【完結】ユーディー(偽)のアトリエ──アーウィンタールの錬金術士(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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プロローグ
ボッチ・ザ・アルケミストは如何にして異世界に到ったのか


 

「今日は合同のアンデッド狩りだけあって盛況(せいきょう)だな」

 

宿屋『歌う林檎亭』のカウンターロビー……というより、今や “ 工房 ” への注文受付と化している……を見やりながら、ヘッケランは(つぶや)いた。

 

 

定期的にカッツェ平野で行われるアンデッド狩りに向け、ワーカーや冒険者達が “ 目的の品 ” を仕入れに(にぎ)わっている。

 

 

“ 彼女 ” のアイテムは独創的だが(おどろ)くべき性能を(ほこ)る。

 

もはや冒険者やワーカーにとって、無くてはならないものであり、他国の組合からも発注が来ていた。

 

 

それは帝国軍にとっても同じ事。

 

『鮮血帝』ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、冒険者組合以外のルートで “ 彼女 ” のアイテムが流出、拡散しないよう目を光らせている。

 

 

多方面に影響を(およ)ぼし、特に『荒事(あらごと)』に関わる業界では知らぬ者はモグリだとさえ言われる、超一流の錬金術士。

 

 

──ただし、

 

 

突然、ロビーに(ひび)き渡る轟音(ごうおん)

 

それを受けビクッとなるものの、多くの者は()れていて『あー、やっちまったな……』という表情で落ち着いている。

 

カウンターにいた宿の店主が「ちょいと失礼しますよ」と引っ込み、階段を登って行くと……

 

 

「──こぉらぁっっ!! ユーディー!! 爆発だけは勘弁(かんべん)してくれっていつも言ってるだろ!!! また家賃に上乗せしとくからな!!!

 

 

「──ごめんなさぁぁぁい!!!

 

 

“ 彼女 ” ユーディット・フォルトーネの日常は(さわ)がしい。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

DMMO-RPG『ユグドラシル』

 

700種類にもなる豊富な種族、2000を超える職業クラスによる無数の組み合わせで、意図的を除いて同じキャラクターはほぼ作れないだけのデータ量。

 

そして6000を超える魔法の数々……

 

『無限の楽しみ方』

『圧倒的な自由度』

『何にでもなれる』

 

 

「……っていうから始めてみたのに、半年でサ終とか、ないわー」

 

私、ユーディット・フォルトーネ──愛称『ユーディー』は作業机に頬杖(ほおづえ)()いて蒸留器を(なが)めながら、ふと呟く。

 

 

ここは初心者向けの貸し拠点、通称『コンテナハウス』

内装は……まぁ、実用本位よね。

 

典型的なファンタジー風で、ベッドが一つ、本棚に魔導書やレシピ本が並び、机には錬金術の道具が一通り。

 

窓もあるけど、見えているのは本当の街の景色じゃない。

 

集合住宅『コンテナハウス』の真ん中あたりだからねぇ。

 

 

──そう、12年にもなるユグドラシルの歴史は終わろうとしていた。

 

……12年も続いてたんなら、あと1年くらい()たせなさいよね。

 

私が始めた途端(とたん)にサービス終了って……

 

 

(以下ユーディーさんの愚痴(ぐち)につき読み飛ばし可)

 

「だいたいさぁ、確かに『何にでもなれる』よ? おかげでユーディーにもなれた。けどさぁ、最初に明かされてないってだけで、作れるものは決まってるじゃん? 下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)でしかない。他の効果が付与(ふよ)された下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)なんてないし、カンストプレイヤーのHPから見ても使う価値が出るほどの高回復率下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)は作れない。素材だって組み合わせは決まってる。錬金術ゲー大好きな私としては、正直物足りないのよねー。ただまぁ『なら何で続けてたの?』って言えば、居心地は良かったのよね。初期型DMMOの良し悪しっていうか、確かに自由度は高かった。できる事が多い分、没入感も『まぁまぁ』だし楽しめるシーンが多かった……そう、何にでもなれる、けど、何でも(・・・)はできない。深い部分、細かい部分ではシステムの作り込みが『浅い』……中期の作品は逆に『こだわり』強すぎて結果ビミョーだったりしたのもユグドラシルが長く評価された理由かもね。で、色々な反省点を踏まえて作られた今の作品は、世界観や『ゲーム内で扱う分野、領域』を限定する事で最初からユーザーを絞り、自由度と『こだわり』のバランスを両立させて没入感を確保した。もちろん私も遊んでた作品はあった……けど、そもそも『錬金術』っていう分野そのものがマイナーなのか、すぐ遊び尽くしちゃったのよね……だから古い作品で面白そうなのないかなぁって掘り起こしたのがユグドラシル……だったんだけど、

ねぇ?

 

死んだ魚の目でブツクサ言いながら、部屋の中央を占領する巨大な『錬金釜』の(ふち)()でる。

 

これのフレーバーテキストには、こう書かれている。

 

 

“ グラムナートにいた頃は使っていた錬金術の釜。ユグドラシルでは世界の法則が違うので使えなくなったが、本来なら今でも現役の品 ”

 

 

……本当に使えるわけじゃない。インテリアとして作っただけの『置き物』にすぎない。

 

「私が欲しかった『自由度』は膨大な種類の素材、無限とも思える組み合わせ、レシピの自由度……物足りなさから熱意も減衰(げんすい)、協力する仲間もなし、だから経験値も貯まらなくて(いま)だにレベルは40程度。そしてサ終……」

 

アバターのフレーバーテキストにも色々と書き込んでる。

 

 

“ 16歳。グラムナートの天才錬金術()。 実験中の爆発で、気が付けばユグドラシル世界にいた。天涯孤独(てんがいこどく)ながら楽天的なため『帰る理由も特にない』と、ユグドラシルの錬金術士として再スタート。法則の違うユグドラシル錬金術に四苦八苦している ”

 

 

『四苦八苦』あはは、草。

 

間違ってはいない。

 

 

サービス開始当初こそ未知な部分が多かったユグドラシルも、今ではwikiなどで調べられる情報も多い。

 

例え半年程度とはいえ、それまでにカンストまで辿(たど)り着く事も不可能ではなかったはず。

 

 

どうせ最終日だからと、追加でバカな事を書き込んだ。

 

「“ 本来の錬金術を使えば獲得経験値は倍になる ” っと。あはは。そうなのよ。まだ本気出してないだけー」

 

 

蒸留が終わり、取り上げたビーカーから丸型フラスコに液体を移し、アイテムボックスから試験管に用意しておいた抽出液(ちゅうしゅつえき)を取り出す。

 

「……っていうか

 

試験管からフラスコに抽出液を加え、

 

ボッチの何が悪いのよー!!

 

空になった試験管を床に叩き付けた。

 

パリン。

 

 

ユグドラシルにおける錬金術()とは、自作のデバフ毒を投げ付けバフのポーションを飲んで殴りに行くスタイルしかなく、錬金術師レベルは調合や採取でしか上がらず、一人プレイでは思うようにレベルを上げられない。

 

錬金術師で習得できる魔法も、ぶっちゃけ戦闘向きではないのだ。

 

よって協力プレイが『前提』……錬金術師はパトロンありき、だなんて変なとこでリアルにしなくていいってのよ!

 

 

「てか先住プレイヤーも少しくらい相手してくれたっていいじゃないのよ! 今更の新規プレイヤーだからって冷やかしだと思ってんじゃないわよ! キャラロールに付き合いきれない?! そんなだから30でも彼氏いないって?! 放っときなさいよー!!!

 

いやそんな事は誰も言ってない。

 

言ってないけどそんな風に感じるの!!

 

地団駄(じだんだ)を踏む。

 

床から『0』『0』『0』とダメージ表示がポップし続ける。

 

……自分の言葉や行動に、つい虚勢(きょせい)()った。

 

「いや違うから! 『いない』んじゃなくて『つくらない』だけだから! なんて言うか、アレよアレ、こんな社会で私くらい人を見る目あると二次元の女の子にしか興味なくなるっていうか違ぁぁう!!!

 

頭を抱えて()()りブリッジ状態で(さけ)んだ。

 

「問題はソコじゃないのよ! すっかり独り言がクセ付いちゃってるし! 『ユーディー』こんなキャラじゃないのよ! 冷笑的にゲーム批評したりしない!! もっとポヤヤンとしててみんなを笑顔 (苦笑い含む) にするようなキャラなの!!! 私が思ったような錬金術ができない、『ユーディー』ロールをやりきれないのが悪い! ボッチが! ユグドラシルのシステムが! 積極的になれない貧困生活が! 社会が悪いのよクソがー!!

 

なんかもうわけかわらん深夜テンションで荒ぶるままにフラスコを振りまくる。

 

それが悪かったのかフラスコにポップする文字。

 

 

famble(失敗)

 

 

「あ、ヤバ」

 

ピカッてドン

 

そして気にもしてなかったけど、

 

 

“ 00:00:00 ”

 

 

「……ケホケホ……いったたた、失敗しちゃ……て、待って。何で()き込んだの私。オマケに『痛い』って……」

 

 

尻餅(しりもち)をついた姿勢で目を見開くと……吹き飛んだ窓や扉、ボロボロになった壁、外には見慣れない草原の景色。青空きれい……

 

 

「……どこ? ここ」

 

私の『第二の人生』が始まったのだった。

 





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