目が覚めたらキタサンブラックの弟になった件   作:通りすがりの邪教徒

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キタちゃん、天皇賞に向けて大特訓だ!

それではどうぞ!


第七十九話:強化合宿スタート

 

 

 今日のトレーニングはお休み。ハードトレーニングについての事で、僕はトレーナー室へと連れられて、トレーナーさんと話し合いをすることになった。

 

 姉ちゃんには先に寮へと戻ってもらい、ハードトレーニングについての今後の予定は決まったら直ぐ連絡することになったのだ。

 

 それにしても、トレーナーさんはハードトレーニングにはあまり賛成していなかったけど、なんでなんだろう?

 

「実を言うとな、ハードトレーニングは俺の専門外なんだ」

「って、あれ? でも普通にハードメニュー組んでる日もありますよね?」

 

 うちのチームの方針は自主性を重んじる一方、必要とあればハードなメニューを組んでレースに向けてきっちり調整してくれているけど…….。

 

「キタサンみたいに、予定にないハードトレーニングを望まれると正直賛成しかねなかったんだ。それに、あれ以上のハードトレーニングはな……付け焼き刃で稽古を付けるわけにはいかないんだ」

 

 そう言うことか……。じゃあ、どうすれば良いんですか? と聞くと、ハードトレーニングの指導を得意としているトレーナーさんの所に相談するとのことだった。

 

「今からそのトレーナーの所に行く。お前も来るか?」

「どんな人なのか気になるので、お供させてください!」

「よし、行くぞ!」

 

 そう言われて着いて来て到着したのは、別のトレーナー室であった。

 ノックをして中に入ると、物凄くガタイのいい筋肉質な体に、サングラスや帽子に顎髭といかにもコワモテな見た目をしている人がいた。

 

「ん? 沖野じゃねえか。それと隣にいるガキは誰だ?」

「コイツはトレーナー志望で、うちのチームで勉強しているんですよ」

「トレーナー志望か……ん? そういやお前何処かで……思い出した! 去年の雑誌に載っていたキタサンブラックの弟か!」

「それで思い出して欲しくなかったな……。そうです、キタサンブラックの弟。北島直人って言います。よろしくお願いします!」

「黒沼だ。よろしくな」

 

 黒沼さんか……確かに、見た目からしてスパルタ指導しそうなトレーナーさんだな。

 この人が担当しているウマ娘は、いったいどんなウマ娘なんだろう。

 

「失礼します。マスター」

「ぶ、ブルボンさん!?」

「なんだブルボン。コイツと知り合いか?」

「はい、私の良き友人です」

 

 まさかの担当がブルボンさん!? と言ってもそんな驚くことではないと思った。

 ブルボンさんことミホノブルボンは、本来ならスプリンターとしての適性を持っていて三冠は困難と言われていた。

 だが、厳しいトレーニングを耐えきり、中距離や長距離を走り抜くことができるスタミナとパワーを獲得したと言う記実を本で読んだことがある。

 

「それで、何用だ?」

 

 取り敢えず、本題に入る事にした。僕はハードトレーニングについての相談を黒沼さんに話した。

 

「成程な……話は分かった。それで、ハードトレーニングはお前も着いていくのか?」

「そのつもりですが?」

「トレーナー学科に入って早々、1ヶ月も授業に出ないで姉のトレーニングに付き添いとは……いい度胸してるな」

 

 そうだった。姉ちゃんの事ばっかで学園のことすっかり忘れていた。

 

「あ〜……それは……」

「それだったら、俺がお前の先生に話をつけてくる。安心してキタサンのサポートを今まで通り変わらずしてやってくれないか? 俺も着いてるからよ!」

「トレーナーさん……」

 

 今の僕じゃ、まだ姉ちゃんの役に立つかなんて分かったもんじゃない。

 それでも僕は、姉ちゃんに『天皇賞・春』で勝たせてあげたい。姉ちゃんの夢をこれからも全力で応援したい。皆に夢や希望を与えられるようなウマ娘になって欲しい。

 

「姉弟で支え合って最後まで頑張るんだろ?」

「そう……でしたね。今更悩む事じゃなかったな……はい! 姉ちゃんのサポート最後までやります!」

「その粋だ! それじゃ、ハードトレーニングの打ち合わせをするぞ!」

 

 こうして僕らは姉ちゃんの天皇賞・春に向けてのハードトレーニングの打ち合わせをする事になった。

 

 

 

 

 

 ー キタ視点 ー

 

 

 

 

 

 寮に帰宅し、夕食やお風呂などを済ませたあたしは、部屋で大きめのリュックに大量のバナナを詰めていた。

 なおくんから連絡が入り、明日から強化合宿をするので早起きするようにと言われたので、その準備をしている最中だ。

 

「うんしょっと! よし、これで準備万端かな?」

「その大きいリュックに入ってる大量のバナナはなに? お出掛けにでも行くの?」

「ああ、これ? 『天皇賞・春』に向けて、強化合宿なんだ。レースまでだから1ヶ月くらい留守にするけど」

「その合宿ってなおくんも行くの?」

「えっ? そうだけど?」

 

 あたしがダイヤちゃんの質問に対してそう答えると、ダイヤちゃんの表情が青ざめ、シュンと耳が垂れた。

 どうしたのかな? 別になおくんが一緒でもあたしには何の問題もない……あっ! そうか。

 

「皐月賞の事でしょ? なおくんにも見て欲しいって言ってたもんね」

 

 あたしもダイヤちゃんの応援に行きたかった。でもなおくんからは、中山レース場から遠い山の中でトレーニングするって聞いたし、一瞬帰って行くのは場所的にも無理そうだと言っていた。

 

「それもあるよ。でも私にとって大問題なのは、なおくんに1ヶ月も会えない事なの!」

「なんだ〜そんな事か〜」

「そんな……事? 私はなおくんに毎朝「おはよう」って言われるだけでも元気が出て、今日も頑張ろうって思うの! それが1ヶ月も出来ないなんて、私に死ねって言ってる様なものだよ!?」

「そんな大袈裟な。でも、去年の夏合宿の時は我慢できてたじゃん!」

「あの時は、なおくんの部屋からこっそり持って来た服とかで匂いを摂取したり、幼い頃のなおくんの写真を見て何とか耐えたの。本物に会いたくてずっとウズウズしてたんだから」

 

 やっぱりあたしの大親友はめちゃくちゃクレイジーでした。

 

 かく言うあたしも、トレセンに入ってからは、なおくんに会えない寂しさを埋めるためにダイヤちゃんと同じ事をしていたから気持ちは痛いほど分かる。

 

 でも、ダイヤちゃんには申し訳ないけど、あたしの真面目な気持ちをぶつけて納得してもらうしかない。

 

「ダイヤちゃん。あたし、なおくんの笑顔のために勝ちたい。1ヶ月も会えなくて寂しい気持ちは分かるよ。でも今回の強化合宿は、なおくんがあたしのためにトレーナーさんに必死にお願いしてくれたんだ。だから、その気持ちに応えてあげたい」

「キタちゃん……」

「それになおくん「ダイヤ姉ちゃんのレースを現地で見れないのは残念だけど、画面越しでも応援してるよ。皐月賞、絶対に勝ってね!」って言ってたよ!」

 

 なおくんからの連絡の中で喋っていた伝言を添えて言うと、ダイヤちゃんは表情を明るくして笑顔になってくれた。

 落ち込んで垂れていた耳も元気にピンっと立ったのを見て一安心した。

 

「なおくんが……そうだね。皐月賞で負けたのがなおくんに会えなくて落ち込んでたからなんて言えないよね……分かった。私もなおくんの想いに応えてみせる! お互い頑張ろうね!」

「うん!」

 

 これであたしは安心して、強化合宿に臨むことができる。

 

「あっ、そうだ。このブローチ、私だと思って持ってて? 『皐月賞』、絶対に勝つから!」

「ありがとう、ダイヤちゃん。じゃあ、あたしからは蹄鉄と……」

「お、重い……」

「それと、なおくんがプレゼントしてくれたブレスレット。これはなおくんだと思って持ってて?」

「分かった。大事に預かっておくね」

 

 こうしてあたし達は明日に向けて眠る事にした。強化合宿楽しみだけど、朝5時に起きれるか心配だなぁ。

 

「う〜ん……もう食べられないよ〜……う、う〜ん……」

 

 目を閉じてからしばらくして、あたしは意識を取り戻した。

 部屋の中のはずなのに、なんだか鳥の囀りがハッキリと聞こえてくる。目を開けると、まだ僅かに明るい空が見えた。

 

「おはよう。姉ちゃん」

「う、う〜ん……?」

「やっと起きましたか、キタさん」

「へっ!?」

 

 寝相を変えると、後ろにはなおくんとブルボンさんが腕組みをして仁王立ちしていた。

 外にいると言うことは分かったけど……状況が掴めず、慌てて身体を起こしたあたしは、辺りを見渡した。

 

「うえぇぇぇぇえ〜〜!?」

 

 見渡す限り、周りは山に囲まれている。廃校舎のような建物もあって、あたしはいったい何処に連れてこられたのだろうか。

 

「なおくん、ここって!?」

「強化合宿に使う場所だよ。あ、ブルボンさんは特別コーチとして来てくれたんだ」

「そうなんですか?」

「はい。泣かれようが喚かれようが、頼まれたからには手は抜きません。よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします!」

 

 そしてしばらくすると、トレーナーさんも合流でやって来た。

 そしてもう1人のウマ娘。ライスシャワーさんが強化合宿のご飯係のお手伝いとして来てくれた。

 

「ライスだよ。美味しいご飯は任せて!」

「トレーニング面もご飯面は僕も手伝うつもりだよ。僕も心を鬼にして、姉ちゃんをサポートするぞ!」

「うん! よろしくね、なおくん!」

「ハードな毎日になるが、頑張れよ。キタサン!」

「は、はい! 頑張ります!」

 

 こうしてあたしの、『天皇賞・春』に向けての強化合宿が始まった。

 

 この合宿であたしはもっと強くなるんだ!

 

 

 強化合宿初日。太陽が昇り切って良い天気になった今日は、最高のトレーニング日和である。

 

 ブルボンさんは、今日からやる『キタサンブラックRX計画』トレーニング内容を記載したノートをあたしに渡して来た。

 

 内容は山道ダッシュ4本、巨大タイヤ引きダッシュ10本、インターバル走1000mを10本、瓦割り100枚、崖登り10本といったトレーニング内容になっている。普通のウマ娘からしたら地獄のようなメニューだと思う。

 

「今回の合宿の目標は、このメニューを3時間以内にこなせる様になることです」

「3時間か……」

「出来る物なんですか?」

「最初は倍くらい掛かるでしょう。でも理論上不可能ではありません。よって出来ます!」

「あっ……」

「それでは、位置について」

「も、もう!?」

「スタート!」

 

 あたしはブルボンさんの合図で、山道に向かって全力でダッシュをした。

 

 

 

 

 ー 直人視点 ー

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉお!!」

 

 姉ちゃんが山道へ向かって行くのを見送ると、ブルボンさんから姉ちゃんの後に着いていくアイテムを貰った。

 

「これはセグウェイですか?」

「はい。私は瓦割りなど、他のトレーニングの準備をしますので、直人さんがキタさんに着いてあげてください」

「でも、セグウェイって16歳からですよね? 僕が乗ると法律違反になるんじゃ……」

「これは中学生でも乗れるやつです。テイオーさんも骨折した時期に乗っていたので問題ありません」

 

 それで良いのか。でも、公共の道じゃないし別に大丈夫っちゃ大丈夫なのか? そこら辺は知識不足だから否めないけど、細かいことは気にしてられない。

 

「くれぐれも斜面には気をつけてください。何かあれば私やトレーナーさんに連絡する様に」

「行ってこい、直人。お前もトレーナーを目指すための成長として、ちょうど良いか機会だからな!」

「分かりました。僕、行って来ます!」

 

 ヘルメットを被り、電源を付けて、僕は姉ちゃんの走った後を追いかける事になった。

 

「いってらっしゃ〜い!」

 

 ライスさんの声が聞こえたので、後ろは振り返らず片手でサムズアップをした。よそ見して前を見ないと転んじゃうからな。

 

 ガタつく山道を全速力で走っていると、姉ちゃんの背中が見えて来た。

 僕は今回、甘え無しのスパルタ指導をする事にした。嫌われても構わない、厳しい言葉をどんどん姉ちゃんに投げるつもりだ。

 

「はぁはぁ……うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 山の中に響く姉ちゃんの気合いの入った叫び声と共に走る姉ちゃん。

 

「ペースが落ちてるぞ!」

「は、はい!(いつもの優しいなおくんよりも、すごく厳しい。それ程本気で来てくれるんだね)」

 

 地面はガタガタしてて傾斜が一定じゃないのは、セグウェイを通して伝わってくる。

 いつもの販路トレーニングよりも足への負荷が普段よりも段違いなのは想定済みだ。

 

 『天皇賞・春』の長距離戦という大まかなレイアウトは芝3000mと同じだが、そのぶん最初の3コーナーまで距離が延びて先行争いにはゆとりができるが、3コーナー付近の上り下りを丸々2回走ることになる。

 この不安定な山道ダッシュで、きっと鍛えられる筈だ。

 

「だいぶ良い感じだ! そのペースを乱すなよ!」

「分かった! うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 そうして数十分が経過して、山道ダッシュ10本が終了した。

 

 次に行うのは巨大タイヤ引き10本。タイヤは夏合宿の時よりも重い設定にしてある。この前人助けした時に引きずった軽トラよりも重くなっている。よって、身体全体の筋肉を使わないと、巨大タイヤは微動だにしないだろう。

 

「ぐぎぎぎぎ……ふんにゅ〜!(お、重い。重心落として力込めないと全然進まない)」

 

 このタイヤ引きトレーニングでかなりの時間を費やしてしまった。ここまではブルボンさんも計算内である。

 

 そして次は、広い校庭の様なところで、インターバル走1000mを10本だ。

 前のトレーニングの疲れが来ているのか、フォームが崩れている。

 

「フォームが崩れていますよ!」

「はい!」

 

 ここまで昼の休憩を除いても、時間的には3時間を余裕で超えていた。

 

 次は瓦割り100枚。ぶっちゃけこの瓦割りは何の意味があるのだろうか? レースに大事な事なら分かるが。

 

「腕を含む上半身が安定しなければ、風の抵抗が強くなったり、足の推進力が逃げたりするので、鍛える必要性は大いにあるからです」

 

 成る程な。でも、それって瓦割りじゃなくても良いのでは? という突っ込みは面倒だからしない様にした。

 

「セイヤ〜〜!!」

「息が乱れています!」

「押忍っ! はあぁぁ〜!!」

 

 姉ちゃんが思い切りのぐーぱんを振り落とし、次々と割れて行く瓦。少しづつ枚数を増やしていく。

 

「ていやっ……いっつ〜〜!!」

「う〜わっ、痛そう……」

 

 瓦割りも終わり、次で最後。崖登り10本の時間だ。命綱を腰に着けて、険しい崖を登っては降り、登っては降りの繰り返し。

 集中力を切らさずにルートを探し、状況判断を素早く掴むのが崖登りトレーニングの肝もなっている。

 

「うわあぁぁぁぁ〜〜!!」

「あっ、姉ちゃん! ほっ……」

 

 足を掛けていた岩が崩れて、真っ逆さまに落ちていった。命綱があるとは言え、見ているこっちはヒヤヒヤする。

 

「はぁはぁ……何とか登り切った……。タイムは!?」

「6時間だ」

「計算どうりですね」

「うぅ〜……」

「姉ちゃん、まだ始まったばかりだ。まだ時間もたっぷりあるし、それまでには3時間以内にこなせるようにしようぜ!」

「う、うん! あっ……お腹空いちゃった……」

 

 姉ちゃんからお腹の鳴る音が聞こえて来た。めっちゃ動いたし、お腹が空くのは当然だな。

 

「ひとまず食事にしましょうか」

 

 こうして僕は、疲れた姉ちゃんをおんぶして、皆で廃校舎へと戻る事になった。

 

 今日は一生懸命頑張ってたからな。美味しいご飯食べて明日からもまた頑張って欲しい。

 

 





キタちゃんにとっても直人くんにとっても、成長に繋がるんじゃないかなと思って、第4話のトレーニング回をモチーフに活用させていただきました。

アニメで大まかにカットされたであろうサトノダイヤモンドの皐月賞は詳しく書いていくつもりなのでお楽しみに。

それでは、また次回お会いしましょう!
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