【完結】ユーディー(偽)のアトリエ──アーウィンタールの錬金術士(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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最初、アルシェを内心で『ちゃん付け』してるのはユーディーさんの中身が『まだ』30代だからです一応。



アトリエ探しと甦るチカラ

 

「……んん……んむぅ……むぁ? 寝てた?……てか、ここどこ?」

 

何か目を覚ましたら見知らぬ部屋でベッドに寝てたあたし。

 

どこ?

 

 

確か……魔法詠唱者(マジックキャスター)の女の子を助けて、アンデッドと戦って……

 

「あの子、大丈夫だと思うけど……」

 

 

取りあえず部屋を出てみよう。

 

見れば自分は、誰かのを貸してもらったのか簡素な部屋着姿。

 

胸の辺りが窮屈(きゅうくつ)……あ、ごめんなさいあたし『ユーディー』になっちゃったんです悪気はないんです。

 

リアルでの『自分のサイズ』がアレだったんで気持ちは分かる。

 

後で会っても余計な事は言うまい……

 

 

枕元に(たた)んであった自分の服に着替え、帽子とか杖とかポシェットもバッチリ。

 

ドアから出ると廊下で、突き当りに下りの階段。

 

窓からの景色で分かってたけど2階だか3階だからしい。

 

階下に降りると中世ヨーロッパ風ファンタジーな酒場っぽいホール……食堂? 奥の方にカウンターみたいなのも見えて、つまり宿屋かなぁ。

 

 

「お、気が付いたか!」

 

 

声の方向に目を向けると、

 

「あの時の!」

 

冒険者っぽい人たち。

 

 

「倒れられて心配していました」と神官っぽい人。ロバーさん、でしたっけ?

 

 

「ウチのかわいい妹分を助けてくれて、ありがとね?……え、と、何かすごい効き目のポーション使ってくれちゃったみたいだけど、そのぅ……」と()きづらそうなレンジャー風の……エルフかなぁ……の、確かイミーナさん。

 

 

「いや、ウチのメンバーが助けてもらったんだ、正直に言ってくれて良い。いくら位のヤツだったんだ?」と、確か双剣士の……うーん……ヘッケランさん?……覚悟で悲壮な表情。

 

 

「……ぁ、あの! たす、助けてくれて、ありがとうございました!」だいぶテンパった様子で頭を下げる魔法詠唱者(マジックキャスター)の、アルシェちゃんだっけ?

 

ドジ踏んだのが恥ずかしいのだろう、顔が少し赤い。かわいい。

 

 

「い、いやいやお礼なんて! 実際ヤバかったんだし、あたしも倒れたのを運んでもらったし……それに実は私も困っ」

 

……グゥゥゥゥゥッ……

 

「……ぁ」

 

今鳴らなくっても良いでしょあたしのお腹!?!!

 

 

その後は顔を真っ赤にしたあたしがテーブルまで引っ張られて「好きなだけ頼んでくれ」って下にも置かないおもてなし……

 

めっちゃ美味しかった!!!(泣)

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「……と言う経緯があったんで、お礼とかいいから、あのポーションの事は秘密にしてもらえたらなぁ、って」

 

 

『実験に失敗して遠い異国の地に放り出された天涯孤独(てんがいこどく)な錬金術士』という設定……いや原作ユーディーまんまだけど……にして『この辺の常識も知らないし、変に目を付けられたら困るから』と説明した。

 

 

あの戦いの後、移動は馬車だったらしいけど、移動中も含めて丸4日は寝てたみたい。

 

……我ながら丈夫だ。休眠状態だったんだろうし、レベル40じゃない『普通の人間』でも水も食べ物もなしで2〜7日くらい持つとは聞くけど……まぁ干し肉2、3枚は食べたけど……

 

 

何でも彼らワーカー……フリーの冒険者らしい……は、カッツェ平野のアンデッド討伐 (そういう事情だったようだ) へ行く際、依頼主であるバハルス帝国の経費節約のため『弾丸ツアー』的に運ばれるらしい。

 

ここは帝都アーウィンタールの宿屋『歌う林檎亭』なんだそうだけど、主戦力の帝国軍は、まだのんびり行軍してるようだ。

 

 

帝国軍の行軍には商売人から商売女まで全部付いてくるみたいだけど、冒険者やワーカーには一切なし。

 

補給は全部『自前』で馬を休ませるための(・・・・・・・・・)野営が一回あり、途中は都市に1ヵ所寄れるだけで制限時間も厳しい、代わりに報酬は良いのだとか。

 

『主戦力より先回りで到着しておけ、終わったらさっさと帰って余計な出費をさせるな』という感じなのだろう。

 

 

そんなキツイ中で運んでくれたというのだから頭が上がらない。今だって疲れが抜けきってないだろうに。

 

だいたい空腹や睡眠不足のペナルティを忘れて勝手にブッ倒れたのはあたしだ。

 

 

ってわけで『お礼というならお金より情報とかの手助けがほしい』みたいな感じに合意できた。

 

赤字は……まぁ……うん……仕方ない……

 

これから取り戻す!

 

アルシェちゃんも助けられたし!

 

フォーサイトの皆さんも『その方が助かる』みたいだから、めでたしめでたし!

 

『ユーディー』ならウジウジしない!

 

 

「……は、いいんだけど、これからどうしよ……」

 

つい、遠い目をしてボヤいてしまう。

 

 

「材料とか、色々違うんですよね」

 

アルシェちゃんが気遣(きづか)わしげに確認してくる。

 

 

「レシピって秘伝だったりするんでしょ? 教えてもらうかレシピ手に入れないと初心者からやり直しみたいなもんじゃん」

 

「あー、考えてみりゃそうだよな。きっつ」

 

イミーナさんとヘッケランさんも心配してくれる。

 

 

「手持ちで作れるアイテムは特殊すぎて下手に売れず、材料の補充もできない、というのは厳しいですね……」

 

そう、ロバーさんの言う通り。

 

 

「うーん、まずは『こっち』の素材を調べまくるしかない、かなぁ……」

 

 

それはそうと、あたしは気になった事をアルシェに言った。

 

「あ、あと(アバター的には)そんなに歳離れてないし、敬語とかいいよ。あたしもアルシェって呼ばせて?」

 

 

何か少し『一歩引いた』感じなのよね。

 

空元気も元気のうち、と、調子に乗った提案。

 

これが若さか(取り戻した若さに浸りたい)

 

 

「ぇ……で、でも……いいの?」

 

 

助けられた事を引け目に感じてるのか遠慮がちね。

 

でもアルシェちゃんには是非とも『ユーディー』ロールに協力してもらいたい。

 

何故ならユーディーの親友は『貴族の令嬢ラステル』だから!

 

何となくお嬢様な空気を感じるのよね。

 

 

いやまぁ単なる思い込みだけど。

 

ワーカーやってるくらいだし、あり得ないのは分かってる。

 

けど現実的に考えて友達になれる貴族令嬢とか……うーん、多分いないでしょ。

 

だからノリよ! ノリ!!

 

 

「うん!……それに、ついで言うと魔法詠唱者(マジックキャスター)としてお知恵を貸してもらえたらなぁ、なんて、あははは……」

 

……うん、恥ずかしながら打算も込みである。

 

 

だけど、そんな情けないあたしの申し出にアルシェちゃんは

 

「もちろん! ぁ……私も、力になれたら嬉しいし、色々話してみたいと思ってた」

 

 

おぉぅ、意外なほどの食い付き。

 

だから、つい悪ノリを重ねてしまう。

 

 

「じゃあ友達だね! よろしく!」

 

 

「ともだち……うん、よろしく」

 

 

……アルシェちゃんの控え目な笑顔で実感した。

 

あたし、もうボッチじゃない!!

 

 

「じゃあ、知ってる限り薬草とか魔法関係の素材とか教えてほしいな。市場で手に入る物だけでも、すぐ調べたいし。あとは……問題は場所かぁ……」

 

工房がないと調合できない……どうしよ。

 

 

「とりあえず書き出してみる」と、アルシェちゃん。

 

その手元を見て「……ぁ……」と、あたし。

 

 

「……こっちの文字、読めない……」

 

 

「……後で教えるね」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「……んーむ……」

 

 

あれからアルシェに手伝ってもらい、集められるだけ素材を(そろ)えてみた。

 

宿の食堂、テーブルの上には薬草はアジーナ、エンカイシ、ニュクリ、べべヤモクゴケ、ングナグ。

 

他は各種鉱石、野菜やナッツ、果物……

 

 

結論から言えば、確かに今手に入る素材は……これしか存在しないとは思わないけど……ユグドラシルのポーションを作る事はできない。

 

これらは『この世界のポーション』の材料であって、ゾルエ溶液とかの錬金術溶液を精製するのさえ難しいと思う。

 

 

ちなみにゾルエ溶液を作るにはリュンクスストーン(琥珀)の他、ヴィーヴルっていう飛竜(ワイバーン)の一種が(ひたい)に持つ竜石、あとスライムとローパーの溶解液を混合させた黄金溶液 (というか正確には王水(おうすい)なんだろうし、ユグドラシル金貨を消費した時点で黄金溶液って呼ぶべきよね本来) が必要。

 

 

言ってみれば、この世界のポーションは『この材料で作るために作り方を最適化したポーション』という事なんだろうなぁ。

 

ユグドラシルの(・・・・・・・)錬金術では一つのレシピに結果も一つ。

失敗は別として、必ず同じ物が出来上がる。

 

 

それに対して『この世界』では、性能は低いし結果もバラバラだけど、代わりに色々な素材を使える。

 

……こっちの方が錬金術として面白いな。

 

 

この世界にはユグドラシルの魔法はあるのに、ユグドラシルのポーションはない。

 

素材も理由ではありそうだけど、たぶん、この世界にはユグドラシルの魔法詠唱者(マジックキャスター)は来てても錬金術師が来てないんじゃないかな。

 

だからポーションが『どんな風に作る物か』は伝えられてもレシピも師匠も存在しなかった。

 

逆に、自由な発想だからこそ今の形を手に入れたのかも?

 

 

魔法が文化として根付いてるくらいだから、きっと100年とか200年とか昔にユグドラシルの人が来てる。

 

(なんでそんな昔に……?)

 

そんな時代から、もし師匠になるような人がいて研究が進んでいたら、ポーションは今ほど低い性能じゃないと思う。

 

 

だって、あたしなら違う素材でも最適な物を用意できれば下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)に匹敵する薬のレシピは見つけ出せると思う (その素材が手近にないという問題は置いとく) し、逆に今ある素材から『この世界のポーション』に近いレシピも見つけられそうな気がしてるもの。

 

実際あたしの頭の中には、目の前の素材を見てから、いくつかの作業手順が浮かんでいる。

 

錬金術師は魔法を使うけど厳密には魔法職ではなくて鍛治師みたいな生産職だから当然と言えば当然よね。

 

 

それはいいとして……

 

 

「……どこで作業しよう……」

 

 

そう、すぐ作れるわけではない。試行錯誤(しこうさくご)は必要だ。

 

そのためには工房がいる。

 

 

「ねぇアルシェ、音とか臭いとか出しても怒られない家を金貨4枚で借りられないかなぁ」

 

 

「……それ、全財産なんじゃ……」

 

 

そうなのよねぇ……素材を買うのまでフォーサイトの方々に払わせるのは……と、使ったからリイジーさんからもらった金貨は減り、換金できそうなのは『今や貴重なユグドラシル素材』と、それを材料にしたポーションや毒。

 

まぁユグドラシル金貨は500枚くらいあるけど、それだってポーションの素材だし……

 

 

「帝都内なら頭金で終わりだと思う。田舎の荒屋(あばらや)なら買えるけど……」

 

 

「だよねぇ……全財産で『それ』じゃなぁ」

 

 

全財産を払ってチキンレースを始めるべきか、否か。

 

二人して溜め息。他の三人も苦笑い。

 

どうしたもんだか……

 

 

「……ちょっと、良いかね?」

 

 

「あれ、おやっさん。どうしたんスか」

 

ヘッケランさんが応じたのは宿の店主さん。

 

 

「いや、盗み聞きするつもりじゃなかったんだが……何やら場所を探してるとか。お嬢ちゃん、薬師か何かだろ? 良かったらウチの部屋を一つ借りないかね」

 

 

「ぇえ!? いいんですか!? あ、あの、音とか臭いとか出ると思うんですけど……」

 

 

「あぁ、それなら多分大丈夫だろう。一番奥の広い部屋で、他とは離れてるからね」

 

 

「……え? でもそれ、普通なら『一番いい部屋』なんじゃ……」

 

あたしが疑問に思うと店主さん、言いづらそうにワケを話してくれた。

 

 

「……うーん、実は事情があってね……ほら、ウチの宿は年季入ってきてるだろ? いくら綺麗にして値下げしてるったって高級宿には敵わない。なら潰して二部屋にして通常料金に……とは思うんだが、改装費用は必要になる。

 

で、そこに来て嬢ちゃんは薬師だ。知っての通りウチは荒っぽい稼業の連中が多いから、薬とか便利な道具を買えるとなればウチの人気も出る。お互いに悪い話じゃないと思うんだが?」

 

 

つまりテナントとして入って宿に貢献(こうけん)する代わりに、割安料金で部屋を使わせてくれるという事らしい。

 

 

「ただし……お嬢ちゃんとは今日会ったばかりだ。是非、腕前を見せてほしい。とりあえず部屋は使っていいから、そうだなぁ……1週間。1週間以内に何か作って見せてくれ。売り物になりそうなら契約成立だ」

 

 

1週間以内と聞いて心配したアルシェが、

 

「あ、あの、1週間以内は短いと思う。彼女は……」

 

と、口を挟んでくれようとするけど、あたしは

 

 

「     !!

 

 

「ぇえ!? でもユーディー、こっちの素材は」

 

「せっかくのチャンスだもの。やってみせるわ!」

 

この天才錬金術士ユーディット・フォルトーネに不可能は、ない!

 

 

これは言わば『最初の工房を手に入れるイベントクエスト』

 

『ユーディーのアトリエ アーウィンタールの錬金術士 第一話』の始まりよ!

 

 

(※第二話である)

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

まずは部屋の手入れ、という事でベッドの配置とかをフォーサイトの皆さんに手伝ってもらった。

 

助けてもらってばかりで申し訳ない。

 

 

「このくらい気にしないで?」

 

と、アルシェは言ってくれるけどね。

 

 

「さて! スペースは確保したし、コレ置かなきゃね!」

 

 

「……部屋の真ん中、かなり広く空けてるけど、何を置k」

 

 

あたしはポシェットから『錬金釜』をズルリと取り出し部屋の中央にドスンと置いた。

 

 

そんなものどうやって入ってたの!?!!

 

アルシェが絶叫した。

 

 

「え? ただの無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)だよ?」

 

 

「そんなマジックアイテム普通は誰も持ってないよ!!」

 

 

「そうなの? あっちではみんな持ってたけどなぁ」

 

あたしの言葉にアルシェは頭を押さえる……頭痛? 大丈夫?

 

 

「……ユーディー、これだけは言っとく。それ一つで豪邸が建つよ」

 

 

「………………ぇえ!? そうなの!?」

 

 

「はぁぁぁぁ……」

 

アルシェは深い深い溜め息をつく。

 

他の三人も、口を半開きに『ポカン』としてる。

 

……あたしの認識は、まだまだ浅かったらしい。

 

 

「………………ん?」

 

それはそうと、あたしは何か気になった。

 

 

この錬金釜、設置すると自動的に水が満ちて『ボッ』と火が点くエフェクト設定にしてあるんだけど……

 

「これって……」

 

それらは、ユグドラシルでは『単なるエフェクト』であって、水も火も実際に使えるものではなかった。

 

だけど……

 

「……もしかして、使える?」

 

 

そうだ、ここはユグドラシル(ゲーム)じゃない!

 

 

──3時間後──

 

 

「できたー!」

 

あたしはすぐ練成物を店主さんに持って行った。

 

 

「もうできたのかい!?」

 

 

「はい! コレです!!」

 

 

こ、これは!?…………………………野菜?」

 

 

「違います『ほうれんそう』です」

 

 

いや野菜だろうがぁ!?……なぁ嬢ちゃん、俺は君の腕前が見たいんだ。野菜なんて持って来られても困るよ」

 

 

「これだって練成物なのにー!」

 

 

不満なあたしに、けどアルシェは

 

「ユーディー、横で見てて確かにすごいとは思ったけど、流石にその見た目じゃ信じてもらえないと思う」

 

むー!!!

 

両腕(と帽子の羽根)をバタバタさせて不服を表明するも聞き入れられず……

 

 

──翌日──

 

 

「できたー!」

 

リベンジと意気込んで、あたしは再び練成物を以下略!

 

 

「……今度こそ『作品』を見せてくれるんだろうね」

 

 

「はい! コレです!!」

 

 

こ、これは!?…………………………パン?」

 

 

「違います『デニッシュ』です」

 

 

いやパンだろうがぁ!?……いや、確かに君が作った物かも知れないが、もうちょっと、こう……何かないかね。見るからに体力が回復しそうだったり傷が治りそうだったり……」

 

 

むー!!!

 

 

なんで分かってくれないのか……

 

これだって回復アイテムなのに!

 

 

「ユーディー、普通にポーションのレシピを試した方が良いんじゃ……」

 

と、アルシェにまで言われてしまった。

 

 

「だって、こっちの方が好きだし、すぐ作れるんだもん……」

 

『こっちの世界のポーション』のレシピを見つけるのは大変だけど、グラムナート式なら『魔法の草』にあたる薬草を見つけてしまえばすぐ(・・)だったのよ。

 

 

こうなれば、この場で怪我人を用意(・・)して実演……などと『ユーディー』らしからぬ物騒(ぶっそう)な事を考えていたら

 

 

「……おぅ、足元気ぃ付けろよ?」

 

 

「へへ、悪ぃな。よく見えなくてよ」

 

 

仕事から戻ったらしいワーカーのオジサン二人。

 

片方は頭から右目にかけて包帯グルグル巻き。

 

 

……怪我人じゃん! ラッキー!←不謹慎(ふきんしん)

 

 

「こんにちは! 良かったらコレ食べませんか!?」

 

 

「ぅお、何だ嬢ちゃん……こいつぁ、パンか?」

 

 

「デニッシュです! 売り物になるか聞かせてください!」

 

 

「なるほど、ちょうど良いや。腹が減ってたところなんだ」

 

包帯のオジサンはデニッシュを(つか)むと「いただくぜ」と()じる。

 

「ぉお、うめぇな。嬢ちゃんパン屋なのかい」

 

 

「錬金術士です!」

 

 

「へぇ、錬金術師もパン焼くのか」

 

 

リイジーさんは焼かないと思う。

 

 

ともあれオジサンはデニッシュを平らげ、

 

「……ん? ぉお?」

 

 

「どうした?」

 

 

「いや、なんかよ……」

 

自身の変化に気付いた包帯のオジサンは、頭とかを触って確かめると、包帯を解き始める。

 

 

「おい! 何やって……」

 

相方のオジサンが止めようとしたが……

 

 

「マジかよ、おい……治ってる。はは、見える、見えるぞ!」

 

 

「う、嘘だろ……」

 

大喜びで『これで仕事を続けられる!』と盛り上がるオジサン二人。

 

口をアングリと開けて驚く店主さん。

 

 

これがデニッシュの威力よ!

 

 

「どうですか? デニッシュの回復力は」

 

包帯だったオジサンに訊いてみる。

 

 

「ただのパンだと思ってたぜ。すげぇや」

 

 

「回復力だけで言えば金貨5枚に相当しますが、ポーションみたいには長期保存できませんので金貨1枚で考えてます。売れそうですかね」

 

 

「日持ちしない、金貨1枚……むむむ……いや、だが、ここぞというヤベェ仕事の前には、買うぞ俺は。うめぇんだから不要な時は食っちまえばいいし、今回みたいに『瓶が割れちまった』なんて心配もいらねぇからな」

 

どうやら怪我した理由はソレらしい。

 

 

あたしは店主さんに『ドヤァ』と振り返った。

 

 

店主さんは『お手上げ』というポーズをとって、

 

「分かった分かった、降参だ。君の腕はすごい。部屋は使ってくれ」

 

 

「やった!」

 

 

「だが家賃は滞納しないでくれよ?」

 

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 

「……やれやれ」

 

 

こうして、あたしは念願の工房を手に入れたのだった。

 

アルシェも安心したように(ことほ)いでくれた。

 

「良かったね、ユーディー」

 





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