の未来のためにも!
「それでは初めてください!」
試験監督の合図とともにスズカさんがくれたペンを手に取り、試験用紙に向かった。
教室内にはコツコツと、ペンで文字を書く音がそこら中から聞こえてくる。
同じトレーナーを目指す者として、僕も今までの全力をぶつけよう。
僕は、テイオーさんから借りた姉ちゃんの手作りお守りの入った胸ポッケにそっと手を当てた後に、解答用紙に答えを書いていった。
「終了します。解答用紙を回収します」
試験が終了して、緊迫した教室から抜け出して学園の外を出た僕は深く深呼吸をした。
結果は結構早い段階で担任の先生を通じて僕のところに来るそうだ。
「あっ、雪だ。本当に降って来たな……。へっくしょん!」
「なおくーん!」
三女神の像あたりを歩いていると、姉ちゃんが傘を一本持って走って来た。
「姉ちゃん……」
「迎えに来たよ。どうだった?」
「う〜ん……どうだろう。自信はあるけど」
「そっか。取り敢えず、お疲れ様!」
そう言い、姉ちゃんが頭を優しく撫でて来た。この撫で撫でが僕にとって今は、最高の癒しになっている。
そのまま、相合傘をしながら僕らは一緒に学園から出た。
「ねぇ、僕は昔「姉ちゃんのトレーナーになりたい」って言ったんだよね?」
「うん」
「よくよく考えたら無理な話かも。だって合格したところで姉ちゃんの担当トレーナーになれるわけじゃないし」
夢を高らかに宣言して、試験を受けたってのに今更な悩みを姉ちゃんに話した。
この世界での昔の僕には申し訳ないけど、これが現実なんだ。
中央トレーナーのライセンスを取得したところで、姉ちゃんは引退してもう走ってないしトレーナーになる意味あるのかな? なんて考えたりもした。
「確かにそうだね。でも、ライセンスを持ってなくても、なおくんはあたしにとっての最高のトレーナーだって思ってるよ。もちろんチームのトレーナーさんも……。専属になれないのが分かっても、なおくんは将来トレーナーになるって夢は捨てないんでしょ?」
「もちろんだ。今はまだトレーナーじゃなくても、姉ちゃんをこれからも……GⅠレースをたくさん制覇した、凄いウマ娘にしたいんだ。姉ちゃんの専属じゃなくても、これからもずっと姉ちゃんを支えて行きたい!」
「だったらこれからも、お姉ちゃんと一緒に……夢に向かって頑張ろうよ。例えそれが、どんなに険しい道でも」
「うん! トレーナーにもなる夢も叶えるし、姉ちゃんと一緒にこれからも頑張りたい。約束だ!」
姉ちゃんと話して、自分の中で改めて決着が付いた。僕は変わらず、トレーナーになる事を夢を捨てずに頑張るんだと。
「合格してるといいなぁ」
「そうだね。でも、なおくんなら大丈夫だよ!」
やっぱり、何事も結果が出るまで不安である。
そして試験から数日が経ち、放課後に先生から呼ばれて封筒を渡された。
中身には転科試験の結果が入った用紙が入っていたので、僕は中身を確認した。
ー キタ視点 ー
あたしは今、スピカの部屋でジャージに着替え終わり外に出ると、なおくんがあたしを見つけた瞬間思いっきり走って抱きしめて来た。
「な、なおくん!?」
この出来事に衝撃を受けたあたし。いつもは自分からしてこないのに急にどうしたんだろう……。
もしかして、この前の試験に落ちちゃってお姉ちゃんの愛で慰めて欲しいとか? いや、そんな事はないでしょ。
「なおくん。どうしたの?」
「やったよ……」
「えっ? じゃあ!」
「姉ちゃん、僕……合格したよ!」
そう言い、顔を上げたなおくんの片手には、転科試験合格と書かれた紙が握られていた。
その文字を見た瞬間、あたしは嬉しさの余り涙が出てしまった。
「良かった……。なおくん、よく頑張ったね!」
「うん……。姉ちゃん、ありがとう!」
あたしが大切な弟の頭を優しく撫でると、トレーナーさんがやって来た。
「直人。やったんだってな! お前の先生から聞いたぜ?」
「トレーナーさん……。僕、これからももっと頑張ります! その為に、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします!」
「よっしゃ! この前も言った通り、この俺がお前を立派なトレーナーになれるように精一杯手伝うぜ!」
「はい! ありがとうございます!」
あたしもお姉ちゃんとして、夢に向かって頑張る弟を……なおくんの手助けをしなくちゃ。
これからも頼りにしているよ。あたしの専属トレーナーくん。
その後、スピカの皆になおくんの試験で合格したことを伝えたら、ゴルシさんが前に言った通り、チームの皆なおくんを胴上げした。
と、言うことで主人公。第一関門突破! これからもどんどん成長させて行きます。
たしかに、今からトレーナーを目指してもキタちゃんのトレーナーになれないって言う夢は叶わない。
どう考えても叶わない夢って子供の頃は誰しも言っている事ですよね。
次回はサトノダイヤモンドの3戦目であるきさらぎ賞のお話を書きたいと思います。
次回もお楽しみに!